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竹林軒出張所

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『オトーさんという男』(本)

オトーさんという男
益田ミリ著
光文社

益田ミリの父親の紹介

b0189364_16145890.jpg 『小説宝石』に連載された同名タイトルのエッセイをまとめたもの。娘の目から見た著者自身の父親像を描いたマンガとエッセイで、著者は『すーちゃん』の益田ミリ。
 わがままかつ気分屋で我が道を行き、しかも家族に対しては同調圧力を押し付ける父親の姿を描く。いかにも「B型」的な人物で、僕自身はこういう人はそんなに嫌いではないが、肉親にいたら少し迷惑しそうな感じもする。著者自身も「こーゆー人が恋人だったら絶対にイヤです」と書いている。
 本自体はつまらなくはないが、あまり目を引くような箇所もなかった。要は、益田ミリの(愛すべき)お父さんの紹介で終始する。娘を持つ父親が読んだらまた別の感慨があるのかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

by chikurinken | 2018-10-20 07:14 |

『ふつうな私のゆるゆる作家生活』(本)

ふつうな私のゆるゆる作家生活
益田ミリ著
文藝春秋

あまりにタイトル通りの内容

b0189364_18465716.jpg 『すーちゃん』の益田ミリが、自らの身辺を描いたエッセイ・マンガ。
 タイトルが内容をよく反映しており、まさにゆるゆるな生活。また「ふつうな私」という表現も、学校時代目立たない生徒で、短大を卒業してOLをやっていた頃もあまり目立たない存在だったという著者の履歴をうまく表している。あまり良いとは言えないタイトルではあるが、内容はしっかりと反映している。
 登場する「私」はこのようにごく「ふつう」の感じではあるが、若い頃から公募で入賞したりすることはたびたびあったようで、やはり光るものを持っていたようである。彼女の日常は、編集者と会ったり、ネタ探しのために変わったイベントに出かけたり(しかも直前まで行くのが嫌だったりする)という、そういう日々である。編集者の中には常識外れな人もいて嫌な思いをすることもあるが、逆に意気投合するような人もいる。感受性が強いこの「私」にとっては「ゆるゆる」でありながら波風が起こる毎日のようである。この作者の感受性は、どこか非常に女性的な印象を受けるが、そこがこの人の著書を魅力的にしている要因なんだろうなとあらためて感じたのであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『OLはえらい(本)』
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』

by chikurinken | 2018-10-19 07:46 |

『オレの宇宙はまだまだ遠い』(本)

オレの宇宙はまだまだ遠い
益田ミリ著
幻冬舎

裏側から見た『すーちゃんの恋』

b0189364_17583281.jpg 『すーちゃん』シリーズ第5弾はまだ出ていないと前回書いた(竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』参照)が、実はこの本、『すーちゃんの恋』の続き……とは言えないが、スピンオフの話である。したがって『すーちゃんの恋』の後に続けて読むと楽しめる。第5弾ではないにしても、第4.5弾ぐらいの位置付けになるのではないかと思う。
 どういうことかというと、『すーちゃんの恋』に出てきてすーちゃんが恋をする相手、地味な土田さんが主人公で、土田目線で話が展開する。その中ですーちゃんとの出会いも出てくるため、裏側から見た『すーちゃんの恋』というような立ち位置である。この土田という人も、すーちゃん同様、周りの人々に優しく、自己犠牲を厭わないようなタイプの、「ロハス的」とでも言えそうな(そんな言葉はないが)好人物である。毎日を一生懸命過ごしながらも、こんな自分で良いのかというような哲学的自問を繰り返すのは、すーちゃん同様。がんばれ若者!などと励ましたくなる素朴な存在である。
 また、すーちゃんがいなくなった後のカフェの変容にもついても利用者の目線(土田の視点)で触れられていて、少しホッとする。他にもあちこちに工夫があって、著者の益田ミリも本人役(?)として話の中に現れるという趣向もなかなか面白いと思う(少しやり過ぎな感じはあるが)。さらには、主人公が書店員であるために、話の中でいろいろな本が紹介されていくんだが、これも楽しい工夫である(巻末にそれぞれの本の一覧まである)。
 本書の最後に付いている番外編は、『すーちゃんの恋』にあった番外編と同様のシチュエーションを土田の立場から描いていて、これもあの本と比較するとなかなか楽しい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

by chikurinken | 2018-10-18 07:58 |

『すーちゃんの恋』(本)

