ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『わが青春のとき』(2)〜(8)(ドラマ)

わが青春のとき (2)〜(8)(1970年・国際放映、日本テレビ)
原作:A・J・クローニン
脚本:倉本聰
演出:高橋繁男、今井雄五郎
音楽:宇野誠一郎
出演:石坂浩二、樫山文枝、塚本信夫、小栗一也、笠智衆、岩本多代、大滝秀治、左時枝、下元勉

窮屈な世界にもがきながらも
自分を通していく姿が魅力的


b0189364_18494145.jpg 1970年に日本テレビで放送されたドラマで、原作はクローニンというスコットランドの作家の作品(『青春の生きかた』)。脚本は倉本聰。
 第1回目を見た段階で大学の医局の閉鎖性をテーマにしたドラマだと思っていたが、それは序盤で終わった。風土病である首木病の研究に没頭していた若い研究者(石坂浩二)は、それが原因で医局の教授と対立し大学をクビになるわけだが、その後は診療所を渡り歩きながらも、自分の研究に邁進する。同時に、研究のせいで診療所の仕事をクビになったり、好きな女性(樫山文枝)とも別れたりして(彼女を取るか研究を取るかみたいに二者択一を迫られたりする)、いろいろなものを失う。まさに青春、まさに若気の至りで、タイトルがそのテーマを物語っている。背景にあるのは医学界の閉鎖性であるが、「すべてを犠牲にしても自己実現に突き進む若者」という構図がテーマになっている。主人公には厳しい現実が次々に襲いかかってきて、ストーリーとしても意外性のある展開になる。よくできたストーリーだと思う。
 また映像がかなり大胆で、いろいろと実験的なショットが出てくる。フォーカスを近景、遠景で交互に変えていくというような映像は当時一般的だったのかあまり憶えていないが、今見ると斬新にも思える。イメージ映像も多彩で、撮影監督がかなりがんばっているという印象である。
 キャストは前にも書いたようにかなり地味で、顔は見たことがあるが名前を知らないというバイプレーヤー俳優が多く出演している。有名なのは主役の2人と、あとは笠智衆と左時枝ぐらいか。大滝秀治が1回だけゲスト的に出て来るが、この頃の大滝秀治はそれほど名前のある役者ではなかったはずで(彼の名前が売れるようになったのは『前略おふくろ様』以降だと思う)それを思うと地味度も一層増す。もっとも、どの役者も皆うまく、派手さがないとしてもまったくドラマの上では構わないわけだ。とは言うものの、主演の2人は直前の大河ドラマ『天と地と』で主人公とその相手役を演じていたらしく、キャスティングの話題性は当時それなりにあったのかも知れない。
b0189364_18494595.jpg どの登場人物も医学用語を駆使し、本物の医学関係者のように見えるのも、演出の妙なのではないかと思う。特に笠智衆は、主人公の恩師の研究者(少し現実離れした変わった研究者)を好演していて実にお見事。奥村チヨが好きなどという遊びの設定も面白い。奥村チヨをはじめとして、当時の流行歌があちこちで流れるのも懐かしさを感じさせる。
 時代のせいか、全体的に展開が遅めで、今の観点から見ると少々いらだたしい部分もあるが、後半は一気に話が流れていき、映像の斬新さもあって、なかなか見せるドラマになっている。若者が窮屈な世界の中でもがきながらも自分を通していく姿は魅力的に映る。題材も目新しいものだし、予想できないストーリー展開も素晴らしい。一見地味で、最初は見続けるのに少々骨が折れる気もするが、見始めたら止められなくなる。あまり有名な作品ではないが、相当な快作と言える。なお、後の倉本聰作品に見られるような「倉本色」はまったくない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『わが青春のとき (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『君は海を見たか (70年版) (6)〜(8)(ドラマ)』
竹林軒出張所『君は海を見たか (1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ライスカレー (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』

# by chikurinken | 2019-05-04 07:49 | ドラマ

『まんが道』(1)、(2)(ドラマ)

まんが道 (1)、(2)(1986年・NHK)
原作:藤子不二雄
脚本:大久保昌一良
演出:安江進、森平人
出演:竹本孝之、長江健次、冨士眞奈美、天地総子、磯崎洋介、蟹江敬三、小倉一郎、木原光知子、イッセー尾形、久米明、玉川良一、会沢朋子

