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竹林軒出張所

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タグ:向田邦子 ( 11 ) タグの人気記事

『父の詫び状』(ドラマ)

父の詫び状(1986年・NHK)
原作:向田邦子
脚本:ジェームス三木
演出:深町幸男
出演:杉浦直樹、吉村実子、長谷川真弓、大塚ちか子、沢村貞子、井川比佐志、市川染五郎、殿山泰司、桜井センリ、岸本加世子(語り)

まさにエッセイ・ドラマ

b0189364_17455196.jpg 1981年にNHKテレビで放送された『あ・うん』と同じようなスタッフ、キャストで作られたドラマ。原作はやはり向田邦子のエッセイ集、『父の詫び状』である。あのエッセイ集では、作者自身が育った家族のこと、特に父と母のことについて多くページが割かれていたが、そのあたりのエピソードを集めて、主人公(立場は向田邦子)から見た昭和初期の家族の有り様を再現し、ドラマ化したものがこのドラマである。
 このドラマに出てくる父(杉浦直樹)は、明治男にありがちな暴君で、子ども達に対してしきりに小言を言うし、妻(つまり主人公の母:吉村実子)に対して暴力を奮ったりもする。今風に言えば一種のDVであるが、妻も子ども達もそれが当然のこととして受け入れている。もっとも父の方も、こういった行動を家族の虐待のために行っているわけではなく、家庭内で自分をコントロールできない、またはコントロールしないせいでこうなってしまうのであって、悪意はないのである。昭和時代はまだこういった父親像は普通にあったのだ。そういう環境で育ったために子ども達の心がねじくれたということもそれほどあったわけではなく、当時の常識がそうだったということなのである。ただ今見ると、ちょっと許せないタイプの父親ではある。
 この父親、実は、子どもの頃から結構苦労を重ねてきており、現在は保険会社の支店長にまでなった人である。ところが、その保険会社の社長に対して平身低頭になっていたときに娘である主人公がそれを目撃して、父が外の世界ではそれなりに苦労している、単なる暴君ではなかったということを知った……そういうエピソードが、『父の詫び状』に収録されている「父の詫び状」というタイトルのエッセイで書かれているんだが、そのエピソードを柱にして再構築したのがこのドラマである。シナリオは向田邦子ではなくジェームス三木で(ドラマ製作時、向田邦子はすでに死去していた)あるが、いろいろなエピソードをうまく繋げており、ストーリーにはまったく違和感がない。本当に『あ・うん』を思わせるようなシナリオで、向田邦子が書いていてもこういう作品になるんではないかというような見事な構成力である。語りも岸本加世子である上、テーマ音楽にまでアルビノーニのアダージョが使われている。キャストもかなり『あ・うん』と共通する。ただし、これも他の向田作品と共通するんだが、面白味を感じるようなドラマチックな素材もあまりないのである。まさしくエッセイみたいなストーリーで、おそらく今の時代だと放送されることはないだろうというような素材である。脚本家が芸術家として正当に評価されていた時代で、しかもドラマの可能性がどんどん広がっていた時代だからこそ作られた作品と言えるかも知れない。最後にあ・うんの狛犬まで出てきたのは、向田邦子に対するオマージュなのか知らないが、なかなか奮っている。
第24回プラハ国際テレビ祭プラハ金賞
第13回放送文化基金賞本賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『父の詫び状(本)』
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『続あ・うん (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-05-26 07:45 | ドラマ

『続あ・うん』(1)〜(5)(ドラマ)

続あ・うん (1)〜(5)(1981年・NHK)
演出:深町幸男、加藤郁雄
脚本:向田邦子
出演:フランキー堺、杉浦直樹、吉村実子、岸本加世子、岸田今日子、池波志乃、永島敏行、秋野暢子、殿山泰司

