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竹林軒出張所

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タグ:ドキュメンタリー ( 566 ) タグの人気記事

『在宅死 死に際の医療』(ドキュメンタリー)

在宅死 “死に際の医療” 200日の記録
(2018年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

登場する患者に自らを重ね合わせる

b0189364_20472322.jpg 在宅死の現場に密着するドキュメンタリー。
 1記者が個人的に作ったかのような私的なドキュメンタリー風の作品で、NHKでは少し珍しいタイプの番組かも知れない。実際、映画監督の是枝裕和がかつて、個人的な観点のドキュメンタリーをNHKで放送しようとし、自分で入れたナレーションをそのまま使おうとしたが断られたという話もあり、時代も変わったんだろうが、NHK自体も変わったということなのか。
 さて内容であるが、埼玉県新座市の堀ノ内病院の活動の紹介が中心になる。この病院、「在宅医療チーム」なるものが存在し、地域の家庭を定期的に巡回するようなことを行っている。自宅に帰ることを望む末期患者たちに対応しようというのがこのチームの創設目的らしく、数人の医師と看護師が、末期が近いお年寄りのところを訪問するという活動を行っている。このドキュメンタリーの製作者は、この現場に密着して、スタッフの活動だけでなく、末期の患者とその家族の様子を映像に収めていく。
 映像には、実際に死んでいく人、死んだ直後の人、介護に追われる家族、そしてそれに関わる医療従事者などの様子が、第三者的に捉えられており、なかなかインパクトのある映像が続く。死を間近にしていた人(医師に軽口を叩いたりする)がやがて死を迎えるというような映像も出てきて、少しばかり衝撃的ではあるが、それが、きわめて身近できわめて自然なものとして描かれる(というよりごく自然に現れる)。死は忌避すべきものでもなく逆に崇高なものでもない。ごく自然の営みとして映し出される。
 元々、終末をどこで迎えるのが幸せなのかという問いがこのドキュメンタリーの出発点らしいが、病院死や在宅死の問題より、自然な死の有り様の方に注意が向く。登場する医師と看護師が、そういった自然な死を介助する役割を負っているように見えるのも非常に新鮮。これこそが終末期医療のあり方ではないかと感じる。こういう病院と医師が身近にあればと思わせるが、いずれは全国にも広がっていくような気もする。なんぜ、国が在宅介護を推し進めているんだから(おそらくは老人が増え、病院が対応できなくなってきたためだろう)。ただ、このドキュメンタリーに登場した2人の医師みたいな立派な医師がどこにでもいるかというとそうは行かないのではと思ってしまう。終末期に不快な医師に当たったりしたら目も当てられない、などということを、この番組に登場する患者を自分の身に置き換えて考えたりしたのだった。そういう点でも、このドキュメンタリーは、死について考えるきっかけを作る良い材料になっていると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『病院で死ぬということ(映画)』
竹林軒出張所『家で死ぬということ(ドラマ)』
竹林軒出張所『大病人(映画)』
竹林軒出張所『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
竹林軒出張所『武器ではなく命の水を(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-07-12 07:46 | ドキュメンタリー

『ダス・ライヒ ヒトラー “死の部隊”』(ドキュメンタリー)

ダス・ライヒ 〜ヒトラー “死の部隊”〜 前編後編
(2015年・仏Nilaya Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

