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竹林軒出張所

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『フランス人ママ記者、東京で子育てする』(本)

フランス人ママ記者、東京で子育てする
西村・プぺ・カリン著、石田みゆ訳
大和書房

日仏出産子育て事情

b0189364_17220244.jpg じゃんぽ〜る西のマンガ、『モンプチ 嫁はフランス人』に出てくる「嫁」は、この本の著者、西村・プぺ・カリン。ということでこの本では、妻の側から見た西(西村)家の風景が描かれる。
 著者は、旅行で訪れた東京を気に入り、その後東京に住むことを決意。長期休暇を取って東京を再び訪れ、携帯電話をテーマにしたルポを書いているうちに、それが売れるようになる。それを機に、それまでのパリでの仕事を辞めて東京に移り住み、フリージャーナリストに転身する。やがてAFP(フランスの通信社)に採用されて現在に至る。さすがフランス人という行動力で、まずそのあたりに感心する。その後、日本でじゃんぽ〜る西氏と知り合って結婚し、その後40歳で出産。そしてそのときの経験を中心にまとめたエッセイがこの本である。
 内容の大半は、日本で経験した出産と育児に関するもので、多くはフランスとの比較論になる。著者によると日本、フランスのどちらのシステムにも一長一短あるが(日本は出産に金はかかるが親切、フランスはすべて無料で著者が希望した無痛分娩についても比較的容易だがサービスが悪いなど)、著者は日本を選択。子育てについても一長一短ではあるが、こちらも今後日本に住み続ける可能性が高いことから日本を選択した。ただ一方で、日本もフランスの制度の良いところを取り入れてくれれば、より一層快適になるのにと思っているようだ。お説ごもっともである。
 意外だったのは、ベビーカー論争(少し前に取り沙汰された、電車内でのベビーカーの使用に関する議論)やマタニティハラスメントなども、僕は日本独特かと思っていたんだが、フランスにも同じような問題が存在するという話である。もちろん、フランスは自由の国であるため、お互いが意見をぶつけ合って主張し合う方向に進むらしいんで、経過は多少違ってくるが、それでも日本ほどひどくはないにしても同じような問題はあるらしい。
 比較文化論がこういった本の目玉になるわけだが、後半に描かれるフランスと日本の子育て事情の違いは、本来本書の目玉の部分なんだが、個人的には少々退屈した。日本の新米両親(つまり小さい子を持つ親、特に母親)もフランス人みたいにもっと育児に手を抜いて良いんじゃないかという著者の提言については大いに賛成するところだが、現在の僕にとって小さい子どもの育児はあまり大きな関心事ではないため、前半ほどは楽しめなかったというところだろうか(だが小さい子どもを持つ親であれば、大いに参考になることは容易に想像される)。
 やはり僕にとって一番面白かったのは、じゃんぽ〜る西が描く世界を裏側の視点(描かれる対象からの視点)から見たかのような二重映しの世界である。そういうのを過剰に期待していたことが、後半少し飽きた理由かも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『モンプチ 嫁はフランス人 (1)、(2)(本)』
竹林軒出張所『生まれてバンザイ(本)』
竹林軒出張所『ママたちが非常事態!?(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-08 07:21 |

『モンプチ 嫁はフランス人』(1)、(2)(本)

