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竹林軒出張所

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タグ:批評 ( 2138 ) タグの人気記事

『聖☆おにいさん』(映画)

聖☆おにいさん(2018年・パンチとロン毛製作委員会)
製作総指揮:山田孝之
監督:福田雄一
原作:中村光
脚本:福田雄一
出演:松山ケンイチ、染谷将太、山野海、佐藤二朗

脱力系コントで終始

b0189364_18402683.jpg 中村光の同名タイトル・マンガの実写版映画。元々は動画配信サービス向けのドラマだったらしい。(おそらく)低予算だったためか、ほとんどがアパートの室内のシーンで、まったく金がかかっていないことが窺われる。そういう点を含め、映画というにはちょっとナニな作品である。ちなみにプロデューサーは俳優の山田孝之、監督は福田雄一である。
 実際、ドラマというよりコントみたいな作品で、先ほども書いたように舞台はアパートの一室、登場人物はキリストとブッダのほぼ2人。ほとんど会話で話が進む。ちなみにこの作品、キリストとブッダが休暇で天界から現世に降りてきて、日常生活を送るというストーリーで、泉昌之の「ウルトラマン」シリーズ(ウルトラマンが東京で若者風の日常生活を送るという作品で、恋人はウルトラよしこさん。竹林軒出張所『山中貞雄のこと……追記』を参照)みたいな意表を突く設定になっている。ただこういう作品は、言ってみれば、視聴者(読者)の持つイメージと作品で提示されるイメージのギャップを楽しむという、結局そこだけに落ち着くため、長いこと見せられるとそのうちに飽きてくる。この作品は短い10本のエピソードで構成されているが、途中から眠くて仕方がなくなった。結局のところ、脱力系コントで終始してしまっていた。しかもあまり笑えないと来ていたのだった。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『女子ーズ(映画)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (7)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『かっこいいスキヤキ(本)』
竹林軒出張所『山中貞雄のこと……追記』

by chikurinken | 2019-03-26 07:40 | 映画

『日本語の起源』(本)

日本語の起源
大野晋著
岩波新書

興味深い日本語起源論
反対意見がどのようなものか興味がある


b0189364_17004905.jpg 国語学者の大野晋には、僕自身若い頃かなり影響を受けていて、国語学の面白さに惹かれたものだが、ただ日本語の源流が南インドのタミル語とする説(クレオールタミル語説というらしい、ウィキペディアによると)は、面白いが少々眉唾かと思っていた。この本はまさにその「クレオールタミル語説」を主張する本だが、だがしかしその考察は、決して侮れないと感じた。
 当然、国語学者らしいアプローチがこの説の本流であり、日本語とタミル語に共通した単語が非常に多い(著者によると500語、比較的似ているとされる日本語と朝鮮語でさえ200語という)ところが始まりである。しかも音韻の違いを考慮すると、似ているというより同じと言えるような単語もかなりある。そのあたりは巻末で詳細にリストされている。このあたりは、おそらく大野晋の自信の表れではないかと思う。
 その後、弥生文明をもたらしたのがタミル人であるという想定の下、弥生文化とタミル文化の共通点を双方の遺跡から指摘する。支石墓や甕棺墓などの墓制の共通点の他(これは弥生時代の特徴とされている墓制である)、特異な形の土器の共通性、金属器や土器に付けられているグラフィティ(象徴的なピクトグラム風の絵)の共通性なども指摘しており、弥生文化とタミル文化にかなりの類似性が見られることを指摘する。このあたりはインドの学者たちとの共同研究もある。さらに「マツル」、「アハレ」、「スキ」などの精神世界の共通性に言語からのアプローチで迫るという具合に、国語学、言語学だけでなく、考古学から文化人類学にまで広範に展開される推理は説得力がある。これだけの証拠を出されたらあまり論難できないんではないかと感じるほどだが、それでも強烈な批判はあるらしい。新説に反対するのは、保守的な学術界には良くある話ではあるが、そういうレベルでの批判なのか、それともこの節に捏造したような部分があるいはあるのか、そのあたりは僕には検証しようがない。最大の批判は、タミル地方と日本列島の間に、連続性がない(つまり人の移動があったとは考えられない)ということらしいが、これはしかし、時代と共に移動が可能であったことが証明される可能性もあるため、批判としては説得力がない。正直なところ、どのような反対意見があるか興味があるところだが、いずれにしても、このタミル語起源説、検討に値する斬新かつ有力な説ではないかと感じる。少なくとも日本語がウラル・アルタイ語系だとする程度の反論では、反論にならないんじゃないかと感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本語の教室(本)』
竹林軒出張所『日本語の文法を考える(本)』
竹林軒出張所『古典文法質問箱(本)』
竹林軒出張所『ズニ族の謎(本)』