『炎628』ばりの非道な行為が
『炎628』の映像で紹介されていた


b0189364_20341389.jpg ナチス・ドイツのエリート部隊「第2 SS装甲師団」は、元々ヒトラー親衛隊(SS)から発展した組織で、「ダス・ライヒ」と呼ばれていた。このダス・ライヒ、強大な戦力で連合軍にぶつかったことから、連合軍からも恐れられていたという。当初は東部戦線に配属され、ソ連国内で非人道的な殲滅作戦に従事していたが、連合軍のノルマンディー上陸作戦が実施されると、それに対応するため西部戦線に駆り出され、ノルマンディーの守備に回ることになる。だがその移動の過程で、兵器も兵士も疲弊し戦力が徐々にダウンしていった。
 一方でフランス国内ではレジスタンス運動が盛んに行われており、フランスを通過するこの第2 SS装甲師団もレジスタンスの標的になっていた。それに対抗するためか、あるいは単なる殺戮かわからないが、通過する村々で、かつて東部戦線で行ってきたような殲滅作戦を展開する。つまり民間人である村人を、レジスタンスに対する見せしめとして虐殺するということを繰り返したのである。その所業は残虐の極みで、きわめて非人道的。到底容認することができないナチスの重大犯罪の1つである。そのあたりはこのドキュメンタリーでかなり詳細に紹介されている。要は、映画『炎628』のような非道がフランス国内でかなりの数の民間人に対して行われたということ。つまり村人から男たちを集めてランダムに処刑する、女たちを教会などの建物に集めて、それに火をつけて皆殺しにするなど、暴虐の限りを尽くすというものである。このドキュメンタリー自体、全編さまざまな映像が紹介されるが、このあたりの映像は当然残っていないため、残されている写真が紹介される。同時に『炎628』の映像が使用され、ナレーションで、その際の生き残りの人々の証言(『炎628』と非常に似た所業が行われた旨)が紹介されるという演出になっている。確かに説得力はあるが(あの映画自体に相当インパクトがあったし)、ただドキュメンタリーでフィクションを使ってそれでこと足れりとするのもどうよと思う。
b0189364_20341652.jpg いずれにしても、こういう流れでダス・ライヒの悪行を紹介していくのがこのドキュメンタリーである。カラー化された(と思われる)映像も多数出るが、モノクロ映像も割合多い。カラー化するんなら全部したら良さそうだが、そのあたりは少々中途半端。
 さて、このダス・ライヒのその後だが、通過する村でこういった殺戮行為を行っていたこともあって、ノルマンディー上陸阻止作戦には間に合わなかった。結局、連合軍はノルマンディー上陸を果たし、結果的にダス・ライヒも、ノルマンディー上陸を果たした連合軍、それから英国空軍に手痛い目にあって、ほうほうの体で撤退することになった。最終的に、このノルマンディー上陸作戦成功が連合軍勝利に大きく作用したことを考えると、フランス国内での虐殺行為は、軍事作戦という点から考えても大変な失策だったと言える。
 ナチスが崩壊した結果、ドイツ政府、ドイツ軍の数々の戦争犯罪も裁かれることになったが、このフランス国内の非道については、責任者が裁かれることはなかった。中には最後まで罪に問われることなく天寿をまっとうしたものまでいる。このあたりの告発がこの番組の主旨ということになる。
 こういった非道は、ナチス・ドイツだけでなく日本軍にも米軍にもつきもので、軍隊のあるところどこにでも存在する。このダス・ライヒのフランス国内での蛮行については、素描のような絵が残っていてそれが紹介されていたが、百年戦争やナポレオン戦争を描写した銅版画とよく似ていた。ゴヤの版画で似たような情景が描かれているのを見たことがあるが、どんな時代でも軍隊は同じようなことをやっているということがわかる。その非は当然告発されるべきで、そういう意味でこのドキュメンタリーにも大きな価値があるが、しかしそれにしても、映画の映像を非道の描写シーンで(比較的長く)そのまま使っていたのはやはり引っかかるところ。また(おそらくフランスの製作局が作ったためだろうが)、フランス国内の地理がよくわからないために地名が紹介されてもちんぷんかんぷん(一応地図は出る)だったのも、翻訳過程でもう少し工夫があっても良かったのではと感じた。そのせいもあって軍事行動や戦局の展開がわかりづらかった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『炎628(映画)』
竹林軒出張所『D-Day 壮絶なる戦い(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-07-10 07:35 | ドキュメンタリー

『復活した“脳の力”』(ドキュメンタリー)

