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竹林軒出張所

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『うつうつひでお日記 その後』(本)

うつうつひでお日記 その後
吾妻ひでお著
角川書店

ほぼ普通の日記になってしまった

b0189364_13461832.jpg 『うつうつひでお日記』に続く吾妻ひでおのマンガ日記で、本書には2006年12月から2008年3月までが収録されている。
 ただし2006年12月から2007年7月まではほとんど絵はなく、まさしく日記。内容は前著と同様、街中をぶらついたとかどの本を読んだとか、どのテレビを見たとかで、著者に関心がなければまったくもって面白くない。また前著の場合は、ちょうど『失踪日記』の発表の時期だったため、その背景がわかるという点で面白かったが、今回はそれほどの事件もなく、強いて言うなら 『地を這う魚』がこの期間に進行しているという点が挙げられるが、書いている本人にとってはそれほど大きな出来事でもなさそうである。
 他人の日記というのは、そもそもドナルド・キーンも言っていたが、基本的には思い入れがない限り面白味のないものである。今作などはまさにそうで、特に絵がない前半部は読み続けるのがかなり辛かった。
 後半では、絵がそれなりに出てきて、エンタテイメントの要素がある程度現れてくるため、読むのは前半ほど苦痛ではなかったが、やはりマンガ家の日記だけに、絵がなければ大して面白くないということがあらためてわかる。前著では笑える箇所がそこそこあったが、あれも著者のサービス精神の賜物だということがかえってわかるのだった。ただし今回の日記では、出てくる絵は、著者の趣味を反映した美少女の絵が非常に多く(「その時描きたくなった女の子の絵を描いているだけ」だそうだ)、そういう方向の趣味がなければあまり面白味はないかも知れない(それなりに笑えるような要素もあるにはある。なお僕にはそういう方向の趣味はありません)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『うつうつひでお日記(本)』
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『夜の帳の中で(本)』
竹林軒出張所『逃亡日記(本)』
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』

# by chikurinken | 2018-09-05 07:45 |

『うつうつひでお日記』(本)

うつうつひでお日記
吾妻ひでお著
角川書店

平成日記文学の金字塔……かも

b0189364_7333033.jpg 今回読むのは2回目だが、以前と少し見方が違った。ドナルド・キーンの『百代の過客』を読んだせいか、日記文学に対する見え方が変わったようだ。前に読んだときは『失踪日記』の後で、同じようなものを期待していたフシがあり、そのために多少の落胆があったようだが、今回は少々異なる。むしろ『失踪日記』に匹敵する作品ではないかと感じた。
 この日記は2004年7月7日から2005年2月16日までのほぼ毎日の記録である。著者は、1989年に仕事をほっぽり出して失踪し、その後再びの失踪、アルコール依存、自殺未遂、精神病院への入院を経て、1999年に退院し、通常の生活に戻っている。とは言っても、仕事も少なく、以前のようなフリーのマンガ家としては生計が立ちゆかなくなっている。この2004年の時期はまさしくそんな折である。そこで、自身の身辺をマンガを使って日記として残したら面白いんじゃないか、売れるかも知れないという目論見で始めたのがこの日記で、それが2004年7月7日である。この時期、大手出版社の仕事はごくわずかで(ぶんか社『便利屋みみちゃん』、2ちゃんねるぷらす『虚空のモナー』など)、発注量は少なく、そのために収入は少なく(月に4〜5万程度と著者自身が語っている)、毎日時間はたっぷりあるようである。そもそも精神状態も必ずしも良い状態ではないし(薬も大量に服用している)、仕事も何だかリハビリの一環でやっているような印象すら抱かせる。
 ただ一方で、この期間、自らの失踪経験をマンガ化しているのは作家として立派と言える。その作品も、7月27日に無事完成し、「午後「アル棟(アル中病棟:引用者注)」のスクリーントーン終り これでようやく「夜を歩く」「街を歩く」「アル中病棟」の3部作が上った(全204P)」という記述が出てくる。ただし「ただちょっとした問題が残って」いて「出版してくれる会社がない」という状態。その後、コアマガジンという会社にこの作品を持っていき、こちらは体よく断られるが、その後に持ち込んだイースト・プレス(10月7日)で、一部書き直し後出版されるという運びになる(10月15日、11月2日)。日記の終わりの方でついに出版にこぎつけ、あちこちで評判を呼び始める(インタビューの依頼が殺到)というあたりで、この日記が終わる。このあたりがこの日記の一番の目玉で、著者が『失踪日記』で再びマンガ界に台頭してくる過程が描かれるわけである。一種のサクセス・ストーリーという見方もできる。
 ただし著者の生活自体は、『失踪日記』が売れた後も、この日記の頃と変わらなかったらしい。朝食にコーヒーとパン、昼食に麺類や具をごちゃまぜしたご飯を食べ、仕事は数ページ程度やって(とは言ってもほぼ毎日やっている)、後は読書、図書館、本屋、散歩というような日常である。この日記ではこれをご丁寧に毎日綴っている。それがために記述は少々退屈ではあるが、ところどころ(プロ根性で)ギャグを交えたりしているため、笑えるような箇所もあちこちにある。本書の表紙に8月29日の記述が引用されていて、これがこの日記の特徴をよく表している。「今日は休み。喰って、読書して、寝て、タバコ吸って、食って、ウンコして、寝て、食って、寝た。西澤保彦「パズラー」読了○。」(句読点は引用者が入れた)という具合。
 この日記の序盤(9月3日まで)は、自費出版しコミケで売るために描いたもので、その後は『Comic新現実』と『コンプエース』という雑誌で連載されたものらしい。後半部分が商業雑誌で発表されたということは、それなりの面白さが編集担当にも認識されたということなんだろう。そして、こういったものを時系列でまとめたのが本書ということになる。この後も著者の数年分の日記マンガが出版されているため、このパターンの日記はかなり長く続けられたようだ(ブログで続けていたらしい)。日記については、『失踪日記』の大当たりで周囲の目が変わったあたりがもっとも興味を引かれる部分である(ただし著者によると、先ほども書いたように生活自体はほとんど変わっていないらしい)。
 この日記が今も続いているかどうかはわからないが、何でも昨年著者は胃がんの手術を受けたらしく、もし日記が続いていたら、日本の日記文学の歴史においても相当面白い存在になるんではないかと思う。著者の体験が体験なだけに、ある意味で(『失踪日記』とあわせて)平成日記文学の金字塔と言っても良いような作品である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『夜の帳の中で(本)』
竹林軒出張所『逃亡日記(本)』
竹林軒出張所『うつうつひでお日記 その後(本)』
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』

