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竹林軒出張所

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タグ:本 ( 714 ) タグの人気記事

『私家本 椿説弓張月』(本)

私家本 椿説弓張月
平岩弓枝著
新潮文庫

『椿説弓張月』の雰囲気を味わえる

b0189364_15583180.jpg 曲亭馬琴の『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』を平岩弓枝がアレンジした小説。
 『椿説弓張月』は鎮西八郎為朝(源為朝)の大冒険譚で、九州、京都、伊豆大島、四国、琉球を舞台にした壮大なスペクタクル巨編である。源為朝は源為義の八男(源義朝の弟)で、保元の乱に際して朝敵になり結果的に伊豆大島に流されるが、伊豆を実質的に支配したため、国司の恨みを買って追討されたというのが史実である。『椿説弓張月』では、この実話を踏まえた上で、為朝が理性と正義の豪傑であり、行く先々で正義を貫くが、歴史に翻弄されてあちこちをさまよい歩き、各地域の悪人と対峙していくというようなストーリー展開になる。
 この『私家本』についても馬琴版『椿説弓張月』を大体において踏襲しているらしく、細かな違いはあるが、概ね『椿説弓張月』の雰囲気は味わえるようだ。僕は今回、先日読んだ『現代語訳 南総里見八犬伝』と同じような感覚でこの書に当たったわけだが、流行作家が書いたものだけに非常に読みやすかった。ストーリーは勧善懲悪かつ荒唐無稽で、必ずしも手放しで称賛できるものではないが、ハリウッド映画的な面白さはある。単純なドラマが好きな人には格好の読みものになるかも知れない。
 例によって登場人物も大量に現れ、わかりにくくなる箇所もあるが、『八犬伝』に比べれば登場人物の数ははるかに少ないこともあり、まだましな範囲である。正しい人、正しくない人がはっきりと分かれているため、そういう点でもわかりやすい。馬琴の作を読んだとは言えないが、読んだような気にはなる。源為朝のこともまったく知らなかったので教養にもなった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『寿の日(ドラマ)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (下)(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』

by chikurinken | 2019-02-23 07:58 |

『歎異抄 (現代語訳版)』(本)

歎異抄 (現代語訳版)
金山秋男訳
致知出版社 いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ

親鸞思想の斬新さが分かる

b0189364_20361658.jpg 浄土真宗の開祖、親鸞の弟子である唯円が、親鸞の悪人正機の思想を分かりやすくかみ砕いて紹介する書が『歎異抄』である(著者については異論もあるようだ)。この本で紹介されている悪人正機説は「善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」という文句が非常に有名で、要するに、自力に頼らず阿弥陀如来に完全に帰依すれば誰でも極楽往生を遂げられるという思想である。善悪という価値観自体人間が作った価値観であるため、それを超越した存在である阿弥陀如来にとっては一切関わりがない。阿弥陀如来の前で100%謙虚になって全幅の信頼を寄せさえすれば誰でも往生できるという考え方(だと思う)。現代人も自然の前で100%謙虚になれば、昨今のような環境破壊もないだろうが、そういうことすら考えさせられる本でもある。それにしても悪(や世俗)を否定しない考え方は斬新である。当時、浄土宗(および浄土真宗)の僧たちが迫害を受けたというのも頷ける気がする。
 各章ごとに現代語訳と原文、その後の解説が続くという構成である。現代文は割合平易な日本語ではあるが、内容自体が結構難しいし、非常に抹香臭いというか、宗教的な記述が多く(宗教書だから当然なんだが)、必ずしも読みやすくはない。たとえば「阿弥陀さまの本願に救われて念仏する身となって、やり遂げようという慈悲は、私たち凡人が、本願の力により人間の思いを超えた阿弥陀さまの大いなる慈悲の心で、思うように生きとし生けるものを救うというものです」(第四章)のような文章があるが、決して分かりやすいとは言えないと思う。ただそれでも最後まで読むと、言わんとすることは概ね分かってくる。また『歎異抄』がどのような意図で発表されたか、このタイトルの意味は何か、どういう構成になっているかなどについて丁寧な解説があるため、『歎異抄』入門として良い素材になっている。『歎異抄』を読んでみたい、内容に触れてみたい、悪人正機説がどういうものなのか知りたいなどという人々には適していると思う。
 なおこの『いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ 歎異抄』だが、前序、第一章から第十八章、後序、流罪記録まで一通り収録されている。おそらく原作のすべての内容が収録されているんじゃないかと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『石田梅岩「都鄙問答」(本)』
竹林軒出張所『風姿花伝 (現代語訳版)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)(本)』