復活した“脳の力”(2009年・NHK)
NHK-BSプレミアム プレミアムカフェ

『奇跡の脳』映像版

b0189364_18514339.jpg 『奇跡の脳』の著者、ジル・ボルト・テイラーを追ったドキュメンタリー。内容は『奇跡の脳』とかなり重複するもので、『奇跡の脳』を一般視聴者に紹介するような内容と言って良い。ただし、第一発見者が実際の現場で当時の状況(ジルが脳卒中で倒れた状況)を回想したり、ジルのリハビリに協力した母が、実際の様子を紹介したりと非常に具体的な状況が紹介されるため、あの本を読んだ人にとっても大変参考になる。
 著者は、前にも書いたように、元々脳科学者でありながら37歳にして脳卒中を経験し、未知の脳の可能性を自ら体感したという人である。論理的な部分を司る左脳部分で出血が起こったことから、論理的な思考に障害が出る(計算もまったくできなくなった)が、そのためか右脳が司る感性がこれまでにないほど鋭くなり、非常に感性的な人格になった。自分に映る世界がまったく違った様相を呈し、それは非常に平和で幸せな気持ちであったと語る。これを彼女は「涅槃」(悟りを開いた境地)と表現する。
 病気によりさまざまな機能と記憶を失ったが、こういった独特の感性など、得るものも逆にかなりあったわけである。しかし、リハビリなどのトレーニングを積むことで、病前の機能が回復してくると(計算は今でも少々苦手と言う)、新しく得た感性的な部分についても徐々に失われていくことになる。もちろん現在の彼女を見ると、感性的な鋭さは依然として残っているようにも見受けられる。彼女の実際の姿からこういうことが伝わってくるというあたりはやはり映像の持つ力と言える。また、いろいろな状況が非常に具体的な形で伝えられるというのも映像の力であり、そういう点でも魅力的なドキュメンタリーになっている。
 脳疾患を経験した人も、未経験の人も、脳の不思議さに思いを馳せることができる番組である。たとえ脳卒中になっても、決して諦める必要はない(何年経っても機能の回復は続く)というメッセージも、多くの人にとって力になると思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『脳は回復する(本)』
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『私の脳を治せますか?(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-06-28 07:51 | ドキュメンタリー

『私の脳を治せますか?』(ドキュメンタリー)

私の脳を治せますか?
(2017年・英PopkornTV)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

脳障害の実際と脳治療の将来像

b0189364_20082066.jpg 140mlもの脳内出血の結果、高次脳機能障害になったロッチェという女性が、脳治療のさまざまな現場を訪れて、脳治療の最前線を報告するというドキュメンタリー。このドキュメンタリーの企画自体もロッチェが行ったようである。
 ロッチェ自身、高次障害を抱えており、病前のような活発な活動ができなくなったが、現在の落ち着いた状況も自身では気に入っていると言う。ただし感情の波は大きく、自閉症のような症状やパニック障害も残っており、そのため取材途中に中座したりすることもある。そのあたりの様子もそのまま収録されていて、ドキュメントとしての価値が高まる結果になっている(高次脳機能障害の一端が示されることになる)。
 このドキュメンタリーで報告される治療法には、電磁波を使って自閉症状を改善する処置、アスペルガー症候群の患者の脳内に電極を埋め込んでリモートで症状をコントロールするものなどが紹介される。
 前者は、一定の効果をあげている治療法らしいが、中には自閉症状は緩和されたが、そのために世の中の邪悪がそのまま直接的に感じられるようになって人生がうまく行かなくなったという人も出てくる。効果があるからといってそのまま全面解決にならないのが脳の病気の複雑さである。
 一方、脳内に電極を埋め込む治療は聞くだけでも恐ろしげだが、その手術風景も紹介され、おどろおどろしさも一段と高まる。だがこのような治療を選択せざるを得ない状況にあるアスペルガー患者がいるのも事実。実際、このドキュメンタリーに出てきた患者は、症状が劇的に治まっていた。その後、どうなったかについてはわからないが、脳はあまりに多くの機能が集約されているため、何をどうしたらどうなるかというのがまだよくわかっていないらしい。そのため、今後も手探りでいろいろなテクノロジーが活用されながら、さまざまな治療法が提示されてくることが予想される。記憶を書き換えるようなことも可能だという話が紹介されていて、大変興味深いと同時に、恐ろしいことになりかねない危うい未来というものも見えてくる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『復活した“脳の力”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『再起する脳 脳梗塞が改善した日(本)』
竹林軒出張所『脳は回復する(本)』

by chikurinken | 2018-06-27 07:08 | ドキュメンタリー

『パイプオルガン誕生』(ドキュメンタリー)

