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竹林軒出張所

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タグ:映画 ( 675 ) タグの人気記事

『学校』(映画)

学校(1993年・松竹)
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
音楽:冨田勲
出演:西田敏行、竹下景子、裕木奈江、中江有里、萩原聖人、新屋英子、翁華栄、田中邦衛、神戸浩、渥美清

安い映画だが存在意義は十分

b0189364_18133310.jpg 山田洋次が描いた夜間中学の実態。
 『こんばんは』の見城慶和先生が一部モデルになっているらしい。93年に公開されてヒットし、夜間中学の存在を世の中に知らしめた作品でもある。日本語の読み書きができないまま大人になった人々や、中学に通えなかった人々が、中学校(あるいは小学校)の学習課程を履修できるようにする機関、それが夜間中学である。現在その必要性が高まっていることもあり、文科省も各県に1校設けることを目標にしていると聞く。そういう動きを推進した映画として画期になった作品と言って良い。
 ただし映画の中身ということになると、最後まで通して見られる作品ではあるが、随所に安直さというか安っぽさを感じる。舞台は、卒業式を間近に控えた夜間中学の授業であり、それぞれの生徒(7人)のこれまでを振り返るという回想形式のドラマになっているんだが、この種の回想形式自体、ともすれば安っぽくなりがちである。スチール写真からして作り物風で安っぽさを感じるようなものだったため、見る前からある程度は想定できたが(だから今まで見なかったんだが)、そういう点で予想に違わない作品だった。それに案の定、話が過剰に理想化されているのも引っかかる部分で、フィクションだから仕方がないと言われると確かにそうだが、もう少し抑えの効いたストーリーにできなかったのかとも思う。
 とは言え、先ほども言ったように日本の教育において大きな画期になったのは間違いなく、おそらく山田洋次の意図もそのあたりにあったのではないかと思うんで、映画として安かろうが、存在意義は十分にあるとは思う。
第48回毎日映画コンクール日本映画優秀賞他
第17回日本アカデミー賞最優秀作品賞他受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『こんばんは(映画)』
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-02-13 07:13 | 映画

『日本フィルハーモニー物語』(映画)

日本フィルハーモニー物語 炎の第五楽章(1981年・エヌ・アール企画)
監督:神山征二郎
原作:今崎暁巳
脚本:神山征二郎、今崎暁巳
出演:風間杜夫、田中裕子、内藤武敏、浜田光夫、菅野忠彦、中野誠也、長塚京三、鈴木ヒロミツ、長谷直美、日色ともゑ、三谷昇、渡辺暁雄、小池朝雄、下元勉、ジェリー藤尾、殿山泰司、前田吟、佐藤オリエ、高橋克典、井川比佐志、志村喬

