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竹林軒出張所

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『不信のとき』(映画)

不信のとき(1968年・大映)
監督:今井正
原作:有吉佐和子
脚本:井手俊郎
音楽:富田勲
出演:田宮二郎、若尾文子、加賀まり子、岸田今日子、岡田茉莉子、三島雅夫

スイスイも見た目ほど楽ではない

b0189364_21193808.jpg 割合普通のサラリーマンが、妻以外にも女を作り、しかも子どもまで産ませて、何となくうまくやっているんだが、予想通りゴチャゴチャになっていくというストーリー。うまくやってんだかうまくやられてんだかよくわからないという皮肉な展開になる。男たちがしたたかに生きていると思ったら、したたかなのは女の方だったという話で、女性(有吉佐和子)が書いた小説が原作であることを考えると、こういうストーリー展開も納得が行くというものである。
 主演は田宮二郎で、田宮二郎と言えばハードボイルド的な謎めいた存在の役柄が多いが、この作品では、普通の、とは言ってもかなり成功しているサラリーマンを演じており、しかもこの男、世間をスイスイと渡っているような要領の良さがある。そこに登場するのが女の鑑みたいなホステス、若尾文子で、若尾文子の方は例によって不思議な存在を好演している。他に、同じように世間をスイスイと渡っているような会社社長(三島雅夫)も「スイスイの師匠」みたいな存在として登場するが、こちらもコケティッシュな女(加賀まり子)に心を奪われ、「スイスイ」も端で見るほど楽ではないと思わせる。いろいろなことがシニカルに展開し、普通であれば、女性の厳しい目で描かれた愚かな男たちというふうにも映るわけだが、この映画では、登場する男たち(主人公のサラリーマンと会社社長)が、周りに振り回されながらも、どことなく愉しんでいる風情があって、それがこの作品の魅力に繋がっている。
 キャスト、特に女優陣が豪華だが、スタッフも豪華である。また大映らしい丁寧な作品作りにも好感が持てる。例によって文芸作品が原作というのも大映の良心が感じられて良い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『華岡青洲の妻(映画)』
竹林軒出張所『紀ノ川(映画)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』
竹林軒出張所『米(映画)』
竹林軒出張所『婉という女(映画)』
竹林軒出張所『にごりえ(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『女の小箱より「夫が見た」(映画)』

by chikurinken | 2019-04-19 07:19 | 映画

『女の小箱より「夫が見た」』(映画)

女の小箱より「夫が見た」(1964年・大映)
監督:増村保造
原作:黒岩重吾
脚本:高岩肇、野上竜雄
出演:若尾文子、川崎敬三、田宮二郎、岸田今日子、江波杏子、千波丈太郎、小沢栄太郎

いかにも黒岩重吾というストーリー

b0189364_19541550.jpg 変わったタイトルだが、黒岩重吾の『女の小箱』という短編集のうちの一編が「夫が見た」というタイトルで、それが原作であるためにこういうタイトルが付いているんじゃないかと想像する。もっとも原作については読んでいないので、短編集かどうかもわからないし、それにこのストーリー自体、原作から変えられている可能性もある。というのも、映画のストーリーが「夫が見た」というタイトルにふさわしくないためで、そのあたりは原作を読んでいないため詳しくはわからない。ただ映画のストーリー(原作と同じかどうかはわからないが)については割合よく練られていて、凝ったストーリーではある。
 自分の野心を遂げることをひたすら求める男たちと、愛されることをひたすら求める女たちが、絡み合いつつ、当然うまく噛み合いはしないのだが、それが噛み合い始めると関係が崩壊するというかなり逆説的なプロットである。株の買い占めによる企業の乗っ取りがモチーフになっていて、そのあたりも時代を考えるとかなり新しい素材だったのではないかと推測される。ストーリーはこのように意欲的で破綻もないが、終わりの方は少々つまらない収束の仕方をして(と僕は感じた)そのあたりが少しばかり残念なところ。
 演出はオーソドックスで破綻はなく、どのキャストもよく役に収まっている。若尾文子はラブシーンありセミヌードありで、大車輪の活躍である。またクールな田宮二郎も実に魅力的である。キャストは、この時代の他の増村作品と共通する俳優が多いが、どの映画でも非常に個性的な存在を演じているため、他の映画との共通性はあまり感じない。この頃の大映映画は文芸作品の原作が多く、こういった映画は、やはりストーリーがある程度しっかりしているせいか、今見てもあまり色褪せることはない。当時の大映の作品作りへの良心みたいなものさえ感じられる。
 この作品にしても、スリルやサスペンスに溢れた作品で、黒岩重吾作品の雰囲気がよく活かされていると感じる。世間的な評価はこれまでそれほど高くはなかったようが、もう少し評価が高くてしかるべきと思える作品である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『氾濫(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『不信のとき(映画)』