秀逸なキャラクターが魅力

b0189364_18214671.jpg 1980年にNHKで放送された『あ・うん』が好評だったせいか、翌年に続編が作られた。『あ・うん』と同様、昭和初期(昭和十年代)のとある家族の肖像が娘の視点で描かれる。続編も前作と同様、娘役の岸本加世子の味のあるナレーションで話が進行していくが、父の友人が母に恋している設定なわけで、娘に語らせるには内容が生々しい。
 基本的な家族構成、周辺の人々との関係は前作とほぼ同様だが、山師の祖父(志村喬)がすでに死んでいる点が異なる。代わりにその腹違いの弟(笠智衆)という立場の老人が登場して、いろいろと事件を巻き起こす。
 続編で中心となる事件は、父(フランキー堺)と友人(杉浦直樹)の喧嘩別れや、前作同様、娘(岸本加世子)の恋(相手はロシアの演劇に凝っている大学生)などだが、基本的には淡々と話が進んでいくホームドラマである。前にも書いたが(竹林軒出張所『父の詫び状(本)』を参照)、このドラマに出てくる登場人物、作者の実際の家族をよく投影しているように思える。そのためもあってか、登場人物の言動には非常にリアリティがある(ただし行動については、リアリティがあるとはあまり言えなさそうである)。何よりこのドラマ、キャラクターがどれも秀逸で、ドラマの大きな魅力になっている。中でも少々怪しげな人物、たとえば「金歯」や「イタチ」などが味わい深い。あちこちにくすぐり笑いの要素が散りばめられていることもあり、本作は前作より楽しんで見ることができたような気がする。なお、最終回には志村喬がゲスト出演する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(本)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』

by chikurinken | 2018-09-13 07:20 | ドラマ

『父の詫び状』(本)

父の詫び状
向田邦子著
文春文庫

三題噺みたいなエッセイが多い

b0189364_18595306.jpg 脚本家、向田邦子の処女エッセイ集。元々『銀座百点』という雑誌で連載していたもので、その中から24点を抜粋して一冊の本にしたというのがこの本。
 全体的には、書き殴りみたいなエッセイで、あるテーマに沿ったいくつかのエピソードを書き連ねるというものである。そのため、あまり面白味のないものもあるが、著者の幼少時代について書いたエピソードはかなりユニークである。
 こういった箇所では、著者の幼少時代の父母、兄弟姉妹、当時の生活の想い出が描かれており、それがために昭和初期から戦後までの日本の1家族の姿というものがあぶり出されていて、非常に興味深く読んだ。特に、小さなことで怒りすぐに怒鳴り散らす父親のエピソードが非常に印象的であり、この父親のイメージは、著者が脚本を書いた『あ・うん』の登場人物とも重なる。こういうところに著者の経験が反映されているということがわかる。また、このエッセイに登場する著者の母のイメージもこのドラマの登場人物(妻であり母である女性)に近いような気がする。
 目を引いた項は、表題作の「父の詫び状」の他、「お辞儀」と「子供達の夜」あたりか。「お辞儀」に出てくる黒柳徹子の留守番電話のエピソードは、『トットてれび』でも再現されていたもので、割合有名な話だが、初出はこのエッセイだろうと思う。ちなみに『トットてれび』には「向田邦子」(ミムラが演じていた)も登場していた。あのドラマはつまらなかったが「向田邦子」の印象は残っている。また「父の詫び状」についてはその後ドラマ化されている。内容についてはよく知らないが、このエッセイのエピソードをまとめてドラマにしたものではないかと推測される。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『父の詫び状(ドラマ)』
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『続あ・うん (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』
竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』

by chikurinken | 2018-08-09 06:59 |

『阿修羅のごとく パートⅡ』(1)〜(4)(ドラマ)

阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(1980年・NHK)
演出:和田勉、富沢正幸
脚本:向田邦子
出演:八千草薫、加藤治子、風吹ジュン、露口茂、いしだあゆみ、佐分利信、荻野目慶子、菅原謙次、三條美紀、大路三千緒、宇崎竜童、萩尾みどり、深水三章

