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竹林軒出張所

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『自転車の安全鉄則』(本)

自転車の安全鉄則
疋田智著
朝日新書

『自転車の安全鉄則』(本)_b0189364_15284696.jpg この著者の自転車関連本はこれまで何冊か読んでいるが、どうもなんとなく傲慢な臭いがして、あまり好きになれないのだ。もう少し謙虚になれないかなと思う。とは言え、本書は、これまでの著者の集大成と言っても良いくらい、内容がよく突き詰められて整理されている。タイトルは『自転車の安全鉄則』であり、内容の基軸もそういうことなのだが、自転車の安全性から自転車行政全般、自転車につきまとうさまざまな問題についてまで、非常にわかりやすく論じている。要は車道の一部を自転車専用道路にし、自転車の左側通行を徹底すべきだということである。そのあたりの理由については本書で詳しく解説されているので、興味のある方は読んでください。
 主張については、同じ自転車乗りとして全面的に賛成だが、やはりどことなく文章全体から傲慢な臭いがする。著者がギョーカイ人だからか? 同様の主張の本に『クルマを捨てて歩く!』(杉田聡著、講談社+α文庫)があり、こちらは著者の(良い方の)人間性がにじみ出ていて好感が持てる。
★★★☆

参考:
竹林軒『車を捨てよ! 街に出よう』
竹林軒出張所『自転車が街を変える(本)』
竹林軒出張所『広がる“持続可能な交通”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ニッポンの旅 江戸達人と歩く東海道(本)』

# by chikurinken | 2009-06-27 15:29 |

アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展

 岡山のギャラリーグロスで、今日から「アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展」が始まった。
アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展_b0189364_19123381.jpg

 早速見学に行った。そうそう、知らない人のために説明しておくと、メゾチントというのは、銅版画の1技法で、通常の銅版画が白地に黒の絵ができるのに対し、メゾチントでは黒地に白の絵ができる。あらかじめ、真っ黒になるように処理しておいた銅板を、少しずつ削りながら白い部分を広げていくという技法である。
 このアーリング・ヴァルティルソンというお方は、現時点で当代最高のメゾチント作家なのではないかと僕などは思っている(単に他の作家を知らないだけかも知れない)。僕もこのヴァルティルソンの「ねぎ」という作品を知って、自分でもメゾチントをやってみたほどだ。彼の作品を見ると、メゾチント表現の可能性をうかがうことができる。
 今回の展覧会は、グロスでは2004年以来5年ぶりの開催で、90年代の終わりから最新作までの15点が展示されている。例の「ねぎ」も展示されていた。前の展覧会のときも見ているはずなのだが、当時は銅版画にまったく興味がなかったため、全然印象に残っていない。銅版画に興味がない普通の人にとっては(かつての僕も含めて)大したインパクトを感じないのかも知れない。ただ(銅版画から離れて)静物画として見てもなかなか存在感がある作品が多く、一見の価値はあるのではないかと思う。
 今回の展示を見るに当たり、上の「ぶどうのある配置」にも下の「ねぎ」にも見られる細かい白の表現に関心があったのだが、何となく白の絵の具で着彩しているような印象を受けた。グロスのマスターによると、プレス(印画)する前に爪楊枝を使って黒インクを取り除いているのではないかという話で、なるほどそういう技法があるのかと納得した。ただ、作品によっては絵の具を塗っているのではないかと感じられるものもあり、真相はよくわからない。ともかく、いずれこの爪楊枝技法を試してみたいと思う。

「アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展」
ギャラリーグロス(岡山市北区富田町)
2009年6月26日〜7月11日

アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展_b0189364_19104090.jpg

前回(2004年)の展覧会のハガキ:「ねぎ」↑
# by chikurinken | 2009-06-26 18:59 | 美術

『ドイツ学生の歌ベスト・アルバム』(CD)

ドイツ学生の歌ベスト・アルバム
エーリッヒ・クンツ(バリトン)
リトシャウアー、パウリク指揮
ウィーン・フォルクスオパー管弦楽団、合唱団(1955、56年録音)


