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竹林軒出張所

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タグ:マンガ ( 136 ) タグの人気記事

『マタギ』(本)

マタギ
矢口高雄著
ヤマケイ文庫

「マタギ」という言葉が有名になったのは
このマンガからだ……たぶん


b0189364_21210154.jpg 「自然と人間との関わり」を描き続ける矢口高雄のフィクション・マンガ。今回テーマになっているのは、東北の猟師集団、マタギである。
 私の記憶が確かならば、「マタギ」という言葉が全国的に知られるようになったのは、矢口高雄のマンガからではないかと思う。
 矢口は1972年から『マタギ列伝』というマンガを連載していたが(評判は上々であったにもかかわらず)突然連載が中止されるという憂き目を見た。その後、別の出版社から話があり続編を描くことになった。それがこの作品、『マタギ』であるそうな(本書あとがき「マタギの思い出」より)。もちろん『マタギ列伝』と『マタギ』は完全な続きものではないが、主人公が野いちご落しの三四郎であり、その彼の冒険譚であるという点は共通である。本書『マタギ』には、この三四郎のエピソード以外に、百造というシカリ(頭領)、百造の下で働く勢子(追い出し役)の源五郎のエピソード、あるいは感動的な狐の話まであり、非常にバラエティに富んでいる。なんせこの文庫本だけで800ページを優に超えている。しかも『マタギ』の本編に加え、その後に「最後の鷹匠」という30ページ弱のおまけのエピソードまで付いている。非常に豪華な文庫本と言える。僕自身は山と渓谷社が文庫本を出していたことも知らなかったが、そこからマンガが出ていたこともつい最近まで知らなかった。それなりのお値段ではあるが、絶版ものが多い矢口作品で今でも継続的に販売しているというのは立派。ただし難点もあり、元々の文字が小さすぎたせいか、この文庫版では読むのにかなり苦しむ箇所が散見された。
 メインになっているのは、先ほども言ったように三四郎のエピソードで、この三四郎が、最終的には、小玉流という隠れ女流マタギ集団に関わることになるなど、話は奇想天外な方向に進んでいく。人が(つまりマタギがだが)鉄砲を使うことの可否まで問われるというかなり壮大なテーマにまで発展していくが、最後は収拾がつかなくなったようで突然のように終わってしまう。こういうこともあってか、著者自身はこの作品を「不肖の息子」と呼んでいるらしい(これも「マタギの思い出」より)。
 湖に怪獣が出てきたり、狐がダイナマイトを使ったりというストーリー展開はいかがなものかと思うが、ストーリー自体はどの作品もかなりよく練り上げられていて、同時に矢口高雄の自然観も巧みに表現されているなど、少年向けマンガとしては非常にグレードが高いと言える。そのためもあり、この作品は、「不肖の息子」であるにもかかわらず第五回日本漫画家協会賞を受賞することになったのだった。著者は複雑な心境だったようだが、しかし相応の賞を受けるだけの立派な作品であることは疑いないところである。
第五回日本漫画家協会賞大賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』

by chikurinken | 2019-09-11 07:20 |

『ふるさと (1)、(2)、(3)』(本)