豪華なのは入れ物だけ

b0189364_14455108.jpg 1971年、日本フィルハーモニー交響楽団が、スポンサーのフジテレビと文化放送から支援打ち切りを通告され、それに対して楽団員が労働組合を結成して対抗する。これが世にいう「日フィル争議」で、その争議をモチーフにした映画がこの作品。原作は今崎暁巳という人のルポルタージュ『友よ! 未来をうたえ』という本である。
 監督は正攻法の地味な映画ばかり撮っている神山征二郎で、この映画も予想通り正攻法で地味なドラマ。当然、日フィル争議がストーリーの核になり、組合とスポンサーの東洋放送とのもめ事、さらには日本フィルが再建していく様子が描かれる。主人公は日本フィルのヴァイオリニスト樺沢昇(風間杜夫)で、恋人の茂木伸子(田中裕子)との恋愛がサブプロットになる。さらに同僚のチェリスト(内藤武敏)の死なども盛り込まれるが、正直ドラマ的な面白さはあまりなく、あってもありきたりなもので、2時間見続けるのがかなり苦痛な作品である。今回僕が見たのは、日本映画専門チャンネルの放送だったが、現時点でDVD化されておらず、テレビ放送もこれまで行われなかったらしい。僕も存在すら知らなかったし、そもそも日フィル争議についてもよく知らなかった。
 企業や自治体が金銭的に厳しくなると、まず最初に見直されるのが文化事業で、そのため今でも似たような問題はあちこちで起こっている。少し前にも、大阪の日本センチュリー交響楽団が補助金カットで揉めた(結局カットされた)し、文楽協会も補助金カットを示唆され問題になった。そのため、オーケストラだけに限っても映画やドキュメンタリーでよく取り上げられている。だから単に争議の現場だけを劇映画にしても面白味はなかなか生まれない。『オーケストラの少女』みたいに破天荒な映画にするか、さもなければ、人間の内面に迫るなどの要素がなければドラマとしては魅力に欠ける。この映画の最大の難点はそこで、どの登場人物もあまり人間としての存在感が見受けられず、単に行動の主体として登場するだけであるため、面白味がないのである。
b0189364_14455648.jpg 映画界でもかつて東宝争議などという似たような労働問題があり、監督の神山征二郎も多少の関わりを持っていたらしく、そういう点でこの日フィル争議に共鳴したんだろうが、思い入れだけでは面白い映画にならない。キャストは今見ると豪華(しかもほとんどはチョイ役)で、よくこれだけの俳優を集めたなと思うが、仏作って魂入れずみたいな内容の乏しい作品になってしまったのははなはだ残念。最後にコンサートのシーン(『新世界』が演奏される)があり、客が一様に感動するシーンで締めるというのも音楽映画らしいが、ありきたりと言えば実にありきたりである。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『オーケストラの少女(映画)』
竹林軒出張所『オーケストラ!(映画)』
竹林軒出張所『名門オーケストラを救え(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スラムのオーケストラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-02-12 07:45 | 映画

『ギルバート・グレイプ』(映画)

ギルバート・グレイプ(1993年・米)
監督:ラッセ・ハルストレム
原作:ピーター・ヘッジズ
脚本:ピーター・ヘッジズ
出演:ジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオ、ジュリエット・ルイス、メアリー・スティーンバージェン、ダーレン・ケイツ

等身大のアメリカと魅力的な登場人物

b0189364_18442291.jpg アメリカ、アイオワ州の田舎町で暮らすギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)の閉塞した生活と青春を描くドラマ。
 ギルバートには、夫を亡くしたストレスで超肥満体型になってろくろく動けなくなった母(ダーレン・ケイツ)、知的障害でやたら問題を起こす弟(レオナルド・ディカプリオ)がいて、他の姉妹2人と古い家に住んでいる。ギルバートは町の雑貨店で働いているが、これも近所に大型スーパーができたせいで、商売の見通しはかなり暗い。町自体も寂れており、全体をどんよりした閉塞感が漂っている。しかしギルバートは、弟思い、母思いの心優しい男なのである。
 これも『ラスト・ショー』と同じように、等身大のアメリカを描いていて、「ハリウッド映画」的ではない上質のドラマである。主人公が年上の女性(精神的に不安定)と不倫しているあたりもあの映画によく似た設定である。アメリカの生の姿が描かれていて新鮮である。ただし周りに起こる出来事が主人公にとって重すぎるので、感情移入して見ているとかなり辛く感じる。とは言え救いもあるんで、リアリズム映画のように辛さが後まで残るというようなことはない。
 監督は『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のラッセ・ハルストレムで、ハリウッド進出第2作が本作である。演出は手堅く、どの俳優も好演。中でも知的障害のある弟を演じたディカプリオは特筆ものである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ラスト・ショー(映画)』
竹林軒出張所『フライド・グリーン・トマト(映画)』
竹林軒出張所『プレイス・イン・ザ・ハート(映画)』

by chikurinken | 2019-01-23 07:44 | 映画

『ラスト・ショー』(映画)

