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竹林軒出張所

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『時の支配者』(映画)

時の支配者(1982年・仏)
監督:ルネ・ラルー
アニメーション監督:メビウス
原作:ステファン・ウル
脚本:ルネ・ラルー、メビウス
脚色:ジャン=パトリック・マンシェット
出演:アニメーション

精緻でユニークな美術が魅力

b0189364_15594477.jpg 『ファンタスティック・プラネット』のルネ・ラルーがメビウスというマンガ家と組んで製作したSFアニメ。
 メビウス(ジャン・ジロー)という人、僕は全然知らなかったんだが、手塚治虫や大友克洋、宮崎駿に影響を与えたというフランスのマンガ家で(メビウス自身も彼らの影響を受けたと語っている)、しかも『エイリアン』のデザインも手がけているらしい。そういう人が存在することについて大いに関心を持ったため、今回メビウスが関わったという作品を見ることにしたというわけ。
 この映画では、原画などを担当しているということで、おそらく絵がメビウス風なのではないかと思う。確かに精緻に描かれていて魅力的で、どことなく大友克洋を彷彿とさせる。登場人物、特に子どもの顔が大友克洋の絵によく似ているとも思う。少しばかり不思議で不気味な植物や動物があちこちに出てきて、独特の世界が形作られている。このあたりは『ファンタスティック・プラネット』とも共通である。
 ストーリーは、原作ものということもあり、かなり凝りまくった話である。タイム・パラドックスの類の話で、なんとなく辻褄が合わないような気もするが、意外性のある面白いストーリーではある。
 映像やキャラクター・デザインは非常に魅力的であったが、エピソード間のつなぎの部分が(これは全体に言えるんだが)非常に単調で(絵が動かないとでも言えば良いのか)面白味がない。これは『ファンタスティック・プラネット』にも共通する部分で、そのために中だるみした印象が出てくる。そのためかどうか知らないが、80分程度の映画だったが、途中かなり退屈した。鑑賞中、時計を何回も見たというのが実際のところである。とは言え、先ほども言ったように、見所は多く、決してないがしろにできない作品であるとは思う。
ファンタフェスティバル映画祭1982 最優秀子供映画賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ファンタスティック・プラネット(映画)』

# by chikurinken | 2018-11-12 06:59 | 映画

『犬ヶ島』(映画)

犬ヶ島(2018年・米)
監督:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ、ジェイソン・シュワルツマン、野村訓市
脚本:ウェス・アンダーソン
声の出演:エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、野村訓市、ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン

ストーリーがくだらない

b0189364_17205488.jpg メガ崎市という架空の日本風味の都市が舞台のアニメーション。日本風味と書いたが、相撲や歌舞伎が出てくるし、市長は三船敏郎風だし、メガ崎市では日本語が話されているから、舞台は日本なんだろう。だがなぜ舞台が日本であるかはわからない。製作者の趣味か。
 全編ストップモーション・アニメーションで作られているという話だが、映像にぎこちない感じはまったくなく、非常にグレードが高い。だが話自体については、あまり面白味がない。少年と犬との愛と友情の話ということになるんだろうが、単純でつまらないストーリーである。
 声優には、有名な俳優が起用されていて、しかもゲスト的にスカーレット・ヨハンソンやオノ・ヨーコ、渡辺謙まで出てきて豪華である。また、『七人の侍』のパロディみたいなシーンがある他、何より『七人の侍』のテーマ曲が随所に流れるんで、同作を大いに意識しているんだろう。僕がこの映画に興味を持ったのもそのあたりだったんだが、結局のところ、だから何だ?というレベルでとどまっている。三船敏郎風の小林市長も、声が甲高くて全然三船風の迫力がない(映像については迫力があるが)。もう少しドスの利いた声の声優を起用したら良かったのにと思う。だが、そういう話以前に、内容がつまらないという致命的な欠陥があるわけだが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『アナと雪の女王(映画)』
竹林軒出張所『スーサイド・ショップ(映画)』
竹林軒出張所『山賊の娘ローニャ (1)〜(3)(アニメ)』

# by chikurinken | 2018-11-11 07:21 | 映画

『ルーツ』(5)〜(6)(ドラマ)

ルーツ (5)〜(6)(1977年・米)
 第5話 自由への賭け
 第6話 新たなる天地を求めて
原作:アレックス・ヘイリー
脚本:アーネスト・キノイ、ジェームズ・リー
演出:マーヴィン・J・チョムスキー他
出演:レスリー・アガムス、チャック・コナーズ、ベン・ベリーン、リチャード・ラウンドトゥリー、オリビア・コール、ゲオルグ・スタンフォード・ブラウン、ブラッド・デイヴィス、ロイド・ブリッジス、バール・アイヴス


苦難の登場人物が現代に繋がる

b0189364_17093288.jpgネタバレ注意!

