浜田朱里
『GOLDEN J-POP/THE BEST 浜田朱里』
1. さよなら好き

2. あなたに熱中
3. 青い花火
4. 青い嫉妬
5. 黒い瞳
6. 18カラットの涙
7. 夏の指定席
8. 芽ばえ
9. 想い出のセレナーデ
10. みずいろの手紙
11. 魔法の鏡
12. 何故に二人はここに
13. 夏を忘れた海
14. 時には母のない子のように
15. 旅立ち
16. 悲しみは駈け足でやってくる
かつて浜田朱里という女性歌手がいて、僕も同時代なんで存在は知っていたが、歌はほとんど知らず。山口百恵が出演して人気が出ていたTBS金曜9時の大映ドラマ「赤い」シリーズ(『赤い魂』)に出ていたことは知っている。とにかく地味だったという印象しかない。顔も地味目だし何となく翳りを感じさせるしで、アイドルらしい華やかさはあまり感じない。何でも「ポスト百恵」として将来を嘱望されていたらしいが、この地位は結局、松田聖子がかっさらっていった。
今回、カバー好きの僕の目に止まったのは、その浜田朱里の4枚目のアルバム『想い出のセレナーデ』で、例によってソニーのオーダーメイドファクトリーで目にしたのが最初である(
オーダーメイドファクトリー『想い出のセレナーデ』参照)。このアルバム、10曲中8曲がカバーという、アイドルのアルバムとしてはかなり思い切った構成になっている。この頃発表された浜田朱里の7枚目のシングルが、カバー曲である「想い出のセレナーデ」だったため、こういう企画が出たんではないかと想像するが、それにしても……と思う。所属プロダクションおよびレコード会社は彼女にあまり期待しなくなっていたのだろうか。
曲のラインアップは、
1. 想い出のセレナーデ(天地真理のカバー)
2. みずいろの手紙(あべ静江のカバー)
3. 魔法の鏡(荒井由実のカバー)
4. 何故に二人はここに(Kとブルンネンのカバー)
5. 夏を忘れた海(天地真理のカバー)
6. 時には母のない子のように(カルメン・マキのカバー)
7. 芽ばえ(麻丘めぐみのカバー)
8. 哀・私小説(8枚目のシングル『悲しみは駈け足でやってくる』のB面曲)
9. 旅立ち(松山千春のカバー)
10. さよなら好き(浜田朱里のデビュー・シングルA面曲)

というもの。実は8枚目のシングル曲『悲しみは駈け足でやってくる』もアン真理子が1969年に発表した曲のカバーである(この曲はこのアルバムには未収録)。カバーで通すんなら、いっそのことこのアルバムにも「悲しみは駈け足でやってくる」が入っていてしかるべきではないかと思うが入っていない(B面の曲は入っている)。デビュー曲が入っていたりもしているし、コンセプトが見えてこないアルバム、言い換えると製作者側の力が伝わってこないアルバムである。そういったことを考え合わせると駄作かと思うのが筋だが、実際聞いてみると1つ1つのカバー曲がどれもこれも素晴らしい出来映えなのである。
まず「想い出のセレナーデ」で驚かされる。この歌は天地真理が歌ってヒットしたので、当時子どもだった僕でさえよく知っている歌なんだが、歌詞の内容についてはまったく意味がわからずにいた。今回浜田朱里の歌を聞いて別れた人を思う歌だったことがわかったのだった。振り返ってみると天地真理は朗々と歌うタイプであるため、内容がストレートに伝わってこなかったんだろうと思う。一方の浜田朱里の場合は、語るように歌うというか情感を込めて歌うので、しみじみと伝わってくる。2曲目の「みずいろの手紙」も同様で、あべ静江も「朗々型」であるため、雰囲気がまったく伝わってこなかったが、「情感型」の浜田版は心に染みてくる。
「何故に二人はここに」と「旅立ち」については、元歌は個人的に少々気持ち悪さを感じていたのが、浜田朱里の歌の場合、せつなさが伝わってきて良い。3曲目の「魔法の鏡」は、ユーミンのオリジナルとほとんど同じような編曲でありながら、ユーミン版と違って「女の子っぽさ」が伝わってきてこれも魅力的。「時には母のない子のように」の編曲もオリジナル版に近い。全体的に編曲が非常に優れているのもこのアルバムのポイントである(カバー曲の編曲はすべて若草恵という編曲家が担当)。例外は「芽ばえ」で、ややアップテンポで妙に明るい編曲になっているのがマイナスである。元歌の情感が欠如していて、浜田朱里の歌唱がまったく活かされていないのが残念。
ともかく、浜田朱里がどの歌も自家薬籠中のものにしているという印象があって、まさに古い曲の再発見になっている点を大いに評価したい。といってもこのアルバム自体1982年発表のもので古いアルバムであるのは間違いない。ま、僕にとっては意外な発見だったわけだ。もっとカバー曲を出してくれていたら良かったのにと今さらながら思うのである。
なお、今回僕が買ったのは『想い出のセレナーデ』ではなく、冒頭に紹介した『GOLDEN J-POP/THE BEST 浜田朱里』である。『GOLDEN J-POP』には、『想い出のセレナーデ』のほとんどの曲が収録されており(「哀・私小説」以外すべて)、しかも『GOLDEN J-POP』には「悲しみは駈け足でやってくる」まで入っているのでお買い得感が高い(他にシングル曲も6曲付属)。ただこのベスト・アルバム自体もなんだかやっつけ仕事みたいでコンセプトが見えてこない。普通ベスト盤だったら、シングル盤のA面曲を集めるとかしそうなもんだが、ほとんどが『想い出のセレナーデ』からの抜粋になっている。このベスト盤を企画した人が、この『想い出のセレナーデ』が最高傑作だと信じてこういうラインアップにしたというのであれば、その先見の明を称賛したいところではある。で、『GOLDEN J-POP』であるが、Amazonでは現在中古品がアホみたいに高価な値段で売られているので、興味のある方は『GOLDEN J-POP』の方ではなく、オーダーメイド・ファクトリーで復刻版をお求めになる方が良いのではと個人的には思う。こちらも少々高価ではあるが定価であるため、ぼられた感は少ないと思う。
参考:
竹林軒出張所『カバー曲にまつわるあれこれ』
竹林軒出張所『讃岐裕子の「ハロー・グッバイ」』
竹林軒出張所『山崎ハコ「十八番」(CD)』
竹林軒出張所『遊佐未森「スヰート檸檬」(CD)』
竹林軒出張所『朝倉理恵ファンに重ねて朗報! 「あの場所から」が出た』