ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

タグ:本 ( 722 ) タグの人気記事

『学校って何だろう』(本)

学校って何だろう 教育の社会学入門
苅谷剛彦著
ちくま文庫

学校と教育にまつわる常識を疑う

b0189364_18200681.jpg 元々は『毎日中学生新聞』に連載していた文章をまとめて、編集・加筆した本らしい。学校と教育にまつわるさまざまな現象について、そのまま受け入れるのではなく、まず疑問を持ち、自分なりに考察しようと提案する本である。元々の連載が『中学生新聞』であるため、中学生に語りかけるような口調になっているが、決して(生徒に教えてやるというような)えらそうな言説ではなく、一緒に考えてみようよというような優しいアプローチである。
 全8章構成で、俎上に上がるのが、勉強自体(どうして勉強するのか?という疑問)、試験(試験とは何か?という問)、校則(これについては30年ぐらい前に世間でもかなり話題になった)、教科書(教科書の役割など)、隠れたカリキュラム、先生の世界、生徒の世界、学校と社会のつながりである。こういうのは、僕も中高生の時にかなり悩んだというか考えたクチで、当時こういった本があれば、随分役に立っただろうと思わせるような、非常に興味深い考察である。特に「隠れたカリキュラム」について(学校のカリキュラムという形では存在していないが、学校生活を送る上で従うことが強いられる習慣。たとえば授業中黙って座っているなど)は、かなり斬新な指摘で、僕自身については、今までこういうものの存在を意識したことすらなかったため、目からウロコであった。実際ネット上でも、このあたりの言説をそのまま紹介しているようなサイトがあり(僕はそのサイト経由でこの本に到達したわけだが)、やはりこの着目点が多くの人にとって侮れないということが容易に想像できる。
 記述は平易で、多少くどさを感じるくらいだが(中高生にはちょうど良いかも知れない)、しかし内容は濃いし、「常識」とされているものに疑問を持ってみるという大切な方法論を若者に教えるあたり、評価に値する。若い世代に勧めたくなるような良い本である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『こんばんは(映画)』
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『ドキュメント 高校中退(本)』
竹林軒出張所『不登校は1日3分の働きかけで99%解決する(本)』

by chikurinken | 2019-04-07 07:19 |

『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(本)

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち
田中圭一著
角川書店

欝病についてうまいこと整理したもんだ

b0189364_19082151.jpg 自身でも欝病を経験したというマンガ家の田中圭一が、自身の体験の他、さまざまな欝病経験者16人の経験を聴き取りして、そのエピソードをマンガとして書き起こした本。
 欝病経験者として登場するヒトの中には、大槻ケンヂ、代々木忠、内田樹、一色伸幸という有名人もいて、こういう人たちが欝病だったということについて僕はほとんど知らなかったため結構新鮮だった。同時に、誰でも欝病になり得るということが再確認させられる。
 本書の最後(第20話)の「総まとめ」という項で欝病の原因と対策などについて著者なりの見解を述べていて、この項が特に有意義である。要は、(人が本来必要としている)自己肯定感が阻害されることが欝病の原因で、自己肯定感を得られる活動をすることこそ対策として有効というもので、過去に同様の経験を持つ僕もこの点、納得である。
 マンガとしての魅力は欠ける(マンガにする必然性が感じられないのだ)が、実のところ非常に意義深い考察が含まれており、この本があるいは欝病治療の画期になるかも知れないとさえ感じる。ユニークな存在の本と言える。
★★★

参考:
竹林軒出張所『セクシィ古文(本)』
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『うつ病九段(本)』
竹林軒出張所『入院しちゃった うつウーマン(本)』
竹林軒出張所『不登校は1日3分の働きかけで99%解決する(本)』

by chikurinken | 2019-04-05 07:07 |

『日本語の起源』(本)