モンプチ 嫁はフランス人
モンプチ 嫁はフランス人2
じゃんぽ〜る西著
祥伝社

子どもに対するユニークな視点がヨイ

b0189364_18420125.jpg フランス人キャリア・ウーマンと結婚したアラフォーのマンガ家のコミック・エッセイ。
 このマンガ家、「じゃんぽ〜る西」というふざけたペンネームから推測できるように、若い頃、マンガのネタ探しということでフランスに渡った経験を持つ。ただし渡仏は実質1年程度で、スーパーのバイトしかやっていない(本人談)ということで、フランス語に堪能というわけではないらしい。だが縁あって、日本でフランス人女性と知り合い、結婚。友人たちや親は著者のことを「結婚できない」と思っていたため、フランス人と結婚したことに一様に驚かれたというエピソードも本書に描かれている。
 マンガについては、やはりプロのマンガ家が描いたもので、絵は多少素人っぽさを漂わせてはいるが、非常に面白いしうまいと感じる。絵についても一見拙そうに見えるが、しかし素人のコミック・エッセイとは異なる質の高さが随所に見受けられる。そのあたりはやはりプロの表現力ということになるのか。
 このマンガ、シリーズ化していて、現在シリーズ3まで出ている。結婚し、やがて子どもが生まれ、その子どもがだんだん成長していくという家族の物語だが、特に幼い子どもに対する著者の視点が鋭くて面白く、石坂啓の『赤ちゃんが来た』『コドモ界の人』のような「子どもに対する新発見」ネタが実に楽しい。b0189364_18420652.jpg本来はフランス人と結婚した日本人男の視点による異文化論が中心になるべきところなんだろうが、それよりむしろ子どもという異次元の存在に対する興味が先行しているようで、異文化ネタより異次元(子ども)ネタの方が充実している。もちろん子育てに対する日仏の考え方の違いのエピソードなどもユニークで面白いが、それでもやはり子どもが中心に来ているのは、著者が主夫業もやっているためだろうか。とにかく子どもに対する視点が斬新。著者の少し醒めたような、あるいは芸術家的と言っても良いのかも知れないが、そういうややシニカルなものの見方も楽しい。
 今回、シリーズ1とシリーズ2を図書館で借りて読んでみたが、子どもがもう少し大きくなったエピソード(つまりシリーズ3)もぜひ読んでみたいと思わせるような優れた作品であった。現在、シリーズ3も図書館で予約しているところである。なお、この著者、他にもパリ滞在記みたいなマンガが数巻出ている。また奥方のフランス人女性も、日本での育児に関するエッセイを発表している。こちらは現在読んでいるところ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『フランス人ママ記者、東京で子育てする(本)』
竹林軒出張所『中国嫁日記(本)』
竹林軒出張所『生まれてバンザイ(本)』
竹林軒出張所『たんぽぽの日々(本)』
竹林軒出張所『ちいさな言葉(本)』
竹林軒出張所『ママたちが非常事態!?(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-07 07:41 |

『アフリカ少年が日本で育った結果』(本)

アフリカ少年が日本で育った結果
星野ルネ著
毎日新聞出版

アフリカ人が描いた関西ノリのマンガ

b0189364_16173739.jpg タイトル通り、カメルーン生まれ、関西育ちの著者が描いたエッセイ・マンガ。元々はSNSで公開していたものらしいが、どういういきさつかわからないが本になった。概ね1ページで完結する話が集められて、全体で126ページ。50ページほどがフルカラーであとはモノクロという構成である。
 朝日新聞の天声人語で紹介されていたことから興味を持って、図書館で借りようとしたが在庫1冊のところすでに予約者が50人いた(こちらの手元に届くまで単純計算で2年以上かかる)ため断念して購入した。ただ内容は非常に充実しており、マンガとしてもグレードが高いため、買うだけの価値はあると思う。
 子ども時代の経験や異文化交流などが題材になっていて、しかも全体的に関西ノリで、ボケやツッコミが非常に良いテンポで展開され、笑える要素が散りばめられている。またマンガとしての表現力もあり十分魅せる。個人的には異文化交流の話が好きなんで、この手の本は割合良く接している方だが、本書は目新しい事がらが多く、異文化交流本としてもユニークな存在になっている。
 僕が一番好きなエピソードは、著者が小学校の運動会の徒競走に出たときに(黒人=アスリートというイメージのせいで)周りの(知らない人たちの)期待が異様に高いのが膚でわかるが、実際に走ったところ3着になってしまい、周囲の人々の落胆が伝わってきたという話。在日ブラジル人でサッカーができない人の話も以前聞いたことがあるが、あれと同じようなパターンであり、「人は見た目が9割」というのもあながち外れていないと感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『中国嫁日記(本)』
竹林軒出張所『戦場から女優へ(本)』
竹林軒出張所『アフガニスタンの少女、日本に生きる(本)』
竹林軒出張所『「ニッポン社会」入門(本)』
竹林軒出張所『日本語ぽこりぽこり(本)』

by chikurinken | 2018-12-06 07:17 |

『カルト宗教信じてました。』(本)