by chikurinken | 2019-04-17 07:25 | 映画

『女は二度生まれる』(映画)

女は二度生まれる(1961年・大映)
監督:川島雄三
原作:富田常雄
脚本:井手俊郎、川島雄三
音楽:池野成
出演:若尾文子、藤巻潤、フランキー堺、山村聡、山茶花究、江波杏子、山岡久乃、倉田マユミ

奔放に生きる人間らしい女性
ただ共感はできない


b0189364_21001906.jpg ストーリーにあまり意外性や起伏がないため、主題が伝わりにくい。原作が富田常雄の『小えん日記』ということで、日記ものと考えれば、それなりに納得がいく。
 芸者をやっている小えんという女性(若尾文子)は、芸者をやりながら売春まがいのことまでやる。そのためか、性に奔放な性格……というかあまり考えなしにいろいろな男たちと付き合っていく。そこには悪びれた様子もなく、見ていて不快なタイプの人間でもない。こういう小えんという女性の生き様が描かれるのである。
 その後、売春行為が警察に目を付けられたせいで、芸者を辞めざるを得なくなり、ホステスに転身。そこでかねてより面識のあった建築家、筒井(山村聡)に出会い、妾になるという風に話は進んでいくんだが、その間もいろいろな男たちと関係を持つ。この小えん、将来もあまりない憐れな存在であることは、筒井の口から語られるが、本当に刹那的な生き方なんである。こういう若い女性の存在はリアルではあるが、僕のような平凡な人間にとってなかなか共感できにくい存在であるため、映画としての芯が感じにくく、それが主題のわかりにくさに繋がっているのではないかと思う。
 演出自体は非常にかっちりしていて、短いショットが連ねられるのも小気味良い。東宝の川島雄三が大映で初めて撮影した映画だということで、同じく東宝のフランキー堺まで引き連れてきた。外様でいろいろ苦労もあったかも知れないが、そういうことはまるで感じさせないしっかりした作りになっている。主役の若尾文子は、少し抜けた感じの女性を好演。映像で美貌があまり強調されていないのも、人間らしさがかえって引き出されており、良い効果が出ている。
 音楽は現代音楽風で少々変わっているが、映画とは意外に良く合っている。総じて、隅々まで目が届いた、できの良い映画という印象を受ける。相当、地味な作品ではあるが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『しとやかな獣(映画)』
竹林軒出張所『真実一路(映画)』
竹林軒出張所『瘋癲老人日記(映画)』

by chikurinken | 2019-04-15 06:59 | 映画

『おしゃれ泥棒』(映画)

おしゃれ泥棒(1966年・米)
監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ジョージ・ブラッドショウ
脚本:ハリー・カーニッツ
出演:オードリー・ヘプバーン、ピーター・オトゥール、イーライ・ウォラック、ヒュー・グリフィス、シャルル・ボワイエ

