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竹林軒出張所

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『水木しげるの泉鏡花伝』(本)

水木しげるの泉鏡花伝
水木しげる著
小学館

鏡花の作品に興味を覚える

b0189364_18550975.jpg タイトル通り、水木しげるが明治大正期の小説家、泉鏡花の生涯を描いたマンガである。
 金沢で生まれた鏡太郎少年(泉鏡花の本名)、尾崎紅葉の小説(『二人比丘尼色懺悔』)に感銘を受けて、紅葉の弟子になるべく上京。ところが、東京に着いたは良いが、気後れしてなかなか紅葉の元を訪ねることもできず(このあたりいたく共感できる)、しばらくの間放浪生活に明け暮れる。いよいよ切羽詰まって郷里に帰ることにし、最後に紅葉に会うだけ会おうということになってとうとう紅葉の元を尋ねる。そこで無事に紅葉に面会でき、持ち込んだ小説が気に入られた結果、住み込みの弟子にしてもらう。このとき鏡花17歳。その後紅葉の口述筆記の手伝いなどをしながら、修行期間を経て『冠弥左衛門』で小説家デビュー。いろいろな紆余曲折を経るが、明治28年に発表した『黒猫』が当たる。ここまでが本書の第3章まで。
 そして続く第4章は『黒猫』のマンガ化である。第5章を挟んで、第6章では代表作の『高野聖』のマンガ化作品が登場する。本書で紹介される泉鏡花の作品はこの2本で、どちらもよくできたマンガ化作品である。要するに、この2作が泉鏡花の伝記の間に挟まれるという形式になっているわけだ。おそらく水木しげるはこれを一番書きたかったんではないかと勝手に推測するほど、非常にできのよい翻案作品である。この2作、泉鏡花作品を読んだことのない人(僕もそうだが)にとってはなかなか新鮮で、一度原作を読んでみようかなと思わせるだけの魅力がある。
 ともかくこの2作を挟んで、鏡花が最期を迎えるまでの人生が丁寧に描かれる。表現はやはり水木調で「オカチイナ」などというセリフが随所に登場する(これは『遠野物語』にも共通)。僕にとって謎めいた存在だった鏡花、そして鏡花作品が身近なものとして感じられたというのがこのマンガの最大の効能であった。
 なお今回僕が読んだのは『水木しげるマンガ大全集』版で、冒頭にリンクしたものとは厳密には違う(中身はほぼ同じ)が、あわせてこの本に収録されていた『方丈記』ともども、水木マンガの価値を再発見させてくれる佳作であったことを付記しておきたい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『猫楠(本)』
竹林軒出張所『水木しげるの遠野物語(本)』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 方丈記(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『白い旗、姑娘(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第2巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』

by chikurinken | 2018-12-28 07:55 |

『水木しげるの遠野物語』(本)

水木しげるの遠野物語
柳田國男原作、水木しげる著
小学館

マンガ化の水準がきわめて高い

b0189364_19081394.jpg 柳田國男の『遠野物語』を水木しげるがマンガ化した作品。元々は雑誌『ビッグコミック』に連載したものらしい。
 『遠野物語』は、柳田國男が岩手県の遠野地方に伝わる伝承話を知人から聞いて書き起こしたものであり、全119話(といってもほとんどの話は数行というもので非常に短い)からなる短い書で、日本の民俗学の嚆矢とされている。怪異譚や怪奇話などが多く、妖怪の第一人者、水木しげるにはうってつけの素材である。この119話から一部(重複している話やあまりにどうでもよいような話)を取り除き、全29回に渡り数話ずつまとめて連載したものがこの作品である。
 翻案は原文に非常に忠実であり、作画も水木しげるらしく非常に丁寧であるため、原文で読むということにこだわらないのであればこのマンガは格好の素材と言える。「入門云々」ではなく『遠野物語』をほぼ網羅しているため、このマンガを読んで『遠野物語』を読んだ気になってもまったく差し支えないと思う。実際『遠野物語』は明治の文語体で書かれているため、現代語訳などというものまで出ているが、このマンガは「現代語訳」と同レベルの優れた翻案である。僕は今回、原典と照らし合わせながら読んだんだが、かなり忠実に翻案されているのは確かで、その点、非常に感心したんである。
 『遠野物語』の特徴はと言えば、(遠野地方が三方を山で囲まれた地域であるためか)山に恐ろしげな人がおり、彼らと遭遇することによって事件が起こるという話が多いことである。中にはただ単に山の人に遭遇したというだけの話もある。第116話がヤマハハ(俗に言うヤマンバ)の話で、『遠野物語』の中ではもっとも一般に知られているものだろうと思う。要はヤマンバに襲われた娘が、何とか石の唐櫃(からうど)に入ってやり過ごし、その後、同じ家屋内の木の唐櫃で眠ったヤマンバを煮え湯でやっつけるというあの有名な話である。多くの話は割合ありきたりなもので、今となっては意外性のあるものはあまりない。原作はまずまずそんなところだが、やはりなんと言っても、原作の味やストーリーをそのまま活かしきっていて、しかも遠野の雰囲気を丁寧に作画しているという点で、マンガ化の水準がきわめて高いこと、それがこの本の最大の魅力と言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『全国アホ・バカ分布考(本)』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 方丈記(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『水木しげるの泉鏡花伝(本)』
竹林軒出張所『猫楠(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第2巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』

