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竹林軒出張所

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タグ:ドキュメンタリー ( 554 ) タグの人気記事

『砂川事件 60年後の問いかけ』(ドキュメンタリー)

砂川事件 60年後の問いかけ(2017年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

「砂川事件=統治行為論」で片付けられない

b0189364_16262520.jpg 1957年、東京都立川市の米軍基地で基地反対運動が展開された際、数人の学生が基地の敷地内に入ったという容疑で逮捕された(いわゆる「砂川事件」)。けが人や死人が出ることもない割合ありふれたごく普通の事件で、この事件も微罪扱いで釈放されるというのが一般的な見方であったが、東京地裁で行われた一審公判で無罪判決が出され、しかも米軍の存在が憲法違反とする憲法判断が示されたことから、大きな話題になった。
 憲法判断になったこともあり、検察側は、高裁を経ずに最高裁に跳躍上告するという異例の対応に出る。最高裁判決も異例の早さで下され、地裁判決を破棄し裁判のやり直しを行うよう命じられた。全判事一致の判決である。この判決では、安全保障などの高度に政治的な事案については、それが明白に違憲でない限り、裁判所が違憲かどうかの判断を行うことはできないとする、いわゆる統治行為論が採用された。考えようによっては裁判所が違憲立法審査権を放棄したとすることもできる。この「砂川事件」は、現在高校の現代社会の授業でも扱われ、生徒たちには「砂川事件=統治行為論」で憶えるよう教えられるらしい。
 ただこの砂川判決はその後、日本の公判において決定的な判例になり、同様の事案については裁判所が介入しないという悪しき伝統が作り上げられてしまった。そのため、今周りを見回すとわかるが、数々の違憲まがいの法律が成立しまかり通っている。そもそも現在、憲法自体がどの程度尊重されているかもかなり疑問なのではあるが。
 ところが2008年に、アメリカでこの事案についての公文書が発表されたことから話は少し変わってくる。要するに当たり前のように司法権力による判断とされていた「統治行為論」であるが、実は判決の直前に外務大臣と米大使、それから最高裁長官と米大使が会談しており、政治情勢(当時、岸内閣によって新日米安保条約の改訂が進められていた)に配慮した判決を出すことをアメリカ側に確約していたという事実が明らかになったのだった。つまり最初から出来レースだったというわけで、それこそ司法の長による司法権の放棄ということになる。この公文書の発表を受けて、当時の被告4人が再審請求を行った。関係者のインタビューを行いながら、こういった事情を丁寧に追いかけるというのがこのドキュメンタリー。内容は非常に濃密で、司法のあり方についていろいろ考えさせられる番組であった。当たり前のように高校で教えられる統治行為論は決して「当たり前」ではなかったのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『裁判百年史ものがたり(本)』

by chikurinken | 2018-04-23 07:26 | ドキュメンタリー

『オリバー・ストーンONプーチン』(ドキュメンタリー)

オリバー・ストーンONプーチン 前編後編
(2017年・米Showtime Documentary Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

