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竹林軒出張所

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『グラディエーター』(映画)

グラディエーター(2000年・米)
監督:リドリー・スコット
原作:デヴィッド・フランゾーニ
脚本:デヴィッド・フランゾーニ、ジョン・ローガン、ウィリアム・ニコルソン
出演:ラッセル・クロウ、ホアキン・フェニックス、コニー・ニールセン、オリヴァー・リード、リチャード・ハリス、デレク・ジャコビ、ジャイモン・フンスー

b0189364_17224396.jpg史実とは大分違う

 古代ローマ時代を舞台にした映画。主人公は、マルクス・アウレリウス帝から次の帝位を口頭で譲られた北方将軍マキシマス(ラッセル・クロウ)。このマキシマスが、マルクス・アウレリウス帝の息子で本来であれば世継ぎであるはずのコモドゥスから陥れられ、命からがら逃げ出したは良いものの奴隷に身を落とし剣闘士になって、コモドゥスに対する復讐を誓うというストーリー。端的に言ってしまえばスーパーマンが悪を倒すという話である。マルクス・アウレリウスやコモドゥスなど、実在の人物が登場してくるが、史実とはかなり食い違っている(というより、かなりねじ曲げられている)。森鴎外の「歴史そのままと歴史離れ」の議論に関わりそうなストーリーである。それに元将軍が、処刑され家を失ったために奴隷に身を落とすというのも、ちょっと無理があると感じる。もっともこれを否定してしまうとストーリーが成り立たない。
 作品自体は、古代ローマの風俗や景観は大変見事に再現されており、しかもスペクタクルに溢れていて、よくできたハリウッドらしい映画である。『ベン・ハー』を思わせるようなシーンもあり、エンタテイメント歴史映画として非常に優れている。戦闘シーンも大変迫力があり、カタパルトやバリスタが登場するなど、古代ローマ・ファンならば(そういうのがいるかどうかはわからないが)大喜びしそうな作品である。ただし話ができすぎで、見終わった後でよく考えてみるとそうはうまく行かないでしょと感じてしまう。とは言え、見ている間は、先がなかなか読めないため、そういう意識は働かない。映画として見せる分にはこういったやや予定調和的なストーリーでもOKかなと思える。
 本作は、『ベン・ハー』や『スパルタカス』などと並ぶ、歴史を感じさせるハリウッド・エンタテイメントと位置付けることができるだろうが、この2作に引けを取らない出来栄えの作品に仕上がっていて、存分に楽しむことができる。もちろん先ほど言ったようなことが気になりはするんだが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』
竹林軒出張所『スパルタカス(映画)』
竹林軒出張所『アレクサンドリア(映画)』
竹林軒出張所『キングダム・オブ・ヘブン(映画)』
竹林軒出張所『デュエリスト - 決闘者(映画)』
竹林軒出張所『ブレードランナー ファイナル・カット(映画)』
竹林軒出張所『クレオパトラ(映画)』
竹林軒出張所『サテリコン(映画)』
竹林軒出張所『エジプト人(映画)』

# by chikurinken | 2018-01-16 07:22 | 映画

『破戒』(映画)

破戒(1962年・大映)
監督:市川崑
原作:島崎藤村
脚本:和田夏十
撮影:宮川一夫
音楽:芥川也寸志
出演:市川雷蔵、長門裕之、船越英二、藤村志保、三国連太郎、中村鴈治郎、岸田今日子、宮口精二、杉村春子、加藤嘉、浜村純

日本の自然主義の夜明け

b0189364_16205495.jpg 島崎藤村原作の同名タイトルの小説を映画化したもの。被差別部落出身の主人公の葛藤と逡巡を描いた野心作である。主人公以外にも、社会の底辺で蠢く人々が登場し、自然主義の面目躍如である。日本の自然主義文学の先駆けと言われるのも納得。
 ストーリーは、特に終わりの部分が原作と若干異なるようだが、ほぼ原作を踏襲していると見て間違いあるまい。なんと言っても主演の市川雷蔵が名演で、表情の変化が見事である。猪子蓮太郎役の三國連太郎も凄みと存在感がある。中村鴈治郎、岸田今日子あたりは市川崑作品の常連で、鴈治郎は『炎上』『雁の寺』の住職と同じような役回りである。こういうような役柄があれば、では鴈治郎さんというような話になっていたんだろうか。もちろん、やけに嵌まってはいるが。
 撮影の宮川一夫と音楽の芥川也寸志もそれぞれ「らしい」表現があり、安定感がある。この2人、『おとうと』『ぼんち』などでもそうだが、この頃、市川崑とよく仕事をしているようだ。
 途中まで緊迫感が持続していたが、終わりの方がやや停滞気味になりまだるっこしくなってしまった。そのあたりが惜しい部分ではあるが、文芸作品の映画化としてはできの良い作品と言えるのではないかと思う。当時こういった文芸作品を立て続けに映画化した大映という会社に対しては、その功績に対して大いに敬意を払いたいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『おとうと(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』

# by chikurinken | 2018-01-14 07:20 | 映画

『天国と地獄』(映画)

