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竹林軒出張所

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『仁義なき戦い』(映画)

仁義なき戦い(1973年・東映)
監督:深作欣二
原作:飯干晃一
脚本:笠原和夫
出演:菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、田中邦衛、渡瀬恒彦、伊吹吾郎、金子信雄、木村俊恵

「殺伐」を絵に描いたような映画

b0189364_20505497.jpg 戦後まもなくの「広島ヤクザ抗争」を描いた映画。
 ヤクザ同士の壮絶な報復合戦、殺し合いを生々しく描く作品で、組の間、派閥の間のもめ事をなんとか丸く収めようと奮闘する仁義の人、主人公の広能昌三(菅原文太)の生き様が描かれる。正義のない世界で義を通そうとするあたりは、これまでの東映ヤクザ映画と同様だが、実際の抗争劇をリアルに描いた点が当時新しく、そのためにかなり話題になった映画である。
 全編息つく間もなく展開され、やるかやられるかみたいな緊張感がずっと持続するため飽きることはない。ただ群像劇で登場人物が多いため、誰が誰やらよくわからなくなり、劇中で名前で呼ばれてもあまりピンと来ないという場面が多かったのも事実。それに当然だが殺伐とした映画で、あまり楽しいというような映画でもない。
 ましかし、登場人物がどれも特徴的で、魅力あふれる人物像になっているのは、この作品の大きな魅力である。主人公の広能がこの後どうなるか気になるところだが、この『仁義なき戦い』は結局第5シリーズまで続き、さらには新シリーズも3作作られているため(広能は新シリーズ第1作まで登場)、ずっと生き延びるってことなんだろう。
 なおこの作品の原作は、飯干晃一原作ということになっているが、本当のオリジナルは広能のモデルである美能幸三が獄中で書いた手記らしい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『仁義なき戦い 広島死闘篇(映画)』
竹林軒出張所『青春の門 (東映版)(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 唐獅子牡丹(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 死んで貰います(映画)』
竹林軒出張所『冬の華(映画)』
竹林軒出張所『ザ・ヤクザ(映画)』
竹林軒出張所『女囚701号 さそり(映画)』

by chikurinken | 2019-09-18 06:50 | 映画

『女囚701号 さそり』(映画)

女囚701号 さそり(1972年・東映)
監督:伊藤俊也
原作:篠原とおる
脚本:神波史男、松田寛夫
出演:梶芽衣子、横山リエ、夏八木勲、渡辺文雄、扇ひろ子、渡辺やよい