ラスト・ショー(1971年・米)
監督:ピーター・ボグダノヴィッチ
原作:ラリー・マクマートリー
脚本:ラリー・マクマートリー、ピーター・ボグダノヴィッチ
撮影:ロバート・サーティース
出演:ティモシー・ボトムズ、ジェフ・ブリッジス、シビル・シェパード、ベン・ジョンソン、クロリス・リーチマン、サム・ボトムズ、エレン・バースティン、ランディ・クエイド、アイリーン・ブレナン

マクマートリーの「祭りの準備」

b0189364_20514796.jpg キネマ旬報ベスト・テン第1位の映画ということで、僕が20台の頃、心躍らせて名画座でこの映画を見たのだが、何だか後味が悪く、この映画のどこがそんなに良いのかと思った記憶がある。その後知ったことだが、当時のキネ旬の選考委員会でも若手の審査員はあまりこの映画を評価しておらず、年配の審査員が高い評価を入れているということだった。今回はすでに50台に到達した時点で見たわけだが、心に染みいる良い映画だと感じた。若い頃と印象が全然違うのに驚きである。青春時代を回想するノスタルジーのストーリーだからだろうが、それ以外にも映像がボグダノヴィッチ作品らしく安定した詩的なもので、エドワード・ホッパーの描く絵画を彷彿させる。ドンパチのハリウッド映画とは違ったアメリカのリアルな等身大の生活が描かれているのも良い。
 原作は、ラリー・マクマートリーというアメリカの作家による小説で、おそらく自伝的な作品ではないかと思われる。主人公の友達が軍に入り朝鮮戦争に行くなどというセリフがあることから、時代背景は1950年代だろう。舞台はテキサス州の田舎町で、町全体に閉塞感が覆っている。主人公も高校を卒業したが、何だか将来が見えてこないという状況である。その町での人々との出逢いや別れ、そして主人公の成長がこの話のテーマで、それがノスタルジックなモノクロ映像で描かれる。同じ監督の『ペーパー・ムーン』と非常に似た詩的な映像が心を打つ。こういったセンスの良い映画は最初の映像を見ただけで違いを感じることが多いが、この映画がまさにそうで、前に見たときはそれすら気付かなかったのだろうかと、我ながら少々情けなくさえ感じるのだ。
第44回アカデミー賞助演男優賞助演女優賞
1972年キネマ旬報ベスト・テン外国映画ベスト・テン第1位受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ペーパー・ムーン(映画)』
竹林軒出張所『野のユリ(映画)』
竹林軒出張所『ギルバート・グレイプ(映画)』

by chikurinken | 2019-01-22 07:51 | 映画

『獣人』(映画)

獣人(1938年・仏)
監督:ジャン・ルノワール
原作:エミール・ゾラ
脚本:ジャン・ルノワール
撮影:クロード・ルノワール、クルト・クーラン
出演:ジャン・ギャバン、シモーヌ・シモン、フェルナン・ルドー、ジュリアン・カレット、ブランシェット・ブリュノワ

