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竹林軒出張所

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『ボヴァリー夫人』(映画)

ボヴァリー夫人(1991年・仏)
監督:クロード・シャブロル
原作:ギュスターヴ・フローベール
脚本:クロード・シャブロル
撮影:ジャン・ラビエ
出演:イザベル・ユペール、ジャン=フランソワ・バルメ、クリストフ・マラヴォワ、トマ・シャブロル

仏文学史上最大のバカ女

b0189364_19074634.jpg 『ボヴァリー夫人』といえば有名なフランス文学で、タイトルについてはあちこちで聞くが、読んでいないため内容を知らないという「ちょっと恥ずかしい」状態が長い間続いていた。そこで意を決して、原作に忠実と言われている映画を見ることにした。本当は原作に当たるのが一番良いんだろうが、映像だと当時の風俗などが一目でわかるので、原作に忠実な映画があればぜひそちらを見てみたい、というのが僕の考え方なのである。
 この映画は、Amazonの批評を読む限り「もっとも原作に忠実」ということらしいので、ボヴァリー代表としてこの作品を選んだ。確かにストーリーについては原作に忠実に作られているようで、そういう点では満足感が高い。ただし原作のテイストがこういったものなのかどうかはわからない。この映画では主人公のエマ・ボヴァリーは相当なバカ女で、もちろんそういった愚かな部分は誰にでもあり、そういう人間の愚かさ(特に女性的な部分)を集めた人物像としてフローベールが描いたとも考えられるが、本当のところはやはり原作を読まなければわからないということになる。ともあれ僕は、この史上最大とも言えるバカ女に興味を持ったのは確かで、周辺のいろんな人間を彼女に投影しながら見ていたのであった。最低限、自分をボヴァリー夫人に投影しないで済むような人生を送らなければなるまいとは思う。
 このボヴァリー夫人、どういう話かというと、比較的裕福な医者と結婚したエマが、現状に飽き足らず、婚外恋愛する上、洋服やなんかに散財して身を滅ぼすという、今の時代結構良くある話である。ただディテールが細かく描かれているため、ありきたりとか陳腐というような印象はまったくない。前半はかなり退屈したが、後半は「バカな女だ」と思いつつも彼女の人生をしっかり最後まで見届けることができた。原作では、その後の夫、ボヴァリーの生涯も描かれるようで、この夫の方にも問題があるような描写になっているようだ。映画ではナレーションで軽く触れられているだけで、特に夫側の問題点は感じられない。主役のイザベル・ユペールが原作の「エマ」と比べると少々年を取り過ぎているようだが、そのあたりもあまり気にならない。要はうまくまとめられた作品ということで、『ボヴァリー夫人』の映像化作品としてはベストの部類に入るんじゃないかと思う(他の作品は見ていないが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『レ・ミゼラブル (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『ゴリオ爺さん(映画)』
竹林軒出張所『赤と黒(映画)』
竹林軒出張所『レディ・チャタレー(映画)』

by chikurinken | 2018-02-21 07:07 | 映画

『いそしぎ』(映画)

いそしぎ(1965年・米)
監督:ヴィンセント・ミネリ
原作:マーティン・ランソホフ
脚本:ダルトン・トランボ、マイケル・ウィルソン
出演:エリザベス・テイラー、リチャード・バートン、エヴァ・マリー・セイント、チャールズ・ブロンソン、モーガン・メイソン

熱い熱い不倫メロドラマ

b0189364_20402695.jpg テーマ曲「The Shadow of Your Smile」がやけに有名な映画。ただし僕自身は内容について一切知らず、キャストすらまったくの未知だった。たまたま以前録画していたものを、録画以来数年ぶりに今回見てみたというもの。
 牧師であり私立学校の校長である既婚者の主人公、エドワード(リチャード・バートン)が、素朴な自然志向を持つワイルドな美女、ローラ(エリザベス・テイラー)と恋に落ち、あれやこれやするという、割合ありきたりの不倫もの。ストーリーはありきたりだが、ただ一つ違っていたのは、主役の2人、リチャード・バートンとエリザベス・テイラーが、この映画のちょっと前に同じように不倫関係になりその後結婚していたということなのだ。実生活をそのまま映画に移植したという見方も可能で、よくこんな映画作ったなという代物である。適役と言えばまさに適役ではある。
 監督はライザ・ミネリの父にしてジュディ・ガーランドの夫、ヴィンセント・ミネリ。脚本は『ローマの休日』のダルトン・トランボ。チャールズ・ブロンソンが芸術家として脇役で出ているのが新鮮っちゃあ新鮮。映画自体は、あまり特筆するようなこともなく、熱い熱いメロドラマで終始する。
 なおタイトルになっている「いそしぎ」とは(僕もずっと疑問だったんだが)海辺に住む鳥のことで、漢字で書くと磯鴫ということになる。磯に棲息するシギである。ストーリーの中で重要なモチーフとして使われており、登場人物とシンクロしていくところからタイトルとして用いられたんだろう。凝ったタイトルとも言える。
★★★