 以下、以前のブログで紹介した『うつうつひでお日記』の評の再録。
--------------------------

(2006年8月10日の記事より)
うつうつひでお日記
吾妻ひでお著
角川書店

 傑作『失踪日記』を執筆していた時期に、並行してつけていたマンガ日記をまとめたもの。『失踪日記』ほどの強烈なインパクトはなく、ブログみたいな「何を食べて何を見た」というレベルの日記ではあるが、著者の経験が経験だけに、楽しく読める(と思う)。
 ろくに仕事もせず(できず)図書館に通いづめで(傍目には)のんびりした生活を送っているなど、どこか僕自身にも似ており(格闘技(K1やPRIDE)をテレビでよく見ている点も共通……曙評など共感)、身につまされる。将来に対する不安などもよくわかるし……。
 この後、著者は『失踪日記』でブレイクするわけで、その辺の事情は、世の中に出ていく新進作家の境地と捉えることもでき、ある意味、サクセス・ストーリーみたいな感じで読むこともできる。俺もがんばらにゃあと思わせる。内容は暗いが元気が出る(かもしれない)。
★★★☆

# by chikurinken | 2018-09-04 07:24 |

『彼のいない八月が』(ドキュメンタリー)

彼のいない八月が
(1994年・テレビマンユニオン)
フジテレビ NONFIX

ある脳天気な男の生と死

b0189364_16582810.jpg 映画監督、是枝裕和がテレビマンユニオン勤務時代に作ったドキュメンタリー。
 エイズであることをカミングアウトした平田豊という人の生活に密着する作品。この当時、エイズであることをカミングアウトした人はいたが、同性愛による性交渉でエイズに感染したことを発表したのは、この人が最初らしい。そういういきさつで、製作者はこの人に関心を持ったという。また、実際に接してみると、非常にちゃらんぽらんで、なおかつ刹那主義的、快楽主義的であり、人好き、話好きな人だということがわかり、それで取材を継続するようになったということらしい。
 この平田という人がカミングアウトしたのが92年で、その後94年に死去するが、ドキュメンタリーでは、この間の2年間に渡り彼に密着する。ただこのドキュメンタリーの構成が、94年8月(死去後)の時点から、彼の在りし日を回想するというような形式になっていて、どこかドラマ風である。その後の是枝氏の活動を示唆するかのようである。こういった類の死去ドキュメンタリーは、現在では割合見られるが、おそらくその最初期の作品と言っても良いのではないかと思われる。この平田氏の場合、どこか飄々として人生を楽しんでいるため、死について思いを馳せるという類の重みはないが、それでも免疫不全のために視力が失われたり、身体が衰えて動きづらくなったりという症状が出てくるため、それなりに考えさせられる素材にはなっている。ただこの闘病中も、旅行したり、宝くじを買ったりパチンコを楽しんだりという生活を送っており、個人的にはあまり親近感を持てないタイプの人である。従って、このドキュメンタリーを見て感情移入するというようなことはあまりなく、淡々と他人の死を見送ったという感じであった(こういう類の人って周りに結構いるよなぁと思う)。人の生死はもちろん重いが、だからと言ってすべての人の生死が自分にとって重大かというと必ずしもそうでないということなんだろうか。なおナレーションは内藤剛志が担当している。
★★★

参考:
竹林軒出張所『五島のトラさん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『最期のコンサート あるチェロ奏者の死(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『在宅死 死に際の医療(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『しかし… 福祉切り捨ての時代に(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もう一つの教育 伊那小学校春組の記録(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-09-02 07:57 | ドキュメンタリー

『もう一つの教育 伊那小学校春組の記録』(ドキュメンタリー)

もう一つの教育 〜伊那小学校春組の記録〜
(1991年・テレビマンユニオン)
フジテレビ NONFIX

是枝裕和の
もう一つのドキュメンタリー代表作


b0189364_15443473.jpg 映画監督、是枝裕和がテレビマンユニオン勤務時代に作ったドキュメンタリー。
 当時、文部省が新しい授業形態として、「総合学習」という、垣根を取り払った授業を導入しようとしていたが、それを実際に取り入れた学校(おそらくそのモデル校になったんではないかと思われる)を数年に渡って取材してまとめたのがこの作品である。フジテレビの深夜ドキュメンタリー枠、NONFIXで放送されたらしい。なんでも是枝氏がほとんど手弁当で、ホームビデオを使って撮影したという話である。ナレーションは一切なく、現場の映像とテロップだけで進行する。
 取材対象になっているのは長野県伊那小学校の3年春組(昭和63年当時)で、取材は昭和63年10月から平成3年3月まで行われている。この学級では、地域の酪農家から数年間、牛や馬を借り受け、それを育てるという試みを行っている。これが総合学習のテーマであり、動物を育てるという活動から、算数など他の授業にも結びつけるなど拡張性の高いアプローチをしている。酪農業に密接に繋がった授業が行われるということで、シュタイナー学校をイメージするが、印象はあれに近い。ヤマギシに近いという考え方もできる(竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』参照)。今風にいうならばアクティブ・ラーニングということになるのだろうか。いずれにしても、当時公立小学校でこれを積極的に行ったというのは、確かにかなり斬新である。
 実際生徒たちは、動物の世話を通じて、野外活動はもちろん、植物の分類(理科)、小屋の建設(図工)、意志決定(学活)、生殖の仕組みの調査(保健)なども行っていて非常に多角的であることがわかる。また、動物たちの身近な死に向き合うなどということも現実に出てくるわけで、小学校教育で是非取り入れてほしい「生命の学習」まで(結果的に)経験することになっている。
 これを見ていると、学校教育もこの学校のようにもっと自由で良いんじゃないかと思うが、もちろんこれは環境が整っているからできるわけで、すべての学校でこれをやるというわけにも行くまい。何より教員の数や資質の問題もある。それに現在では子供達の問題行動も以前より多いと言うし、なかなか一筋縄ではいくまい。ただある程度の自由さは、学校レベルで担保すべきではないかと感じる。現行のように役所が過剰に口出しせず、現場が責任を持って取り組める形式にすれば良い。役所が出てくるのは、問題が起こったときだけで結構。問題の責任を取るのが役所の仕事である。
 このドキュメンタリーに登場した子ども達がその後どうなったか、今何をしているか、このときの学習活動についてどう感じていたのか、自分の中に何を残したのかなどについても是非聞いてみたいところである。こういうところを追跡することで「総合学習」の成果や意義について総括できるんだから本来は役所がやるべき作業なんだろうが、役所の特性を考えたら期待はできないだろう。是枝監督などの関係者に『その後の”もう一つの教育”』も是非作っていただきたいものだと思う。
第9回ATP賞優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『しかし… 福祉切り捨ての時代に(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『彼のいない八月が(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-09-01 07:44 | ドキュメンタリー