もはやほとんど連続ドラマである

b0189364_18214278.jpg 1979年にNHKで放送された『阿修羅のごとく』の続編。『阿修羅のごとく』は、あれはあれで完結していたので、続編が必要かとどうかは微妙なところではあるが、必要でなくても好評であれば作るのがドラマのあり方。というわけで、何だか連続ドラマみたいなノリで、パートⅡが作られた(ようだ)。
 いろいろな設定は前のところからそのまま踏襲されており、同じようなゴタゴタがパートⅡでも続く。違いと言えば四女(風吹ジュン)夫妻がにわか金持ちになっている点で、それが原因で三女(いしだあゆみ)との間でいろいろゴタゴタする。姉妹ってのはめんどくさいなと思わせるようなストーリー展開である。
 キャストは概ね一緒だが、次女(八千草薫)の夫と娘が変わっている。前回は夫は緒方拳だったが今回は露口茂で、そのために軽さが軽減し、雰囲気が大幅に変わった。ほとんど「ヤマさん」である。娘は、名前が出る前の若々しい荻野目慶子が演じていて、なかなか新鮮である。相変わらず宇崎竜童が好演だが、四姉妹の演技も非常に自然で、前作以上に魅力を増している。向田邦子らしい面白いセリフもあって、ドラマとしてこなれてきているような印象がする。このシリーズも第1シリーズ同様、まだまだ続きそうな勢いで、向田邦子、もしかしたらパートⅢも書くつもりでいたのか(『パートⅢ』はないようだ)。やはり音楽とタイトルバック、そしてタイトル自体が秀逸で、このドラマの独特の雰囲気を規定している。このあたりは前シリーズと同様であるが、今回は各回のタイトルもなかなか面白味があって良かった。そういうところも含め、やはり「こなれた」という印象が強い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『続あ・うん (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』
竹林軒出張所『父の詫び状(本)』

by chikurinken | 2018-06-15 07:21 | ドラマ

『阿修羅のごとく』(1)〜(3)(ドラマ)

阿修羅のごとく (1)〜(3)(1979年・NHK)
演出:和田勉、高橋康夫
脚本:向田邦子
出演:八千草薫、いしだあゆみ、加藤治子、風吹ジュン、緒形拳、佐分利信、大路三千緒、菅原謙次、宇崎竜童、三條美紀

向田邦子の出世作
特異な世界を持つドラマ


b0189364_17075206.jpg 1979年にNHK『土曜ドラマ』の「向田邦子シリーズ」として放送されたドラマ。当時からかなり話題になっており、言ってみれば向田邦子の名前が世に出た作品ではないかと思う。
 初回放送時僕は見ていないが、当時からかなり話題になっていたことは記憶にあり、特にテーマ音楽が特異で(ドラマを見ていないにもかかわらず)メロディが永らく記憶に残っていた。トルコの陸軍行進曲の「ジェッディン・デデン」という曲なんだが、よくこの曲を選んだなというようなかなり毛色の変わった曲である。タイトルの「阿修羅のごとく」とこの曲でこのドラマの成功は約束されたようなもので、この2つがドラマの性格、雰囲気を特徴付けている。ちなみにこの曲、『トルコの軍楽』というCDで聞くことができる。
 ストーリーは、ホームドラマの延長で、さして大きな事件は起きない。ただ、当時の一般的なホームドラマのように毒にも薬にもならないような軽ーい話ではなく、人の中の闇が明らかにされるようなちょっと毒を含んだような話(ということは毒にはなっているわけだ)で、あまり愉快になるような話ではない。主人公は4人姉妹で、彼女らの70歳の父親に不倫相手がいたということが発覚することから話が始まる。一方でそれぞれの4人姉妹も恋愛問題を抱えており、そのうち3人の恋愛は不倫と関係していて、四者四様の不倫問題があぶり出されていくというストーリー。
 このドラマ、20年ほど前に一度見ているが、ストーリーはほとんど忘れていたのだった。とは言え、身辺描写みたいなものが主で、ドラマチックな展開が少ないことを考えると、それも十分納得がいく。今回もいずれ近いうちにストーリーは忘れるかも知れないが、印象的なシーンやセリフがあるため、そういうものは頭に残るんではないかと思う。そういう意味では、このドラマ、ストーリーを超えた(つまりストーリーだけに留まらない)ドラマということで、やはりテレビドラマとしてはかなり特異な存在である。それは間違いない。
b0189364_17084715.jpg キャストは、今考えると超豪華で、しかも芸達者な役者ばかりである。中でも(当時まだ俳優というよりミュージシャンだった)宇崎竜童が好演で、ベテラン俳優を相手に丁々発止の見事な演技を展開している。セリフについては、(男には気が付かない)女性的視点が際立ったようなものが多く、男の目からは(少なくとも僕の目からは)なかなかセリフの魅力に気が付かない。セリフでストーリーを前にどんどん動かしていくというより、世間話みたいなセリフが非常に多く、セリフの面白さがわからなければ退屈するかも知れない。そういう点でも女性的な感じがする。家事や食事のシーンが多いのも向田作品に特有で、そういうことを考え合わせると、女性受けが良いドラマではないかと思う。前見たときは、あまり良さがわからなかったし、今もどの程度、このドラマの女性的感性の魅力に気付いているか(我ながら)疑問である。いずれにしても、向田邦子自体、ドラマ史の中ではかなり特異な存在であることは間違いあるまい。
★★★☆

