ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

タグ:映画 ( 650 ) タグの人気記事

『Peace』(ドキュメンタリー)

Peace(2010年・Laboratory X)
監督:想田和弘
撮影:想田和弘
ドキュメンタリー

淡々とした日常風景

b0189364_19483790.jpg これも想田和弘の「観察映画」。ナレーションも音楽もない。ただ淡々と目の前のことをカメラに収める。
 今回被写体になったのは、想田氏の岳父母(妻の両親)、柏木夫妻である。二人とも岡山市在住で、ボランティアで障害者の送迎を行っている。ただこの仕事、あくまでボランティアである。利用者からガソリン代だけを受け取っており、自治体からの補助金などもない。当然収益はない。仕事は別にやっているのかよくはわからないが、福祉関係の仕事を続けていた(いる?)ことは、義父の話から窺える。
 利用者を訪問し送迎するシーンがこの作品の主要部分になるが、一方で彼らの家にやって来るたくさんの猫も、もう一つの柱になっている。自宅で飼っているふうな猫もいるが、家に上げている映像はなく、実際には餌をやっている程度の飼い方のようだ。中には野良猫も混ざっている(義父は「泥棒猫」と呼んでいる)。そういった日常風景が淡々と映し出される。
 淡々とした日常風景以上のものはなく、これで映画になるのかというような映像ではあるが、見ていてそれなりに面白いのが不思議。タイトルは「Peace」だが、平和を大きな声で訴えるというような映画ではない。この淡々とした日常が平和(Peace)であると言われれば確かにそうなのかなとも思う。登場する利用者の中に末期の肺がんの人がいて、その人が吸っていたタバコがピース(Peace)だったが、まさかそれがタイトルの意味ではあるまい。
 ともかく描かれるのは、市井の人の淡々とした日々で、大した感想も出てこないが、しかし先ほども言ったように75分間まったく飽きなかったのも事実である。そのあたりは想田監督の手腕と言えるのかも知れない。
2011年香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『精神(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『選挙2(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-10-08 07:48 | ドキュメンタリー

『選挙2』(ドキュメンタリー)

選挙2(2013年・Laboratory X)
監督:想田和弘
撮影:想田和弘
出演:山内和彦、山内さゆり(ドキュメンタリー)