『しかし… 福祉切り捨ての時代に』(ドキュメンタリー)

しかし… 福祉切り捨ての時代に
(1991年・テレビマンユニオン)
フジテレビ NONFIX

是枝裕和のドキュメンタリー第1作

b0189364_19032518.jpg 映画監督、是枝裕和がテレビマンユニオン勤務時代に作ったドキュメンタリー第1作。
 1980年代の中曽根政権時代、それまで継続されてきた福祉政策が大きく転換した。福祉に対するハードルが高くなり、親族援助の推進、自助努力などが謳われて、いわゆる「福祉切り捨て」が行われるようになった。要するに、福祉関連経費を削減しようという政権側の目論見である。だが、このような政策は、本当に福祉対策が必要な人に支援が届かないという状況を生み出す。2000年代以降も、何かに付け同じような福祉切り捨て政策が行われてきているため、我々の記憶にも新しいところである。その元祖が中曽根政権時代のこの政策である。
 この時代、まさにこの福祉切り捨てにあって将来を絶望した下町の女性(原島信子という人)が自ら命を絶った。そしてその数年後、それまで福祉行政に積極的に関わっていた環境庁の官僚、山内豊徳も自宅で自殺した。この山内氏、元々厚生省に入省し、福祉畑で積極的に福祉政策に関わってきた人で、福祉政策に対しても積極福祉の立場から持論を展開していたという人。奇しくも福祉を推進する側の山内と、福祉を受ける側の原島、しかもその両者は生い立ちに共通点があるんだが、その両者が同じ頃に自殺したのだった。この2人の生き様に焦点を当てながら「福祉切り捨て」政策の問題性をあぶり出すというのが、このドキュメンタリーである。
 ナレーターは森本レオで、かなり早口で話す。つまりは情報量が多く、多少落ち着きのなさを感じる作品になってしまっている。是枝裕和が最初に発表したドキュメンタリーということで気負いがあったのか知らないが、もう少しゆったりした進行にしないと、見る側は情報過多でなかなか辛いものがある。とは言え、内容は濃密で、アプローチの仕方も通常のドキュメンタリーと違ってややドラマ風なのも、是枝氏の作家性ゆえかも知れない。
 なお、福祉政策については、先ほども触れたが、その後好転しているとは言えない。相変わらず役人の無茶ぶりみたいな政策ばかりで、こういう案件を立案した役人は、その資質がそもそも福祉行政に適していないんじゃないかと感じる。今では山内氏みたいな、高邁な理想を持ち意欲に溢れた役人は、存在し得ないんだろう。そもそもこういう表現(「高邁な理想を持ち意欲に溢れた役人」)自体が、現代では形容矛盾に思える。それを考えると、福祉切り捨て政策の影響で自ら命を絶たざるを得なかった山内氏の存在自体が、あの時代を象徴していたと言えるのか。
ギャラクシー賞優秀作品賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『もう一つの教育 伊那小学校春組の記録(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『彼のいない八月が(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『エンディングノート(映画)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』
竹林軒出張所『海街diary(映画)』

# by chikurinken | 2018-08-31 07:01 | ドキュメンタリー

『海街diary』(映画)

海街diary(2015年・「海街diary」製作委員会)
監督:是枝裕和
原作:吉田秋生
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
音楽:菅野よう子
出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、前田旺志郎、樹木希林、リリー・フランキー、風吹ジュン、大竹しのぶ

