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竹林軒出張所

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『カルトの思い出』(本)

カルトの思い出
手持望著
エンターブレイン

反カルト・キャンペーンのマンガ

b0189364_19191252.jpg カルト宗教を信じて、街宣活動をやったり怪しげな品物を売ったりしていた著者(現在マンガ家らしい)による体験記マンガ。これも一種のエッセイ・マンガである。
 このマンガの主人公の望太郎(著者の分身)は、高校生の頃、「神聖革命PPP教」の「刈人P夫(カルトピーオ)」氏のことをたまたま雑誌で知り、刈人の講演会に出席する。そこで出会った雑誌編集者の鈴木に誘われ、この教団に入ることになる。その後、疑問を持ちながらも教団の方針に従い、活動に積極的に関わるようになる。同時に刈人氏の言葉に絶対的に帰依するような人格になってしまう。だがその後、教団内部の矛盾にも気づき始め、刈人氏に対して疑念が生じるようになって、やがてこの教団と距離を置くようになる。その後は、マンガのアシスタントをやっていたが、自身がカルト信者だった過去となかなか向き合えないでいた。しかしあることをきっかけに、元信者だった自分自身の手で、カルト宗教の内情を描くべきと考えるようになる。こういういきさつで描かれたのがこのマンガであり、内容もそれに沿ったものである。
 僕自身は「1999年に日本が巨大地震で壊滅し、その隙を縫ってクーデターを起こす」などという主張のこのカルト宗教については一切知らなかったし、マンガでもすべて仮名を使っているため本当のところはよくわからないが、Amazonのレビューによると「銀河皇朝軍」(その後いろいろと名前を変えるが)すなわち「ザイン」がこれに当たるということらしい。確かにこの主宰者の伯壬旭という人はかつて「1994年6月24日、東京にマグニチュード9、震度8の大地震が起きる。その後は富士皇朝が全権を掌握する」と主張していたらしい(ウィキペディア情報)。またウィキペディアの「かつて小学館から発行されていたオカルト誌『ワンダーライフ』は、編集長を始めとするスタッフがザインの会員であり、小島の意見を肯定的かつ大々的に取り上げていたため、事実上ザインの機関誌となっていた。」という記述も、この本の内容と合致する。「PPP」や「P夫」のPは、ザインが好んで使っている「Z」との繋がりかと思うが、これも定かではない。
 マンガ自体は、表紙からわかるように、非常にシンプルで記号のような絵ではあるが、内容がしっかり描かれているんでこれはこれで良いかとも思う。もっとも著者の手持望という人、現在はプロのマンガ家なんで、それを考えると絵が手抜きと言えなくもない。もちろんこのマンガは元々(おそらく反カルト・キャンペーンの目的で)ウェブで描いたものであるため(営利目的ではないわけだから)そのあたりは目をつぶるべきなのかも知れない。それに何より、内容がわかりやすい。普通に読んでいると気付きにくいが、コマ割りなどには確かにプロらしい配慮があって、非常に読みやすいのは確かである。
 カルトにはまるということがどういうことなのかよくわかるという点で、著者の目的は十分に達成されているわけで、その一点だけでも十分に価値のある本になっている。少なくともオカルト誌『ワンダーライフ』よりは、はるかに有用で価値がある。これだけは確か。
★★★

参考:
竹林軒出張所『未解決事件File. 02 オウム真理教(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-07-18 07:18 |

『さよなら、カルト村』(本)