プーチンの頭の中を少し覗けるかな
だがやはり怖い


b0189364_20310297.jpg 映画監督のオリバー・ストーン、近年は政治的なドキュメンタリーや著作も手がけているが、今度はなんと、あのプーチンに、数回に渡ってインタビューを試みた。そしてその模様をまとめたのがこのドキュメンタリー。今回放送されたものは前編と後編、合わせて100分で、終始和気藹々と対話が展開される。もちろんオリバー・ストーンだけに、ツッコミの厳しい質問もあるが、プーチンはプーチンなりの立場で淡々と、時にはユーモアを交えながら自説を展開していく。
 僕などは「プーチンにインタビュー」と聞くとヒヤヒヤしてしまうが、インタビューは滞りなく進んでおり、オリバー・ストーンが拉致されてシベリア送りになったなどということは(当然のことながら)ない。
 プーチン自身、よくこういったインタビューの申し出を受けたなというのが僕の当初の率直な印象。そりゃ確かにオリバー・ストーンは物事について比較的バランスのとれた見方をするのはわかるが、なんせアメリカ側からのインタビューである。ただ実際には、プーチンはこれまでにもアメリカの著名なアンカーマンの取材を受けていることがこの番組で紹介されていたし、意外にプーチンはアメリカのメディアには慣れていたのかも知れない。実際この番組では、プーチンの立場がはっきりと表明されていたし、家庭での顔やスポーツマンとしての顔も紹介されていて(プーチンが柔道やアイスホッケーをやっているシーンも出てくる)、決してプーチン側のマイナスにはならないと思う。b0189364_20310725.jpgむしろ、西側で報道されるロシア情報がかなり偏っていることにあらためて気付かされるという面もあった。ロシアに対するイメージは、ウクライナ問題もあり、EUと米国によってかなり悪いイメージが誇張されているという話をかつてエマニュエル・トッドの著作(何であったか失念した。『問題は英国ではない、EUなのだ』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』のどちらかではないかと思う)で知ったが、それは今回少し実感した。ロシア側の視点で見ると、確かに西側諸国によって理不尽なイメージが作られているとも感じる。とは言え、やはりプーチンに怖さを感じるのは変わらない。プーチンにとってもオリバー・ストーンにとっても(イメージ、名声の上で)プラスになったことは明らかであるし、これを見た視聴者にとっても、虚像に踊らされず自分の目で物事を判断するよすがになるというプラス面がある。物事を正しく見るためには、さまざまな視点を確保することが大切である。とは言いながらも、やはりプーチンは怖い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『サルバドル 遥かなる日々(映画)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(1)〜(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(8)〜(10)(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-04-09 07:30 | ドキュメンタリー

『ロシアで働く』(ドキュメンタリー)

ロシアで働く(2017年・チェコKrutart/Česká televize)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

驚愕のロシア労働事情

b0189364_15433125.jpg ロシアのアフトヴァース社という自動車メーカーの立て直しのため、再建請負人のボー・アンダーソンがCEOとして招かれた。このドキュメンタリーは、そのCEOから見たロシアの労働事情で、「ロシアで働く」という邦題になっているが、タイトルから受けるイメージとは異なる。決して出稼ぎ肉体労働者の話ではない。
 とは言え、実際アンダーソンが目にするアフトヴァース社の労働事情は、これがロシアの一般的な姿かどうかわからないが、かなり衝撃的である。なんせ、労働者たちがろくに仕事をしない。映像で映される仕事はことごとくがやっつけ仕事で、労働者は見るからに仕事をやりたくなさそう。実際積極的にはやっていない。少なくとも日本の労働の現場とはまったく違う。アメリカの大手自動車会社の工場も似たり寄ったりという話を聞くので、もしかしたら一定の地位にあぐらをかき続ける企業の姿なのかも知れないが、ともかく日本人が持っている一般の労働者のイメージとは大分違うのは確か。少なくとも彼らが作る製品を利用したいとは思わない。
 また、この会社の寒中水泳クラブが(活動で必要だからという理由で)除雪機を新社長に要求したという話も紹介される。新社長もあちこち手配して古い除雪機を彼らに送ったのだが、最新型の機種でなければダメだという理由でクラブ側が拒否したらしい。
 こういうようなぬるま湯体質……というより労働自体が成立していない環境を変革すべく、アンダーソンはさまざまな改革を行う。こういう改革の中心になるのは、当然ながらやる気のない社員を解雇するということなんだろう。で、これまた当然ながら、それに対する反発も起こる。
 このドキュメンタリーでは、改革反対の労働者による集会が映されるが、その場である労働者が、かつては定時に来るだけで給料がもらえたのに今はハードワークを強いられる、あり得ないなどと言っていて、その演説が賛同の拍手で迎えられていた。まさしく驚嘆である。根本的に価値観を変えるところから始めない限り、ちゃんとした製品はできないのではないかと思うが、しかしその価値観の転換は相当困難を極めそうである。
 このドキュメンタリーを見ると、自分がCEOの立場だったら何ができるかなどと考えてしまうんだが、結局のところ、どうしようもない。手の施しようがないので、このまま倒産するしかなさそうである。アンダーソンも、こういう状況を知っていたらCEOを引き受けなかったと言っていた。実際彼はその後、改革途中で株主により解任されてしまい、改革は結果的に失敗に終わった。ただし彼が在任中に開発を進めたラーダの新モデルは売上も好調らしく、ロシア国内のカーオブザイヤーに選ばれたというんだから、皮肉なものである。
 なにしろ労働に対する考え方がこうも自分と違うと、どちらが正しいのかわからなくなる。いやー世界って広いもんですね。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ソビエト連邦のコマーシャル王(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-04-07 07:43 | ドキュメンタリー