鎌倉の夏、日本の夏

b0189364_22552751.jpg 吉田秋生原作のマンガを映画化した作品。
 原作は、鎌倉の4姉妹のホームドラマ的な話で、ややとりとめのない感じでゆったりと進行していく(竹林軒出張所『海街diary 1 蝉時雨のやむ頃(本)』を参照)。
 映画化するに当たって、このオリジナルのストーリーをどのように2時間にまとめるかはかなり難しいところで、この原作自体、かなり映画になりにくい素材であると言える。いっそのこと、原作のキャラだけを使って新しい話にしてしまうという手もあるかも知れないが、この映画に限っては、そういう手段は使わず、かなり原作の味を活かしていると言える。ただ先ほども言ったように、原作自体とりとめがないので、下手をするとテーマが見えずにストーリーがダラダラと流れてしまう作品にもなりかねないが、ストーリーやキャラクターは原作を重視しながらも、2時間のドラマとして成立させているあたりはなかなか見事である。
 テーマは、4姉妹の家族的な繋がり、それから生や死を含む人間的な繋がりというあたりだと思うが、同時に鎌倉の四季、特に夏が非常に情緒的に描かれていて味わい深い。このあたりは、4姉妹が住む家が日本家屋風のやや古い家で、梅酒をつけたり、墓参りをしたり、あるいは浴衣を着て花火をやったりというような(やや古いスタイルで)年中行事を重視した生活を送っているせいもある。『歩いても 歩いても』『ゴーイング マイ ホーム』などの是枝作品にも、似たような日本的情緒(と言っても日本人にとっては割合普通の日常であるが)が表現されていたため、このあたりは是枝作品の特徴なのかも知れない。そういう点でも、オリジナルの『海街diary』は、是枝裕和によく合った素材だったのかも知れない。
 4姉妹の配役については、原作を読んだ読者からはいろいろと異論がありそうだが(これは原作ものには必ずついてまわる宿命である)、概ね原作に即したキャラクターになっていると思う。長女(綾瀬はるか)のイメージが若干原作と違うような気もするが、十分許容範囲内である。中でも四女のすずのイメージが広瀬すずにぴったりで、原作の再現という点でも、この映画のレベルは高い。
 また、映画の『細雪』を彷彿させるような、4姉妹が並んだショットもあり、『細雪』や『阿修羅のごとく』を意識している可能性が多分にあるとも感じた。難を言えば、4姉妹と両親、それから親族との家族関係が、(話がかなり進んでから)セリフで語られるだけであるため、わかりにくかった点があるが、こちらも許容範囲と言える。ちなみにこのあたりの関係性については、原作では最初の数ページ目で説明がある。
 とは言うものの、原作からエッセンスをうまい具合に抽出して映画化できているという評価には変わりない。原作マンガの世界観をこれだけしっかり映像化できていることについては、さすがの是枝!と拍手を送りたくなるところである。
第39回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『海街diary 1 蝉時雨のやむ頃(本)』
竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (2)〜(10)(ドラマ)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-08-29 06:55 | 映画

『あん』(映画)

あん(2015年・映画「あん」製作委員会)
監督:河瀬直美
原作:ドリアン助川
脚本:河瀬直美
出演:樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、浅田美代子

問題意識は盛り込まれているが
かなり地味な映画だ


b0189364_14532028.jpg 主人公は、小さなどら焼きの店を営んでいる中年男(永瀬正敏)。この店主が出したバイト募集の張り紙に応じてやってきたのは、なんと70台の老婆(樹木希林)だった、というところから話が始まる。当初は断っていた主人だったが、この老婆が美味しいあんこを作れることから採用になり、店も繁盛してくる。ところがこの老婆、実はつらい過去を抱えていた……というようなストーリー。
 なおこの店の主人もつらい過去を抱えており、しかも店の常連の女子中学生も家でいろいろとあって、要するにいろいろ抱えた人たちが集まって、いろいろなことを織りなすという映画である。少しだけ意外性はあったが、それでもあまり逸脱することもなく、割合想定内で話は進んでいく。演出も正攻法で、面白味はあるが地味なドラマである。
 原作は、ミュージシャンのドリアン助川。ドリアン助川、最近あまり見ないが、こういう小説を書いたりしていたのかなどと思った。キャスティングとしては、樹木希林と浅田美代子が揃って出ていたのが『寺内貫太郎一家』を思い出させるが、両者が一緒に登場して絡むようなシーンはこの映画では一切なかった。
 ストーリー自体は『のんちゃんのり弁』風で(ちょっと違うかも知れない)、そこに人間の生きづらさのテイストを付け加えたという感じの映画と言ってよいか。いずれにしてもかなり地味で、ややありがちな展開の作品ではある。
第60回バリャドリード国際映画祭最優秀監督賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『のんちゃんのり弁(映画)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-08-27 07:53 | 映画

『美女と液体人間』(映画)

美女と液体人間(1958年・東宝)
監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
原作:海上日出男
脚本:木村武
出演:佐原健二、白川由美、平田昭彦、土屋嘉男、千田是也、田島義文、夏木陽介、佐藤允、小沢栄太郎

それなりにまとまってはいるが
面白味は感じない


b0189364_18221042.jpg 東宝特撮の常連が名を連ねた、東宝SF特撮映画。主演の佐原健二、白川由美、平田昭彦は、前年の『地球防衛軍』に続いての登場。監督、特技監督は言うまでもなく本多猪四郎と円谷英二である。
 ストーリーは、核実験で放射能を浴びたマグロ漁船、第二龍神丸の乗員が、強い放射線の影響で液体人間になってしまい、その後東京に舞い戻ってきて、(主として悪い)人間を襲うというもの。「第二龍神丸」は当然、第五福竜丸を意識した設定だろう。ストーリー自体に大きな破綻はないが、今の時代、大の大人が見ても、あまり面白味は感じない。ただ、おどろおどろしさは全編漂い、不気味と言えば不気味であるため、子ども時代に見ていたらまた違った感想が湧いていたかも知れない。『吸血鬼ゴケミドロ』なんかも同じようなテイストの話だが、僕自身中学生時代にあれを見て、非常に恐怖を感じた記憶がある。
 演出についても、他の本多猪四郎映画と異なり、あまり破綻はなくしっかりまとまっているという印象である。ただ先ほども言ったように、決して面白いとは感じなかったのだった(かなり退屈していた)。
 主演の白川由美は、二谷英明の妻にして二谷友里恵の母であるあの「白川由美」で、僕自身は若い頃の映像は見たことがなかったため、結構新鮮であった。タイトルについている「美女」という呼び名にも決して違うことのない端正な美しさで、この映画の見所の1つになっている。
★★★

参考:
竹林軒出張所『吸血鬼ゴケミドロ(映画)』
竹林軒出張所『マタンゴ(映画)』
竹林軒出張所『ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『モスラ対ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦 ! 南海の大怪獣(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタイン対地底怪獣(映画)』
竹林軒出張所『イノさんのトランク(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-08-25 07:21 | 映画

『夢千代日記』(1)〜(5)(ドラマ)