さよなら、カルト村
思春期から村を出るまで

高田かや著
文藝春秋

理不尽さはあるが
やはりカルトではないと思う


b0189364_16193375.jpg 農業を中心とした生活を送る「カルト村」で生まれ育った著者による、自伝的マンガ。『カルト村で生まれました。』の続編で、本書では、中学生時代から成人くらいまでの著者の生活が描かれる。
 主人公のかやは、初等部を終えて中等部に入るが、所属する中等部は、初等部のときと違い(中部地方にある)本部にある。本部には、製パン会社から飼料用に譲り受けた(賞味期限切れが近い)菓子パンが大量にあり、誰でも自由に食べることができたため、初等部時代のような飢餓状態からは解放される(実際かなり太ったらしい)。中等部、高等部の生活は、僕から見ると全寮制の学校みたいなイメージで、初等部ほど、外部の環境との著しい違いはない。ただし例によって「世話役」がおり、この世話役によってハラスメントまがいの扱いを受ける。
 たとえば学校の図書館で調べ物をしろと学校の担任から言われたんだがどうしたら良いかと「世話役」に相談したら(村では、学校の図書は利用が禁止されているらしい)、理由も聞かされず罰を受けた(「個別ミーティング」という名の軟禁、この間、学校への通学も禁止される)などは、子どもの側から見るとはなはだ理不尽な扱いで、あり得ないタイプの仕打ちであると思う。もちろんこういった理不尽は「一般」でもいくらでもあるが、生活全般が関わっている集団生活であるため、その影響ははなはだ大きいと言わざるを得ない。
 こういった仕打ちにもめげず、かやは(世話役には以後何も言わずに)図書館の本を片っ端から読むようになり、やがて高等部に進む。高等部でも理不尽な扱いはいろいろあるが、たくましく乗り切り、高等部卒業と同時に「一般」に出ることを決意する……という風に話が進む。一般社会で暮らす現在の話も少しあって、「村」での生活の良い面、悪い面が回想されるが、その結果、経験者が外から見る「閉じた世界」のイメージがあぶり出されることになる。このような本人の回想を勘案しても、やはりこのコミュニティを「カルト」と呼ぶのはちょっとどうかという印象がある。同様の理不尽な扱いは、全寮制の学校や教育現場、あるいは企業などでも、現在の日本にはいくらでもある。それを考えると、現在の日本社会がややカルトがかっているとも言えるってことか。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『A2(映画)』
竹林軒出張所『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔(本)』

by chikurinken | 2018-07-16 07:19 |

『カルト村で生まれました。』(本)

カルト村で生まれました。
高田かや著
文藝春秋

「村」の子どもたちはワイルドだ

b0189364_19542976.jpg 農業を中心とした生活を送る「カルト村」で生まれ育った著者による、自伝的マンガ。
 元々は『クレアコミックエッセイ』というエッセイ・マンガのサイトに発表されたものらしい。最近やたらエッセイ・マンガが多いと思っていたが、こういうような発表の場があったわけだ。中にはどうでも良いようなマンガも結構発表されているが、このマンガについては、内容がかなり濃厚である。なんせ「カルト村」で育った人が、その「カルト村」の中でどのようなことが行われていたかについて、自らの子供時代の視点で詳細に描いているんだから。
 おそらく著者が「カルト村」と称しているのはヤマギシ会のことだと思う。ヤマギシ会を「カルト」と呼ぶべきかは微妙なところではあるが、外部と価値観と生活が相当異なっている環境であるのは確かである。
 ヤマギシ会というのは、自給自足で暮らすコミューンであり、一般人を洗脳して騙して連れて来るというような、いわゆる「カルト」ではないと思うが、それでも入会時に全財産を没収する(そして退会時も返さない)などという問題点もあり、これまで社会問題化したことがある。我々が学生だった頃も、大学にヤマギシ会の勧誘ポスターが出ていたので、おそらく会員の多くは我々の世代だと思うが、その彼らの2世、3世が(社会とある程度隔絶された)このコミュニティの中ですでに成長し、成人しているはず。で、彼らがどうなっているのかは、我々にとって非常に大きな関心事になるわけだが、そのあたりがこのマンガで詳細に語られているというわけ。で、会で生まれた子どもたちがどうなるかというと、会(「村」と呼ばれている)の中に子供を集めて育てる機関があって、その中で共同生活する……というようなことがこのマンガからわかるのである。
 ただし、僕はここで「ヤマギシ会」という名前を出したが、マンガの中では「ヤマギシ」という名前は一切出てこない。本部は中部地方にあり、コミューン組織が全国展開されている(しかも莫大な資産を抱えている)というような記述があるため、まず間違いないとは思うが、はっきりとは書かれていない。この本で紹介されているのは、あくまでも「村」(「カルト村」とも読んでいるが)と呼ばれるコミュニティでの生活である。このコミュニティは、外の世界(「一般」と呼ばれている)と、ある程度隔絶されており(交流は結構ある)、独特の生活、文化を持っているのである。
 で、この「村」の子ども達の生活が、著者の思い出話としてこのマンガで描かれるわけだ。著者は成人するくらいの年齢まで「村」で育ち、その後、「一般」に出てきたという経歴を持つ。「一般」に出ることが禁止されているわけではなく、行き来は結構できるようなので、僕自身は先ほども言ったように「カルト」という呼び方には少々違和感がある。それはともかく、この「村」では、子ども達は5歳で親と離され、集団生活をさせられる。幼年部、初等部、中等部(初等部と中等部の子ども達は、一般の小学校、中学校に通う)、高等部、大学部と別れていて、それぞれの学部ごとに集団で暮らす。各集団に「世話役」と呼ばれる大人がいて、彼らが子ども達の生活を管理するというのが、このコミュニティのシステムらしい。印象としては、全寮制の農業学校みたいな感じか。
 この本で扱われているのは初等部の時代だが、子ども達にとっては結構過酷な生活である。何しろ育ち盛りの子供に対して1日2食しか与えられない(そのうち1食は主として学校給食)ため、子ども達は1日中空きっ腹を抱えている。空きっ腹だから、木の実や果実、雑草を見つけたら、喜んで食べる。なかなかワイルドである。また、「世話役」が子ども達に辛く当たり、体罰当たり前という環境でもある。平手打ち、炎天下で立たせる、1日中正座、軟禁など平気で行われるため、子ども達にとっては世話役はかなり怖く不快な存在である。今であればすべて児童虐待に繋がるようなものだが、僕が子供の時分も似たようなことは教育現場で日常的に行われていたため、これをもって「カルトは怖い」みたいな言動をするのもあまり当たらないと思う。もちろん、村での体罰は明らかに行きすぎではある。風通しの悪い集団が陥りがちな誤ちという見方をする方が正しいと思う。
 主人公の「かや」は、こういう体罰に怯えながらもそれなりに楽しく過ごしているようで、ワイルドさというかたくましさみたいなものも感じさせる。徹底した農耕社会だからこんなワイルドな子ども達ができるのか、そのあたりは何とも言えないが、それを考えるとこういう生活も一長一短と言えるのか。もっとも僕はこんな環境に入りたくないし、自分の子供を入れたいとも思わないが。
 なおマンガ自体は、絵も素朴で、マンガといってもあまり絵が動くようなものではなく、挿絵付きのエッセイという感じで受け取るのが良い。こういうのは、最近よく出ているエッセイ・マンガの特徴ではあるが、しかし内容がかなり斬新であるため、本としての価値は十分あると思う。なお、中等部以降を描いた続編(『さよなら、カルト村』)もある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『A2(映画)』
竹林軒出張所『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔(本)』