日本語の起源
大野晋著
岩波新書

興味深い日本語起源論
反対意見がどのようなものか興味がある


b0189364_17004905.jpg 国語学者の大野晋には、僕自身若い頃かなり影響を受けていて、国語学の面白さに惹かれたものだが、ただ日本語の源流が南インドのタミル語とする説(クレオールタミル語説というらしい、ウィキペディアによると)は、面白いが少々眉唾かと思っていた。この本はまさにその「クレオールタミル語説」を主張する本だが、だがしかしその考察は、決して侮れないと感じた。
 当然、国語学者らしいアプローチがこの説の本流であり、日本語とタミル語に共通した単語が非常に多い(著者によると500語、比較的似ているとされる日本語と朝鮮語でさえ200語という)ところが始まりである。しかも音韻の違いを考慮すると、似ているというより同じと言えるような単語もかなりある。そのあたりは巻末で詳細にリストされている。このあたりは、おそらく大野晋の自信の表れではないかと思う。
 その後、弥生文明をもたらしたのがタミル人であるという想定の下、弥生文化とタミル文化の共通点を双方の遺跡から指摘する。支石墓や甕棺墓などの墓制の共通点の他(これは弥生時代の特徴とされている墓制である)、特異な形の土器の共通性、金属器や土器に付けられているグラフィティ(象徴的なピクトグラム風の絵)の共通性なども指摘しており、弥生文化とタミル文化にかなりの類似性が見られることを指摘する。このあたりはインドの学者たちとの共同研究もある。さらに「マツル」、「アハレ」、「スキ」などの精神世界の共通性に言語からのアプローチで迫るという具合に、国語学、言語学だけでなく、考古学から文化人類学にまで広範に展開される推理は説得力がある。これだけの証拠を出されたらあまり論難できないんではないかと感じるほどだが、それでも強烈な批判はあるらしい。新説に反対するのは、保守的な学術界には良くある話ではあるが、そういうレベルでの批判なのか、それともこの節に捏造したような部分があるいはあるのか、そのあたりは僕には検証しようがない。最大の批判は、タミル地方と日本列島の間に、連続性がない(つまり人の移動があったとは考えられない)ということらしいが、これはしかし、時代と共に移動が可能であったことが証明される可能性もあるため、批判としては説得力がない。正直なところ、どのような反対意見があるか興味があるところだが、いずれにしても、このタミル語起源説、検討に値する斬新かつ有力な説ではないかと感じる。少なくとも日本語がウラル・アルタイ語系だとする程度の反論では、反論にならないんじゃないかと感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本語の教室(本)』
竹林軒出張所『日本語の文法を考える(本)』
竹林軒出張所『古典文法質問箱(本)』
竹林軒出張所『ズニ族の謎(本)』

by chikurinken | 2019-03-24 07:00 |

『世間胸算用』(本)

世間胸算用
井原西鶴著、前田金五郎訳
角川ソフィア文庫

日本の古典文学出版の歴史が垣間見られる

b0189364_18041917.jpg 元禄期、井原西鶴が書いた『世間胸算用』。恐ろしくけちな人が出てきたり、借金取りをどうやってやり過ごすか算段している人々が出てきたりして、落語の『かけとり』を彷彿させる。コミカルなものが多いが、中にはコミカルと言うより少々度が過ぎていてグロテスクなものもあり、読んで面白いというより呆れてしまうようなネタも多い。
 『世間胸算用』は元々全五巻で、各巻四章の合計二十章構成である。この文庫版にはそのすべてが収録されている。構成は、最初に原文が訳注付きで全文掲載され、それに続いて補注(これが80ページ近くある)、さらに現代語訳の部と続く。『胸算用』は、江戸当時の習慣(今存在しないものも多い)や特有の言い回し、流行り言葉などが満載なので、そういうものを知らないと何を言っているのかさえわからない。そのため、古文が苦にならないとしても、よほど江戸文化に精通していない限り、普通の現代人が読むには相当難しさを感じる。それなりに注が必要になってくるわけだが、それでも80ページもの補注(しかも7ポイントぐらいの小さい文字のもの)が必要かは疑問である。そもそもこの補注自体、専門家向けみたいな記述で、相当読みにくい。しかも本文、補注、現代語訳がそれぞれ別の部分に分かれているため、始終ページを行ったり来たりしなければならないのも本の構成としては疑問符が付く。補注、現代語訳、さらには解説も前田金五郎という近世文学の専門家が書いているが、文章自体が固くて読みづらいし、解説も非常につまらない。
 この本自体、かなり前に出された本らしく(初版発行が1972年になっている)、専門家以外であればあまり食指が動かされないような体裁になっている。僕も1980年代、この角川文庫版の同シリーズ(当時は「角川ソフィア文庫」という名前は付いておらず「黄帯」というカテゴリーだった)の古典作品を買ったことがあるが、結局パラパラと見た程度で読み終わるには至らならなかった。「角川ソフィア文庫」は、比較的最近(1995年)刊行されたもので、読みやすい体裁になっているものが多く好感を持っていたが、この本については、「角川ソフィア文庫」という表記がカバーに付いているにもかかわらず、まったく良くない。発行年代から察するに、おそらく角川ソフィア文庫創設の際に、カバーだけ替えてこのシリーズに入れられたものではないかと考えられる。そのためか現在絶版状態で基本的には販売されていないので、文句を言う筋合いではないかも知れないし、角川ソフィア文庫版の『日本永代蔵』(おそらく新版)が10年ほど前に出ていることから考えると、あるいは出版者側としても『胸算用』の新版を出そうとしているかも知れない。ただ、この類の古典作品本は、よほど工夫しないと、大変読みづらいままで、それが余計読者を遠ざける結果になる。かつての角川文庫黄帯はまさにそれを体現していた……そういうことが本書から窺われるわけだ。それを考えると、『ビギナーズ・クラシックス』シリーズを含め、現在の角川ソフィア文庫の取り組みは称賛に値すると思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『お伽草紙・新釈諸国噺(本)』
竹林軒出張所『宇治拾遺物語(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 和泉式部日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 太平記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 小林一茶(本)』