by chikurinken | 2019-03-24 07:00 |

『世間胸算用』(本)

世間胸算用
井原西鶴著、前田金五郎訳
角川ソフィア文庫

日本の古典文学出版の歴史が垣間見られる

b0189364_18041917.jpg 元禄期、井原西鶴が書いた『世間胸算用』。恐ろしくけちな人が出てきたり、借金取りをどうやってやり過ごすか算段している人々が出てきたりして、落語の『かけとり』を彷彿させる。コミカルなものが多いが、中にはコミカルと言うより少々度が過ぎていてグロテスクなものもあり、読んで面白いというより呆れてしまうようなネタも多い。
 『世間胸算用』は元々全五巻で、各巻四章の合計二十章構成である。この文庫版にはそのすべてが収録されている。構成は、最初に原文が訳注付きで全文掲載され、それに続いて補注(これが80ページ近くある)、さらに現代語訳の部と続く。『胸算用』は、江戸当時の習慣(今存在しないものも多い)や特有の言い回し、流行り言葉などが満載なので、そういうものを知らないと何を言っているのかさえわからない。そのため、古文が苦にならないとしても、よほど江戸文化に精通していない限り、普通の現代人が読むには相当難しさを感じる。それなりに注が必要になってくるわけだが、それでも80ページもの補注(しかも7ポイントぐらいの小さい文字のもの)が必要かは疑問である。そもそもこの補注自体、専門家向けみたいな記述で、相当読みにくい。しかも本文、補注、現代語訳がそれぞれ別の部分に分かれているため、始終ページを行ったり来たりしなければならないのも本の構成としては疑問符が付く。補注、現代語訳、さらには解説も前田金五郎という近世文学の専門家が書いているが、文章自体が固くて読みづらいし、解説も非常につまらない。
 この本自体、かなり前に出された本らしく(初版発行が1972年になっている)、専門家以外であればあまり食指が動かされないような体裁になっている。僕も1980年代、この角川文庫版の同シリーズ(当時は「角川ソフィア文庫」という名前は付いておらず「黄帯」というカテゴリーだった)の古典作品を買ったことがあるが、結局パラパラと見た程度で読み終わるには至らならなかった。「角川ソフィア文庫」は、比較的最近(1995年)刊行されたもので、読みやすい体裁になっているものが多く好感を持っていたが、この本については、「角川ソフィア文庫」という表記がカバーに付いているにもかかわらず、まったく良くない。発行年代から察するに、おそらく角川ソフィア文庫創設の際に、カバーだけ替えてこのシリーズに入れられたものではないかと考えられる。そのためか現在絶版状態で基本的には販売されていないので、文句を言う筋合いではないかも知れないし、角川ソフィア文庫版の『日本永代蔵』(おそらく新版)が10年ほど前に出ていることから考えると、あるいは出版者側としても『胸算用』の新版を出そうとしているかも知れない。ただ、この類の古典作品本は、よほど工夫しないと、大変読みづらいままで、それが余計読者を遠ざける結果になる。かつての角川文庫黄帯はまさにそれを体現していた……そういうことが本書から窺われるわけだ。それを考えると、『ビギナーズ・クラシックス』シリーズを含め、現在の角川ソフィア文庫の取り組みは称賛に値すると思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『お伽草紙・新釈諸国噺(本)』
竹林軒出張所『宇治拾遺物語(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 和泉式部日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 太平記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 小林一茶(本)』

by chikurinken | 2019-03-22 07:04 |

『ビギナーズ・クラシックス 蜻蛉日記』(本)