熱い青春が心地良い

b0189364_16554675.jpg安孫子素雄(藤子不二雄A)が、マンガ家になるまでの青春記を描いたのが『まんが道』という作品で、元々はマンガ作品である(『まんが道』の最初はマンガ作品ではなくエッセイ風だったと記憶している)。青春記、しかもその後大成功した人の青春記であることもあり、かなり人気が高いマンガであったため、1986年にドラマ化され、NHKの『銀河テレビ小説』枠で放送された。
 このドラマ、過去数回見ているにもかかわらず、もう一回見たいもんであることよと思っていたんだが、あいにくレンタルしているところがなく、結局そのまま……という状態だった。そんな折、このたびBSトゥエルビとかいう何だか存在意義すらよくわからない放送局(テレビショッピングと韓国ドラマばかりやっているような局だ)で再放送されることになった。今回はそれを見ることができたというわけ。なおこのBSトゥエルビ、最近、これまでの活動を反省したのか知らないが、『早春スケッチブック』や『傷だらけの天使』まで放送することにしているらしい。
 ドラマ版の『まんが道』であるが、『銀河テレビ小説』枠ということで、朝のテレビ小説枠と同様、演出が明朗単純で、誰が見ても楽しめるようなタイプのややオーバーアクトな作品である。僕はこういう演出はまったく好きではないが、しかしストーリー自体が結構しっかりできていて、86年の初回放送時に見たときも内容に随分感心したという記憶がある。また、マンガ家になるという夢を追う主人公の二人の情熱が熱くて、いかにも青春記という感じの一途さが心地良く、見ていてものすごく気持ちが良い。それに今見るとキャストが超豪華で、15分の連続ドラマとは思えないほどである。久米明や玉川良一などの渋い役者に加えて、天地総子、木原光知子、イッセー尾形あたりもかなり異色の配役である。しかもこの1年後に作られた続編(『青春編』)では、森高千里、鈴木保奈美、水前寺清子まで登場すると来ている。
 『まんが道』は、先ほども述べたように安孫子素雄の自伝的作品で、この作品では安孫子素雄が「満賀道雄」(竹本孝之)、相棒の藤本弘が「才野茂」(長江健次)という名前で描かれている。キャラクターは、原作では満賀道雄がメガネでチビの少年、才野茂がのっぽの少年として描かれているが、このドラマではキャラクターが入れ替わっている。つまり長江健次が演じる才野茂の方が、メガネの少年なんである。これまで何度もこのドラマを見ていた(しかも原作も読んでいた)にもかかわらず、このことに今までまったく気付かなかった。今まで何を見ていたのかと突っ込まれてもしようがない。
 現時点では第1回と第2回が放送されたところだが、この後、東京に出ていって手塚治虫(江守徹)に会い、マンガ家としての人生が開けていくというふうに話が進んでいく。先ほども言ったように、ストーリー以外にキャスティングも非常に面白くて見所が多いドラマだが、何と言っても夢を追う主人公2人の熱さが最大の見所である。次の回も早く見たいところだが、なんと次の放送は2週間だか3週間後だそうな。初回放送時は全15話が3週間で完結したんだがね。つまらん番組ばっかりやってないで、こういう作品をちゃんとした形式で放送してほしいもんだ(初回放送時と同じように1日15分を3週間で放送するというのが理想である)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『トキワ荘青春日記―いつも隣に仲間がいた…(本)』
竹林軒出張所『夢追い漫画家60年 (100年インタビュー)(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の青春(映画)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道(本)』
竹林軒出張所『烏城物語(本)』

# by chikurinken | 2019-05-02 07:55 | ドラマ

『週末、森で』(本)