 アレックス・ヘイリーの『ルーツ』をドラマ化したもので、77年に全米でテレビ放送され大ヒットした作品。
 第5回は、キジーの息子、ジョージ(通称チキン・ジョージ)が主人公である。闘鶏師として腕を上げたジョージは、やがてマチルダと結婚し、子どももできる。だがその後、ジョージの所有者である農園主(実の父の白人)と心情的に対立するようになる。そんな折、賭け闘鶏で大勝負に出たその農園主は、ジョージの奮闘も虚しく惨敗し、財産を失ってしまう。その抵当として、優れた闘鶏師であるジョージの所有権を譲ることになり、ジョージは数年間英国に渡ることになる。
 第5回の後半は、ジョージの息子トムの世代。14年後に米国に帰ったジョージは、妻と息子のもとを訪ねる。そして自分が自由な身になり奴隷身分から解放されたことを打ち明ける。ただしこの地(妻と息子が住んでいる州)の法律では、この州に6カ月以上とどまった自由黒人は自動的に奴隷になるという条項があり、やむなくジョージは、妻と子ども達を置いて他の州へ去る。その後、南北戦争が始まる。トムは差別主義の白人たちと対立していく。
 最終回は、その後のトムの一家の様子。南北戦争で南部が敗北し、黒人奴隷が解放されることになる。とは言え、白人同様の扱いになるわけではなく、身分が奴隷でなくても実質的には農奴的な生活を余儀なくされる。一方で、白人と対等な関係を主張するトムは、白人たちのリンチを受けることにもなる。そんな折、チキン・ジョージが戻ってきて、北部に農園を手に入れたから全員でそこに移ろうと申し出る。農奴を手放したくない白人たちとの戦いが始まる……。
b0189364_17094184.jpg ジョージはドラマの最後に、息子や孫たちを前にして語る。「我が家の最初の奴隷は、じいさんのクンタ・キンテだ。だが、じいさんは奴隷になる前は自由だった。遠いアフリカという国にいた。だが、太鼓を作るため木を探していて奴隷商人に捕まった。そしてアメリカのアナポリスに連れてこられた。クンタ・キンテは自分の生まれた国を決して忘れなかった。そして自分の国の言葉も。コーはハープで、カンビ・ボロンゴは川のこと。彼は自由になるために戦った。逃げられぬよう足を切られたあとでも。死ぬ前に、自由への夢を娘、キジーに託した。キジーはその夢を、次のジョージに託した。ジョージは、それを息子たちに。自由になる日まで。そしてついに自由になった。」
 そして最後の最後に来るシーンは、アレックス・ヘイリー自身が登場して語る後日談である。トムの娘は、新しい農園で成長し、やがて材木商を営む黒人と結婚。その2人の間にできた娘はヘイリーという名の教師と結婚。そしてその間に生まれたのが原作者のアレックス・ヘイリー。ジョージが子孫たちに語った先祖の歴史が、ヘイリーの世代(クンタ・キンテの7代後)まで語り継がれてきた……と語られる。
 第1回から第4回までと同様、全編非常に劇的で、見所も多い。ただし第6回は、少々演出を劇的にしすぎたせいで、やり過ぎ(演出過剰)の感が出てきた。視聴者を引き付けなければならないテレビドラマという観点から見れば仕方がないのかも知れないが、多少興が醒める。それでも、黒人の理不尽な被差別の有り様をまざまざと見せつけられ、差別というものがどういうものであるかが実感できるという点で、素晴らしいドラマであることには変わりない。最後にヘイリー自身が出てきて、このドラマの登場人物たちと自分との繋がりを語るという演出も大変よくできている。このドラマは、放送時、アメリカで(そして日本でも)非常に注目され高い視聴率を獲得したが、あの時代の人権意識の高さを物語るようなエピソードだと思う。今の時代みたいに人権意識が希薄になりつつある時代にこそこういったドラマが必要ではないかと思うが、今放送されたところであまり注目されないかも知れないとも感じる。
 毎回のようにゲストキャストが出ていたが(前回も書いたが、実は知らないゲストが多かった)、第6回は、カントリー歌手のバール・アイヴスがそれに当たるようだ。ただしバール・アイヴスも、O・J・シンプソンやスキャットマン・クローザース同様、当時すでに俳優活動をやっていたため、他のキャストから浮いているというようなことはまったくない。
プライムタイム・エミー賞作品賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ルーツ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『キング牧師とワシントン大行進(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人種隔離バスへの抵抗(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『グローリー 明日への行進(映画)』
竹林軒出張所『クー・クラックス・クラン(本)』

# by chikurinken | 2018-11-10 07:09 | ドラマ

『ルーツ』(1)〜(4)(ドラマ)

ルーツ (1)〜(4)(1977年・米)
 第1話 さらば母なる大地
 第2話 誇り高きマンディンカの戦士
 第3話 我が妻 我が娘
 第4話 愛する者たちの別離
原作:アレックス・ヘイリー
脚本:アーネスト・キノイ、ジェームズ・リー
演出:デヴィッド・グリーン
出演:レヴァー・バートン、ジョン・エイモス、タルマス・ラスラーラ、エドワード・アズナー、ルイス・ゴセット・Jr、ヴィック・モロー、ローン・グリーン、マッジ・シンクレア、ロバート・リード、レスリー・アガムズ、チャック・コナーズ、ベン・ベリーン、リチャード・ラウンドトゥリー

アメリカの黒人の血を辿る一大叙事詩

b0189364_18094550.jpgネタバレ注意!