『エルドアン “スルタン“への道』(ドキュメンタリー)

エルドアン 〜“皇帝(スルタン)”への道〜
(2016年・仏ARTE G.E.I.E / ALEGRIA PRODUCTIONS)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

タイトルは興味を引くが
内容が伴っていない


b0189364_18233185.jpg トルコの現大統領であるエルドアンの来し方を描くドキュメンタリー。
 エルドアンと言えば非民主主義的な政策を次々に実行している男として有名で、このドキュメンタリーの主眼も当然そのあたりに置かれている。ただやや一方的な価値観で強引に描き出しているという印象が拭えず、どうしてもヨーロッパ対イスラムみたいな視点が挟まってきて、価値観闘争みたいになってしまう。もう少し人道的な見地を押し出すべきではなかったかと思う。
 また、エルドアンがイスタンブール市長からトルコの首相、その後大統領まで上り詰めた過程や、イスラム的な価値観をトルコ中に押し付けようとしていることは伝わってきたが、この人の立ち位置がもう一つわかりにくい。たとえば2016年に軍によるクーデター騒ぎが発生しており結局鎮圧に成功してはいるが、軍に正義があるのかエルドアンに正義があるのかが見えてこない。番組ではエルドアンに問題があるかのような描き方になっているが、しかし普通に考えると軍事クーデターに正当性があるとは思えない。もちろん、かといってエルドアンが正義の人だとも思えない。実際のところ、エルドアン自身は国民の権利を抑圧する政策を続けている。そういうことを考えると、少なくとも西側の価値観からすると歓迎されない存在だし、実際に国内にも弾圧される人々や被害者が出ている(この番組によると、クルド人政党に対するテロ事件などもエルドアン側が実行したものとして描かれている)。だがその割に国民からはそれなりに支持されているようで、そのあたりの真相が全然見えてこないのである。
 問題がある政治家であることはわかるが、核心の部分が描ききれていないために、非常に中途半端なドキュメンタリーで終わってしまっている。素材が面白いだけに、結果がはなはだ残念というドキュメンタリーになった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スターリンの亡霊(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『暴かれる王国 サウジアラビア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ベラルーシ自由劇場の闘い(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-04-05 07:23 | ドキュメンタリー

『The Making of Sgt. Pepper』(ドキュメンタリー)

The Making of Sgt. Pepper(1992年・英)
監督:アラン・ベンソン
出演:ジョージ・マーティン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター(ドキュメンタリー)