冗長で無駄に長い

b0189364_15250516.jpg 2005年に、川崎市議会議員選挙に立候補し当選した山内和彦氏が、2011年再び同じ選挙に出馬する。その選挙活動の様子を追ったドキュメンタリーがこの作品。前回の選挙は、ドキュメンタリー映画『選挙』で描かれていたが、今回はその続編に当たる。
 前回は外部の人間がいきなり(自民党に代表される)日本型選挙の現場に入ったときにどう感じるかという視点がテーマだったが、今回は、普通の人間が普通の感覚で日本型選挙を戦うとどうなるかという実験的な「観察映画」である。「実験的」と言っても、製作者側は単に山内氏に密着し、他の候補を含む選挙の様子を撮影するだけで、実際に「実験的」なのは山内氏である。かつては落下傘候補として自民党議員になったが、その次の選挙では推薦を受けられなかったのか(あるいは他の自民党議員への義理があったのか)結局出馬せず、一般人として過ごしていたが、2011年の福島原発事故で(国民が騙されていたことについて)憤りを覚え、その憤りを人々に表明したいという動機で急遽出馬を決める。そのため選挙活動もおざなりで、ポスターを張って選挙ハガキを送るだけで、街頭演説もほとんどしない(最終日に放射能除去作業者のコスプレをした状態で数回だけ街頭演説を行った)。ときどきポスターの掲示板をまわって剥がれているポスターを張り直すという活動がメインで、撮影者はそれに同行して取材する。したがって動きはあまりなく、山内氏の聞き語りが中心になる。他の候補に対するコメントや、福島原発事故対策や原子力行政への憤りなどが語られるが、これがこのドキュメンタリーの一番面白い部分と言っても良い。なんと言っても山内氏の魅力がこの作品のミソである。
 ただし、この程度の活動で選挙を勝ち抜こうというのは虫が良すぎるのは誰の目にも明らかで、もちろん彼の言っていること、つまり名前を連呼したり街を歩いている人に握手を強要したりすることはおかしい、政策を主張すべきだというのはきわめて正論であり同意するが、実際に名前と顔が知られないことには、票が集まるわけがないじゃないかというのは第三者的に見れば明らかで、本人も言っていた「青島幸男なみ」の活動では、一般人が当選するには無理がある。前の作品(つまり『選挙』)による知名度を少々過大評価しすぎたのでは……と僕自身は感じた。結果は当然落選である。
b0189364_15251131.jpg このときの選挙は、東日本大震災の直後で自粛ムードが漂っていたことから、当初はどの候補者も名前を大音量で連呼することはあまりなく、街頭演説も控え目で、非常に穏やかで「正常な」感のある選挙だったが、数日過ぎると案の定堰を切ったように「正常化」した。山内氏が訴えるような、政策を主張してそれを有権者が吟味するというような選挙は今の日本では決して起こり得ないということが、この過程を通じて徐々に明らかになってくるのがなかなか虚しい。そもそも日本の有権者のほとんどは、個人的な利害が絡んでいない限り選挙になんか関心がない。個人的な利害がある人ばかりが選挙に参加するため、利益誘導型になってしまう。システムを抜本的に変えない限り、選挙互助団体である自民党や公明党がいつまでも勝ち続けるのは目に見えている。そういうことをあらためて思い知らされるドキュメンタリーであった。
 ドキュメンタリー自体は、日常風景の撮影が非常に多く、無駄に長いという印象である。なんせナレーションがないドキュメンタリーが、2時間半を超えるのである。途中他の候補者(自民党)から撮影するなとクレームが来たりして緊迫する場面があったが、こういうシーンが続かなければ2時間以上もドキュメンタリー映画を見続ける元気はない。なお、僕は自民党についてはまったく共感を覚えていないが、彼らの(撮影を拒否するという)主張については一理あると思う。ただ映像化されると、カメラに対するクレームがいくら正論であってもその人が悪者に見えてしまうのは世の常で、この作品でもご多分に漏れない。映して欲しくないという人を撮影する(その上、映画作品という形で残す)のは、映像という名の暴力であると思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『精神(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『Peace(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-10-07 07:24 | 映画

『選挙』(ドキュメンタリー)

選挙(2006年・Laboratory X)
監督:想田和弘
撮影:想田和弘
出演:山内和彦、山内さゆり(ドキュメンタリー)

日本の異様な選挙について

b0189364_17181392.jpg 以前NHKの『BS世界のドキュメンタリー』で短縮版(ピーボディ賞の受賞対象はこの番組らしい)が放送されたときに見て、その後劇場公開時にこのフルバージョン(120分版)を見た。ということで今回で見るのは3回目ということになる。
 このドキュメンタリーの主人公、山内和彦という人は、川崎市議会議員補欠選挙において、自民党の公募候補として採用されて出馬したいわゆる落下傘候補。そのまったくの選挙素人である山内氏が、選挙に出馬して奮闘する様子を密着撮影したのがこの作品である。ナレーションは一切無く、ただ淡々と選挙準備、選挙活動、選挙後が映像で紹介されるという作品。
 とは言うものの、選挙活動などというものは一般人にとってはまったく縁遠い世界であるため、その様子は非常に興味を引く。特に日本独特と思われるあの名前連呼型の独特の選挙運動は、こうやって内部の目で映像化されるとその異様さが一層目を引く。ましてや舞台になるのが自民党の選挙事務所である。山内がこのドキュメンタリーの中で語っているように、自民党は体育会的で、上下関係や義理人情に結構うるさい。自称「文化系」の山内が感じている違和感は見ているこちらにも伝わってきて、自民党、ひいてはそれを支持する日本人の体質が見えてくるようである。山内が自民党の先輩達にやたら怒られたりするんだが、さながら自分が責められているようで、思わず感情移入してしまう。
 また同時に、自民党が、信条や思想云々で集まっている政党と言うより、選挙互助会であるというのも映像から見えてくる。この選挙では、補欠候補である山内を助けるために、同じ自民党に属する川崎市会議員や、その支持者らが集まってきて、山内の選挙活動を支援している。次回以降の選挙では、彼らは皆、山内と票を争うライバルになるにもかかわらずである。そういう部分に、自民党、あるいは日本人の特質が見えてくる感じがする。
 僕が最初に見た短縮版は、『BS世界のドキュメンタリー』の「世界の選挙」みたいなシリーズで放送されたもので、多分に海外で見られることを意識させられるシリーズだったんだが(実際に200カ国近くでテレビ放映されたらしい)、そのことを知っていたため、自分自身もやや客観的な視点で日本の選挙に接する機会が得られることになった。実際にこのドキュメンタリー自体、日本の選挙を客観的に捉えており、日本の自称「民主主義」選挙のサンプルとして非常にユニークな存在になっている。同時にこれが世界で公開されることに一抹の恥ずかしさも感じる。もう少し日本の選挙制度、政治システムも何とかできるんじゃないかと思ってしまうが、あのアメリカの大統領選挙みたいなクレイジーなのも勘弁してもらいたいところではある。
2009年ピーボディ賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『選挙2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『精神(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『Peace(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本の異様な結婚式について(ラジオドラマ)』