参考:
竹林軒出張所『クレオパトラ(映画)』
竹林軒出張所『熱いトタン屋根の猫(映画)』

by chikurinken | 2018-02-19 07:40 | 映画

『花園の迷宮』(映画)

b0189364_20114249.jpg花園の迷宮(1988年・東映)
監督:伊藤俊也
原作:山崎洋子
脚本:松田寛夫
撮影:木村大作
美術:西岡善信
音楽:池辺晋一郎
出演:島田陽子、工藤夕貴、野村真美、黒木瞳、名高達郎、内田裕也、江波杏子、中尾彬、寺田農

カメラはよく動き
島田陽子は体を張る


 この映画が撮影された1987年、僕自身バイトで東映京都によく出入りしていて、その関係でこの映画の冒頭部分のシーンの撮影に1日だけ関わることになった(言うまでもないがこの映画は東映京都で撮影されている)。どういうシーンかというと、主演の島田陽子が、今は廃墟となった遊郭に現れ、吹き抜けの3階からエレベーターで1階に降りる間に、廃墟だったはずの遊郭がかつての華やかなりし姿に変わり、繁栄時の情景になるという長回しのシーンである。最初は1階部分に解体業者が見えたりするんだが(3階からの遠景)、1階に主人公が降りたときは男女が同じ1階フロアでダンスを繰り広げているという具合で、彼女が移動する間に時間を遡るというなかなか凝りまくったカットである。このカット、一切中断することなく5分以上続き、しかもそのまま、この映画の鍵になる登場人物たち(工藤夕貴、野村真美、黒木瞳、名高達郎ら)が現れ紹介されていくという、密度の高い映像になる。途中でNGを出したら、それこそこの長回しを何度も繰り返さなければならないという、キャスト、スタッフにとってはかなり荷が重いシーンである。
 このシーンの撮影の日、現場には、この短い間に背景を転換させるため、バイトが午前中から30〜40人ほど入れられていた。僕もその中の一人で、廃墟からゴージャスな遊郭への転換を人海戦術で行っていくという算段である。今だとCGを使って簡単にできたりするんだろうが、当時はすべて手作業である。学生バイトが、それぞれの担当区画に(カメラに映らないように)陣取って、監督の合図にあわせて背景を転換させていくという流れになる。この練習を何度か重ねた後、俳優を交えてのリハーサル、本番という具合に進んでいったように記憶している。で、やはりそれなりに時間がかかり、何度も取り直しを繰り返して、結局終わったのは夜の11時頃だった。映画というのはテレビの撮影と違ってさすがに手間をかけるものよと感心したのだった。それに何より、スタッフたちが実に楽しそうに仕事をしており、現場の士気が非常に高かったのが印象的だった。イヤー映画って本当に良いもんですねと感じたものである。
 さて、その冒頭シーン。一体どういうものができあがったのかわからないまま、これまでこの映画をずっと見そびれていた。そしてとうとう、万を持しての鑑賞ということにあいなったのだった、今回。30年ぶりである。
 映画作品として見てみると、このシーン、かなりインパクトがある導入シーンである。この冒頭シーンも(島田陽子を追って)カメラがよく動いていたが、他にも部屋を結ぶ導管の中をカメラが動くというようなシーンがあり、総じて撮影がかなり凝っていると感じる。また、遊郭内部の美術も非常によくできていて、セットの完成度も高い。シナリオも、ストーリー展開の上からは過不足なく、ストーリーを追うには十分である。こういったミステリー作品は、ともするとどういう風に進行しているのかがわからなくなったり、あるいはあまりに単純過ぎたりするきらいがあるが、そういう点では申し分ない。
 また俳優、特に島田陽子の演技がすごく、バケツで水をぶっかけられるわ頭を浴槽に浸けられるわ蹴られるわ殴られるわ(本当には殴られていないと思うが)で、顔もいびつに歪んだり、あるいは恐ろしげな声で叫んだりする。当時の島田陽子の清純なイメージが完全に覆されるような体当たり演技である。よくこんな仕事を引き受けたなという類のかなりの肉体派の役どころと言える。僕は最初のシーンの撮影時、島田陽子のすぐ横に控えていて、例によって清純なイメージのままの島田陽子だったんで、こんな映画であるとはつゆ知らなかった。今回見て、女優の凄みみたいなものを彼女に感じた。まったく恐れ入った。さすが国際派女優である。
 このように結構見所が多い作品なんだが、どうも竈焚き(内田裕也)の心情の変化がうまく描かれておらず(この映画の中で非常に重要な要素である)、そういう点で、終わった後に結構頭の中にクエスチョンマークが飛びかった。最後の方の収束方法も何となくうまく収めているように思えるが、やはり少し矛盾が残る。また時代背景も太平洋戦争中の横浜に変わっている(原作は戦後ということだ)が、そのあたりも冒頭のシーンと非常に折り合いが悪くなっていて、何だか整合性がない。終わってからよくよく考えてみると、あちこちがストーリー的に結構破綻しているという印象が残る。
 全体的に非常によくできた映画であるため、その辺を何とかうまくまとめ上げたら、グレードがさらに上がっていたのではないかと感じるような、そういう類の惜しい作品である。ただし、深く考えずに普通に見れば、目を留めるようなシーンも多く、十分楽しめる作品ではないかと思う。何より冒頭シーンだけでも楽しめるような気がする。ちなみに僕は、このシーンだけでも4、5回見た。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『利休(映画)』
竹林軒出張所『劔岳 点の記(映画)』