天国と地獄(1963年・東宝)
監督:黒澤明
原作:エド・マクベイン
脚本:小国英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明
出演:三船敏郎、仲代達矢、山崎努、木村功、加藤武、三橋達也、香川京子、江木俊夫、佐田豊、島津雅彦、石山健二郎

よくできたエンタテイメント作品

b0189364_20421403.jpg 黒澤明のミステリー映画。エド・マクベインの『キングの身代金』が原作で、背景や事件を借用しているらしい。そのため、株の買い占めによる企業乗っ取りが出てきたりして、おそらく当時の日本ではかなり目新しい話題ではなかったかと思う。また、身代金の受け渡しシーンにも緊迫感があり、また受け渡しのトリックや犯人発覚のトリックもよくできていて、エンタテイメントとして楽しむことができる。途中『戦艦ポチョムキン』風の演出が出てきたりするのもご愛敬。
 僕がかなり気になったのは、根幹の部分だが、イイモンとワルモンが非常に明確に分かれていて、イイモンは徹底的に良い人、ワルモンは意味もなく徹底的に悪い人で、超勧善懲悪だった点である。そんな単純な割り切り方をしてしまったら、話に奥行きも何もなくなるだろうと思うがどうだろう。ヘロイン中毒者の貧民窟の描写も何だかありきたりで、見ていて少々バカバカしくなる。医学生のインターンが非常に貧しいというのも今ではなかなか考えられない設定で、時代だなと感じてしまう。
 キャストは、その多くが黒澤映画の常連で、それまで黒澤映画で主演クラスを務めている志村喬、藤田進、千秋実、東野英治郎、伊藤雄之助あたりがチョイ役で出ているのは、黒澤明らしい無駄使いと言える。俳優たちに対して敬意を欠いているのではないかという感覚を持つのは僕だけか知らんが、そう言えば『赤ひげ』でも笠智衆がチョイ役で出ていて、小津映画のファンだった当時の僕はかなり不快に感じたものだ。セリフも「これで良い、これで良い。さ、杯じゃ」だけだったと思う。役者をコマぐらいにしか感じていないのだろうかと思ってしまう。
 なお、この映画では、三船敏郎が例によって好演。大変魅力的な重役を演じている。山崎努も存在感があって良い。仲代達矢は、感情を表に出さないのっぺりした演技に終始していた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『デルス・ウザーラ(映画)』
竹林軒出張所『蜘蛛巣城(映画)』
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』
竹林軒出張所『用心棒(映画)』
竹林軒出張所『幸福(映画)』

# by chikurinken | 2018-01-13 07:41 | 映画

『果し合い』(ドラマ)

果し合い(2015年・時代劇専門チャンネル、スカパー!、松竹)
監督:杉田成道
原作:藤沢周平
脚本:小林政広
音楽:加古隆
出演:仲代達矢、桜庭ななみ、徳永えり、進藤健太郎、柳下大、高橋龍輝、益岡徹、原田美枝子、小倉一郎

時代考証が行われていないせいか
ストーリー自体が嘘っぽい


b0189364_20221870.jpg 部屋住み(分家、独立できず親や兄の家に留まっている武士の子弟)の身分で、身内から邪魔者扱いされている庄司左之助(仲代達矢)が、甥の娘(桜庭ななみ)の危機に立ち上がるというドラマ。元々CS放送のために作られたものらしい。このくらいの規模のドラマを作る媒体が地上波テレビ以外にも出てきているのは喜ばしいことで、しかも海外でそれなりの評価を受けたというんだから、今後こういった製作パターンが増えるのではないかと期待できる。
 ただし内容は少々荒唐無稽で、時代考証をやっていないんじゃないかと感じてしまう。もっとも全盛時の地上波時代劇にしても時代考証は無茶苦茶だったんでこれで良いという見方もできるが、この作品については武家社会の矛盾みたいなものを描いているわけで、そのあたりがデタラメだともうストーリー自体が台無しになってしまう。
 いろいろな事物の扱いがことごとく現代的な発想なのが特に気になる。「駆け落ちするしかないだろう」などという庄司左之助のセリフが出てくるが、現代でも江戸でも(あるいはどんな社会でも)そんなことでは済まないだろと思ってしまうんだが如何。
 演出についても、『水戸黄門』風の「旅立つときに心から感謝してお辞儀する」という安直なシーンが出てきたりして、全体的にかなりありきたりである。また音楽も随所にグリーンスリーブスが使われていたりして、安直な感じが否めない。音楽から構成やストーリー、演出まで、何もかもが安直な感じが漂うんだが、それは「映画」でなく「ドラマ」であることを考えるとしようがないことなのか。もう少し力を入れて作っても良いんじゃないかと感じる。
 藤沢周平原作の多くの映画では、割合社会の背景がしっかり描かれていて、時代考証が気になるものが比較的少ないのだが、この映画に限ってはかなりデタラメさを感じた。製作段階で大幅に手が加えられたのか原作がそうだったのかわからないが、そういう点がかなり気になったので、ここで表明した。ただ先ほども言ったようにいろいろなところでドラマや映画が作られるのは歓迎である。今後もこういった方向で取り組んでいただけることを期待する。
New York Festivals World's Best TV & Films 2017 Drama Special部門金賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『武士の一分(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『釣忍(ドラマ)』
竹林軒出張所『樅ノ木は残った 乱心(ドラマ)』
竹林軒出張所『闇の歯車(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-01-11 07:21 | ドラマ

