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竹林軒出張所

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タグ:目ウロコ ( 23 ) タグの人気記事

『日本の歴史をよみなおす (全)』(本)

日本の歴史をよみなおす (全)
網野善彦著
ちくま学芸文庫

ミクロ的な観点から歴史を問い直す

b0189364_18361662.jpg 著者が行った講義をまとめた本……つまり講義録。タイトルに「(全)」とあるのは、元々『日本の歴史をよみなおす』と『続・日本の歴史をよみなおす』の2分冊だったものを、文庫化にあたり1冊にまとめたためである。そのため真ん中あたりに「あとがき」(『日本の歴史をよみなおす』のもの)と「はじめに」(『続・日本の歴史をよみなおす』のもの)があったりしてなかなかユニーク。
 内容は、これまで歴史学で常識として考えられていたようなことがらに疑問符を打つというようなもので、たとえば中世の日本の産業は農業のみのように言われるが実際は広範な商業活動が行われていたとか、室町時代には海のルートがかなり開けていて海運業がかなり盛んに行われていたとか、結構「目からウロコ」の箇所もあって内容は充実していると言える。特に『続』の方に目新しさがあったと感じる。そのため僕自身は『続』の方を先に読んだ。
 扱われているのは、文字(ひらがなとカタカナ)、差別(被差別住民や女性)、天皇家と歴史との関わり(ここまでが前半)、中世日本の経済の多様性、中世の海運ネットワークと金融ネットワーク、荘園の実態など。退屈な箇所もあるにはあるが(特に前半)、「常識」に凝り固まった一元的な歴史観にいかに問題が多いかよくわかるという点で、優れた歴史書であると言える。記述には著者のフィールドワークも反映されているため、説得力もある。歴史学にアプローチしようという人であれば一度は目を通しておきたい、そういう類の良書である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『平安京はいらなかった 古代の夢を喰らう中世(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『幕末史(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『新・ローマ帝国衰亡史(本)』

by chikurinken | 2018-01-25 07:37 |

『森の探偵』(本)

b0189364_19133951.jpg森の探偵
宮崎学、‎ 小原真史著
亜紀書房

森の巨匠が見たヒトと動物

 森に入って動物写真を取りまくっている宮崎学が、動物写真から読み解く「現代日本の環境」論。
 赤外線を使いカメラのシャッターが自動的に降りるようさまざまな工夫を重ねることで、森、林の生きた動物を撮影することをライフワークにしている宮崎学。彼の写真には動物たちの生々しい生態が記録される。宮崎自身が、森に入れば足跡や糞などからどんな動物が近くにいるかわかるようになっているらしいが(何せ森の生活が長いから)、彼によると動物が人に接近しているその近さはかつてないほどになっているということ。
 実際、あちこちでツキノワグマに襲われたとか、イノシシが町に出没したとかそういったニュースはよく耳にする。「専門家」は、森林破壊によって山に食べ物がなくなったため、動物が命がけで里に下りてきたなどと語るが、宮崎によると山の食べ物がなくなったという事実はないらしい。むしろ人間が何気なく捨てたり放置したりするものが、知らず知らずのうちに動物たちの餌になっている、つまり人間が間接的(または直接的)に餌付けしていることが、野生動物を身近に引き寄せている……というのが宮崎学の実感らしい。
 たとえば犬を散歩させる人々がよく通る公園の道などにカメラを仕掛けていると、人が通ったすぐ後にクマが出てきている様子が映っていたりする(しかも割合多いという)。つまりクマの方が身を潜め、人が通り過ぎるのを待ってから、出てきて用事をしているということになる。ヒトを避けているクマが誤ってヒトに遭遇し(一般には「人間が誤ってクマに遭遇する」と言われるが)、接触事故が起きるというのが本当のところではないかと宮崎は言う。
 他にも動物たちには死体処理の役割を担っているもの(スカベンジャー)があり、そのために環境が浄化されるなどの興味深い話が展開される。野生のクマ自体がそもそもスカベンジャーであり、肉に対するこだわりがない(つまり事故で死んだ人の肉も普通に食べたりする)ため人の肉にも抵抗がないということが、「人喰い熊」の存在の説明になるらしい。宮崎の言葉は、実際に森や林の動物を写真を通じてつぶさに見続けている(野生に近い)人間から発せられるものであり、非常に説得力がある。動物写真もふんだんに紹介されており、そういう点では大変良質な本である。「目からウロコ」の話も数多い。
 ただし、1つ大きな難点がある。この本は「キュレーター」という肩書きの小原真史という人と宮崎学の対談形式になっているんだが、この「キュレーター」がしゃべりすぎというか、知識をひけらかしたいのか知らないが蘊蓄を語りすぎである。これがかなり鬱陶しいレベルで、これさえなければ良い本なんだがと思うこと数知れず。話の聞き手に徹して、宮崎学という森の巨匠から実感に基づくいろいろな素晴らしい話を聞き出せば良いものを、自分が聞きかじったような知識を必要以上(!)に披露するその感覚が理解できない。はなはだ残念。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『被曝の森は今(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『被曝の森 〜原発事故 5年目の記録〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する(本)』