パイプオルガン誕生 イタリア-東京・500日の物語
(2004年・NHK)
NHK-BSプレミアム プレミアムカフェ選

オルガンはブラックボックスではない

b0189364_17535496.jpg 東京カテドラル教会のパイプ・オルガンが老朽化したために、新しいパイプ・オルガンを入れることになった。なんでも前に入っていたオルガン、電気仕掛けだったらしく、そのために新しい部品がなくなっていて修理が利かなくなったという。そこでイタリアの業者に発注する。この業者、昔ながらの作り方でオルガンを作っている。いわば伝統技法の業者ということで、日本の城郭やなんかと同様、このカテドラル教会のオルガンという狭い世界でも一種の伝統回帰になっているわけだ。とは言っても、今回納品されたオルガンも、送風は機械であるし、しかもストップ(音色を変える装置)の操作はコンピュータ制御になっているんで、私見だが、あと数十年後に修理が利かなくなる可能性がある。もちろん、基本的なコアの部分が伝統技術で作られているのは確かで、そういう点では大変素晴らしいこととは思うが、こればかりは数十年経ってみないとわからない。
b0189364_17535006.jpg さて、そのオルガン作りであるが、業者はイタリアの地方にあるこぢんまりした工房で、職人集団という感じ。錫と鉛の合金を枠に流し込んでパイプを作る最初の段階からカメラは密着する。当然その前に設計段階があるが、そのあたりは基本事項だけを追うという感じである。その後、ふいご、風箱(どのパイプに風を送るか操作するアナログの制御ボックス)、鍵盤などの製作が紹介されていく。同時にパイプがどのような原理で音を出すか、ふいごで送られた風がどのようにパイプに引き入れられて音ができるかなど、製作過程を見ることによって、オルガンから音が出る仕組みが自然に理解できるようになっている。その上、現存する最古のオルガンまでが紹介され、オリジナルのオルガンの構造もあわせて紹介されていく。ここまでしっかり見ていくと、今まで(少なくとも僕にとって)まったくブラックボックスだったオルガンの仕組みがかなり理解できるようになる。またオルガン製作の技術だけでなく、納品や組み立ての様子、現場での音の調整(意外に大変な作業で、時間もかなりかかる)なども映像で紹介されていくため、オルガン全般についてかなりの知識を得ることができる。さながらオルガン大全といった趣である。
 また、この教会でのこけら落としの演奏の模様も流され、オルガンで鳥の声を再現する技なども出てくる。しかも(通常であれば絶対に目にすることができない)演奏時のパイプ部分の映像まで出てくる。オルガンの奥深さ、音の深遠さなどが味わえる90分のドキュメンタリーで、非常に質が高い番組と言える。そのためかわからないが、DVDも出ていて(『ST.MARY’S CATHEDRAL パイプオルガン誕生』)現在入手可能である。楽器に興味のある向きは、ぜひご覧戴きたいと思う。お奨め作品。
★★★☆

追記:
 現在、東京カテドラル教会では、月に1回、このオルガンの演奏を一般公開している(毎月第2金曜日)。『オルガンメディテーション』という約1時間の公演で、誰でも(信者でなくても)あのオルガンの演奏を堪能することができる。ただし、この『オルガンメディテーション』、基本はミサみたいなものであって、全員でキリスト礼賛の文句を唱和したり、賛美歌を歌ったりもする。もちろん最初と最後にバッハなどの曲が演奏されるので、参加してみればそれなりにオルガン演奏を楽しむことはできる。
 実は僕も先日行ってみたが、まったくキリスト教から縁遠い存在である僕のような人間からすると、かなり違和感のあるイベントであった。僕は「アーメン」などと唱和することも賛美歌を歌うこともしなかったが、場違いな印象は最後まで拭えず。もちろん周りの人からそのことを責められたりはしないが、そういう空気が平気であれば、リアルなオルガンの音を聴きに行くのもまた一興である。ただ僕はもう行かない。オルガンについては、今後は(ザ・シンフォニーホールやサントリーホールなどの)コンサートホールで聴いてみたいと思う。