by chikurinken | 2019-02-22 07:35 |

『日本文学史 近世篇〈一〉』(本)

日本文学史 近世篇〈一〉
ドナルド・キーン著、徳岡孝夫訳
中公文庫

キーン先生畢生の大作

b0189364_18350860.jpg ドナルド・キーンの日本文学史。この『日本文学史』は、1976年から、近世、近代・現代、古代・中世の順に刊行が行われたらしい。結果的に相当な大作になって、文庫版でも近世篇3巻、近代・現代篇9巻、古代・中世篇6巻の全18巻構成になっている。いくらなんでもたかだか日本の文学史に長尺過ぎるだろう、決して手を出すことはないだろうと僕などは思っていたが、ついに手を出してしまったのだ。だが近世篇第1巻を読む限り、内容が非常に充実していて面白いと言わざるを得ない。当初は日本の文学史でこんなに書くべきことがあるのかと思っていたが、この1冊だけでも相当濃密であり、これまで僕なりに考えていた「日本文学史」の概念が覆されるような思いさえする。確かに、これだけしっかりしたものを書こうと思えば大著になるのも当然と感じるようになった。ドナルド・キーンの傑作であり力作である。この後も続けて読みたいと感じる(実際現在、近世篇第2巻を読んでいる最中)。
 この近世篇第1巻は、室町時代後期の連歌から書き起こされる。室町時代以降盛んになった連歌が、どのような経路で近世の俳諧連歌、ひいては松尾芭蕉に繋がるかが歴史的な側面から描かれる。この第1巻のテーマは、あえて言うならば江戸前期韻文史(特に俳句)ということになる。
 まず最初に登場する重要人物が松永貞徳で、同時にこの貞徳から始まった貞門派の俳諧が語られる。続いて、江戸時代にそれに対抗するユニークな流派として上方に登場した談林派に話が移る。貞門派や談林派の特徴が紹介されて、それが松尾芭蕉の蕉風俳諧にどのように影響したかが示され、第1巻の目玉(と思われる)松尾芭蕉へと筆は進むのである。その後、芭蕉の弟子たちの活動が紹介され、そして第1巻の最後は仮名草子(江戸初期の仮名書きの出版物)で締められる。第2巻はこれに続いて、仮名草子の流れを汲む井原西鶴に話が進むというわけである。
 俳句にはそれぞれ英訳が付けられている(元々はアメリカで出版された本のようである)。当然、著者の解釈に基づく英訳で、俳句は(一般的に韻文はそうだが)元々解釈が難しいものが多いため、著者の解釈が示されることで理解しやすくなっている。日本語への翻訳は徳岡孝夫という人が担当しているが、文章が非常に読みやすく優れた翻訳になっている点も評価に値する。
 ともかく、先ほども書いたように、内容が濃密であり、冗長な箇所が一切ない。もしこれが講義であれば、一言も聞き漏らしたくないと感じるような密度である。キーン先生の畢生の大作と言える著書で、『百代の過客』もそうだったが、読者である自分にとって新発見が目白押しの快作である。
 実は近代と中古・中世を先に読みたかったんだが、刊行順に読むのが良さそうと感じたせいで、『近世篇』から始めてしまった。もちろんこの『近世篇』もここまで書いているように非常に興味深く面白いのではあるが、僕にとっては優先順位は低かったのだ。おかげで近代と中世を読むのが待ち遠しいというのか、あっちを先に読んでおいたら良かったかななどと多少の後悔が残るのである。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈二〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈三〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈四〉(本)』
竹林軒出張所『日本人の美意識(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-02-06 07:34 |