歌舞伎ですな、こりゃ

b0189364_17565675.jpg 梶芽衣子の当たり役、ナミが出演するシリーズ最初の作品。『キル・ビル』のクエンティン・タランティーノが多大な影響を受けたという映画で、今回初めて見た(『キル・ビル』ではこの映画のテーマ曲〈『恨み節』〉がテーマ曲として使われている)。
 最初からあまり期待はしていなかったが、しかしストーリーがあまりにいい加減でご都合主義なのには参った。こんなストーリーにしてしまったらどんなことでも成立してしまうというような代物である。
 主人公の松島ナミ(梶芽衣子)は、警視庁の麻薬検査官をやっている杉見(夏八木勲)に騙され棄てられたことから、杉見を刺そうとするが、傷害未遂で捕まってしまい刑務所に入れられた。彼女が入った刑務所は、暴力がはびこる過酷な環境であるが、ナミは、杉見への復讐を遂げたいという執念で何度も脱走を企て、その都度つかまり、しかも過酷な拷問を受ける。そのため刑務所内では札付きとして扱われるが、なぜかわからないがその過程で徐々にスーパーウーマン化し、どんな拷問でも黙って耐えられるようになっていく。しかも独居房に入れられたら入れられたで、そこに潜んでいた女囚人、実はナミの秘密を探るために潜入した女刑務官までも性的に支配してしまう始末(何だか本当によくわからない展開)。他の刑務官たちは執拗にナミを拷問にかけるが、その目的がよくわからないし(単にいじめるためではないようだ)、とにかくありとあらゆるものが説明不足でご都合主義的に展開する。それでも半裸の女性を拷問したり、暴行したり、レズシーンもあったりするため、その趣味の男向けの一種のポルノ映画として見れば、これはこれで十分成立している。
 結局、刑務所内であれやこれやあって、ナミはご都合主義的に脱走しシャバに出て、どこで手に入れたかわからないが謎めいた格好をして、恨みを晴らしていく。要するにストレスを溜めて最後に晴らすという典型的な復讐パターンの映画で、おそらく作り手が見せたい場面というのがあってそれを繋いでいく、大事な場面だけを強調して後は辻褄などを一切無視して適当に並べるという、言ってみればかなり稚拙な作りになっているわけである。見せたい場面というのも、非常に様式的で、リアリティもへったくれもあったもんじゃない。奇妙な照明の中で、決めポーズみたいなショットがあって、目的を遂げて最後に見得を切るというようなパターンである。完全に歌舞伎の世界である。
 エロなシーンやドンパチのエンタテイメント的なシーンもあるし、歌舞伎のような荒唐無稽な映画として見ればそれで済むんだろうが、それでも舞台じゃないんで、映像でこういったことをされてしまうと、僕などは途端に白けてしまう。リアリティがなさすぎで、もう無茶苦茶と感じるのである。こうなってしまうと、真剣に作品に向き合うことができなくなる。そういうわけで、僕にとってはまったく取るに足りない映画なのだった。
★★

参考:
竹林軒出張所『仁義なき戦い 広島死闘篇(映画)』
竹林軒出張所『仁義なき戦い(映画)』
竹林軒出張所『同棲時代(ドラマ)』

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 以下、以前のブログで紹介した『キル・ビル』についての評(再録)。

(旧ブログ2005年1月22日の記事より)
キル・ビル vol.1(2003年・米)
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、ダリル・ハンナ、千葉真一、風祭ゆき、栗山千明、ジュリー・ドレフュス

b0189364_9495437.jpg 「深作欣二に捧げる」という字幕が冒頭に出る。なるぼど深作欽二ね。確かにそういう映画です。
 30代以上の日本人が見たらいっそう楽しめるかも知れない。かつてのアニメやB級時代劇のパロディというかオマージュというか、とにかくそういうのが満載。音楽や効果音、映像なども凝っていて、いろいろ発見する楽しみがある。
 こういう殺伐とした映画は好みが別れると思う。はっきり言って私は嫌いだが、それでも随所に楽しめる要素がちりばめられており、思わずニヤッとしてしまう。
 端役で出ている風祭ゆきの名前が、冒頭のテロップで主役級の役者と同等に並べられていた。日活ロマンポルノでものすごい演技をしていた女優であるが、タランティーノも日活ロマンポルノを見たのだろうか。何となく、タランティーノが同世代の日本人映画ファンであるかのような錯覚を持ってしまう。
 蛇足であるが、主役級のアメリカ人がしゃべる奇怪な日本語はいただけない。あのトツトツとした日本語を聞くと興が冷める。そもそも、こんな(外国人がしゃべるには)無理のある台詞を、日本語がしゃべれない役者にしゃべらす方が問題だ。日本向け上映については、その部分だけ日本人の声優に吹き替えてもらった方が良いんじゃないかと思った。
★★★

by chikurinken | 2019-09-16 06:56 | 映画

『ガラス細工の家』(1)〜(7)(ドラマ)

ガラス細工の家(1973年・ユニオン映画)
脚本:倉本聰
演出:恩地日出夫
音楽:大野雄二
出演:岸田今日子、高橋昌也、小山渚、高橋長英、大門正明、熊谷俊哉、小池朝雄、橋爪功、名古屋章(ナレーター:矢島正明)