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 以下、以前のブログで紹介した宮崎学の著作に関する記事。

(2005年5月6日の記事より)
b0189364_19140854.jpgフクロウ
宮崎学著
平凡社

 動物写真家、宮崎学が、胃潰瘍になりながら5年かけて作ったという渾身の写真集。
 フクロウの生態を非常に細かく追っている。写真として強烈なインパクトを持っているのは言うまでもないが、巻末に書いているフクロウの生態についての解説が非常に面白く、わかりやすい。これを読みながら写真を見直すと、またまた新しい発見がある。著者が実際に写真を撮りながら体験したことを追体験できるようになっている。著者の驚きや喜びが伝わってくるようだ。
 「渾身」という言葉がぴったり来る写真集で、粗末に扱うことができない本。まさに「フクロウ」学(そういうのがあるかどうか知らないけど)のバイブルというべき本だ。
★★★★

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(2005年5月10日の記事より)
b0189364_19141717.jpg鷲と鷹
宮崎学著
平凡社

 動物写真家、宮崎学が、15年かけて作ったという写真集。
 良い写真集だが、宮崎学の猛禽類に対する思い入れはあまり伝わってこない(この点『フクロウ』と異なる)。むしろ、猛禽写真コレクションといった感じ。なんでも日本に生息する16種類の猛禽類をすべて撮影したらしい(プラス1種類--渡り鳥のオオワシ)。なかなかの労作ではある。猛禽類に興味のある人にはたまらないだろう。
★★★☆

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(2005年5月22日の記事より)
b0189364_19141104.jpg森の365日 宮崎学のフクロウ谷日記
宮崎学著
理論社

 動物写真家、宮崎学のフクロウ観察日記。
 著者は、70年代(だと思う)から長野県伊那谷のフクロウの営巣地近くに小屋を造り、数年間キャンプしながら、フクロウの生態をカメラに収めた。この間、胃潰瘍を起こし(フクロウの撮影作業は神経をすり減らすという)、2カ月間入院している。退院してからも精神的に不調だったらしいが復活し、それからさらに5年を費やして作り上げたのが、写真集『フクロウ』だ。
 『フクロウ』を見るとわかるが、密度が非常に濃く、それはこの副読本とも言うべき本書にも反映されている。
 本書では、フクロウの生態が微に入り細を穿って描かれており、動物学者が書いたのではないかと疑うほどだ(実際、著者は自然を非常によく観察してから撮影に入るらしい)。
 その姿勢は、自然に対峙するのではなく、自然の一部となって生きるというもので、フクロウだけでなく森の中のさまざまな動物のさまざまな行動にも敏感に反応する。感覚はとぎすまされ、やがては他の動物の気配さえわかるようになったという。こちらの気配を感じてじっと様子をうかがっている200m先のキツネにまで、気配で気がつくようになったというから驚く。
 自然の一部となり、野生動物の活動を目や耳で感じる。本書では、その様子がありありと描かれている。
 動物の生態だけでなく、自然と一体となった目で見た現代文明評も明快で面白い。
 リンゴ農家は、有機肥料をまくことが多いが、それを狙ってノネズミやモグラが寄ってくる。ノネズミやモグラはともすれば木の根をかじるので、リンゴ農家に被害が出ることがあるが、フクロウの巣が近くにあるとこのような被害が出ないという。フクロウがネズミなどを餌にしているためで、特に子育て期は、毎晩相当量のネズミを捕獲するという。ところが、農家がしかけたカラス対策ネットに、あやまってフクロウがひっかかって死んだりすると、ノネズミが大発生して、リンゴの木に被害が出るということになる。こういう自然の因果関係がわからないので、結局「ネズミが増えたといっては、有線放送などを通じていっせいに劇薬の毒餌をばらま」くことになる。「地球のほんの片すみに住まわせてもらっているということ」を忘れて、「植物や動物たちが発するさまざまなサイン」を見落としているため、こういう天につばすることをしてしまうのだ。
 このような文明批評も押しつけがましくなくさらりと書いているのは、日記という性格のゆえか。現代文明の歪みを五感と身体で感じている人の言葉だけに説得力がある。文章も簡潔で非常に読みやすい。写真もカラーで掲載されている。さすがにフクロウの写真は秀逸なものが多いが、それ以外にも撮影セットの配置や撮影小屋内部の様子を示した写真もあって、日記に書かれている様子をリアルに感じ取ることができる。写真に過不足がなく、本文を読みながら写真を眺めると臨場感を味わえる。
 この本を読むと、自然の中に溶け込み自然を感じた宮崎学のキャンプ生活を追体験できる。森に入って、自分の感覚器で自然を感じてみたくなった。
★★★★