『サージェント・ペパー』の偉大さを体感

b0189364_16164902.jpg ザ・ビートルズの歴史的アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band)』について解説するドキュメンタリー番組。こちらは、『サージェント・ペパー』のプロデューサー、ジョージ・マーティン自身が、このアルバムで生み出された音についていろいろと解説する。
 元々1992年に作られたドキュメンタリーで、言ってみれば『サージェント・ペパー ビートルズの音楽革命』のオリジナルである。したがってあのドキュメンタリーとも内容的には重複しているが、こちらはやはり何と言っても、ジョージ・マーティン自身が解説している上、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターも番組内でインタビューに応じており、当時の状況を振り返っているという点で、一級資料に相当すると言える。とは言えこのドキュメンタリー、実際にはあまり見る機会がないようだ。僕自身は今回、昨年発売された『サージェント・ペパー』の50周年記念エディションに収録されていたものを借りることができたのでたまたま見るチャンスがあったが、もう少し普通に見られるようにしてほしいと感じるような作品である。
 しかしこのドキュメンタリーを見ると、あらためて『サージェント・ペパー』の価値というものがわかる。当時こういった音楽は、少なくともポップスの世界では存在していなかったわけで、前衛音楽をポップスの世界にまで拡大したわけである。ジョージ・マーティンによると、発売前は、ファンの方が「新しさ」についてこれないんではないかと危惧したらしいが、すでに人気を誇っていたビートルズが久々に出したアルバムだったせいか、あるいは時代背景のせいか、ファンはしっかりとこの音楽を受け入れた。今聴くと新鮮味も「中くらい」ではあるが、それは他のアーティストがことごとく模倣して、それがスタンダードになったせいである。当時の状況について身をもって知っているわけではないため、実際のところはよくわからないが、おそらく相当なセンセーションだったのではないかとこのドキュメンタリーを見て感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『サージェント・ペパー ビートルズの音楽革命(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-03-18 07:17 | ドキュメンタリー

『サージェント・ペパー』(ドキュメンタリー)

サージェント・ペパー ビートルズの音楽革命(2017年・英Apple Corp.)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

優良音楽解説ドキュメンタリー

b0189364_18164680.jpg ザ・ビートルズの歴史的アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band)』について解説するドキュメンタリー番組。案内人は、ハワード・グッドールという英国の作曲家。
 ヒートルズの音楽は、聞くところによると、音楽的にそれまでのポップミュージックとは大分違うらしく、僕なども非常に興味を持ったんで若い頃『ビートルズ音楽学』などという本を読んだりしたが、何だかよくわからない。そもそもが、楽譜を示されてなんやかんや言われてもピンと来ない。音楽はやはり音楽を聴かせてもらった上で解説してもらわないことにはなかなか簡単に理解できない。以前ヒッチコックの映像を解説するドキュメンタリー(竹林軒出張所『巨匠たちの肖像 ヒッチコック(ドキュメンタリー)』を参照)があったが、あれなども同様で、映像を見せてもらわないことには、よほどのマニアでなければピンと来ない。その点、あのドキュメンタリーは良かった。
b0189364_18165167.jpg このドキュメンタリーもあれと同様で、実際の楽曲を使って、どの部分にどういう面白味があるかわかりやすく教えてくれる。そもそも『サージェントペパーズ』自体、知らないとかなり謎の多いアルバムで、面白さはわかるが、本当のところは見えてこない。「With a Little Help from My Friends」や「Lucy in the Sky with Diamonds」が幻覚剤の影響とか、その程度の知識はあっても、「Being for the Benefit of Mr. Kite!」などの楽曲に至るとさっぱり意味がわからない。せめてどういういきさつで作られたかがわかれば、もう少しこちらとしてもわかりやすくなる。そこでこの番組ということになる。「Being for the Benefit of Mr. Kite!」については、ジョン・レノンが19世紀のサーカスのポスターを目にして、そこで使われている文言をそのまま使ったという話で、そんなもん聞かなきゃわかるわけがない。ましかし今回、ほとんどの楽曲について解説があったんで、いろいろなことが非常によくわかった。ビートルズが楽曲で使ったという風変わりな楽器も紹介されて、どの部分にどういう効果が出ているかなどについても詳細な解説があった。しかも、録音方法(これも当時としては非常に画期的だったらしい)も紹介されたし、作品では使われていない別テイクや素材の音なども出てきて、非常に面白かった。少なくとも『サージェントペパーズ』がかなり作り込まれだアルバムであることは窺える。
 あらためて言うまでもなく、アルバム自体が難解であることを考えると、こういった解説番組は非常に有用である。それに案内人が一部を再現したりしているため、きわめてわかりやすく、解説自体も非常に質が高いと言える。アップルレコードとBBCが共同で作ったドキュメンタリーらしいが、これまで数々発表されたビートルズのドキュメンタリーの中でも最上級で、永久保存版と呼んでもよかろう。
 ただ、放送時は気が付かなかったが、この番組で解説されていた一部の楽曲、「Strawberry Fields Forever」や「Penny Lane」は『サージェント・ペパー』に収録されている曲ではないし、一方で「With a Little Help from my Friends」、「Fixing a Hole」、「When I'm Sixty-Four」については解説がなく、少々ちぐはぐさもあった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『The Making of Sgt. Pepper(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本』
竹林軒出張所『カラヤン ザ・セカンド・ライフ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『巨匠たちの肖像 ヒッチコック(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-03-16 07:16 | ドキュメンタリー