『ドイツ学生の歌ベスト・アルバム』(CD)_b0189364_1192348.jpg 知人から『ドイツ学生の歌ベスト・アルバム』というCDを借りた。貸してくれたのはクラシックの好きな年輩の方で、この方のフェイバリットCDだそうだ。19世紀のドイツの大学生の愛唱歌を集めたCDということで、僕の方はあまり気乗りがしなかったが、借りたからには聞かなければならない。
 1曲目が「狐の行進を迎える歌」。タイトルからしてあまり食指が動かないが、とりあえず聞いてみた。で、びっくり。いきなり「旺文社大学受験ラジオ講座」のテーマ曲が流れ出した。このメロディはブラームスの大学祝典序曲のはず……。なるほど、ドイツの大学生が、大学つながりで大学祝典序曲からメロディだけ拝借して替え歌にしたんだななどと思いつつ解説書を読むと、話は逆で、「狐の行進を迎える歌」がオリジナルで、ブラームスが大学祝典序曲を作曲する際にパクったというか引用したというのが真相らしい。解説によると、ブラームスは大学祝典序曲で、このCDの2曲目「ガウデアームス」と3曲目の「ランデスファーターの歌」からもメロディを拝借しているらしい。早速2曲目、3曲目を聞いてみると、確かに「そうそうあのメロディ」という箇所がある。つまり、このCDでは、大学祝典序曲の引用元になった3曲を冒頭から並べているというわけだ。実に面白い。ちなみにブラームスは、オリジナルのメロディを作るのが苦手で、弟子のドヴォルザークの曲からオリジナルのメロディがとめどなくあふれ出るのをうらやんでいたという(<昔、どこかで聞いた話)。ブラームスは編曲の名人なのである。
 このCDには、その他にも、聴いたことのある曲がいくつか並んでいて、これがオリジナルかとあらためて認識させられた。どの曲もメロディが単純で、聴きやすい。なかなかおもしろいCDであった。

備考:「15.お前はぼくの胸の中にいる」は、昔ピアノの練習をしていたときに教材として使っていたメロディで、その当時はタイトルすら知らなかった。「16.思慮ある愛情」は、小学校の音楽の時間に習った「口笛吹いて ホライホラオ」(「口笛吹いて」または「この山光る」)の原曲。「21.菩提樹」は、シューベルトの『冬の旅』に入っている、あの菩提樹。大学生の愛唱歌になっていたのだろうか。「22.ウェルナーの野ばら」は、「わらべは見たり 野中のばら」のシューベルトじゃない方。「29.ムシデン(別れ)」は、Joe Dowellの「Wooden Heart」の原曲。
★★★☆

参考:
竹林軒『大学受験ラジオ講座回顧』

# by chikurinken | 2009-06-25 11:07 | 音楽

『シリコンバレーから将棋を観る 羽生善治と現代』(本)

シリコンバレーから将棋を観る 羽生善治と現代
梅田望夫著
中央公論新社

『シリコンバレーから将棋を観る 羽生善治と現代』(本)_b0189364_933097.jpg 昨日、将棋の羽生善治名人が名人位を防衛した。ちょうどこの本を読み終わったということで、タイミングとしては非常によかった。
 「指さない将棋ファン」を自認する著者の、現代将棋論および羽生善治論。
 内容は、羽生善治、佐藤康光、深浦康市、渡辺明らの棋士論、筆者がかつて執筆したというWeb観戦記(棋聖戦、竜王戦)、羽生名人との対談で構成される。Web観戦記は少し退屈で、不要ではないかとも思えるが、他の箇所で何度も言及されているので致し方ないところか。
 羽生名人をはじめとする現代棋士の将棋に対する真摯さはよく伝わってきた。正直これほどまでとは思わなかった。羽生名人によれば、将棋は「対局者の2人が作」り上げる芸術作品のようなもので、勝ち負けは二の次だということだ。これほど勝ちを積み上げている人なんで、てっきり勝負に厳しい人かと思っていた。「勝ち負けを決めるだけなら、将棋じゃなくてじゃんけんをすればいいい」ということらしい。勝負にではなく将棋に厳しい人のようだ。
 「指さない将棋ファン」の提唱にははげしく同意。わが意を得たりである。また、羽生世代の棋士がいち早く知の共有、オープン化に踏み出していたなど、興味深い指摘もあって、なかなか興味深い。
 著者は、シリコンバレーで事業を興している人だそうで、そのせいか、何かというとビジネスと関連付けて分析しているのがどうにも煩わしい。そういう面での価値観がこちらとまったく違うので、何を言うとんねんという感じが常につきまとってきた。そういう要素を排除して、純粋に将棋本にした方が良かったんじゃないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『将棋の解説者』
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』
竹林軒出張所『聖の青春(本)』
竹林軒出張所『聖 ― 天才・羽生が恐れた男 (1)〜(7)(本)』
竹林軒出張所『山手線内回りのゲリラ(本)』
竹林軒出張所『棋士・先崎学の青春ギャンブル回想録(本)』
竹林軒出張所『運命の一手 渡辺竜王 VS 人工知能・ボナンザ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『棋士VS将棋ソフト 激闘5番勝負(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2009-06-25 09:31 |