 アレックス・ヘイリーの『ルーツ』をドラマ化したもので、77年に全米でテレビ放送され大ヒットした作品。当時日本でも放送され、話題になった。僕自身も当時テレビで見て、おおきな感銘を受けた。原作はヘイリー自身の先祖数代に渡る歴史を描いたもので、アフリカのガンビアで捉えられ奴隷としてアメリカ大陸に連れてこられたクンタ・キンテからの苦難が描かれる。
 ガンビアのマンディンカ族の戦士の血を引く若者クンタ・キンテは、奴隷商人に捕まり奴隷船で米大陸に運ばれる。奴隷船の中では多くの奴隷たちが死んでいく(反乱で死んだ者もいる)。大陸に着くと、今度は奴隷として白人の農園主に売り飛ばされる。マンディンカ戦士としてのプライドを持ち続けるクンタは自由を求めて脱走を何度も試みるが、そのたびに捕まりひどい仕打ちを受ける。ここまでが第2話までで、主演は当時学生あがりだった新人俳優、レヴァー・バートンが務める。
 第3話はその9年後の話で、ここから主演はジョン・エイモスに変わる。成人後のクンタ・キンテ役である。主人公のクンタ・キンテは、再び脱走を試みるが捉えられ、罰として足先を切り落とされる。その後、別の農園主の元に売られて、そこで料理女のベルと知り合い、彼女と結婚し娘を授かる。そしてこの地で家族とともに生きることを決意するというのが第3話。
 第4話はさらに16年後。娘のキジーが話の中心になる。キジーはある問題から別の農園主に売られ、親子が引き離されることになる。その後、新しい農園主に手込めにされ男の子を産む。第4話の後半は、それからさらに18年後。息子ジョージが立派に成長し、闘鶏用の鳥番として主人の信頼を集めている。キジーの方は別の黒人男サムと良い仲になり結婚の約束もするが、結局彼の奴隷根性に愛想が尽きて結婚を解消する。キジーには父クンタ・キンテから引き継いだ自由な人間としてのプライドがあったのだった……というストーリー。
b0189364_18095214.jpg 1話あたり90分だが、1話と2話が奴隷としてアメリカ大陸に連れてこられるまでのクンタ・キンテ、3話が奴隷として家族を持つクンタ・キンテ、第4話が娘のキジーという具合に、だんだんスパンが短くなる。この後の第5話と第6話で完結するわけだが、第5話がジョージの世代、第6話がその子どもの世代という具合に話が進んでいく。このドラマについて出演者やスタッフが一様に「saga(サーガ)」と呼んでいたが、まさしく奴隷としての生き方を強要された黒人の、その家系の百数十年を辿る叙事詩になっている。奴隷船での非人道的な扱いや農園での無常な売買などで虐げられる黒人たちの有り様がリアルに描かれて、見るのが辛くなるような厳しい映像が出てくる。これが当時の黒人たちの現実だったということが窺える(奴隷船の撮影ではエキストラの黒人が使われていたが、あまりに過酷で屈辱的だったためか80%のエキストラが翌日現れなかったらしい)。主人の機嫌を伺いながら生き、かと思うと突然気まぐれなひどい扱いを受けたりもする。しかも終始劣等な人間として扱われる。黒人側は(そして見る側も)終始、こういった理不尽な扱いに憤りながらも結局媚びながら生きるしかないということを思い知らされる。
 放送当時かなり話題になって実際にアメリカでの視聴率も高かったらしいので、当時の(白人を含めた)人々に与えたインパクトはかなりのものだったんではないかと思う。現在のように差別主義が跋扈する時代にこそ、こういう作品を大勢の人間が見た方が良いのではないかと感じる。
 なお、第1話、第2話あたりまでゲスト扱いでさまざまな有名俳優が出ているようだ(ほとんどの俳優については知らなかった)。僕がわかったのは、第1話のO・J・シンプソン(元フットボール選手)と第4話のスキャットマン・クローザース(ミュージシャン)くらいだったが、この2人、俳優の活動もやっていたため、アメリカ人にとってはあまり目新しさもなかったのかも知れない。O・J・シンプソンは、ドラマの中でも恐るべき俊足を見せていた。
プライムタイム・エミー賞作品賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ルーツ (5)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『キング牧師とワシントン大行進(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人種隔離バスへの抵抗(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『グローリー 明日への行進(映画)』
竹林軒出張所『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体(本)』

# by chikurinken | 2018-11-09 07:09 | ドラマ

『ひとりじゃなかよ』(本)

ひとりじゃなかよ
西本喜美子著
飛鳥新社

88歳の自撮り写真はユニークだった

b0189364_17500019.jpg 著者は、熊本在住の現在88歳の女性。一般的には「おばあちゃん」と呼ぶのがふさわしい人である。この人、72歳から写真を始め、息子が主宰する写真教室に通うようになる(そのため息子のことを「先生」と呼んでいるらしい)。カメラ術が上達するにつれて、デジカメで撮った写真をコンピュータで処理したりすることを憶え、それからというもの、なかなかユーモラスな写真を撮るようになった。その後、個展を開き自身の(ユーモア溢れる)作品を発表したことから話題になり、マスコミでも紹介されるようになった。そしてその結果、ついに写真集まで発売されることになる。それがこの本である。
 本書で紹介される写真は、多くが自然を撮影したもので、それぞれの写真に著者自作の詩が添えられている。タイトルもその詩の中から取られたものである。自然の写真は美しくいものが多いが、やはり一番魅力的な写真は、終わりの方に少し掲載されている「セルフポートレート」である。自身が安来節の格好をしたり車にひかれる図だったり、あるいはゴミ袋に入れられて捨てられた図だったり(すべて自分で演出)、どれもなかなかユニークである。愉快な悪ノリばあちゃんという印象である(息子には叱られたらしい)。
 自然の写真と詩については割合ありきたりという印象だが、この悪ノリのセルフポートレートと散文(わずかしかないが)が面白い。むしろこちらの方をメインに持ってきてほしかったところである。特に不満はないが、本としては、そういう点で少々中途半端だという印象が残った。
★★★