『決戦!鳥羽伏見の戦い』(ドキュメンタリー)

決戦!鳥羽伏見の戦い 日本の未来を決めた7日間
(2017年・NHK)
NHK-BS1 明治維新150年スペシャル

鳥羽伏見の戦いを詳細に辿る

b0189364_18092611.jpg 1868年に薩摩軍と幕府軍の間で起こった鳥羽伏見の戦いから今年で150年になるということで放送されたドキュメンタリー。鳥羽伏見の戦いに対する従来の見方、つまりいち早く近代化した新政府(薩長)軍が旧弊な幕府軍を一蹴し、幕府側総大将の徳川慶喜が戦線を放棄して江戸に逃げ帰ったという見方は、その多くが偏見だ……みたいなことを冒頭から言われてかなり期待して見たが、実際のところはあまり通説と変わらず。少なくとも冒頭で紹介された「紙一重で新政府軍が幕府軍を下した」という見方は、ちょっと穿ちすぎと思う。ただし、今まで名前でしか知らなかった鳥羽伏見の戦いが、再現ドラマを交えて詳細に紹介され、かなりわかりやすかったことは確か。NHKの歴史物によく出てくる、素人(プロも混じっているが)パネラーたちによる議論みたいなくだらない演出がなかったことも評価に値する。専門家たちによる議論(めいたもの)はあったが、これについてはあった方が良いと思えるものであった。
 1867年の王政復古の後、新政府軍は天皇を中心とした新しい合議体制を進める方針を立てたが、このときに徳川慶喜がこの合議組織から排除されたことが事の発端。そのまま大坂城に退去した慶喜だったが、薩長といずれケリをつけるべく準備していた。実際兵力的には幕府軍が圧倒的に有利で、そのまま都を包囲すれば、薩長軍を雪隠攻めできることが明らかであるため、しかるべきタイミングで勅許を得て薩長を倒すというハラでいたらしい。ところが大目付、滝川具挙が薩摩討伐の勅許を速やかに得るべしと慶喜に上奏し、慶喜もそれに許可を出したため、にわかに時計の針が動き出す。
 朝廷を事実上乗っ取っていた薩摩は、いずれ幕府からの反撃があると予想し内心ビクビクしており、戦闘の準備をしていたが、やがてほぼ非武装の幕府軍(滝川具挙の軍)が都を目指して進軍してきた。そもそもの目的は薩摩討伐の勅許を得ることであり、勅許が得られたら、しかる後に薩摩に一撃を食らわす予定だったらしい。だが兵力で劣る新政府軍は、(危機感があったことも幸いして)万全の準備で滝川軍の進軍に対峙し、その進路である鳥羽と伏見で幕府軍を迎え撃つ。こうして、幕府側の当初の意図とは離れたところで戦いが始まってしまう。十分な準備ができていなかった幕府軍は散り散りで退去し、翌日反撃したが、その後再び責められ1週間で淀城まで撤退する。淀城は元々幕府の譜代大名である稲葉氏の城であり、滝川軍はここを拠点にして反攻することを考えていたが、稲葉氏が新政府軍に寝返ったため、反撃も叶わず、結局大坂城まで退去することになった。しかしこのときすでに、大坂城の主、徳川慶喜は、幕府の軍艦で江戸へと旅立っていたのだった……という流れである。
 途中、海軍力は幕府の方がはるかに優れていて大阪湾を完全に抑えていたとか、薩摩郡総大将の西郷隆盛が怯えていたとか、戦闘が始まってから朝廷内で親幕府勢力が一時的に優勢になったなど、やや目新しい事実はあるが、大局に影響するものではなく、結局ほぼ通説どおりに事が進んでいる。要するに幕府側が、新時代の変化に対応できていないのが一番の敗因であったということで結果としてはありきたりとも言えるが、日本史における画期であるこの事件を詳細に紹介するという試みは成功している。また、岩倉具視が、後醍醐天皇の時代以降途絶えていたはずの「錦の御旗」を再現し(要はイミテーションだが)、それが幕府軍と新政府軍のどちらにつくか迷っていた諸藩を引き寄せる結果になったなどという事実も目新しい。2時間枠は少し長すぎるような印象があるが、内容は充実していたと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『幕末史(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『龍馬 最後の30日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『武士の家計簿(映画)』