『にごりえ・たけくらべ』(本)

にごりえ・たけくらべ
樋口一葉著
岩波文庫

岩波文庫の傑作の1つ

b0189364_17565209.jpg 樋口一葉の代表作の『にごりえ』と『たけくらべ』が岩波文庫で一冊にまとめられている。一葉の著作はどれも短編なので、出版されるときは一般的におおむね5、6本の作品をまとめた短編集になるが、岩波文庫は2本だけを100ページにまとめるというかなり思い切った構成にしている。しかしこの短さ・薄さはじっくり読むには実は適切なサイズで、一葉の作品には合っているのではないかと読んでみて感じた。一葉の作品は、どれも擬古文であり、現代人が読むにはある程度時間がかかるし、時間をかけて読むべき作品である。時間をかけて読んでその味がわかるというもので、今回はそれがよくわかった。
 多くの消費者が、余計なものでもたくさん盛り込まれていることで得をしたような気分になるのが常であるため、こういう薄めの切り取り方、売り方は多分に冒険的であるが、岩波の大英断と言えなくもない。あるいは現在のように古典が無料で読める時代だからこその英断かも知れないが、読ませ方までパッケージしたかのような岩波文庫には、新しい時代の出版界のあり方みたいなものまでが窺われる。また『にごりえ』と『たけくらべ』のそれぞれの扉ページに一葉の筆跡でタイトルが書かれているのも、すばらしい配慮である。岩波文庫には、最近関心させられることがときどきあるが(竹林軒出張所『富嶽百景・走れメロス 他八篇(本)』竹林軒出張所『硝子戸の中(本)』を参照)、この本も秀逸である。
 さて内容であるが、高校生の時分に新潮文庫版を読んだときはわかったようなわからないような状態であったが、今では古文に慣れているということもあり、存分に楽しめ、文章の流麗さも味わい尽くすことができた。特に『にごりえ』は先日映画でも見ていて内容をかなり憶えていたこともあり、なるほどと感じることも多かった。それになんと言っても最後の段での唐突な落とし方が実に良い。短編の鏡みたいな構成である。これについては『たけくらべ』にも共通しており、一葉の名人芸と言えるかも知れない。ストーリーは明治の下層社会を描いたようなリアリズム(自然主義)で、特に『にごりえ』は気が滅入ってしまうような暗さが漂う。しかし1890年代の日本で、これほどのリアリズムの作品が、これだけの流麗な文体で描かれたことは今振り返って見ると衝撃的である。日本の最初の自然主義文学として扱うべきではないかとも思うんだが、なぜか日本の自然主義文学というと田山花袋らの私小説風の文学になってしまうのだ。合点が行かないところである。
 ともかく、『にごりえ』も『たけくらべ』も、自然主義的な側面に加え、特異な叙情性、美しい文体が目を引く傑作である。ただどちらも、句点があまりなく、本来であれば句点で区切るべき箇所を読点で延々と続けているためにかなり読みにくいのは確かで、通常の本の読み方だと続かないのではないかと感じる。やはりじっくり読まなければその良さはわかりにくいかも知れない。そういう点で、この岩波文庫のように他をすっぱり切り落として100ページにまとめたという潔さには先見の明を感じる。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『にごりえ(映画)』
竹林軒出張所『樋口一葉物語(ドラマ)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『富嶽百景・走れメロス 他八篇(本)』
竹林軒出張所『硝子戸の中(本)』
竹林軒出張所『こころ(本)』

by chikurinken | 2019-02-05 07:56 |

『ビギナーズ・クラシックス 太平記』(本)