夢千代日記 (1)〜(5)(1981年・NHK)
脚本:早坂暁
演出:深町幸男、松本美彦
音楽:武満徹
出演:吉永小百合、樹木希林、秋吉久美子、林隆三、楠トシエ、大信田礼子、緑魔子、長門勇、ケーシー高峰、岡田裕介、中条静夫、伊佐山ひろ子、中村久美、あがた森魚、夏川静枝、加藤治子

贅沢至極! 申し分ない!

b0189364_18464577.jpg 言わずと知れた早坂暁の代表作。1981年にNHKの『ドラマ人間模様』の枠で放送された。
 山陰地方(ドラマでは「裏日本」と呼ばれている)の湯里という小さな温泉町が舞台。その町で芸者の置屋を営む若い女将(兼芸者)が主人公の夢千代(吉永小百合)である。夢千代は、母が妊娠中に広島で被曝した、つまり胎内被爆者であり、そのために白血病の症状で苦しんでいる。その毎日の症状を主治医に報告するために日々の日記をつけていて、その日記の内容が、このドラマのナレーションとして使われるという、なかなか凝った設定になっている。タイトルもそれにちなんだものである。
 この夢千代の周囲で起こるあれこれの事件がモチーフとして現れ、同時に、白血病を始めとする、夢千代が抱えるいろいろな問題があぶり出されていくという縦糸と横糸の関係が実に見事で、脚本の見本みたいな素晴らしい作品に仕上がっている。夢千代によって語られる「(夢千代の)置屋が問題のある芸者ばかり抱えている」というのもなかなか可笑しいセリフである。(いわくのある登場人物が多いことに対する)作家の言い訳みたいにも聞こえる。
 キャストは非常に豪華で、だからといってビッグネームが揃っているというわけではないんだが、非常にうまい役者、変わったキャストが揃っている。吉永小百合は当時36歳で、非常に美しい。奇跡的と形容しても良いぐらいの美しさで、このドラマが吉永小百合の代表作であることはもう間違いない。b0189364_18464126.jpg長門勇や中条静夫、ケーシー高峰、林隆三など周囲を固めるキャストはきわめて個性的で、実在する人物であるかのようなリアルな存在を見事に演じている。樹木希林、伊佐山ひろ子、加藤治子らの力のある女優たちもいかんなく実力を発揮している。珍しいところでは、歌手のあがた森魚、楠トシエあたりで、2人ともドラマの中で歌唱がある。あがた森魚は「赤色エレジー」まで歌っており、第5話の「最后のダンス・ステップ」も良い味が出ていた(「最后のダンス・ステップ」は緑魔子と共演!)。夢千代の元恋人役の岡田裕介は、この後東映のプロデューサー業に転じ、映画版の『夢千代日記』では製作者として参加している。
 シナリオについては今さら言うまでもない。早坂暁の代表作であるのは間違いないが、しかしそれにしても、まったく飽きさせない舞台転換、セリフ回しなど、昨今のドラマとはまったく次元が異なるとすら思う。しかも武満徹が音楽を担当しているというのも贅沢至極である。当時の日本のドラマの最高水準とも言える作品ではないかと思う。
第14回テレビ大賞優秀番組賞、第8回放送文化基金賞奨励賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『花へんろ 風の昭和日記 総集編(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『修羅の旅して(ドラマ)』
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『映画女優(映画)』

# by chikurinken | 2018-08-23 07:45 | ドラマ

『花へんろ 特別編 春子の人形』(ドラマ)

花へんろ 特別編 春子の人形(2018年・NHK)
原作:早坂暁
演出:平山武之
脚本:冨川元文
出演:坂東龍汰、芦田愛菜、田中裕子、尾美としのり、中西美帆

花へんろを安っぽく仕上げました

b0189364_17362897.jpg 早坂暁の代表作『花へんろ』を現代風に作り直したスピンオフみたいなドラマ。
 ストーリーは、『花へんろ』からごく一部分を取り出して恋愛ものに仕立て上げましたというようなものであるが、オリジナルの『花へんろ』と多少人物の設定が違っている。広島で死ぬ春子は、オリジナル版では姉だったがこのドラマでは妹である。このドラマでは、主人公(早坂暁自身の投影:坂東龍汰)と春子(芦田愛菜)との間で恋愛感情が芽生えるというような面はゆい話に変わっている(なお、主人公と春子には血のつながりがない)。無理やり恋愛ものに持っていったような風もあり、そのためもあってドラマとしてはきわめて陳腐な話になってしまった。
 それに加々美幸子のナレーションも、ドラマの中での語り手の位置付けが不明で、そのために非常に説明的でベタな語りになってしまっている。下手なドキュメンタリーのナレーションみたいになってしまい、地に足が付いていない感じさえして、ドラマの語りとしてはまったく冴えない。こういった過剰に説明的なナレーションなら、むしろない方が良いと思う。
 また、オリジナル版とかなり似たシーン(主人公と母との別れのシーン)も再現されていたが、オリジナル版のシーンがものすごく感動的に仕上がっていたのに、このドラマでは、まったく面白味がなく味のないシーンになっていた。書き手が違うとこうも違うのかと逆に感心した。この「リメイク版」はあらゆる部分が安っぽく、もちろんあの時代と今の時代のドラマの水準の違いみたいなものも勘案すべきなんだろうが、それにしても……である。オリジナル版『花へんろ』に対する冒涜のようにすら思える。
 このドラマの唯一の見所は芦田愛菜で、彼女は大変魅力的だったが、彼女を活かしたいんだったら(リメイクでなくて)普通の青春ドラマで良いんじゃないのと思う。それから、映画の『ダウンタウンヒーローズ』みたいなシーンもあって(あの映画は早坂暁の自伝的小説が原作)、製作者側は多分に意識したんだろうが、そのあたりも特に感じるところはなかった。『ダウンタウンヒーローズ』の主要なキャストである尾美としのりが、このドラマで父親役として出ていたのもその辺が関係したのかどうだかわからないが、ドラマ自体がつまらないため、それについても何の感慨も湧かない。
★★★