カルト宗教信じてました。
「エホバの証人2世」の私が25年間の信仰を捨てた理由

たもさん著
彩図社

「エホバ」の内実が白日の下にさらされる

b0189364_17340234.jpg このマンガも、『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』同様、「エホバの証人」を脱会した元信者の体験談。こちらの方が後発で、どういういきさつで出版されることになったのかわからないが、しかし内容は充実している。「エホバ」の内情が非常に事細かく描かれているため、あの本を読んだ後でも、得るところはあり、読む価値も十分ある。
 著者が小学生の頃、著者の母親が入信し、それに伴われて著者も入信させられた。その後は、教義については半信半疑ながらも活動を続ける。そのために学校での活動も制限され、友人もできず、多くの時間を「エホバ」の活動に費やすという生活を送る。その後(「エホバ」信者の)恋人ができるが、周囲から付き合いを辞めさせられる(「エホバ」は男女交際に厳しい)。それでも数年後にその人と結婚するが、結婚しても周囲の「エホバ」信者が何かと干渉し、息苦しいことこの上ない。やがて子どもができて、会の活動はやや消極的になっていく。消極的ながらも「エホバ」の活動を続けていた著者を大きく変えたのが、子どもの難病である。難病の治療に輸血が必要ということになるが、「エホバ」では輸血が禁止されているため、二者択一を迫られることになる。そして、著者によると、そこから「エホバ」に対する疑念が始まる(結局は他の会員には秘密にしたまま輸血の同意書にサインする)。その後、アメリカの元信者による「エホバ」告発の映像に偶然接し、「エホバ」の実態を知るようになって、「エホバ」の真の姿を知った結果、ついに夫と共に脱会することになる。その後も、周囲の信者(母親を含む)からいろいろな圧力を受けるが、本当の自由を獲得する……という話である。
 マンガは非常に質が高く、表現はプロレベルであり、処女作とは思えないほどである。このあたりは『よく宗教勧誘に来る人の……』と同様で、そこらのエッセイ・マンガとは一線を画す。途中「エホバ」の集会や活動について詳細に描かれた部分が続くが、これを読み続けるのが非常に苦痛で、とは言ってもこれはマンガの質が低いからというわけではなく、その内容が過酷であるせいである。平気で人の領域にズケズケ入ってきて、彼らの解く「真理」を押し付ける。何か好きなことをしようとしたら、それをやめるよう圧力をかけてくる。戦時中の隣組とかクラス内でのイジメとか、そういうものを思わせる極端な全体主義で、こういうものに接していると(たとえマンガを通じてであっても)はなはだ気分が悪くなるわけだ。しかも会員の行動が「エホバ」に対する反逆行為と見なされると「排斥」され仲間たちから無視されるようになると来ている。その同調圧力の強さは、(同調圧力の強い)この日本社会でも群を抜いたもので、息苦しいったらない。読んでいるだけでそのあたりが伝わってきた……ということは、それはこの著者の表現力に負うところが大きいということなんだろう。著者たちを含む当事者がどれだけ息苦しかったかが、この作品から忍ばれる。
 また、信者が「エホバ」の活動のために生活を著しく犠牲にしているという状況も紹介されており、それもかなり新鮮であった。つまり平日から活動を強いられるせいで、多くの信者が仕事にちゃんと就くことができないというのだ。したがって年金などを受けられる立場にないことから年を取ったら必然的に国の世話になる(「エホバ」は面倒見てくれない)。国などの外の世界を「サタン」と排斥していた人々がその世話にならなければ生きていけなくなるということで、マンガの中で語られる「皮肉だよな 今までさんざん滅びると触れ回っていたサタンの世からやしなってもらうんだもんな……」という言葉が響いてくる。こういう現状を教えられると「組織に騙されて収奪されるだけ収奪された人々のなれの果て」というイメージがにわかに湧いてくる。恐ろしい話である。
 いずれにしても著者は脱会して普通の生活に戻ったようで、最後は非常に前向きな形で終わる。「エホバ」のような現実否定の後ろ向きな姿勢ではなく、現実を肯定することから始めて、人生を見つめていくことが重要であるというメッセージが直に伝わってきて、煩わしい世界から抜け出せたすがすがしさが(読者にも)心地良く感じる。表紙はあまり良いとは言えないが、非常にすばらしい表現力を持った著者による、佳作のルポルタージュ・マンガである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話(本)』
竹林軒出張所『カルトの思い出(本)』
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』
竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』

