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竹林軒出張所

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『漢字再入門』(本)

漢字再入門
阿辻哲次著
中公新書

決して侮れない漢字入門書

b0189364_21070899.jpg 『漢字の相談室』の著者による漢字雑学本。雑学本といっても、語られている内容は、『漢字の相談室』同様、非常に深くそれなりに専門的な内容も紹介される。しかも語り口が優しく、ものすごく読みやすい。これは著者の能力に負うところが大きい。この本の内容は、かつての大学の教養課程の授業みたいなものであるが、大学の授業自体、教官によって当たり外れがあるものだ。大学の教官というものは、一般的に専門性が高く、その専門分野に対する造詣も深いため、彼らが普段研究している内容はそれなりに面白いということは容易に予想が付くが、残念ながらそれを人に伝えることに長けている人は意外に少ない。言ってみれば専門バカみたいな人も多く、言い換えるならばオタクの人たちである。したがって彼らが展開する授業がつまらないことは大いにあり得るわけである。ただし、どういう分野でもそうだが、中には人に伝えるのが抜群にうまい人というのがいて、そういう先生の授業はなかなか面白いもので、彼らの研究対象にも興味が湧いたりするものだ。そもそも書物などというものも、書き手がいかにして自分が持っているものを相手に面白おかしく伝えるかがキモであり、うまく伝えられている本が良い本であると個人的には思っている。面白おかしくないとしても内容が斬新であれば価値はあるが、残念ながら内容が乏しい上に伝える能力を欠いている人たちが多いのも事実。そういう人が書いた本は、極力関わらないのが良いのであって、間違ってめぐり逢ってしまったらすぐに捨てるに限る。特に昨今は、出版点数が著しく多くなったせいもあって、そういう類の本、つまりゴミ本がきわめて多い。そのため、図書館で試し読みして、良い内容であれば買うというのが我々消費者の防衛策になるのだ。
 話は随分逸れたが、この本についても、当初は面白そうな部分だけとばし読みしようと思って図書館で借りたんだが、興味深い箇所が多いんで結局全部読んでしまった(このあたりは『漢字の相談室』と同様)。「全部読んでしまった」などという書き方をしたが、実際には内容は非常に濃厚で、語り口はいうまでもなく名人級である。こういう本に触れると、その研究対象にも著しく関心が沸くため、入門書としても最適と言うことができる。これまで漢字になんぞあまり興味がなかったし、むしろ最近思い出せない漢字が多くてイライラするぐらいだったんだが、おかげさまで漢字に大変興味が湧いた。これからもこの著者の本をはじめとして、漢字関係の本に触れていきたいと考えているほどだ。
 さてこの本だが、まさにタイトル通り「漢字再入門」と言えるような内容である。漢字のことは小中学校で教わりそのときに一通りのことは叩き込まれるわけだが、実際には通り一遍の基本事項以外は知らないものである。そのくせ(誰もが)漢字のこの部分にはトメやハネが必要だとか、これが正しい書き順だなどと主張したりする。学校でそれが正しいと教えられてきているからだが、しかし実際には、学校で習うトメやハネ、書き順について、必ずしも現在日本の学校で習っている様式が正しいとは限らないらしい、著者によると。そのあたりのいきさつ、つまりなぜ学校で今みたいなスタイルが絶対的な真実のようになったかについても、歴史を遡りながら説明されているため、非常に説得力がある。教育課程で教わった「事実」に対して再検討を迫られるという点でまさに「再入門」というタイトルがふさわしいと言える。
 他には、漢字の成り立ち(「部首の不思議」)や常用漢字がどのようにして決められたかなど、目からウロコの内容が目白押し。こういった内容が、第1章に相当する「1時間目」から第6章の「6時間目」、終章の「ホームルーム」に渡って、優しい語り口で語られる。日本人が持っている漢字の「常識」(つまり学校でこれまで習ってきたこと)について見直すことができる上、漢字にも興味が湧くという具合で、さながら理想的な授業が展開されているかのようである。漢字の奥深さに感心しながらも、同時に漢字の悠久の歴史を膚で感じるという内容である。僕自身は、これまでいろいろと面倒さを感じていた漢字に、親近感や新しい魅力を感じるようになった。学童向けみたいな語り口なんで、軽さを感じるかも知れないが、決してないがしろにできない深遠さを持っている本である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『漢字の相談室(本)』
竹林軒出張所『漢字伝来(本)』

# by chikurinken | 2018-05-27 07:06 |

『ビギナーズ・クラシックス 十八史略』(本)

ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 十八史略
竹内弘行著
角川ソフィア文庫

ダイジェストのダイジェスト
これだとほとんど予告編


b0189364_19230905.jpg 『史記』『老子・莊子』などと同様、『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』シリーズの一冊。『十八史略』は、高等学校の漢文の授業でよく取り上げられる素材で、中国の過去の歴史書からいいとこ取りをした、言ってみれば「ダイジェスト書籍」である。著者は南宋時代に官僚だった曾先之だが、彼が官僚として仕えていた南宋は彼の仕官中に滅び、モンゴル人が支配する元(げん)に取って代わられた。そのためもあり、曾先之自身は役職から身を引いて隠遁生活を始めたらしい。その隠遁時代に書かれたのがこの書ということである。こういう背景を考えると、曾先之の中にもこの歴史書を編んだ意図があったとも考えられる(宋王朝の正当性の主張など)わけだが、この『十八史略』は、後にいろいろと他者によって改訂され、最終的に中国史入門書みたいな位置付けの書になる。その後、大陸ではあまり顧みられなくなったが、特に日本で受け入れられ、よく読まれるようになったということである。
 『十八史略』の下敷きになっている歴史書は、『史記』から始まる南宋時代までの書籍で、現在判明しているものは全部で17書。「十八史の略」だから18書ありそうなものだが、17書しか明らかになっていないらしい。この『十八史略』を18番目とするという意図でこのタイトルにしたという説もあるが、この説、ちょっと無理がありそうに思える。
 さてこの『ビギナーズ・クラシックス版十八史略』だが、この本で取り上げられているのは古代から秦末までで、全体のごく一部である。しかもこの本、『十八史略』を謳いながらも、取り上げた部分はすべて『史記』の部分で、そりゃソースは『十八史略』かも知れないが、内容は『史記』である。取り上げ方にもう少し工夫がほしかったところである。
 形式は他の『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』とも共通しており、書き下し文、訳文、解説、白文という並びで各エピソードが紹介されていく。エピソードは全部で21本で、当然のことながら、かなりのダイジェストになっている。先ほども言ったが『十八史略』自体がその性格上ダイジェストと呼べるようなものであり、さらにそのダイジェストということになると、ほとんど予告編といった趣になってしまいそうである。もちろん原文で触れられるんでそれなりに価値はあるが、物足りなさは前によんだ『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 史記』に匹敵する。解説部分はなかなか面白いし、イラストもふんだんに使われているため、本自体に真摯さは感じるが、物足りないという事実は変わらない。それに1つ1つのエピソードがかなり長くなっているため、読み続けるのが少々つらかったということも付け加えておきたい。この本は概ね寝る前に読んでいたんだが、おかげですぐに眠りにつくことができた。そういう点では夜眠れない人に最適の本と言えるかも知れない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 史記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 老子・莊子(本)』
竹林軒出張所『史記 (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 史記(本)』

# by chikurinken | 2018-05-25 07:24 |

『「みんなの学校」がおしえてくれたこと』(本)

「みんなの学校」がおしえてくれたこと
学び合いと育ち合いを見届けた3290日

木村泰子著
小学館

「みんなの学校」までの道のり

b0189364_21503891.jpg 大阪市立大空小学校に密着したドキュメンタリー、『みんなの学校』は、非常に衝撃的であった。子ども本位の目線で学校運営が行われ、問題行動があれば、校長をはじめとする教員や地域の人々が積極的に問題に介入していく姿は、大いに感心する。通常の学校であれば支援が必要とされる生徒も普通学級に入り、クラスや学年の垣根も必要に応じて頻繁に取っ払うなど、これが日本の学校なのかと思うことしきりで、しかもこの大空小学校、公立小学校と来ている。日本の公立施設でも、取り組み次第でこんなに変わることができるという事例を見せつけられた。
 あのドキュメンタリーが撮影されたときに校長を務めていたのが木村泰子氏で、あの学校の特徴は、なんといってもあの校長のリーダーシップによってもたらされたのは明らかである。その後、木村校長は、定年退職したため、その後が気になっていた。しかも教員も半分ぐらいが転勤になったらしいし……もしかして「普通の」学校になってしまったかも知れないと感じていた。また同時に、あの学校がどういういきさつで設立され、どのような過程を経て、あのような姿になったのかも非常に気になる。そこでこの本。木村泰子前校長が、大空小学校の教育方針やその実際、設立のいきさつ、またご本人の修業時代の話などが、話し言葉のような平易な語り口で紹介される。そのため非常に読みやすいが、ところどころ説明が足りず、読んでいてわかりにくい箇所も散見される(概ね推測できる範囲だが)。
 何より面白いのが、大空小学校がこういった姿になるまでの教員たちの奮闘ぶりで、他の学校で大空式の教育を取り入れる上で非常に参考になる部分ではなかろうか。もちろん大空式は一つの理想であり、どの学校でもこういうやり方を取り入れることができるとは思わないが、しかし一方でこうなるまでの過程を示されると意外にどこでもできるんではないかと思わせられる。
 それからドキュメンタリーを見ていたときに気になっていた、生徒の卒業後についても触れられていた。なにしろこういう「特殊な」小学校から「普通の」中学校に進むんだから、さぞかしカルチャーショックが大きいのではないかと勝手に危惧していたが、実は大空小学校では、卒業予定の6年生に対して「普通」の学校での行動についても教えたりするらしい。そのくだりも生徒たちの反応がなかなか面白いんで、興味ある方はぜひこの本を読んでいただきたい。本書によると、卒業生はそれなりに「普通の」中学校に適応しているようだ。ただ、著者が本書でも言っているように、「普通の」学校の方も少し変われば、「普通の」学校の管理型の行動を生徒に教える必要もなくなるし、生徒たちも今よりずっと楽になると思う。「普通の」学校に通っている通常の生徒にとっても、そちらの方が居心地が良いに決まっている。
 ドキュメンタリーもそうだったが、この本も、あちこちにいろいろな歪みが出ている今の教育制度を見直すきっかけになると思う。これは、学校関係者だけでなく、子を持つ親、地域の住民など、多くの人々に当てはまる。僕も含め、いろいろな媒体に触れることで、いろいろと自分の頭で考えて見たいものである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-05-23 06:50 |

『みんなの学校』(ドキュメンタリー)