いかにも自然主義という
破滅型のストーリー


b0189364_16525363.jpg エミール・ゾラの自然主義文学『獣人』の映画化作品。『獣人』は、全20巻で構成されるルーゴン・マッカール叢書の1本で、ルーゴン・マッカール叢書というのはルーゴン家とマッカール家の人々の生き様を描いたシリーズである。シリーズのある作品の登場人物が他の作品の主人公になって続いていくという展開になるのがこの叢書で、この『獣人』の主人公、ジャック・ランティエは、『居酒屋』の主人公、ジェルヴェーズ・マッカールの息子であり、『ジェルミナル』の主人公、エチエンヌ・ランチエとは兄弟である。
 主人公のジャック・ランティエ(ジャン・ギャバン)は、遺伝的な発作のために殺人衝動に駆られるという人格で、それは大酒飲みの遺伝子が彼の血を毒に変えたのだと本人は考えている。現在鉄道の運転士をしていて仕事も普通にこなしているが、そのランティエがとある殺人事件と関わり合い、それをきっかけに駅長(フェルナン・ルドー)の若い妻(シモーヌ・シモン)と関係を持つようになるという風に話が進む。主要な登場人物が最初と最後で劇的に変貌しているのが印象的で、やはり自然主義……という破滅型のストーリーである。
 劇的なストーリーだが自然に話が進むため違和感はない。途中からややこしい恋愛のモチーフが出てきて『テレーズ・ラカン』みたいになってくる。演出は正攻法で破綻はないが、やたら列車や鉄道のシーンが出てきて、もちろん主人公の職場が鉄道会社なんである程度はわかるが、それでも少し度が過ぎているような印象がある。あるいはジャン・ルノワールの好みなのかも知れないと思うが、鉄道ファンが見たら喜ぶんじゃないかと思うようなシーンが非常に多かった。むしろそちらの方の印象が強い。なお、監督のルノワールだが、他のゾラ作品、『ナナ』(映画タイトル『女優ナナ』)も監督しており、それが出世作になったらしい(『女優ナナ』のDVDは出ているようだ)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『ジェルミナル(映画)』
竹林軒出張所『嘆きのテレーズ(映画)』
竹林軒出張所『大いなる幻影(映画)』
竹林軒出張所『ピクニック(映画)』
竹林軒出張所『ゲームの規則(映画)』
竹林軒出張所『小間使の日記(映画)』

by chikurinken | 2019-01-21 07:53 | 映画

『乱れ雲』(映画)

乱れ雲(1967年・東宝)
監督:成瀬巳喜男
脚本:山田信夫
音楽:武満徹
出演:加山雄三、司葉子、草笛光子、森光子、浜美枝、加東大介、藤木悠

ベタベタなメロドラマ

b0189364_21040028.jpg 美しい男女が繰り広げるベタベタなメロドラマ。
 交通事故で人を死なせてしまったある男(加山雄三)が、その未亡人(司葉子)と恋愛関係に陥るというストーリー。事故と元夫の影が二人の間につきまとう、という展開になる。
 ストーリーはそれなりで脚本も平凡。演出もきわめて正攻法で、取り立ててどうと言うこともない。司葉子は非常に美しいが、僕にとっての見所はそれだけ。十和田湖畔の風景をはじめとして、映像もそれなりに美しかったが、加山雄三の演技は例によってベタだし、他の俳優もきわめて映画的で平凡な演技に終始していて、あまり面白味は感じなかった。そのため1時間50分が非常に長く感じた。ただそれなりにうまくまとまってはいるので、こういうコテコテのラブストーリーを見たい人にとっては理想的な映画かも知れない。ただ森光子と加東大介の関係は普通のメロドラマとは少し異質で、いかにも成瀬映画らしいと言える。
★★★

参考:
竹林軒出張所『秋日和(映画)』
竹林軒出張所『紀ノ川(映画)』
竹林軒出張所『流れる(映画)』
竹林軒出張所『浮雲(映画)』
竹林軒出張所『稲妻(映画)』
竹林軒出張所『乱れる(映画)』
竹林軒出張所『放浪記(映画)』
竹林軒出張所『女が階段を上る時(映画)』
竹林軒出張所『山の音(映画)』

by chikurinken | 2019-01-06 07:03 | 映画

『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(映画)

百日紅 〜Miss HOKUSAI〜
(2015年・「百日紅」製作委員会)
監督:原恵一
原作:杉浦日向子
脚本:丸尾みほ
キャラクターデザイン:板津匡覧
美術監督:大野広司
声の出演:杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、筒井道隆(アニメーション)