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(2005年4月19日の記事より)
b0189364_19141405.jpg青春漂流
立花隆著
講談社文庫

 立花隆が、異色の分野で仕事をしている若者たちにインタビューした雑誌『スコラ』の一連の連載をまとめたもの。
 表紙の若い立花隆を見てもわかるように、20年前に出版された本で、インタビュイー(インタビューされる側)の方は、当時は若者だったが現在では良いオヤジになっている。実は先日、テレビのドキュメンタリー番組で「その後の青春漂流」みたいなものをやっていて、この本に登場している何人かの元・若者が出ており、それで興味を持ってこの本を読んだのだ。つまり、通常の逆パターンで、タイムマシンで過去にさかのぼるような感じで本書を読んだわけだ。
 しかしそういうのを抜きにしても、本書に登場する若者たちの話は非常に面白い。生い立ちから学生時代(落ちこぼれだった人が多い)、彷徨時代、今の職に出会う過程、その中から新しいものを見出す過程などが語られる。登場する若者の仕事は、塗師、手づくりナイフ職人、猿まわし調教師、精肉職人、動物カメラマン(宮崎学)、鷹匠(!)など多岐に渡り、どの職業もユニークだが、若者たちの経歴も実にユニークだ。かれらのほとんどの仕事は、一般人にはあまりなじみがないので、目新しく楽しい。どの若者も貧しい時代、苦しい時代を過ごし、それを乗り越えて今のポジションを探り当てている(今でも貧しい人もいる)。まさに青春の漂流時代を経て今の場所に流れ着いているわけだ。どの若者も非常に前向きで、元気をもらうことができる。
 立花隆の聞き手としての才能がいかんなく発揮されており、良書である。

参考:
森安常義(精肉職人)著『牛肉』(肉をさばくための技術を自費出版でまとめた本)
宮崎学(動物カメラマン)著『鷲と鷹』、『フクロウ』(それぞれ15年、5年かけて作った力作写真集だという)
★★★☆

by chikurinken | 2017-12-15 07:13 |

『プーチンの道』(ドキュメンタリー)

プーチンの道 〜その権力の秘密に迫る〜(2015年・米WGBH)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

怪物プーチンの来し方、行く末

b0189364_18324779.jpg ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がどのように成り上がって、どのような方法で政治を行っているかを紹介、というか告発するドキュメンタリー。
 KGBの職員だったプーチンは、ソビエト連邦崩壊により職を失うが、サンクトペテルブルクで懇意のサプチャーク市長に拾われ、市長が直接手を下せない汚い仕事を引き受けることで頭角を現していく。その後、サプチャークの中央政界進出に伴いプーチンも中央政界に進出。エリツィン大統領の汚い仕事の処理を引き受けたことから、エリツィンにも可愛がられる。
 エリツィンが大統領を退任するにあたり、大統領時代の自身の犯罪行為を追求しない後継大統領としてプーチンを指名するに及んで、プーチン時代が始まる。その後首相に就任したプーチンは、世間的にも認知度が低かったが、ロシア高層アパート連続爆破事件の際にチェチェンの過激派による仕業と決めつけ、チェチェンに対して攻撃を強行したあたりから保守層を中心に支持を集めるようになる。
 このドキュメンタリーでは、この連続爆破事件はFSB(KGBの後継組織)の自作自演で、プーチンが知名度を上げるために仕掛けたものと断定していたが、真相はわからないにしてもかなり怪しいのは確かである。しかもそれを告発した記者や元職員が不当逮捕されたり謎の死を遂げたりしているという事実もある。少なくともこの連続爆破事件とチェチェン紛争で結果的に一番得をしたのは、その後大統領選挙を勝ち抜いたプーチンであるのは確かである。しかも連続爆破事件についての調査も打ち切りにしているなど、怪しさ満載である。
 このドキュメンタリーで描かれるプーチンは、利己主義的な第三世界型の独裁者で、先進国の指導者では断じてない。もっとも先進国とされている米国でも似たようなサイコパスが大統領になっているわけで、先進国の指導者が民主的な存在かというと必ずしもそうではないところが悩ましいところである。米ロの首脳、それから我が国の首相も含め、互いに親近感を感じているように聞くが、そういうのもなんだかわかるような気がする。
インパクトメディア歴史アーカイブ映像部門インパクト賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『オリバー・ストーンONプーチン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『暴かれる王国 サウジアラビア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プーチンが恐れた男(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『こうしてソ連邦は崩壊した(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スターリンの亡霊(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドーピング ロシア陸上チーム 暴かれた実態(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『バシャール・アサド 独裁と冷血の処世術(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-08-22 08:08 | ドキュメンタリー