by chikurinken | 2019-03-22 07:04 |

『ビギナーズ・クラシックス 蜻蛉日記』(本)

ビギナーズ・クラシックス 蜻蛉日記
藤原道綱母著、坂口由美子編
角川ソフィア文庫

作りが非常に丁寧な本
一方で道綱母にはあまり共感できない


b0189364_14590868.jpg 『蜻蛉日記』の『ビギナーズ・クラシックス』バージョンである。例によって、ダイジェスト的に原文の一部を取り上げ、その現代語訳、解説が並ぶという構成で、これが各段単位で並んでいる。
 『蜻蛉日記』は上中下の三巻で編成されているが、上巻が藤原隆家との結婚生活への不満、中巻が隆家との問題から逃れるための隠遁生活、下巻が身辺雑記と事実上の離婚というような内容である。本書では、やはりと言うべきか、上巻から多く取り上げられており(67段中約30段)、中巻(全部で約70段)からは約20段、下巻については少なく、70段のうちわずか10段程度しか取り上げられていない。ただし『蜻蛉日記』の特色はよく反映されており、しかも解説も詳細であるため、ダイジェスト版としては非の打ち所がないと言える。
 『蜻蛉日記』自体については、ドナルド・キーンが『百代の過客』で語っているように、主人公の利己的な感覚に共感できない。(夫との間がうまく行かないため)死んでしまいたいとか出家したいとかいう心情吐露があちこちに出てきて、あまりに何度も出てくるんでうんざりしてしまう。挙げ句に子どもの道綱にまでこういうことを言って泣かせたりして、閉口してしまう。ただ、これもドナルド・キーンが言っているように、非常に現代的な感性をそこに感じるわけで、文学作品としては極上と言えるのかも知れない。とは言うものの、原文は主語の省略が多い上、話題もかなり端折られているため、読んでいてもさっぱり意味がわからない箇所が非常に多い(本書では、そういう箇所も割合適切に訳されている……ただ現代語訳を読んでもよくわからない箇所がある)。日記だからそれも仕方がないのかも知れないが、『源氏物語』に匹敵する難解さと言って良い。そういう点を考えると、原文を読む前に、解説が充実したこういった本を先に読んでおくのが良いとも感じる。
 なお巻末の「解説」では、『蜻蛉日記』の背景や特徴が記述されている他、堀辰雄の『かげろふの日記』と『ぼととぎす』(『蜻蛉日記』に材を取った小説)や室生犀星の『かげろふの日記遺文』(同じく『蜻蛉日記』に材を取った小説)まで紹介されていて、興味が広がるだけでなく、非常に勉強にもなる。この『ビギナーズ・クラシックス 蜻蛉日記』自体、作りが非常に丁寧な印象を受け、良い本であると感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 和泉式部日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 太平記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 小林一茶(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 史記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 十八史略(本)』

by chikurinken | 2019-03-20 07:58 |

『生きづらいと思ったら親子で発達障害でした』他(本)