倉本聰流の『天国と地獄』

b0189364_20565358.jpg 子どもの身代金誘拐事件に揺れる医師の家庭を描くドラマ。
 1時間枠×全7回のドラマだが、最初から最後まで、ほぼ全体に渡って誘拐事件の顛末が描かれるため、全体的にかなり間延びしたドラマになっている。適度に緊迫感があるため、それほどだれることはないかも知れないが、今の感覚から行くと、展開の速度が遅すぎると感じる。
 身代金誘拐事件のドラマというと、黒澤明の『天国と地獄』を思い出すが、このドラマもあの映画同様、よくできた設定になっている。たとえば、犯人からの通信に伝書鳩が使われるとか、脅迫状が和文タイプライターで作られるとか、なかなかユニークなギミックが使われている。ただ、肝心の現金の受け渡しはどうするのかという部分が非常に気になるところであった。『天国と地獄』では、そのあたりの構成が非常によくできていて感心したわけだが、このドラマの場合も、その点は割によくできていて、結構意外ではあったが破綻はない。
 途中、おぼろげに犯人の見当はつくが(正解も予測できる)、動機とかいろいろな面で収束が付かなくなるんではないかと思っていたため、僕の中では、正解の犯人を犯人候補から除外していたのである。逆に言うと、そういう点でストーリー上多少無理が生じてくるが、結末がなかなか奮っていたため、一種のおとぎ話みたいな感覚で考えればオーライとも言える。とは言え、どこかしっくり来ない部分が残るのも確かである。
b0189364_20564929.jpg 子どもが誘拐されてしまう母親を演じるのは岸田今日子で、ほとんどのシーンに登場し、接写も多い(良い女優だと思うが接写に耐えるようなタイプではなかろう)。夫(高橋昌也)は勤務医だが、独立して病院を作るために目下奔走中。妻の方は家庭教師(大門正明)と関係があるという設定である。少しばかりスキャンダラスな設定で、サスペンス・ドラマの原形みたいな話である。そのせいかどうかわからないが、その後リメイクされ、『火曜サスペンス劇場』の枠で放送されている(1991年)。
 なお、ロケで使われていた邸宅は、作家、阿川弘之(阿川佐和子の父上)の家だそうである。当時の売れっ子作家はこんな大邸宅に住んでいたのかと感心する。
ギャラクシー賞第24回期間選奨受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『天国と地獄(映画)』
竹林軒出張所『私は屈しない(ドラマ)』
竹林軒出張所『わが青春のとき (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『わが青春のとき (2)〜(8)(ドラマ)』
竹林軒出張所『君は海を見たか (70年版) (6)〜(8)(ドラマ)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様(1)〜(26)(ドラマ)』
竹林軒出張所『川は泣いている (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』

by chikurinken | 2019-09-14 06:56 | ドラマ

『マンゴーの樹の下で』(ドラマ)

マンゴーの樹の下で 〜ルソン島、戦火の約束〜
(2019年・NHK)
脚本:長田育恵
演出:柴田岳志
出演:岸惠子、清原果耶、山口まゆ、大東駿介、渡辺美佐子、伊東四朗、林遣都、安藤サクラ