ビギナーズ・クラシックス 太平記
武田友宏編
角川ソフィア文庫

ダイジェストの鑑

b0189364_15223916.jpg 『ビギナーズ・クラシックス』シリーズの『太平記』である。『太平記』は、鎌倉時代末期から室町時代初期に至るまでの歴史を辿る軍記物語で、全40巻構成の大著。元弘の変、正中の変あたりから建武の新政、観応の擾乱、足利尊氏と足利義詮の死あたりまでが描かれている。因果応報や道理という考え方がベースになっており、全編を儒教的な思想が貫いている。原文は『平家物語』風の和漢混淆文であり、割合読みやすい。原文で読んでもある程度の訳注があれば読みこなせると思うが、なにしろ相当な分量があるためなかなか読んでみようという気にならない。
 この『ビギナーズ・クラシックス 太平記』はその点、全体を網羅しながら、途中途中で原文をピックアップして解説している。しかも全40巻のすべての巻で原文を抽出すると同時に、内容をダイジェストで紹介しているため、『太平記』を読了した錯覚さえ覚える。拾い方が非常に丁寧で、「ダイジェストの鑑」と言って良いほどの仕上がりである。このシリーズ屈指の著作の1つと言っても過言ではない。構成は、他の同シリーズと同様、内容の要約に続いて、原文の現代語訳、原文という順に並べられていて、最後の最後に作品紹介の解説、さらに付録として略年表、皇室・源氏・平氏の系図、地図(大雑把すぎるが)まで付いている。至れり尽くせりである。
 同じ『ビギナーズ・クラシックス』シリーズでも、同様の歴史物の『ビギナーズ・クラシックス 史記』『ビギナーズ・クラシックス 十八史略』は実に食い足りないものだったが、本書『ビギナーズ・クラシックス 太平記』はそれと好対照をなしていて、その点でも本書の秀逸さが際立つ。たとえダイジェストであっても、良いものとそうでないものがあるということだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『太平記 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『源頼朝像 沈黙の肖像画(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 和泉式部日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 小林一茶(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 史記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 十八史略(本)』

by chikurinken | 2019-02-04 07:22 |

『石田梅岩「都鄙問答」』(本)

石田梅岩『都鄙問答』
石田梅岩著、城島明彦訳
致知出版社 いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ14

商売人のバイブル

b0189364_17342621.jpg 「いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ」は、なかなか読みやすくてよろしいシリーズなんだが、何よりラインナップが渋い。中でもこの石田梅岩の『都鄙問答』はなかなか接することのない著書であり、現代語訳も皆無と言って良い。本書の「あとがき」によると、1972年に『日本の名著シリーズ 富永仲基・石田梅岩』という現代語訳の本が出たらしいが絶版状態。この本は「日本史上、二冊目の(『都鄙問答』の)現代語訳」であるらしい。
 『都鄙問答』は元々元文四年(1739年)に刊行された本だが、この著書自体あまり知られていない。著者の石田梅岩にしても、日本史の教科書に「石田梅岩=心学」程度の知識で出てくるだけで、日本史の教師を含め、ほとんどの人は石田梅岩のことは知るまい。だが松下幸之助が『都鄙問答』を座右の書にしていたらしいことから、ビジネス界ではそこそこ知られているようだ。だからと言って『都鄙問答』がビジネス書というわけではないのである。基本的には、儒学に基づいた人間の生き方を説く書であると言って良い。それが証拠に、『論語』や『孟子』など四書五経からの引用が随所に出てくる。人間は人の道に沿って正しく生きるべきという思想が根底に流れている。その思想を、Q&A形式で語っていくというのがこの書で、そのためにタイトルに「問答」が付いているわけだ。
 内容は概ね、倫理に沿った生き方をしろというようなもので、言っていることはわかるが四角四面で窮屈過ぎると感じる部分も多い。教条主義的で読んでいて飽きる部分も多いが、ただ「巻の二」の商人の心得の箇所はなかなか興味深かった。損をしても義に基づいた取引をせよとか正直に愚直に商売をせよとか、現代の多くの利己主義的な実業者に教えてやりたい心得であるが、もちろん自分自身の心に刻んでおきたい教訓でもある。松下幸之助が座右の書にしていたというのも頷ける話だと感じる。
 訳者は作家らしく、全編非常に読みやすい現代語訳で、普通に読む分には苦労はないが、それでも内容がやはり儒教道徳であるため、特に儒教概念でわかりにくい箇所が割合ある。たとえば「理」や「命」が紹介されているが何が言いたいのかよく見えてこない上、儒教でしきりに唱えられる仁・義・礼・智・信についてもわかったようでわからない。例えで説明している箇所は具体的になるが、観念的な話になるとわかりにくさもひとしおで、もしかしたら訳者が本当のところを理解していないのかとも思える。もちろん儒学は根本の部分は難解で解釈も多岐に渡っており、そのために注釈書が大量に書かれたわけだが、そういう部分が本書の理解を困難にしているのも確かである。表紙には「227分で読めます」と書かれているが、僕の場合は読み切るのに都合1カ月ぐらいかかっている。興味深い話はあちこちにそれなりにあるため、実感としては拾い読みするのが一番良いかなと思う。ただ原文の読みにくさはそれに輪をかけているらしく(問と答が区切られていない、口語と文語が入り混じった不統一な文体など)、それを考えるとこの現代語訳もそれなりに有意義な本と言える。
★★★