よくできたストーリーの
ハリウッド的な犯罪ロマンス・コメディ


b0189364_20574319.jpg 『ローマの休日』『ベン・ハー』のウィリアム・ワイラーが監督した犯罪コメディ・ロマンス映画。
 名画の贋作を作っている富豪の娘(オードリー・ヘプバーン)と贋作を暴く活動をしている捜査官(ピーター・オトゥール)が、いろいろな成り行きで、100万ドルの価値がある彫刻作品(実は贋作)を盗むハメになり、それがロマンスを生むというようなストーリーである。ワイラーらしくユーモアも適度に盛り込まれ、ストーリーもよくできているが、軽いいかにもな60年代ハリウッド作品と言えるような話ではある。
 この作品も、35年位前に見て以来、久しぶりに見たのだったが、幸か不幸かストーリーはほとんど忘れていた。当時も面白いと感じた記憶はあり、おそらくそれはストーリーの部分なんだろうが、同時にヘプバーンがかなり年を食っていて、少々痛々しさを感じたような記憶の方が強い。それに(時代背景のせいもあるんだろうが)化粧も無茶苦茶濃いし、少なくとも『ローマの休日』のときみたいな可憐な美しさはすでになくなっている。
 もちろん、エンタテインメント映画としては上出来で、純粋に楽しみたいという意図で見れば、それほど大きな外れはないと思う。とは言えやはり、先ほども言ったようにきわめてハリウッド的な軽いエンタテイメント作品であり、あるいは好みが分かれるかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ローマの休日(映画)』
竹林軒出張所『シャレード(映画)』
竹林軒出張所『泥棒成金(映画)』
竹林軒出張所『快盗ルビイ(映画)』
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』

by chikurinken | 2019-04-13 07:33 | 映画

『怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ』(映画)

怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ(1965年・東宝)
監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
脚本:関沢新一
音楽:伊福部昭
出演:宝田明、ニック・アダムス、田崎潤、水野久美、沢井桂子、久保明、土屋嘉男

ゴジラがシェー!
見ているこっちがシェーだ


b0189364_19023235.jpg 『フランケンシュタイン対地底怪獣』とかなり共通したキャスト、スタッフの東宝SF映画。僕が今回見たのは、おそらく71年に『東宝チャンピオンまつり』で上映されたであろう短縮バージョンの方である。
 木星の衛星X星の探査に行った宇宙飛行士が、現地でX星人と遭遇し、そのときにX星で破壊活動をするキングギドラを退治するために、地球に棲息するゴジラとラドンを貸してほしいと要請される。だが実は、想像通り、このX星人は地球侵略を目論んでいたのだった……というストーリーである。ストーリー自体は途中まで比較的整合性がとれていて、破綻はなかった。ただ、大風呂敷を収拾できなかったという『インデペンデンス・デイ』のパターンになっているのがはなはだ残念。そもそも、恐るべき力を持つ強力な侵略者を撃退するわけだから、(H.G.ウェルズの『宇宙戦争』みたいに)それなりの説得力がなければ納得できないんだが、強すぎる敵に勝つ方法などそうそうあるはずもなく、結局のところ、かなり苦しい(しかも相当いい加減な)決着になってしまっている。
 しかも最後の方は案の定、三大怪獣が暴れ回るというような子ども受けしそうな展開になって、まったくもって新鮮さがない。SF映画というより子ども映画と言うのがふさわしい内容である。
 特撮は割合よくできているが、こちらもいい年をした大人が見て楽しめるかどうかは微妙である。それにゴジラがシェーをやったりするのも、子ども向けのサービスのつもりか知らないが、正直恥ずかしいからやめてほしいと感じる。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『モスラ対ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『マタンゴ(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタイン対地底怪獣(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(映画)』
竹林軒出張所『イノさんのトランク(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-11 07:02 | 映画

『聖☆おにいさん』(アニメ)

聖☆おにいさん(2013年・SYM製作委員会)
監督:高雄統子
原作:中村光
脚本:根津理香
出演:森山未來、星野源(アニメーション)

結局は異文化ギャップに落ち着く

b0189364_20041433.jpg マンガ『聖☆おにいさん』の劇場アニメ作品。
 ドラマ版はコントで終始していたが、あれよりも原作の味が活かされていると思う。何本かのエピソードによるオムニバス風の構成である。
 天界から東京・立川に休暇でやって来たイエスとブッダの日常を描くというストーリーで、例によって、視聴者(読者)の持つ(聖人としての)イメージと、作品で提示される(日常者としての)イメージのギャップを楽しむというもの。だが、基本的には来日した外国人が見る日本の風景みたいなものがベースになっているように思う。そういう意味では、聖人でなく穏やかな外国人が主人公でも似たような話になると感じる。BOSSのCM「宇宙人ジョーンズ」みたいなもんで、大きな素材を持ってきた割には、結局、話の中心は異文化ギャップに落ち着いてしまうということになる。
 いくつかのエピソードの中では、街のクリスマスの喧噪にはしゃぐイエスのエピソードがユニークで面白かったが、これはイエスでなければ成立し得ない話である。あとは異文化ギャップのネタがほとんどで、それほど目を引くものはなかった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『聖☆おにいさん(映画)』

by chikurinken | 2019-03-28 07:03 | 映画

『聖☆おにいさん』(映画)