フィリピンでの日本統治の末期状態と
現代日本でのテレビドラマの末期状態


b0189364_21151934.jpg 岸恵子が主演ということで見てみたが、特筆すべきことは何もない陳腐なドラマであった。今のドラマなのでそれほど期待はしていなかったが、案の定である。
 太平洋戦争中の1944年にフィリピンに赴任したタイピスト、凛子(清原果耶)が現地の通訳、綾(山口まゆ)と出逢い、友情(愛情?)を育むが、やがてフィリピンにも米軍が侵攻してきて、2人は命からがら逃げ延びる。そのときにジャングルで地獄を見たりもするが(このあたりがドラマの目玉か)、結局フィリピンで終戦を迎えることになる。フィリピンでは反日感情のために辛い目にも遭うが、やがて2人は日本に戻ることができ、写真館を営むようになった。ドラマは、1989年、綾(渡辺美佐子)が死んだ直後の時点を時間軸の中心におき、凛子(岸惠子)の回想形式で展開される。
 現代のシーンでは、立ち退きの問題とか老人問題とか、あるいは不倫まがいの問題が盛り込まれるが、どれもありきたりでしかも必然性がなく、取って付けたような面白味のないエピソードばかりである。フィリピンでの窮乏シーンは、元々が経験者による手記に基づいているらしくそれなりに作られてはいるが、こちらもあまり注目するほどのものもない。若い世代に戦争の姿を伝える上では一定の役割を果たすかと思うが、しかしこの程度のドラマだったら若者にそっぽを向かれるんじゃないかとも思う。とにかくドラマ、ひいてはストーリーの質が低い。日本のドラマは末期状態だと感じざるを得ない。
 凛子と綾の関係がかなり同性愛的なんだが、そういう要素はドラマではほとんど省かれていて、これも物足りなさの一因になっている。もっとも反戦ドラマにそういうものを持ち込んだりすると(特にNHK製作だということも考えると)、またバカバカしい非難が溢れてきそうだし、作り手としては難しいところではある。しかしそれにしても、もう少し目を引くようなドラマはできないものかと思ってしまう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『鬼太郎が見た玉砕(ドラマ)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『俘虜記(本)』

by chikurinken | 2019-09-13 07:14 | ドラマ

『マタギ』(本)

マタギ
矢口高雄著
ヤマケイ文庫

「マタギ」という言葉が有名になったのは
このマンガからだ……たぶん


b0189364_21210154.jpg 「自然と人間との関わり」を描き続ける矢口高雄のフィクション・マンガ。今回テーマになっているのは、東北の猟師集団、マタギである。
 私の記憶が確かならば、「マタギ」という言葉が全国的に知られるようになったのは、矢口高雄のマンガからではないかと思う。
 矢口は1972年から『マタギ列伝』というマンガを連載していたが(評判は上々であったにもかかわらず)突然連載が中止されるという憂き目を見た。その後、別の出版社から話があり続編を描くことになった。それがこの作品、『マタギ』であるそうな(本書あとがき「マタギの思い出」より)。もちろん『マタギ列伝』と『マタギ』は完全な続きものではないが、主人公が野いちご落しの三四郎であり、その彼の冒険譚であるという点は共通である。本書『マタギ』には、この三四郎のエピソード以外に、百造というシカリ(頭領)、百造の下で働く勢子(追い出し役)の源五郎のエピソード、あるいは感動的な狐の話まであり、非常にバラエティに富んでいる。なんせこの文庫本だけで800ページを優に超えている。しかも『マタギ』の本編に加え、その後に「最後の鷹匠」という30ページ弱のおまけのエピソードまで付いている。非常に豪華な文庫本と言える。僕自身は山と渓谷社が文庫本を出していたことも知らなかったが、そこからマンガが出ていたこともつい最近まで知らなかった。それなりのお値段ではあるが、絶版ものが多い矢口作品で今でも継続的に販売しているというのは立派。ただし難点もあり、元々の文字が小さすぎたせいか、この文庫版では読むのにかなり苦しむ箇所が散見された。
 メインになっているのは、先ほども言ったように三四郎のエピソードで、この三四郎が、最終的には、小玉流という隠れ女流マタギ集団に関わることになるなど、話は奇想天外な方向に進んでいく。人が(つまりマタギがだが)鉄砲を使うことの可否まで問われるというかなり壮大なテーマにまで発展していくが、最後は収拾がつかなくなったようで突然のように終わってしまう。こういうこともあってか、著者自身はこの作品を「不肖の息子」と呼んでいるらしい(これも「マタギの思い出」より)。
 湖に怪獣が出てきたり、狐がダイナマイトを使ったりというストーリー展開はいかがなものかと思うが、ストーリー自体はどの作品もかなりよく練り上げられていて、同時に矢口高雄の自然観も巧みに表現されているなど、少年向けマンガとしては非常にグレードが高いと言える。そのためもあり、この作品は、「不肖の息子」であるにもかかわらず第五回日本漫画家協会賞を受賞することになったのだった。著者は複雑な心境だったようだが、しかし相応の賞を受けるだけの立派な作品であることは疑いないところである。
第五回日本漫画家協会賞大賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』

by chikurinken | 2019-09-11 07:20 |

『ふるさと (1)、(2)、(3)』(本)