週末、森で
益田ミリ著
幻冬舎文庫

『すーちゃん』を焼き直してみた

b0189364_15493115.jpg 『すーちゃん』の益田ミリが、田舎暮らしを始めた若い独身女性とその身辺について描いたマンガ。田舎暮らしを始めたのは早川という女性で、翻訳をやっているという。田舎暮らしといっても野菜を作ったりとか自給自足したりとかいうような本格的なものではなく、単に地方に住み始めたという程度のものである。そこに週末ごとに友人のマユミちゃんとせっちゃんがやって来て、彼らを伴って近所の森や湖を散策したりする(なお自然の中には自動車で行く)。
 このマユミちゃんもせっちゃんも都会暮らしでかなりのストレスを感じていて、田舎で癒やされたりする。また早川が自然の中でさりげなく語った言葉が、仕事のストレスで潰されそうになった彼女たちに響いたりする。このような情景がワンパターンのようにたびたび繰り返されるので、早川が、迷える人々に啓示を与える神のような存在にも見えて、少々うさんくささを感じたりもする。要するにちょっとやり過ぎの感じである。ともかく、こうして田舎暮らしを楽しむ女3人のストーリーが続くのである。
 構成は、著者の他の作品同様、6ページ構成の短編が(ややとりとめもない感じで)連なっている。また『すーちゃん』同様、主人公と友人たちが、それぞれの話ごとに主人公の立場になってその生活がクローズアップされていくという展開も同じ。『すーちゃん』とキャラ、場所、設定を少しだけ変えた作品と言えなくもない。
 それなりに面白く読んでいたが、最後があまりに唐突に終わってしまったため、少々面食らってしまった。男に縁のないせっちゃんに恋の予感が現れるという展開(『すーちゃん』にも似たような展開があったような気がする)になっていくんだが、これが本当に唐突に終わるのである。てっきり落丁かと思ったほどで(落丁ではなかった)、あとは続編を読めという趣旨なんだろうか、いずれにしても何だか腑に落ちない。ちなみに続編は、この本のかなり後に発表されているようで、しかも早川が結婚して子どももいるという設定になっているようだ。随分乱暴な気がする。このあたり、もう少し丁寧に本作りをしたほうが良いんじゃないかとさえ感じたりする。全体的に本作りが行き当たりばったりみたいな印象もあり、作り手たちが本作りにいい加減に取り組んでいるんじゃないかとも感じてしまう。そういうわけで、内容はそこそこある本であるにもかかわらず、読後感はあまり良くない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『OLはえらい(本)』
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

# by chikurinken | 2019-04-30 07:49 |

『カフェでカフィを』(本)

カフェでカフィを
ヨコイエミ著
集英社クリエイティブ

名前は知らなかったが
期待を持たせる作家である


b0189364_20144192.jpg カフェやコーヒーをモチーフにしたマンガの短編作品集。サッパリしたきれいな絵で、内容は非常に練られた、しかも感性的な味わいのある作品である。著者のヨコイエミって人、まったく知らなかったが、高野文子を彷彿させるような画風で、非凡な才能を感じさせる。
 まず最初の3本の話は、3本とも、あるカフェ(ヤマダカフェ)のある瞬間の風景を描くものであり、それぞれの話で主人公が異なっている。つまりある場に集まる人々をそれぞれ別の(その登場人物の)視点で見るという、なかなか意欲的な構成になっている。通常あるストーリーは、主人公の視点で語られるわけだが、この3本では、一つの風景が別々の主人公の視点で語られることになり、世界が個人個人の集まりで構成されているということが意識させられる。
 この3本を含み、全部で話は19本あるんだが、全編を通じた一貫性というものはない。ただし、全編を通じた連続性はないが、離れた話同士に同じ登場人物が出てきたりして(トータルの連続性がないためか)それが意外性を与えるのである。このような構成が、あるところから話がどんどんよそに移っていくような印象を与えるため、ルイス・ブニュエル風のダイナミズムも感じさせる。こういった、工夫された構成には知性的な要素も感じさせ、一方でストーリー自体は先ほども言ったように感性的な要素が強く、知性と感性が両立したなかなか稀有なマンガと言って良い。しかもあちこちに伏線が張ってあって、後のストーリーにそのモチーフが出てきたりするのも意外性に拍車をかける。本作には続編もあるようだが、たびたび(ほんの少しだけ)登場する「父親にコーヒー豆を送る若者」のエピソードは、おそらくこれも伏線になっていて、続編にエピソードが出てくるんではないかと思う。
 キャラクターはどれも性格が描き分けされていて、絵もそれを反映したものになっていて、そういう点でも技術の高さを感じさせる。著者に関する情報はまったくないが、非常に期待が持てる作家であると感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『火打ち箱(本)』
竹林軒出張所『夏休みが終わります』
竹林軒出張所『ドミトリーともきんす(本)』
竹林軒出張所『谷崎万華鏡(本)』
竹林軒出張所『ニューヨークで考え中(本)』

# by chikurinken | 2019-04-28 07:11 |

『平安人の心で「源氏物語」を読む』(本)