聖☆おにいさん(2018年・パンチとロン毛製作委員会)
製作総指揮:山田孝之
監督:福田雄一
原作:中村光
脚本:福田雄一
出演:松山ケンイチ、染谷将太、山野海、佐藤二朗

脱力系コントで終始

b0189364_18402683.jpg 中村光の同名タイトル・マンガの実写版映画。元々は動画配信サービス向けのドラマだったらしい。(おそらく)低予算だったためか、ほとんどがアパートの室内のシーンで、まったく金がかかっていないことが窺われる。そういう点を含め、映画というにはちょっとナニな作品である。ちなみにプロデューサーは俳優の山田孝之、監督は福田雄一である。
 実際、ドラマというよりコントみたいな作品で、先ほども書いたように舞台はアパートの一室、登場人物はキリストとブッダのほぼ2人。ほとんど会話で話が進む。ちなみにこの作品、キリストとブッダが休暇で天界から現世に降りてきて、日常生活を送るというストーリーで、泉昌之の「ウルトラマン」シリーズ(ウルトラマンが東京で若者風の日常生活を送るという作品で、恋人はウルトラよしこさん。竹林軒出張所『山中貞雄のこと……追記』を参照)みたいな意表を突く設定になっている。ただこういう作品は、言ってみれば、視聴者(読者)の持つイメージと作品で提示されるイメージのギャップを楽しむという、結局そこだけに落ち着くため、長いこと見せられるとそのうちに飽きてくる。この作品は短い10本のエピソードで構成されているが、途中から眠くて仕方がなくなった。結局のところ、脱力系コントで終始してしまっていた。しかもあまり笑えないと来ていたのだった。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『聖☆おにいさん(アニメ)』
竹林軒出張所『女子ーズ(映画)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (7)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『かっこいいスキヤキ(本)』
竹林軒出張所『山中貞雄のこと……追記』

by chikurinken | 2019-03-26 07:40 | 映画

『刑事ジョン・ブック 目撃者』(映画)

刑事ジョン・ブック 目撃者(1985年・米)
監督:ピーター・ウィアー
原案:ウィリアム・ケリー、アール・W・ウォレス、パメラ・ウォレス
脚本:ウィリアム・ケリー、アール・W・ウォレス
撮影:ジョン・シール
音楽:モーリス・ジャール
出演:ハリソン・フォード、ケリー・マクギリス、ルーカス・ハース、ダニー・グローヴァー、ジョセフ・ソマー、アレクサンダー・ゴドノフ、ジャン・ルーブス

非の打ち所のない作品

b0189364_19370115.jpg アメリカの東部に伝統的な自給自足の生活を送るアーミッシュという宗教集団がある。そのアーミッシュを(おそらく最初に)世界的に知らしめたのがこの映画。
 主人公は、タイトル通り刑事のジョン・ブック(ハリソン・フォード)で、縁あってアーミッシュの親子と知り合い、アーミッシュの中で生活することになるという展開になる。アーミッシュの自然に根ざした生活への讃歌であると同時に、全編を漂うスリルとサスペンス、恋愛、人と人との信頼など、さまざまな要素が盛り込まれて、しかもそれがすべて有機的に絡み合いながら一つのドラマを作り上げるという、きわめて完成度の高い傑作である。
 脚本が非常にすばらしく、あまりに良くできたストーリーなので当初は原作ものかと思っていたほどである。存在感のあるキャストは言うまでもなく、演出もすばらしい。牧歌的な映像がまた美しく、ミレーの名画を思わせるようなシーンが目白押しである。映像を盛り上げる音楽までよくできていて、まったく非の打ち所のない作品である。
 今回見たのは3回目だが、多くの印象的なシーンを憶えていて、「Honey, this is great ... coffee」とハリソン・フォードが語るシーンはもっとも好きな場面である。さすがに3回目だと途中で飽きるかなと思っていたが、結局最後まで集中して見てしまった。4回目も見ようと思えば見れるな……と思う。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『いまを生きる(映画)』
竹林軒出張所『ブレードランナー ファイナル・カット(映画)』
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』

by chikurinken | 2019-03-08 07:36 | 映画

『バラバ』(映画)