by chikurinken | 2018-02-17 07:11 | 映画

『麥秋』(映画)

麥秋(1951年・松竹)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
出演:原節子、笠智衆、淡島千景、三宅邦子、菅井一郎、東山千栄子、杉村春子、二本柳寛、佐野周二、宮口精二、高橋豊子、高堂国典

桐箱に入った芸術作品みたいな品格がある

b0189364_18253274.jpg 小津安二郎の中期の代表作。これも嫁入り話で、その後の小津映画(『東京物語』、『お早よう』、『彼岸花』、『秋刀魚の味』)に展開していくさまざまな要素がこの映画の中に凝縮されているという点でも、小津映画の画期の作品と言える。
 今回見たのはNHK-BSで放送されたデジタルリマスター版だが、まずその画面の美しさに驚いた。以前見た『東京物語』と同様、画面のブレがなく、しかもコントラストがシャープで、端的に言えば30歳くらい若返ったという印象である。非常に良い仕事である。ただし問題点もなくはなく、音声が非常に聴き取りにくいという難点がある。聴き取りにくさは黒澤映画なみで、当時の機材のせいかどうか知らないが、こちらももう少しリマスターできなかったものかと感じる。大変惜しい点である。
 今回見た『麥秋』だが、画面がきれいになって映像が安定しているためかどうかわからないが、以前より強い印象を受けた。原節子が演じる紀子も、過剰に理想化されておらず、原節子のイメージによく合っていると感じる。そのため自然な等身大の人物像になっていて大変好ましい。淡島千景も若々しくて魅力的である。笠智衆は、他の小津映画と異なり、世代が一つ下になっているのが興味深い(原節子の兄役)。この2年前に撮影された『晩春』では原節子と親子だし、2年後の『東京物語』でも義理の親子である。しかもこの作品では東山千栄子の息子役と来る(『東京物語』では夫婦役)。それでも何とか収まっているのが摩訶不思議なところだ。なお笠智衆は1904年生まれ、原節子は1920年生まれなので、実際には親子というには近すぎる。さらに言うと東山千栄子は1890年生まれで、こちらも夫婦だと少し無理がある。結局のところ、小津映画では笠智衆がかなり幅広い年齢を演じているというところに落ち着く(多くは老人役だが)。
 今回もう一つ目に付いたのは、カメラが移動するカットがいくつかあった点で、小津映画(特に後期)というとカメラ据え付けみたいな印象があるため、意外な感じがした。ただカメラが移動するカットの後に、シーンが変わって移動撮影で繋がるというような遊びが随所にあって、これなど小津らしいユーモアが感じられるのである。また、あるシーンを正面から撮影し、次のカットでその裏面からの撮影と続くようなシーンも結構多かった。こういうシーンは後期の小津映画ではあまりないように思う。一般的な映画ではありきたりかも知れないが、書き割りみたいなシーンが多い後期小津映画では逆に新鮮に感じる。
 このように自分なりの新しい発見があちこちにあったのは、リマスターできれいな画像になっていたせいかも知れない。そういう意味でも、リマスター技術の素晴らしさをあらためて実感したのだった。前にも書いたが、この映画についても、修復された美術工芸のような印象があり、桐箱に入った芸術作品みたいな品格もある。ブルーレイディスクを買って手元に置いておきたくなるような気さえする。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえった「東京物語」』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『彼岸花(映画)』
竹林軒出張所『お早よう(映画)』
竹林軒出張所『秋日和(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』