追記:
 この時代のドラマの特徴だが、例によってドラマ内で何度も鳴る(当時の)電話の音がけたたましい。だが、電話の呼び出し音が「ジェッディン・デデン」の最初の音と同じ音程で、もしかしてそういう発想でこの曲を選んだのかと勘ぐってしまった。なお電話は、このドラマではかなり重要なモチーフになっている。

参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『続あ・うん (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』
竹林軒出張所『父の詫び状(本)』

by chikurinken | 2018-05-05 07:07 | ドラマ

『あ・うん』(1)〜(4)(ドラマ)

あ・うん (1)〜(4)(1980年・NHK)
演出:深町幸男、渡辺丈太
脚本:向田邦子
出演:フランキー堺、杉浦直樹、吉村実子、岸本加世子、志村喬、岸田今日子、池波志乃、殿山泰司

ライターの作家性が存分に発揮されたドラマ

b0189364_22010329.jpg 向田邦子の代表作ドラマ。1980年にNHKの『ドラマ人間模様』の枠で放送された。向田邦子は少し前にNHKで『阿修羅のごとく』を発表しており、この作も『阿修羅のごとく』と同様に作家性の強い作品である。当時シナリオライターの作家性が重要視され始めた時代で、エンタテイメントのみではない、こういった文学的な作品も頻繁に放送されるようになっていた。
 文学的な要素は各回の副題にも反映されており、第一回「こま犬」、第二回「蝶々」、第三回「青りんご」、最終回「弥次郎兵衛」と象徴的なタイトルが並んでいる。優れた作家が自身の書きたいものを書ける、こういった環境があるということは、単に作家側だけでなく、視聴者側にとっても大変ありがたい有意義なことで、文学的要素を持つこういったドラマが作れない昨今の状況ははなはだ寂しい限りである。
 とはいうものの、エンタテイメントの要素がかくも少ないと、連続で見続けるというのが少々苦痛で、今回BSでまとめて放送されたものを録画して見たんだが、全部見終わるのにかなり時間がかかったのだった。見ていて面白いし質が高いのもよくわかるが、続きを見ようという食指が動かない。僕は放送時にこのドラマを見ていないが、たとえ第1回目を見ていたとしても、おそらく続けて見なかったんじゃないかと思う。
 向田はその後、TBSでもこういった単発ドラマを続けて発表していくんだが、こういった作品についても、DVDで見られる環境にはあるが実際のところなかなか見ようという気にならない。向田作品自体が、あまり僕の好みではないのだろう。評価はするが好みは別ということである。
b0189364_22011369.jpg さてこのドラマ、若い娘の視点で、昭和初期(昭和十年代)のとある家族の肖像を描くというもので、そのあたりは後のTBSの単発向田ドラマ群とも共通するテーマである。父(フランキー堺)、それからその父と異常なほど仲の良い男(杉浦直樹)の関係と、その父の友人が実は母(吉村実子)に思いを寄せているというような人間関係が描かれる。まさに「人間模様」のドラマである。同時に山師の祖父(志村喬)が出てきて家族を翻弄する他、主人公の娘自身も帝大の学生と付き合うようになるなど、家族模様が少しずつ動いていく様子が、非常に細やかに描かれていく。娘の視点であるため、ナレーションは娘役の岸本加世子が行っているが、ため息交じりみたいな切ない語り口で実に良い味を出している。岸本加世子は演技も秀逸で、このドラマの大きな魅力になっている。演技については他の面々も同様に上質で、テレビ・ドラマのレベルでは最高水準と言える。この時代のドラマのすごさがよくわかるというものである。
b0189364_22022123.jpg 全編バロック音楽が流れるが、テーマ曲はあの暗い「アルビノーニのアダージョ」。このドラマの雰囲気を規定している。この音楽の暗さがこのドラマに合っているかどうかは何とも言えないが、岸本加世子の語りも同じような雰囲気なので、作り手側はこういった雰囲気を求めていたのではないかと思われる。
 なおこの『あ・うん』だが、1989年に映画化されて、主役の3人を板東英二、高倉健、富司純子が演じた(監督:降旗康男)。もっともあれは翻案に失敗したひどい作と言える。僕は映画版しか見ていなかったために、ドラマ版も今まであまり見る気になれなかったが、ドラマ版の方が断然優れている。だが優れていたとしても、好きかどうかは先ほども言ったようにまた別の話なのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『続あ・うん (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(本)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』