生きづらいと思ったら親子で発達障害でした
生きづらいと思ったら親子で発達障害でした 入園編
モンズースー著
KADOKAWA

発達障害者の育児の大変さを
ちょっとだけ疑似体験


b0189364_18252860.jpg 長男が生まれたが、成長が遅い上異様にグズったりして、どうもよその子どもと違うんではないかと感じ診断を受けたところ、発達障害と診断された。ただし子どもの様子に自分の小さい頃と重なる部分があり、自分も発達障害だということがわかったというストーリーのエッセイ・マンガである。
 ただ発達障害といってもグレーゾーンに入るということで、こういう子どもを「障害」としてしまうことには違和感を感じるが、しかしこういう子どもを持つ親にとっては子育てが異常に大変になるのはわかる。そのためたとえ「障害」扱いになっても、そのために福祉関係のサービスを受けられるというのであれば、それを利用するに越したことはない。実際、この著者は、方々駆け回って、この類の障害児を受け入れる「つくし幼稚園」に子どもを入園させることができたわけだ。しかもそこからさらにいろいろな視界が開けてきて、こういう子ども達に対する支援を利用できることもわかってくる。こうして著者は、いろいろな人たちの支援を受けつつ、子育てを進めていくのである。
b0189364_18253351.jpg 途中、著者自身の(発達障害風の)経験も披露され、環境にうまく適用できなかった自身の子ども時代も回想される。また、本人がそれにどのように対処してきたかも紹介され、現代日本社会が、発達障害の傾向のある人にとってどれだけ生きづらい世の中であるかがよくわかるようになっている。この本は、社会的弱者の立場に立った人の視点で描かれているため、マイノリティの生きづらさがよく伝わってくるのである。この本によると、現在福祉が充実しつつある状況というのも窺え、それはそれで良い傾向だと思うが、究極的には、生きづらい人々も寛大に受け入れられるような社会にすべきなんではないかなどとも感じる。
 マンガ自体は説明書きが多く読むのに時間がかかるが、絵の動きなどのマンガ的な要素を求めるのではなく、絵が挿絵の延長ぐらいの認識で読み進めれば特に問題はない。あるいは「自治体の福祉担当の部署で配付されているパンフレットに出てきそうなマンガ」というような見方もできるが、しかし説得力があるし、弱い立場を疑似体験させてくれるという点で、よくできた作品と言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『最貧困女子(本)』
竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『カルト宗教信じてました。(本)』
竹林軒出張所『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話(本)』
竹林軒出張所『ロスジェネ社員のいじめられ日記(本)』
竹林軒出張所『キレる私をやめたい(本)』
竹林軒出張所『入院しちゃった うつウーマン(本)』
竹林軒出張所『中国嫁日記(本)』
竹林軒出張所『モンプチ 嫁はフランス人 (1)、(2)(本)』

by chikurinken | 2019-02-27 07:25 |

『日本プラモデル六〇年史』(本)

日本プラモデル六〇年史
小林昇著
文春新書

懐かし系の本だが十分楽しめる

b0189364_18070431.jpg 戦後日本のプラスチックモデルの歴史について時系列で記述した本。
 『日本プラモデル興亡史』『田宮模型の仕事』と内容が似ていると思いながら読んでいたら、案の定、この著者、この2冊の編集を担当していた人らしい。内容はこの二著とかなり重複しているが、この二著がプラモデルの販売者と製作者という立場から書かれた本である一方で、この本が第三者的な視点で書かれた本であることを考えれば、この本にもそれなりに存在価値はあると思う。当然、この本に井田博氏も田宮俊作氏も登場する。
 この本に対する僕のスタンスは、基本的に「懐かし系」ということになる。したがって、読んでいて懐かしいと感じられればOKである。特にイマイのサンダーバード2号やタミヤのミリタリープラモのくだりは、子ども時代にかなりはまったグッズなんで懐かしさもひとしお。こういったプラモがどういったいきさつで登場したかも本書でしっかり触れられている。その後の時代のガンプラやミニ四駆なんてことになると、僕にはまったく縁がなく、懐かしさも皆無であるため、当時の風俗の歴史としてしか関心が湧かないが、それでも記述が簡潔で読みやすいため、十分楽しめたのだった。ただ全体的に内容は薄めかなとは思う。日本プラモ史の記述は正味150ページで、その後に田宮俊作氏のインタビューと年表が続く。それでなんとか200ページ……という、やや安易さを感じさせる新書ではある。
★★★