by chikurinken | 2018-12-05 07:33 |

『キレる私をやめたい』(本)

キレる私をやめたい
〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜

田房永子著
竹書房

マンガとしてはアレだが
内容は結構深い


b0189364_16425722.jpg 表紙を見るとある程度推測できるが、これがプロの画力かと思うような拙い絵のマンガである。エッセイ・マンガだからある程度は目をつぶりたいところだが、しかしこれは今まで僕が読んだ中でも最悪の部類ではなかろうか。こういう読者を軽く見ている(と感じられる)ようなマンガは、基本的にここであまり紹介しないんだが、このマンガは内容(作画以外の部分)に目新しさがあるんで、取り上げることにした。
 先ほども言ったようにエッセイ・マンガなんで、自らの身辺を描くというアプローチである。タイトルにあるように、著者はそれまで突然キレて夫をグーで殴るようなヒステリー女性で、しかもそういった自分に嫌悪感を抱いていたんだが、子どもが生まれ、子どもに手をあげそうになった(実際には少々小突いたようだが)ことからあらためて猛省し、キレてしまうことをなんとか止めたいということで、いろいろ方策を探し始めるのである。最終的にゲシュタルト療法に落ち着くんだが、このセラピーに行き着く前にも箱庭セラピーを試したり心療内科などに通ってみたりしたがしっくり来なかった。著者にとっては、ゲシュタルト療法が唯一最高の解決策になったのだった。
 ゲシュタルト療法というのは、あまり一般には聴き慣れないが、このマンガから察すると、ロールプレイを交えた一種の認知行動療法のような印象を受ける。どの程度効果があるかについては僕は知らないが、少なくともこの著者については大いに効果を上げたようで、自分がキレる原因、キレるプロセスなどが自分なりによくわかり、腑に落ちたようである。(著者が発見した)そのキレるプロセスやその構造についてもマンガで図解しながら、自分の中の何が原因だったかを紹介しているが、読んでいるこちらはもう一つ腑に落ちない。何となくだが、子どもの頃から母親からいろいろと干渉され否定されてきたことが遠因で、そのために自己肯定感の低い人間になってしまったことが背景になっている……というのは推測できる。自己肯定感が低いため、外部からの刺激(夫の何気ない言葉など)をともすれば攻撃と受け取ってしまい、低い自己肯定意識を守るために攻撃(と自らが解釈したこと)に対して過剰に反応する、それが暴力という形になって表れる、とこういうことではないかと読者であるこちらは推察する。著者はゲシュタルト療法を通じてそういうことに気付いたわけで、それと同時に「休むこと」、「〈今ここにいる〉ことを意識すること」、「自分を褒めること」などを実践するようになって、キレない人間になることができたという、そういう体験談である。
 このように内容が非常に興味深く、いろいろと考えさせられる話である。絵は挿絵みたいなものであって、一般的なマンガとはアプローチが違うのだと考えれば、絵の拙さも気にならなくなる。自己肯定感の低い人は周りにもいるし、それぞれで大変なものを背負っているようだが、こういう人と接する際の参考にもなる。もしかして今まで、僕自身が彼らに対してひどいことを言って傷つけていた(そして彼らの自己肯定感の低下を助長していた)のかも知れないなどとも反省してしまう。いずれにしても、本人も周囲もそういった問題点について理解することが、問題解決、そしてさらには関係改善の突破口になる。それについては間違いなさそうだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『攻撃性』

by chikurinken | 2018-12-04 07:42 |

『督促OL業務日誌』(本)