by chikurinken | 2018-07-14 07:54 |

『大家さんと僕』(本)

大家さんと僕
矢部太郎著
新潮社

新しい、他人との疑似家族関係

b0189364_18562915.jpg 漫才コンビ「カラテカ」の片割れ、矢部太郎によるエッセイ・マンガ。
 芸人としてうまく立ち回れていない著者が、2階建ての一軒家の2階部分に引っ越し、階下に住む大家さんと親しくなる。その大家さん、87歳で、使う言葉や話す内容が70年くらいずれている。また著者に対して、都会ではあまりないような濃厚な接し方をしてくる。最初は大家さんを遠ざけていた著者が、徐々に大家さんの世界に惹かれていくんだが、その過程が簡素で拙い落書きのような絵で綴られていくというのがこのマンガ。
 絵はマンガとしてはアレだが、内容はなかなかよくできていて、特に間やユーモアのセンスが素晴らしく、あちこちにほのぼのとした笑いが散りばめられている。さすが芸人という感じ。希薄な人間関係の都市生活にあって、2世代位前の近隣の人間関係が新鮮で、その中で見えてくるものが著者の目を通して表現されており、そのあたりが新鮮である。「大家さん」と「僕」との関係は、言ってみれば疑似家族関係のようにも映る。
 この本、現在ベストセラーらしく、面白そうだったため僕自身図書館で予約していたのだが、現在近所の図書館で「予約者384人」という状態で、いつ手元に届くかわからない状態である。この本、この図書館グループに合計11冊ありはするが、それでも計算上30周分待たないといけないことになる。借りた人が2週間で返す(つまり1周が2週間)として、手元に届くまで1年ちょっとかかる計算になる。1年も待つとなると、まわってきたときには読む気も失せそうな気がする(実際そういうことはよくある)。今回、別のつてで読むことができたんで、結局図書館の方はキャンセルしたが、まあ買っても悪くはなかったかなと思うような内容で、味わい深い本ではある。ただ、マンガの絵の部分は、拙さがある上、線もスカスカであるため、ちょっと見では買おうという気は起きにくいかも知れない。
第22回手塚治虫文化賞短編賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。(本)』
竹林軒出張所『家に帰ると妻がカフェをやりたがっています。(本)』
竹林軒出張所『ニューヨークで考え中(本)』
竹林軒出張所『人間仮免中(本)』

by chikurinken | 2018-06-22 07:56 |

『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(本)