by chikurinken | 2018-03-01 07:09 | ドキュメンタリー

『アフター・ヒトラー 前後編』(ドキュメンタリー)

アフター・ヒトラー 前編後編
(2016年・仏CINÉTÉVÉ)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

大きな事件の間にミクロ的な歴史がある

b0189364_19545397.jpg ナチス崩壊後のヨーロッパ世界の映像をカラー化してまとめたもの。
 ナチスが占領していた国々での旧ドイツ兵に対するリンチ、親ナチスの人々に対する処刑などの映像から始まり、強制収容所のユダヤ人の姿などショッキングな映像がかなり出る。東欧で生き残りのユダヤ人に対して虐殺事件が起こったなどという、あまり表に出てこない事件もきっちり紹介されて、そういう点でもかなり興味深い。終戦後のベルリンの惨状や、市民による瓦礫の撤去の映像なども出てきて、こちらも珍しい。一般的な歴史学では、ドイツ降伏、ヨーロッパでの第二次大戦終結、日本降伏、太平洋戦争終結、米ソ東西対決みたいに続くわけだが、それぞれの事件の間には、ミクロ的な歴史があるという当たり前のことがあらためてわかる。
b0189364_19544862.jpg 後半では、ドイツの東西分断、ベルリン空輸、米ソ対決が扱われ、ここまで見てくると、歴史の流れが教科書的な事項の並びでなく、時代のうねりとして伝わってくる。編集がうまく行われているため、戦後ヨーロッパ史を俯瞰するのに適した素材になっていて、完成度も高い。アメリカの進駐軍が、「敵=ドイツ人」(「ドイツ人に気を許すな」というキャッチフレーズがあったらしい)という構図から「敵=ソ連」という構図に変わっていく様子もよくわかる。
 映像については取り立てて珍しいものはないが、ほとんどの映像がカラー化されていて、その点だけでも貴重である。歴史の実像に触れられるような構成で、よくできた歴史ドキュメンタリーになっていた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ドイツ零年(映画)』
竹林軒出張所『戦後ゼロ年 東京ブラックホール(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-02-27 06:54 | ドキュメンタリー

『ロシア革命 100年後の真実』(ドキュメンタリー)

