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竹林軒出張所

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タグ:ドキュメンタリー ( 590 ) タグの人気記事

『永平寺 禅の世界』(ドキュメンタリー)

永平寺 禅の世界(2018年・NHK)
NHK-BS1

現代風の演出の映像ドキュメンタリー

b0189364_18135927.jpg 曹洞宗の本山、永平寺の四季の移ろいと寺での雲水(修行僧)の修行を記録したドキュメンタリー。
 全体的に詩的な映像が多く、説明的な要素は少なめである。ところどころに、寺の重役(と言って良いのかわからないが)の住職や雲水たちのインタビュー映像が交えられる。また、開祖道元の『正法眼蔵』の一節が随時流されるなど、禅への理解の助けにしようというアプローチも見受けられる。永平寺のドキュメンタリーは、これまでいくつか見てきたが、このドキュメンタリーは非常に現代風な演出で、きわめて洗練されている。映画の『ファンシイダンス』に出てきた雲水の日常の所作(洗練されていて個人的には好き)も紹介されていて、そのあたりも興味深かった。
 さらに、曹洞宗の世界的な広がりも紹介され、全米のあちこちに点在するという禅道場の映像や、ミラノの曹洞宗の禅寺(永平寺公認)の修行の様子なども紹介される。ミラノの禅寺では、永平寺とほとんど同じような修行が修行者(雲水もいるようだ)によって行われていて、しかもこの寺を開いたのはイタリア人の禅僧で、そういう点が非常に意外で斬新な感じがした。いろいろなストレスにさらされて苦しんでいる現代人にとって、禅が自身を見つめ直すきっかけになるということで、禅つまり曹洞宗が世界的な広がりを持っているということなんだそうだ。
 ただ僕の個人的な感覚で言うと、雲水の修行ということにまでなってしまうと、自身を見つめ直すというよりむしろ世間との関係を断つという方向性に向かうような気がして、これはもう現代社会とは異なる世界に行くといういわゆる「出家」になってしまい、方向性がまったく違うような印象を持っている。現代人が禅をやってみる程度であれば有益だと思うが、そこを極めていくということになると、俗世から離れる方向に行きはしないのかと、毎日禅を行っているというアメリカ人(おそらくIT関連の勤め人)を見て感じた。
 それから、このドキュメンタリーには全編ナレーションが入っているが、テレビ放送ではナレーションの声が著しく小さく、ほとんど聞き取れないレベルであった。どういうつもりなのかわからないが、こういうナレーションならばないのと同じである。僕は字幕を表示してそれを読んでいたんだが、有意義なナレーションだと感じた。それならば聞こえるように出すべきではないかということになる。もっともこれはうちのテレビ環境のことだけかも知れないが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『NHK特集 永平寺(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-11-16 07:13 | ドキュメンタリー

『よみがえる金色堂』(ドキュメンタリー)