『日本は世界一の「医療被曝」大国』(本)

b0189364_843717.jpg日本は世界一の「医療被曝」大国
近藤誠著
集英社新書

またまた画期的な医療本
今度は医療被曝に切り込む


 これも『成人病の真実』同様、近藤誠の著書。この本では、CTスキャンなどに代表される放射線検査によって引き起こされる被曝について説く。
 元々著者は放射線医であることから、この本で語られる内容もきわめて信憑性が高いと考えられる。実際、放射線を使った検査による被曝については、医者は非常に鈍感なところがある。それは多くの医者が何かというとレントゲンやCTを撮りたがる傾向からも実感として感じられる。しかしCTスキャンについては、確かに便利ではあるが、患者は相当量の被曝を受ける。本書によると、機種や浴びせる放射線によって異なるが、多い場合だと25ミリシーベルトを超えるという。ミリシーベルトという単位にまず驚くが、これだけの高線量であれば年に4回受けると100ミリシーベルトという驚異的な値に達してしまう。ちなみに100ミリシーベルトというのは、原発作業員の5年間の上限値である(これでさえ甘すぎるという議論がある。だが厳しくすると仕事にならないという実情があるため甘めに設定されている)。たしかに命に関わるなどという状況であれば、こういった検査も致し方ないが、現在CTは非常に安易に撮られている。何かというと「念のためCTでも撮っておきましょう」ということになる。患者の側でも「CT撮らなくて大丈夫ですか」みたいなことを言う人がいるらしい(本書によると)。以上のような理由から、医師の側も患者の側も安易なCT検査を止めるべきだ、と著者は主張する。ましてや検診でCT撮影を行うことは無意味を通り越して害しかないというのが著者の主張。
 僕自身、この本でCTによる被曝量を知って驚いたが、日本でCT検査があまりにも安易に使われていることはよくわかった。僕自身は検診を一切受けていないのでCTなど生涯受けたことがないが、気に留めておかないと今後何となくCTを撮られたりすることもないとは言えない。日本は特にCT設置台数が多いらしいし、CT神話も蔓延しているようなので、利用者一人一人が注意しないと行けないということなんだろう。このあたりはがんの外科手術と同じで、うかつなことをしていると病院で危害を加えられるため、防衛策として知識が必要というわけである。
 本書には、実効被曝線量の計算式なども紹介されていて、CT検査を受けたときの被曝量を推定できるようになっているが、実際のCTの線量を病院側から教えてもらうことはなかなかできないため、あくまでもこれは推定値でとどまるというのが残念である。それでも指標があるのとないのとでは大きく違う。望むべくは、病院側がもう少しCTのデータに対してオープンになると同時に、医師の側も患者の被曝について敏感になってほしいという結論になる。
 内容は少々専門的な箇所もあるが、他の著書同様、著者の語り口が非常にうまいため、最後まで一気に読める。これを読んだら、少なくとも読んだ人の意識は大きく変わる。CT検査を過去に受けた人、これから受ける予定の人すべてに読んでほしい本である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
by chikurinken | 2016-09-25 08:05 |

『暴かれる王国 サウジアラビア』(ドキュメンタリー)

暴かれる王国 サウジアラビア(2016年・英Hardcash Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー シリーズ「知られざる国々の素顔」