ビギナーズ・クラシックス 蜻蛉日記
藤原道綱母著、坂口由美子編
角川ソフィア文庫

作りが非常に丁寧な本
一方で道綱母にはあまり共感できない


b0189364_14590868.jpg 『蜻蛉日記』の『ビギナーズ・クラシックス』バージョンである。例によって、ダイジェスト的に原文の一部を取り上げ、その現代語訳、解説が並ぶという構成で、これが各段単位で並んでいる。
 『蜻蛉日記』は上中下の三巻で編成されているが、上巻が藤原隆家との結婚生活への不満、中巻が隆家との問題から逃れるための隠遁生活、下巻が身辺雑記と事実上の離婚というような内容である。本書では、やはりと言うべきか、上巻から多く取り上げられており(67段中約30段)、中巻(全部で約70段)からは約20段、下巻については少なく、70段のうちわずか10段程度しか取り上げられていない。ただし『蜻蛉日記』の特色はよく反映されており、しかも解説も詳細であるため、ダイジェスト版としては非の打ち所がないと言える。
 『蜻蛉日記』自体については、ドナルド・キーンが『百代の過客』で語っているように、主人公の利己的な感覚に共感できない。(夫との間がうまく行かないため)死んでしまいたいとか出家したいとかいう心情吐露があちこちに出てきて、あまりに何度も出てくるんでうんざりしてしまう。挙げ句に子どもの道綱にまでこういうことを言って泣かせたりして、閉口してしまう。ただ、これもドナルド・キーンが言っているように、非常に現代的な感性をそこに感じるわけで、文学作品としては極上と言えるのかも知れない。とは言うものの、原文は主語の省略が多い上、話題もかなり端折られているため、読んでいてもさっぱり意味がわからない箇所が非常に多い(本書では、そういう箇所も割合適切に訳されている……ただ現代語訳を読んでもよくわからない箇所がある)。日記だからそれも仕方がないのかも知れないが、『源氏物語』に匹敵する難解さと言って良い。そういう点を考えると、原文を読む前に、解説が充実したこういった本を先に読んでおくのが良いとも感じる。
 なお巻末の「解説」では、『蜻蛉日記』の背景や特徴が記述されている他、堀辰雄の『かげろふの日記』と『ぼととぎす』(『蜻蛉日記』に材を取った小説)や室生犀星の『かげろふの日記遺文』(同じく『蜻蛉日記』に材を取った小説)まで紹介されていて、興味が広がるだけでなく、非常に勉強にもなる。この『ビギナーズ・クラシックス 蜻蛉日記』自体、作りが非常に丁寧な印象を受け、良い本であると感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 和泉式部日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 太平記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 小林一茶(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 史記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 十八史略(本)』

by chikurinken | 2019-03-20 07:58 |

『熱中コマ世界大戦』(ドキュメンタリー)

熱中コマ世界大戦(2015年・東海テレビ)
ナレーション:天野鎮雄

ますます「ロボコン」化してきた

b0189364_23084847.jpg 2012年に始まった「全日本製造業コマ大戦」は、この年第3回目を迎え、ついに世界大会まで始まった。その名も「世界コマ大戦」。アメリカ、韓国、タイ、インドネシア、ベトナム、ボリビアの6か国11チームが参加し、日本の地方予選を勝ち抜いたチームと共に覇を競うことになった。ただ、このあたりの流れもロボコン同様で、想定内ではある。
 今回のドキュメンタリーは、『熱中コマ大戦 全国町工場奮闘記』の続編という位置付けで、前回のドキュメンタリーに登場した参加者も登場。中でも一番面白かったのが、前回、反則すれすれの異色のコマを作った参加者「カジミツ」が、さらに異色の反則すれすれの電動コマで参戦してきたことである。このカジミツの奮闘ぶりはとても楽しめたが、しかしそれにしても電動はいかんのではないかと個人的には感じる。おそらくこの大会の後、ルールがまた変わってくるのではないかと思うが、電気を使うとなるといつまでも回転し続けることもありうるわけで、初期のコマの製造技術というコンセプトから外れる気がする。
 とは言え、こういったニッチな部分を突いてくるこのカジミツについては、大変興味深いところである。同時に前回の主人公である「シオン」も、苦戦はするが今回も登場。このドキュメンタリー、ますますロボコン風にはなってきたが、参加者の背景が興味深いために、番組に奥行きができている。そのあたりが一番の魅力と言える。今回はインドネシアの参加者「サントソテクニンド」の背景にも迫っていてこちらも見所であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『熱中コマ大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護士(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-03-18 07:08 | ドキュメンタリー