みんなの学校(2014年・関西テレビ)
監督:真鍋俊永
撮影:大窪秋弘
編集:北山晃
ナレーション:豊田康雄

驚嘆! こんな学校が日本にあるとは……
学校の理想形


b0189364_17172081.jpg 大阪市立大空小学校に長期密着したドキュメンタリー。この小学校、全校生徒220人の、こじんまりした創立わずか7年(撮影時)の学校。普通であれば、小学校を取材して何が面白いのかと感じるところだが、この小学校、普通と違っている。特別支援の生徒が30人近くもいて、その数たるや普通の学校の数倍、しかもそういった生徒も普通の生徒と一緒に授業を受けている。今の「普通の」小学校とは明らかに違う。
 そのあたりは、この学校の校長、木村泰子氏の強力なリーダーシップの賜であることは、このドキュメンタリーを見ていてよくわかるが、その徹底した「子ども本位」の考え方は、他の教員やスタッフにも浸透しており、同時にこの学校を支える近所の住人の人々や保護者も積極的に教育に関わっていることがわかる。初等教育の理想を体現したような学校である。この学校を1年に渡って追い続けたのがこのドキュメンタリーなのである。
 こういう学校だからなのかわからないが、他の学校で問題児扱いされていた子どもが転校してきたりする。この子ども達に対して周囲がどのように接するかというのも映し出されていて、校長と教員たち、まさに全員で体当たりでぶつかっていく姿が見られる。時には思い切り叱ったりするが、「子どものため」という視点が随所に見受けられる。一部の子どもにはかなりの問題行動もあるが、正面からこれを受け入れ、子どもを育てるという視点で接していく。これこそが「教育の原点」であり、日本にもこんな学校があったのかと驚くばかり。
b0189364_17172963.jpg なんといっても、子ども達の問題行動に校長が積極的に関わっているのが印象的である。一方で、新人の教員をビシビシ叱っていたりして、校長の厳しさも伝わってくる。あくまで「子どもが主役」というその視点が見えてきて気持ちいい。なお、この学校、特別支援の生徒が通常のクラスにいるため、普通の生徒たちもこういった生徒を支援したり援助したりする。実は、こういうことこそが教育面で一番重要であり、(支援する側の)子どもたちのためにもなるんではないかと思うが、今の教育現場みたいに個人主義的あるいは利己主義的な発想ばかりになってしまうと、なかなかこれを実現するのは難しいんだろうなと思う。もちろんこういうことを実現しようとすると、教員の負担が今以上に膨らむことはわかるが。だから、それを体現しているという点でも、この大空小学校のすごさがわかる。
 なお、この木村校長、2015年に(おそらく定年で)退職している。この学校のその後も気になるところ。
平成25年度文化庁芸術祭賞テレビ・ドキュメンタリー部門大賞他受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『「みんなの学校」がおしえてくれたこと(本)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『私たちの未来を救って!(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと(本)』

# by chikurinken | 2018-05-21 07:16 | ドキュメンタリー

『五島のトラさん』(ドキュメンタリー)

五島のトラさん(2016年・テレビ長崎)
監督:大浦勝
編集:井上康裕
ナレーション:松平健

トラさんの走馬灯

b0189364_15460364.jpgネタバレ注意!

 長崎の五島列島在住の犬塚虎夫さん(通称トラさん)という市井の人の家族を、なんと22年(!)に渡って撮影し続けるという大河ドキュメンタリー。かつて10年レベルの長期取材が行われたドキュメンタリーをここでも紹介した(『ムツばあさんの秋』『エリックとエリクソン』など)が、22年間に渡って撮影したものは見たことがない。もっとも22年といってもずっと密着していたわけではもちろんなく、この作品も他のドキュメンタリーと同じように、最初に取材して放送し、その数年後にまた取材して放送しというのを繰り返して、結局最後に撮影したのが最初から22年だった、そしてそれを1本のドキュメンタリーにまとめたために、22年間のある家族の歴史がリアルに写されることになったたということなのである。とはいえ22年というのは前代未聞で、おおよそ一世代分であり、その重みはハンパない。
 五島に面白い人がいるということで最初に取材陣が入ったのが1993年で、その人こそ、このドキュメンタリーの主人公、トラさん。彼の家族は妻と7人の子ども達という構成の大家族であった。トラさんは製麺業を営んでいて朝からウドンをこねている。この家族が他と少々異なるのは、7人の子ども達に早朝から仕事を手伝わせるということで、それに対しては年齢や仕事に応じたバイト代という名の小遣いを渡す。もちろんこれはトラさんの教育の一環であり、お金を稼ぐということがどういうことか知ってもらいたいという思いからである。子どもの方は、中には朝からの労働を嫌がっている子もいるが、概ね割合積極的に関わっている。ちなみにこのとき長男は高校三年、一番下の子ども(三男)は2歳であった。この2歳のボクも仕事を手伝っていた。
 撮影が続くと、子ども達もどんどん成長し、五島で就職する者(トラさんのたっての意向が強く働いている)や、進学、就職などで都市部に出ていく者が出てくる。中には駆け落ちのようにして出ていく女の子もいて、家族の中に小さな波乱が生まれてくる。小さな波乱はあるが、それぞれの子ども達も自分の生活を生きるようになり、トラさんにとって嬉しいことも悲しいこともいろいろと起こる。トラさん自身は製麺業以外に製塩業にも手を広げ意欲的な面を見せる。一方で酒量が増え、身体に不調も出てくる……という按配である。
b0189364_15460836.jpg 子どもが遠くの街に出ていくあたりは、さだまさしの『案山子』みたいな世界になっていくんだが、バックに流れる音楽も案の定『案山子』で、考えるのは作る側も見る側も同じということになる。このあたりのエピソードについては2003年に『故郷〜娘の旅立ち〜』というタイトルでドラマ化されたらしいんで、このトラさん一家、以外に有名だったのかも知れない(このドラマの主役が、このドキュメンタリーのナレーターの松平健)。このあたりまではなんとなく「ビッグダディ」を彷彿させるような家族ではある。
 が、このトラさん、このドキュメンタリーの中で亡くなってしまう。ということで、2時間のドキュメンタリーの中に、ある男の壮年期から死期までが映し出され、その男が作った家族の歴史がこの2時間の中に投影されるということになる。このあたりがこのドキュメンタリーの最大の魅力になる。かつて放送されたという3本ないし4本分の放送を2時間に凝縮したため、時間をなぞるような部分が若干あって多少説明的になっているのが残念だが、一方で見方を変えると、トラさんが死ぬ直前に見た、いわゆる「走馬灯」のようにも感じられる。「走馬灯」を再現したドキュメンタリーなどこれまで存在しないし、それは、やはり22年という歳月と魅力的な被写体があってのことと言える。
 なお、この作品、トラさんの死後も出てきて、これなどはトラさんがあの世から見下ろした(その後の)この世みたいな印象さえ与える。視聴者はトラさんの立場に同化してこれを見るわけで、これも非常に面白い趣向になった。
 いずれにしても時間が持つ重みは、特にドキュメンタリーでは非常に大きいということを再発見させてくれた、そういうドキュメンタリーである。十分堪能した。
2017年文化庁映画賞文化記録映画部門大賞他受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『タイマグラばあちゃん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『地方発ドキュメンタリー(ドキュメンタリー)』
竹林軒『エリックとエリクソン』
竹林軒出張所『バーミヤンの少年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『瓦と砂金 働く子供たちの13年後(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-05-19 07:45 | ドキュメンタリー