サウジは想像以上にアブない国だった

b0189364_818157.jpg サウジアラビアの人権侵害の実態を報告するドキュメンタリー。
 サウジアラビアの一般的なイメージといえば、中東の中ではまとも、というかヨーロッパ的な穏健さを保った国というもので、実際アメリカやヨーロッパ諸国、日本の政府も信頼に足る国として付き合っている。巨大産油国で先進国に必要とされていることもあるが、不安定要素が多かったり反欧米主義があふれている中東諸国の中で、比較的穏健かつ平和でしかも先進国的な余裕がある国という印象がある。
 だがその実態はということになると実はあまり知られていない。それはサウジアラビアが国外のジャーナリストの入国を厳しく管理しているからで、先進諸国のように自由な取材が許されていないため、実情が外に伝わることがあまりないのである。しかし実際には、国内で人権を無視した行動が取られており、言論も著しく制限されているらしい。それがこのドキュメンタリーの主旨である。分かりやすく言えば中東の北朝鮮といったところである。
 この番組では、隠しカメラを使って国内を撮影した潜入取材映像が紹介される。富裕国というイメージが強いサウジアラビアであるが、実は貧しい地域も存在し、国民の1/4が貧困層という話にまず驚く。さらにある活動家が政府の方針に対して批判的な意見をインターネットに掲載したために鞭打ち刑と禁固刑に処されたケース(いまだに収監されていて安否がわからないらしい)や、デモに参加した17歳の少年に死刑判決が出されたケース、スーパーみたいな場所で女性が通りすがりの男に蹴倒される状況を撮影した隠しカメラの映像(女性の人権がないに等しいことを示す証拠映像)など、想像以上の実態が明らかにされていく。
 またサウジアラビア国内では、ワッハーブ主義に基づいて反ユダヤ主義、反キリスト教主義が子どもたちに教え込まれており、これがひいては差別的で反社会的な人間を育成することに繋がっていると主張する。サウジが国家として採用しているこの考え方は差別的であり、9・11の実行犯の多くやオサマ・ビンラディンがサウジアラビア出身であったこともこれを裏付けるとする。またこの考え方はISとも共通する思想で、サウジ当局は体外的にISと敵対していることを表明してはいるが実態はISと思想が非常に近いらしい。
 まさに目からウロコの内容で、近くて遠い国サウジアラビアの実態が透けて見えてくるルポルタージュだった。ものごとの判断をイメージだけに委ねるのが危険であるということをあらためて思い知らされた。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像記録 市民が見つめたシリアの1年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホムスに生きる 〜シリア 若者たちの戦場〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒『圧倒的な迫力、アフガン版ネオリアリズモ』
竹林軒出張所『タリバンに売られた娘(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ネットが革命を起こした(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ムハンマドたちの絶望(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『チュニジア民主化は守れるのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ベラルーシ自由劇場の闘い(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-09-13 08:18 | ドキュメンタリー

『成人病の真実』(本)

b0189364_21275820.jpg成人病の真実
近藤誠著
文春文庫

成人病治療も日本の医療界も
ぶった斬る!


 『がん放置療法のすすめ』の近藤誠が、日本の医療を斬りに斬りまくった快著。著者は、これまでがんの外科手術についてその無用さを訴えてきたが、この本ではがん治療だけでなく成人病の検診と治療全般について詳細に取り上げて分析し、その問題性を指摘して斬っていく。返す刀で日本の医療界の異常さにも斬り込み、名のあるエラい権威のセンセイたちまで実名を挙げて批判していく。まことに痛快ではあるが、こんな本を出した日にゃ近藤センセイ、医学界にいられなくなるのは想像に難くない(ちなみにこの本、元のハードカバーは2002年に刊行されている)。逆に言えば、医学界の外にいる我々にとっては非常に価値の高い本である。
 先ほども言ったように、本書で中心になっているのが成人病の問題で、成人病検診によって「病人」が作り出され、それに対して本当であれば行われるべきでない治療が行われていると訴える。成人病検診では、恣意的な基準値が使用されており、それに収まらない人は「病人」とされる。本来であればまったく問題にならない部分が問題とされ、患者側の不安を煽って、不要な薬物投与や「治療」が実施される。こうして何も知らない庶民は、自らの健康な生活が医療によって削られていき、健康が損なわれることになる。要するに、成人病検診自体が無駄どころか有害だというのが著者の主張である。
 他にも医療ミスの問題、インフルエンザワクチンの問題に加え、がん検診や腫瘍マーカーの問題まで切り刻んでいく。「インフルエンザ脳症が薬害」とする議論は一読の価値がある。医療界にとっては暴論以外の何ものでもないだろうが。とにかくその切れ味は鋭く、こんなことまで言っちゃって大丈夫かと思わず目を疑うような記述が後を絶たない。極論だという批判もあるかも知れないが、こういった大胆な批判が、医療界が抱えている多くの問題を照らし出す結果になっているわけで、この著書のような主張は決して無下に扱うことはできないと思う。近藤誠のもう1つの代表作と言える快作である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『日本は世界一の「医療被曝」大国(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
by chikurinken | 2016-08-20 07:21 |

『大往生したけりゃ医療とかかわるな』(本)