参考:
竹林軒出張所『おむすびの祈り 「森のイスキア」こころの歳時記(本)』
竹林軒出張所『それ行け!! 珍バイク(本)』
竹林軒出張所『森の探偵(本)』

# by chikurinken | 2018-11-08 07:49 |

『うつ病九段』(本)

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間
先崎学著
文藝春秋

「みんないい思いしやがって」が秀逸

b0189364_18242511.jpg 将棋棋士の先崎学九段がうつ病で1年近く休場していたという話はまったく知らなかった。先崎学といえば、あちこちで面白いエッセイを書いたりもしているし、いろいろな笑えるエピソードで知られる異色の棋士で、(僕にとっては)うつ病とはもっとも遠いところにいそうなイメージだったため、非常に意外に感じた。その先崎九段が、自身のリハビリも兼ねて、うつ病期の自身のどん底の精神状態や回復過程、周囲の人々の助力などについて書いたのがこの著書。
 うつ病期の様子が赤裸々に描かれているために、当事者から見たうつ病の状況がよくわかるのがこの本の最大の魅力だが、それ以外にも、他の棋士たち(サラリーマンであれば会社の同僚に相当するんだろうが)との関係性が大変気持ち良い。このあたりの素敵な関係性は著者の人望から来るものだろうとも思う。また、うつ病回復期に、記者から受けたひどい扱いにひどく落ち込み、ソファに当たり散らしてその後泣いたというくだりは、真に迫っている。帯に書かれている「ふざけんな、ふざけんな、みんないい思いしやがって」というセリフは実際に本書に出てくるが、うつ病回復期の状態をズバリと表現していてすばらしい。
 現在はほぼ回復しているようだが、その回復過程が棋力(将棋の能力)に反映しているというあたりもいかにも棋士だと思う。回復初期には、九手〜十三手詰めの詰め将棋がまったくできなくなった(うつ病期はそれに手をつけることすら不可能)というのも、将棋の部外者の目から見ると非常に新鮮である。しかしそれ以上に驚いたのは、病前であればこの100問の問題集を30分もかからずに全部解けたのにというフレーズで、やはり棋士の棋力は別次元だと思う。僕なんか今やっている五手詰めの詰め将棋に1問3日かけたりしているくらいなのに(それも問題だけどね)。
 文章は非常に素直なもので、他の先崎の著書と同様、大変読みやすい。ただし他のエッセイほどは文章が躍動しておらず、笑える要素は少ない。そもそもうつ病回復期に書いたものなんでこれは致し方ないところだが、とは言っても文章には破綻はないし、書籍としてもよくできていると思う。何より、内面から見たうつ病の症状、回復期の心の状態などは、なかなか他ではお目にかかれない症例集とも考えられ、本書の特異な部分であると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『山手線内回りのゲリラ(本)』
竹林軒出張所『棋士・先崎学の青春ギャンブル回想録(本)』
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『入院しちゃった うつウーマン(本)』
竹林軒出張所『脳が壊れた(本)』

# by chikurinken | 2018-11-07 07:24 |

『お金さま、いらっしゃい!』(本)

お金さま、いらっしゃい!
高田かや著
文藝春秋

主婦雑誌に出てくるようなネタばかり

b0189364_17203329.jpg (著者のいわゆる)カルト村(おそらくヤマギシ会)で生まれ育った著者は、その組織内の高等部(高校みたいなもの)卒業を機に「村」(彼らは自身のコミューンをこう呼ぶ)を離れて、一般社会に出てきた。そこまでのいきさつは、前二作(『カルト村で生まれました。』『さよなら、カルト村』)で描かれていたが、その後の著者の生活について紹介したマンガがこの本。
 「村」では、基本的に金を使うことが禁止されており、そのために著者は「村」を出るまで金をほとんど使ったことがなかった。「村」を出てからは、バイトを始めて自分で稼ぐことを知り(〈「村」の労働と比べるとはるかに〉軽い労働で月に13万円ももらえたことが信じられなかったらしい)、その後もいろいろなものを自由に買えることに喜びを見出す。同時に金の使い方についていろいろと考えることもあり、蓄財や節約の方法も自分で見つけていく。そしてその過程やそういった方法などをマンガとしてまとめたのがこの本である。
 これまでの著者の本では、「村」での生活の様子や「村」の生活と外の生活とのギャップなどが一番面白かったわけだが、この本では前の二作と違って、そういうところにはあまり焦点が当たっていない。言ってみれば外の世界に出てからの生活をまとめた「娑婆」編であるため当然だが、そのために正直大して面白味がない。主婦向け雑誌に出てくるようなネタばかりで、あまり興味が湧かないし目新しさも感じない。そういう類の雑誌での連載が初出かと思ったくらいである。
 またマンガ自体についても、説明書きがきわめて多く、マンガであるのは確かだが、絵が挿絵のレベルにとどまっている。要するに説明過剰なんで、大変読みづらい。ただし作画自体はうまく、表現力はなかなかのものとは思う。しかし内容が内容だけに、先ほども言ったように、あまり感じるところがなかったのも事実である。せっかくの表現力が活かされていないのがはなはだ残念な部分である。
 やはりこういったエッセイ・マンガは(あるいはエッセイもそうだが)特異な体験や異次元の感性でもなければ、読んでいて惹かれるところは少ない。そういう意味では、このカルト(ヤマギシ)シリーズは本書で完結ということになるんじゃないかと思う。言い換えると、これまでの2冊ですでに一定の役割は果たしている!ということである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』