『見えざる病原体』(ドキュメンタリー)

見えざる病原体
(2017年・米Sierra Tango Productions/Vulcan Productions・独WDR)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

これは果たして
真摯なドキュメンタリーなのか


b0189364_18581707.jpg 新種の感染症の恐怖について語るドキュメンタリー。
 エボラ出血熱、ジカ熱、新型インフルエンザなどが話の中心で、2014年の西アフリカでのエボラ出血熱流行、ブラジルでのジカ熱流行(それに伴う小児の小頭症の増加)などが俎上に上がる。また、SNSなどを通じて、必要以上に恐怖が増大し、パニックが起こることに警鐘を鳴らす。
 確かに言わんとすることはわかるが、むしろこのドキュメンタリー自体、いたずらに恐怖を煽るかのような様子が見える。エボラ出血熱については、多数の被害者が出はしたが翌年に終息しているし、流行についても局地的だったわけで、いたずらに恐怖を煽っているようにも受け取れる。ジカ熱についてもブラジルで被害者は多数出たらしいが、妊婦以外大事になることはないため、それなりの管理を行えば対処できるように思う。エボラ熱についてもジカ熱についても、紹介される映像がショッキングでかなり驚くが、あまり健全でない意図も少し感じる。
 むしろ、アフリカとブラジルの流行がどういう過程で進み、どういう対策がとられ、どのように終息したかなどについて詳細に伝えてほしかったところで、肝心の部分を欠いているという感触が残る。正直、取るに足りないドキュメンタリーであった。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (1)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『あなたの中のミクロの世界 (2)(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-05-17 07:57 | ドキュメンタリー

『歴史は女で作られる』(映画)

歴史は女で作られる(1956年・仏)
監督:マックス・オフュルス
原作:セシル・サン=ローラン
脚本:アネット・ワドマン、マックス・オフュルス
出演:マルティーヌ・キャロル、ピーター・ユスティノフ、アントン・ウォルブルック、オスカー・ウェルナー

なぜ録画したのか憶えていない

b0189364_19462442.jpg 伝説的ダンサー、ローラ・モンテスの伝記的映画。
 ローラ・モンテスは、音楽家のフランツ・リストやバイエルン王ルートヴィヒ1世などの愛人だったことで有名な人らしい。そのローラ・モンテスが、どのようにしてさまざまな名士を惹きつけたかというのがこの映画の柱の部分だが、しかし正直言って、あまり興味を引かれない。そもそもローラ・モンテス自体まったく知らない存在だったし、映画も取り立ててどうという作品ではない。美術や衣装には見るべきものがあって、時代考証なども優れているという印象ではあるが、話自体がどうということもないし、かなり退屈したというのが本当のところである。サーカス団員に身を落としたモンテスの視点で、これまでの来し方を思い出すという回想形式のストーリーは凝ってはいるが、内容が取るに足りないため、むしろ空回りの印象しか残らない。
 この映画、随分前にCSで放送されたときに録画していたものだが、なぜ録画したのかすらよく憶えていない。見る必要はなかったかなと今にして思う。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『マーラー 君に捧げるアダージョ(映画)』
竹林軒出張所『アルマ・マーラー ウィーン式恋愛術(本)』
竹林軒出張所『ルートヴィヒ(映画)』

# by chikurinken | 2018-05-15 07:46 | 映画

『パットン大戦車軍団』(映画)

パットン大戦車軍団(1970年・米)
監督:フランクリン・J・シャフナー
脚本:フランシス・フォード・コッポラ、エドマンド・H・ノース
出演:ジョージ・C・スコット、カール・マルデン、マイケル・ストロング、カール・ミヒャエル・フォーグラー、スティーヴン・ヤング