参考:
竹林軒出張所『バイオリンの聖地クレモナへ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『至高のバイオリン ストラディヴァリウスの謎(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ピアノの詩人ショパンのミステリー(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-06-19 06:53 | ドキュメンタリー

『ハリウッド発 #MeToo』(ドキュメンタリー)

ハリウッド発 #MeToo
(2018年・英Entertain Me Productions)
NHK総合 ドキュランドへようこそ!

ヒッチコックとポランスキーもか……

b0189364_16085370.jpg 世界中に広がっていくセクハラ・スキャンダル。その発信源になったのはハリウッドである。ある女優が、ある大物プロデューサーに長年に渡ってセクハラを受けていたことを告発し、その後、同様の被害者がSNSで自分も被害者であることを告白するという具合にハリウッド全体に広がっていった(いわゆるMeToo運動)。
 この大物プロデューサーというのが、ハーヴェイ・ワインスタインという男。ミラマックス社を設立し、アカデミー賞も意のままになるとまで言われた、まさに「大物プロデューサー」。でもただ一つ「まっとうな普通のプロデューサー」と違っていたのは、この男がパワハラ、セクハラの常習だったということだ。そのため、被害を受けた女優は非常に多く、それでもこのプロデューサーに目の敵にされると女優業すら危ぶまれるということで、女優側としては簡単に拒否できないと来ている。ホテルに呼び出され、性的サービスを強要される女優もいたらしい。このドキュメンタリーでは、そのあたりのハリウッド製セクハラ・スキャンダルを詳細に紹介する。
 このワインスタイン、女性以外からも卑劣な男と見られていたらしく、尊大かつ傲慢、自己中心的だったという。脅迫まがいの行為もあったということで、結局、2018年の5月に(性的暴行のかどで)逮捕されたらしい。
 このドキュメンタリーでは、この男の非道がいろいろな関係者の口から語られ、さながら、これこそがハラスメントである!というハラスメントのデパートのようである。世間には、セクハラ告発を受ける男に同情するような論調も(一部の男どもの間に)あるが、少なくともこのワインスタインが同情に値するとはまったく思えない。こういったクソヤローは告発して、破滅させてやらないといけないとさえ思う。卑劣な男が権力を握ってしまったら、周りの人間はこのように大いに迷惑するという好例である。同様の問題を持つ日本のいろいろな組織も、早く同じようなウミを出し切るように。もっとも中には「ウミを出し切るべき」などと言っている人間がウミだったりするから始末に負えない。
 尚今回見たのは、NHK総合で最近放送が始まった『ドキュランドへようこそ!』という番組枠であった。この番組、これまでも『BS世界のドキュメンタリー』などで放送された作品をパッケージを変えて放送しているが、あまり良いものはなかった。食指が動いたのは今回が最初である。なおこのドキュメンタリー、『BS世界のドキュメンタリー』でも(2018年6月12日に)放送されたようだ。
★★★☆

追記:
 このドキュメンタリーでは、ヒッチコックやポランスキーについても、セクハラを行っていたと語られていた。ヒッチコックもクソヤローだったのか(ポランスキーのセクハラについては割合有名)。

参考:
竹林軒出張所『スクールセクハラ(本)』
竹林軒出張所『マーニー(映画)』

by chikurinken | 2018-06-18 07:08 | ドキュメンタリー

『イヌイットの怒り』(ドキュメンタリー)

イヌイットの怒り
(2016年・加Angry Inuk Inc. / National Film Board of Canada)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