よみがえる金色堂
(1970年・日映科学映画製作所)
脚本・演出:中村麟子
撮影:中山博司、石原保

記録映像に終始した作品
だが記録としての価値は十分ある


b0189364_17550975.jpg 岩手県にある中尊寺金色堂は、奥州藤原氏の栄華を反映した建物として有名で、全面に金箔が貼られた建物が現存する。おそらく現在拝観できるようになっているんではないかと思うが、行ったことがないんで詳しいことはわからない。その様子は写真では見たことがあり、金閣を思わせるキンキラキンの外観は、かつての奥州藤原氏の繁栄を今に伝えるものだと思っていたが、実はこの金色堂、昭和37年から5年かけて修理し、その際に金箔を施したもので、それ以前の写真を見るとかなりボロボロで、金色堂と言うよりもわびさび堂というような風情である。このあたりは金閣と事情は似ているようである。
 で、このドキュメンタリーは、その際の復元修理の模様を記録したもので、金色堂に使われている螺鈿細工の再現や、蒔絵を施した柱の再構築などにスポットが当てられている。興味深い点も多いが、記録映像としては割合ありきたりで、特別目を引くものはない。もちろんそれぞれの職人技は見所が多いが、1本の映像作品としては平凡である。あくまでも記録の範疇を出ない。
 それより何より、金色堂を保護するために鎌倉時代に建てられた覆堂が、コンクリートで復元されたという話(これについてはこの作品の中で少しだけ触れられている)にいささか驚いた。金色堂については、文化財を作られたときと同じ方法で再現するという原則が貫かれているらしく、これは現在の文化財保護のあり方に共通する考え方であり、十分納得できるが、覆堂についてはまったくそうではないことになる。何でも耐震性などを考慮したということだが、コンクリート建築の方が災害時は危険だという考え方もある。文化財保護という観点からも受け入れられない話だと思うが、関係者はそのあたりは平気だったんだろうか。
 現在、修復工事をしている薬師寺東塔にも、基台にコンクリートを施したなどという話を先日聞いたが、文化財保護の観点から考えると、こういった少しずれた方法論がまかり通っていることに大変違和感を感じる。これはこの作品とは直接関係ない事柄ではあるが、映像を見ていて一番気になった点であるため、ここに記しておく。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『炎立つ 総集編 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『五重塔はなぜ倒れないか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』
竹林軒出張所『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言(映画)』

by chikurinken | 2018-11-15 07:33 | ドキュメンタリー

『“核のごみ”に揺れる村』(ドキュメンタリー)

“核のごみ”に揺れる村 〜苦悩と選択 半世紀の記録〜
(2018年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

六ヶ所村の激動の歴史を俯瞰

b0189364_17575365.jpg 青森県六ヶ所村には、現在、使用済み核燃料処理関連施設が設けられているが、その中に使用済み核燃料貯蔵施設があり、そこには使用済み核燃料、いわゆる「核のごみ」が実際に貯蔵されている。ただしこれは一時施設という約束で建てられたものであり、半永久的に貯蔵する施設ではない。建設時に、最大50年間一時保管しその後永続的貯蔵施設にごみを移すという約束が国と青森県との間で結ばれている。ところが実際は、現時点で(当然だが)永続的貯蔵施設新規建設の候補地として手を挙げる自治体などなく、そのために永続的貯蔵施設を造る目途がまったく立っていない。ということで、現地の人々にとっては、なし崩し的にここが永続的貯蔵施設になるんじゃないかという懸念が生ずる。そのあたりの事情を検証するために、まとめられたのがこのドキュメンタリーである。当時この施設誘致に関係した人々も顔を出して、インタビューに応える。
 六ヶ所村は、かつては農耕牧畜業中心の田舎町で、住民の収入も全国平均よりはるかに少なく、出稼ぎ労働も多かった。しかも計画が進んでいた工業団地もオイルショックのために立ち消えになり、村自体がにっちもさっちも行かなくなっていた。そんな折に出てきた話が核燃料処理関連施設。当然、反対の声は大きく賛成派、反対派がぶつかりあい、村の内外で大いに揉めるが、国としても核燃料サイクルを進めるためには是非必要、村としても財政を再建するために必要という行政同士の利害関係で結局反対派の主張は圧殺され、強引に建設着手に至った。
 村はその後、補助金のために大いに潤い、しかも雇用も多数生まれ、かつての田舎町の風情は今ではない。住民も以前と違って、核燃料施設の存在を認めるという人が増えている。ただし永続的貯蔵施設となると話は別である。元々、一時的貯蔵施設として建設したこともあり、村の担当者もそのつもりであったと語る。国の方も、安易に約束をしたわけで、元々大したビジョンがあって約束したわけではなく、必要に迫られ(当時、フランスから処理済み核燃料が日本の近海にすでに送られていた)仕方がないからという「事なかれ主義」の役人根性で出した結論である。担当者自身もすぐに部署が変わるわけで、そうすると結局どこにも責任をとる人間がいなくなる。これが日本の行政のシステムである。そういうようなことが、かつての担当者のインタビューから窺われるわけで、特に当時科学技術庁長官だった田中真紀子がそのあたりを率直に語っていたのが大変興味深い。
 六ヶ所村の問題をテレビで取り上げたことも素晴らしいが、何よりこれまでの過程をまとめて提示してくれるというのが非常に良い。ETV特集ではときどきこういった「これまでのいきさつのまとめ」型の番組をやるが、どれも非常にわかりやすく有益である。なんと言っても、提示されている問題について考える際のよすがになる。今後もこういったアプローチを続けていってほしいものである。ただこういった日本の行政や政治の本質に関わるような問題は、本来は総合テレビでやって、広く国民の目に触れるようにするべき内容ではないかとも思うのだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『六ヶ所村ラプソディー(映画)』
竹林軒出張所『「最悪」の核施設 六ヶ所再処理工場(本)』
竹林軒出張所『核燃料サイクル 半世紀の軌跡(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『終わらない悪夢 前編、後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『核のゴミはどこへ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-11-03 07:57 | ドキュメンタリー