『闇の歯車』(ドラマ)

闇の歯車(1984年・フジテレビ)
演出:井上昭
原作:藤沢周平
脚本:隆巴
出演:仲代達矢、役所広司、東野英治郎、神崎愛、中村明美、織本順吉、殿山泰司、小笠原良知、益岡徹

皮肉が散りばめられたストーリー
だが作為的に過ぎる


b0189364_17541890.jpg 藤沢周平の同名小説を劇化したドラマ。数年おきに素人を仲間にして押し込み強盗を働く絵師、伊兵衛が再び押し込みを働くべく動き出す。今回目をつけた素人衆はどれも金が必要な町人で、それぞれに事情を抱えている……というようなストーリー。オー・ヘンリーの『賢者の贈り物』みたいに、皮肉が散りばめられていて興味深い話ではあるが、かなり荒唐無稽で作りすぎな感は否めない。作為的に過ぎるという印象。
 ドラマとしては可もなく不可もないというできあがりで、特に不満はない。同じ放送局で前年に放送された『樅ノ木は残った 乱心』に続いて仲代達矢と弟子、役所広司が共演している他、特別出演扱いの東野英治郎が『用心棒』(これも仲代と共演)と同じような居酒屋の大将を演じているあたりがキャスティングの見所か。
 今となっては古いドラマだが、テレビドラマとしてはかなりしっかり作られていて、昨今のドラマのお手軽さとは随分違う印象を受けた。全編フィルム撮影である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『樅ノ木は残った 乱心(ドラマ)』
竹林軒出張所『釣忍(ドラマ)』
竹林軒出張所『果し合い(ドラマ)』
竹林軒出張所『用心棒(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』

# by chikurinken | 2018-01-10 06:52 | ドラマ

『樅ノ木は残った 乱心』(ドラマ)

樅ノ木は残った 乱心(1983年・フジテレビ)
演出:井上昭
原作:山本周五郎
脚本:隆巴
出演:仲代達矢、役所広司、加藤武、鈴木瑞穂、内藤武敏、近藤洋介、小沢栄太郎、益岡徹、大橋吾郎、小林哲子、星野浩美、仙道敦子

山周の良い部分が出た

b0189364_15541804.jpg これも過去5回ドラマ化された山本周五郎作の時代劇。NHKの大河ドラマにもなったことがある。
 江戸時代初期の伊達騒動をモチーフにした話で、歌舞伎の『伽羅先代萩』なども伊達騒動がモチーフだが、原田甲斐が主人公でしかもお家を守るために身を投じるという日本人好みのストーリーが『樅ノ木は残った』の特徴である。原田甲斐がバカになって間諜をごまかしながらあれやこれやの策略を練るあたりは『赤穂浪士』の大石内蔵助を思わせ、こちらも日本人好みのモチーフと言える。
 ストーリーは非常に凝っていて、全編緊迫感が漂い、緊張感が最後まで持続する。大河ドラマでやるような素材を2時間弱のドラマにしているため、わかりにくさが随所に残っているし、登場人物の名前も完全に把握できないが、何とか識別できるレベルで最後まで見終わることができた。しかし、登場人物の名前はすべて初出時に字幕で紹介されるだけであるため、伊達騒動をまったく知らない人が見るとなると、それなりに困難が生じるかも知れない。
 キャストはなかなか豪華で、無名塾での仲代の弟子、役所広司が仲代と共演するなどの見所もある。小沢栄太郎が(どちらかと言うと)良い役だったり、仙道敦子がまだ娘っこだったりでなかなか新鮮である。また演出もオーソドックスで破綻はない。なかなかの佳作である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『釣忍(ドラマ)』
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』
竹林軒出張所『赤ひげ (19)(ドラマ)』
竹林軒出張所『いのち・ぼうにふろう(映画)』
竹林軒出張所『闇の歯車(ドラマ)』
竹林軒出張所『果し合い(ドラマ)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』

# by chikurinken | 2018-01-09 06:54 | ドラマ

『釣忍』(ドラマ)