『熱中コマ大戦』(ドキュメンタリー)

熱中コマ大戦 〜全国町工場奮闘記〜
(2013年・東海テレビ)
ナレーション:天野鎮雄

オヤジのための「ロボコン」

b0189364_17230983.jpg 全国の製造業者が集まって企画したコマまわし大会、その名も「全日本製造業コマ大戦」と言うんだが、その東海地区予選を追うドキュメンタリー。製作は東海テレビ。
 似たような企画に「ロボットコンテスト」(通称「ロボコン」)がある。ロボコンは、高専や大学がもの作りのアイデアと技術力を競って、対戦形式で覇を競うというものであるが、この「コマ大戦」も同様のコンセプトで、参加者が町工場などの製造業者であるという点、手回しゴマで対戦するという点が特徴である。言わば、町工場バージョンのロボコンといったところである。
 ロボコンについては、その参加者たちのもの作りから本番の対戦まで追いかけるという番組をNHKが放送しているため、この『熱中コマ大戦』についても概ね似たような番組ではないかと、見る前から想像できる。実際その通りで、親会社の無理な要求や不況のために瀕死だったが何とか再生を果たした町工場が、コマ作りを通じて自らのもの作りの高い能力を発揮して存在価値を示すんだが、その過程を映像で追っていくわけである。
b0189364_17231333.jpg コマ大戦のルールは、直径2センチ以下、全長6センチ以内のケンカゴマを、直径25センチの擂り鉢状の土俵内で回し、長く土俵内に残った方が勝ちという実に単純なもの。一般的には、よく回り、しかも相手のコマに当たったときはこれを跳ね返すようなタイプのコマが作られ、その精度や強度を高めるという方向性でブラッシュアップされるわけだが、中には横向きになった状態で回りながら、とりあえず敵ゴマを弾き飛ばすことだけに専念するというような異色の悪役コマが出てきたりして、大戦を盛り上げる(ちなみにこのコマ、その後ルール改定の結果、禁止になった)。
 こういったユニークな参加者が登場した中部大会、そしてその後の全国大会の模様を追ったのがこの作品で、ロボコンでお馴染みの想定内の展開ではあったが、内容は結構面白く、見ていてつい夢中になってしまった。この番組を少しばかり侮り過ぎていたと感じる。やはり東海テレビが関わってくるとこのくらいの水準のものができるということなのか。コマ大戦参加者だけでなく、東海テレビのもの作りの力も思い知らされた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『熱中コマ世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護士(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-03-16 07:22 | ドキュメンタリー

『映像詩 フランスの田園』(ドキュメンタリー)

映像詩 フランスの田園
(2017年・仏Bienvenue! Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