周囲とぶつかり合う1人の奇才軍人の肖像

b0189364_16295138.jpg 第二次大戦時、ヨーロッパ戦線で活躍したジョージ・パットン将軍の戦役を描いた映画。
 パットンといえば、抜群の戦功を上げているが、一方で舌禍や問題行動が多く、そういう点では人間的に興味深い存在である。そのパットンを演じるのが、ジョージ・C・スコットで、彼もアカデミー賞主演男優賞を受賞しながら受賞自体を拒否するというなかなか見上げた男で、パットンに通じるものがあるようなないような。少なくともこの映画で描かれるパットンとは同類の人間のような気がする。
 映画は、アフリカ戦線の第2軍団の指揮を任され、この弱小軍団をたたき直すところから始まり、その後の舌禍事件や神経症兵士に対する殴打事件、それに伴う左遷などが描かれ、ストーリーは割合オーソドックスである。パットンの魅力は随所で描写され、頑固でわがままではあるが一方で愛すべき人物として描かれる。
 当然戦闘シーンもあちこちに出てきて、迫力のある映像が展開される。このパットン自身がいかにも職業軍人という人で、むしろ戦争大好きであるように描かれる(そういうセリフもある)ため、反戦メッセージが前面に出てくるという類の映画ではない。
 映画としてはわかりやすく、戦闘の展開も、アフリカ戦線や西部戦線について若干の知識があれば、それほど複雑すぎることもない。周囲とぶつかり合う1人の魅力的な才人という構図がこの映画のベースの部分にあり、こういったモチーフはいろいろな時代、いろいろな状況で見られるものであって、ドラマの主題としては面白いものと言える。したがって主人公を野球やフットボールの監督なんかに置き換えても、同じような話を作ることができる。実際この映画で描かれるパットン、どこかアメリカ人の熱血監督を彷彿させる。この間、NHK-BSの『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』で紹介されていた元広島東洋カープ監督のジョー・ルーツなんかも似たような人物像であった(ジョー・ルーツは1975年、万年Bクラスの弱小チーム、広島カープの監督になり、徹底的な意識改革をして、同年同チームのリーグ初優勝を実現する。もっともルーツは開幕してから1週間で問題行動で解任されているが、ルーツ・イズムみたいなものはチームに浸透していたという)。
1970年アカデミー作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『D-Day 壮絶なる戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プライベート・ライアン(映画)』

# by chikurinken | 2018-05-13 07:29 | 映画

『シャイアン』(映画)

シャイアン(1964年・米)
監督:ジョン・フォード
原作:マリ・サンドス
脚本:ジェームズ・R・ウェッブ
出演:リチャード・ウィドマーク、キャロル・ベイカー、ジェームズ・スチュワート、アーサー・ケネディ、エドワード・G・ロビンソン

意欲的だが退屈

b0189364_15445790.jpg ジョン・フォードの西部劇だが、先住民(インディアン)側の視点から描かれるという少し変わった趣向の映画。
 先住民のシャイアン族は、(「条約」により)強制的に狭い居留地に押し込められていたが、この「条約」を守らない米政府当局の横暴に反旗を翻し、居留地から集団で逃亡した。その後、彼らの主張は一部認められ、居留地を彼らの母なる土地であるワイオミングに帰還することが米当局によって認められることになるが、その過程を映画化したのがこの作品である。
 西部劇ではそれまでいつも悪者として成敗されていたインディアンからの視点で描くというのは、社会的にも歴史的にも非常に価値があったが、しかしなにしろ映画自体がかなり退屈で、随分間延びした印象を受ける。もちろんジョン・フォードらしい迫力のあるドンパチもあるが、シャイアンが飢えに苦しめられ行軍するというシーンが続き(しかもあまりリアリティのある描き方ではない)、追っ手の米軍側の描写もなんだかはっきりしない。途中、ワイアット・アープやドク・ホリデイまで出てきて、コントまがいのシーンを演じたりもする。サービスのつもりかも知れないが、冴えないシーンで、不要と感じる。
 監督はジョン・フォードだが、『荒野の決闘』『駅馬車』のイメージではなく、むしろ『タバコ・ロード』のイメージに近い。いろいろな箇所で質の低さを感じる。虐げられる側からの視点はユニークだったが、企画倒れで終わってしまったという映画で、見終わるのに苦労した(小分けにして結局3日間で見終わった。途中何度もやめようかと思った)。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『ジェロニモ(映画)』
竹林軒出張所『荒野の決闘(映画)』
竹林軒出張所『駅馬車(映画)』
竹林軒出張所『黄色いリボン(映画)』
竹林軒出張所『リオ・グランデの砦(映画)』
竹林軒出張所『ウィンチェスター銃'73(映画)』
竹林軒出張所『タバコ・ロード(映画)』

# by chikurinken | 2018-05-11 15:46 | 映画

『シェーン』(映画)

シェーン(1953年・米)
監督:ジョージ・スティーヴンス
原作:ジャック・シェーファー
脚本:A・B・ガスリー・Jr
出演:アラン・ラッド、ヴァン・ヘフリン、ジーン・アーサー、ブランドン・デ・ワイルド、ウォルター・ジャック・パランス、エミール・メイヤー

いろいろと思い違いが多かった映画

b0189364_17541216.jpg 言わずと知れた西部劇の傑作。悪者に苦しめられているある家族の元に、訳ありの流れ者がやって来て悪者をやっつけてくれるという、映画の原点みたいな勧善懲悪のストーリー。他の映画でも似たようなストーリーは繰り返し使われ、中にはあきらかにこの映画を意識したようなものもある(『遙かなる山の呼び声』『タンポポ』など)。
 30年くらい前にNHKで見ており、モノクロ映画だとばかり思い込んでいたが、思い違いであった。かなり鮮やかなカラーである。最後のシーンは非常に有名で、ことさら触れるのも今さらではあるが、「シェーン、カムバック」というアレである。夜の設定なんだが、いわゆる「アメリカの夜」(昼間撮影して、フィルムに夜であるかのような効果を施す方法)であるため、スチル写真やなんかで見ると夜に見えない。僕自身も昼だとばかり思い込んでいたのだった。いろいろと思い違いの多い映画である。
 総じて、ストーリーにできすぎ感のあるエンタテイメント作品であり、あれこれ考えずに楽しめという類の映画である。ただ、設定上面白い狂言回しであるはずの少年ジョー役のヴァン・ヘフリンの演技がちょっとナニで、何だか気恥ずかしかった。
1953年アカデミー賞撮影賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』
竹林軒出張所『タンポポ(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 唐獅子牡丹(映画)』
竹林軒出張所『荒野の決闘(映画)』
竹林軒出張所『駅馬車(映画)』