行動経済学まんが ヘンテコノミクス
佐藤雅彦、菅俊一、高橋秀明著
マガジンハウス

行動経済学の事例集、だが玉石混交

b0189364_20294405.jpg 行動経済学の事例をマンガにしてわかりやすく読者に提示しようという試みの本。著者は、『ピタゴラスイッチ』でお馴染みの佐藤雅彦、およびその弟子の菅俊一。作画は、「バザールでござーる」の広告に関わった高橋秀明が担当。絵自体は50年以上前のギャグ・マンガを思わせるようなクラシカルなもの。
 内容はアンカリングとかハロー効果とか、あるいは認知的不協和の解消まで入っていて盛りだくさん。これを23話の短編マンガにまとめている。
 『サザエさん』的なほのぼの世界を使った事例集であるため、読みやすくわかりやすいが、第21話の「無料の威力」の話とか第23話の「双曲割引」の話など、事例があまり適切でないものもちらほらある。こういった「失敗例」については、事例が適切でないばかりか、面白味もない。そのため、行動経済学に興味を引こうという目的に叶っておらず、むしろマイナスになっているような気さえする。意図や目的は素晴らしいし十分評価に値するんだが、必ずしもその意図が実現されているとは限らない点が残念である。ただ第1話の「アンダーマイニング効果」や第2話の「感応度逓減性」など非常によくできた箇所もある。どうやら後になるほど質が落ちているようで、もしかしたらネタ切れだったのかも知れない。
 あまりインパクトはないし、内容的にも全面的に賛成ではないが、行動経済学への入口としては良いかも知れない。ただ先ほども言ったように行動経済学の魅力を低減させるような内容も含まれているため注意が必要ではある。
★★★

参考:
竹林軒出張所『予想どおりに不合理 増補版(本)』
竹林軒出張所『不合理だからうまくいく(本)』
竹林軒出張所『(不) 正直な私たち』(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』

by chikurinken | 2018-02-13 07:29 |

『夢十夜 (近藤ようこ版)』(本)

夢十夜
夏目漱石原作、近藤ようこ著
岩波書店

マンガ化、映像化の鑑

b0189364_16462753.jpg 夏目漱石の『夢十夜』をマンガ化したもの。『夢十夜』は、今さら言うまでもないが、「こんな夢を見た。」で始まる幻想的な10本の短編小説を集めた短編集(出だしが異なるものもある)。シュールレアルな作品であるため、マンガ化には適した題材と言える。実際この本は、マンガ化作品として非常に良くできている。
 原作の『夢十夜』は30年ばかり前に読んだが、第六夜の運慶の話以外まったく憶えていない。運慶の話は高校の教材でよく取り上げられるものであり、前に読んだときもこの話が第一の目的だったわけだが、そのせいかどうか知らないが他のものについては一切記憶がない。今回マンガを読んでみたが、第三夜の「子どもを背負って森を歩く話」がほんの少しだけ頭の隅にあっただけで他は一切憶えていなかった。元々が幻想的で筋が通った話でないため記憶に残りにくいのだろうと思う。しかし今回画像の形でこうして見せられると、イメージが鮮明になって内容についても印象に残りやすくなる。それを考えると、非常に優れた企画と言える。なんせ岩波書店が出した本である。岩波がマンガというのも珍しいが、何より漱石作品の多くを世に出してきた岩波の手による本というところに大きな意義がある。言ってみれば本来の版元からお墨付きをいただいたわけである。
 実際、著者の近藤ようこは、原作を決して台無しにすることなく、原作の持つ味わいを最大限に再現している。有名作品のマンガ化ということになると世間の見方は厳しくなるものだが、これだけのものができれば、世間に言わせることは何もあるまい。『五色の舟』同様、この作家のポテンシャルは計り知れない。マンガ化、映像化の鑑である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『五色の舟(本)』
竹林軒出張所『原作と映画の間』

by chikurinken | 2018-01-27 07:46 |

『ニューヨークで考え中』(本)