追記:
 先ほど、早坂暁にちなんで作られた別のドキュメンタリーを見たところ、このドラマ『春子の人形』は、早坂暁の実際の経験を基にしたドラマで、早坂のたっての希望で作られたらしい。血のつながりのない妹が広島で原爆で死んだというのも事実らしく、ただオリジナル版の『花へんろ』を書いたときは、(早坂にとってその事実が重すぎて)これに触れることができなかったという。今の時代に次の世代に伝えるべきと感じてこのドラマを企画したというのが真相のようだ。ただしだからと言って、このドラマ自体が安っぽいという事実には変わりはない。

参考:
竹林軒出張所『花へんろ 風の昭和日記 総集編(ドラマ)』
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』

# by chikurinken | 2018-08-22 07:36 | ドラマ

『花へんろ 風の昭和日記 総集編』(ドラマ)

花へんろ 風の昭和日記 - 第一章、第二章、第三章総集編
(1985〜88年・NHK)
演出:深町幸男他
脚本:早坂暁
出演:桃井かおり、河原崎長一郎、加藤治子、藤村志保、沢村貞子、中条静夫、小林亜星、樹木希林、森本レオ、佐藤友美、小倉一郎、永島暎子、イッセー尾形、三田村邦彦(語り:渥美清)

十分の一の総集編

b0189364_19574791.jpg 先頃脚本家の早坂暁が亡くなったためか、代表作『花へんろ』の「特別編」というドラマが製作され、先日(18年8月)放送された(僕自身はまだ見ていない)。それに合わせて過去NHKで放送された『花へんろ』の第一章から第三章までがまとめて放送された。「まとめて放送」といっても、元々は各章45分×6回(第一章のみ7回)分のドラマであり、これをすべて放送するとなると放送する方も見る方も大変という判断だったのか、なんと各章を30分にまとめたダイジェスト版が放送されたのだった。つまり855分がなんと90分になっているわけで、ほぼ十分の一。まさにスーパー・ダイジェストである。
 僕自身は放送時『花へんろ』を見ていないため、DVDで見ようと思い図書館で借りたこともあるが、なんせ長いので結局見ずに返したことがたびたびあった。たださすがに十分の一のダイジェストを最初に見てしまうというのも少々気が引ける……。というわけで少し悩んだのだが、これは見て正解だった。非常によくできた面白いドラマであることがわかる。しかもダイジェストで展開がやたら早いので、まったく飽きることがない。もちろん、物足りない箇所、というか、見ていて辻褄が合わない(ように思える)箇所があるんだが、かなりの分量がカットされていることを考えるとこれも致し方ないところである。
 このドラマ、早坂暁の自伝的作品であるため、早坂暁にとっても畢竟の代表作と言っても良かろう。内容も非常に重厚で、全編反戦思想が貫かれている。また主演の桃井かおりにとっても畢竟の代表作と言える。特に若い頃の桃井かおりは、破天荒な性格の役柄が多くて、なかなか好きになれなかったが、こういう重厚な役柄もできるのかと今回あらためて感心した。それにキャストが超豪華なのも驚きである。また随所に俳句が入るのも味がある。ドラマ的な起伏もあり、非常によくできたシナリオで、この作品も80年代を代表する名作ドラマに数えられるのではないかと思う。
 今回総集編をすべて見終わって、これはやはり全編しっかり見るべき作品であったかなと感じる。とは言え、今回ダイジェストで見なかったら、一生見る気が起こらなかったかも知れないんで、総集編を見たこと自体はまったく後悔することはない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』
竹林軒出張所『夢千代日記 (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『修羅の旅して(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-08-20 07:57 | ドラマ

ちょっとひとこと

 かつてある知り合いから、このブログで紹介している本について、本当に全部読んでいるのかと訊ねられたことがある。確かに数日間に渡って何冊も立て続けに紹介するので、こういった疑問も当然だとは思うが、声(文字)を大にして言いたい。
全部読んでいます!
映画やドキュメンタリーも、ここで扱うものについては全部隅から隅まで見ている。ただし注をつけるならば、ここに紹介している記事は、概ね随時書き溜めたものであるため、ここに出てくるタイミングで読んだり見たりしているわけではない。このことはお断りしておかねばなるまい。
b0189364_18521724.jpg たとえばこの数日間で、ドナルド・キーン著の『明治天皇』を〈1〉〜〈3〉まで3日続けて紹介したが、実はそれぞれの冊を読み終わるのにそれなりに時間がかかっている(そもそも僕は本を読むのが速い方ではない)。〈1〉を読み終わったのが7月の初め頃で〈2〉は7月の終わり頃、〈3〉が8月上旬である。〈4〉は現在読んでいる最中で、おそらく8月末ぐらいには読み終わるんじゃないかと思う。このような具合で、このブログに挙げるに当たって、ある程度の原稿を書き溜め、その上で映画→ドキュメンタリー→本→ドラマの順番に2〜4本ずつ連続で、2日に1回程度のペースでアップするというのが目下のスケジュールである。ある程度関連性のあるものをまとめていることから(たとえばこの『明治天皇』の前はエッセイ3点、そしてドナルド・キーン繋がりで『明治天皇』に繋がっている。このあたり気付いていただけるともっと楽しめます)、中には先延ばしになってしまうものもある。書き溜めた量がある程度増えたら、掲載するペースもアップして数日間連続で……ということもある。僕自身このブログもなるべく継続したいと思っているため、間があまり空かないようにしたいと思ってはいる(間が空くとそれが普通になってしまってだんだんやらなくなってしまうのが常)が、あまりに溜まってしまっても、アップする頃にはこちらが内容を忘れてしまうなどということもあり得るわけで、個人的に新鮮さが失われてしまうということになる。そういうわけで、どういうペースでアップするかは、随時考えているわけだ。特に私生活で暇が続くと、DVDレコーダーに撮り溜めしている映画やドキュメンタリーをなるべく多く見て消費してしまおうと考えていて、それで見る映画やドキュメンタリーの数が多めになり、結果的に原稿が増えてしまう。そういうことがあると、その後しばらく毎日投稿が続くということにもなる。
 最近は、以前と比べてアップロードする間隔がやや空く(ほぼ1日おき)ようになったせいか、あるいはあまり一般受けしない素材が多くなったせいか、はたまた文章のレベルが落ちてしまったせいか知らんが、アクセス数が以前より大分減ってきており、それはそれで別に構わないんだが、そのこともあって必ずしも(読んでいる人を意識してサービス精神で)立て続けに連続で投稿することに必要性を感じていない。結局は自分が後で振り返るという目的が主になるのであるから、あくまで自分のペースを守りたいと思っている。ここを頻繁に訪れてくださっている皆さんには申し訳ないが、無理しても続かないのは目に見えているので、ご了承いただきたいところです。