# by chikurinken | 2018-11-06 07:20 |

『コンビニオーナーになってはいけない』(本)

コンビニオーナーになってはいけない
便利さの裏側に隠された不都合な真実

コンビニ加盟店ユニオン、北健一著
旬報社

コンビニは極力利用しません
利用したくありません


b0189364_17355468.jpg コンビニエンス・ストア、特にセブンイレブンのオーナーが、コンビニ・フランチャイズ企業からひどい仕打ちを受けていることを訴える本。
 コンビニは、多くの場合、オーナーが資本金や土地を用意し、フランチャイズ企業と契約して、商品を用意してもらい、それを売り、利益をオーナーと企業とで折半するというのが全般的な仕組みである。だが実際は、企業だけが丸儲けするシステムで、オーナーは低賃金長時間労働を強いられる。最初に結んだ契約でがんじがらめに縛られ、フランチャイズ企業の理不尽な要求にも従わなければならない。中には身体を壊すオーナーもおり(オーナーの死亡率がきわめて高いことが本書のデータで示されている)、本書の「奴隷契約である」という主張も十分頷ける。
 中でもひどいのが、廃棄食品(廃棄する食品の数)のノルマが企業から決められる(その上増やせと要求される)ということ。しかもその廃棄食品、実質的にはオーナーが費用を負担し、その費用をフランチャイズ企業に支払わなければならないことになっていて、きわめて理不尽なシステムができあがっている。つまりかなりの金額をフランチャイズ企業に自動的に吸い上げられることを強要するシステムになっているわけ。
 一方でコンビニ・オーナーがバイト職員に理不尽な要求をするケースもブラック・バイトの例として非常に有名という事実もあるわけで、これは言ってみれば、フランチャイズ企業→オーナー→バイト職員という、抑圧の負の連鎖の結果ということもできる。こういったフランチャイズ企業はどこも概ね似たような労働者収奪システムができあがっているそうで、一番良いのはこういう悪徳業者と関わらないことだ。そういうことを今回この本を読んで納得したのだった。
 本書は、いろいろと被害に遭ったコンビニ・オーナーたちが作ったユニオンが出した本で、主張は十分頷けるんだが、本書について言えば、大変読みづらい。文章も、これで校正したのかというような雑な文章が多く、構成もはなはだ雑である。さまざまなデータが示されてはいるが、データも解説も複雑でわかりにくいため、あまりプラスの効果は出ていない。そのために結局自己満足で終始してしまっており、もう少し見せる工夫が必要ではないかと思う。ユニオンが作ったパンフレットをそのまま本にしたようなレベルの書籍で、ユニオンが出したパンフレットであればそれでも良いのだろうが、ノンフィクション・ライターが関わっている(らしい)のにこのレベルでは少々情けない。
 各章の最後にマンガが載っていて、これがわかりやすくて良いマンガではあるんだが、その章に書かれていることそのままをマンガにしているため、単なる内容の繰り返しになっていて、存在意義がわからなくなっている。いっそのこと予告編みたいにして前にまとめて置いておくとかの方がまだ良かったのではないかと思う。こうしたツッコミどころも多く、とにかく作りが雑という印象ばかりが目に付いたのだった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ねてもさめてもとくし丸(本)』
竹林軒出張所『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。(本)』
竹林軒出張所『ロスジェネ社員のいじめられ日記(本)』
竹林軒出張所『低価格時代の深層(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-11-05 07:35 |

『自民党で選挙と議員をやりました』(本)

自民党で選挙と議員をやりました
山内和彦著
角川SSC新書

『選挙』に対するもう一つの視点

b0189364_17443409.jpg ドキュメンタリー映画『選挙』に登場していた山内和彦が、あのときの選挙を振り返り、同時に川崎市議会の様子をレポートする本。内容は、あの映画を山内氏の目線で見るという類のもので、ドキュメンタリーで描かれた部分と重複する部分が多い。もちろん映画とは視点が違うため、映画と別の角度から見られるという利点があり、そのあたりが本書の面白い部分である。
 また、選挙で実際にかかった費用、その内訳、選挙スタッフや事務所の詳細などについても紹介されるため、自民党選挙の実態がかなり見えてくる。結局のところ僕の見方は、自民党というものはやはり経験の蓄積を持つ「選挙互助会」だ、というところに落ち着く。このように本書はあの映画を補う役割を果たしているため、両者で大きな相乗効果を上げている。
 その他にも市議会の様子や活動、それからベルリン映画祭での上映の様子(ここが一番面白かった)や想田監督との関係なども紹介され、内容は非常に多岐に渡る。語り口も優しく読みやすいためにすぐに読み終えることができる。特にあの映画を見た人には、一読の価値があると言える。もちろん、見ていない人にも!
★★★☆

追記:
 本当のところ、この山内氏の経歴が興味深いんでそのあたりも紹介して欲しかったところである。ちなみに映画では「東大卒」という肩書きが紹介されていたが(これについても本書で触れている)、東大に入る前に気象大学校と信州大学を中途退学しており、東大の卒業時は31歳だったというかなりユニークな経歴である。その後も切手・コイン商という趣味の延長みたいな仕事をやっていた(いる)らしい。むしろこういうところを有権者にアピールしていった方が親しみが持たれて選挙には良かったんじゃないかと思うが、そのあたりについては、自民党には自民党の思惑があったようだ。良くも悪くも自民党選挙には建前重視の日本型縦社会が反映されている。

参考:
竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『選挙2(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-11-04 07:44 |

『“核のごみ”に揺れる村』(ドキュメンタリー)