ニューヨークで考え中
近藤聡乃著
亜紀書房

癒やし系ニューヨーク滞在記

b0189364_23431414.jpg マンガ家であり画家でもある近藤聡乃のエッセイ・マンガ。
 ニューヨーク在住6年の著者が、のんびりしたニューヨーク生活をのんびりした画風で描くというもの。基本的に見開き2ページで1本、計70本プラス最初と最後にそれより長い2本(「未踏の地」と「続・未踏の地」)が収録されている。70本の見開きマンガは、元々Webマガジンおよび本人のWebサイトで公開されていたもので、最初と最後の2本は書き下ろしである。
 ニューヨークでの生活がネタであり、ニューヨークで感じた文化ギャップなどが紹介される。絵は「癒やし系」、セリフなどの文字もすべて手書きでこちらも「癒やし系」と言える。ネタ自体は概ね面白いが、大爆笑などというものはない。要するに「癒やし系」である。
 面白かったネタは、日本語を勉強し始めたアメリカ人の彼が、ひらがなとカタカナを憶えたばかりで、練習でいろいろな日本語を読もうとするというエピソード。彼「ビ……ジ……ネ……ス……」、私「ビジネスね」、彼「ビジネス?」、私「?……ああ……businessね」、彼「businessか!! OH!」となる。そうして、私「「日本人の英語」が通じないわけだよなぁ」と納得するという話。逆バージョンの話は英語を学習するときにもあるから妙に納得してしまった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『谷崎万華鏡(本)』

by chikurinken | 2017-10-25 07:42 |

『谷崎万華鏡』(本)

谷崎万華鏡
山口晃、高野文子、榎本俊二、今日マチ子、山田参助、近藤聡乃、古屋兎丸他著
中央公論新社

山口晃、高野文子、近藤聡乃が目玉

b0189364_17530365.jpg 谷崎潤一郎の小説をマンガ化した一種のアンソロジー。内容は、久世番子「谷崎ガールズ」、古屋兎丸「少年」、西村ツチカ「人間が猿になった話」、近藤聡乃「夢の浮橋」、山田参助「飈風」、今日マチ子「痴人の愛」、中村明日美子「続続蘿洞先生」、榎本俊二「青塚氏の話」、高野文子「陰影礼賛」、しりあがり寿「瘋癲老人日記」、山口晃「台所太平記」。
 高野文子としりあがり寿以外の作家はほとんど知らなかったが、まず彼らの画力と表現力に驚いた。今のマンガ界はこんなに才能が集まっているのかと感心する。特に「台所太平記」の山口晃はその画力に驚いた。こんな画力のあるマンガ家が存在していたとはまったく知らなかったが、その後調べたところ、若手画家の山口晃であることが判明。この人の絵は前から画力と飄逸さが面白いと思っていたので、このマンガについても、さもありなんである。それよりこの人がマンガを描くということ自体が驚きであった。この作品は特に質が高いが、紙面の都合もあり、26ページのダイジェスト的なものになっている。こういったダイジェストではなく、全編を翻案したものをぜひ描いてほしいものである。
 高野文子にも(ファンである身としては)当然触れておくべきだが、なんせ随筆(「陰影礼賛」)をマンガ化しており、それだけで本書の中で異色な存在なんだが、できあがった作品はほとんど挿絵と言っていいもので、原文の隣に絵が入っているという内容である。ただしそれでも詩的な情緒が現れているのがやはり高野文子作品で、これはこれで味わい深い。
 前半は、特に谷崎の変態的な作品ばかりが出てきて、古屋兎丸の「少年」や榎本俊二の「青塚氏の話」はちょっと辟易してしまうが、漫画としては両者とも質が高い。古屋兎丸は丸尾末広の作品をきれいにしたような絵で、線が非常に美しい。今日マチ子の「痴人の愛」は解釈が新しいが、原作の味はよく再現されていてうまくまとまっていると思う。近藤聡乃の「夢の浮橋」も印象的で、セリフがすべて手書き文字で、幻想的な内容とマッチしている。
 谷崎作品のアンソロジーとしては微妙ではあるが、今の若いマンガ作家のハイレベルな作品を目にあたりにすることができるという点で大いに価値のある本である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ニューヨークで考え中(本)』
竹林軒出張所『瘋癲老人日記(映画)』
竹林軒出張所『痴人の愛(映画)』
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『春琴抄(映画)』
竹林軒出張所『つれなかりせばなかなかに(本)』
竹林軒出張所『蓼喰う虫(本)』

by chikurinken | 2017-10-24 06:52 |

『五色の舟』(本)