単なる価値観の押し付け……という
レベルではなさそうだ


b0189364_18281238.jpg アラスカの先住民、イヌイットのある民族は、アザラシを狩ってその肉を食べるという生活を永らく続けてきた。彼らは、狩ったアザラシの肉を隅から隅まで食べた後、その皮を加工し販売することによって、生計を立ててきた。それが彼らの伝統的な生活である。ところがアザラシの狩猟が制限されたり、「一般的な」職業に就くことが奨励されたりすることで、こういった伝統的な生活を送りづらくなり、これが彼らの貧困の原因になっている。しかも近年では、毛皮反対運動がヨーロッパを席巻し、それに伴って、動物愛護団体などから、アザラシの毛皮を売ることが罪悪であると告発されるようになった。要するにアザラシを捕獲するなという暗黙のメッセージである。EUがこのような告発を受け入れ、EU全体の方針として採用すれば、アザラシの毛皮を(最大の市場である)ヨーロッパに売ることができなくなり、金を得る手段がますます限られることになる。結果的にイヌイットの貧困はますます進んでいくことになる。現時点でこういう状況が存在するのである。
 一方的なものの見方によって他者の文化を否定し、結果的にその文化、生活を壊滅させていくという、このような所業は、数百年も前から繰り返し行われ、その結果多くの先住民族は、差別の対象になり貧困に陥ることを余儀なくされてきた。アイヌしかりアメリカ・インディアンしかりである。
 このドキュメンタリーの製作者は、元々この民族の出身であることから、一方的に告発される先住民側の意見を表明して、こういった現状を全世界に発信する必要性を感じた。つまり、ゴリ押しされる「正義」のカラクリを逆に告発するというのが、このドキュメンタリー製作の動機であり、実に純粋な正しいアプローチである。このドキュメンタリーの中でも、イヌイットの人々と製作者が、動物愛護団体と直接対話して、それぞれの主張をぶつけ合おうというスタンスで動物愛護団体にアプローチしようとするのだが、団体の方から拒否されるというような事実も明かされる。さらに、こういった団体の手口が巧妙で、どこか汚さを感じさせるような面も紹介される。最終的に、こういった動物愛護団体に、イヌイットの環境から利権を得ようとする企業が絡んでいる可能性なども指摘されていて、なかなか奥が深い(もちろん、これらすべては製作者側の視点である。団体側には別の言い分があるかも知れない)。
 マイノリティの立場に追い込まれ、偏った視点で一方的に非難される側から、マジョリティの側の不合理さを告発するという、きわめて正しい動機で作られたドキュメンタリーであり、個人的には、この作品ができる限り多くの人の目に触れ、彼らの主張に耳を傾ける人が増えることを望むものである。実際、このドキュメンタリーには非常に説得力があり、勝手な理屈を振り回すヨーロッパの「動物愛護団体」に対しては怒りを禁じ得なかった。捕鯨の問題とも共通点があると感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『クジラと生きる(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イルカを食べちゃダメですか?(本)』
竹林軒出張所『あるダムの履歴書(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アマゾン 大豆が先住民を追いつめる(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-06-17 07:27 | ドキュメンタリー

『みんなの学校』(ドキュメンタリー)