単なる「映像詩」ではないドキュメンタリー
人の営みと自然環境の共存が可能かを問う


b0189364_17161020.jpg フランスのとある田園地域の風景を長期に渡って記録したドキュメンタリー。
 生産手段として田園を利用する人々とそこに住む動物たちとの関わりを中心に描く自然ドキュメンタリーで、邦題の『映像詩』というのはあまり適切ではない。人が使う農薬や毒物が昆虫や動物たちの生命、ひいてはそれを取り巻く環境全体を破壊していることを静かに告発する作品であり、環境に優しい農業を推奨するような雰囲気が全編に漂う。映像は非常に美しく、確かに「映像詩」的な要素はあるが、そういう映像的な側面を邦題で強調するのはどうよと思う。原題も「War and Peace in the Countryside」で、内容を反映するものになっているのに、毎度のことながら、翻訳レベルでどうしてこういった改変をやってしまうかなと感じる。
 それはともかく、内容は非常によくできていて、小動物や昆虫の生態をミクロ的に撮影している上、闖入者としての人の存在も彼らの視点から描かれていて大変興味深い。たとえ農地であっても、大地は生態系の一定のバランスで成立しているのだから、特定の昆虫を殺すためだけに化学物質をばらまくのは間違いであるということが控え目に訴えられる。b0189364_17161418.jpg実際のところ、特定の昆虫(害虫)を殺すために化学物質をばらまくと、他の昆虫(益虫)や動物(益鳥)もあわせて殺してしまうため、少しだけ長い目で見ると農地にとっても決してプラスではない。むしろ生態系のバランスを維持する方向で農業を行うべき……とするのがこの作品の主張である。本編では他にも有機農業や天敵昆虫を使った害虫駆除の実例も紹介されているため、製作者の主張もストレートに伝わってくる。
 実に静かな主張だが、美しい田園風景の映像の中で、環境破壊をせず自然環境に根ざした農業ができないものか(できるはずだ)というしっかりした主張が貫かれた作品で、大きな説得力を持つ秀作ドキュメンタリーである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ハチはなぜ大量死したのか(本)』
竹林軒出張所『土の文明史(本)』
竹林軒出張所『ミツバチの会議(本)』
竹林軒出張所『欲望の植物誌 人をあやつる4つの植物(本)』

by chikurinken | 2019-03-14 07:15 | ドキュメンタリー

『私は左手のピアニスト』(ドキュメンタリー)

私は左手のピアニスト
〜希望の響き 世界初のコンクール〜

(2019年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

変わったコンクールだが
「コンクールもの」としては平凡


b0189364_15083112.jpg 昨年、大阪の箕面で「左手のピアノ国際コンクール」という左手ピアノの曲に限定した世界初のコンクールが開催された。そのコンクールに密着するドキュメンタリー。
 コンクールはプロフェッショナル部門とアマチュア部門の2つに分かれており、番組は、それぞれに参加する何人かの参加者を追うというよくあるパターンで展開する。多くの参加者は右手に何らかの問題を抱えている人たちで、脳卒中や難病のために右手がうまく動かなくなった人(特にアマチュア部門の参加者に多い)の他、元々プロの(あるいはプロを目指している)ピアニストが、局所性ジストニアという症状(演奏家によく見られる病気で、演奏中に自由に指が動かなくなる症例らしい)のために右手が思うように動かなくなった人などが参加した。前者については一般人よりハンデを負っている人が多いため、演奏が拙くても非常に感動的なんだが、この番組のメインはプロフェッショナル部門である。彼らは確かに演奏家を目指しているにもかかわらず右手が以前のように動かなくなっているため、それはそれで大変なんだろうが、多くのプロ(または予備軍)の人たちは日常生活には支障がないようだし、見ていてあまり感じるところはない。したがって人のバックグラウンドとして考える場合、他の「コンクールもの」と比べて特段違いがあるわけではなく、それほど面白味は感じなかった。ただ左手ピアノのための曲が結構あるというのが意外で(ブラームスやラヴェルの作品もある)味のある作品が多いことを今回初めて知ったという、その程度である。
 僕個人としてはコンクールものはもう良いかなと思っていたが、今回は障害を抱えた人がそれを克服するためにがんばる姿が出てくるかもと思って見たのだった。結局のところ、当初の僕の予想とは番組のコンセプトが若干違っていて、少々ガッカリしたというのが率直な感想である。番組に出てきた人たちにはそれぞれ自分の夢に向かってがんばって欲しいと思うが、日常生活に問題がない人であれば、別の道がいくらでも開けるというものである。夢破れた多くの人はそうやっていろいろな道を模索して、それがかえって良い結果になったりするものである。僕はむしろ(この番組の主役ではない)アマチュア部門に出てきた半身不随の人たちなどに思い入れを感じたのだった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ショパン・時の旅人たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カリスマ指揮者への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ストラディバリウスをこの手に!(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのショパンコンクール(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『私の脳を治せますか?(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-03-12 07:08 | ドキュメンタリー

『マイケル・ジャクソン 最期の24時間』(ドキュメンタリー)

マイケル・ジャクソン 最期の24時間
(2018年・英Entertain Me Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