ふるさと (1)(2)(3)
矢口高雄著
中央公論社

矢口版『北の国から』

b0189364_21201312.jpg 『釣りキチ三平』の矢口高雄が、自分の子ども時代の経験をふんだんに盛り込んだフィクションのマンガ。発表されたのが1983年から85年で、この後、自分の子ども時代をエッセイ風にまとめた作品が立て続けに出るため、この作品が、その後のエッセイ・マンガのルーツと考えても良いんじゃないかと思う。
 今回読んだのは、中央公論から出た中公愛蔵版というやや大ぶりの本で、全3巻構成、トータルで2500ページもあり、結構な大著である。
 この作品の主人公は小学生の男子で、東京で離婚した父が、息子(つまり主人公)と娘(つまり妹)を引き取り、自分の田舎に戻って田舎暮らしを始めるというストーリー。子ども達は、東京から田舎に連れてこられ当初は戸惑うが、徐々に田舎の生活にも慣れていき、生活を楽しんでいくというストーリーが柱で、これとあわせて、山村の昔からのさまざまな伝統的な習慣が紹介されていくという趣向である。ここで紹介される多くのエピソードは、著者のエッセイ・マンガ『蛍雪時代』にも登場し、ということは著者の経験をフィクションという形で結実させたのがこの作品、『ふるさと』ということができる。ただしストーリーは、本作発表の前年にテレビ放送されて話題になったドラマ『北の国から』にかなり似ており、正直あまりの類似性に驚く。b0189364_21201928.jpgもちろん、このマンガでは、伝統的な雪国の生活を描くというコンセプトで、『北の国から』と方向性は違うが、ストーリー構成があまりに似ていると、さすがにそれは無いだろと思ってしまう。もしかして矢口先生、『北の国から』に触発されて、自分なりの『北の国から』を作りたかったんだろうかと勘ぐってしまうが、本当のところはわからない。
 第1巻にはバチヘビ(ツチノコ)のエピソードがかなり長いこと(「怪蛇騒動」、「バチヘビの夢」、「夏の終りに」の3編、トータル200ページ近く)出るが、このあたりは『幻の怪蛇バチヘビ』の焼き直しではないかと思われる(登場人物も似ている)。全体を通して、『北の国から』のストーリーに、矢口高雄の経験的なエピソードを交えるという構成で、エピソード自体は、他の矢口作品(エッセイ、エッセイマンガ)と重複している。絵柄や内容も『釣りキチ三平』を彷彿させる。元々『週刊漫画アクション』の連載マンガだったこともあり、どうしてもエンタテイメント重視になってしまうんだろうか、『蛍雪時代』ほどの重厚さ、面白さは感じなかった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』

by chikurinken | 2019-09-10 07:19 |

『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)』(本)

蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)(5)
矢口高雄著
講談社文庫

なんという中学校! なんという中学生!

b0189364_21042269.jpg 矢口高雄の自伝的エッセイ・マンガ『蛍雪時代』の第2巻から第5巻。
 第2巻が「第5話 成瀬小唄 Part 2」、「第6話 七人の侍」、「第7話 ホームプロジェクト展」、第3巻が「第8話 火の石の謎」、「第9話 東嶺の末裔…?」、「第10話 想い出づくり」、第4巻が「第11話 聖火燃ゆ!!」、「第12話 見える魚は釣れない」、「第13話 ケンカ嫌い」、「第14話 友情」、第5巻が「第15話 スイカ談義」、「第16話 市助落し」、「第17話 雪の夜」、「エピローグ」の各章でそれぞれ構成されている。すべて、著者の中学時代を回想した話であるが、第9話と第16話は、途中江戸時代の話(どちらもかなり長い)がさりげなく挿入されている。それぞれの話にはいくつかのエピソードが入っているが、どれも1本のテーマにしっかり集約されていて、1話のストーリーとして完成度が非常に高いと感じる。
 またその内容も驚きの連続であり、生徒会主催(ちなみに著者は生徒会長)でグラウンドは作るわ、運動会はやるわ、映画会はやるわ、修学旅行の費用は稼ぐわで、あまりにアクティブで凄すぎである。しかもどれも生徒たちが自主的に決めたもの(先生も協力するが)であり、いくら時代も地域も違うとは言え、これが本当に日本の中学生かと驚くばかりである。しかもそれに協力してくれる先生たちも、親身で優しく、しかも一緒になって楽しんでいる。特に担任の小泉先生は、「第17話 雪の夜」で描かれるが、雪の中、主人公の家(学校から8kmもある山の中)までやって来て、中卒後就職予定だった高雄の高校進学を両親に拝み倒すということまでやっている。この話は『ボクの学校は山と川』にも出てきて非常に感動的な話なんだが、マンガでは内容がさらに詳細に描かれ、しかも映像的な表現が随所にあって、この書の白眉と言って良い一編である。著者がこの中学校で経験した教育は、まさに一つの理想的な形と言える。
b0189364_21042730.jpg 同時に著者の学校以外の私生活も素材になっており、手塚治虫に憧れマンガに凝ったり、重労働の畑仕事や雪下ろしを手伝ったりという一面も描かれる。
 なお、この書で描かれている内容は、同じ著者の他の自伝的なマンガ(『オーイ!! やまびこ』など)やエッセイでも取り上げられており、重複する箇所がそこそこ見受けられる。ただすべて描き直しているようで、そのあたりも著者の誠実さが伝わってくる。作画も非常に丁寧で、絵は美しい。エッセイではわからなかった情景、たとえば村の様子や市助落しの渓谷なども、著者自身が描いているため、非常にわかりやすい。矢口マンガ、特にこの作品は、僕にとって今年一番の収穫であった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』

by chikurinken | 2019-09-08 07:03 |

『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)』(本)

蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)
矢口高雄著
講談社文庫

矢口高雄の描く日本の原風景と
麗しき中学時代


b0189364_20504249.jpg 『釣りキチ三平』でお馴染みの矢口高雄。というか、元々それぐらいしかこちらに予備知識がなく、しかも僕自身は子ども時代に釣りにまったく興味がなかったため『釣りキチ三平』すら読んだことがないと来ている(『少年マガジン』はちょくちょく読んでいたが『釣りキチ三平』はとばしていた)。だが数年前、同じ著者の『奥の細道』を読んだときは非常に衝撃を受け、この人にこれだけの才能があったのかと、矢口高雄を知って数十年経ってから初めて感心したという次第。
 今回、エッセイ(『ボクの学校は山と川』)を読み、それに伴ってエッセイ・マンガ(つまりこの作品)も読んでみたんだが、絵といい内容といい超一級で、こちらも感心することしきり。
 この作品で描かれるのは、タイトルからわかるように矢口氏の中学生時代の話で、舞台は戦後すぐの時代、秋田県の山間の小さな村である。なんせものがなかったため、遊びは自分たちで見つける、必要なものは自分で作るという具合。中学校も少し前まで小学校の傍らに分校として併設(というより間借りみたいなものか)されていたという有り様である。ただし中学校はその後、村に新設されたらしいが、それでも体育館もグラウンドも校門もない間に合わせみたいな建物である。実はこの校門については、最初のエピソード「第1話 校門を掘る少女」で触れられていて、のっけから非常に感動的な話が披露される。他にも「第2話 ホームソング」と「第5話 成瀬小唄」が中学校自体のエピソード(担任教師、小泉先生が非常に魅力的)でどちらも感動を呼ぶ話である。残りの「第3話 吹雪がくれたプレゼント」と「第4話 田植えのプロセス」が日常生活のエピソードである。第1巻はこの5話で構成されているが、どれも質が高く、しかも密度が濃い。絵は言うまでもなく丁寧で美しく、矢口高雄の才能にあらためて気付かされる思いがする。
 なお、本書に収録されているエピソードは、多くが『ボクの学校は山と川』でも紹介されている。僕の個人的な感覚で行くと、(両方読むというのであれば)エッセイを読んでからマンガを読む方が良いような気がするが、マンガだけでも十分ではある。ともかく今回、矢口高雄という作家への興味が俄然膨らんだのであった。
★★★★

追記:
 南伸坊の本(『私のイラストレーション史』)によると、矢口高雄も『ガロ』出身のマンガ家で、当初彼の採用に積極的だった南伸坊に対し、編集長の長井勝一は「ストーリーは良いが絵がちょっと」などと言ったらしい。矢口マンガと言えば、絵がうまく丁寧という印象が僕には強かったため、このエピソードには相当意外な感があった。
 一方、長井勝一の著書(『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史』)によると、長井氏自身は彼のマンガを高く買っていたが、(当時)30歳で銀行勤めをしているという経歴から、マンガ家に転身すること自体に反対だったらしい。きっちりした仕事に就いているのにマンガ家みたいな明日をも知れない身になるのはどうよ(しかも30歳で!)ということだったというのである。ただし矢口自身は、長井に反対されたことに反発を感じ、その反骨心がマンガ家としての成功につながったと、その後長井氏に語ったらしい。

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『私のイラストレーション史(本)』

by chikurinken | 2019-09-07 06:50 |

『ボクの手塚治虫』(本)