by chikurinken | 2018-10-06 07:17 | ドキュメンタリー

『ファンタスティック・プラネット』(映画)

ファンタスティック・プラネット(1973年・仏、チェコ)
監督:ルネ・ラルー
原作:ステファン・ウル
脚本:ローラン・トポール、ルネ・ラルー
アニメーション

映像がファンタスティック

b0189364_17160263.jpg 一部で伝説的な存在になっているSFアニメ映画。
 未来社会が舞台だと思われるが、地上では人間(と似たような種族)はすでに弱者になっている。世界を支配しているのは、ドラーグ族という(人間から見て)巨人族で、しかも高等文明を持つ。人間は、ドラーグ族にあるいは愛玩されたりもするが、基本的に駆逐されるべき存在である。人間族は、異常な速度で繁殖することからドラーグ族にとって厄介な存在になっており、それを勘案すると現代社会におけるネズミみたいな存在と言えるのか。その人間族が、いよいよドラーグ族に撲滅させられそうになり、それで反乱を起こす……というようなストーリーになる。
 今ではSFで良くあるストーリーと言えば言えるが、この映画は元祖みたいな存在かとも思う。それに何より、映像が非常にユニークで、奇妙な生物、植物が次々に登場して、相当な気持ち悪さも漂う。しかしそうは言ってもユニークであることには変わりなく、そのあたりは『エイリアン』のギーガーを思わせるような部分もある。いずれにしても、キャラクター・デザインはかなりのものである。映像の芸術性も高く、やはり独特の映像がこの映画の一番の魅力で非常に「ファンタスティック」である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ラ・ジュテ(映画)』

by chikurinken | 2018-10-05 07:15 | 映画

『パピヨン』(映画)

パピヨン(1973年・米仏)
監督:フランクリン・J・シャフナー
原作:アンリ・シャリエール
脚本:ダルトン・トランボ、ロレンツォ・センプル・ジュニア
出演:スティーブ・マックイーン、ダスティン・ホフマン、アンソニー・ザーブ、ロバート・デマン

過酷で壮絶な脱獄映画

b0189364_17041169.jpg 脱獄映画。主演は『大脱走』のスティーブ・マックイーン。
 脱獄映画は数あれど、この映画の舞台である南米ギアナのデビルズ島は、脱獄の難易度がもっとも高いと言える。こんなところから無事脱出するなんてあり得ないと序盤では思わされるが、それをやってのけるから映画になる。だからといってリアリティの欠片もないなんてことはない。あちこちに予想外のエピソード(たとえばハンセン氏病で隔離されている男や先住民たちの支援など)が出てくるため、リアリティがないなどという考えは一切浮かばない。それもそのはず、この映画の原作者、アンリ・シャリエール自身が、かつてこの刑務所に収容されており、9回脱獄を試み、9回目に成功させているらしい。つまり原作は、実話を基にした小説と来ている(ただし映画とは少々ストーリーが異なっているようである)。映画で描かれる刑務所内の様子や脱獄の過酷さは壮絶の一言で、真に迫っている。脱走映画ならこれくらいのリアリティは欲しい。
 キャストは、どの役者も好演で、特に主演の2人(スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマン)は非常に魅力的である。監督のフランクリン・J・シャフナーは、原作ものばかり撮っている人だが、どの映画を見てもキャストが魅力的に映る。演出はきわめて正攻法で、「職人芸」という言葉が当てはまるような印象がある。この映画も大変よくできた作品で申し分ないんだが、他のシャフナー作品同様、結局エンタテイメントで終わってしまっているのが、少々物足りないような……。もちろんそれ以上を求めるのも無理があるということは承知ではあるが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『網走番外地(映画)』
竹林軒出張所『パットン大戦車軍団(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』

by chikurinken | 2018-10-04 08:03 | 映画

『ウンベルトD』(映画)