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 以下、以前のブログで紹介した『麥秋』のレビュー記事。

(2005年11月22日の記事より)
b0189364_18253549.jpg麥秋(1951年・松竹)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
出演:原節子、笠智衆、淡島千景、杉村春子、三宅邦子、菅井一郎、東山千栄子、二本柳寛、佐野周二、宮口精二

『東京物語』と並んで小津安二郎の傑作と目される映画だが、もう一つピンと来なかった。悪くはないが、あまり感情移入できないというか……。
笠智衆と子どもたちの親子関係はこの後『お早よう』へ、原節子の嫁入りばなしは『彼岸花』、『秋刀魚の味』へと展開していくことになる。いわば原点となった映画。このあたりの作品から小津調が出てくるようだ。
ちなみに東山千栄子と笠智衆は、この映画では親子の役だが、『東京物語』では夫婦の役になる。でもあまり違和感がないのは不思議。
★★★

by chikurinken | 2018-02-05 07:25 | 映画

『山の音』(映画)

山の音(1954年・東宝)
監督:成瀬巳喜男
原作:川端康成
脚本:水木洋子
出演:原節子、山村聡、上原謙、長岡輝子、杉葉子、丹阿弥谷津子、中北千枝子、金子信雄

キレイキレイな内容のスーパーダイジェスト

b0189364_17524057.jpg 川端康成原作の同名長編小説を映画化した作品。当初「義父から嫁に対する恋情」の映画と聞いていたんだが、この作品では、夫に虐げられる嫁を支援する優しい義父という描き方で終始している。この義父の中に恋情を感じるのはちょっと無理かなと感じる。ただし原作では確かに恋情として描かれているらしい。映画ではあちこちが端折られているようで(原作を読んでいないので正確にはわからないが)、そのためかなんとなく気が抜けたビールみたいな物足りなさがあちこちに残る。
 そもそもなぜこの主人公の嫁、菊子が最終的にこのような結論を下したのかが、この映画からはなかなか見えてこない。原作では夫のことがもっと詳細に描かれているようで、そのあたりも合点が行くように描かれているらしい。また義父についても、嫁に恋情を持つ過程や動機がしっかり描かれているらしいが、そのあたりもこの映画では完全に抜け落ちている。結局人間の汚い部分を全部排除して、浄化したような部分だけが残ったわけで、小説の映画化作品としてははなはだ大きな問題が残る。成瀬巳喜男らしくそつなくまとまってはいるが、結局(ヤルセナキオと言われた成瀬巳喜男だけに)やるせないだけで終わってしまうという結果になった。
 主演の夫婦は、上原謙と原節子で、同じ監督の『めし』と同じキャスティングでしかも設定も似ている。ただしこの映画の登場人物、菊子については、夫が「いつまでも子ども」と語っているにもかかわらず、原節子にあまり子供っぽさが漂ってこないんで、少しミスキャストだったような気がする。義父役は山村聡だが、「嫁への恋情」ということで『瘋癲老人日記』で演じていた瘋癲老人を想像していたが、この映画ではまったく違っていて、知的かつ聡明で温厚な老紳士になっていた。山村聡らしい役柄ではあるがキャラ設定としては少々物足りない。また山村は上原謙の父の役を演じていたが、実際は山村聡と上原謙はほぼ同い年(上原謙の方が数カ月年上)で、そういう点では結構強引なキャスティングとも言える。
 今回見たのはNHK-BSで放送されたものだが、画像があまり良くなく、途中画面全体からピントが外れるシーンなどもあった。リマスター版があるかどうか知らないが、もう少し何とかならないものかと感じた。
★★★