釣忍(1966年・フジテレビ)
演出:小川秀夫
原作:山本周五郎
脚本:隆巴
出演:仲代達矢、新珠三千代、久米明、萬代峰子

山周の良くない部分が目立ったドラマ

b0189364_18135933.jpg 過去6回ドラマ化されている山本周五郎作の時代劇。
 大呉服屋を勘当された若旦那が、その後堅気になり、芸者と一緒になって棒手売りの商いに精を出していたところ、本家から戻ってほしいという話があり、女房に勧められるまま、女房と離縁した上で(大店であるため芸者の女房はダメとのこと)家に戻ろうとするが……というストーリー。
 シナリオは仲代達矢の妻である隆巴(宮崎恭子)で、これがデビュー作だということ。当時彼女、役者を引退した後で、主婦でもできる仕事をということでシナリオ学校に通っていて、それを仲代が勝手にテレビ関係者に見せたところ採用されたらしい。デビュー作であるためか、シナリオの完成度は低く、時代劇らしくない言葉遣い(「銭湯に行ってきたら?」とか)が多く、見ていて少し白けてしまう。そもそもストーリー自体が現代的な発想に基づいていて、かなり違和感がある。
 演出もやけに湿っぽく、1時間ドラマであるにもかかわらず最後まで見続けるのがつらい。山周(山本周五郎)の悪い面が出ているようで、あまり面白さは感じなかった。ちなみに全編モノクロであった。かなり古い作品で、よく残っていたなという類のドラマである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『樅ノ木は残った 乱心(ドラマ)』
竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』
竹林軒出張所『赤ひげ (19)(ドラマ)』
竹林軒出張所『いのち・ぼうにふろう(映画)』
竹林軒出張所『闇の歯車(ドラマ)』
竹林軒出張所『果し合い(ドラマ)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』

# by chikurinken | 2018-01-08 07:13 | ドラマ

『ホンカン仰天す うちのホンカン-PART VI』(ドラマ)

日曜劇場 ホンカン仰天す うちのホンカン-PART VI-(1981年・北海道放送)
演出:長沼修
脚本:倉本聰
出演:大滝秀治、八千草薫、上條恒彦、藤谷美和子、加藤嘉

これで「ホンカン」は終わり

b0189364_954487.jpg 「ホンカン」シリーズ第6作目。
 義侠心に基づく犯罪がモチーフになっていて、しかも流通の矛盾にも疑問を呈しており、なかなか見応えがあるドラマになっていた。例によってあちこちに軽いくすぐりも入っていて、それがまた良い効果を生み出しており、ドラマとしても非常に質が高い。「ホンカン」シリーズの中では一番密度が濃いと感じる。
 キャストは、主演の2人の他は、藤谷美和子、上條恒彦、加藤嘉らである。藤谷はこのあと倉本作品の『ライスカレー』に出演するが、後ろの2人は倉本作品では珍しい。加藤嘉については、雪の中で貧乏暮らしをしている独居老人の役で、作り手が意識していたかどうかわからないが『砂の器』の本浦千代吉を思わせる風体であった。
 60分枠の短い作品であることから、話半ばで先が見えてきたネタワレ・ストーリーではあったが、細かい部分が繊細に作られているため、決して侮ることができない作品である。「さすが全盛期の倉本聰」という作品で、その腕力が垣間見られる秀作ドラマであった。
 この「ホンカン」シリーズだが、第1作は気張りすぎていたせいかしようがないできだったが、あとに進むほどグレードが上がってくる。PART VとこのPART VIに至ってはかなりのレベルである。もしこのDVDを見る機会があるようであれば、決して第1作でやめたりせず、続けて(なるべく最後まで)見ることをお勧めする。
第30回日本民間放送連盟賞優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬のホンカン うちのホンカン-PART IV(ドラマ)』
竹林軒出張所『ホンカン雪の陣 うちのホンカン-PART V(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-01-06 07:33 | ドラマ

『ホンカン雪の陣 うちのホンカン-PART V』(ドラマ)

日曜劇場 ホンカン雪の陣 うちのホンカン-PART V-(1981年・北海道放送)
演出:長沼修
脚本:倉本聰
出演:大滝秀治、八千草薫、結城しのぶ、大久保正信、末吉敏男

今度は怪談もの

b0189364_954487.jpg 『うちのホンカン』シリーズ第5作目。
 主人公の「ホンカン」夫妻(大滝秀治、八千草薫)が、厚田村の派出所に転勤になった。転勤の日猛吹雪になって国道が通行止めになり、交通整理に駆り出されたホンカンが、そこで地元のあれやこれやを経験するというストーリー。
 雪女(結城しのぶ)が重要な狂言回しとして登場するなど、オカルト好きの倉本聰らしいプロット。この人、いろいろなドラマでオカルト関係のものを登場させるが、僕のようなオカルト嫌いの人間にはこれが堪らない。ただ今回の「雪女」については、それなりに味わい深さもある。そう言えば70年代のドラマは、こういった幽霊ものが多かったということに思い至った。『ザ・ガードマン』や『キイハンター』なんかは、夏には恒例のように幽霊ものの回があった、そしてそれが人気だったような気がする。そういう意味で少し懐かしさも感じたし、この話自体もよくできていた。
 相変わらず大滝秀治と八千草薫が好演で、特に八千草薫は、当時50歳であるにもかかわらず、可愛さが漂って非常に魅力的であった。このシリーズ、八千草薫の代表作と言っても良いんでないかいと思った。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬のホンカン うちのホンカン-PART IV(ドラマ)』
竹林軒出張所『ホンカン仰天す うちのホンカン-PART VI(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-01-05 08:25 | ドラマ