督促OL業務日誌 ちょっとためになるお金の話
榎本まみ著
メディアファクトリー

内容は前著と重複

b0189364_16320162.jpg 『督促OL 修行日記』の作者が、あの本の後に出した本。内容はあちらとかなりかぶっており、目新しさはさほどない。タイトルが似ているため当初続編かと思っていたんだが、『督促OL 修行日記』が文藝春秋社、本書がメディアファクトリーから出ているんで、続編という位置付けではなさそうである。あるいは一種の便乗本なのかも知れない。
 構成は、いろいろなテーマごとに項目立てされており、それぞれの項目ごとに著者の4コマ・マンガ2ページ、そのテーマについてのエッセイ2ページ、N本(著者の分身)とK藤(N本の上司)との会話形式のQ&A(「教えて!K藤センパイ」)2ページでひとまとまりになっている。
 カード会社のコールセンターで督促OL業務を行っている著者が描く現場の様子、理想的なお金の借り方などが紹介され、初めて読む分には非常に新鮮だと思われるが、先ほども言ったように前著と内容が重複しているんで、あちらを読んでいればこちらは必要ないかなとも思う。確かに有用な情報はあるが、やや(情報が)垂れ流し気味で面白さは少なめである。
 カード会社の債務を返せない人たちの事例が紹介されるのも前著と同様。中には(返せない客の方がオペレーターに対して)恫喝や脅しをするようなケースもある(多い)ようだが、だからといってカード会社のオペレーターの方もヤミ金のように「ぶっ殺す」などと怒鳴ることはないわけで(現在は法律で禁止されている)、ただひたすらお願いする、あるいは一緒に解決策を考えるというのが現状らしい。だが、返せない客側からすると、督促が来たらあるいは恐怖しあるいは激怒するわけで、こういった人間に対峙しなければならないコールセンターのオペレーターは、それはもう大変な仕事になるのはお察しできる。だがこういった督促が不快だからといって客側が無視し続けたりすると、むしろそれは客の方のデメリットになるというのが著者の意見。そういった場合、そのカードが即使えなくなる上、信用情報が他の銀行やクレジット会社とも共有されるため、クレジットを含む借入れができなくなり、結局のところその客に不便がまわってくるというのである。そのため、督促電話にちゃんと出て、話し合いをした方が客(金を借りて返せない人)にとってははるかに良い結果になるというのが著者の主張である。場合によっては支払日が延期されたり(その分利子が付くが)ということも行われるらしい。借金はうまくしましょうというのが本書の言わんとするところで、借金で首が回らなくなった人にいつも接している現場の人間の意見として非常に貴重である。
 僕自身は極力借金をしたくない人間で、借金をうまく利用しようと言われてもあまり賛同できないが、その趣旨自体はよくわかる。基本的にローンやクレジットについても極力利用すべきではないと思ってはいるが、使うんであれば、著者が言うように賢く使わなければいけないのは火を見るより明らかである。やはり「ご利用は計画的に」というところに落ち着く。
★★★

参考:
竹林軒出張所『督促OL 修行日記(本)』

by chikurinken | 2018-12-03 07:31 |

『光と影を映す』(本)