五色の舟
津原泰水原作、近藤ようこ著
KADOKAWA/エンターブレイン

近藤ようこによって完成された
幻想的な世界観


b0189364_20492768.jpg 津原泰水という作家の同名短編小説をマンガ化したもの。元々SFやホラーを書いている作家らしいが、この小説は幻想小説という分類に入るのか。SF的でもあるが、かなり不可思議な世界である。
 太平洋戦争下の日本(広島をはじめとする中国地方)で、各地を巡業している見世物小屋一座の話。足のない男(父親的な位置付け)、小人症の少年(長男的な位置付け)、シャム双生児の生き残りの娘、そして腕のない少年(主人公)という構成の一座で、その後、膝が逆向きに付いている若い女性(母親的な位置付け)も入ってくるが、彼らは「家族」として互いに信頼を寄せて船上で暮らしている。
 そこに牛の体と人間の顔を持ち未来を予言する謎の生き物「くだん」の噂を聞きつけた父親が、その「くだん」を仲間として自分の一座に引き入れようと、くだんを求めて巡業の旅を続ける。最終的にくだんに辿り着くが、そこで意外な秘密が明かされ、意外な結末で終わるというストーリー。一種のパラレルワールドものと言えるかも知れないが、非常に特異な世界が描かれている。それが近藤ようこによって、独特の不思議な世界が構築されているというのがこの本である。
 素材自体は、映画『泥の河』やシャム双生児のベトちゃんドクちゃんあたりから持ち寄ったんだろうと思われる。『典子は、今』に出てきたようなシーンもあり、おそらくあの作品の影響もあることが考えられる。そもそも主人公の少年が辻典子さんとよく似た障害を持っている。津原泰水と近藤ようこは僕と近い世代で、社会的な体験を共有しているためか、こういった素材についてはあまり意外性は感じないが、若い世代がこの作品に触れたらさぞかし驚くんじゃないかという気もする。
 近藤ようこの作品は、絵があまり好きではなかったため、今まで接することはなかったが、(この作品については)醸し出される世界観が独特で、決してないがしろにできない作家であると感じた。以前、大友克洋と近藤ようこの作品を採用した雑誌は潰れるなどというジンクスというか噂(出所は不明)を聞いたことがあるが、大友克洋は言うまでもないが、近藤ようこも要注目である。それは間違いない。
第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『典子は、今(映画)』
竹林軒出張所『夢十夜 (近藤ようこ版)(本)』

by chikurinken | 2017-10-23 06:49 |

『更級日記 平安時代の元祖文系オタク女子の日記』(本)

更級日記 平安時代の元祖文系オタク女子の日記
菅原孝標女原作、清水康代著、川村裕子監修
双葉社

b0189364_19330347.jpg更級日記ダイジェスト

 『更級日記』のマンガ版。『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2』でも『日本人なら知っておきたい日本文学』でも『更級日記』をマンガ化していたが、どちらも中途半端で、ほとんど物語オタクだった若い頃の話で終わっていた。一方でこの清水康代版は、菅原孝標女が『更級日記』を書くようになったいきさつまで網羅しており、ほぼ全体をカバーしている。また随時原文も掲載されているため、古文の苦手な人の古文入門書としても適している。先の2冊と比べると後発であるだけにそれなりの特徴がなければ存在意義がないわけだが、この本は原作を網羅しているという強みがある。また『更級日記』のテーマ性も再現していて、味わい深い。世の無常も感じられる。
 作画はそれほどきれいではないが、登場人物の描きわけもちゃんと行われているし、『更級日記』入門、古文入門の素材としては格好の本であると言える。ところどころ『日本人なら知っておきたい日本文学』とかぶる表現があるが、あの本が参考文献リストに載っているので、適宜拝借したのかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』

by chikurinken | 2017-08-01 07:32 |