Say Goodbye To Heavy Futon

 永らく寒い部屋の中で重い布団の下で寝ていた。
 部屋には暖房がないため室温は屋外とさほど変わらない。部屋の中で息が白くなることはごく当たり前である。そのため寝ていても寒い。寝ているだけで風邪をひいたことさえある。そのために、日々寒さが進んでいくのに合わせて、布団や毛布を少しずつ増やしていくという睡眠スタイルになる。1月になると掛け布団2枚プラス毛布3枚にまで増えてしまう。重いったらありゃしない。朝になると腰に痛みを感じるのが普通という有様である。
 羽毛布団がえらく暖かいという話は大分前から聞いていた。広告ではお手軽な値段の羽毛布団も出ているが、聞くところによると、安い布団は暖かさの度合いも安いらしい。いい加減な羽毛が入っているとかで、大して暖かくないというのだ。暖かくない布団を買った日にはまた何枚も布団と毛布を重ねることになって、新しい布団自体がまったく無意味になってしまうではないか。何でも10万円以上する羽毛布団というのもあるらしく、ということは値段なりの差というものが実在するのではないかということは容易に想像が付く。もちろんそんな超高級羽毛布団を買うつもりも買う余裕もさらさらないんだが。
b0189364_14222941.jpg そんな折、通販生活のサイトをたまたま目にしたところ、20万円の高級羽毛布団に匹敵する羽毛布団というものが4万5千円で提供されていることを知った。通販生活は、ご存じの方も多いと思うが、良品を売るというコンセプトの通販会社で、僕自身はかれこれ20年前から利用している。実際に大分前にここで買って今でも利用し続けているというような良品も割にあり、個人的にはその品質にはそれなりの信頼を置いているんだが、そこで売られている羽毛布団が、通販生活の自称ではあるが「20万円の高級品グースに匹敵する暖かさ」というんである。4万5千円と値は張るが、ここはいっちょうその20万円の暖かさを体感してやろうじゃないのということで、購入に踏み切ったのだった。これで重い布団にもおさらばできる。
 さて実際に使ってみると、スースーした感じで、あまり暖かいという感じはない。重さがないから何だか心もとない感じもする。とりあえず薄手の毛布の上にこの布団をかぶせて寝てみた。先ほど言ったように暖かさは感じないが、極寒の夜だったにもかかわらず、風邪はひかなかった。暖かくはないが寒さも感じないというのが実感で、羽毛布団というのがそもそもそういうものなのかも知れないが、少々期待外れという印象もある。もっとヌクヌクかと思っていた。それに布団が軽すぎて、寝ている間に気付かないままはねのけていたりすることがある。しようがないので羽毛布団の上に重しとして1枚(重量がある)毛布を重ねた。これでとりあえずはねのけることはなくなった。
b0189364_14223722.jpg 同じく通販生活で「モイスケアの肌掛け」なるものが、「ベッドに入って5分で手足がじわじわ暖まってきます」というキャッチフレーズで売られている。羽毛布団で寒くなくなったのは結構なのだがもう少し暖かさが欲しいと感じていたところだったので、こちらにも飛びついた。こちらは1万2千円。ちなみに布団も肌掛けもシーツを買ったから実際には出費はもっと多い。人気商品らしく届くまで時間がかかったが、暖かさに飢えていたため、こちらも届いて即日利用開始する。だが、こちらもあまり暖かさを感じるということはない。寒くはないのだが暖かくもない。「5分でじわじわ」という感じではない。いや「じわじわ」という感じは意外に近いのかも知れない。でもヌクヌクという感じでは決してない。結局、肌掛けの下に薄手の毛布をそのまま使うことにしたため、掛ける寝具は、下から薄手の毛布、肌掛け、羽毛布団、厚手の毛布という構成で、以前の毛布3枚プラス布団2枚のときとあまり変わらない状況に落ち着いた。もっとも軽さは以前とは比べものにならない。肌掛けについてはなくても良いような気もするが現状そのまま使っている。一度外してみれば本当に必要かどうかはわかるが、外してみて途端に風邪をひいたりする可能性があるので踏み切れない。
 枕についても、通販生活の枕が15年以上前から気になっているが、かなり高価な上、どうにも僕には合いそうにないのでいまだに手が出ていない。実は今回の寝具購入ラッシュのきっかけは枕だったのだ。5千円くらいの枕を通販で買ってみて、そこから「では布団も」という具合に布団へと手が伸びたわけだが、そのとき買った枕については、しばらく使っていたがあまり具合が良くなかった。枕自体は決して悪くないと思うのだが、なにぶん僕の頭には合わなかった。朝になると枕がはるか頭上に移動し(おそらく眠っている間に知らず知らず向こうの方に放っているんだろう)、ついでに身体全体も頭上方向に移動してしまって結局枕なしの状態になっている。あげくに肩の下が何だかスカスカして(肩より上が敷き布団からはみ出しているため)目が覚めるということが続いたことから、この枕は使わなくなった。いずれ枕についても何とかししたいと思っている(自分に合う枕というものが果たして存在するのかは微妙だが)。