光と影を映す
山田太一著
PHP研究所

本になるとこう変わる

b0189364_17314190.jpg NHK-BSでかつて放送された『100年インタビュー 脚本家 山田太一』を書籍化したもの。当初の危惧通り、やっぱり出た。内容についてはかつてこのブログでも紹介し、しかも内容についてもそのまま一部書き起こしたため、個人的にはあまり目新しさはないが、どういう風にまとめられているか興味があったため、今回読んでみた。
 元の番組、つまり『100年インタビュー』が非常によくできており、内容も充実していて面白かったため、この本の内容も推して知るべしで、内容的には非常に興味深い。あの番組を見られなかったが見たかったという人にとっては格好の素材と言える。
 今回は、語られた内容がどのように編集されているかというのが僕にとっての一番の関心事であったため、そういう視点で本書に当たったわけだが、僕が前回書き起こした部分と比較すると、出版用の録音の書き起こしというのがこういう風に行われるのかというのが非常によくわかる。山田太一によって語られた話が、この人の魅力を損なわない程度に変更された上でわかりやすく書き起こされている。その結果、非常に読みやすい文章になっている。僕が書いたときは一言一句ほぼそのまま取り上げたため、多少の読みづらさはある。ただあの独特の遠慮がちな語り口が入っているという面白さもある。僕としては自分で書き起こしたものの方が面白いと思うが、本としてそのまま書くのが良いとはおそらく言えないだろう(山田太一自身も、この原稿であれば、かなり手を入れるんじゃないかと思う)。その点で、非常に良い按配でまとまっている本と言える。
 ブログに掲載したのは、この本の8ページから39ページくらいまで、第1章から第2章までに相当する。テレビで放送されたものより本書に収録されている内容の方が多いが、これは放送時にカットされた部分だと思う。放送されなかった(と思われる)内容は他にもあちこちにあって、そういう意味では、あの番組を見た人もこの本を読む価値はあるということだ。いずれにしても良くまとめられていて、インタビュー本としては上出来であると思う。ただし本自体については、字がかなり大きいため、内容は薄目という印象である(なんせ1時間半の放送を本にしたんだから)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年インタビュー ロナルド・ドーア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『夢追い漫画家60年 (100年インタビュー)(本)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-11-22 07:31 |

『英単語の語源図鑑』(本)

英単語の語源図鑑
清水建二著、すずきひろし著、本間昭文絵
かんき出版

語源から英単語を憶えようという本
絵が多いため記憶に残りやすい


b0189364_18055575.jpg 語源を利用して英単語を憶えようというアプローチの本で、入試参考書と考えた方が良いのかも知れない。
 『語源でふやそう英単語』『語源でわかった! 英単語記憶術』などの本と同じコンセプトだが、大きく違うのはイラストがふんだんに使われているという点である。したがってイメージが沸きやすい、つまり暗記しやすいということになる。イラストは丸に点々で顔みたいな単純なもので、面白味はあまりない。取り上げられている単語も少ないし、優しい単語だけでなくかなり難しい(英検一級レベルの)単語もそれなりに混ざっている。それを考えると大学受験のためにこの本に取り組んで全部憶えようとするのは無駄が多いような気もする。むしろ、大学受験とは関係なく英語の勉強をしたいという層が一番のターゲットになるのかも知れないが、そういう点で多少どっちつかずの中途半端さは残る。
 まあしかし、たとえ拙いにしてもイラストで印象付けようという試みはきわめて的を射ている。大量の単語をリストで並べられてもまず憶えることはできないだろうし。その上、索引も付いているなど、良い本を作ろうという工夫も見受けられる。そういう点で、語源学習入門としては格好の本になっているのではないかと思う。アマゾンのレビューによると(少なくとも第4刷までは)誤植が多いという話であったが、僕が買った第7刷では、誤植に気が付かなかったんで、随分改善されているのではないかと思う。そのあたりも出版に対する真摯さが窺われる。
 なお収録されている単語は約1000だが、そのうち3分の1は派生語として紹介されているだけなんで、実質的には5、600語というところかな。ただこういうコンセプトの本であればそれで十分なような気もする。語源辞典風の本が必要だというのであれば、『語源中心英単語辞典』みたいな本を常時手元に置いておくのも良いのではないかと思う(ただしこの本、必ずしも使いやすいわけではなく、調べたいが収録されていないという単語も目立つ。良い本だとは思うが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『語源でふやそう英単語(本)』
竹林軒出張所『語源でわかった! 英単語記憶術(本)』
竹林軒出張所『英語の語源の話(本)』
竹林軒出張所『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史(本)』
竹林軒出張所『ひらがなでよめばわかる日本語のふしぎ』(本)
竹林軒出張所『日本人のための日本語文法入門(本)』

by chikurinken | 2018-11-21 07:05 |

『雪』(本)