すーちゃんの恋
益田ミリ著
幻冬舎

思わず感情移入してしまう魅力的な登場人物

b0189364_18253337.jpg 『すーちゃん』シリーズ第4弾。『どうしても嫌いな人 すーちゃんの決心』を読んだら、すーちゃんがその後どうなるのかが非常に気になる。というわけでこの第4弾は、転職後の話。どうしても受け付けられない同僚に耐えられなくなりカフェをすっぱり辞めたすーちゃん。その後無事に保育園の給食担当として就職する。女性ばかりの職場で、これまで以上に出会いがなくなった彼女であったが、新たな出会いがある。それが書店員の土田さん。でも土田さんには既に彼女がいた。しかし土田さんもすーちゃんのことが気になる。さあどうする?というような展開になる。が、残念ながらこの本では2人(3人)がどうなるか決着は付いていない。この後は第5弾でどうぞ……ということなのかも知れないが、今のところ第5弾は出ていないのだった。
 すーちゃんと土田さんとの初期のやりとりは、なかなかリアルで共感できるが、(僕から見ると)少し恥ずかしいような部分もある。だがこの主人公のすーちゃん、幸せになってほしいと思わず願ってしまうような素敵なキャラクターである。そのためにどうしても感情移入してしまう。感じの良いこの土田さんと何とかうまくやってほしいと考えてしまうのであった。他に出てくる登場人物(保育園の園長先生夫妻など)も大変感じが良くて、この本については(『どうしても嫌いな人』を読んだときよりもずっと)穏やかな気持ちになる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

by chikurinken | 2018-10-17 07:25 |

『どうしても嫌いな人』(本)

どうしても嫌いな人 すーちゃんの決心
益田ミリ著
幻冬舎

すーちゃんにエールを送りたくなる

b0189364_16030332.jpg イラストレーター、益田ミリによるマンガ、『すーちゃん』のシリーズ第3弾。これも形式は『すーちゃん』と同じで、4コマ・マンガではないが、1ページあたり4コマ×2列で、7ページで1話という構成。当然絵も同じで、『結婚しなくていいですか。』同様、全部まとめて合巻にしてもまったく違和感はない。
 今作は、嫌いな同僚に悩むという話。今回の準主役はいとこのあかねちゃんで、彼女も同じく職場の困った同僚に悩んでいる。この2人の困った同僚は、確かに実際にいそうな人物で、こういう奴が近くにいたら相当なストレスになるのは必至という存在。モデルがいるんじゃないかというくらいリアルなキャラクターで、相当不愉快である。特にすーちゃんの同僚は、鈍感人間にありがちな図々しさで、こちらが開いた心にズケズケ入ってきて散らかしまわして早々に去っていくというタイプの人物で、こういうのが身近にいたら確かに参ってしまいそうである。すーちゃんは実際にかなり参ってしまう。僕自身はこのすーちゃんの感性、要するにこの著者の感性ということになるんだろうが、非常に好きで、こういう人とは友達になれそうな気がする(向こうからは嫌がられるかも知れないが)。
 で、すーちゃんみたいなおとなしめの人が、こういう困った人にどのように対処したら良いかというと、実際のところ世間で良く言われるような処方箋というのはないわけで、すーちゃんはおそらく非常に妥当な決断をする。そうなっちゃいますね……と思わず頷くが、何だか納得いかないような気もする。これはすーちゃんの立場からするともっとそうなんだろうが……と、このように非常に感情移入してしまいました。そういう意味でも、良いマンガだと思います、はい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

by chikurinken | 2018-10-16 07:02 |

『結婚しなくていいですか。 』(本)

結婚しなくていいですか。 すーちゃんの明日
益田ミリ著
幻冬舎

30代女性にとっての結婚

b0189364_16393406.jpg イラストレーター、益田ミリによるマンガ、『すーちゃん』の続編。これも形式は『すーちゃん』と同じで、4コマ・マンガではないが、1ページあたり4コマ×2列で、7ページで1話という構成。当然絵も同じで、『すーちゃん』と合巻にしてもまったく違和感はない。
 主人公のすーちゃんはカフェの店長。友達の美人のまいちゃんは結婚しているという状況。結婚していると疎遠になるのか、今回の巻にはまいちゃんはあまり出てこない。すーちゃんはヨガを始めて、そこでばったり昔の先輩のさわ子さんに会う。さわ子さんはもうすぐ40歳になる独身女性で、母、母に介護されている祖母との3人暮らし。40歳前のさわ子さんと、親から結婚をせっつかれるすーちゃんが今回の主役になる。すーちゃんにとっては、結婚はともかく自分の将来像、つまりひとりぼっちの老後というのも非常に気になって気が落ち込んだりする。
 こういうのはよく聞く話ではあるが、しかしこのマンガからは、当事者の感情が読み手によく伝わってきて、大変説得力がある。結局のところ将来に対する漠とした不安ということになり、それは結婚していてもしていなくても概ね同じではないかと思うが、それでも未婚の女性にとってはそれが結婚に直結するというのもよくわかる話。結婚しないという意志を決めることもそれなりに決断が必要になるし、結婚したくても実際には簡単に行かない。複雑な女性心理である。絵がシンプルなだけに、登場人物の内面が伝わりやすいということもあるのだろうか。30代女性のいろいろな問題、それに対する感情が直に迫ってきて、リアルな印象を受ける。『すーちゃん』同様、若い女性も大変だ……とつくづく感じるのであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