みんなの学校(2014年・関西テレビ)
監督:真鍋俊永
撮影:大窪秋弘
編集:北山晃
ナレーション:豊田康雄

驚嘆! こんな学校が日本にあるとは……
学校の理想形


b0189364_17172081.jpg 大阪市立大空小学校に長期密着したドキュメンタリー。この小学校、全校生徒220人の、こじんまりした創立わずか7年(撮影時)の学校。普通であれば、小学校を取材して何が面白いのかと感じるところだが、この小学校、普通と違っている。特別支援の生徒が30人近くもいて、その数たるや普通の学校の数倍、しかもそういった生徒も普通の生徒と一緒に授業を受けている。今の「普通の」小学校とは明らかに違う。
 そのあたりは、この学校の校長、木村泰子氏の強力なリーダーシップの賜であることは、このドキュメンタリーを見ていてよくわかるが、その徹底した「子ども本位」の考え方は、他の教員やスタッフにも浸透しており、同時にこの学校を支える近所の住人の人々や保護者も積極的に教育に関わっていることがわかる。初等教育の理想を体現したような学校である。この学校を1年に渡って追い続けたのがこのドキュメンタリーなのである。
 こういう学校だからなのかわからないが、他の学校で問題児扱いされていた子どもが転校してきたりする。この子ども達に対して周囲がどのように接するかというのも映し出されていて、校長と教員たち、まさに全員で体当たりでぶつかっていく姿が見られる。時には思い切り叱ったりするが、「子どものため」という視点が随所に見受けられる。一部の子どもにはかなりの問題行動もあるが、正面からこれを受け入れ、子どもを育てるという視点で接していく。これこそが「教育の原点」であり、日本にもこんな学校があったのかと驚くばかり。
b0189364_17172963.jpg なんといっても、子ども達の問題行動に校長が積極的に関わっているのが印象的である。一方で、新人の教員をビシビシ叱っていたりして、校長の厳しさも伝わってくる。あくまで「子どもが主役」というその視点が見えてきて気持ちいい。なお、この学校、特別支援の生徒が通常のクラスにいるため、普通の生徒たちもこういった生徒を支援したり援助したりする。実は、こういうことこそが教育面で一番重要であり、(支援する側の)子どもたちのためにもなるんではないかと思うが、今の教育現場みたいに個人主義的あるいは利己主義的な発想ばかりになってしまうと、なかなかこれを実現するのは難しいんだろうなと思う。もちろんこういうことを実現しようとすると、教員の負担が今以上に膨らむことはわかるが。だから、それを体現しているという点でも、この大空小学校のすごさがわかる。
 なお、この木村校長、2015年に(おそらく定年で)退職している。この学校のその後も気になるところ。
平成25年度文化庁芸術祭賞テレビ・ドキュメンタリー部門大賞他受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『「みんなの学校」がおしえてくれたこと(本)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『私たちの未来を救って!(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと(本)』

by chikurinken | 2018-05-21 07:16 | ドキュメンタリー

『五島のトラさん』(ドキュメンタリー)

五島のトラさん(2016年・テレビ長崎)
監督:大浦勝
編集:井上康裕
ナレーション:松平健

トラさんの走馬灯

b0189364_15460364.jpgネタバレ注意!