『ソーシャルメディアの“掃除屋”たち』(ドキュメンタリー)

ソーシャルメディアの“掃除屋”たち 前後編
(2018年・国際共同制作、独gebrueder beetz filmproduktion他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ネット検閲の実態と
SNSがもたらすさまざまな問題


b0189364_17202956.jpg ソーシャル・ネットワークなどの現場では、暴力やポルノなど不適切なデータが常時公開されている。SNS企業や検索会社は、こういった不適切と判断されるデータを随時検閲しているが、実質的にそれを担当するのは孫請け企業の社員である。このドキュメンタリーでは、その孫請け企業のデータ検閲担当者数人に密着して、こういった仕事の問題点、ひいてはソーシャル・ネットワークの問題点まであぶり出す。なかなか意欲的なドキュメンタリーである。
 このドキュメンタリーに登場する孫請け企業はフィリピンに存在し、検閲を担当するのはモデレーターという人々。ただこのモデレーター、見たところ非常勤のバイトみたいな存在で、さまざまなデータについて削除するかどうか常時自ら判断しながら決定している。基準はそれぞれの企業レベルで定められているが、その最終判断はモデレーター各人に委ねられている。なんせ1日に2万件以上のデータを検閲しなければならない。ほとんど流れ作業のようになってしまう。しかも目の前に次から次へと出てくる画像や映像は、露骨な児童ポルノ、ISに代表される残虐な映像などで、中には心を病んでしまうモデレーターもいる(自殺者もいたとある関係者が語っていた)。
 一方で、モデレーターが検閲したデータには、決して興味本位の残虐画像ではないものもあり、中には政治的なメッセージを含むものやジャーナリズムに関わるものもあって、こういうものが削除されてしまうと言論の自由の問題にまで関わることになってしまう。このドキュメンタリーの中で実際に削除されていた画像には、沢田教一の有名な写真も入っていたぐらいで、モデレーターの無知を笑う程度で済ますことはできない問題も孕んでる。
 さらにその一方で、トルコなどでは反政府的な言動を削除するよう政府がSNSの各社に圧力をかけており、トルコ内で事業を展開するには、そういったデータを検閲することが求められる。ということで、これなどは悪しき検閲の例になってしまっているのである。
 もう一つの問題点は、ソーシャルネットワーク自体に内在する問題である。ソーシャルネットワークは、目立った発言をする者がフォロワーを集め存在感を増すという傾向があるらしく(僕は詳しいことは知らないんだが)、そのために、実社会では軽蔑され無視されるような過激な発言が注目を集めやすいというのである。これが成功した例が先のアメリカ大統領選挙で、そういった意味ではトランプはまさに時代の寵児ということができる。そしてそれについては、ソーシャルネットワーク各社はまったく対策を採ることができていない。そもそもこういった事業を始めた人々は、成功だけを望んでいたオタク技術者であり、社会的な影響力については何の判断も持ち得ないと、元関係者の一人は語っていた。
 僕自身は、現在の差別的な言動、右翼的な動向の原因がソーシャルネットワークにあるということにあらためて気付かされた点で、目からウロコであったわけで、同時にネット検閲の実態というのもよくわかって、大変有用なドキュメンタリーであったと思っている。前編、後編であわせて90分の大作ではあったが、見る価値は十分にあると思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『エルドアン “スルタン“への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『データに溺れて…(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-11-02 07:20 | ドキュメンタリー