by chikurinken | 2018-12-27 07:07 |

『モンプチ 嫁はフランス人』(1)、(2)(本)

モンプチ 嫁はフランス人
モンプチ 嫁はフランス人2
じゃんぽ〜る西著
祥伝社

子どもに対するユニークな視点がヨイ

b0189364_18420125.jpg フランス人キャリア・ウーマンと結婚したアラフォーのマンガ家のコミック・エッセイ。
 このマンガ家、「じゃんぽ〜る西」というふざけたペンネームから推測できるように、若い頃、マンガのネタ探しということでフランスに渡った経験を持つ。ただし渡仏は実質1年程度で、スーパーのバイトしかやっていない(本人談)ということで、フランス語に堪能というわけではないらしい。だが縁あって、日本でフランス人女性と知り合い、結婚。友人たちや親は著者のことを「結婚できない」と思っていたため、フランス人と結婚したことに一様に驚かれたというエピソードも本書に描かれている。
 マンガについては、やはりプロのマンガ家が描いたもので、絵は多少素人っぽさを漂わせてはいるが、非常に面白いしうまいと感じる。絵についても一見拙そうに見えるが、しかし素人のコミック・エッセイとは異なる質の高さが随所に見受けられる。そのあたりはやはりプロの表現力ということになるのか。
 このマンガ、シリーズ化していて、現在シリーズ3まで出ている。結婚し、やがて子どもが生まれ、その子どもがだんだん成長していくという家族の物語だが、特に幼い子どもに対する著者の視点が鋭くて面白く、石坂啓の『赤ちゃんが来た』『コドモ界の人』のような「子どもに対する新発見」ネタが実に楽しい。b0189364_18420652.jpg本来はフランス人と結婚した日本人男の視点による異文化論が中心になるべきところなんだろうが、それよりむしろ子どもという異次元の存在に対する興味が先行しているようで、異文化ネタより異次元(子ども)ネタの方が充実している。もちろん子育てに対する日仏の考え方の違いのエピソードなどもユニークで面白いが、それでもやはり子どもが中心に来ているのは、著者が主夫業もやっているためだろうか。とにかく子どもに対する視点が斬新。著者の少し醒めたような、あるいは芸術家的と言っても良いのかも知れないが、そういうややシニカルなものの見方も楽しい。
 今回、シリーズ1とシリーズ2を図書館で借りて読んでみたが、子どもがもう少し大きくなったエピソード(つまりシリーズ3)もぜひ読んでみたいと思わせるような優れた作品であった。現在、シリーズ3も図書館で予約しているところである。なお、この著者、他にもパリ滞在記みたいなマンガが数巻出ている。また奥方のフランス人女性も、日本での育児に関するエッセイを発表している。こちらは現在読んでいるところ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『フランス人ママ記者、東京で子育てする(本)』
竹林軒出張所『中国嫁日記(本)』
竹林軒出張所『生まれてバンザイ(本)』
竹林軒出張所『たんぽぽの日々(本)』
竹林軒出張所『ちいさな言葉(本)』
竹林軒出張所『ママたちが非常事態!?(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-07 07:41 |

『アフリカ少年が日本で育った結果』(本)