参考:
竹林軒出張所『風姿花伝 (現代語訳版)(本)』
竹林軒出張所『歎異抄 (現代語訳版)(本)』
竹林軒出張所『マンガ 孔子の思想(本)』

by chikurinken | 2019-02-02 07:34 |

『風姿花伝 (現代語訳版)』(本)

風姿花伝
世阿弥著、夏川賀央訳
致知出版社 いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ

現代人が書いたかのような古典作品

b0189364_18230228.jpg 「いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ」という一連の本があって、要は古典作品をこなれた読みやすい現代文にして読んでもらおうという企画らしい。ラインナップはすでに20冊近くに上っており、中には中江藤樹や石田梅岩の本など、原文でもあまり接することのない、ちょっと珍しい著作があって、実に興味を引かれる。中には渋沢栄一や幸田露伴など明治の著者のものもあり、こういうのに現代語訳が必要かどうかはよくわからないが、読みやすい日本語であればもちろんそれに越したことはないという人々がいても当然で、それなりの需要はあるのではないかと思う。
 で、今回僕が読んだのは、能楽者、世阿弥の芸論『風姿花伝』である。訳者は夏川賀央という人で、実業界の人らしい。どうして『風姿花伝』を実業界の人が訳すのかというと、『風姿花伝』が「「いかにお客に喜ばれる能を提供するか?」という面から追求された、「本格的なビジネス論」でもあ」るかららしい(本書「まえがき」より)。何でもかんでも自分の仕事に結びつけようとする実業界の人々の考え方にはうんざりするが、しかし訳という部分だけに注目すれば、割合うまいこと訳してあると感じる。現代の日本人が書いたものではないかと錯覚するぐらい、こなれた文章が続く。中には「世間のニーズ」とか「メロディーをアレンジして」とかかなり思い切った訳語もあって、思わず原文を確認してみたいと思ってしまうが、しかし読みやすいのは確かで、読ませることを優先するのであればこれもありだと思う。
 ただし内容はあくまで芸論であり、これをビジネス論として読むのは少々無理があるような気がする。またそういう捉え方はしない方が良いとも感じた。あくまでも世阿弥の考える能楽・芸能論である。そのため内容は舞台の話中心であり、役者には「花」が必要だとか、その「花」のために修養するのだとかいうことぐらいしか、頭に残らなかったのも事実。そもそも『風姿花伝』自体が代々家に語り継がれた門外不出の家伝書だったわけで、それをどう読むかはもちろん読者の勝手ではあるが、やはりあくまでも芸談である。その点は確認しておきたいところである。そのためかどうかわからないが、内容がピンと来ない部分もあり(詳細な注釈が欲しいところである)、文章の展開がスムーズに入ってこない部分もあった(原文のせいか現代語訳のせいかはわからない)。とは言っても読みやすさはピカイチである。そういう意味で、このシリーズの趣旨にピッタリ合っていると思う。表紙に「91分で読めます」と書いているが、大きな文字で印刷された160ページの本なんで、あながち外れていないかも知れない(僕については2時間以上かかったような気がする)。『風姿花伝』という難解そうな本(実際の内容はかなり具体的でありそれほど難しいものではない)に触れてみるには絶好の手段なのではないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『石田梅岩「都鄙問答」(本)』
竹林軒出張所『歎異抄 (現代語訳版)(本)』
竹林軒出張所『仁左衛門恋し(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)(本)』