参考:
竹林軒出張所『めし(映画)』
竹林軒出張所『瘋癲老人日記(映画)』
竹林軒出張所『流れる(映画)』
竹林軒出張所『浮雲(映画)』
竹林軒出張所『稲妻(映画)』
竹林軒出張所『乱れる(映画)』
竹林軒出張所『放浪記(映画)』
竹林軒出張所『女が階段を上る時(映画)』

by chikurinken | 2018-02-04 06:52 | 映画

『小説吉田学校』(映画)

小説吉田学校(1983年・東宝)
監督:森谷司郎
原作:戸川猪佐武
脚本:長坂秀佳、森谷司郎
撮影:木村大作
出演:森繁久彌、芦田伸介、小沢栄太郎、竹脇無我、池部良、夏目雅子、若山富三郎、西郷輝彦、高橋悦史、角野卓造、梅宮辰夫、藤岡琢也

再現ドラマとしてはよくできている

b0189364_17442580.jpg 第2次吉田茂内閣から第5次吉田内閣までの激動の時代を、保守政党、自由党の内部の抗争という視点で描く。主人公はワンマン宰相、吉田茂(森繁久彌)で、各国との講和を通じた日本国の独立に執念を燃やし実現するが、その後、総理の地位に固執し、公職追放から復帰してきた自由党の重鎮、鳩山一郎(芦田伸介)を支持する一派と対立する。三木武吉(若山富三郎)を筆頭とする鳩山支持派はその後自由党から離党し日本民主党を結成、吉田を追い落とすことに成功した後、自由党と再び合同して自由民主党を結成し、55年体制が始まるという流れである。
 映画では、サンフランシスコ講和条約を締結するまで(つまり日本国が独立を果たすまで)がモノクロ、それ以降がカラーというやや安直な演出になっている。もっともわかりやすいと言えばわかりやすい。基本的にこの映画、再現ドラマであり、こういうことが起こったよというのを利害関係のみに着目してなぞっていくというコンセプト(だと思う)。したがって、人間の内面などは特に描かれず、描かれるのは野望と陰謀、それもかなり美化されたものであるため、ドラマとして見るには少々鼻白んでしまう。
 ただ、今回は日本現代史の勉強のつもりで見たので、意外に楽しめたのであった。何よりそれぞれのキャストがモデルとなった登場人物によく似ているのが印象的である。森繁久彌の吉田茂、芦田伸介の鳩山一郎は言うに及ばず、竹脇無我の佐藤栄作(もちろん佐藤栄作はあんなに男前ではないが雰囲気が非常に似ている)、高橋悦史の池田勇人などは非常に秀逸である。角野卓造の宮沢喜一まで何だか雰囲気が似ていたし、西郷輝彦の田中角栄は顔は全然違うが、しゃべり方が似ていてこれも非常に雰囲気が出ていた。バカヤロー解散も再現されていたことだし、再現ドラマとしてはかなりよくできていると言って良い。そのため、日本現代史を勉強したい受験生(受験生でなくても良いけど)にはうってつけの素材と言えるかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『八甲田山(映画)』

by chikurinken | 2018-02-03 07:44 | 映画

『ダンケルク (2017年版)』(映画)

ダンケルク(2017年・英米仏)
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード、ジェームズ・ダーシー