江戸を再現した映像が見所

b0189364_18185904.jpg 杉浦日向子原作のマンガ『百日紅』のアニメ化作品。キャラクターデザインは原画とまったく異なりほぼオリジナル。原作は大分前に読んだんだがあまり内容を憶えていない。そのために詳しいところは何とも言えないが、ストーリーもキャラクターの性格付けも原作と大分違っているような気がする。映画版のストーリーは、小さいエピソードを連ねたようなもので、もしかしたらそれぞれに似たような話が原作にあったのかも知れない。
 ストーリーは、葛飾北斎とその娘、お栄の周辺で展開するさまざまな出来事が軸になっている。ストーリーについては特にどうと言うことはないが、日本のアニメ作品らしく、背景などの描写が非常に美しく、季節感も巧みに再現しているのは見事である。タイトルにもなっている百日紅(さるすべり)や椿などの花の色がアニメ映像の中で美しく映えており、人物に当たる光や夕焼けなど、自然の描写も実に美しい。江戸の町をそのまま再現したような風景描写もすばらしく、こういった表現はアニメならではと言って良い。江戸にタイムスリップして疑似体験しているかのような映像はこの映画の目玉である。
 声の出演は、名のある俳優がやっているが、必ずしもはまっているとは言えず、声優を普通に使った方が良いのではないかと思った。お栄の杏も北斎の松重豊ももう一つしっくり来ない。唯一例外的にうまいと感じたのが濱田岳の英泉で、有名な俳優を使ったりするのは(ジブリ映画をはじめとして)近年よくあることだが、結果的に作品の価値を損なっているようにしか思えないものもあり、そういうのは作品作りに対するアプローチとしていかがなものかと思ってしまう。
アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門審査員賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『江戸古地図の旅(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』

by chikurinken | 2019-01-05 08:16 | 映画

『三度目の殺人』(映画)

三度目の殺人(2017年・「三度目の殺人」製作委員会)
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、蒔田彩珠、橋爪功、斉藤由貴、吉田鋼太郎

死刑制度に対する痛烈な皮肉……
と受け止めた


b0189364_18465928.jpg 強盗殺人の容疑で逮捕された容疑者、三隅(役所広司)の弁護を引き受け、何とか死刑を回避しようとする弁護士(福山雅治)が主人公の法廷ミステリー。この弁護士、少し醒めているようで一見それほど熱意を感じさせないんだが、自ら関係者のところに足を運び真相を解明しようとしたりする。そもそもが容疑者の供述が二転三転してなかなか真相が掴めないのだが、ともかくそういう流れでストーリーが進行していく。
 冷淡で事務的な検察官(市川実日子)や少々異常性を感じさせる母親(斉藤由貴)など、リアルさを感じさせるユニークな人物が登場してきて、ドラマ的な(ステレオタイプな)キャラクターがあまり登場しないのは、この映画の大きな魅力の1つである。一方で戯画的なキャラクター(父親役の橋爪功や同僚役の吉田鋼太郎)は存在し、こちらはまた良いアクセントになっている。毎度ながらキャラクター設定が非常にうまいと感じさせる是枝脚本である。
 タイトルがおそらくこの映画のキーになっていて、おそらく死刑のことを指しているのではないかと思うが、あまり言うとネタバレになってしまうので、ここでは触れないようにしなければならぬ。法廷劇は(僕の場合)内容を追いづらくなることが多いが、是枝演出らしく非常に良いテンポで、流れが自然に頭の中に入ってくる。だが、ストーリーはさながら「藪の中」で、最後まで結構モヤモヤが残る。実際のところ何が真相なのかはっきり見えてこない。そのあたりと死刑制度を絡めたテーマなんだろうが、こちらについてもあまり触れることはできない……危ない危ない。終わった後かなり頭の中がモヤモヤするが、これこそがテーマであるならば、それについてどうこういうことはできない。よくできているとしか言えない。
 この映画についても、他の是枝作品同様、なぜだかわからないが流れの悪さなどなく、非常にスムーズに展開されて、見ていて途中でだれることがない。編集や演出の妙なんだろうが、うまいもんである。
第41回日本アカデミー賞最優秀作品賞他受賞
★★★☆