 僕などは1日の睡眠時間が7時間を下回ると体調があまりよろしくない。たとえば7時間眠るとすると、一日のうち三分の一の時間(つまり一生の三分の一、つまり25年程度)を睡眠に費やすことになる。それだけ時間を費やす事象であれば、身体にとって非常に重要なものであることは疑いの余地がないはず。
 昨今睡眠の大切さがメディアでも取り上げられるようになっていて、それは大変結構なことなのだが、いまだに睡眠イコール怠惰と考える人も多く、ここらあたりで見方を180度変える必要があるんではないだろうか。考えてみれば睡眠は一番お手軽な娯楽とも言えるわけで、大して金をかけずに楽しむことができる。良い睡眠環境を作って十分な時間をかけて眠ることが良い、ひいてはもっとのんびりした人生を送ることが良いのでは……というのが目下のところ僕が思うところで、これを年頭の所感にいたしたいとこのように思うのである。

参考:
竹林軒出張所『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?(本)』
竹林軒出張所『脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ(本)』
竹林軒出張所『子どもの夜ふかし 脳への脅威(本)』
竹林軒出張所『「布団が俺を呼んでいる」の解題・のようなもの』

# by chikurinken | 2018-01-03 14:25 | モノ

2018年お年賀

あけましておめでとうございます
b0189364_13260594.jpg

 やめようと 思いながらも 年賀状
                  竹林軒
# by chikurinken | 2018-01-01 07:25 | 歳時記

2017年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

b0189364_11163217.jpg今年見た映画ベスト3(53本)
1. 『切腹』
2. 『山猫』
3. 『レディ・チャタレー』

 映画のベストは、例によって二度目三度目の名画ばかり。特に目新しさはない。『レディ・チャタレー』が他の2本とちょっと毛色が違うが、これもセザール賞受賞作であるし、今さら僕がどうこう言おうが高い評価に変わりはあるまい。
 『切腹』は、僕自身、日本映画の最高峰と思っている映画で、世界的にも評価は高い。第16回カンヌ国際映画祭のグランプリの最有力候補でありながら、急遽出品が決まった『山猫』に賞をさらわれたというエピソード(仲代達矢がある番組で語っていた話)も大変興味深い。この2本をここに並べた僕の遊び心も感じていただけたら幸いである。

b0189364_20374490.jpg今年見たドラマ・ベスト3(37本)
1. 『夏の一族』
2. 『ライスカレー』
3. 『レ・ミゼラブル』
4. 『夕暮れて』
5. 『奈良へ行くまで』
番外. 『さらば国分寺書店のオババ』

 今年も昨年に引き続き、日本映画専門チャンネルで倉本聰と山田太一のドラマがまとめて放送されたため、ほとんどはそこからの選択である。『ライスカレー』は倉本作品の最高峰だし、『夏の一族』も山田作品の最高レベルの1本であることを考えると、妥当な線の選択と言える。
 変わったところでは『レ・ミゼラブル』だが、これは原作の味わいを忠実に再現した仏製ドラマで、優れた原作を忠実に再現すれば最高レベルの作品ができあがることを証明したという点で特筆に値する。
 『夕暮れて』、『奈良へ行くまで』は今年見た山田ドラマの中でもっとも質が高かったということで選んだ。他の山田作品でもかまわないが、今年見た中ではこれが一番よかったかなというところ。
 番外に入れたのが1981年のラジオドラマで、僕自身が若い頃これを聞いて大いに影響を受けたという作品。こういう古い作品をYouTubeでいつでも全部聴くことができるとは、随分良い時代になったものである。
 こうして見ると、今回もほとんど見る(あるいは聴く)のは二度目三度目の作品ばかりである。目を奪われる新作ドラマは残念ながら存在しないというのが実情である。

今年読んだ本ベスト5(60冊)
1. 『天地明察』
2. 『武満徹・音楽創造への旅』
3. 『平安京はいらなかった 古代の夢を喰らう中世』
4. 『あなたの体は9割が細菌』
5. 『森の探偵』

b0189364_17062389.jpg 普段はあまりフィクションは読まないが、今年は江戸時代の碁打ちである安井算哲に少々興味を持ったこともあり、彼を主人公に据えた時代小説『天地明察』を読んでみた。これが非常によくできており、なんと言っても語り口が良い。ストーリーも、なかなか面白さに気付きにくい部分(暦の作成)を実に巧みに取り上げていて、読み始めたらやめられない、しかも読後感も良いという立派な小説に仕上がっていた。作者はファンタジー小説などを書く人らしく、時代小説は余り多くない。この作品のスピンオフみたいな作品、『光圀伝』もあり、これも読んでみたが、『天地明察』の方が断然できが良い。
 『武満徹・音楽創造への旅』は、作曲家、武満徹の芸術、人生に、インタビューを通じて迫った本で、1人の芸術家の人生を執拗に解明していったという労作。500ページを越える大作だが、武満という偉大な人間の等身大の足跡がそこにあり、この本を前にすると身が縮むような心持ちさえしてくる。大作かつ秀作である。
 『平安京はいらなかった』は、歴史のごく一部分をつつくような内容の本であるが、我々が学校で教えられている歴史がいかに一面的か思い知らされるという点で評価に値する。歴史観がコペルニクス的に転換する1冊と言える(かな)。
 『あなたの体は9割が細菌』も同じく目からウロコの本で、現代人の体内環境が抗生物質のせいで激変している現状を告発する。これもやはり新しい視点を提供してくれるという点で、価値の高い本である。
 『森の探偵』も、我々が持っている常識を覆してくれる本である。動物写真家の宮崎学のこれまでのさまざまな仕事を結集させたような本で、これも非常に価値が高い本なんだが、前にも書いたように聞き手がしゃしゃり出てくるのがかなり鬱陶しい。そういう点でもったいないが、それを差し引いても素晴らしい価値がある。我々の住むこの世界に対して、さまざまな示唆が得られること請け合いである。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(65本)
1. 『ホームレス理事長』
2. 『平成ジレンマ』
3. 『ヤクザと憲法』
4. 『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん』
5. 『行 〜比叡山 千日回峰〜』