“核のごみ”に揺れる村 〜苦悩と選択 半世紀の記録〜
(2018年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

六ヶ所村の激動の歴史を俯瞰

b0189364_17575365.jpg 青森県六ヶ所村には、現在、使用済み核燃料処理関連施設が設けられているが、その中に使用済み核燃料貯蔵施設があり、そこには使用済み核燃料、いわゆる「核のごみ」が実際に貯蔵されている。ただしこれは一時施設という約束で建てられたものであり、半永久的に貯蔵する施設ではない。建設時に、最大50年間一時保管しその後永続的貯蔵施設にごみを移すという約束が国と青森県との間で結ばれている。ところが実際は、現時点で(当然だが)永続的貯蔵施設新規建設の候補地として手を挙げる自治体などなく、そのために永続的貯蔵施設を造る目途がまったく立っていない。ということで、現地の人々にとっては、なし崩し的にここが永続的貯蔵施設になるんじゃないかという懸念が生ずる。そのあたりの事情を検証するために、まとめられたのがこのドキュメンタリーである。当時この施設誘致に関係した人々も顔を出して、インタビューに応える。
 六ヶ所村は、かつては農耕牧畜業中心の田舎町で、住民の収入も全国平均よりはるかに少なく、出稼ぎ労働も多かった。しかも計画が進んでいた工業団地もオイルショックのために立ち消えになり、村自体がにっちもさっちも行かなくなっていた。そんな折に出てきた話が核燃料処理関連施設。当然、反対の声は大きく賛成派、反対派がぶつかりあい、村の内外で大いに揉めるが、国としても核燃料サイクルを進めるためには是非必要、村としても財政を再建するために必要という行政同士の利害関係で結局反対派の主張は圧殺され、強引に建設着手に至った。
 村はその後、補助金のために大いに潤い、しかも雇用も多数生まれ、かつての田舎町の風情は今ではない。住民も以前と違って、核燃料施設の存在を認めるという人が増えている。ただし永続的貯蔵施設となると話は別である。元々、一時的貯蔵施設として建設したこともあり、村の担当者もそのつもりであったと語る。国の方も、安易に約束をしたわけで、元々大したビジョンがあって約束したわけではなく、必要に迫られ(当時、フランスから処理済み核燃料が日本の近海にすでに送られていた)仕方がないからという「事なかれ主義」の役人根性で出した結論である。担当者自身もすぐに部署が変わるわけで、そうすると結局どこにも責任をとる人間がいなくなる。これが日本の行政のシステムである。そういうようなことが、かつての担当者のインタビューから窺われるわけで、特に当時科学技術庁長官だった田中真紀子がそのあたりを率直に語っていたのが大変興味深い。
 六ヶ所村の問題をテレビで取り上げたことも素晴らしいが、何よりこれまでの過程をまとめて提示してくれるというのが非常に良い。ETV特集ではときどきこういった「これまでのいきさつのまとめ」型の番組をやるが、どれも非常にわかりやすく有益である。なんと言っても、提示されている問題について考える際のよすがになる。今後もこういったアプローチを続けていってほしいものである。ただこういった日本の行政や政治の本質に関わるような問題は、本来は総合テレビでやって、広く国民の目に触れるようにするべき内容ではないかとも思うのだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『六ヶ所村ラプソディー(映画)』
竹林軒出張所『「最悪」の核施設 六ヶ所再処理工場(本)』
竹林軒出張所『核燃料サイクル 半世紀の軌跡(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『終わらない悪夢 前編、後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『核のゴミはどこへ(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-11-03 07:57 | ドキュメンタリー

『ソーシャルメディアの“掃除屋”たち』(ドキュメンタリー)

ソーシャルメディアの“掃除屋”たち 前後編
(2018年・国際共同制作、独gebrueder beetz filmproduktion他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ネット検閲の実態と
SNSがもたらすさまざまな問題


b0189364_17202956.jpg ソーシャル・ネットワークなどの現場では、暴力やポルノなど不適切なデータが常時公開されている。SNS企業や検索会社は、こういった不適切と判断されるデータを随時検閲しているが、実質的にそれを担当するのは孫請け企業の社員である。このドキュメンタリーでは、その孫請け企業のデータ検閲担当者数人に密着して、こういった仕事の問題点、ひいてはソーシャル・ネットワークの問題点まであぶり出す。なかなか意欲的なドキュメンタリーである。
 このドキュメンタリーに登場する孫請け企業はフィリピンに存在し、検閲を担当するのはモデレーターという人々。ただこのモデレーター、見たところ非常勤のバイトみたいな存在で、さまざまなデータについて削除するかどうか常時自ら判断しながら決定している。基準はそれぞれの企業レベルで定められているが、その最終判断はモデレーター各人に委ねられている。なんせ1日に2万件以上のデータを検閲しなければならない。ほとんど流れ作業のようになってしまう。しかも目の前に次から次へと出てくる画像や映像は、露骨な児童ポルノ、ISに代表される残虐な映像などで、中には心を病んでしまうモデレーターもいる(自殺者もいたとある関係者が語っていた)。
 一方で、モデレーターが検閲したデータには、決して興味本位の残虐画像ではないものもあり、中には政治的なメッセージを含むものやジャーナリズムに関わるものもあって、こういうものが削除されてしまうと言論の自由の問題にまで関わることになってしまう。このドキュメンタリーの中で実際に削除されていた画像には、沢田教一の有名な写真も入っていたぐらいで、モデレーターの無知を笑う程度で済ますことはできない問題も孕んでる。
 さらにその一方で、トルコなどでは反政府的な言動を削除するよう政府がSNSの各社に圧力をかけており、トルコ内で事業を展開するには、そういったデータを検閲することが求められる。ということで、これなどは悪しき検閲の例になってしまっているのである。
 もう一つの問題点は、ソーシャルネットワーク自体に内在する問題である。ソーシャルネットワークは、目立った発言をする者がフォロワーを集め存在感を増すという傾向があるらしく(僕は詳しいことは知らないんだが)、そのために、実社会では軽蔑され無視されるような過激な発言が注目を集めやすいというのである。これが成功した例が先のアメリカ大統領選挙で、そういった意味ではトランプはまさに時代の寵児ということができる。そしてそれについては、ソーシャルネットワーク各社はまったく対策を採ることができていない。そもそもこういった事業を始めた人々は、成功だけを望んでいたオタク技術者であり、社会的な影響力については何の判断も持ち得ないと、元関係者の一人は語っていた。
 僕自身は、現在の差別的な言動、右翼的な動向の原因がソーシャルネットワークにあるということにあらためて気付かされた点で、目からウロコであったわけで、同時にネット検閲の実態というのもよくわかって、大変有用なドキュメンタリーであったと思っている。前編、後編であわせて90分の大作ではあったが、見る価値は十分にあると思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『エルドアン “スルタン“への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『データに溺れて…(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-11-02 07:20 | ドキュメンタリー