『IS 狂気の内幕』(ドキュメンタリー)

IS 狂気の内幕
(2018年・国際共同制作、仏CAPA PRESSE他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

司令官家族はセレブ風の生活を送っていた

b0189364_18274002.jpg イスラミック・ステート(IS)の勢力が、シリアやイラクをはじめ多くの地域から一掃されつつあるが、これはリビアでも同様。リビア北部の大都市シルトを占拠してやりたい放題をやっていたISも、包囲攻撃され、その結果その戦闘員の多くは戦死または逃亡した。廃墟と化したシルトだが、その後現地で、司令官の残したパソコンとスマートフォンが発見され、ISが集めていたデータが明らかになった。
 パソコンには、ISのこれまでのさまざまな作戦やあるいは各種マニュアル(爆弾の作り方や自爆テロの方法など)が大量に入っており、彼らの活動の一端を覗くことができる。さまざまなテロ現場の、実行した側からの映像や処刑現場の映像なども多数収録されていて(一部紹介されていた)、きわめて生々しい。
 また、司令官の妻のスマートフォンには、司令官との楽しい日々、リッチな生活が撮影されており、司令官の日常を垣間見ることができる。もちろんこの司令官の生活は、現地住民から多額の税金を徴収し、同時に現地住民の屋敷などの私有財産を接収した結果成り立つ生活で、言ってみれば山賊の家族みたいなものである。しかも従わない人々や反イスラム的と目された人々を公開処刑したりと人道的にも許されない所業がその根底にある。それでも妻という立場からは、こういった生活も既得権益と映るようで、楽しい日常を送っている映像が残されていた。だが、この妻と子ども達も結局は包囲攻撃されて建物もろとも爆破されてしまったのだった。ISの犠牲者の立場から見ると、因果応報ということになるのだろうか。
 彼ら(つまり戦闘員に関わりのある女性と子ども)が包囲側から保護されるような映像もあったが、中には爆弾を抱えて自爆テロした女性もいて、手を差し伸べた側も多数の被害者を出す結果になっていた。どうにもやりきれない状況ではあるが、それを生み出したのがあの狂気の集団である。いまだに残党がどこかに潜伏して再生を目指しているという話もあり、決して予断はできない状態である。憎しみの連鎖を断ち切る以外に真の解決はないと思われるが、欧米諸国の方も強行に対処している現状では、こういった悲劇は永続的に連鎖しそうな勢いである。
 なおこのドキュメンタリーだが、発見されたアラビア語の文書の一部がアラビア語で画面に表示され、それがにわかに英語に変わるなど、演出が非常に洗練されていたのも目を引いた。国際共同制作であるためか、随分手が(そして金も)かかっているという印象を受けたのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ISからの脱出(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホムスに生きる 〜シリア 若者たちの戦場〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』

by chikurinken | 2018-11-01 07:27 | ドキュメンタリー

『KGBの刺客を追え』(ドキュメンタリー)