大往生したけりゃ医療とかかわるな 「自然死」のすすめ
中村仁一著
幻冬舎新書

死を想うことは生を見直すことだ

b0189364_741515.jpg 現代医療の問題点を指摘した本は、近藤誠の本をはじめとして今では数々あるが、この本はきわめて異色である。
 著者は、老人福祉施設付きの医者で、多くの老人を看取ってきた経験を持つ。その経験から、がん死について、人間の死に際を苦しめているのは医療であり、医療にかからずすべてを放っておけば、ほとんどの場合安楽に死を迎えられると主張する。また、人が死に際に食べたり飲んだりしなくなってやがて死んでいくのは自然なことであり、飲食をしないから死ぬのではなく、死ぬための過程として飲食をしなくなるのだと説く。他方現代医療では、食べられなくなったり飲めなくなったりすると、食べ物や飲み物を無理やり体内に入れることで、死の瞬間を延ばしている。だがこのような処置は患者に苦痛を強いるだけのもので、結果的に安楽に死ぬことを阻害しているのだという。何の処置もしなければ、たとえがんであっても、穏やかな表情で自然死していくというのが著者の主張である。死ぬ間際には脳内でエンドルフィンが分泌されるので気持ち良く死ねるのではないかとまで言っている。
 ではどうしてこういう「自然死」を迎える人が少なくなったかというと、患者の側が医療に対して万能だと勘違いしていること、医療側もそれを利用して利益を上げようとしていることなどが理由として挙げられるという。無駄な医療を受ける/行うことでどんな病でも直せると双方とも勘違いしているというわけだ。死は誰にでも来るという前提に立ち、生殖が終わったのであれば生物としての役割を果たしたのだから、運命を受け入れて死に行くことが望ましいのだというのが著者の主張で、そうすることが無駄な医療を断ち切ることに繋がるという。
 そして死を受け入れることは、死をタブー視せず常に死を前提として生きることから、生の充実にも繋がる。1カ月後に死ぬことが分かっていれば、何を優先的にやるべきか自分で考えて、自分なりに最重要なことに集中するようになる。結果として人生が充実するというのである。
 記述は非常に平易で、しかも随所に著者独特のおかしみがあふれているため、非常に読みやすい。中には悪ノリみたいな箇所もあるが、当人がきわめて真面目に取り組んでいることが分かるため、決して不快ではなく、むしろ笑いを誘う。
 著者は「自分の死を考える集い」などという集会を15年以上続けているらしく、その集会で、健常な人々の模擬葬儀を行い当事者が棺桶に入るという企画まで執り行っている。著者自身も自ら棺桶を体験しており(写真が掲載されている)、こういう体験こそが「生き直す」ことや「人生を軌道修正」することに繋がると主張する。本書の内容もユニークだが、著者もきわめてユニーク。医療や生命について考え直す良いきっかけになる本と言える。目ウロコ本である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
by chikurinken | 2016-07-03 07:42 |

『地球を食い尽くすのは誰?』(ドキュメンタリー)

地球を食い尽くすのは誰? 〜“人口爆発”の真実〜
(2013年・襖Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

b0189364_840920.jpg人口問題の根底に迫る

 世界中の「有識者」たちは、アジアやアフリカで人口が増えすぎると食糧が不足し地球規模で惨事が起こると主張するが、それについて本当にそうなのか検証しようというドキュメンタリーがこれ。着眼点が非常に面白い。
 このドキュメンタリーでは、このような議論を検証するため、学者やNGO関係者などにインタビューを試み、「人口問題」が、先進国の権力者たちが作り出した幻想だと結論付ける。そしてその背後には、アジア・アフリカに対する差別的な意識が見え隠れすると断定する。実際のところ、人口議論では途上国に対して人減らしをしろと迫っているわけだが、その多くはそれぞれの国の事情が無視された上での議論になっている(世界銀行でも人口抑制策が財政支援の条件にされるらしい)。実際にはアフリカ全体の人口密度は西ヨーロッパの人口密度よりはるかに小さいにもかかわらず、そういう議論が平気で横行する。多分に政治的な意図が働いているというのが、このドキュメンタリーの主張である。地球の環境を良くするには、人減らしをするよりも、資本が主導する環境破壊をやめさせ富が公平に分配されるようにすることが第一で、本来行われるべきそういった議論が人口問題にすり替えられていることを認識することが必要とする。
 人口問題については、個人的には今まで特に疑問を持たなかったが、このドキュメンタリーを見て確かにそうだと納得する。人口問題はあらためて検証しなければならない問題であると感じた。そう言えば、人口学が専門のエマニュエル・トッドも、著書『帝国以後』で世界のほとんどの地域で人口はむしろ減少傾向にあると述べていたことを思い出す。
 シンプルな語り口だが、なかなか奥が深く、目から少しウロコが落ちたドキュメンタリーだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
by chikurinken | 2015-03-14 08:41 | ドキュメンタリー