アフリカ少年が日本で育った結果
星野ルネ著
毎日新聞出版

アフリカ人が描いた関西ノリのマンガ

b0189364_16173739.jpg タイトル通り、カメルーン生まれ、関西育ちの著者が描いたエッセイ・マンガ。元々はSNSで公開していたものらしいが、どういういきさつかわからないが本になった。概ね1ページで完結する話が集められて、全体で126ページ。50ページほどがフルカラーであとはモノクロという構成である。
 朝日新聞の天声人語で紹介されていたことから興味を持って、図書館で借りようとしたが在庫1冊のところすでに予約者が50人いた(こちらの手元に届くまで単純計算で2年以上かかる)ため断念して購入した。ただ内容は非常に充実しており、マンガとしてもグレードが高いため、買うだけの価値はあると思う。
 子ども時代の経験や異文化交流などが題材になっていて、しかも全体的に関西ノリで、ボケやツッコミが非常に良いテンポで展開され、笑える要素が散りばめられている。またマンガとしての表現力もあり十分魅せる。個人的には異文化交流の話が好きなんで、この手の本は割合良く接している方だが、本書は目新しい事がらが多く、異文化交流本としてもユニークな存在になっている。
 僕が一番好きなエピソードは、著者が小学校の運動会の徒競走に出たときに(黒人=アスリートというイメージのせいで)周りの(知らない人たちの)期待が異様に高いのが膚でわかるが、実際に走ったところ3着になってしまい、周囲の人々の落胆が伝わってきたという話。在日ブラジル人でサッカーができない人の話も以前聞いたことがあるが、あれと同じようなパターンであり、「人は見た目が9割」というのもあながち外れていないと感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『中国嫁日記(本)』
竹林軒出張所『戦場から女優へ(本)』
竹林軒出張所『アフガニスタンの少女、日本に生きる(本)』
竹林軒出張所『「ニッポン社会」入門(本)』
竹林軒出張所『日本語ぽこりぽこり(本)』

by chikurinken | 2018-12-06 07:17 |

『カルト宗教信じてました。』(本)

カルト宗教信じてました。
「エホバの証人2世」の私が25年間の信仰を捨てた理由

たもさん著
彩図社

「エホバ」の内実が白日の下にさらされる

b0189364_17340234.jpg このマンガも、『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』同様、「エホバの証人」を脱会した元信者の体験談。こちらの方が後発で、どういういきさつで出版されることになったのかわからないが、しかし内容は充実している。「エホバ」の内情が非常に事細かく描かれているため、あの本を読んだ後でも、得るところはあり、読む価値も十分ある。
 著者が小学生の頃、著者の母親が入信し、それに伴われて著者も入信させられた。その後は、教義については半信半疑ながらも活動を続ける。そのために学校での活動も制限され、友人もできず、多くの時間を「エホバ」の活動に費やすという生活を送る。その後(「エホバ」信者の)恋人ができるが、周囲から付き合いを辞めさせられる(「エホバ」は男女交際に厳しい)。それでも数年後にその人と結婚するが、結婚しても周囲の「エホバ」信者が何かと干渉し、息苦しいことこの上ない。やがて子どもができて、会の活動はやや消極的になっていく。消極的ながらも「エホバ」の活動を続けていた著者を大きく変えたのが、子どもの難病である。難病の治療に輸血が必要ということになるが、「エホバ」では輸血が禁止されているため、二者択一を迫られることになる。そして、著者によると、そこから「エホバ」に対する疑念が始まる(結局は他の会員には秘密にしたまま輸血の同意書にサインする)。その後、アメリカの元信者による「エホバ」告発の映像に偶然接し、「エホバ」の実態を知るようになって、「エホバ」の真の姿を知った結果、ついに夫と共に脱会することになる。その後も、周囲の信者(母親を含む)からいろいろな圧力を受けるが、本当の自由を獲得する……という話である。
 マンガは非常に質が高く、表現はプロレベルであり、処女作とは思えないほどである。このあたりは『よく宗教勧誘に来る人の……』と同様で、そこらのエッセイ・マンガとは一線を画す。途中「エホバ」の集会や活動について詳細に描かれた部分が続くが、これを読み続けるのが非常に苦痛で、とは言ってもこれはマンガの質が低いからというわけではなく、その内容が過酷であるせいである。平気で人の領域にズケズケ入ってきて、彼らの解く「真理」を押し付ける。何か好きなことをしようとしたら、それをやめるよう圧力をかけてくる。戦時中の隣組とかクラス内でのイジメとか、そういうものを思わせる極端な全体主義で、こういうものに接していると(たとえマンガを通じてであっても)はなはだ気分が悪くなるわけだ。しかも会員の行動が「エホバ」に対する反逆行為と見なされると「排斥」され仲間たちから無視されるようになると来ている。その同調圧力の強さは、(同調圧力の強い)この日本社会でも群を抜いたもので、息苦しいったらない。読んでいるだけでそのあたりが伝わってきた……ということは、それはこの著者の表現力に負うところが大きいということなんだろう。著者たちを含む当事者がどれだけ息苦しかったかが、この作品から忍ばれる。
 また、信者が「エホバ」の活動のために生活を著しく犠牲にしているという状況も紹介されており、それもかなり新鮮であった。つまり平日から活動を強いられるせいで、多くの信者が仕事にちゃんと就くことができないというのだ。したがって年金などを受けられる立場にないことから年を取ったら必然的に国の世話になる(「エホバ」は面倒見てくれない)。国などの外の世界を「サタン」と排斥していた人々がその世話にならなければ生きていけなくなるということで、マンガの中で語られる「皮肉だよな 今までさんざん滅びると触れ回っていたサタンの世からやしなってもらうんだもんな……」という言葉が響いてくる。こういう現状を教えられると「組織に騙されて収奪されるだけ収奪された人々のなれの果て」というイメージがにわかに湧いてくる。恐ろしい話である。
 いずれにしても著者は脱会して普通の生活に戻ったようで、最後は非常に前向きな形で終わる。「エホバ」のような現実否定の後ろ向きな姿勢ではなく、現実を肯定することから始めて、人生を見つめていくことが重要であるというメッセージが直に伝わってきて、煩わしい世界から抜け出せたすがすがしさが(読者にも)心地良く感じる。表紙はあまり良いとは言えないが、非常にすばらしい表現力を持った著者による、佳作のルポルタージュ・マンガである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話(本)』
竹林軒出張所『カルトの思い出(本)』
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』
竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』