# by chikurinken | 2018-05-10 11:52 | 映画

『真昼の決闘』(映画)

真昼の決闘(1952年・米)
監督:フレッド・ジンネマン
原作:ジョン・W・カニンガム
脚本:カール・フォアマン
音楽:ディミトリ・ティオムキン
出演:ゲイリー・クーパー、グレース・ケリー、トーマス・ミッチェル、ロイド・ブリッジス、ケティ・フラド、アイアン・マクドナルド

昼下りの出来事

b0189364_17140429.jpg 西部劇だが、スーパーヒーローが悪者をやっつけるというような単純な話ではない。
 かつて主人公の保安官が逮捕し監獄送りにした元死刑囚が、減刑され出所して、この保安官に報復するため仲間と戻ってくるというのが話の始まり。かつてこの町の治安を立て直した功労者だったこの保安官だが、住民たちは保安官に協力しようとせず、結局保安官1人で4人の敵に対処しなければならなくなるという展開になる。昨今のストーカー事件を思い起こさせるが、何かことが起こった場合、自分の身が可愛くなるという町の人々の小市民的な行動にリアリティがある。何でも当時、赤狩りの時代だったそうで、そういう風潮を皮肉っているのではないかという話もある(監督は否定しているらしいが)。
 1人で立ち向かう保安官をゲイリー・クーパーが演じ、従来のかっこいいクーパーと違って、周りに助けを求めながらちょっとびびっている中年男を好演している。この保安官の新妻役はグレース・ケリーだが、2人の年がかなり離れていて相当違和感がある。ゲイリー・クーパーは『昼下りの情事』でもやけに年の離れた女優(オードリー・ヘップバーン)が相手役だったが、当時の客はこういう状況に違和感を感じなかったんだろうか。
 映画のストーリーは、ほぼ映画と同じ時間軸で展開され、「時」、「場」、「筋」がすべて同じという三一致の法則を忠実に踏襲している。そのため、あらゆる部分にリアリティがもたらされ、同時にそれが緊迫感を生み出すという効果が出ている。大変よくできたシナリオの映画であると言える。
 なお『白昼の決闘』というタイトルの西部劇映画もあるが、こちらは別物。大変紛らわしい。個人的な見解としては、原題の「ハイヌーン」で良いんじゃないかと思っている。特にこの映画の場合、ディミトリ・ティオムキンの主題歌が有名で、しかも日本では「ハイ・ヌーン」というタイトルで知られているわけだし。
 今回見たのは「4Kリストア版」で、そのためか画面が非常にきれいで、この種の古い映画に見られる画面のちらつきなどが一切なかった。こちらもポイントが高い。
1952年アカデミー主演男優賞、歌曲賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『昼下りの情事(映画)』
竹林軒出張所『わが命つきるとも(映画)』
竹林軒出張所『荒野の決闘(映画)』

# by chikurinken | 2018-05-09 07:13 | 映画

『ジェルミナル』(映画)

ジェルミナル(1993・仏)
監督:クロード・ベリ
原作:エミール・ゾラ
脚本:クロード・ベリ、アルレット・ラングマン
出演:ルノー、ジェラール・ドパルデュー、ミュウ=ミュウ、ジュディット・アンリ、ジャン・カルメ、ジャン=ロジェ・ミロ

自然主義黎明期の作品

b0189364_17121414.jpg エミール・ゾラの代表作『ジェルミナール』の映画化作品。1993年製作の仏製映画で、製作費に35億円投じた大作だそうだ。
 1860年代のフランスの炭坑での、悲惨な労働者の生活と労働が描かれる自然主義の作品で、内容はそのために非常に暗く重い。主人公である流れ者の元技師、エチエンヌ(ルノー)が、ある炭坑に流れ着いて仕事を得るが、そこの経営者が労働者の待遇を理不尽に改悪する。エチエンヌの主張を受け入れた労働者たちはストライキを打つが、ストが泥沼化し長期化する……、というふうにストーリーは流れていく。万国の労働者と協力して資本家の横暴に対応すべきというような論も出てきて、何やらプロレタリア文学みたいな様相さえ呈してくる。実際にここで描かれる労働者の状況は過酷で、19世紀であればこういった状況が起こっても不思議はない。20世紀日本の炭鉱労働者の似たような実体についても、あれやこれやの文学、映画などの芸術作品で描かれているわけで、そういう点では目新しさは感じない。もっともこの『ジェルミナール』が、そういった作品の元祖であることは容易に想像できるが。
 映画では、炭坑のさまざまな設備や、労働者たちの生活圏がリアルに再現されており、金をかけていることは窺われる。演出は正統的で、いかにも文学作品の映画化といった趣である。原作自体それなりに人気のある作品なので、手を入れる必要がなかったのかどうだか知らないが、奇を衒った部分もなく、映画自体はきわめてオーソドックスな印象がある。
 なお、この作品の主人公、エチエンヌは、同じゾラの『居酒屋』に登場する子どもであり、『ジェルミナール』はその後日談という位置付けだそうである。ゾラは、こういった一連の作品群(ルーゴン・マッカール叢書)で当時のフランス下層社会の悲惨さをこれでもかという具合に描き出した。その社会的影響はすさまじく、結果的に自然主義が全世界に広がることになる。
 全20巻で構成されるルーゴン・マッカール叢書を読んでいくというのも大変な作業であるため、前にも書いたが、僕自身はなるべく映画やドラマで見てみようと思っている。ゾラ原作の映画についても、今回は『居酒屋』『嘆きのテレーズ』に続いて3作目で、本当はもっとたくさん見たいと思っているんだが、映画やドラマ自体、そんなに数があるわけではない。いや実際にはあるのかも知れないが、日本ですぐに見るというわけには行かないようである。『獣人』については、ジャン・ギャバン主演の有名な映画があるが、他の作品については寡聞にして知らない。存在するのならばぜひ見てみたいと思っている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『嘆きのテレーズ(映画)』
竹林軒出張所『レ・ミゼラブル (1)〜(4)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-05-07 07:11 | 映画