『エロティシズム』(本)

エロティシズム
フランチェスコ・アルベローニ著
中公文庫

男女のエロティシズムに対する感じ方の違いを
これでもかと紹介した本


b0189364_8524457.jpg 恋愛やセックスに対する男女の感じ方(つまりエロティシズム)について、著者自身の考え方を展開した本。また男女の性差(感じ方、考え方の違い)についても詳細に記述されており、性差に注目した本としてはかなり初期の本ではないかと思われる。
 性差について世間に新たな認識を喚起した本は、ピーズ夫妻の『話を聞かない男、地図が読めない女』ではないかと思うが、このピーズの本が2000年頃出版されたのに対して、本書は1986年刊行である。その先見の明は評価に値する。
 本書での性差に対する考え方は、ピーズの本以上に科学的論拠が示されておらず、つまるところ著者の独断に過ぎないわけだが、書かれていることは割合説得力があって、納得する箇所が多い。著者は精神分析医で、数多くの男女に聞きとりを行った上で本書を書いたということで、そういう部分が説得力につながっているのだろう。単なる独断と一蹴できないだけの説得力がある。
 著者によると、恋愛やセックスに対して女は継続性を求め、男は断続性を求める。これは男女関係にも共通で、男はあくまでもイベントとして逢瀬を楽しみたいが、女の方は出会った状態を続けていき、生活の範囲にまでこの関係を敷延することを理想とする。このように男と女にはそもそも嗜好性も発想法も異なるので、一緒にいれば当然矛盾が現れてくるが、そこにうまく折り合いを付ければ関係を持続させることができるということになる。
 他にも同性愛者のエロティシズムや男女が理想とする恋愛像なども細かく紹介されていて、こちらも興味深い。同性愛者のエロティシズムは、共産主義的な集団運動であるという見方は目からウロコである。また、女性がロマンス本に出てくるような恋愛を理想としているというのも興味深い。著者によると、男にとってのポルノが女にとってのロマンスものに相当するんだそうだ。これも意外。
 このように内容が非常に多岐に渡っており、ごく一部分を読んだだけでも感心する部分が多く、蘊蓄にあふれた本と言える。ただし翻訳のせいか原著のせいかわからないが、何が言いたいのかわからない箇所も結構多かった。ここらあたりはマイナス・ポイントである。
 また装丁もなかなかエロティックな絵でよろしい。いかにも男が好みそうな絵だが、一方で女性はどう感じるかわからない(読者も性差の実験台になっているのかしらん)。
★★★☆

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以下、以前のブログで取り上げた男女の性差やエロティシズムに関連する本。

(2006年12月21日の記事より)
なぜ美人ばかりが得をするのか
ナンシー・エトコフ著、木村博江訳
草思社
b0189364_853426.jpg 男は女の何に惹きつけられるのか、女は男の何に惹きつけられるのかといったことを、さまざまな実験データを使って、心理学的、人類学的、生物学的にアプローチするきわめて真摯な本。タイトルと表紙の印象からあまり気が進まずに読み始めたが、非常に多岐に渡る素材がうまくまとめられており、言ってみれば現在の叡智が凝縮されたような本である。ちなみに原題は『Survival of the Prettiest -- The Science of Beauty(美しいものは生き残る -- 美の科学)』(こちらの方がしっくり来るような……)。
 男が女のどこに美を感じるか(相手の美に反応しやすいのは男の方だという。「男は写真で、女は履歴書で相手を選ぶ」)は、相手の生殖能力がその源になっている。つまり、丈夫な子孫を生むことができる体型や相貌に対して男は美を感じ、それに反応するという。いわゆる「美人」の顔は平均的な顔で、平均的な因子を持つ個体が長生きしやすいという事実から、平均顔である美人が好まれる。また、男がもっとも魅力を感じる(らしい)腰のくびれも、妊娠出産に最適な状態を表しており、女の若さも同様の理由で男が求めることになる。つまり男は、遺伝子を確実に残してくれる(可能性の高い)相手に魅力を感じ、恋をしてセックスに至るということらしい。要するに、人間もただの動物にすぎず、自然の力で動かされているに過ぎないという結論なのだろう。
 至極当たり前の結論が導き出されるわけだが、このあたりの論証で非常に多くの実験データが引用されており、なかなか説得力がある(実験データの信憑性についてはいくぶん疑問が残るものもあるが)。
 人間の美について幅広く探求しており「美人百科」といった趣もある。何度も読める良書だ。
★★★★