by chikurinken | 2018-05-03 07:00 | ドラマ

『寺内貫太郎一家』(22)(ドラマ)

寺内貫太郎一家 第22話(1974年・TBS)
演出:久世光彦
脚本:向田邦子
音楽:井上堯之、大野克夫
出演:小林亜星、悠木千帆、西城秀樹、浅田美代子、加藤治子、梶芽衣子、左とん平、由利徹、横尾忠則、篠ひろ子、藤竜也

絶好調時の向田邦子作品

b0189364_18173182.jpg 懐かしの『寺内貫太郎一家』が、BSトウェルビとかいうよくわからない放送局で再放送されていたので見てみた。僕が子どもの頃も毎週見ていたし、学校でもかなり話題になっていた作品で、悠木千帆(後の樹木希林)のばあちゃんが沢田研二のポスターに向かって「ジュリー!」と叫ぶ毎週恒例のシーンは、かなりブームになって、多くの子供達がマネしていた。
 昔は確かに面白いと思って見ていたが、今見るとまた違った感想が沸くのでは……と思って今回見てみたわけだが、正直言って、コントとバラエティとドラマを混ぜ合わせてごった煮にしたようなドラマで、何じゃこりゃと思いながら見ていたのだった。だがそのうち、当たり前のように思えることが幸せ、当たり前のように存在している人が実は大切だ……というようなメッセージが伝わってきて、演出はともかく、かなりよくできたシナリオであるように思えてきた。
 実際に久世光彦の演出については、アドリブがかなり混ぜられるようなものだったらしく、山田太一はそのせいで彼とぶつかったらしいが、向田邦子はその辺は特に気にしなかったと見える。実際、このドラマには随所にアドリブめいた箇所がある。そのためにコントやバラエティみたいな様相を呈してくる。それによって面白くなる場合もあるが(実際当時はそういう部分が受けていたわけだし)、完成度はそれに伴って下がることになる。とは言っても、今回見た第22話については、先ほども言ったようにシナリオが非常に優れていて、とりとめのないゴチャゴチャした展開が、最後に実にスッキリした形で収束することになっていた。お見事としか言いようがない。最後の方のシーンでマドンナの浅田美代子が屋根の上で「幸せの一番星」を歌うのも毎度の定番だったが、結果的に静かな収束を象徴するような演出になっており、良い効果が出ていると言える(ただしギターを弾くふりはみっともないと思う)。そういったあたりがこのドラマの魅力だったのだと今回あらためて思った。
 他にもタイトルデザインが横尾忠則だったり、しかも横尾忠則がチョイ役で出演していたりして、別の面白さもある。音楽の担当が、井上堯之、大野克夫、岸部修三(岸部一徳)というのも贅沢である、今思うと(要は井上堯之バンドのメンバーたちなんだが)。キャスト陣もかなり豪華で、当時人気が出たのも頷ける……そういう1本だった。とは言え、見るのはこの1本だけで良いかなとも思った。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『ちょっと愛して…(ドラマ)』
竹林軒出張所『浮浪雲 (1)、(2)(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-03-09 07:17 | ドラマ

『阿修羅のごとく』(映画)