『IS 狂気の内幕』(ドキュメンタリー)

IS 狂気の内幕
(2018年・国際共同制作、仏CAPA PRESSE他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

司令官家族はセレブ風の生活を送っていた

b0189364_18274002.jpg イスラミック・ステート(IS)の勢力が、シリアやイラクをはじめ多くの地域から一掃されつつあるが、これはリビアでも同様。リビア北部の大都市シルトを占拠してやりたい放題をやっていたISも、包囲攻撃され、その結果その戦闘員の多くは戦死または逃亡した。廃墟と化したシルトだが、その後現地で、司令官の残したパソコンとスマートフォンが発見され、ISが集めていたデータが明らかになった。
 パソコンには、ISのこれまでのさまざまな作戦やあるいは各種マニュアル(爆弾の作り方や自爆テロの方法など)が大量に入っており、彼らの活動の一端を覗くことができる。さまざまなテロ現場の、実行した側からの映像や処刑現場の映像なども多数収録されていて(一部紹介されていた)、きわめて生々しい。
 また、司令官の妻のスマートフォンには、司令官との楽しい日々、リッチな生活が撮影されており、司令官の日常を垣間見ることができる。もちろんこの司令官の生活は、現地住民から多額の税金を徴収し、同時に現地住民の屋敷などの私有財産を接収した結果成り立つ生活で、言ってみれば山賊の家族みたいなものである。しかも従わない人々や反イスラム的と目された人々を公開処刑したりと人道的にも許されない所業がその根底にある。それでも妻という立場からは、こういった生活も既得権益と映るようで、楽しい日常を送っている映像が残されていた。だが、この妻と子ども達も結局は包囲攻撃されて建物もろとも爆破されてしまったのだった。ISの犠牲者の立場から見ると、因果応報ということになるのだろうか。
 彼ら(つまり戦闘員に関わりのある女性と子ども)が包囲側から保護されるような映像もあったが、中には爆弾を抱えて自爆テロした女性もいて、手を差し伸べた側も多数の被害者を出す結果になっていた。どうにもやりきれない状況ではあるが、それを生み出したのがあの狂気の集団である。いまだに残党がどこかに潜伏して再生を目指しているという話もあり、決して予断はできない状態である。憎しみの連鎖を断ち切る以外に真の解決はないと思われるが、欧米諸国の方も強行に対処している現状では、こういった悲劇は永続的に連鎖しそうな勢いである。
 なおこのドキュメンタリーだが、発見されたアラビア語の文書の一部がアラビア語で画面に表示され、それがにわかに英語に変わるなど、演出が非常に洗練されていたのも目を引いた。国際共同制作であるためか、随分手が(そして金も)かかっているという印象を受けたのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ISからの脱出(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホムスに生きる 〜シリア 若者たちの戦場〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』

# by chikurinken | 2018-11-01 07:27 | ドキュメンタリー

『KGBの刺客を追え』(ドキュメンタリー)

KGBの刺客を追え
(2017年・英True Vision Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ロシアの闇は深い

b0189364_19301899.jpg 2006年、ロンドンで、英国から政治亡命していた元KGBスパイのリトビネンコが謎の死を遂げた。リトビネンコはその死の直前、警察の当局者を病室に呼び出し、自分がこのような(重病の)状態になったのは、ロシア当局による工作のためであり、これは暗殺事件であると語る。その供述は9時間にも及び、内容は録音された。まもなくリトビネンコは死去するが、その供述には信憑性があり、しかもリトビネンコの尿から多量の放射性物質ポロニウムが検出されたために、彼の言葉が裏付けられることになった。
 やがてリトビネンコの証言に基づいて捜査が進められ、2人のロシア人スパイが容疑者として浮かび上がる。英国警察はロシアに赴き、容疑者から供述を得るが、ロシア当局から妨害され、捜査の大きな進展は得られなかった。しかし十分な証拠が提示されたとして、この事件は、殺人事件として立件されることになった……というその過程が、証言を交えて描かれるのがこのドキュメンタリーである。
 通常は原子炉内にしかない放射性物質が使われたこと、原子炉は特にロシアでは厳重に管理されていることから、このような殺人の命令を出すことができる人間はロシアのトップしかいないという結論を、このドキュメンタリーでは出している。実際、リトビネンコが当局に追われるようになったきっかけは、KGBの後継組織、FSB(ロシア連邦保安庁)のスタッフが、当時の政治家による私的な政敵の攻撃(殺人)に利用されていることを告発したことであった。こういうことを考え合わせると、あの人が浮かび上がってくるのは理の当然。ロシアの闇は深い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プーチンの復讐 前・後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『オリバー・ストーンONプーチン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-10-31 07:29 | ドキュメンタリー