バラバ(1962年・米)
監督:リチャード・フライシャー
原作:ペール・ラーゲルクヴィスト
脚本:クリストファー・フライ
出演:アンソニー・クイン、シルヴァーナ・マンガーノ、アーサー・ケネディ、ジャック・パランス、ヴィットリオ・ガスマン、アーネスト・ボーグナイン

ローマ帝国時代の歴史エンタテインメント

b0189364_19292912.jpg タイトルの「バラバ」というのは、イエスの処刑が決まる瞬間、イエスの代わりに罪を許されたという罪人、バラバを指す(新約聖書に出てくるエピソードである)。イエスが刑場に連れてこられたとき、総督のピラトがこのイエスと極悪人のバラバとどちらに恩赦を与えるべきかと民に問いかけたところ、多くの民衆は「バラバだ」と答えた、それでイエスが処刑されバラバは解放された……というのである。
 ペール・ラーゲルクヴィストというスウェーデン人のノーベル賞作家がそのバラバを主人公に据えて小説を書き(『バラバ』)、それを映画化したのがこの作品である。バラバを演じるのはアンソニー・クイン。
 映画については、バラバのエピソード以外まったく事前情報がない状態でこの映画を見たため、てっきり説教臭い宗教的な作品かと思っていたが、途中『ベン・ハー』『グラディエーター』を彷彿させるようなシーンもあって、一種の冒険エンタテインメントとして非常に優れた作品になっている。なんせバラバが剣闘士(グラディエーター)になるんだから。
 バラバについては、記述が聖書に載っているだけなのでその実像はわからないが、ここまで波瀾万丈の話に仕立て上げることができれば大したものである。時代背景はローマ帝国の時代で、ネロの時代のローマ大火まで出てくる。基本的には信仰について問いかけるようなテーマではあるが、全体を通じて、歴史エンタテインメントとして十分楽しめる作品になっている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』
竹林軒出張所『グラディエーター(映画)』
竹林軒出張所『スパルタカス(映画)』
竹林軒出張所『サテリコン(映画)』
竹林軒出張所『十戒(映画)』
竹林軒出張所『アレクサンドリア(映画)』

by chikurinken | 2019-03-06 07:39 | 映画

『映画 聲の形』(映画)

映画 聲の形(2016年・京都アニメーション)
監督:山田尚子
原作:大今良時
脚本:吉田玲子
声の出演:入野自由、早見沙織、悠木碧、小野賢章(アニメーション)

重いテーマと美しい映像

b0189364_17261691.jpg 障害者の差別、学校でのいじめ、生きづらさなどをテーマにしたアニメーション映画。
 小学生時代、聴覚障害の転校生、西宮硝子をいじめ、その後それが原因で逆にクラス全員のいじめに遭うようになった少年、石田将也の物語。この石田少年、小学校から続くいじめのため、高校生になっても周囲と溶け込めず孤立した生活を送っていたが、あるとき西宮に再会し、そこから少しずつ人生が変わっていくというようなストーリーである。
 学校での生きづらさや閉塞感、人間の成長などが描かれ、テーマが非常に意欲的である点に目を瞠る。登場人物がステレオタイプである点や一部行動がきわめて唐突である点が少々残念ではあるが、こういう重いテーマに積極的に取り組んでいるのは評価に値する。また、何より映像が非常に美しい。日本のアニメーションの水準の高さを見せつけられるようである。プロットもよくできていて、見ていて飽きさせないストーリー展開はなかなかのものである。
 この映画、興収が23億超えたらしく、かなりのヒットになった。こういった重いテーマでも、アニメーションであれば若い人々が見るということなのか、それとも若い層が(いじめという)テーマを身近なエピソードと捉えたのか、そのあたりはわからないが、それでも日本の興業の可能性を垣間見せられた気はする。個人的には『けいおん!』を彷彿させる、いかにもアニメ少女みたいなキャラクターがあまり好きではないが、こういう要素も実は集客の要因になっているという可能性はある。
日本映画批評家大賞アニメーション部門作品賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『名もなく貧しく美しく(映画)』
竹林軒出張所『典子は、今(映画)』
竹林軒出張所『この世界の片隅に(映画)』

by chikurinken | 2019-03-04 07:25 | 映画