ウンベルトD(1951年・伊)
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
脚本:チェザーレ・ザヴァッティーニ
出演:カルロ・バティスティ、マリア・ピア・カジリオ、リナ・ジェナリ

あまりに救いがない
これからどうしたら良いのか…
と思わず考え込んでしまう


b0189364_16504018.jpg 『自転車泥棒』でお馴染み、イタリアン・ネオリアリズモの巨匠、ヴィットリオ・デ・シーカの作品の中でも随一と言って良いリアリズム映画。
 年金暮らしの元公務員の老人、ウンベルトが主人公。現在一人暮らしで犬のフライクが唯一の相棒という状況だが、年金額が少ないため、アパートの家賃も滞りがちである。そのためにアパートの主からも追い立てを食らっているという設定。何とか追い立てを免れるために必要な額の金を集めようと奔走するが、なかなか集まらず。いろいろと画策するが、結局行き場がなくなってしまうという、まことに救いがないストーリーである。
 戦後すぐのイタリアの世相を反映した(と思われる)スーパー・リアリズムの作品で、画像もストーリーも堅牢で非常にレベルは高いが、これほど救いがないと、ちょっと最後まで見続けるのが辛くなる。主人公がかなり切迫した状態になり、『自転車泥棒』同様、それが見ている側にも恐ろしい迫力で迫ってくる。この映画を見る場合は、生活に余裕のある状況でないと(あまりに身につまされて)楽しむことができないのではないかと思う。
 かつてこの映画を見たときは僕自身まだ(前途のある)学生だったし、しかも国内的には割合余裕のある時代だったため、映画の内容はどこか他人事で「憐れな老人の話」ぐらいの認識しかなかったが、今回は、僕自身が主人公に近い年齢になっており、しかも世の中も何かのきっかけで転落してしまいそうな社会状況になっているため、見るのに相当な息苦しさを感じた。こういう映画を、余裕のある状態でゆったり見て、その上で社会のひどさを実感できるという程度の世の中にはなってほしいと、今回つくづく感じた。
 今回見たのは、シネフィルというBSチャンネルで放送されたものだったが、映像が割合きれいだという印象を持った。もしかしたらリマスター版だったのかも知れない。なお、タイトルの『ウンベルトD』は、主人公の名前、ウンベルト・ドミニコ・フェラーリから取ったものである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『無防備都市(映画)』
竹林軒出張所『戦火のかなた(映画)』
竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』
竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-10-03 07:50 | 映画

『普通の人々』(映画)

普通の人々(1980年・米)
監督:ロバート・レッドフォード
原作:ジュディス・ゲスト
脚本:アルヴィン・サージェント
出演:ドナルド・サザーランド、メアリー・タイラー・ムーア、ティモシー・ハットン、ジャド・ハーシュ、エリザベス・マクガヴァン

重厚に作り込まれたハリウッド映画

b0189364_15204906.jpg ロバート・レッドフォードの初監督作品。初監督作品にもかかわらず、この映画でロバート・レッドフォードはアカデミー賞の監督賞まで受賞している。
 それまでのハリウッド映画とは基調が異なり、終始、家族の問題が描かれる。兄が事故で死んだために精神的に不安定になった弟、コンラッド(ティモシー・ハットン)と、彼を扱いかねる母親(メアリー・タイラー・ムーア)との葛藤、それでも何とか円満な家族を維持しようと奮闘する父親(ドナルド・サザーランド)の家族関係が、このドラマの柱の部分になる。一家は中流の上という、一般的には他人にうらやまれるような環境ではあるが、皆心の中に抱えるものがあり、そこに葛藤が生まれる。
 現在では、こういった家族の問題はあちこちで取り上げられていてそれほど珍しくもないが、1980年にハリウッド映画でこれを取り上げたことは驚嘆に値する。ハリウッド映画らしい大きな事件や事故もないが、それでも心に迫るものは大きい。行き場のない不安定さが見る側にも伝わってきて、コンラッドを担当する心理療法士が、唯一の救いという感じで登場する。そのため心理療法のシーンも多く、さながら心理療法の宣伝映画のようにも見える。しかしこの心理療法のシーンが大きな見所になっているのも事実。実に見応えがあった。
 公開当時から見たかった映画で、その期待に反することのない、重厚に作り込まれた作品である。季節の移ろいが反映された自然の描写も非常に美しく映像的にも良質である。キャストの演技はどれも超一流で、中でもティモシー・ハットンは出色(この出演作でアカデミー賞助演男優賞獲得)。一見の価値がある。
第53回アカデミー作品賞、監督賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』
竹林軒出張所『天国から来たチャンピオン(映画)』