 長崎の五島列島在住の犬塚虎夫さん(通称トラさん)という市井の人の家族を、なんと22年(!)に渡って撮影し続けるという大河ドキュメンタリー。かつて10年レベルの長期取材が行われたドキュメンタリーをここでも紹介した(『ムツばあさんの秋』『エリックとエリクソン』など)が、22年間に渡って撮影したものは見たことがない。もっとも22年といってもずっと密着していたわけではもちろんなく、この作品も他のドキュメンタリーと同じように、最初に取材して放送し、その数年後にまた取材して放送しというのを繰り返して、結局最後に撮影したのが最初から22年だった、そしてそれを1本のドキュメンタリーにまとめたために、22年間のある家族の歴史がリアルに写されることになったたということなのである。とはいえ22年というのは前代未聞で、おおよそ一世代分であり、その重みはハンパない。
 五島に面白い人がいるということで最初に取材陣が入ったのが1993年で、その人こそ、このドキュメンタリーの主人公、トラさん。彼の家族は妻と7人の子ども達という構成の大家族であった。トラさんは製麺業を営んでいて朝からウドンをこねている。この家族が他と少々異なるのは、7人の子ども達に早朝から仕事を手伝わせるということで、それに対しては年齢や仕事に応じたバイト代という名の小遣いを渡す。もちろんこれはトラさんの教育の一環であり、お金を稼ぐということがどういうことか知ってもらいたいという思いからである。子どもの方は、中には朝からの労働を嫌がっている子もいるが、概ね割合積極的に関わっている。ちなみにこのとき長男は高校三年、一番下の子ども(三男)は2歳であった。この2歳のボクも仕事を手伝っていた。
 撮影が続くと、子ども達もどんどん成長し、五島で就職する者(トラさんのたっての意向が強く働いている)や、進学、就職などで都市部に出ていく者が出てくる。中には駆け落ちのようにして出ていく女の子もいて、家族の中に小さな波乱が生まれてくる。小さな波乱はあるが、それぞれの子ども達も自分の生活を生きるようになり、トラさんにとって嬉しいことも悲しいこともいろいろと起こる。トラさん自身は製麺業以外に製塩業にも手を広げ意欲的な面を見せる。一方で酒量が増え、身体に不調も出てくる……という按配である。
b0189364_15460836.jpg 子どもが遠くの街に出ていくあたりは、さだまさしの『案山子』みたいな世界になっていくんだが、バックに流れる音楽も案の定『案山子』で、考えるのは作る側も見る側も同じということになる。このあたりのエピソードについては2003年に『故郷〜娘の旅立ち〜』というタイトルでドラマ化されたらしいんで、このトラさん一家、以外に有名だったのかも知れない(このドラマの主役が、このドキュメンタリーのナレーターの松平健)。このあたりまではなんとなく「ビッグダディ」を彷彿させるような家族ではある。
 が、このトラさん、このドキュメンタリーの中で亡くなってしまう。ということで、2時間のドキュメンタリーの中に、ある男の壮年期から死期までが映し出され、その男が作った家族の歴史がこの2時間の中に投影されるということになる。このあたりがこのドキュメンタリーの最大の魅力になる。かつて放送されたという3本ないし4本分の放送を2時間に凝縮したため、時間をなぞるような部分が若干あって多少説明的になっているのが残念だが、一方で見方を変えると、トラさんが死ぬ直前に見た、いわゆる「走馬灯」のようにも感じられる。「走馬灯」を再現したドキュメンタリーなどこれまで存在しないし、それは、やはり22年という歳月と魅力的な被写体があってのことと言える。
 なお、この作品、トラさんの死後も出てきて、これなどはトラさんがあの世から見下ろした(その後の)この世みたいな印象さえ与える。視聴者はトラさんの立場に同化してこれを見るわけで、これも非常に面白い趣向になった。
 いずれにしても時間が持つ重みは、特にドキュメンタリーでは非常に大きいということを再発見させてくれた、そういうドキュメンタリーである。十分堪能した。
2017年文化庁映画賞文化記録映画部門大賞他受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『タイマグラばあちゃん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『地方発ドキュメンタリー(ドキュメンタリー)』
竹林軒『エリックとエリクソン』
竹林軒出張所『バーミヤンの少年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『瓦と砂金 働く子供たちの13年後(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-05-19 07:45 | ドキュメンタリー

『見えざる病原体』(ドキュメンタリー)

見えざる病原体
(2017年・米Sierra Tango Productions/Vulcan Productions・独WDR)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

これは果たして
真摯なドキュメンタリーなのか


b0189364_18581707.jpg 新種の感染症の恐怖について語るドキュメンタリー。
 エボラ出血熱、ジカ熱、新型インフルエンザなどが話の中心で、2014年の西アフリカでのエボラ出血熱流行、ブラジルでのジカ熱流行(それに伴う小児の小頭症の増加)などが俎上に上がる。また、SNSなどを通じて、必要以上に恐怖が増大し、パニックが起こることに警鐘を鳴らす。
 確かに言わんとすることはわかるが、むしろこのドキュメンタリー自体、いたずらに恐怖を煽るかのような様子が見える。エボラ出血熱については、多数の被害者が出はしたが翌年に終息しているし、流行についても局地的だったわけで、いたずらに恐怖を煽っているようにも受け取れる。ジカ熱についてもブラジルで被害者は多数出たらしいが、妊婦以外大事になることはないため、それなりの管理を行えば対処できるように思う。エボラ熱についてもジカ熱についても、紹介される映像がショッキングでかなり驚くが、あまり健全でない意図も少し感じる。
 むしろ、アフリカとブラジルの流行がどういう過程で進み、どういう対策がとられ、どのように終息したかなどについて詳細に伝えてほしかったところで、肝心の部分を欠いているという感触が残る。正直、取るに足りないドキュメンタリーであった。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-05-17 07:57 | ドキュメンタリー