# by chikurinken | 2018-08-18 07:51 |

『明治天皇〈三〉』(本)

明治天皇〈三〉
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
新潮文庫

「目からウロコ」が続出

b0189364_16580458.jpg 明治天皇の生涯に迫るノンフィクションで、文庫版全4巻構成の第3巻が本書。朝鮮情勢、条約改正交渉、憲法発布、衆議院銀選挙実施、日清戦争、閔妃暗殺、北清事変などが扱われる。日本にとっての富国強兵の時代である。これらの事績は、明治天皇が「大帝」と呼ばれるゆえんにもなっている。
 だが実際は、必ずしも学校で教わるように計画的かつ漸進的に進んだわけではないことがわかる。実際の政策は、結構行き当たりばったりで、憲法や民会にしても時期尚早とする声が政府関係者の間には大きく、そのせいでなかなか進まない(民会開催まで結局15年かかる)。実際始めたら始めたで、選挙には暴力や賄賂がつきまとい、民会(衆議院)側も政府と敵対して、何も決められずという状態が長く続く。まあ、それがリアルな歴史ということだろう。
 一番驚くのは日清戦争で、この戦争も司馬遼太郎の小説や学校の歴史では、大日本帝国が東洋の覇権を握るべく着々と準備してきたというような描かれ方だが、実際のところは、開戦2カ月前くらいまで、政府の誰もが清国との戦争を想定していなかったというのである。全然「着々と準備」という感じではない。本書からの印象では、大敗北しなくてラッキーぐらいの感覚に近かったようだ。また、日清戦争中の旅順での大日本帝国軍による虐殺事件もあまり教科書で触れられることはないが、世界に「野蛮な劣等国」の印象を与えるのではないかということで、政府関係者が汲々としたなどという事実が語られ、非常に新鮮である。司馬遼太郎の『坂の上の雲』によると、当時の大日本帝国の軍隊は(列強諸国から非難を受けないようにするため)国際法を厳密に遵守すべく、違法行為が見られない規律正しい軍隊だったという風に描かれていたと記憶しているが、実際のところ、当然だが、決してそんな軍隊ではなかったことがわかる(そんな軍隊があったらお目にかかりたいもんだ)。後の関東軍の風はこのときから芽生えていたということである。
 もう一つ新鮮だったのは大津事件(来日中のロシア皇太子ニコライ2世が大津で暴漢に襲われた事件)に際して、死刑を求める政府関係者に対して、法による支配を断固主張し一歩も譲らなかった大審院長、児島惟謙(これかた)の行動で、今より政府権力が強いあの時代に、この地位の判事が今では考えられない主張を展開したことにあらためて驚く。このあたりの政府関係者とのやりとりも真に迫っていて、非常に読み応えのある箇所である(第四十二章「ロシア皇太子襲撃」)。
 明治天皇自身は、この時代、政治にも積極的に関与するようになっており、政治に口を出すことも頻繁ではないがやっている。基本的には、政府のトップ(太政大臣や内閣総理大臣など)に政治を任せるというスタンスではあるが、岩倉具視や伊藤博文などは、天皇に詔勅を出すよう求めたりもしていて、明治天皇と国のトップとの関係性がなかなか面白味を感じさせる。何より驚くのは、近代体制ができた後、首相に就任した人々がことあるごとに天皇に辞意を示し、慰留される(結局辞めるんだが)ということがたびたびあることで、何か気に食わないことがあるとすぐに辞めようとする首脳にはあきれかえってしまう。明治天皇もこういった連中にはさぞかし頭を悩ませたのではないかと、この本を読みながら感じる。こういう連中をうまいこと使いこなしたんだから、やはり明治時代の帝国の発展は、管理者としての明治天皇の業績と言うことができるかも知れない。
第56回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『明治天皇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈二〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈四〉(本)』
竹林軒出張所『日本人の美意識(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『坂の上の雲 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

# by chikurinken | 2018-08-17 07:57 |

『明治天皇〈二〉』(本)