by chikurinken | 2018-09-18 07:20 | 映画

『プレイス・イン・ザ・ハート』(映画)

プレイス・イン・ザ・ハート(1984年・米)
監督:ロバート・ベントン
脚本:ロバート・ベントン
撮影:ネストール・アルメンドロス
出演:サリー・フィールド、リンゼイ・クローズ、エド・ハリス、ダニー・グローヴァー、ジョン・マルコヴィッチ、エイミー・マディガン

苦境に立ち向かう南部の未亡人

b0189364_19132290.jpg 1930年代のテキサス州の小さな街が舞台。保守的な街で、黒人に対しては差別的な扱いをしている。主人公エドナは、あるとき突然未亡人になり、それまで金銭面はすべて夫任せだったことから、途端に生活に困窮する。襲いかかってくる困難に立ち向かうため、両足で踏ん張って必死で戦い抜いていく……、そういう女性の姿が描かれる映画である。
 ストーリーがしっかりしているため原作ものかと思っていたが、監督、ロバート・ベントンのオリジナル脚本である。ロバート・ベントンという人、あまり有名な監督ではないが、『クレイマー・クレイマー』の監督と脚本を担当した人であり、『俺たちに明日はない』の脚本を書いた人でもある。『クレイマー・クレイマー』が、日常的な話であるにもかかわらず、なかなか濃密なストーリーだったことを考えると、ベントンの力量も容易に推測できる。この映画でも本領が発揮されていて、脚本が非常に秀逸である。サブプロットとして周囲の不倫問題が絡んできたりするが、本筋とはあまり関係なく進んでいく。とは言え、当時の社会状況などを描くことに繋がっており、決して無駄というわけではない。当時の社会状況といえば、激烈な黒人差別、銃社会、それから竜巻被害などであるが、こういったものにより、アメリカ南部の過酷な生活がしっかりと描写されていて、このあたりもこの映画の魅力になっている。
 この映画の一番の魅力はキャラクターで、主演のサリー・フィールド、助演のダニー・グローヴァー、ジョン・マルコヴィッチが特に良い。子役の2人(ヤンクトン・ハットンとジェニー・ジェームズ)までも好演である。この辺も脚本の妙が大きいと思う。
 この映画、公開時に見ているが、サリー・フィールドが過酷な労働を辞さずに生き抜いていたというような印象しか残っていなかったが、しかしあらためて見ると見所の多い良い映画である。なんと言っても、ラストシーンが非常に印象的で、大きな余韻を残す。
第57回アカデミー賞脚本賞、主演女優賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『俺たちに明日はない(映画)』
竹林軒出張所『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体(本)』
竹林軒出張所『戦いすんで日が暮れて(本)』

by chikurinken | 2018-09-17 07:13 | 映画

『戦場にかける橋』(映画)

戦場にかける橋(1957年・米)
監督:デヴィッド・リーン
原作:ピエール・ブール
脚本:カール・フォアマン、マイケル・ウィルソン
出演:アレック・ギネス、ウィリアム・ホールデン、早川雪洲、ジャック・ホーキンス、ジェフリー・ホーン、ジェームズ・ドナルド、アンドレ・モレル