めくるめくジェットコースター映画

b0189364_18564312.jpg 「ダンケルクの戦い」は、英国人にとって格別な思い入れがあるらしい。1940年、大陸に渡ったイギリス軍がドイツ軍に迎撃され、ダンケルクから命からがら海路でブリテン島に引き上げたときに起こったのがこの「ダンケルクの戦い」である。この撤退作戦自体はダイナモ作戦というらしい。言ってみれば屈辱的な撤退であり、これ以後連合軍は臥薪嘗胆の境地で、ドイツへの反撃を誓ったのではないかと想像する。
 そのためか、今を去ること50年前の1964年にも、これを題材にした映画が作られている(竹林軒出張所『ダンケルク (1964年版)(映画)』を参照)。この2017年版『ダンケルク』も基本的なアプローチは前作と同様で、ダイナモ作戦に参加した兵士の視点でダンケルクの戦いを体感するというコンセプトである。この映画では特に戦場の描写が生々しく、映画が始まると同時に戦場に放り込まれる。兵士たちがダンケルクから脱出するまでが描かれるわけで、100分にわたって、その過程をヒヤヒヤしながら見てくれという、言ってみればジェットコースター・タイプのアトラクション映画である。
 主役級のキャラクターが何人かいて、映画は同時進行でカットバックしながらこれらのキャラクターを追っていく。有名な役者なのか知らんが、僕自身はどの役者もまったく知らなかったため、他の登場人物との区別が付かなかった。
 戦場の描写は素晴らしいし、終始ハラハラドキドキではあるが、戦場の再現以上のものはまったく感じられない。これはドラマなのか、あるいは単なるアトラクションなのか判然としないような映画で、映画の再定義が必要になるのではないかという類の作品であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ダンケルク (1964年版)(映画)』
竹林軒出張所『炎628(映画)』
竹林軒出張所『プライベート・ライアン(映画)』
竹林軒出張所『フルメタル・ジャケット(映画)』
竹林軒出張所『スターリングラード(映画)』

by chikurinken | 2018-01-17 06:56 | 映画

『グラディエーター』(映画)

グラディエーター(2000年・米)
監督:リドリー・スコット
原作:デヴィッド・フランゾーニ
脚本:デヴィッド・フランゾーニ、ジョン・ローガン、ウィリアム・ニコルソン
出演:ラッセル・クロウ、ホアキン・フェニックス、コニー・ニールセン、オリヴァー・リード、リチャード・ハリス、デレク・ジャコビ、ジャイモン・フンスー

b0189364_17224396.jpg史実とは大分違う

 古代ローマ時代を舞台にした映画。主人公は、マルクス・アウレリウス帝から次の帝位を口頭で譲られた北方将軍マキシマス(ラッセル・クロウ)。このマキシマスが、マルクス・アウレリウス帝の息子で本来であれば世継ぎであるはずのコモドゥスから陥れられ、命からがら逃げ出したは良いものの奴隷に身を落とし剣闘士になって、コモドゥスに対する復讐を誓うというストーリー。端的に言ってしまえばスーパーマンが悪を倒すという話である。マルクス・アウレリウスやコモドゥスなど、実在の人物が登場してくるが、史実とはかなり食い違っている(というより、かなりねじ曲げられている)。森鴎外の「歴史そのままと歴史離れ」の議論に関わりそうなストーリーである。それに元将軍が、処刑され家を失ったために奴隷に身を落とすというのも、ちょっと無理があると感じる。もっともこれを否定してしまうとストーリーが成り立たない。
 作品自体は、古代ローマの風俗や景観は大変見事に再現されており、しかもスペクタクルに溢れていて、よくできたハリウッドらしい映画である。『ベン・ハー』を思わせるようなシーンもあり、エンタテイメント歴史映画として非常に優れている。戦闘シーンも大変迫力があり、カタパルトやバリスタが登場するなど、古代ローマ・ファンならば(そういうのがいるかどうかはわからないが)大喜びしそうな作品である。ただし話ができすぎで、見終わった後でよく考えてみるとそうはうまく行かないでしょと感じてしまう。とは言え、見ている間は、先がなかなか読めないため、そういう意識は働かない。映画として見せる分にはこういったやや予定調和的なストーリーでもOKかなと思える。
 本作は、『ベン・ハー』や『スパルタカス』などと並ぶ、歴史を感じさせるハリウッド・エンタテイメントと位置付けることができるだろうが、この2作に引けを取らない出来栄えの作品に仕上がっていて、存分に楽しむことができる。もちろん先ほど言ったようなことが気になりはするんだが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』
竹林軒出張所『スパルタカス(映画)』
竹林軒出張所『アレクサンドリア(映画)』
竹林軒出張所『キングダム・オブ・ヘブン(映画)』
竹林軒出張所『デュエリスト - 決闘者(映画)』
竹林軒出張所『ブレードランナー ファイナル・カット(映画)』
竹林軒出張所『クレオパトラ(映画)』
竹林軒出張所『サテリコン(映画)』
竹林軒出張所『エジプト人(映画)』

by chikurinken | 2018-01-16 07:22 | 映画

『破戒』(映画)