ロシア革命 100年後の真実(2017年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

ロシア革命の実像が少しだけ明らかに

b0189364_20184136.jpg ロシア革命100周年ということで、ロシア革命を見直そうという機運がロシア国内でもあるらしい。ロシア国内では、ロシア革命について否定的な意見も見られるらしいが、ほぼ半数はその意義を評価しているという。こういったナショナリズムには少々不気味さも感じるところ。なんせソビエトおよびロシアはかつて世界中を侵略してまわり国内でも大勢の人々を死に追いやった大国である。そこでロシア革命の実態、つまり本当のところを、数人の研究者の研究を基にして、もう一度振り返って見ようという企画がこのドキュメンタリーである。
 このドキュメンタリーで明かされるのは、1) ロシアの敵国(日露戦争時は日本、第一次対戦時はドイツ)がレーニンらの反体制派に対して資金援助しており、そのことがロシア革命の成功に大きく寄与していた点、2) 10月革命後、民主選挙で選ばれた議会をレーニンが突然閉鎖し、政治の実権を強奪した点、3) 革命直後、農民に土地を解放したは良いが農産物を強制徴集したために農村の反乱が多発した点、4) 同時にそれを平定するために毒ガスなどの兵器が使用された点、5) レーニンの非計画性のためにロシア革命を通じ多数の犠牲者が出た点など。どの事実についても今まであまり明らかになっていなかった(あるいはあまり知らされていなかった)ため、非常に新鮮な印象を受ける。少なくとも、現在ロシア国内で見られるような、ロシア革命を手放しで称賛するような風潮は、決して褒められたものではない。実際、ロシアの研究者もこの番組の中で、こういった悪しきナショナリズムの危険性を指摘していた。
 もちろん、ロシア革命を客観的に見直すという作業はまだ緒についたばかりのようで、今後もっと新しい事実が明らかになる可能性は高い。そのためにはロシア国内の政治の安定と民主的な運営が前提として必要になるが、その辺については今後どう転ぶかわからない。いずれにしろ、今の時点でも解明は少しずつ進んでいるようである。期待したいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ラフマニノフ ある愛の調べ(映画)』

by chikurinken | 2018-02-25 07:21 | ドキュメンタリー

『映像の世紀プレミアム 第8集』(ドキュメンタリー)

映像の世紀プレミアム 第8集 アメリカ 自由の国の秘密と嘘
(2018年・NHK)
NHK-BS1 NHK-BSプレミアム

ハーストとフーバーが目玉

b0189364_18474108.jpg 『映像の世紀プレミアム』第8集は、アメリカの暗部を中心にまとめる。この『プレミアム』もいつまで続くかと思っているうちに第8回まで来た。自由の国アメリカの歴史が決して褒められたもんじゃないという、ちょっとシニカルなテーマである。
 登場する映像は、新聞王ハーストに始まり、ハーストと手を結んだF.ルーズベルト、長年に渡ってFBIに君臨したフーバー、ケネディの暗殺、ベトナム戦争の欺瞞、ニクソンのウォーターゲート事件などである。フェイクニュースの元祖、新聞王ハーストや、歴代大統領をことごとく脅していたというフーバーの話を聞くと、ニクソンさえまともに見えて、むしろ潔ささえ感じるんで不思議である。ハーストについては世論を煽って米西戦争を起こしたとか、その悪辣さは現大統領を思わせるほどである。ハーストについては、オーソン・ウェルズが『市民ケーン』で痛烈に皮肉ったが、それについても触れられている。
 ケネディの暗殺やベトナム戦争、ウォーターゲート事件については、テーマ自体がよく取り上げられるもので、ややありきたりの感がある。したがって、ハーストの周辺、それからフーバーが今回の番組の目玉と言えるか。見せ方も非常にうまく、1時間半まったく飽きずに接することができるドキュメンタリーだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第7集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『コールド・ケース "JFK"(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-02-23 07:46 | ドキュメンタリー