by chikurinken | 2018-12-05 07:33 |

『キレる私をやめたい』(本)

キレる私をやめたい
〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜

田房永子著
竹書房

マンガとしてはアレだが
内容は結構深い


b0189364_16425722.jpg 表紙を見るとある程度推測できるが、これがプロの画力かと思うような拙い絵のマンガである。エッセイ・マンガだからある程度は目をつぶりたいところだが、しかしこれは今まで僕が読んだ中でも最悪の部類ではなかろうか。こういう読者を軽く見ている(と感じられる)ようなマンガは、基本的にここであまり紹介しないんだが、このマンガは内容(作画以外の部分)に目新しさがあるんで、取り上げることにした。
 先ほども言ったようにエッセイ・マンガなんで、自らの身辺を描くというアプローチである。タイトルにあるように、著者はそれまで突然キレて夫をグーで殴るようなヒステリー女性で、しかもそういった自分に嫌悪感を抱いていたんだが、子どもが生まれ、子どもに手をあげそうになった(実際には少々小突いたようだが)ことからあらためて猛省し、キレてしまうことをなんとか止めたいということで、いろいろ方策を探し始めるのである。最終的にゲシュタルト療法に落ち着くんだが、このセラピーに行き着く前にも箱庭セラピーを試したり心療内科などに通ってみたりしたがしっくり来なかった。著者にとっては、ゲシュタルト療法が唯一最高の解決策になったのだった。
 ゲシュタルト療法というのは、あまり一般には聴き慣れないが、このマンガから察すると、ロールプレイを交えた一種の認知行動療法のような印象を受ける。どの程度効果があるかについては僕は知らないが、少なくともこの著者については大いに効果を上げたようで、自分がキレる原因、キレるプロセスなどが自分なりによくわかり、腑に落ちたようである。(著者が発見した)そのキレるプロセスやその構造についてもマンガで図解しながら、自分の中の何が原因だったかを紹介しているが、読んでいるこちらはもう一つ腑に落ちない。何となくだが、子どもの頃から母親からいろいろと干渉され否定されてきたことが遠因で、そのために自己肯定感の低い人間になってしまったことが背景になっている……というのは推測できる。自己肯定感が低いため、外部からの刺激(夫の何気ない言葉など)をともすれば攻撃と受け取ってしまい、低い自己肯定意識を守るために攻撃(と自らが解釈したこと)に対して過剰に反応する、それが暴力という形になって表れる、とこういうことではないかと読者であるこちらは推察する。著者はゲシュタルト療法を通じてそういうことに気付いたわけで、それと同時に「休むこと」、「〈今ここにいる〉ことを意識すること」、「自分を褒めること」などを実践するようになって、キレない人間になることができたという、そういう体験談である。
 このように内容が非常に興味深く、いろいろと考えさせられる話である。絵は挿絵みたいなものであって、一般的なマンガとはアプローチが違うのだと考えれば、絵の拙さも気にならなくなる。自己肯定感の低い人は周りにもいるし、それぞれで大変なものを背負っているようだが、こういう人と接する際の参考にもなる。もしかして今まで、僕自身が彼らに対してひどいことを言って傷つけていた(そして彼らの自己肯定感の低下を助長していた)のかも知れないなどとも反省してしまう。いずれにしても、本人も周囲もそういった問題点について理解することが、問題解決、そしてさらには関係改善の突破口になる。それについては間違いなさそうだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『攻撃性』