追記:
 アマゾンのレビューによると70年代以前の記事に事実誤認が多いらしい。まったく気が付かなかった(そもそも僕にそれほど知識があるわけでもないが)。どこら辺が誤りか指摘してほしいものだ。

参考:
竹林軒出張所『日本プラモデル興亡史(本)』
竹林軒出張所『田宮模型の仕事(本)』
竹林軒出張所『マルサン ― ブルマァクの仕事(本)』

by chikurinken | 2019-02-26 07:06 |

『日本人の質問』(本)

日本人の質問
ドナルド・キーン著
朝日文庫

朝日版ドナルド・キーン・エッセイ集

b0189364_16251352.jpg 日本文学者、ドナルド・キーンのエッセイ集。表題作「日本人の質問」、「日本人の投書」、「入社の弁」は朝日新聞の連載、または紙上で発表されたエッセイだと思うが、残りについては初出が書かれていないため不明である。なお上記の3作は「Ⅰ」に分類されており、都合「Ⅳ」まである。詳しくはわからないが、「Ⅱ」が日本文化や日本文学についての講演やエッセイ、「Ⅲ」が芸術関係のエッセイ、「Ⅳ」が仏教や宗教に関するエッセイのようである(ただし「Ⅳ」には山片蟠桃についてのエッセイもあり一概に宗教と言えるかどうか微妙である)。元々は朝日新聞社から出されたエッセイ集のようだが、初出の記録がないのはあまり感心しない。
 一番面白かったのは「Ⅱ」の講演録で、中でも「日本古典文学の特質」が非常に充実していた。内容は『日本文学史 近世篇〈一〉』と一部重複しているため、『日本文学史 近世篇〈一〉』の発表前後に行われた講演が出典ではないかと思われる。また同じく「Ⅱ」の「明治の日記」についても、『百代の過客〈続〉』のダイジェストのような内容で、おそらく『百代の過客〈続〉』の発売前後に朝日新聞に書かれたエッセイではないかと思う。
 後は「Ⅱ」の講演録「日米相互理解はどこまで進んでいるか」と「Ⅲ」の「谷崎源氏の思い出」が興味深い内容であった。後者については、谷崎源氏(谷崎潤一郎が翻訳した源氏物語)を読んでみたいと感じさせるような内容充実のエッセイである。
 多少寄せ集めの感があるが、それでもやはりドナルド・キーンの作らしく、目を引く叙述が多い。最初のエッセイの「日本人の質問」についても、一般的な日本人はこういうのが割合好きなんで、これだけを取ってみても(ドナルド・キーンに興味のない)普通の人は楽しめるかも知れない。少なくとも『日本語の美』よりは読み応えがあった。
★★★☆

追記:
 昨日(2019年2月24日)ドナルド・キーン氏が亡くなったという報道があった。享年96歳。随分お年だったし、まもなくお召しが来るのではと思っていたのでさほど驚きはないが、氏が非常に優れた研究者であったことに疑いの余地はない。
 僕は一昨年あたりからキーン氏の著書を読み続けているが、以前も書いたように「目からウロコ」の書が多い。現在も『日本文学史 近世篇〈二〉』を読んでいるところで、氏が亡くなっても、読むものに事欠くことはしばらくはないが、それにしても(著書からお見受けする限り)大変立派なお方であり、また超一流の日本文学研究者である。これは間違いない。謹んでご冥福をお祈りしたい。

参考:
竹林軒出張所『日本文学史 近世篇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『日本人の美意識(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
竹林軒出張所『日本語の美(本)』
竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-02-25 07:24 |

『私家本 椿説弓張月』(本)