注記:
ネタバレ注意!
 映画もモヤモヤするが、上で書いた文章も(内容に極力触れないようにしたため)かなりモヤモヤしている。そこで、ネタバレ覚悟で、僕なりの解釈と感想をここで書いておこうと思う。まだこの作品を見ようと思うが見ていないという人は、ここは読まない方が良いです。
 容疑者の三隅は、若い頃一度殺人事件を犯していて、今回の事件で二度目の殺人のはずだが、それを考えるとタイトルは少々不可解である。だが結局三隈は死刑判決を受けることになる。しかも真相については結局わからないままで、裁判は「藪の中」の状態で結審してしまう。基本的には自供が唯一の証拠であるが、この自供についても公判の途中で容疑者が否認するため、この唯一の証拠も怪しくなる。「疑わしきは罰せず」の原則で行けば(検察がこれに代わる証拠を提出しない限り)無罪にしなければならない。しかしそれでも裁判所の都合でそのまま裁判が進められ、犯行を誰が行ったのかはっきりとわからないまま(暗示するようなイメージショットはある)、死刑判決が出てしまう。要はこれが製作者の主張する「三度目の殺人」ということではないかというのが僕の解釈である。ストーリーは最後まで「藪の中」であるため、見ている方はかなりモヤモヤした状態が残るが、「藪の中」を表現するのであれば(不快であっても)こうした終わり方をするのが正解だと思う。安易なヒューマニズムでわかったような気にさせるのは面白くないと個人的には思う(竹林軒出張所『羅生門(映画)』を参照)。

参考:
竹林軒出張所『羅生門(映画)』
竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』
竹林軒出張所『海街diary(映画)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (2)〜(10)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ブレイブ 勇敢なる者 前・後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-15 07:46 | 映画

『羅生門』(映画)

羅生門(1950年・大映)
監督:黒澤明
原作:芥川龍之介
脚本:黒澤明、橋本忍
撮影:宮川一夫
美術:松山崇
音楽:早坂文雄
出演:三船敏郎、京マチ子、森雅之、志村喬、千秋実、本間文子、上田吉二郎、加東大介

美術と撮影は超一流だが……

b0189364_19053666.jpg ヴェネチア映画祭でグランプリを獲得した黒澤明の出世作。今回見るのは2回目。
 原作は芥川龍之介の(『羅生門』ではなく)『藪の中』である。ただし『羅生門』的な要素も主題(人間のエゴイズム)として組み込まれているし、何より舞台が平安京の羅生門になっている。そしてまた、この羅生門のセットがすばらしい。さすが大映!と感じさせる立派なものである。ちなみにこの映画、黒澤作品だが、東宝ではなく大映製作なのである。これだけ立派なセットを組んだにもかかわらず、ほとんどのシーンがロケで撮影されている。このあたりは結構な無駄に思え、製作責任者に対しては少し腹立たしく感じる。もっともこのロケのシーンについても、宮川一夫のすばらしい撮影でコントラストの効いた面白い絵面になっていて(少々やり過ぎな感もあるが)、しかも登場人物の息づかいが感じられるようなすばらしい映像になっている。
 ただ、これだけ立派な素材を揃えながらも、やはりなぜだかわからないが、途中流れが悪く感じる場面が多く、見ていてだんだん飽きてくる。それに原作は「藪の中」(真相がわからないことのたとえ)のはずであるにもかかわらず、杣売り(志村喬)がすべて種明かししてしまって、そのために面白味が極度に損なわれてしまっている。ストーリー上、最後までモヤモヤするのがそもそもの『藪の中』の面白さでありテーマだと思うんだが、ソフトランディングしてしまったために、他の登場人物の証言が、単なる見栄による嘘で片付いてしまって面白味もへったくれもあったもんじゃないという結末になってしまった。それに人間のエゴイズムがテーマになっているにもかかわらず、最後はつまらない黒澤流ヒューマニズムで片付けられていて、テーマが台無しになってしまっている。このあたりも原作を尊重するのであれば、不快になるようなエゴイズムを突きつけてほしかったと感じる。橋本忍の脚本にしてはちと陳腐だと思っていたんだが、今調べたところ、橋本忍のオリジナル脚本に黒澤明が加えた部分が、このヒューマニズムのシーンと種明かしのシーンだったらしい(ウィキペディア情報)。妙に頷いてしまう。
 今回見たのは、デジタル完全版というもので、リマスター処理が施されていた。そのため画面が非常に美しくなっており、宮川一夫の芸術的な映像も生きるというものである。そういう芸術性も随所に感じられるんだが、やはり流れの悪さや(おそらく黒澤改変による)プロットの陳腐さはいかんともしがたいと思う。原作、脚本、美術、撮影、音楽などどれもすばらしい素材が揃ったにもかかわらず、センスの悪い使い方のせいで台無しになった……という印象しか残らなかった。
1951年ヴェネチア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』
竹林軒出張所『用心棒(映画)』
竹林軒出張所『蜘蛛巣城(映画)』
竹林軒出張所『天国と地獄(映画)』
竹林軒出張所『デルス・ウザーラ(映画)』
竹林軒出張所『三度目の殺人(映画)』
竹林軒出張所『キャメラマンMIYAGAWAの奇跡(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-14 07:05 | 映画