平安人の心で「源氏物語」を読む
山本淳子著
朝日新聞出版

『源氏』は単なる好色男の逸話ではない……らしい

b0189364_19052176.jpg タイトル通り、『源氏物語』が書かれた時代の背景について解説する本。初出は、『週間 絵巻で楽しむ源氏物語五十四帖』に書かれたエッセイである。
 全部で65の章立てになっており、各章の最初に源氏物語五十四帖のあらすじをほぼ一帖単位(一帖を前後半に分けているものもあるが、全帖ある)で併記している。したがってこれを全部読むと『源氏物語』のストーリーが完全にわかるようになっている。しかしなんと言っても、エッセイで記述されている内容が非常に深く、さすがに専門家とうならされるようなエピソードが多い。皇族の娘(つまり女宮)が身内の死去により女房階級に転落してしまうなどという話は、これまでまったく知らなかった事実であるし、女房や乳母が姫君の婚姻のために手を尽くしていたという話もよそではあまり聞けない話である。
 また、「現在の」『源氏物語』成立の裏話みたいな話であるが、池田亀鑑という明治生まれの学者が、それまで散り散りにしか存在していなかった『源氏物語』の断片(「河内本」や「青表紙本」など)から、そのオリジナルに近いとされる校本(スタンダード版)を作ったというエピソードは感動的である。しかもその後、佐渡の旧家から五十三帖揃いのセット(「大島本」)が発見されると、できあがった校本を、それにあわせてすべて作り直すという事業に取り組み、10年かけて完成させたという話は胸を打つ。まさに学者の模範である。現在では普通に書籍の形で目にできる古典作品の裏に、実はこれだけの労力があるというマル秘ストーリーで、実に良い話である。
 もう一つ、この著者の主張として、『源氏物語』に登場する桐壷帝と桐壷更衣との純愛は、一条天皇と中宮定子がモデルであるという説を披露している。特に中宮定子の悲劇的な生涯については再三本書で触れられており、当時の『源氏物語』の読者が、定子のエピソードを意識したことは間違いないと主張する。そして皇后という地位にありながら、取り巻く政治権力の移ろいのせいで没落していき悲劇的な最期を送った定子に世の無常を見て、それを反映したのが『源氏物語』とするのである。フィクションであっても、そこに実在の人物を重ねると一層深みが増すことになる。文学作品の鑑賞においてこういうアプローチを取ることは非常に魅力的だと思う。『源氏物語』においてもしかりで、このあたりの記述は大いに興味を持った箇所である。
 また、桐壷帝の時代は醍醐天皇の時代がモデル(物語の中でその後、朱雀・冷泉と続く天皇はそれぞれ朱雀・村上天皇がモデル)になっていて、当時の読者もそれを認識していただろうとする説も説得力がある。
 エピソードを雑多に書き綴ったようなエッセイ風の本ではあるが、一般には知られていないようなユニークな記述が多く、平安時代の歴史や古典に関心がある向きには非常に有用な本と言える。巻末に当時の風俗を示した図版(初出の雑誌のものか?)や『源氏物語』に出てくる登場人物の関係図もあって非常に親切。また丁寧な索引があるのもポイントが高い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『源氏物語の時代(本)』
竹林軒出張所『私が源氏物語を書いたわけ(本)』
竹林軒出張所『源氏物語 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『あさきゆめみし完全版 (1)〜(10)(本)』
竹林軒出張所『源氏物語 浮舟(映画)』
竹林軒出張所『新源氏物語(映画)』
竹林軒出張所『古典文法質問箱(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 蜻蛉日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 和泉式部日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』

# by chikurinken | 2019-04-26 07:05 |

『悪い犬』(ドキュメンタリー)

悪い犬(2017年・東海テレビ)