『未解決事件File. 07 警察庁長官狙撃事件』(ドキュメンタリー)

未解決事件File. 07 警察庁長官狙撃事件(2018年・NHK)
実録ドラマ「容疑者Nと刑事の15年」(2018年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

警察庁長官狙撃事件の真相が明らかに

b0189364_17245005.jpg オウム真理教の一連の事件が発生していた1995年3月30日に、警察庁長官が銃で狙撃されるという事件が起こった。時期が時期だけにオウム真理教の仕業とされ、オウム真理教との関連を持つ警察官が逮捕されて起訴された。一般的にはオウム真理教の犯行とされて収束したが、実はこの容疑者、その後不起訴になっている。当のオウム真理教関係者自体、他の事件については認めたがこの事件については一貫して関わりを認めていなかったという事実もある。
 当時、捜査に当たった警視庁内部では、(オウム真理教の犯罪が想定されたため)刑事部ではなく公安部がこの事件を担当しており、そのために最初から最後まで「オウム真理教の犯罪」であることが前提になっていた。一方で刑事部も並行して捜査を進めており、有力な容疑者、中村泰(なかむらひろし)に行き当たっていた。この男、この事件の後、現金輸送車襲撃を2回起こして当時刑務所に収監されていたが、アジトに大量の銃を隠していた他、警察庁長官狙撃事件で使われたものと同じ(特殊な)銃弾を持っていたことがわかっており、しかも狙撃事件の様子についても詳細に語ったりしていたらしい。第三者的に見ればコイツだろと思うんだが、結局公安部はこの事実を受け入れず、オウムの線を強引に押し通した。だが犯行に使われた銃も結局見つかっておらず、逮捕されていた(オウム関連の)容疑者の供述にも一貫性がないということで、結局この容疑者は不起訴になり、2010年に公訴時効を迎えることになったのである。
 このドキュメンタリーでは、この一連の事件を辿り、中村泰真犯人説に基づいて解明していく。なぜ真犯人がわかっていながら逮捕起訴に踏み切らなかったかについても考察する。
b0189364_17244613.jpg また、実録ドラマも同じ『NHKスペシャル』の枠で1週間後に放映された。キャストは、真犯人がイッセー尾形、これを追いかける警視庁の原警部を國村隼が演じる。イッセー尾形が演じる中村の風貌がそっくりで、さすがの芸達者と思わせる。中村については、高い知性を持つ(自称)革命家という描き方で、これはおそらく中村の取り調べに当たっていた原の心証によるものと思われる(このドラマでは原の著書『宿命』が原作のような扱いになっていた)。あくまで再現ドラマではあるが、それぞれのキャラクターが非常にリアルでドラマとしてもよくできている。ドラマ部分は、ドキュメンタリー部分をほぼ踏襲した内容になっており、まさしく「再現」したドラマである。ドキュメンタリーもドラマもどちらも十分見応えがあって面白かった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『未解決事件File. 02 オウム真理教(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『未解決事件File. 05 ロッキード事件(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-10-30 07:24 | ドキュメンタリー

『ボクサー』(映画)

ボクサー(1977年・東映)
監督:寺山修司
脚本:石森史郎、岸田理生、寺山修司
出演:菅原文太、清水健太郎、小沢昭一、春川ますみ、地引かづさ、唐十郎、具志堅用高

寺山「ジョー」

b0189364_17511157.jpg 寺山修司が監督したボクシング映画。落ちぶれている元ボクサーのトレーナー(菅原文太)と足に障害を持つボクサー(清水健太郎)の二人三脚のドラマで、寺山版『あしたのジョー』といったところ。スポ根マンガを映画にしたようなありきたりな演出が多く、目を瞠るような部分はほとんどない。
 菅原文太と清水健太郎のボクシングが割合サマになっていたのと、具志堅用高を始め、歴代の世界チャンピオンたちが大挙してゲスト出演していた(日本ボクシング連盟が協力しているらしい)のが印象に残った程度で、後はあまり見るべきものはなかった。もっともボクシング好きには楽しめるのかもしれない。
 菅原文太のトレーナーが飼っている犬がボクサーで、この犬が少しとぼけていて面白かったのが僕にとっての唯一の見所。監督が寺山修司だけに天井桟敷のメンバーも大挙して出演している。挙げ句に状況劇場の唐十郎までが出ていたが、こちらは友情出演みたいな感じだったのかなと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『チャンプ(1931年版)(映画)』
竹林軒出張所『書を捨てよ町へ出よう(映画)』
竹林軒出張所『初恋・地獄篇(映画)』
竹林軒出張所『寺山修司からの手紙(本)』
竹林軒出張所『買った、見た、ふるえた……キックの鬼 最終章』
竹林軒出張所『慢性拳闘症(本)』

# by chikurinken | 2018-10-29 07:50 | 映画