マイケルの闇は深かった

b0189364_17381916.jpg キング・オブ・ポップと言われ一世を風靡したマイケル・ジャクソン。僕は完全に同時代だが、当時ポップスはほとんど聴いていなかったため、彼についてはほとんど何も知らない。ただ、やたら整形手術を繰り返したとか、児童に性的虐待をしたとか、奇妙な印象の方が強く、音楽性云々よりスキャンダルの対象としての知識しかない。実はマイケル自体が、そういった(根も葉もない)スキャンダルにひどく心を痛め、その心労のせいで不眠になり、そのために睡眠薬などの薬物に過度に依存することになった。2009年に死んだときも、久々のツアー中で少しでも眠りたいために主治医に過剰な睡眠薬の投与を求め、そのせいで死んだという。この事実をさまざまな人々の証言を交えて紹介していくのがこのドキュメンタリー。
 内容は非常にわかりやすく、マイケル・ジャクソンに対する偏見も一掃してしまうような作品である。整形手術を繰り返したことも元々は顔面と頭に大やけどを負ったことがきっかけになったことや、幼少時に虐待を受けていてその影響を一生抱えていたことなどが紹介される。また、持ち前の完璧主義のために活動に対して過剰に神経質になっていたこと、そのことがマイケルを精神的に追いつめていたこと、金目当ての悪い取り巻きにたかられていたことなども紹介され、弱さを抱える人間としてのマイケル・ジャクソン像が明らかにされる。そういう点では非常に興味深い。ただし僕自身がマイケル・ジャクソンについてあまり知らず、音楽的な方面での関心がないため、そのあたりで響くものがなかった。当時マイケルのポップ界に対する影響は相当なものだったのは明らかだし、彼の音楽について理解がある人であれば、僕よりもっと得るものがあるかも知れない。一般にポップスのドキュメンタリーとなると、やはりそういうことになってしまうのかとも思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『永遠のABBA アグネッタの告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『キャロル・キングのすべて(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-03-10 17:38 | ドキュメンタリー

『刑事ジョン・ブック 目撃者』(映画)

刑事ジョン・ブック 目撃者(1985年・米)
監督:ピーター・ウィアー
原案:ウィリアム・ケリー、アール・W・ウォレス、パメラ・ウォレス
脚本:ウィリアム・ケリー、アール・W・ウォレス
撮影:ジョン・シール
音楽:モーリス・ジャール
出演:ハリソン・フォード、ケリー・マクギリス、ルーカス・ハース、ダニー・グローヴァー、ジョセフ・ソマー、アレクサンダー・ゴドノフ、ジャン・ルーブス

非の打ち所のない作品

b0189364_19370115.jpg アメリカの東部に伝統的な自給自足の生活を送るアーミッシュという宗教集団がある。そのアーミッシュを(おそらく最初に)世界的に知らしめたのがこの映画。
 主人公は、タイトル通り刑事のジョン・ブック(ハリソン・フォード)で、縁あってアーミッシュの親子と知り合い、アーミッシュの中で生活することになるという展開になる。アーミッシュの自然に根ざした生活への讃歌であると同時に、全編を漂うスリルとサスペンス、恋愛、人と人との信頼など、さまざまな要素が盛り込まれて、しかもそれがすべて有機的に絡み合いながら一つのドラマを作り上げるという、きわめて完成度の高い傑作である。
 脚本が非常にすばらしく、あまりに良くできたストーリーなので当初は原作ものかと思っていたほどである。存在感のあるキャストは言うまでもなく、演出もすばらしい。牧歌的な映像がまた美しく、ミレーの名画を思わせるようなシーンが目白押しである。映像を盛り上げる音楽までよくできていて、まったく非の打ち所のない作品である。
 今回見たのは3回目だが、多くの印象的なシーンを憶えていて、「Honey, this is great ... coffee」とハリソン・フォードが語るシーンはもっとも好きな場面である。さすがに3回目だと途中で飽きるかなと思っていたが、結局最後まで集中して見てしまった。4回目も見ようと思えば見れるな……と思う。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『いまを生きる(映画)』
竹林軒出張所『ブレードランナー ファイナル・カット(映画)』
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』

by chikurinken | 2019-03-08 07:36 | 映画