ボクの手塚治虫
矢口高雄著
講談社文庫

当時の手塚マンガの衝撃が伝わってくる

b0189364_21553204.jpg マンガ家、矢口高雄の手塚治虫に対する思い入れを綴ったマンガ作品。
 元々は毎日中学生新聞に連載していた、自伝的エッセイ・マンガ『オーイ!! やまびこ』が出典らしい。つまり矢口氏、子ども時代に手塚治虫のマンガに衝撃を受けその後も多大な影響を受けているため、彼の少年時代を描く上で手塚治虫は欠かすことができなかったようで、『オーイ!! やまびこ』にも手塚マンガのエピソードをたまに入れていたんだが、思い入れがあまりに強かったせいか、とうとう手塚マンガのエピソードが全部で5話にまでなってしまったという。そういういきさつで、この5話だけ取り出して単行本化したのが、この作品というわけ。
 その思い入れたるや尋常ではなく、その熱い思いは読んでいるこちら側にも存分に伝わってくる。手塚マンガに対する思いは、藤子不二雄の『まんが道』とも共通するもので、いかに当時のマンガ少年たちにとって手塚が大きな存在だったかがよくわかる。また当時刊行されていたマンガ雑誌『漫画少年』への思いも出てくるが、こちらも当時のマンガ少年たちにとって大きな存在になっているのは疑いのないところである。実際、トキワ荘グループの作家たちは、そのほとんどがこの雑誌の投稿欄を通じて世に出てきている。日本のマンガ史を振り返った場合、日本マンガの発展の上で、手塚治虫、『漫画少年』、『ガロ』の3つが最大の役割を果たしていると考えられるが、そのあたりも本書から窺われるのである(ちなみに矢口高雄は『ガロ』でデビューしているため、すべてに関わっていることになる)。
 なお本書では、当時著者が目にした手塚マンガも著者自身の手で再現されていて、こちらも大きな見所である(言うまでもなく大変うまい)。エッセイ・マンガであるため、途中で手塚治虫はもちろん、松本零士やガロの長井勝一も(マンガ化されて)出てくる。また描いている当時の大人になった本人の姿もたびたび出てくる。絵は非常に丁寧で情景描写も美しい。『まんが道』と同じような熱も伝わってきて、大変よくできた著作と言うことができる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『手塚治虫クロニクル 1946〜1967(本)』
竹林軒出張所『手塚先生、締め切り過ぎてます!(本)』
竹林軒出張所『漫画教室(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『日本まんが 第壱巻(本)』
竹林軒出張所『まんが道 (1)、(2)(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-09-06 06:55 |

『のんのんばあとオレ (1)、(2)』(マンガ版)(本)

のんのんばあとオレ (1)(2)
水木しげる著
講談社

日本の民俗学のもう一方の系譜

b0189364_18312952.jpg 水木しげるのエッセイ『のんのんばあとオレ』のマンガ版。先日見たドラマと内容が酷似している。
 『のんのんばあとオレ』は元々70年代に自伝エッセイとして発表された作品で、91年にNHKでドラマ化されている。このマンガ版はドラマ版の一年後(92年)に発表されていて内容もドラマとかなり似ている。ということは、あるいはこのマンガが、ドラマ版のスピンオフなのかも知れない。ドラマには水木しげるも一枚噛んでいるようだったので(冒頭に本人が登場してのんのんばあについて紹介する)、あるいは(ドラマの)プロットを水木しげるが考えたのでないかとも思われるが、詳細はわからない。ドラマ版の『続・のんのんばあとオレ』(92年放送)は、本書の第2巻のストーリーと共通であるため、やはり原案を水木が考えた、あるいはマンガ版が原作になったと考えるのが正しいような気がする。
 それはともかく、内容はドラマと共通であっても、ドラマで見られたようなまだるっこしさがなく、大変テンポよく進む。それにキャラクターが非常に魅力的なのも水木マンガらしい。特に主人公の父親が飄々とした存在であるにもかかわらず、なかなか鋭いセリフを吐く。大変魅力的なキャラクターである。出てくる妖怪もいろいろで、中には「小豆はかり」という気さくな妖怪もいて、こちらも魅力的な存在である。主人公の茂少年に哲学的なことを語ったりする。
 妖怪や物の怪の存在は元々のんのんばあによって語られ、子ども達がその実在を何となく感じるというような話になっているが、のんのんばあが語る内容は柳田國男の『遠野物語』を思わせるようなものであり、そういう点でこの本には民俗学的な価値も感じる。しかも茂少年は自分で目にした(と思い込む)妖怪を何とか絵にしようとがんばるんだが、結局それが、その後の水木作品に登場する妖怪になるわけで、境港(水木しげるの出身地でこの作品の舞台でもある)周辺に根付いていた民間伝承がマンガという形で記録されたということができる。日本の民俗学のもう一方の系譜と言っても過言ではあるまい。
アングレーム国際マンガフェスティバル最優秀作品賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『のんのんばあとオレ (1)、(2)(ドラマ)』
竹林軒出張所『のんのんばあとオレ(本)』
竹林軒出張所『水木しげるの遠野物語(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第2巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『ほんまにオレはアホやろか(本)』
竹林軒出張所『ねぼけ人生(本)』
竹林軒出張所『水木しげるの泉鏡花伝(本)』

by chikurinken | 2019-09-02 07:29 |

『不登校の17歳。』(本)