KGBの刺客を追え
(2017年・英True Vision Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ロシアの闇は深い

b0189364_19301899.jpg 2006年、ロンドンで、英国から政治亡命していた元KGBスパイのリトビネンコが謎の死を遂げた。リトビネンコはその死の直前、警察の当局者を病室に呼び出し、自分がこのような(重病の)状態になったのは、ロシア当局による工作のためであり、これは暗殺事件であると語る。その供述は9時間にも及び、内容は録音された。まもなくリトビネンコは死去するが、その供述には信憑性があり、しかもリトビネンコの尿から多量の放射性物質ポロニウムが検出されたために、彼の言葉が裏付けられることになった。
 やがてリトビネンコの証言に基づいて捜査が進められ、2人のロシア人スパイが容疑者として浮かび上がる。英国警察はロシアに赴き、容疑者から供述を得るが、ロシア当局から妨害され、捜査の大きな進展は得られなかった。しかし十分な証拠が提示されたとして、この事件は、殺人事件として立件されることになった……というその過程が、証言を交えて描かれるのがこのドキュメンタリーである。
 通常は原子炉内にしかない放射性物質が使われたこと、原子炉は特にロシアでは厳重に管理されていることから、このような殺人の命令を出すことができる人間はロシアのトップしかいないという結論を、このドキュメンタリーでは出している。実際、リトビネンコが当局に追われるようになったきっかけは、KGBの後継組織、FSB(ロシア連邦保安庁)のスタッフが、当時の政治家による私的な政敵の攻撃(殺人)に利用されていることを告発したことであった。こういうことを考え合わせると、あの人が浮かび上がってくるのは理の当然。ロシアの闇は深い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プーチンの復讐 前・後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『オリバー・ストーンONプーチン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-10-31 07:29 | ドキュメンタリー

『未解決事件File. 07 警察庁長官狙撃事件』(ドキュメンタリー)

未解決事件File. 07 警察庁長官狙撃事件(2018年・NHK)
実録ドラマ「容疑者Nと刑事の15年」(2018年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

警察庁長官狙撃事件の真相が明らかに

b0189364_17245005.jpg オウム真理教の一連の事件が発生していた1995年3月30日に、警察庁長官が銃で狙撃されるという事件が起こった。時期が時期だけにオウム真理教の仕業とされ、オウム真理教との関連を持つ警察官が逮捕されて起訴された。一般的にはオウム真理教の犯行とされて収束したが、実はこの容疑者、その後不起訴になっている。当のオウム真理教関係者自体、他の事件については認めたがこの事件については一貫して関わりを認めていなかったという事実もある。
 当時、捜査に当たった警視庁内部では、(オウム真理教の犯罪が想定されたため)刑事部ではなく公安部がこの事件を担当しており、そのために最初から最後まで「オウム真理教の犯罪」であることが前提になっていた。一方で刑事部も並行して捜査を進めており、有力な容疑者、中村泰(なかむらひろし)に行き当たっていた。この男、この事件の後、現金輸送車襲撃を2回起こして当時刑務所に収監されていたが、アジトに大量の銃を隠していた他、警察庁長官狙撃事件で使われたものと同じ(特殊な)銃弾を持っていたことがわかっており、しかも狙撃事件の様子についても詳細に語ったりしていたらしい。第三者的に見ればコイツだろと思うんだが、結局公安部はこの事実を受け入れず、オウムの線を強引に押し通した。だが犯行に使われた銃も結局見つかっておらず、逮捕されていた(オウム関連の)容疑者の供述にも一貫性がないということで、結局この容疑者は不起訴になり、2010年に公訴時効を迎えることになったのである。
 このドキュメンタリーでは、この一連の事件を辿り、中村泰真犯人説に基づいて解明していく。なぜ真犯人がわかっていながら逮捕起訴に踏み切らなかったかについても考察する。
b0189364_17244613.jpg また、実録ドラマも同じ『NHKスペシャル』の枠で1週間後に放映された。キャストは、真犯人がイッセー尾形、これを追いかける警視庁の原警部を國村隼が演じる。イッセー尾形が演じる中村の風貌がそっくりで、さすがの芸達者と思わせる。中村については、高い知性を持つ(自称)革命家という描き方で、これはおそらく中村の取り調べに当たっていた原の心証によるものと思われる(このドラマでは原の著書『宿命』が原作のような扱いになっていた)。あくまで再現ドラマではあるが、それぞれのキャラクターが非常にリアルでドラマとしてもよくできている。ドラマ部分は、ドキュメンタリー部分をほぼ踏襲した内容になっており、まさしく「再現」したドラマである。ドキュメンタリーもドラマもどちらも十分見応えがあって面白かった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『未解決事件File. 02 オウム真理教(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『未解決事件File. 05 ロッキード事件(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-10-30 07:24 | ドキュメンタリー