ふるさと (1)(2)(3)
矢口高雄著
中央公論社

矢口版『北の国から』

b0189364_21201312.jpg 『釣りキチ三平』の矢口高雄が、自分の子ども時代の経験をふんだんに盛り込んだフィクションのマンガ。発表されたのが1983年から85年で、この後、自分の子ども時代をエッセイ風にまとめた作品が立て続けに出るため、この作品が、その後のエッセイ・マンガのルーツと考えても良いんじゃないかと思う。
 今回読んだのは、中央公論から出た中公愛蔵版というやや大ぶりの本で、全3巻構成、トータルで2500ページもあり、結構な大著である。
 この作品の主人公は小学生の男子で、東京で離婚した父が、息子(つまり主人公)と娘(つまり妹)を引き取り、自分の田舎に戻って田舎暮らしを始めるというストーリー。子ども達は、東京から田舎に連れてこられ当初は戸惑うが、徐々に田舎の生活にも慣れていき、生活を楽しんでいくというストーリーが柱で、これとあわせて、山村の昔からのさまざまな伝統的な習慣が紹介されていくという趣向である。ここで紹介される多くのエピソードは、著者のエッセイ・マンガ『蛍雪時代』にも登場し、ということは著者の経験をフィクションという形で結実させたのがこの作品、『ふるさと』ということができる。ただしストーリーは、本作発表の前年にテレビ放送されて話題になったドラマ『北の国から』にかなり似ており、正直あまりの類似性に驚く。b0189364_21201928.jpgもちろん、このマンガでは、伝統的な雪国の生活を描くというコンセプトで、『北の国から』と方向性は違うが、ストーリー構成があまりに似ていると、さすがにそれは無いだろと思ってしまう。もしかして矢口先生、『北の国から』に触発されて、自分なりの『北の国から』を作りたかったんだろうかと勘ぐってしまうが、本当のところはわからない。
 第1巻にはバチヘビ(ツチノコ)のエピソードがかなり長いこと(「怪蛇騒動」、「バチヘビの夢」、「夏の終りに」の3編、トータル200ページ近く)出るが、このあたりは『幻の怪蛇バチヘビ』の焼き直しではないかと思われる(登場人物も似ている)。全体を通して、『北の国から』のストーリーに、矢口高雄の経験的なエピソードを交えるという構成で、エピソード自体は、他の矢口作品(エッセイ、エッセイマンガ)と重複している。絵柄や内容も『釣りキチ三平』を彷彿させる。元々『週刊漫画アクション』の連載マンガだったこともあり、どうしてもエンタテイメント重視になってしまうんだろうか、『蛍雪時代』ほどの重厚さ、面白さは感じなかった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』

by chikurinken | 2019-09-10 07:19 |

『ボクの先生は山と川』(本)