阿修羅のごとく(2003年・東宝)
監督:森田芳光
原作:向田邦子
脚本:筒井ともみ
出演:大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子、小林薫、中村獅童、八千草薫、仲代達矢、RIKIYA、桃井かおり、坂東三津五郎、木村佳乃、紺野美沙子

b0189364_82223100.jpg 70年代にNHKで放送された向田邦子のドラマを映画にアレンジしたもの。
 監督の森田芳光は好きな作家の一人だが、しかしこの映画についてはあまり良い印象を持たなかった。嫌いなわけではないんだが、あまり面白味を感じない。70年代のホームドラマというのはこんなにつまらなかったかなというような印象である。
 前にNHKで放送されたテレビ版の『阿修羅のごとく』は、リアルタイムではタイトルバック以外見ていない(タイトルバックに流れる音楽が非常に印象的だったのでここだけ見ていた)が、今から10年ほど前に再放送で全部見た。だが、内容はほとんど憶えていなかった。あまり印象がないんだな。ということで、おそらく原作自体がつまらないんだろうと結論付けることにする。
 老夫婦と四姉妹の家族で、父親の浮気が子ども達に発覚して、それが元で騒動が起こるというストーリーで、なんだかこの間NHKで放送された向田ドラマ『胡桃の部屋』にそっくりである(竹林軒出張所『胡桃の部屋(1)〜(3)(ドラマ)』参照)。『胡桃の部屋』の最初の放送が82年ということなので、さては阿修羅を焼き直ししたな、向田邦子!ということになる。ストーリーだけでなくキャラクター設定もかなり似ており、最初の『阿修羅のごとく』と最初の『胡桃の部屋』では主演も「いしだあゆみ」で共通している。テーマは若干違うが、それにしても他人がこういった作品を作ったらパクリの汚名を着せられるであろうことは間違いない。
 さて映画版であるが、向田作品に共通で、料理や食べるシーンが大量に出てくる。舞台は昭和54年前後で、元のテレビ版と同じ設定になっている。そのため電話の音がけたたましく、しかも何度も何度もいろいろなシーンで電話が鳴るのでうるさいったらない。当時の電話って家の中でこんなに威張り散らしていたのかと思うほどだ。そういうわけで料理と電話の音だけが妙に印象に残ったのだった。
 演出はありきたりでさして面白味もなかったが、キャストはやけに豪華である。長澤まさみも脇役で出ていた。あまりに脇役なんで、最後まで出ていたことに気が付かなかったほどだ。うまい俳優が多く出ているのに、どれも退屈な演技しかできていないのは残念で、主役の四姉妹もなんだかパッとしない。キャストで面白かったのは、中村獅童、桃井かおり、木村佳乃ぐらいか。
 ただキャスティングは凝っていて、テレビ版で次女を演じていた八千草薫が母役を演じる他、長女を演じていた加藤治子がナレーションで少しだけ登場する。先日のNHKの『胡桃の部屋』でも似たようなキャスティング(竹下景子)をしていたが、この映画の真似だったんだろうか。なんだかあのドラマのメッキがいろいろと剥がれてきたような思いがする。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『森田芳光の映画、3本』
竹林軒出張所『武士の家計簿(映画)』
竹林軒出張所『断定する人』
竹林軒出張所『39 刑法第三十九条(映画)』
by chikurinken | 2011-10-12 08:23 | 映画

『思い出トランプ』(ドラマ)

思い出トランプ 前編・後編(1990年・TBS)
演出:久世光彦
原作:向田邦子
脚本:寺内小春
出演:田中裕子、小林薫、加藤治子、洞口依子、岸部一徳、内大輔

b0189364_7553539.jpg これも向田邦子のドラマで、「向田邦子×久世光彦スペシャルドラマ傑作選」というDVDシリーズの一本。向田邦子の短編集『思い出トランプ』から「大根の月」、「だらだら坂」、「男眉」の3編をまとめて脚色したドラマ。3編をまとめたドラマだが、そういうものにつきもののぎこちなさはなく、知らなければ1本の話だと思い込んでしまいそうである。僕自身、原作は読んでいないので、どの話のどの部分がどのように取り込まれているかはよくわからない。唯一柴門ふみのマンガ(『花の名前 向田邦子漫画館』)で読んだ「だらだら坂」は知っているので、どういう感じでこのドラマに取り込まれたかというパターンはおおむね想像がつく。おそらくではなるが、「大根の月」をメインにして、そこに「だらだら坂」、「男眉」のエピソードを盛り込んだんではあるまいか。ともかく、ストーリーとしては破綻することなく、非常にうまくまとめられている。
 向田作品に見られる女性の視線の厳しさや怖さもふんだんに盛り込まれる。こういった心情表現は田中裕子のナレーションで表現されるが、一方で男の視線も小林薫のナレーションで加えられる。だが男目線のナレーションは、少し奇を衒った印象があり、男の感性からは少し遠いと感じた。向田邦子も男のものの考え方はあまり把握できていなかったのか。そういうこともあって、ドラマでは男のナレーションは不要だったように思う。
 キャストはどれも好演しており、久世演出が光る。特に加藤治子は、こういった嫌な姑をやらせたら天下一品で、まことに不快な姑-夫関係がそこに描き出されている。また、向田作品らしく随所に食事シーンが出てくる。『寺内貫太郎一家』の時代から一貫した傾向だが、良いのか悪いのかは正直よくわからない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』