by chikurinken | 2018-12-04 07:42 |

『お金さま、いらっしゃい!』(本)

お金さま、いらっしゃい!
高田かや著
文藝春秋

主婦雑誌に出てくるようなネタばかり

b0189364_17203329.jpg (著者のいわゆる)カルト村(おそらくヤマギシ会)で生まれ育った著者は、その組織内の高等部(高校みたいなもの)卒業を機に「村」(彼らは自身のコミューンをこう呼ぶ)を離れて、一般社会に出てきた。そこまでのいきさつは、前二作(『カルト村で生まれました。』『さよなら、カルト村』)で描かれていたが、その後の著者の生活について紹介したマンガがこの本。
 「村」では、基本的に金を使うことが禁止されており、そのために著者は「村」を出るまで金をほとんど使ったことがなかった。「村」を出てからは、バイトを始めて自分で稼ぐことを知り(〈「村」の労働と比べるとはるかに〉軽い労働で月に13万円ももらえたことが信じられなかったらしい)、その後もいろいろなものを自由に買えることに喜びを見出す。同時に金の使い方についていろいろと考えることもあり、蓄財や節約の方法も自分で見つけていく。そしてその過程やそういった方法などをマンガとしてまとめたのがこの本である。
 これまでの著者の本では、「村」での生活の様子や「村」の生活と外の生活とのギャップなどが一番面白かったわけだが、この本では前の二作と違って、そういうところにはあまり焦点が当たっていない。言ってみれば外の世界に出てからの生活をまとめた「娑婆」編であるため当然だが、そのために正直大して面白味がない。主婦向け雑誌に出てくるようなネタばかりで、あまり興味が湧かないし目新しさも感じない。そういう類の雑誌での連載が初出かと思ったくらいである。
 またマンガ自体についても、説明書きがきわめて多く、マンガであるのは確かだが、絵が挿絵のレベルにとどまっている。要するに説明過剰なんで、大変読みづらい。ただし作画自体はうまく、表現力はなかなかのものとは思う。しかし内容が内容だけに、先ほども言ったように、あまり感じるところがなかったのも事実である。せっかくの表現力が活かされていないのがはなはだ残念な部分である。
 やはりこういったエッセイ・マンガは(あるいはエッセイもそうだが)特異な体験や異次元の感性でもなければ、読んでいて惹かれるところは少ない。そういう意味では、このカルト(ヤマギシ)シリーズは本書で完結ということになるんじゃないかと思う。言い換えると、これまでの2冊ですでに一定の役割は果たしている!ということである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』

by chikurinken | 2018-11-06 07:20 |

『OLはえらい』(本)