ボクの先生は山と川
矢口高雄著
講談社文庫

故郷、家族への愛に溢れたエッセイ

b0189364_16265322.jpg 『釣りキチ三平』でお馴染みの矢口高雄が、自身の小学生時代・中学生時代を描いたエッセイで、『ボクの学校は山と川』の続編である。前作同様、秋田の山奥で育った子ども時代のさまざまな思い出を綴っている。また前作同様、このうちの多くのエピソードは、その後マンガ化されて、『蛍雪時代』や『オーイ!! やまびこ』というタイトルで発表されている。
 今回、前著『ボクの学校は山と川』に続いて、『蛍雪時代』を読んだ後にこの本に戻ってきたため、エッセイのインパクト自体は、前著と比べると小さい。『蛍雪時代』を読んでしまっているから致し方ない。本書第四章の「蛍雪のころ」に収録されているエピソードの多くが、『蛍雪時代』で再構成されており、その多くは、『蛍雪時代』を読んだときにことごとく心に染みた作品である。本書に収録されているエッセイはまさにその原形と言える。
 本書のエッセイ「闇米屋先生」、「石運び」、「長期欠席児童」は『蛍雪時代』の「第10話 想い出づくり」、それから「グランド造り」、「陸の祭典」、「聖火燃ゆ」は『蛍雪時代』「第11話 聖火燃ゆ!!」、さらには「ホーム・プロジェクト展」、「七人の侍」、「校門を掘る子」はそれぞれ『蛍雪時代』「第7話 ホームプロジェクト展」、「第6話 七人の侍」、「第1話 校門を掘る少女」として、その後マンガという形で結実している。第四章以外の他の多くのエピソードも『蛍雪時代』に登場するし、『蛍雪時代』にないものはおそらく『オーイ!! やまびこ』でマンガ化されているのではないかと思われる。というのは、本書のいろいろな場所にマンガ作品からピックアップされたカットが掲載されているためで、ほとんどは『蛍雪時代』のものだったが、見覚えのないものもいくつかあり、これが『オーイ!! やまびこ』のものではないかと勝手に推測したわけである。
 前にも少し書いたが、矢口作品の場合、マンガの方がエッセイより圧倒的にできが良いため、エッセイ、マンガの順で読む方が絶対に良い。エッセイの方も非常にうまくまとめられていて、なかなかの名文章なんであるが、いかんせんマンガと比べるとダイジェスト的と言わざるを得ない。逆に言えば、マンガ作品にはそれくらい力が込められている。同じ描写の箇所をエッセイとマンガで比べてみるとそれがよくわかる。どちらも優れた作品であるため、エッセイ、マンガの順で読んだら両方楽しめるということである。
 なお、今回読んだ文庫版には、先ほども言ったように、オリジナルの白水社版の単行本にさらにマンガのカットが加えられ、あわせて訂正、追加なども行われていて、文庫版は本としての完成度も非常に高い。しかも矢口高雄のデビュー作、『長持唄考』まで収録されている。この作品自体、本書に収録されているエッセイ「囲炉裏考」に関わる内容であるため、あえて間に挿入したようだが、これが非常に良い効果を出している。他の矢口製マンガ作品同様、この文庫版もサービス満点という印象である。
 それにしてもこの『長持唄考』の完成度の高さには驚かされる。これがデビュー作かというほどの完成度で、作画、ストーリーともその後の矢口作品と同レベルである。デビュー作と言われなければ絶対に気付かないんじゃないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』

by chikurinken | 2019-09-09 06:32 |

『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)』(本)

蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)(5)
矢口高雄著
講談社文庫

なんという中学校! なんという中学生!