作りすぎがとても気になる

b0189364_20154386.jpg 太平洋戦争期、大日本帝国陸軍が運営する捕虜収容所の話。ビルマとタイを結ぶ泰緬鉄道建設の必要性に迫られた日本軍は、捕虜を使ってクウェー川(映画では「クワイ河」)に橋を架けることを計画する。このあたりまでは実話である。
 そのクワイ河に架ける橋を巡る捕虜側・収容側の人間模様、生きる意欲とそれを打ち砕く戦争の悲劇が描かれる。戦争のためにさまざまな矛盾が引きおこされていく過程が一番の見所で目玉だろうが、話ができすぎで、作りすぎのイメージが強い。ストーリーについては思わず「ないない」とツッコミを入れそうになった。当然このあたりはフィクションである。
 英国軍の将校(アレック・ギネス)が国際法を盾に日本軍の将校(早川雪洲)と対立し、意地の張り合いをするあたりが前半の大きな見所ではあるが、このあたりも演劇的で「ないよねー」と言いたくなる。あちこちに(面白いが)リアリティを欠いた場面が多く、もちろんこの頃のハリウッド映画にはつきものなんだが、それがためにせっかくの大作が台無しになるというような印象を受けるのは僕だけか。もちろん、あまりにリアリティを云々し過ぎると興が醒めるというのは良くあることで、この映画なども壮大な作り話として見れば十分楽しめるわけだ。それでもやはり気にかかるものは気にかかるのだ。それに間抜けな日本軍・優れた連合軍という構図も「コンバット」的なご都合主義に見えていただけない。シニカルで面白いストーリーの映画だとは思うが、個人的には、手放しで称賛するというレベルではない。
第30回アカデミー賞作品賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『クワイ河に虹をかけた男(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『第十七捕虜収容所(映画)』
竹林軒出張所『マダムと泥棒(映画)』
竹林軒出張所『ナバロンの要塞(映画)』
竹林軒出張所『史上最大の作戦(映画)』

by chikurinken | 2018-09-16 07:15 | 映画

『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(映画)

ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ(1942年・米)
監督:マイケル・カーティス
脚本:ロバート・バックナー、エドモンド・ジョセフ
音楽:ジョージ・M・コーハン、ハインツ・ロームヘルド
出演:ジェームズ・キャグニー、ウォルター・ヒューストン、ジョーン・レスリー、ローズマリー・デキャンプ、ジーン・キャグニー

キャグニー - ギャング = タップ

b0189364_17292764.jpg ブロードウェイの父と呼ばれるジョージ・M・コーハンの生涯を扱ったミュージカル伝記映画。と言っても、ほとんどの日本人はコーハンなんて人は知らないだろう。僕も知らなかった。まったく知らない人、関心のない人の伝記ほどつまらないものはない。ということで、この映画も、ストーリー自体はなんということはない。ましてやこのコーハン、アメリカのナショナリズムを煽って成功したような人で、まったく感情移入できない。むしろ嫌悪感を感じるくらいである。
 この映画、以前、どこかの上映会でタイトルだけ目にしたことからタイトルが記憶に残っていたのと、ギャング映画で有名な主演のジェームズ・キャグニーがミュージカルをやるという点に関心があって、今回見たのだった。キャグニーがそもそも歌を歌ったりタップを踏んだりすることがまったく想像できなかったが、この映画を見る限り、見事なもんである。この映画の主役は、元々フレッド・アステアがやる予定だったということで、実際、アステアが演じると様になるようなタップのシーンが目白押しなんだが、キャグニーも素晴らしい仕事をしている。なんでも、キャグニー、若い頃ボードビリアンだったらしく、それでこういう芸当もこなせるということらしい。彼のタップは実に見事で、非常に感心する。アステアやジーン・ケリー・クラスと言っても良い。
 ただ、ストーリー自体は、本当にどうと言うこともなく、単なるサクセス・ストーリー。しかも全編実に単純な回想形式で話が進んでいく。それに、先ほども言ったように「アメリカ万歳」のナショナリズムには辟易する。なお、タイトルの「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」は、コーハンの最初のミュージカル作品のタイトルである。ちなみに「ヤンキー・ドゥードゥル」は「アルプス一万尺」のオリジナルの歌で、アメリカの独立戦争時から歌われている歌である。「まぬけなヤンキー」という意味だそうな。
1942年アカデミー主演男優賞他受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『コンチネンタル(映画)』
竹林軒出張所『雨に唄えば(映画)』

by chikurinken | 2018-09-15 07:29 | 映画