私家本 椿説弓張月
平岩弓枝著
新潮文庫

『椿説弓張月』の雰囲気を味わえる

b0189364_15583180.jpg 曲亭馬琴の『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』を平岩弓枝がアレンジした小説。
 『椿説弓張月』は鎮西八郎為朝(源為朝)の大冒険譚で、九州、京都、伊豆大島、四国、琉球を舞台にした壮大なスペクタクル巨編である。源為朝は源為義の八男(源義朝の弟)で、保元の乱に際して朝敵になり結果的に伊豆大島に流されるが、伊豆を実質的に支配したため、国司の恨みを買って追討されたというのが史実である。『椿説弓張月』では、この実話を踏まえた上で、為朝が理性と正義の豪傑であり、行く先々で正義を貫くが、歴史に翻弄されてあちこちをさまよい歩き、各地域の悪人と対峙していくというようなストーリー展開になる。
 この『私家本』についても馬琴版『椿説弓張月』を大体において踏襲しているらしく、細かな違いはあるが、概ね『椿説弓張月』の雰囲気は味わえるようだ。僕は今回、先日読んだ『現代語訳 南総里見八犬伝』と同じような感覚でこの書に当たったわけだが、流行作家が書いたものだけに非常に読みやすかった。ストーリーは勧善懲悪かつ荒唐無稽で、必ずしも手放しで称賛できるものではないが、ハリウッド映画的な面白さはある。単純なドラマが好きな人には格好の読みものになるかも知れない。
 例によって登場人物も大量に現れ、わかりにくくなる箇所もあるが、『八犬伝』に比べれば登場人物の数ははるかに少ないこともあり、まだましな範囲である。正しい人、正しくない人がはっきりと分かれているため、そういう点でもわかりやすい。馬琴の作を読んだとは言えないが、読んだような気にはなる。源為朝のこともまったく知らなかったので教養にもなった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『寿の日(ドラマ)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (下)(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』

by chikurinken | 2019-02-23 07:58 |

『歎異抄 (現代語訳版)』(本)

歎異抄 (現代語訳版)
金山秋男訳
致知出版社 いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ

親鸞思想の斬新さが分かる

b0189364_20361658.jpg 浄土真宗の開祖、親鸞の弟子である唯円が、親鸞の悪人正機の思想を分かりやすくかみ砕いて紹介する書が『歎異抄』である(著者については異論もあるようだ)。この本で紹介されている悪人正機説は「善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」という文句が非常に有名で、要するに、自力に頼らず阿弥陀如来に完全に帰依すれば誰でも極楽往生を遂げられるという思想である。善悪という価値観自体人間が作った価値観であるため、それを超越した存在である阿弥陀如来にとっては一切関わりがない。阿弥陀如来の前で100%謙虚になって全幅の信頼を寄せさえすれば誰でも往生できるという考え方(だと思う)。現代人も自然の前で100%謙虚になれば、昨今のような環境破壊もないだろうが、そういうことすら考えさせられる本でもある。それにしても悪(や世俗)を否定しない考え方は斬新である。当時、浄土宗(および浄土真宗)の僧たちが迫害を受けたというのも頷ける気がする。
 各章ごとに現代語訳と原文、その後の解説が続くという構成である。現代文は割合平易な日本語ではあるが、内容自体が結構難しいし、非常に抹香臭いというか、宗教的な記述が多く(宗教書だから当然なんだが)、必ずしも読みやすくはない。たとえば「阿弥陀さまの本願に救われて念仏する身となって、やり遂げようという慈悲は、私たち凡人が、本願の力により人間の思いを超えた阿弥陀さまの大いなる慈悲の心で、思うように生きとし生けるものを救うというものです」(第四章)のような文章があるが、決して分かりやすいとは言えないと思う。ただそれでも最後まで読むと、言わんとすることは概ね分かってくる。また『歎異抄』がどのような意図で発表されたか、このタイトルの意味は何か、どういう構成になっているかなどについて丁寧な解説があるため、『歎異抄』入門として良い素材になっている。『歎異抄』を読んでみたい、内容に触れてみたい、悪人正機説がどういうものなのか知りたいなどという人々には適していると思う。
 なおこの『いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ 歎異抄』だが、前序、第一章から第十八章、後序、流罪記録まで一通り収録されている。おそらく原作のすべての内容が収録されているんじゃないかと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『石田梅岩「都鄙問答」(本)』
竹林軒出張所『風姿花伝 (現代語訳版)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)(本)』

by chikurinken | 2019-02-22 07:35 |