中谷宇吉郎著
岩波文庫

真摯な名著であるが荷が重かった

b0189364_18230599.jpg 中谷宇吉郎の『雪』といえば、名著として名高い書で、元々岩波新書旧赤版で発表されたものだが現在は岩波文庫に入っている。中谷の代表作と言っても良い著作で、雪にまつわるあれこれから自身の雪の研究に至るまでを一冊にまとめた好著である。本書の「雪の結晶は、天から送られた手紙である」という言葉はよく知られている。
 第一章「雪と人生」、第二章「「雪の結晶」雑話」、第三章「北海道における雪の研究の話」、第四章「雪を作る話」の4章構成で、第一章は雪害について書かれたエッセイで、雪の研究の必要性にまで話が至る。雪をテーマにした本の導入部分としては実に的を射た章である。第二章では、これまでの雪の結晶についての記録を紹介し(ベントレーや土井利位の『雪華図説』)、さまざまな種類の雪の結晶がどのようにできるかについて説明する。第三章は、中谷の雪の研究の具体的な紹介になる。序盤は研究をどのように行ったかという具体性のある話でなかなか楽しいんだが、後半になってくるとにわかに専門性が高くなる。雪の結晶を分類して、それがどのような気象条件でできあがるか紹介するというもので本書の圧巻と言って良い箇所である。そして最終章は、実際に雪の結晶を作ってみたという実験を紹介する。これも非常に画期的な実験だったんだろうが、専門性が非常に高いため、こういった分野に関心がなければあまり面白味は感じないんではないかと思う。内容はそれほど難しいことが書かれているわけではなく、しかも語り聞かせようというような優しい意図が文章にも感じられるんだが、いかんせんほとんど関係者向けの論文という印象で、僕はこの章を読むのにかなり難儀した。
 優れた著作であることはわかるし、著者の真摯さにも好感を持つのであるが、僕には(特に後半)少々荷が重い本だった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ドミトリーともきんす(本)』

by chikurinken | 2018-11-20 07:22 |

『ひとりじゃなかよ』(本)

ひとりじゃなかよ
西本喜美子著
飛鳥新社

88歳の自撮り写真はユニークだった

b0189364_17500019.jpg 著者は、熊本在住の現在88歳の女性。一般的には「おばあちゃん」と呼ぶのがふさわしい人である。この人、72歳から写真を始め、息子が主宰する写真教室に通うようになる(そのため息子のことを「先生」と呼んでいるらしい)。カメラ術が上達するにつれて、デジカメで撮った写真をコンピュータで処理したりすることを憶え、それからというもの、なかなかユーモラスな写真を撮るようになった。その後、個展を開き自身の(ユーモア溢れる)作品を発表したことから話題になり、マスコミでも紹介されるようになった。そしてその結果、ついに写真集まで発売されることになる。それがこの本である。
 本書で紹介される写真は、多くが自然を撮影したもので、それぞれの写真に著者自作の詩が添えられている。タイトルもその詩の中から取られたものである。自然の写真は美しくいものが多いが、やはり一番魅力的な写真は、終わりの方に少し掲載されている「セルフポートレート」である。自身が安来節の格好をしたり車にひかれる図だったり、あるいはゴミ袋に入れられて捨てられた図だったり(すべて自分で演出)、どれもなかなかユニークである。愉快な悪ノリばあちゃんという印象である(息子には叱られたらしい)。
 自然の写真と詩については割合ありきたりという印象だが、この悪ノリのセルフポートレートと散文(わずかしかないが)が面白い。むしろこちらの方をメインに持ってきてほしかったところである。特に不満はないが、本としては、そういう点で少々中途半端だという印象が残った。
★★★

参考:
竹林軒出張所『おむすびの祈り 「森のイスキア」こころの歳時記(本)』
竹林軒出張所『それ行け!! 珍バイク(本)』
竹林軒出張所『森の探偵(本)』

by chikurinken | 2018-11-08 07:49 |