b0189364_20284283.jpg 今年は東海テレビの秀作ドキュメンタリーが、これも日本映画専門チャンネルで一挙に放送されたため、それが中心のラインナップになる。他にも冤罪ものや司法ものに傑作があったが、今回は代表として、『ホームレス理事長』、『平成ジレンマ』、『ヤクザと憲法』の「衝撃の3本」をピックアップした。
 『ホームレス理事長』は、理想主義に燃える不器用な実業家を主役に据えたドキュメンタリーで、ドラマみたいな内容である。結末があまりに予想外で、ドラマだったら絶対に受け入れられない。それに撮影する側が撮影される側に関わったり(あるいは撮影される側から働きかけがあったり)するのも斬新で、そういう面も特異で面白い。
 『平成ジレンマ』と『ヤクザと憲法』は、我々の常識的なものの見方にクエスチョンを突きつける、まさにドキュメンタリーの鑑のような作品である。これこそドキュメンタリーの醍醐味というもので、そういった体験をさせてくれるものはそうそうあるものではないが、同じ東海テレビから2本そういう作品が出ているのはちょっとした驚きである。他にも『裁判長のお弁当』『死刑弁護人』『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄』などの東海テレビ作品も同じようなハイレベルのドキュメンタリーで、東海テレビのドキュメンタリーは侮れないということを思い知らされる。
b0189364_20494870.jpg 『島の命を見つめて』は、これからの高齢化社会を暗示するドキュメンタリーであると同時に、人の生と死に思いを馳せさせる作品。このドキュメンタリーを通じて発せられる人間の優しさ、素晴らしさが心地良い。
 『行 〜比叡山 千日回峰〜』は古いドキュメンタリー作品だが、究極の仏教修行を映像に収めているという点で、一種の文化遺産と言うことができる。こういう作品がいまでも残されていることが、日本の映像界の良心の一端を示している。できれば、こういった作品も積極的に放送してほしいと思う。NHKだけでなく民放でもね。よろしくお願いしたい。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
竹林軒出張所『2016年ベスト』

# by chikurinken | 2017-12-30 07:34 | ベスト

『九十歳。何がめでたい』(本)

九十歳。何がめでたい
佐藤愛子著
小学館

佐藤センセイには
もっともっと吠えて突進してほしいものだ


b0189364_18394451.jpg よく売れているらしいベストセラー・エッセイ。売れている理由はおそらく(佐藤愛子のイメージにピッタリな)ユニークなタイトルにあるんだろうと思う。かなり秀逸なタイトルで、編集者のファインプレーだと勝手に思っていたんだが、著者がつけたタイトルだそうだ。さすがに佐藤センセイ、侮れません。
 内容は、佐藤愛子のエッセイということで、特にこれまでのエッセイと違うところはない。相変わらずいろいろなことに怒っていて、ほとんどについては痛快に感じる。ただし怒りながらも、自分の老化のせいかと感じているフシもあったりして、その猪突猛進ぶりがこれまでより穏やかになったのかと感じる部分もある。もっとガンガン攻めて欲しいところだが、90過ぎの人にそこまで要求するのも酷というものである。
 読んでみて感じたが、やはり佐藤愛子の文章はよくまとまっていて、どこか筋が通っている感じがする。内容は卑近なものが多いが、文章自体がしっかりしているため、背筋が伸びているというような印象さえ受ける。
 昨今ひどい文章がまかり通っていて情けなくなるが、これはテレビ番組にも共通するもので、その辺については著者も本書でしきりに文句を言っている部分である。最近では何だか何もかも質が落ちていて、人間の思考能力さえ劣化しているように感じるが、著者がその辺を声を大にして吐き出すのが実に痛快に感じる。本当は、僕も含めて誰もが「ダメなものはダメ!」と声を大にして言うべきなんだろうが、世間のしがらみがあったりしてなかなか思うように行かず、それでこういった本を読んで溜飲を下げるということになる。そういう意味では良い本がベストセラーになったと思える。
 なお、高齢者向けのしつらえになっているためか知らないが、文字がかなり大きく、読み始めは随分違和感を感じる。もっとも慣れてしまえばなんと言うことはない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『娘と私の部屋(本)』
竹林軒出張所『戦いすんで日が暮れて(本)』
竹林軒出張所『かつをぶしの時代なのだ(本)』

# by chikurinken | 2017-12-28 07:39 |

『かっこいいスキヤキ』(本)