by chikurinken | 2018-10-15 07:39 |

『すーちゃん』(本)

すーちゃん
益田ミリ著
幻冬舎文庫

若い女性もいろいろ大変だ

b0189364_18172528.jpg イラストレーター、益田ミリによるマンガ。4コマ・マンガではないが、1ページあたり4コマ×2列で、7〜8ページで1話という構成。元々何かの雑誌に連載されていたものかと感じたが、書き下ろしのようである(未確認)。
 へのへのもへじ並みのシンプルな絵で、動きもほとんどなく、描くのに時間がかかっていなさそう。スクリーントーンは貼ってある。これで内容がつまらなかったら誰も見向きもしないんだろうが、絵からは想像できないほど内容は充実していて、いちいち考えさせられるところがある。
 主人公は、都会暮らしの30台前半の独身女性、すーちゃんで、正社員としてカフェに勤務。基本的には他人に優しく接する人であるが、自分の中では自身をもっと良い人間に変えたいと思っている。職場では他の人間にあまり立ち入らないよう立ち入らせないように振る舞っている。近所に住む友達のまいちゃんが、心を許せるほぼ唯一の存在。そういうすーちゃんが日常を送る様子が本当に淡々と描かれるんだが、すーちゃんもまいちゃんもかなり繊細で、結婚プレッシャーや他人の心ない言葉で傷ついたりする。独身女性はこんなに大変なのかと思うが、若いうちは確かにこういったことで傷ついたり他人をやっかんだりしていたなと思う。一方で将来が暗く思えたりもするし、生きていくのもいろいろ大変だと思う。主人公たちのいろいろな感情や情念が伝わってきて、そして彼女たちの性格や人格が、この単純化された絵とよくマッチしていて、このシンプルな絵が逆に魅力的になってくる。
 なおこのマンガ、この後シリーズ化され、何点か続編が出ている。また、映画化もされているらしい。すぐに読めるんで図書館で続編を借りて読んでみようかなどと思っている。すーちゃんとまいちゃんのその後も非常に気になるし……(なお、この『すーちゃん』では、すーちゃんが勤め先のカフェの店長になり、まいちゃんが結婚する)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』
竹林軒出張所『大家さんと僕(本)』
竹林軒出張所『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。(本)』
竹林軒出張所『家に帰ると妻がカフェをやりたがっています。(本)』

by chikurinken | 2018-10-14 07:17 |

『長い道』(本)

長い道
こうの史代著
双葉社

道≒すず

b0189364_19482828.jpg のんびりおっとりした若い女性「道」が、遊び人の若い男「荘介」と、親同士が飲み屋の席で約束したせいで結婚することになった。その結果、道が荘介の家に転がり込むことになる。まったく道が好みではないために結婚に乗り気ではない荘介と、なぜかわからないがそのまま居着いてしまう道との奇妙な同居生活が続く……それが1話3〜4ページで完結するというマンガがこれ。元々は雑誌に連載していたもので、なんでも著者の最初の非4コマ・マンガの連載だったそうで、反響もあまりなかった(つまり制約も少なかった)ために自由に楽しく描いた作品だそうな。このマンガ自体も、道同様、何だかのんびりおっとりしている。
 主人公の道は、同じ著者の『この世界の片隅に』の主人公「すず」と非常によく似たキャラクター設定で、少し抜けていて誰からも愛されるような人物像である。道の独特の性格に荘介も徐々に惹かれていくというか情が湧いていくというか、そういう流れになるが、設定自体がかなり荒唐無稽であるため、わかったようなわからないような雰囲気が最後まで漂う。
 回によっては、タッチが変わっていたり、あるいはまったくセリフなしで話を進めていたりしており、「自由に楽しく描いた」というのが窺える。ただセリフなしの回は、物語の挿絵が並んでいるような感じで、内容がわかりにくいところも多い。
 話は(やや変わってはいるが)新婚生活を描いており、『この世界の片隅に』と似た感じの雰囲気もある(特に主人公がほぼ同じだし。もちろん夫のキャラはちょっと違う)。それに登場人物の中には意地悪な小姑まで出てきて、このあたりも『この世界の片隅に』同様。『長い道』を戦中の環境に置き換えたのが『この世界の片隅に』だという見方もできるかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『貧乏まんが(本)』
竹林軒出張所『この世界の片隅に(映画)』

by chikurinken | 2018-10-13 07:48 |

『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(本)

よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話
いしいさや著
KCデラックス ヤングマガジン

「エホバの証人」の内実がよくわかる

b0189364_18534350.jpg 街中を数人の女性(男性もいる)が日傘を差して無表情で歩いているのをよく見かける。お察しの通り、彼女らは一軒一軒訪問して「宗教」のお話をしたいなどと言い、ほとんどの場合門前払いを食うのだが、まったく意に介さずという感じて次の家に赴く。ご存知、宗教組織(カルト認定している国もあるらしい)「エホバの証人」の信者たちで、夏の炎天下を幽霊のようなたたずまいでフラーッと歩いているのを見ると、この人たちは一体何なんだろうかと感じてしまう。
 このマンガは、母親が「エホバ」の信者で、子ども時代、それに伴われて布教活動を行っていたという作者が、その子ども時代を回顧して描いたもの(まさにタイトル通り!)。母に連れられて、奉仕(例の勧誘ね)や集会に行き、学校の行事(運動会など。闘うことがダメなんだそうだ)もものによっては参加できない。本人としては辛い生活だったようだが、母が主導するので反対はできない。そういう状況が具体的に描かれるため、状況がよく理解できる。
 母(および信者)は、死んだ後「楽園」に行けると信じてこういう活動をしているらしい。神、エホバがいずれ悪い人間、悪いことをすべて滅ぼして(今日本で頻発している災害もこの種のものらしい。被害者は「悪い人間」か……)、良い人間のみが地上の楽園に永遠に楽しく暮らすことができるという信仰である。善悪という二元論が幼稚な発想である上、人間中心で実に身勝手な考え方だと思うが、要は一種の原理主義と言っても良いのではないかと思う。この母は信じているんで多少の苦行は我慢できるだろうが、それに付き合わされる周囲の人間は堪ったもんではないだろうなと思う。
 この話の主人公の「さや」も終始母の態度とエホバの教義に疑問を感じているが、一方でさやの父も信者ではなく、母の信仰に対しては冷ややかなようである(そういう風に描かれている)。この父はさやに対しては非常に優しく、そのあたりは表情だけで非常にうまく描かれている。母の冷たさ、無表情さも描写がうまいため、最初のエピソードを読むだけで、この母の態度にギョッとする。著者の技術の高さゆえと言える。
 このマンガは元々、著者が活動を止めた後罪悪感に責めさいなまれ、そのために認知行動療法の一環として描き始めたものだという。それをインターネットで発表したところ非常に受けて、その後『ヤングマガジンサード』に連載されるという運びになったものであり、動機は非常に純粋である。それに「エホバの証人」の信者の生活や思考、カルト信者の周辺の人々の混乱などが丁寧に描かれるため、ルポルタージュとしての価値も高い。
 実は、僕の中・高時代のある同級生(女子)も「エホバ」の家の子どもで、ウチに勧誘に来たこともある。それに彼女、修学旅行でも東大寺に入らなかったりしていた(何しに行ったんだかわからない)。宗教者というものはそういうものかと最近まで思い込んでいたが、クリスチャンでも普通に寺や神社に参拝しているのを最近目にして、彼女らが極端だったのがわかったのだった。そういう点では僕も「彼女のせいで」大きな誤解を与えられていたということになる。もっと近い場所に信者がいたら、本書の著者のようにさぞかし大変なんだろうなと思う。
 絵は丁寧だが、三段組みであるため、少々スカスカの印象がある。そのため、情報量が全体的に少ないが、それでもキャラクターの描写がうまいため、表情や仕草による情報量は多いと言える。したがってすぐに読み終わるが、内容は充実している。良い内容の本であると思う。こういう「良い」本は、きっと「楽園」に行けるだろう(よく売れるだろう)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』
竹林軒出張所『カルトの思い出(本)』
竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』
竹林軒出張所『人間仮免中(本)』

by chikurinken | 2018-10-12 07:53 |

『日本人の美意識』(本)