b0189364_21042269.jpg 矢口高雄の自伝的エッセイ・マンガ『蛍雪時代』の第2巻から第5巻。
 第2巻が「第5話 成瀬小唄 Part 2」、「第6話 七人の侍」、「第7話 ホームプロジェクト展」、第3巻が「第8話 火の石の謎」、「第9話 東嶺の末裔…?」、「第10話 想い出づくり」、第4巻が「第11話 聖火燃ゆ!!」、「第12話 見える魚は釣れない」、「第13話 ケンカ嫌い」、「第14話 友情」、第5巻が「第15話 スイカ談義」、「第16話 市助落し」、「第17話 雪の夜」、「エピローグ」の各章でそれぞれ構成されている。すべて、著者の中学時代を回想した話であるが、第9話と第16話は、途中江戸時代の話(どちらもかなり長い)がさりげなく挿入されている。それぞれの話にはいくつかのエピソードが入っているが、どれも1本のテーマにしっかり集約されていて、1話のストーリーとして完成度が非常に高いと感じる。
 またその内容も驚きの連続であり、生徒会主催(ちなみに著者は生徒会長)でグラウンドは作るわ、運動会はやるわ、映画会はやるわ、修学旅行の費用は稼ぐわで、あまりにアクティブで凄すぎである。しかもどれも生徒たちが自主的に決めたもの(先生も協力するが)であり、いくら時代も地域も違うとは言え、これが本当に日本の中学生かと驚くばかりである。しかもそれに協力してくれる先生たちも、親身で優しく、しかも一緒になって楽しんでいる。特に担任の小泉先生は、「第17話 雪の夜」で描かれるが、雪の中、主人公の家(学校から8kmもある山の中)までやって来て、中卒後就職予定だった高雄の高校進学を両親に拝み倒すということまでやっている。この話は『ボクの学校は山と川』にも出てきて非常に感動的な話なんだが、マンガでは内容がさらに詳細に描かれ、しかも映像的な表現が随所にあって、この書の白眉と言って良い一編である。著者がこの中学校で経験した教育は、まさに一つの理想的な形と言える。
b0189364_21042730.jpg 同時に著者の学校以外の私生活も素材になっており、手塚治虫に憧れマンガに凝ったり、重労働の畑仕事や雪下ろしを手伝ったりという一面も描かれる。
 なお、この書で描かれている内容は、同じ著者の他の自伝的なマンガ(『オーイ!! やまびこ』など)やエッセイでも取り上げられており、重複する箇所がそこそこ見受けられる。ただすべて描き直しているようで、そのあたりも著者の誠実さが伝わってくる。作画も非常に丁寧で、絵は美しい。エッセイではわからなかった情景、たとえば村の様子や市助落しの渓谷なども、著者自身が描いているため、非常にわかりやすい。矢口マンガ、特にこの作品は、僕にとって今年一番の収穫であった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』

by chikurinken | 2019-09-08 07:03 |

『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)』(本)

蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)
矢口高雄著
講談社文庫

矢口高雄の描く日本の原風景と
麗しき中学時代


b0189364_20504249.jpg 『釣りキチ三平』でお馴染みの矢口高雄。というか、元々それぐらいしかこちらに予備知識がなく、しかも僕自身は子ども時代に釣りにまったく興味がなかったため『釣りキチ三平』すら読んだことがないと来ている(『少年マガジン』はちょくちょく読んでいたが『釣りキチ三平』はとばしていた)。だが数年前、同じ著者の『奥の細道』を読んだときは非常に衝撃を受け、この人にこれだけの才能があったのかと、矢口高雄を知って数十年経ってから初めて感心したという次第。
 今回、エッセイ(『ボクの学校は山と川』)を読み、それに伴ってエッセイ・マンガ(つまりこの作品)も読んでみたんだが、絵といい内容といい超一級で、こちらも感心することしきり。
 この作品で描かれるのは、タイトルからわかるように矢口氏の中学生時代の話で、舞台は戦後すぐの時代、秋田県の山間の小さな村である。なんせものがなかったため、遊びは自分たちで見つける、必要なものは自分で作るという具合。中学校も少し前まで小学校の傍らに分校として併設(というより間借りみたいなものか)されていたという有り様である。ただし中学校はその後、村に新設されたらしいが、それでも体育館もグラウンドも校門もない間に合わせみたいな建物である。実はこの校門については、最初のエピソード「第1話 校門を掘る少女」で触れられていて、のっけから非常に感動的な話が披露される。他にも「第2話 ホームソング」と「第5話 成瀬小唄」が中学校自体のエピソード(担任教師、小泉先生が非常に魅力的)でどちらも感動を呼ぶ話である。残りの「第3話 吹雪がくれたプレゼント」と「第4話 田植えのプロセス」が日常生活のエピソードである。第1巻はこの5話で構成されているが、どれも質が高く、しかも密度が濃い。絵は言うまでもなく丁寧で美しく、矢口高雄の才能にあらためて気付かされる思いがする。
 なお、本書に収録されているエピソードは、多くが『ボクの学校は山と川』でも紹介されている。僕の個人的な感覚で行くと、(両方読むというのであれば)エッセイを読んでからマンガを読む方が良いような気がするが、マンガだけでも十分ではある。ともかく今回、矢口高雄という作家への興味が俄然膨らんだのであった。
★★★★