by chikurinken | 2019-02-01 07:22 |

『戦国大名と分国法』(本)

戦国大名と分国法
清水克行著
岩波書店

歴史の「事実」を見直す潮流の一つ

b0189364_19023720.jpg 日本史の世界では、かなりいい加減で荒唐無稽な見解が「事実」として認定されていることが多い。古代史の多くの「事実」もそうだし、そういった、思いつきが定着した「事実」は近世に至るまで数々ある。今では当たり前のように喧伝されている「竪穴式住居」の姿も、元々はある大学の先生が描いた想像図がそのまま「事実」であるかのように定着したものだという話を聞いたこともある。
 分国法についても、高校の教科書では、戦国大名の独立過程の法整備の象徴としてまことしやかに取り上げられるが、本書では実際には必ずしもそういう種類のものではないということが紹介される。ちなみに分国法とは、戦国大名が自身の領国内で定めた独自の法律のこと。
 こういう説が定着したのは、石母田正という歴史学者による『日本思想体系 中世政治社会思想 上』の「解説」が遠因になっているのではないかと著者は言う。この論では、戦国大名が、独立した「国家権力の歴史的一類型」であり、独自の法(つまり分国法)を持っていたことがその証左であったとしている。この論文の影響は大きく、やがて「分国法が戦国大名の自律性の指標と位置付けられる」ようになったというのが著者の見解である。
 しかし実際の分国法は、その多くが、法体系というより領主が書き殴ったようなまとまりのないものであったり、子孫に書き残した家訓のようなものに過ぎなかったという。この本で紹介されるのは結城氏の「結城氏新法度」、伊達氏の「塵芥集」、六角氏の「六角氏式目」、今川氏の「今川かな目録」と「かな目録追加」、武田氏の「甲州法度之次第」で、この中である程度まとまりがあるものは今川氏と武田氏のもの程度らしい。武田氏のものについても「今川かな目録」をモデルにした痕跡があり、それを考えると決して法体系などと呼べるようなものではないということで、要は分国法が作られたのは領内の紛争やもめ事を解決する際の基準として、その時代の常識的な判断や非成文法を書き留めたものであるということらしいのだ。中には「六角氏式目」のように大名自身の横暴を制約するような「マグナ・カルタ」的なものまで存在する。つまり分国法とひとくくりに言っても、それぞれで制定の事情が異なり、内容も異なる。決して近代的な成文法という種類のものではないということなのだ。
 本書の主張はよく理解できるし説得力もあるが、内容が少々冗長な感じもある。ただ紹介される分国法はすべて現代語訳されており、記述も平易であるため、読みやすいのは確かで、そういう点では読んでも損はないと思う。いずれにしても、日本の歴史学にいい加減な要素が数多く残っているのは確かで、それを正していくのが現世代の歴史学者である。そういう点では価値のある研究成果と言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『応仁の乱(本)』
竹林軒出張所『源頼朝像 沈黙の肖像画(本)』