明治天皇〈二〉
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
新潮文庫

歴史を膚で感じる

b0189364_19322463.jpg 明治天皇の生涯に迫るノンフィクションで、文庫版全4巻構成の第2巻が本書。明治維新から明治14年の政変、自由民権運動あたりまでがその内容になる。
 新しい政体になって、政治機構が徐々にできあがり(紆余曲折はかなりあるが)、政府が少しずつ機能するようになる。やがて廃藩置県を断行し、中央集権体制に徐々に移行していく。
 外交的には対朝鮮政策(いわゆる征韓論争)で揉め、政府内が二分されるような議論になる。その上、政府要人の江藤新平、西郷隆盛、板垣退助らが下野するという異常事態になる(明治六年の政変)。しかもその後、彼らが地方で反乱を起こし(佐賀の乱から西南戦争まで)、国内は一部内戦状態になる。結局は、徴兵制で富国(はともかく)強兵を果たしつつある政府軍が、反乱軍を抑え込むことに成功し、政府直属の正規軍の力が証明されることになった。そのため、以後国内に大規模な反乱はなくなる。同時に士族の処分も(政府側からすると)無事に終わることになる。
 同時に台湾問題、琉球問題も現れ、このあたりは清国やヨーロッパ諸国と牽制しながら乗り切るが、領土問題については、このときの中途半端な処理が現在にも一部禍根を残す結果になった。
 また、各地で反政府運動が起こってくるのもこの時代。そういった時代に、新政府の新しい顔として、各地域を積極的に行幸してまわったのが明治天皇。民衆に対する顔見せ(実際に顔を見せたかどうかはともかく)、それから各地域の教育や産業の状況を視察するというのがその名目だったが、少なくとも当時の民衆からの受けは良かったようで、天皇の存在価値を民衆に植え付ける結果になった。
 その後、旧士族を中心に政治参加を求める動きが現れ、政府も立憲政体樹立の方向に舵を切る。そのあたりまでがこの第2巻の内容である。
 第1巻同様、割合ゆっくりと話が進むが、ゆっくりだからか、読んでいると、歴史のミクロ的な側面に触れられるような気がしてくる。特に現代から歴史を見る場合、どうしてもその後の体制から遡って物事を考えがちであるが、その時代にいれば先が見えないわけで、それを考えると、遡って考えるという帰納的な歴史認識が必ずしも正しくないということが実感できる。たとえば西南戦争などは、現代の視点から見れば「不平士族の反乱」で済むが、当時の感覚では内戦に近かったわけで、政府軍が物量で圧倒していたとは言え、鹿児島で持久戦になって、各地の不平士族がこれに連帯したりしたら、それこそ政府が明治転覆していてもおかしくなかったという状況だったらしい。そういう歴史の側面を感じられる点が、この本の大きな魅力である。その後、第3巻も買ったんで、おそらく最後まで読むんではないかと思う。記述は平易だが、分量が多いせいか読むのには結構時間がかかっている。
第56回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『明治天皇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈三〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈四〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

# by chikurinken | 2018-08-16 07:32 |

『明治天皇〈一〉』(本)

明治天皇〈一〉
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
新潮文庫

歴史の大きなうねりに身を任せる

b0189364_18282572.jpg 明治天皇の生涯に迫るノンフィクションで、文庫版全4巻構成の第1巻が本書。明治天皇誕生から明治維新前後までがその内容になる。
 『百代の過客』のドナルド・キーンらしく、さまざまな日記や文献を基にして明治天皇の生涯を追っていこうという試みで、本書の情報源の中心は『明治天皇紀』(宮内省が編纂した明治天皇言行録)である。天皇周辺の人々の日記などからも引用があり、広範囲のソースから当時の状況を明らかにしていこうというアプローチで、真摯な学術的な態度が好ましい。明治天皇の生涯といっても、当然のことながら、それを取り巻く政治、社会の状況が中心になり、天皇の目から見た日本近代史という内容である。このあたりは『西園寺公望 最後の元老』などの書と同じ方法論である。天皇に視点を置いたのは、明治天皇が、西園寺公望同様、政治の中枢に籍を置いている人物であることを考えると、歴史を探るという目的に叶った現実的なアプローチと言える。
 本書の前半は、明治天皇はその姿をあまり現さず、父帝の孝明天皇中心になる。孝明天皇の時代、つまり嘉永期から安政・万延・文久期、諸外国が通商や外交関係を求めて日本の近海に現れてくる。孝明天皇より前の時代には、天皇自身が政治に関わることはほとんどなかったが、外国人が現れ不平等条約調印に至る過程で、江戸幕府は朝廷や大名にも政治的な案件について諮問し、条約調印についても朝廷から許可を得るという方向に変わってくる。そのために朝廷の力が相対的に高まってきたのがこの幕末である。ただし、孝明天皇自身は、その間も幕府と非常に良好な関係を保っており、「公武合体」を推進する保守派であったが、ただし外国人嫌いであったために、神戸の開港については最後まで抵抗を見せた。また、孝明天皇自身も、外国人排斥の「攘夷」を望んでいた。とはいっても、これはあくまでも幕府に対して望んでいたのである。実際、十四代将軍徳川家茂とは個人的にも非常に良好な関係を築いていた。ところが、長州藩や薩摩藩の一部の過激勢力が幕府と政治的に対立を始め、攘夷決行を幕府に迫るようになり、しかもそれがテロを交えた運動へと発展していくことになる。朝廷内の一部勢力も、こういった過激派と連動し、朝廷内で攘夷と朝廷の政権奪取を望んで運動をする過激公卿が現れてくる。孝明天皇は、穏健な保守派であることから、こういった動きに対して反発し、あくまで幕府主体の攘夷を望むのであるが、幕府勢力は徐々に後退、挙げ句に第二次長州征伐は中途半端な形でうやむやになり、過激派の薩摩藩勢力に幕府軍が破れるという事態にまでなってしまう(鳥羽伏見の戦い)。何より一番大きかったのは、親幕府だった孝明天皇自身がその過程で崩御してしまうという事態であった。こうして歴史は大きくうねり、大政奉還、王政復古という形で、いわゆる「明治維新」が進んでいくのはご存知のとおり。明治天皇も、父帝の死去を承けて、15歳で即位することになった。即位した天皇は、外国の公使らとも積極的に面会し、明治の近代化政策にも積極的に関わるようになっていく。そして明治政府が中心となり、近代化政策を推し進めていく……というのが第1巻の趣旨である。
 幕末から明治にかけての政治史としては、かなり細かく描かれており、そのために文庫で全4巻にもなったんだろうが、このくらい細かいと、なかなか先に進まず、少々じれったく感じる。とは言え、歴史の流れというものは本来そういうものであり、同じようなゆっくりしたリズムで体感していくという意味では、これもありではないかと思う。とりあえず第2巻は読んでみようと思う(もうすでに購入済み)。
第56回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『明治天皇〈二〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈三〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈四〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『幕末史(本)』
竹林軒出張所『決戦!鳥羽伏見の戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

# by chikurinken | 2018-08-15 07:28 |