日本人の美意識
ドナルド・キーン著、金関寿夫訳
中公文庫

ドナルド・キーンの仕事を俯瞰する

b0189364_20275729.jpg 日本文学者、ドナルド・キーンの9本の論文(またはエッセイ)をまとめた書。論文は1960年代から70年代初頭に渡って書かれたもので、内容が広範に渡っており、どれも興味深い。
 掲載されているのは「日本人の美意識」、「平安時代の女性的感性」、「日本文学における個性と型」、「日本演劇における写実性と非現実性」、「日清戦争と日本文化」、「一休頂相」、「花子」、「アーサー・ウェーリ」、「一専門家の告白」の9本。最後の「アーサー・ウェーリ」と「一専門家の告白」がエッセイ(初出は〈おそらく〉雑誌とニューヨーク・タイムズ)で、前者が、著者が敬愛する東洋文学の翻訳家、アーサー・ウェーリ(『源氏物語』の英訳が有名)との想い出を語ったもの、後者が、「日本文学が専門」と口にしたときの他者の反応に対するボヤキみたいな内容のエッセイ。特に後者はエスプリが効いていて面白い。
 残りはすべて論文である。「日本人の美意識」は、タイトルの通り日本人の美意識を分析した書で、内容は非常に興味深い。日本文化論であるが、これだけの鋭い視点、分析力はなかなかお目にかかれまい。日本文化の学界はこれだけの研究者を得られたことを感謝すべきである。
 「平安時代の女性的感性」は、優れた(と著者が感じている)平安文学に、どれも女性的感性があるとする平安文学論。「日本人の美意識」とも通じる内容である。
 「日本文学における個性と型」は、簡単に言えば元禄ルネサンス論で、井原西鶴、近松門左衛門の作品をモチーフにして、彼らの文学(そしてそれは長い間日本文学の底流になるのだが)に、登場人物の内面を深く探るのではなく、彼らを「様式」的かつ「定型」的に描くという特徴があると指摘する。おそらくその後の著者の大作『日本文学史』に繋がる内容なのではないかと思う(『日本文学史』は近世文学から始まっている)。
 「日本演劇における写実性と非現実性」は、能、文楽、歌舞伎におけるリアリズム・非リアリズムについて論じる。こういった演劇は、その形態を見ても明らかにリアルではないが、描かれる対象として常にリアリズムが紛れ込んでいる。同様に日本の演劇には、こういったリアリズムと非リアリズムがいろいろな点で混在しているというような論。これはおそらくその後の『能・文楽・歌舞伎』に連なる論なのではないかと思う(この書については未読)。
 「一休頂相」は、一休宗純の異色性、破天荒さをその漢詩から辿るという内容で、あの異色の頂相(肖像画)に一休の特徴が反映されているとする論。
 「花子」は、20世紀初頭、ヨーロッパとアメリカで人気を博した女優、花子についての論。花子は、当時なぜだかわからないが、その舞台が突然ヨーロッパで大当たりした。決して美しい女性ではなく、しかも舞台自体に芸術性があるわけでもなく、それでも大受けし、そのために各地を巡業して、どの地でも人気を博したと言う。あのロダンも結構花子に入れ込んでおり、花子の肖像をいくつか作成している。著者は、サラ・ベルナールなどをはじめとする当時の大女優崇拝現象の一環で、そこにエキゾティシズムに対する態度みたいなものがうまく結合して、人気を得ることに繋がったと分析しているようだが、基本線は、この「花子」現象を比較的客観的に紹介するという論である。花子については名前ぐらいしか知らなかったため、大変興味深く読んだ。
 そしてこの書の目玉と言えるのが「日清戦争と日本文化」で、ページ数も全体のほぼ三分の一が割かれている。日清戦争を通じて、日本の対中国観が、崇拝・尊敬から蔑視へ大きく劇的変わったことを当時の印刷物から論じるもので、これも非常に興味深い。ただしこれについては、先日読んだ『明治天皇〈三〉』でも何度も引用されていた内容であるため、僕にとってはそれほど目新しさはないが、しかし斬新な論考であるのは確かである。
 今見てきたように、それぞれの論はその後の著者の著作に繋がっているものも多く、それを考えると、本書は著者の著作群のダイジェストという言い方もできる。内容が多岐に渡っているのは先ほど書いたが、同時に取り上げる内容も斬新である。論理も飛躍や矛盾がないため、どれにも説得力がある。地味な本ではあるが、ドナルド・キーンの仕事を見渡す上で優れた案内書になっていると言うことができる。得るところ(特に新しい視点)が多い良書である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈三〉(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

by chikurinken | 2018-09-29 07:27 |