不登校の17歳。出席日数ギリギリ日記
青木光恵著
メディアファクトリー

『中学なんていらない』高校篇

b0189364_20043102.jpg 『中学なんていらない』の続編で、高校篇。
 進学した公立高校は、思っていた以上にひどく、むすめの「ちゅんこ」も学校から次第に足が遠のく。親である著者は、すわまた不登校かと怯えるが、娘はしっかり成長したのか、適当に休みを取りながら、しかもバイトもしながら、無事に卒業。大学に進学するというはこびになった。メデタシメデタシという結末。
 今回は不登校云々というよりも(多少不登校気味ではあるが)、教育ローンとか奨学金とか、進学に当たっての金銭面の話が多かった。そのためもあって、情報としての目新しさはほとんどない。不登校の体験談を期待して読むと、落胆すること請け合いである。
 なおこちらも、前作と同様情報量が少なく、30分程度で読み終わることができる。
★★★

参考:
竹林軒出張所『中学なんていらない(本)』
竹林軒出張所『学校に行かなくなった日(本)』
竹林軒出張所『不登校は1日3分の働きかけで99%解決する(本)』
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『学校って何だろう(本)』
竹林軒出張所『子どもの夜ふかし 脳への脅威(本)』

by chikurinken | 2019-08-21 07:04 |

『中学なんていらない』(本)

中学なんていらない 不登校の娘が高校に合格するまで
青木光恵著
メディアファクトリー

中学校に対する怨嗟のマンガ

b0189364_19474779.jpg タイトル通りのエッセイ・マンガ。
 娘が中学で理不尽ないじめに遭い、学校に行けなくなった。だが学校側はそれにしっかり対応するどころか、非常に投げやりで、登校していないため内申点はすべて1だ、したがって高校進学はままならない、などと言って脅すのである。ところが実際は、学習塾の協力もあったが、無事に志望校に合格することができる。あの中学の対応は一体何だったんだということになって、それがこのマンガに結実したというわけ。とにかく中学に対する憤りというか怨嗟の声が随所に噴出しているのである。著者の主張はよくわかるし、とにかくひどい中学校であることは十分伝わってくる。
 当事者である娘「ちゅんこ」は、こういうひどい状況に陥って非常に気の毒であったが、高校入学という形できっちり立ち直ることができたようで結果オーライではあった。しかし1人の若者に対してここまで苦痛を味あわせたわけだから、親の立場からすると、この中学およびその関係者は断じて許しがたいところで、何らかの形で落とし前を付けたいところだろう。本来だったら関係者の実名(またはそれに近い名前)を出すなどしたいところかも知れないが、さすがにそこまではしておらず、本書ではすべて匿名になっている。ま、そうやって報復したところで結局は自己嫌悪に陥るのが関の山だろうから、こうやってマンガの形で普遍的な装いで発表して鬱憤を晴らすという方法が一番良かったのだろう。
 娘が不登校になってしまい、親がうろたえる様子が克明に描かれ、読んでいて感じるところもあるが、情報量は全体的に少なめである。そのため30分程度で読み終わることができる。
 読み終わった後でいろいろ考えると、やはりこのマンガの一番のテーマは、中学校に対する怨みの表出ということになるのかなと思う。てことは、このマンガを通じてグチを聞かされた、みたいなものなのだろうか、本当のところは。
★★★

参考:
竹林軒出張所『不登校の17歳。(本)』
竹林軒出張所『学校に行かなくなった日(本)』
竹林軒出張所『不登校は1日3分の働きかけで99%解決する(本)』
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『学校って何だろう(本)』
竹林軒出張所『子どもの夜ふかし 脳への脅威(本)』

by chikurinken | 2019-08-20 06:47 |

『週末、森で』(本)