 以下、以前のブログで紹介した(意外な事実の)戦国もの歴史書籍(『刀狩り』)の評の再録。
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(2005年12月8日の記事より)
刀狩り 武器を封印した民衆
藤木久志著
岩波新書

b0189364_19024995.jpg 日本中世史が専門の著者が、豊臣秀吉の刀狩りについて論じた本。豊臣秀吉の刀狩りについての書、論文は、著者の前著(『豊臣平和令と戦国社会』85年)以外ないというほど、日本では刀狩りの研究は行われていなかったらしい。それにもかかわらず、当然のごとく、豊臣秀吉によって農民が完全に武装解除されたという思いこみが、あらゆる階層の人々に行き渡っている。本書では、それに疑義を呈し、本当に秀吉の強権によって刀狩りで民衆の武装解除が行われたのかをさまざまなデータを提示することで検討していく。
 結論を言えば、秀吉の刀狩りは、公然と帯刀することを禁止するものであって、所持についてはほぼ認められていた。刀狩令の試行についても、実際は村などのコミュニティ任せであり、鉄砲は集めず刀だけを一定本数集めたらしい。しかも、場合によっては持ち主に返却したこともあったようだ。つまり、象徴としての武装解除であり、人を殺傷するために武器を使用することを禁止したもので、平和な世の中になったことを流布させる意味合いが強かったのではないかと言うのだ。また、施行にあたっては、民衆側が自主的に応じた側面があり、紛争解決のために武器を使用することを凍結することに同意し、その結果、平和な時代が徳川の治世まで引き継がれたのではないかという趣旨である。本当の意味で市民が強制的に武器を没収されたのは、敗戦後の占領軍によってであると言う。
 話は刀狩りから日本国憲法にまで至る。つまり、民衆側から自発的に武装解除することで平和な世の中を作ってきた日本人が、日本国憲法第9条を大切にするのは至極当然であるとして、現在の風潮に一石を投じている。
 非常に意欲的な本で、歴史に新解釈をもたらしながら、それを現代につなげる。歴史学の意味を確認させる名著である。ただし、第1章から第6章までデータが連綿と書きつづられ、少し退屈する(学者だけに「論文としての体裁」を意識したのだろう)。プロローグとエピローグが面白いので、後は拾い読みでも良いかも知れない。
★★★☆

by chikurinken | 2019-01-16 07:02 |

『日日是好日』(本)

日日是好日
森下典子著
新潮文庫

茶道の精神を垣間見る

b0189364_18253280.jpg エッセイストの森下典子が、自身の25年に渡る茶道修行の経験について書いたエッセイ。
 森下典子の文章を読んだ記憶はあまりないが、若い頃『週刊朝日』に軽薄(と僕は当時感じていたんだが)なエッセイを書いていたことは知っている。僕が学生のときに『典奴どすえ』という本が少しだけ話題になったのも記憶に残っている。その著者が、茶の世界に真摯に向き合いその精神を感じたという、その過程を描いたエッセイである。僕の著者に対するイメージが完全に覆されるような素材である。
 著者はこのエッセイを書いた時点で25年間茶の稽古を続けていたが、(本人によると)あまり真剣な生徒とは言えず、稽古に通うのが億劫になったり、何かの折には辞めようと思ったりということが多かったらしい。それでも稽古に通うと、帰りには心がすっきりして非常に得をした気分がする、それがために辞めずに続けていたという、そういう類の生徒であった。
 その彼女も、習い始めて13年目に、自分の才能のなさを知り辞めることを決断するんだが、たまたまそんな折、茶事(懐石料理から茶の点前までフルセットの茶会)に参加したことがきっかけになって、今まで不可解だった茶の作法の全体像が見えてきて、やがて茶道の姿形が見えてくるようになる。それと同時に、辞めるとか辞めないとかの逡巡が茶にとってまったく不要であることに気が付く。おそらく茶の精神を体得したということなんだろう。このあたりのエピソードが書かれているのが第10章である。
 それ以降の章(第11章から第15章)がおそらく本書の圧巻で、著者が感じ取った茶の世界、茶の精神を、素朴な筆致で読者に披露していく。茶の素人である僕のような読者が、茶の精神を垣間見ることができるような文章が続くのである。茶の世界は、端で見ていると何が面白くてあんな堅苦しい環境に身を置くのかという程度の認識しかないが、自然を感じ自然を愛でる、それに通じる感性と知性の遊びを楽しむというようなことがその精神なのではないかというのがこの後半部分を通じて見えてくる。ある意味で、茶の素人にあてた、茶道の奥深い世界の紹介みたいな本になっている。したがって、この本は茶の精神を覗き見たい茶の素人にとって格好の入門書ということになる。情景を感じさせるような自然描写の表現もよく出てきて、あわせて季節感もうまく表現されているが、さすがに茶に関係する専門的な事物については容易には想像できかねる(一部については巻頭に写真がある)。そのため映像で見てみたいと思わせる部分が多く、そのあたりが残念なポイントであるが、何でも少し前に映画化されたらしい。映像で見れば確かにもう少し茶の世界に浸れるような気もするが、このエッセイを劇映画にして成立するのかは未知数である。それはともかく、本書が茶の奥深さを感じさせる書(特に後半部)であったのは確かである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『精進料理大全(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『利休(映画)』
竹林軒出張所『豪姫(映画)』