『阿修羅のごとく』(1)〜(3)(ドラマ)

阿修羅のごとく (1)〜(3)(1979年・NHK)
演出:和田勉、高橋康夫
脚本:向田邦子
出演:八千草薫、いしだあゆみ、加藤治子、風吹ジュン、緒形拳、佐分利信、大路三千緒、菅原謙次、宇崎竜童、三條美紀

向田邦子の出世作
特異な世界を持つドラマ


b0189364_17075206.jpg 1979年にNHK『土曜ドラマ』の「向田邦子シリーズ」として放送されたドラマ。当時からかなり話題になっており、言ってみれば向田邦子の名前が世に出た作品ではないかと思う。
 初回放送時僕は見ていないが、当時からかなり話題になっていたことは記憶にあり、特にテーマ音楽が特異で(ドラマを見ていないにもかかわらず)メロディが永らく記憶に残っていた。トルコの陸軍行進曲の「ジェッディン・デデン」という曲なんだが、よくこの曲を選んだなというようなかなり毛色の変わった曲である。タイトルの「阿修羅のごとく」とこの曲でこのドラマの成功は約束されたようなもので、この2つがドラマの性格、雰囲気を特徴付けている。ちなみにこの曲、『トルコの軍楽』というCDで聞くことができる。
 ストーリーは、ホームドラマの延長で、さして大きな事件は起きない。ただ、当時の一般的なホームドラマのように毒にも薬にもならないような軽ーい話ではなく、人の中の闇が明らかにされるようなちょっと毒を含んだような話(ということは毒にはなっているわけだ)で、あまり愉快になるような話ではない。主人公は4人姉妹で、彼女らの70歳の父親に不倫相手がいたということが発覚することから話が始まる。一方でそれぞれの4人姉妹も恋愛問題を抱えており、そのうち3人の恋愛は不倫と関係していて、四者四様の不倫問題があぶり出されていくというストーリー。
 このドラマ、20年ほど前に一度見ているが、ストーリーはほとんど忘れていたのだった。とは言え、身辺描写みたいなものが主で、ドラマチックな展開が少ないことを考えると、それも十分納得がいく。今回もいずれ近いうちにストーリーは忘れるかも知れないが、印象的なシーンやセリフがあるため、そういうものは頭に残るんではないかと思う。そういう意味では、このドラマ、ストーリーを超えた(つまりストーリーだけに留まらない)ドラマということで、やはりテレビドラマとしてはかなり特異な存在である。それは間違いない。
b0189364_17084715.jpg キャストは、今考えると超豪華で、しかも芸達者な役者ばかりである。中でも(当時まだ俳優というよりミュージシャンだった)宇崎竜童が好演で、ベテラン俳優を相手に丁々発止の見事な演技を展開している。セリフについては、(男には気が付かない)女性的視点が際立ったようなものが多く、男の目からは(少なくとも僕の目からは)なかなかセリフの魅力に気が付かない。セリフでストーリーを前にどんどん動かしていくというより、世間話みたいなセリフが非常に多く、セリフの面白さがわからなければ退屈するかも知れない。そういう点でも女性的な感じがする。家事や食事のシーンが多いのも向田作品に特有で、そういうことを考え合わせると、女性受けが良いドラマではないかと思う。前見たときは、あまり良さがわからなかったし、今もどの程度、このドラマの女性的感性の魅力に気付いているか(我ながら)疑問である。いずれにしても、向田邦子自体、ドラマ史の中ではかなり特異な存在であることは間違いあるまい。
★★★☆

追記:
 この時代のドラマの特徴だが、例によってドラマ内で何度も鳴る(当時の)電話の音がけたたましい。だが、電話の呼び出し音が「ジェッディン・デデン」の最初の音と同じ音程で、もしかしてそういう発想でこの曲を選んだのかと勘ぐってしまった。なお電話は、このドラマではかなり重要なモチーフになっている。

参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』

# by chikurinken | 2018-05-05 07:07 | ドラマ

『あ・うん』(1)〜(4)(ドラマ)

あ・うん (1)〜(4)(1980年・NHK)
演出:深町幸男、渡辺丈太
脚本:向田邦子
出演:フランキー堺、杉浦直樹、吉村実子、岸本加世子、志村喬、岸田今日子、池波志乃、殿山泰司