『勝負 名人への遠い道』(ドキュメンタリー)

勝負 名人への遠い道(1981年・NHK)
NHK総合 NHK特集

古い演出が気になるが
面白い題材ではある


b0189364_21010236.jpg プロの将棋棋士になるには、養成機関である奨励会に通わなければならず、今のプロ将棋棋士は皆奨励会出身者である。奨励会は、6級から始まり最上位が三段。どこから入るかは、人によって異なるが、普通は6級から入って、リーグ戦を勝ち抜き少しずつ昇級していく。なおこの奨励会に入ること自体、かなりの難関で、全国から精鋭が集まって切磋琢磨しているというイメージで捉えると良い。最上位の三段の奨励会員は、三段リーグというリーグ戦を戦い、ここで好成績を収めると晴れて四段、つまりプロ将棋棋士になることができる。そのため、実力的にはほぼ同等だとしても、三段と四段の間には雲泥の差がある。この奨励会だが、実は年齢制限があって、その年齢に達する前に規定の段位に達しなければ退会しなければならない。そのため、この年齢制限を巡っていろいろな葛藤があり、そこでドラマが生まれるというわけだ。
 1981年に作られたこのドキュメンタリーは、年齢制限間近の1人の奨励会員、鈴木英春(えいしゅん)に密着するというもの。この鈴木氏、撮影当時30歳で、当時の奨励会には30歳までに四段に昇段できなければ退会という規定があった(現在は異なる)。つまり勝ち抜けなければ、これが最後の三段リーグになるという状況である。ちなみに当時、最強の名人だったのは中原誠で、33歳。この撮影の際は、名人戦(中原の防衛戦)を闘っていた。鈴木氏はかなり若い頃から奨励会にいたため、おそらく奨励会でも中原と顔を合わせているのではないかと思う。この栄光まっただ中の1人と崖っぷちの1人というのが好対照になっていて、そのあたりがこの番組の演出の妙である。
 ドキュメンタリー自体は、今ではあまり見られないような、ゆっくりで静かな映像が続く。説明が非常に少ないという印象で、ドラマであるかのような演出である。ただ少しやり過ぎという感もある。何しろ対局中の映像にスロー映像や接写を多用したりまでしている。
 で、結末を言ってしまうが、この鈴木氏、案の定というか予想通り、三段リーグで規定の勝ち数が得られず、プロ棋士を断念せざるを得なくなる。今までの人生のすべてをかけてきたプロ棋士の夢がなくなってしまい、当然のことながら、虚無の状態が続くという風になる。ただ、このドキュメンタリー、最後の最後になかなか粋な演出を用意している(ばらしてしまえば、鈴木と中原との対局)。
 なおこの鈴木英春氏、その後、アマチュア棋士のタイトルを取ったりして、アマチュア棋士の中では結構有名な人らしい。いろいろな戦法も編み出しているようで、今の将棋界にもそれなりの足跡を残しているようである。プロになるだけがすべてではないということがわかって面白い(プロ棋士の中にも冴えない人はいくらでもいる)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『聖の青春(本)』
竹林軒出張所『聖 ― 天才・羽生が恐れた男 (1)〜(7)(本)』
竹林軒出張所『ヒカルの碁(1)〜(23)(本)』
竹林軒出張所『将棋の解説者』
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』

by chikurinken | 2018-10-10 07:00 | ドキュメンタリー

『離婚の泥沼』(ドキュメンタリー)