かっこいいスキヤキ
泉雅之著
扶桑社文庫

こんな本なんて買わなけりゃよかった

b0189364_17594249.jpg 今から30年以上前、京都の一乗寺にある恵文社という本屋で(一部だけ)立ち読みしたマンガ『かっこいいスキヤキ』がなんと文庫になっていた。夜行列車に乗って駅弁を食べるときに最後まで大切にとっていたカツが実は玉ねぎカツでガックリし「旅なんて出なけりゃよかった」と思うというような話(「夜行」)で、バカバカしいネタを劇画調で描くという代物である。ネタもくだらないし、絵も何だか汚い。青林堂から出ていたため『ガロ』発のマンガだということが推測できたが、さすがにあまりにくだらないので当時は買わなかった。この本屋では、大友克洋や高野文子の本に初めて出会ったりして、結構変わったマンガも買っていたんだが、この本については買わなかった。
 ところが先日、珍しく丸善で本を物色していたところ、この本が文庫化されているのを見つけ、懐かしさもあってつい衝動買いしてしまったのだった。「してしまった」と書いたのは今著しく後悔しているからである。つまらない本は買わないようにしている昨今、衝動買いで買ってしまうということはあまりなくなったが、これについては本当に「つい出来心で」買ってしまったのだった。それなりに面白いものもあり、懐かしさも感じたが、とっておくような類の本でもないし、馬鹿なことしたなーと思う。
 それはともかく、内容はといえば短編マンガ集であり、先ほどの駅弁や、コンパでのスキヤキ肉についての態度とか、食に対する異常なまでのこだわりが表現されているものや、「プロレスの鬼」などというプロレス・ネタの暴走話などが並んでいる。食に対するこだわりは、この後『孤独のグルメ』に連なっている系統なのではないかと思う。ちなみに本書の著者の泉雅之というのは、泉晴紀と久住昌之のコンビ名で、『孤独のグルメ』の原作者が久住昌之である。この人のこだわりについても、個人的にはあまり面白いと思わないし、何より泉晴紀の絵が好きになれない。そういうわけで、ユニークだとは思いつつ、買わなきゃよかったという思いがずーっと残っているわけだ。ちょうど「夜行」の主人公と同じような心境なのだ。
★★★

参考:
竹林軒出張所『孤独のグルメ Season4 (2)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-12-26 06:59 |

『アリ対猪木 アメリカから見た世界格闘史の特異点』(本)

アリ対猪木 アメリカから見た世界格闘史の特異点
ジョシュ・グロス著、棚橋志行訳、柳澤健監訳
亜紀書房

あの試合はMMAのルーツだった

b0189364_17141950.jpg 1976年に行われたアリ対猪木の異種格闘技戦は、我々世代の日本人には印象に残った出来事であったが、アメリカではアントニオ猪木自体無名で、この試合自体エキジビションみたいな扱いでしか報道されていなかったと思っていたため、タイトルの「アメリカから見た」という惹句にまず引き付けられた。だが、内容的には『完本 1976年のアントニオ猪木』などとあまり変わらない。著者のジョシュ・グロスは元々『スポーツ・イラストレイテッド』の格闘技記者で、そのため確かに「アメリカから見た」ではあるが、それほど目新しい情報があるわけではない。
 とは言うものの、あの試合が全米でクローズドサーキット(パブリックビューイング)として中継されていたことは今回初めて知った。モハメッド・アリの当時の米国での人気は絶大なもので、そのアリがプロレスラーと闘うことに興味が持たれたということだ。試合はご存知の通り、「世紀の凡戦」と言われるような内容で終わったため、さまざまな会場で敵意に溢れたブーイングが起こったり「金返せ」コールが起こったりしたらしく、試合に対する感慨は日本人と同様であったらしい。彼らにとってもこれが「ワーク」(筋書きのある、いわゆる八百長)なのか「シュート」(真剣勝負)なのか判然とせず、なんだか煮え切らないまま帰途についたということで、今では多くの人にとって語られることすらないという(かつて見に行った人々にとって一片のやましさが伴うのだそうだ)。
 だがあの試合こそが総合格闘技(MMA)を生み出すきっかけになった、というのが著者の感じるところで、米国の総合格闘技団体、UFCや日本のPRIDEなども、あの試合にルーツを持つというのが著者の主張である。
 著者は、本書を執筆するにあたり、さまざまな関係者から話を聞いており、たとえばアリ自身がプロレスが好きで、試合前に見せていたビッグマウスは悪役レスラーの影響だなどというのは、非常に興味深い話であった。ただし、全体的に冗長な上、さまざまな登場人物がやたらに出てきてわかりづらくなっている点はマイナスである。また、翻訳のせいか原文のせいかわからないが、文章自体も決して読みやすい表記ではない。これを読むんだったら『1976年のアントニオ猪木』の方が良いかなと思わせる程度の内容で、あまり得るものはなかったというのが正直なところである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『蘇る伝説の死闘 猪木vsアリ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『完本 1976年のアントニオ猪木(本)』
竹林軒出張所『1993年の女子プロレス(本)』

# by chikurinken | 2017-12-24 07:13 |