追記:
 南伸坊の本(『私のイラストレーション史』)によると、矢口高雄も『ガロ』出身のマンガ家で、当初彼の採用に積極的だった南伸坊に対し、編集長の長井勝一は「ストーリーは良いが絵がちょっと」などと言ったらしい。矢口マンガと言えば、絵がうまく丁寧という印象が僕には強かったため、このエピソードには相当意外な感があった。
 一方、長井勝一の著書(『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史』)によると、長井氏自身は彼のマンガを高く買っていたが、(当時)30歳で銀行勤めをしているという経歴から、マンガ家に転身すること自体に反対だったらしい。きっちりした仕事に就いているのにマンガ家みたいな明日をも知れない身になるのはどうよ(しかも30歳で!)ということだったというのである。ただし矢口自身は、長井に反対されたことに反発を感じ、その反骨心がマンガ家としての成功につながったと、その後長井氏に語ったらしい。

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『私のイラストレーション史(本)』

by chikurinken | 2019-09-07 06:50 |

『ボクの手塚治虫』(本)

ボクの手塚治虫
矢口高雄著
講談社文庫

当時の手塚マンガの衝撃が伝わってくる

b0189364_21553204.jpg マンガ家、矢口高雄の手塚治虫に対する思い入れを綴ったマンガ作品。
 元々は毎日中学生新聞に連載していた、自伝的エッセイ・マンガ『オーイ!! やまびこ』が出典らしい。つまり矢口氏、子ども時代に手塚治虫のマンガに衝撃を受けその後も多大な影響を受けているため、彼の少年時代を描く上で手塚治虫は欠かすことができなかったようで、『オーイ!! やまびこ』にも手塚マンガのエピソードをたまに入れていたんだが、思い入れがあまりに強かったせいか、とうとう手塚マンガのエピソードが全部で5話にまでなってしまったという。そういういきさつで、この5話だけ取り出して単行本化したのが、この作品というわけ。
 その思い入れたるや尋常ではなく、その熱い思いは読んでいるこちら側にも存分に伝わってくる。手塚マンガに対する思いは、藤子不二雄の『まんが道』とも共通するもので、いかに当時のマンガ少年たちにとって手塚が大きな存在だったかがよくわかる。また当時刊行されていたマンガ雑誌『漫画少年』への思いも出てくるが、こちらも当時のマンガ少年たちにとって大きな存在になっているのは疑いのないところである。実際、トキワ荘グループの作家たちは、そのほとんどがこの雑誌の投稿欄を通じて世に出てきている。日本のマンガ史を振り返った場合、日本マンガの発展の上で、手塚治虫、『漫画少年』、『ガロ』の3つが最大の役割を果たしていると考えられるが、そのあたりも本書から窺われるのである(ちなみに矢口高雄は『ガロ』でデビューしているため、すべてに関わっていることになる)。
 なお本書では、当時著者が目にした手塚マンガも著者自身の手で再現されていて、こちらも大きな見所である(言うまでもなく大変うまい)。エッセイ・マンガであるため、途中で手塚治虫はもちろん、松本零士やガロの長井勝一も(マンガ化されて)出てくる。また描いている当時の大人になった本人の姿もたびたび出てくる。絵は非常に丁寧で情景描写も美しい。『まんが道』と同じような熱も伝わってきて、大変よくできた著作と言うことができる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『手塚治虫クロニクル 1946〜1967(本)』
竹林軒出張所『手塚先生、締め切り過ぎてます!(本)』
竹林軒出張所『漫画教室(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『日本まんが 第壱巻(本)』
竹林軒出張所『まんが道 (1)、(2)(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-09-06 06:55 |