by chikurinken | 2011-08-17 07:56 | ドラマ

『胡桃の部屋』(1)〜(3)(ドラマ)

胡桃の部屋(2011年・NHK)
演出:渡邊良雄、一木正恵
原作:向田邦子
脚本:篠﨑絵里子
出演:松下奈緒、竹下景子、原田泰造、西田尚美、蟹江敬三、井川遥、臼田あさ美、瀬戸康史

b0189364_858421.jpg 向田邦子原作のドラマで、今回が3回目のドラマ化だそうな。ちなみに2回目の主演は竹下景子で、今回はその竹下景子が母役として出演している。こういう遊びの要素が入ったキャスティングは、『新・細うで繁盛記』(2006年にフジテレビで放送)でも見られたが、結構好きである。
 端から見ると至極幸せな家族(両親ときょうだい4人)が、父の失踪をきっかけにどんどん変な方向に進んでいくというホームドラマで、向田邦子らしいネタである。食事のシーン、料理のシーンがやけに多いのも、向田作品らしいと言える。失踪した父は、飲み屋の女性の元に身を寄せており、家の中では厳格で一切家事をしなかったような父が、そこでは女の洗濯物を取り込んだりする。このあたりのエピソードは以前何かで見たことがあるが、元が何か思い出せない。もしかしてかつての『胡桃の部屋』を見たのかも……と思ったが、見た記憶はまったくない。向田ドラマは、一般的にストーリーのドラマではないため、ディテール以外忘れていることが割に多いのだな。さて、その父の同棲をきっかけに、それまで家のことを切り盛りしてきた母が少しずつおかしくなる。少しずつ歯車が狂ってきた家の中で、主人公の次女(松下奈緒)が必至に家を支えようとする。このあたりが(1)と(2)で、正直ちょっともの足りない。
 それが(3)あたりから思わぬ展開(と言ってもおおむね予想の範囲内であるが)になってくる。他家に嫁いでいた長女(井川遥:ここも一見きわめて平和そうな家庭)の夫が不倫していることがわかる。一方で、家を支えようとしていた主人公の次女も、精神的に参ってきて、妻子ある男(原田泰造)と恋仲になる。つまり家の破滅の元凶になった「不倫」が、他の家族メンバーにも別の形で飛び火するという展開になってくる。しかも主人公は、家族を破壊する立場の不倫相手という立ち位置になる。このあたり皮肉がきいていてなかなか面白い。ただし、父のケースと主人公のケースは、(3)話の時点ではまだ「不倫」になっておらず、長女のケースも「不倫」はまだ明るみになっていない。だからもしかしたら最後までそういうことはないのかも知れない。それはわからない。
 まあそういった、平穏な家庭に巻き起こるちょっとした波乱で、他のドラマに見られるようなセンセーショナルな要素はあまりない。まさに「ホームドラマ」であるが、まあでもそういう小さな波風でも、身近なところで起こればそれは重大事で、こういったドラマはまさにそこらあたりを狙っているのであって、身近な要素として感じさせるのがこういったドラマの力量である。いかにも70年代のドラマのテーマという感じでもある。ちなみに舞台設定も70年代のようで、画面に映る家の中の調度が非常に懐かしい。家具調テレビなんか実に良い味を出している。
 大変地味なドラマで、第(1)回から第(3)回まではあまり視聴率がとれていないようだ。たしかに(1)と(2)は退屈だったからしようがないが、これからもう一波乱ありそう(たぶんあるだろう)で楽しみではある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』

by chikurinken | 2011-08-16 08:58 | ドラマ