ライターの作家性が存分に発揮されたドラマ

b0189364_22010329.jpg 向田邦子の代表作ドラマ。1980年にNHKの『ドラマ人間模様』の枠で放送された。向田邦子は少し前にNHKで『阿修羅のごとく』を発表しており、この作も『阿修羅のごとく』と同様に作家性の強い作品である。当時シナリオライターの作家性が重要視され始めた時代で、エンタテイメントのみではない、こういった文学的な作品も頻繁に放送されるようになっていた。
 文学的な要素は各回の副題にも反映されており、第一回「こま犬」、第二回「蝶々」、第三回「青りんご」、最終回「弥次郎兵衛」と象徴的なタイトルが並んでいる。優れた作家が自身の書きたいものを書ける、こういった環境があるということは、単に作家側だけでなく、視聴者側にとっても大変ありがたい有意義なことで、文学的要素を持つこういったドラマが作れない昨今の状況ははなはだ寂しい限りである。
 とはいうものの、エンタテイメントの要素がかくも少ないと、連続で見続けるというのが少々苦痛で、今回BSでまとめて放送されたものを録画して見たんだが、全部見終わるのにかなり時間がかかったのだった。見ていて面白いし質が高いのもよくわかるが、続きを見ようという食指が動かない。僕は放送時にこのドラマを見ていないが、たとえ第1回目を見ていたとしても、おそらく続けて見なかったんじゃないかと思う。
 向田はその後、TBSでもこういった単発ドラマを続けて発表していくんだが、こういった作品についても、DVDで見られる環境にはあるが実際のところなかなか見ようという気にならない。向田作品自体が、あまり僕の好みではないのだろう。評価はするが好みは別ということである。
b0189364_22011369.jpg さてこのドラマ、若い娘の視点で、昭和初期(昭和十年代)のとある家族の肖像を描くというもので、そのあたりは後のTBSの単発向田ドラマ群とも共通するテーマである。父(フランキー堺)、それからその父と異常なほど仲の良い男(杉浦直樹)の関係と、その父の友人が実は母(吉村実子)に思いを寄せているというような人間関係が描かれる。まさに「人間模様」のドラマである。同時に山師の祖父(志村喬)が出てきて家族を翻弄する他、主人公の娘自身も帝大の学生と付き合うようになるなど、家族模様が少しずつ動いていく様子が、非常に細やかに描かれていく。娘の視点であるため、ナレーションは娘役の岸本加世子が行っているが、ため息交じりみたいな切ない語り口で実に良い味を出している。岸本加世子は演技も秀逸で、このドラマの大きな魅力になっている。演技については他の面々も同様に上質で、テレビ・ドラマのレベルでは最高水準と言える。この時代のドラマのすごさがよくわかるというものである。
b0189364_22022123.jpg 全編バロック音楽が流れるが、テーマ曲はあの暗い「アルビノーニのアダージョ」。このドラマの雰囲気を規定している。この音楽の暗さがこのドラマに合っているかどうかは何とも言えないが、岸本加世子の語りも同じような雰囲気なので、作り手側はこういった雰囲気を求めていたのではないかと思われる。
 なおこの『あ・うん』だが、1989年に映画化されて、主役の3人を板東英二、高倉健、富司純子が演じた(監督:降旗康男)。もっともあれは翻案に失敗したひどい作と言える。僕は映画版しか見ていなかったために、ドラマ版も今まであまり見る気になれなかったが、ドラマ版の方が断然優れている。だが優れていたとしても、好きかどうかは先ほども言ったようにまた別の話なのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』

# by chikurinken | 2018-05-03 07:00 | ドラマ

『ビギナーズ・クラシックス 老子・莊子』(本)

ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 老子・莊子
野村茂夫著
角川ソフィア文庫

よくできた「老荘」入門書

b0189364_18425047.jpg これも『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』シリーズで、なんと『老子』と『莊子』の2書を1冊にまとめるという大胆不敵な企画である。このシリーズ、『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 史記』のときもそうだったが、原文が漢文であり、それぞれの項ごとに白文、書き下し文、訳文、解説文が並べられているため、誌面を結構消費する。前にも書いたが『史記』の場合もわずか3つのエピソードを、しかもごく一部取り上げるだけで1冊終わってしまっている。それなのに、2種類の書をまとめて取り上げるとは、まさに「大胆不敵」!
 いずれにしろ、2種類の書を取り上げたこの本もやはり、『史記』同様スーパーダイジェストにならざるを得ない。とは言え『老子』については、元々がすべてをあわせても五千数百字の書で、1章当たり百文字程度の章が全部で81章と、比較的短い。本書では、『老子』についてはほぼ半分の38章が取り上げられているため、『ビギナーズ・クラシックス』シリーズとしては上出来の部類に入る。実際この本でも『老子』の章の方が『荘子』の章より長いと来ている。その辺を勘案すると『老子』重視と言えるわけだ。もっともそれなら別々にして『老子』を全部取り上げたら良さそうなものだが、やはり『荘子』も捨てがたかったということなのだろう。実際、『老子』と『荘子』は世間では道家あるいは老荘思想としてひとまとめで語られることが多いため、それも頷けるし、本書の中でも両者に繋がりを感じさせる部分は多い。本の完成度より、あくまで入門書を目指すという志向であれば、それについてこちらがどうこう言える筋のものでもあるまい。
b0189364_07263359.jpg このように『老子』についてはある程度の分量を確保できているが、一方の『荘子』は、元が大著であるため、かなりのダイジェストになっている。『荘子』は元々「内編」7編、「外編」15編、「雑編」11編に別れており(そのうち莊子のオリジナルと言える部分は内編のみで、後は後代が追加したものとされている)、本書ではそのうちのごく一部が取り上げられている。ごく一部ではあるが、莊子の特徴、面白さみたいなものは割合良く表現されているため、物足りなさは『ビギナーズ・クラシックス 史記』ほどではない。『老子』と『荘子』にかなり興味を引かれるのは事実である。実際、取り上げられた箇所やその解説は魅力的である。入門書としては、必要十分とはなかなか言いづらいが、「必要」なところはしっかり抑えられているという印象で、そういう意味で優れた入門書だと言える。
 かつて『マンガ 老荘の思想』という本を買って読んでみたが、あれはどうしようもない代物で、腹立ち紛れにすぐに捨てたほどである。あのマンガ版のことに思いを馳せると、老荘の入門書を作ること自体がかなり難しいということがわかるが、本書についてはそのあたりはうまく処理できているように感じる。少なくとも僕はかなり興味をもったため、本書を読んだ後、全編が載っている『老子』を買ったのだった。これこそが正しいアプローチではないか。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 史記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 十八史略(本)』
竹林軒出張所『マンガ 孔子の思想(本)』

# by chikurinken | 2018-05-01 07:42 |