破戒(1962年・大映)
監督:市川崑
原作:島崎藤村
脚本:和田夏十
撮影:宮川一夫
音楽:芥川也寸志
出演:市川雷蔵、長門裕之、船越英二、藤村志保、三国連太郎、中村鴈治郎、岸田今日子、宮口精二、杉村春子、加藤嘉、浜村純

日本の自然主義の夜明け

b0189364_16205495.jpg 島崎藤村原作の同名タイトルの小説を映画化したもの。被差別部落出身の主人公の葛藤と逡巡を描いた野心作である。主人公以外にも、社会の底辺で蠢く人々が登場し、自然主義の面目躍如である。日本の自然主義文学の先駆けと言われるのも納得。
 ストーリーは、特に終わりの部分が原作と若干異なるようだが、ほぼ原作を踏襲していると見て間違いあるまい。なんと言っても主演の市川雷蔵が名演で、表情の変化が見事である。猪子蓮太郎役の三國連太郎も凄みと存在感がある。中村鴈治郎、岸田今日子あたりは市川崑作品の常連で、鴈治郎は『炎上』『雁の寺』の住職と同じような役回りである。こういうような役柄があれば、では鴈治郎さんというような話になっていたんだろうか。もちろん、やけに嵌まってはいるが。
 撮影の宮川一夫と音楽の芥川也寸志もそれぞれ「らしい」表現があり、安定感がある。この2人、『おとうと』『ぼんち』などでもそうだが、この頃、市川崑とよく仕事をしているようだ。
 途中まで緊迫感が持続していたが、終わりの方がやや停滞気味になりまだるっこしくなってしまった。そのあたりが惜しい部分ではあるが、文芸作品の映画化としてはできの良い作品と言えるのではないかと思う。当時こういった文芸作品を立て続けに映画化した大映という会社に対しては、その功績に対して大いに敬意を払いたいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『おとうと(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』

by chikurinken | 2018-01-14 07:20 | 映画

『天国と地獄』(映画)

天国と地獄(1963年・東宝)
監督:黒澤明
原作:エド・マクベイン
脚本:小国英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明
出演:三船敏郎、仲代達矢、山崎努、木村功、加藤武、三橋達也、香川京子、江木俊夫、佐田豊、島津雅彦、石山健二郎

よくできたエンタテイメント作品

b0189364_20421403.jpg 黒澤明のミステリー映画。エド・マクベインの『キングの身代金』が原作で、背景や事件を借用しているらしい。そのため、株の買い占めによる企業乗っ取りが出てきたりして、おそらく当時の日本ではかなり目新しい話題ではなかったかと思う。また、身代金の受け渡しシーンにも緊迫感があり、また受け渡しのトリックや犯人発覚のトリックもよくできていて、エンタテイメントとして楽しむことができる。途中『戦艦ポチョムキン』風の演出が出てきたりするのもご愛敬。
 僕がかなり気になったのは、根幹の部分だが、イイモンとワルモンが非常に明確に分かれていて、イイモンは徹底的に良い人、ワルモンは意味もなく徹底的に悪い人で、超勧善懲悪だった点である。そんな単純な割り切り方をしてしまったら、話に奥行きも何もなくなるだろうと思うがどうだろう。ヘロイン中毒者の貧民窟の描写も何だかありきたりで、見ていて少々バカバカしくなる。医学生のインターンが非常に貧しいというのも今ではなかなか考えられない設定で、時代だなと感じてしまう。
 キャストは、その多くが黒澤映画の常連で、それまで黒澤映画で主演クラスを務めている志村喬、藤田進、千秋実、東野英治郎、伊藤雄之助あたりがチョイ役で出ているのは、黒澤明らしい無駄使いと言える。俳優たちに対して敬意を欠いているのではないかという感覚を持つのは僕だけか知らんが、そう言えば『赤ひげ』でも笠智衆がチョイ役出ていて、小津映画のファンだった当時の僕はかなり不快に感じたものだ。セリフも「これで良い、これで良い。さ、杯じゃ」だけだったと思う。役者をコマぐらいにしか感じていないのだろうかと思ってしまう。
 なお、この映画では、三船敏郎が例によって好演。大変魅力的な重役を演じている。山崎努も存在感があって良い。仲代達矢は、感情を表に出さないのっぺりした演技に終始していた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『デルス・ウザーラ(映画)』
竹林軒出張所『蜘蛛巣城(映画)』
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』
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by chikurinken | 2018-01-13 07:41 | 映画