『事件』(映画)

事件(1978年・松竹)
監督:野村芳太郎
原作:大岡昇平
脚本:新藤兼人
出演:丹波哲郎、芦田伸介、大竹しのぶ、永島敏行、松坂慶子、渡瀬恒彦、佐分利信、西村晃、山本圭、北林谷栄、佐野浅夫、乙羽信子、森繁久彌

よくまとまった法廷劇

b0189364_19081595.jpg 大岡昇平原作の同名小説の映画化作品で、法廷ものである。バーの美人ママ(松坂慶子)が山林で殺害された事件について、弁護士が真相を探るというストーリー。
 舞台はそのほとんどが法廷で、証言、あるいは回想で真実が見えてくるようになっている。真相が分かりやすく、しかも過剰に説明的にならずに事件のいきさつが説明されており、よくまとまった良いシナリオだと思う。おかげさまで、アメリカ映画の法廷ものでありがちな、意味不明な箇所が最後まで残るということはなかった。
 演出は野村芳太郎の推理ものらしく、非常に正攻法で、取り立ててどうこう言うような部分もない。演出もオーソドックスで、性格や立場を反映した、いかにもという演出で登場するキャラクターはありふれていて面白味はないが、当然のことながら破綻はない。キャストは概ね当たり障りのない演技をしており、大竹しのぶが好演。永島敏行は『サード』の直後の出演だが、何だか冴えない野暮ったい演技だった(『サード』では好演だったが)。また、キャスティング自体も概ねありきたりで、いかにもというキャスティングばかりである。弁護士と検察官の丹波哲郎と芦田伸介は、『砂の器』や『七人の刑事』を彷彿とさせるキャラクターだし、佐分利信の判事も『判事よ自らを裁け』を挙げるまでもなく、いかにもな配役である。キャストの中で、当時おそらく俳優と配役のイメージがもっともかけ離れていたのが松坂慶子だろうが、ただこれはおそらく公開当時、「これを見ろ」というような「目玉」的なキャスティングではなかったかとも想像できる。
 地味で、それほど人に勧めたくなるような映画ではないが、見ればそれなりに楽しめる。法廷劇ではあるが、眠くなることも一切なかった。
毎日映画コンクール日本映画大賞他、日本アカデミー賞作品賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『わるいやつら(映画)』
竹林軒出張所『拝啓天皇陛下様(映画)』
竹林軒出張所『遺族(ドラマ)』
竹林軒出張所『判事よ自らを裁け(ドラマ)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『裁きは終りぬ(映画)』
竹林軒出張所『ブレイブ 勇敢なる者 前・後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『俘虜記(本)』

by chikurinken | 2018-12-13 07:07 | 映画