離婚の泥沼
(2016年・英Minnow Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

揉め事にはウンザリするが
緊迫感があって見応えはある


b0189364_17290905.jpg 離婚した英国の元夫婦が、子どもの面会について、調停人を交えて話し合う場を設けた。その場にカメラを入れ、その調停の過程に密着するドキュメンタリー。彼らの結婚生活や来し方などもあわせて紹介される。
 調停の場には、元夫側は現在の結婚相手、元妻側は彼女の母親も参加する。現在の結婚相手がこういった場に出てくること自体結構問題じゃないかと思うが、案の定、この女性が元妻をなじったりするため、双方エスカレートして罵り合いになる。第三者的に見れば実にくだらない状況に見え、問題をテーマ(この場合、子どもを元夫にどの程度会わせるか)に絞って話し合えば良いじゃないのと思うが、当事者はそうは行かないらしい。最終的に双方が少し冷静になって、ある程度の決着を見るが、一段落した後も問題は再燃し、再び話し合いの場が設けられるという具合に話が進む。結局、現在の結婚相手が関わらない方が良いというような当たり前の結論に至ったようだが、第三者の目には、正直実にあほくさい紛争に映る。それにこの元夫にもかなり問題があるように感じたが、それはまた別の話。
 この調停には、出席者の顔ぶれや議事の進行方法など、開始前からかなりいろいろな問題がある。その結果として、話し合いの場では、感情にまかせて突っ走らないよう気をつけながら、テーマを絞って、要件だけについて話すようにしなければならないというような条件が逆照射される。それを考えると、このドキュメンタリー自体が一種の反面教師になっている。ただ、カメラの立ち会いを認めて世界中に自らの恥部をさらしたこの元夫婦に対しては、そういう部分限定で敬意を表したいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『エロティシズム(本)』
竹林軒出張所『ウホッホ探険隊(映画)』

by chikurinken | 2018-10-09 07:28 | ドキュメンタリー

『Peace』(ドキュメンタリー)

Peace(2010年・Laboratory X)
監督:想田和弘
撮影:想田和弘
ドキュメンタリー

淡々とした日常風景

b0189364_19483790.jpg これも想田和弘の「観察映画」。ナレーションも音楽もない。ただ淡々と目の前のことをカメラに収める。
 今回被写体になったのは、想田氏の岳父母(妻の両親)、柏木夫妻である。二人とも岡山市在住で、ボランティアで障害者の送迎を行っている。ただこの仕事、あくまでボランティアである。利用者からガソリン代だけを受け取っており、自治体からの補助金などもない。当然収益はない。仕事は別にやっているのかよくはわからないが、福祉関係の仕事を続けていた(いる?)ことは、義父の話から窺える。
 利用者を訪問し送迎するシーンがこの作品の主要部分になるが、一方で彼らの家にやって来るたくさんの猫も、もう一つの柱になっている。自宅で飼っているふうな猫もいるが、家に上げている映像はなく、実際には餌をやっている程度の飼い方のようだ。中には野良猫も混ざっている(義父は「泥棒猫」と呼んでいる)。そういった日常風景が淡々と映し出される。
 淡々とした日常風景以上のものはなく、これで映画になるのかというような映像ではあるが、見ていてそれなりに面白いのが不思議。タイトルは「Peace」だが、平和を大きな声で訴えるというような映画ではない。この淡々とした日常が平和(Peace)であると言われれば確かにそうなのかなとも思う。登場する利用者の中に末期の肺がんの人がいて、その人が吸っていたタバコがピース(Peace)だったが、まさかそれがタイトルの意味ではあるまい。
 ともかく描かれるのは、市井の人の淡々とした日々で、大した感想も出てこないが、しかし先ほども言ったように75分間まったく飽きなかったのも事実である。そのあたりは想田監督の手腕と言えるのかも知れない。
2011年香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『精神(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『選挙2(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-10-08 07:48 | ドキュメンタリー