週末、森で
益田ミリ著
幻冬舎文庫

『すーちゃん』を焼き直してみた

b0189364_15493115.jpg 『すーちゃん』の益田ミリが、田舎暮らしを始めた若い独身女性とその身辺について描いたマンガ。田舎暮らしを始めたのは早川という女性で、翻訳をやっているという。田舎暮らしといっても野菜を作ったりとか自給自足したりとかいうような本格的なものではなく、単に地方に住み始めたという程度のものである。そこに週末ごとに友人のマユミちゃんとせっちゃんがやって来て、彼らを伴って近所の森や湖を散策したりする(なお自然の中には自動車で行く)。
 このマユミちゃんもせっちゃんも都会暮らしでかなりのストレスを感じていて、田舎で癒やされたりする。また早川が自然の中でさりげなく語った言葉が、仕事のストレスで潰されそうになった彼女たちに響いたりする。このような情景がワンパターンのようにたびたび繰り返されるので、早川が、迷える人々に啓示を与える神のような存在にも見えて、少々うさんくささを感じたりもする。要するにちょっとやり過ぎの感じである。ともかく、こうして田舎暮らしを楽しむ女3人のストーリーが続くのである。
 構成は、著者の他の作品同様、6ページ構成の短編が(ややとりとめもない感じで)連なっている。また『すーちゃん』同様、主人公と友人たちが、それぞれの話ごとに主人公の立場になってその生活がクローズアップされていくという展開も同じ。『すーちゃん』とキャラ、場所、設定を少しだけ変えた作品と言えなくもない。
 それなりに面白く読んでいたが、最後があまりに唐突に終わってしまったため、少々面食らってしまった。男に縁のないせっちゃんに恋の予感が現れるという展開(『すーちゃん』にも似たような展開があったような気がする)になっていくんだが、これが本当に唐突に終わるのである。てっきり落丁かと思ったほどで(落丁ではなかった)、あとは続編を読めという趣旨なんだろうか、いずれにしても何だか腑に落ちない。ちなみに続編は、この本のかなり後に発表されているようで、しかも早川が結婚して子どももいるという設定になっているようだ。随分乱暴な気がする。このあたり、もう少し丁寧に本作りをしたほうが良いんじゃないかとさえ感じたりする。全体的に本作りが行き当たりばったりみたいな印象もあり、作り手たちが本作りにいい加減に取り組んでいるんじゃないかとも感じてしまう。そういうわけで、内容はそこそこある本であるにもかかわらず、読後感はあまり良くない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『OLはえらい(本)』
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

by chikurinken | 2019-04-30 07:49 |

『カフェでカフィを』(本)

カフェでカフィを
ヨコイエミ著
集英社クリエイティブ

名前は知らなかったが
期待を持たせる作家である


b0189364_20144192.jpg カフェやコーヒーをモチーフにしたマンガの短編作品集。サッパリしたきれいな絵で、内容は非常に練られた、しかも感性的な味わいのある作品である。著者のヨコイエミって人、まったく知らなかったが、高野文子を彷彿させるような画風で、非凡な才能を感じさせる。
 まず最初の3本の話は、3本とも、あるカフェ(ヤマダカフェ)のある瞬間の風景を描くものであり、それぞれの話で主人公が異なっている。つまりある場に集まる人々をそれぞれ別の(その登場人物の)視点で見るという、なかなか意欲的な構成になっている。通常あるストーリーは、主人公の視点で語られるわけだが、この3本では、一つの風景が別々の主人公の視点で語られることになり、世界が個人個人の集まりで構成されているということが意識させられる。
 この3本を含み、全部で話は19本あるんだが、全編を通じた一貫性というものはない。ただし、全編を通じた連続性はないが、離れた話同士に同じ登場人物が出てきたりして(トータルの連続性がないためか)それが意外性を与えるのである。このような構成が、あるところから話がどんどんよそに移っていくような印象を与えるため、ルイス・ブニュエル風のダイナミズムも感じさせる。こういった、工夫された構成には知性的な要素も感じさせ、一方でストーリー自体は先ほども言ったように感性的な要素が強く、知性と感性が両立したなかなか稀有なマンガと言って良い。しかもあちこちに伏線が張ってあって、後のストーリーにそのモチーフが出てきたりするのも意外性に拍車をかける。本作には続編もあるようだが、たびたび(ほんの少しだけ)登場する「父親にコーヒー豆を送る若者」のエピソードは、おそらくこれも伏線になっていて、続編にエピソードが出てくるんではないかと思う。
 キャラクターはどれも性格が描き分けされていて、絵もそれを反映したものになっていて、そういう点でも技術の高さを感じさせる。著者に関する情報はまったくないが、非常に期待が持てる作家であると感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『火打ち箱(本)』
竹林軒出張所『夏休みが終わります』
竹林軒出張所『ドミトリーともきんす(本)』
竹林軒出張所『谷崎万華鏡(本)』
竹林軒出張所『ニューヨークで考え中(本)』

by chikurinken | 2019-04-28 07:11 |