OLはえらい
益田ミリ著
いそっぷ社

絵は拙いが味はある

b0189364_16143080.jpg 『すーちゃん』の益田ミリのマンガ・デビュー作。自身のOL時代の話を中心にOLの日常生活(多くは会社での日常)を綴ったマンガである。
 本書刊行のいきさつについては、『ふつうな私のゆるゆる作家生活』にも書かれていたが、いそっぷ社の担当者から突然4コマ・マンガ描きませんかと持ちかけられたことがきっかけだそうだ。しかもこの著者、それまでマンガを描いたことがなかったらしく、それを考えるとよくこんな仕事受けたなと思う。担当者についても、よくこんな仕事持ちかけたなと思う。だがこの担当者の見立てが正しかったことは、その後の『すーちゃん』シリーズを見てみればわかる。いそっぷ社のこの担当の先見性を称えたいところである。
 さてこのマンガ、デビュー作だけあって、絵は非常に拙い、というかむしろヘタである。1980年代以降ヘタウマが許容されるようになったからこそ、こういう拙いマンガも受け入れられるんであろうが、ヘタ度はかなりのものと言って良い。もっともそれでも結構味があるし、登場人物のキャラがたっているため、かなり読める。また(立場的に社内で虐げられることの多い)女性社員の視線から見た同僚男性社員たちの姿はなかなか辛辣で、とは言え単なる中傷ではなく、第三者的に見ても問題のある人たちだとは感じる。こういった鈍感男性が、立場的に弱い人々に対しどのように対峙しているかが描き出されていて、またそれに対応しなければならない女性社員たちの心情と苦労も描き出されていて、そのあたりが本書の大きな魅力になっている。
 主人公はロバの姿をしているロバ山ロバ子(他の登場人物はすべて人間の姿)。『ふつうな私のゆるゆる作家生活』では、編集者が犬の姿だったが、どちらも特に違和感はない。なんせ絵自体、子どもの描くような絵だから、登場人物がどんな姿だろうがおそらく驚くことはない。一応4コマ・マンガになっているが、4コマでオチがあるわけではなく、そのままダラダラと話が続くような形式で、その辺は『すーちゃん』に近い。また全ページに渡って彩色されているが、よく見ると少々雑である。もっともそういったものすべてがこの作品の「味」になっているわけで、そのあたりは決して侮ることはできない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』

by chikurinken | 2018-10-21 07:14 |

『オトーさんという男』(本)

オトーさんという男
益田ミリ著
光文社

益田ミリの父親の紹介

b0189364_16145890.jpg 『小説宝石』に連載された同名タイトルのエッセイをまとめたもの。娘の目から見た著者自身の父親像を描いたマンガとエッセイで、著者は『すーちゃん』の益田ミリ。
 わがままかつ気分屋で我が道を行き、しかも家族に対しては同調圧力を押し付ける父親の姿を描く。いかにも「B型」的な人物で、僕自身はこういう人はそんなに嫌いではないが、肉親にいたら少し迷惑しそうな感じもする。著者自身も「こーゆー人が恋人だったら絶対にイヤです」と書いている。
 本自体はつまらなくはないが、あまり目を引くような箇所もなかった。要は、益田ミリの(愛すべき)お父さんの紹介で終始する。娘を持つ父親が読んだらまた別の感慨があるのかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

by chikurinken | 2018-10-20 07:14 |

『ふつうな私のゆるゆる作家生活』(本)

ふつうな私のゆるゆる作家生活
益田ミリ著
文藝春秋

あまりにタイトル通りの内容

b0189364_18465716.jpg 『すーちゃん』の益田ミリが、自らの身辺を描いたエッセイ・マンガ。
 タイトルが内容をよく反映しており、まさにゆるゆるな生活。また「ふつうな私」という表現も、学校時代目立たない生徒で、短大を卒業してOLをやっていた頃もあまり目立たない存在だったという著者の履歴をうまく表している。あまり良いとは言えないタイトルではあるが、内容はしっかりと反映している。
 登場する「私」はこのようにごく「ふつう」の感じではあるが、若い頃から公募で入賞したりすることはたびたびあったようで、やはり光るものを持っていたようである。彼女の日常は、編集者と会ったり、ネタ探しのために変わったイベントに出かけたり(しかも直前まで行くのが嫌だったりする)という、そういう日々である。編集者の中には常識外れな人もいて嫌な思いをすることもあるが、逆に意気投合するような人もいる。感受性が強いこの「私」にとっては「ゆるゆる」でありながら波風が起こる毎日のようである。この作者の感受性は、どこか非常に女性的な印象を受けるが、そこがこの人の著書を魅力的にしている要因なんだろうなとあらためて感じたのであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『OLはえらい(本)』
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』

by chikurinken | 2018-10-19 07:46 |