by chikurinken | 2019-01-15 07:24 |

『河童の手のうち幕の内』(本)

河童の手のうち幕の内
妹尾河童著
新潮文庫

つまみ食いが適した読みもの

b0189364_15081034.jpg 舞台美術家、妹尾河童のエッセイ集。著者の妹尾河童は、80年代に出した本、『河童が覗いたヨーロッパ』で一般社会に名前が広まった(と僕は記憶している)。この本、ヨーロッパの紀行エッセイなんだが、宿泊したホテルの部屋の様子を天井からの俯瞰図で描いていたりして、かなりユニークな本であった。ユニークと言えばこの人の旅のスタイルがまたユニークで、外国語はほとんど喋れないにもかかわらず現地の人とそれなりにコミュニケーションがとれるらしく、そのあたり、当時この本で妹尾河童に接した学生時代の僕も、感じるところが非常に多かった。その後、同様の紀行エッセイが立て続けに出されたが、それだけでなく90年代に自伝的小説である『少年H』が大ヒットしたために一躍著者の名前が知られるようになったのである。
 その著者が紀行エッセイを立て続けに出していた時分に、あちこちで書いたエッセイをテーマごとにまとめた、幕の内弁当のような本を出した。それがこの本である。未確認だが、中には書き下ろしのエッセイもあるようだ。僕は発売時にこの本を買って読んでいるんだが、今回『君は海を見たか』で妹尾河童という名前を見て思い出し、もう一度読んでみようと思い立ったのだった。ただ前に買った本は行方不明(おそらく処分したんだろう)だったため、わざわざ古書を買った。ちなみにこの本、現在すでに絶版状態である。
 著者らしい旅のエッセイも多く、例によってユニークな視点、行動が目を引く。だが僕がこの本で一番印象に残っていたのが、オペラ歌手、藤原義江についてのエッセイで、今回もこれに一番強い印象を受けた。そもそも「妹尾河童」という名前を最初に公式に発表した人も藤原義江ならば、舞台美術家として最初に採用したのも藤原義江である。したがって著者にとって非常なる恩人である。だが著者は結構、(このエッセイによると)失礼なことやエラそうなことを平気でこの人に対して口走っている。しかもそのことをこの藤原義江氏の方も楽しんでいるようなフシがあり、そういう点でもこの人、なかなかの人物であるように見受けられる。著者自身もそう考えているのが明らかで、それが文章の端々に出ていて、この2人の素敵な関係性が読むこちら側にも伝わってくる。
 その他には著者が蝋人形になったいきさつと蝋人形の製作過程の密着や、俯瞰図の描き方などが、本書の目玉と言えるだろうか。いずれにしてもいろいろな断片を寄せ集めたという感じのエッセイ集で、本当に幕の内弁当風。そこら辺は著者も意識しているようで、タイトルにきっちりそれが反映している。そのため中身については、がっちり取り組んで読むというよりつまみ食いみたいな読み方が適していると思える。幕の内弁当というよりもデザート、あるいは駄菓子に近い感じではある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『少年H(映画)』
竹林軒出張所『君は海を見たか (1)〜(11)(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-01-14 07:07 |