将棋の解説者

将棋の解説者_b0189364_1457292.jpg ある日曜日の午前、ヒマをもてあましてテレビのチャンネルを変えていると、NHK教育テレビである女性が
「日曜日のひととき将棋トーナメントでお楽しみください」と言っていた。そのとき、日曜日の朝から誰が将棋なんか見るんだよと思ったものだが、それから十数年経った今、僕がこの将棋トーナメントをテレビで見る立場になった。
 『シリコンバレーから将棋を観る』(梅田望夫著、中央公論新社刊)という本で、「指さない将棋ファン」(対局を観て楽しむ将棋ファンのこと)が提唱されており、これがさまざまな層で賛同を集めたという。一般的に将棋ファンといえば、人と対局することを楽しむ人々を指すが、プロの対局を観戦して楽しむファンもいて良いじゃないかという発想で、同じような考えを持つ人も多かったようだ。
 かく言う僕もその一人で、アマチュア有段者でありながら実戦は非常に弱い。ただテレビの将棋対局は非常によく観ており、先述のNHKトーナメント以外にも銀河戦も見ているので、大体週に3局は見ていることになる。
 将棋に興味がない人にはまったく魅力はわからないだろうが、見ていれば結構面白さもわかる。ただ、僕も見始めて3年近くになるが、いまだに戦術や戦略についていけないことが多い。スポーツ中継の場合、これくらいの頻度で見ていれば、おおむね理解できるものだが、やはり将棋は奥深いということなのだろう。プロ棋士の思考なんて遙か彼方の世界である。そこで、対局中継にプロの解説者が必要になるわけである。
 対局の内容が良くても、解説者があまりうまくないと、見る方としては面白くない。対局がすばらしくて、解説が適切かつ面白いというのがベストである。というわけで、将棋中継において解説者が占める役割は非常に大きい。
将棋の解説者_b0189364_156336.jpg こういう次第で、このたび、僕が考える将棋解説者ベスト5というのを発表しようということになった。こんなランキングが何になると聞かれても困るのだが、将棋中継を見る際の参考くらいにはなるんじゃないかな。なにしろ日本人は江戸の昔からランキングが好きだから。

1. 木村一基八段
2. 中川大輔七段
3. 福崎文吾九段
4. 井上慶太八段
5. 豊川孝弘七段

 独断ではあるが、木村八段や福崎九段はオモシロ解説にすでに定評があるところで、多くの将棋ファンに同意いただけると思う。また、中川七段は、僕が将棋中継を毎週見るきっかけになった解説者であり、切れ味鋭い語り口が魅力的である。このランキングはいわば暫定順位で、今後随時変動することになる。ま、誰も期待してないだろうが。

参考:
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』
竹林軒出張所『聖の青春(本)』
竹林軒出張所『聖 ― 天才・羽生が恐れた男 (1)〜(7)(本)』
竹林軒出張所『シリコンバレーから将棋を観る 羽生善治と現代(本)』
竹林軒出張所『運命の一手 渡辺竜王 VS 人工知能・ボナンザ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『棋士VS将棋ソフト 激闘5番勝負(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』


# by chikurinken | 2009-06-24 15:15 | 日常雑記