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(2006年6月23日の記事より)
人はなぜ恋に落ちるのか?―恋と愛情と性欲の脳科学
ヘレン・E・フィッシャー著、大野晶子訳
ソニーマガジンズ

b0189364_8535334.jpg 恋愛活動によって脳内がどのように反応しているか、生化学的に解明を試みる本。
 かつて、脳内化学物質の所在が明らかになってきたとき(1980年代中ごろ)に、『ケミストリー・オブ・ラブ 恋愛と脳のメカニズム』(恋愛の際に分泌される脳内化学物質について解明した本)という本を読んで、非常に感心したというか目からうろこが落ちた記憶があるが、この本も同様の方向性を持っている。ただ、この本では、生化学よりも自然人類学的なアプローチが多く、その辺は少し辟易した(著者が人類学者だから仕方ないが)。「男は原始時代から狩猟をして……」などという記述が出てくると、「そのあたりから検証した方がいいんでないかい」と思ってしまう。こういった自然人類学的なアプローチはほとんどが独断だと感じられる。
 また、さまざまな化学物質が唐突に紹介されて、わけがわからない箇所がいくつかあった。そういう意味で非常に読みづらい本であった。
 とは言うものの、脳内化学物質についてよくまとめられており、こういう分野の概要を把握する上では良い本かも知れない。
★★★☆

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(2006年12月11日の記事より)
愛はなぜ終わるのか―結婚・不倫・離婚の自然史
ヘレン・E・フィッシャー著、吉田利子訳
草思社

b0189364_8541070.jpg 人間の恋愛衝動や性衝動を、人類学的観点から説き明かす書。ほとんどは仮説や推測の域を出ないし、ちょっと眉唾な感もあるが、それでもこういう分析はなかなかおもしろい(そしてある部分鋭い)。少なくとも、そこいらへんの構造主義者の場当たり的社会分析よりもはるかに説得力がある。
 著者は人類学者であるが、自然人類学や文化人類学的なアプローチのみならず、リーボヴィッツ(『ケミストリー・オブ・ラブ』の著者)らの大脳生理学的アプローチも取り入れている。もちろん、恋愛の構造を分析するには必要な要素になるだろうが。
 男も女も遺伝子を残すために恋愛しセックスするが、男の場合、その生理構造上、不特定多数の女と交わることで遺伝子を残す可能性を高めることができる。一方女の場合は、できた子供を大切に育てることで、遺伝子を残す可能性を高めることができる。そのため男は、子供ができたら浮気に走りやすいし、女は子供が自立できる程度に育った時点で、男の助けが不要になり、別の遺伝子を残す可能性を探る。結婚4年目で離婚率がもっとも高くなるのは、このためであり、これは原始社会から人間が引きずっている性質だと著者は言う。ともかく男も女も、生物学的には一夫一婦の枠に収まらず、不特定多数と交流したがる(そういう衝動がある)ものだというのが著者の主張である。
 これまでのさまざまな分野の研究成果をまとめて(というか都合の良い部分を集めて)、人類学を駆使しながら恋愛のカラクリを解明するというのが本書の全般的な印象で、学術書というよりエッセイに近いと考える方が妥当かも知れない。
★★★☆
by chikurinken | 2014-08-16 08:54 |

『ストーカー 殺意の深層』(ドキュメンタリー)

ストーカー 殺意の深層 〜悲劇を防ぐために〜(2014年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

ストーカー問題について冷静に考えさせる番組

b0189364_817510.jpg ストーカー事件が後を絶たない現代社会。なかなか解決できないストーカー問題に鋭く切り込むのがこのドキュメンタリーである。
 ストーカー問題に対処するNPO「ヒューマニティ」の理事長であるカウンセラーの小早川明子さんに密着し、実際のカウンセリングの現場を映像に捉える。
 このカウンセラーの小早川さん、ストーカー問題は被害者側だけを救済するのではなく、加害者側のふくれあがった憎悪を解消させることが重要と説く。そのために加害者側とも積極的に面談し、彼らの中に渦巻く「被害者」意識と対峙し、それを解消させるまで粘り強く対応する。その様子が映像化され紹介されていくが、中にはカウンセラーに対して声を荒げる加害者の映像まで出てきて、なかなか迫力がある。
 またオーストラリアのストーカー対策も紹介されており、ストーカー問題について広く考えられるようになっているのも良い配慮である。決してストーカー問題の解決策が明示されているわけではないが、ストーカー問題の解決には加害者の救済が必要であるという見方は斬新で、目からウロコである。ストーカー問題への方向性が見えてくるような啓示的な番組であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『「ストーカー」は何を考えているか(本)』
by chikurinken | 2014-08-13 08:17 | ドキュメンタリー