「悪い」のは犬か、それとも人か

b0189364_19352915.jpg 通行人数人に噛みついてケガをさせたドーベルマンを更正(?)させるために奮闘する(『わんわん保育園DUCA』という)ある動物保護施設の経営者を軸にしたドキュメンタリー。
 通常であればこういった凶悪犬は殺処分になるわけだが、動物愛護センターがこの経営者、高橋忍氏に預け、訓練を依頼した。更正させて命を助けようという寸法である。ちなみにこの施設、基本的にある程度訓練を施すことができた時点で里親を募集し犬の身柄を預けるような形で、殺処分予定の犬たちを救ってきている。今回も、訓練はかなり手こずったが、犬がある程度落ち着いて行動できるようになったため、里親に預けた。ところが、その後、散歩中に通行人を襲って噛みつくという事件が起こり、高橋氏も責任を問われ突き上げを食ってしまう。このドキュメンタリーでは、こういうようないきさつが描かれるのである。
 僕個人は犬に対してあまり思い入れがないので、一般的にドーベルマンみたいな危険な犬を野放しにしている現状にはまったく納得いかない……というか免許がなければ飼えないぐらいの規制を設けても良いと思っていて、そもそも犬を飼うことについて飼い主は相応の責任を持つべきと考える。今回のドーベルマンもそうだが、飼い主側に問題があるのではないかと思えるケースが多いというのも事実。実際、そういう「無責任」と言われてもしようがない飼い主もこのドキュメンタリーで紹介される。
 僕自身、朝、通勤中に突然犬に飛びつかれそうになることもちょくちょくあり、それなのに謝りもせず平然としている飼い主のおばはんには随分憤っているわけである。ちゃんと訓練できないなら飼うなと言いたい。それこそ、犬を飼うこと自体完全免許制にして、飼い主に対するそれなりの教習施設を作ったらどうだと思うのだ。
 おそらくこのドキュメンタリーで描こうとしているのも、「いい加減な飼い主と、そのせいで殺処分という犠牲を強いられる犬」という構図ではないかと思う。
 個人的な経験をもう一つ付け加えると、犬が狭い路の真ん中を堂々と歩いていて、こちらが道の端に追い出されるのも癪に障る。なぜ獣のために俺が道を譲らなければならんのだと思う。飼い主はせめて犬を端に寄せるとかその程度の配慮をしたらどうだと思う。犬を人の生活に紛れ込ませるというんだったら、最低限飼い犬をコントロールできる程度の訓練は、飼い主に対しても施すべきである(したがって免許制という発想が出てくるわけだが)。そういうわけで、愚かな飼い主が多いというのは僕自身も膚で感じており、そのあたりはこのドキュメンタリーの主張に大いに賛成したいところだ。とにかく日本のペット事情は総じて甘すぎるというのが僕の実感である(もっとも、以前に比べれば随分マシになったとも思う)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『じゃがいもコロコロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『じゃがいも大使(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-04-24 07:35 | ドキュメンタリー

『じゃがいも大使』(ドキュメンタリー)

じゃがいも大使 ~災害救助犬への奮闘記~
(2017年・東海テレビ)

じゃがいものその後

b0189364_17111793.jpg 『じゃがいもコロコロ』から3年後に発表された続編で、その後の「じゃがいも」(犬の名前)を追いかけたドキュメンタリー。
 『じゃがいもコロコロ』公開以降も、検定試験を受け続けたじゃがいもだが、なかなか結果が出ず。結局2017年、11回目のチャレンジでやっと合格できた。そしていよいよ被災地を勇気付けるために現地でお披露目というはこびになった。そのあたりの過程と、他の犬のその後も描かれる(死んだ犬や家族の元に戻った犬もいる)。
 ただし前作で紹介されていた映像がこの作品の1/3程度を占めており、もちろん3年後に放送されたときにこれを見ていればこういう配慮もありがたいわけだが、(今回の僕のように)この2本を続けて見るとかなり興が醒める。検定試験の合格の様子が紹介されたのは良かったが、内容自体は前作同様薄めで、多少の物足りなさが残った。もっとも犬好きにはお奨めのドキュメンタリーだと思う。また検定の様子もかなり新鮮で、このあたりは前回と共通であった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『じゃがいもコロコロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『悪い犬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-04-22 07:10 | ドキュメンタリー

『じゃがいもコロコロ』(ドキュメンタリー)

じゃがいもコロコロ ~災害救助犬への長い旅~
(2015年・東海テレビ)

被災地には残された犬がいた

b0189364_20471860.jpg 岐阜県富加町にある岐阜ドッグトレーニングセンターでは、東日本大震災の被災地(福島県飯館村)に残された飼い犬を保護するという活動をしている(45頭が引き取られた)。その中に生まれたばかりの黒い雑種犬がいて「じゃがいも」と名付けられた。この施設では、復興支援に繋げよう(被災地を勇気付けよう)という発想で、このじゃがいもを災害救助犬(現在国内に300頭)として育てようとしている。だがこのじゃがいも、要領が悪いのかアホなのか、これまで数回検定試験を受けているが、ことごとく不合格に終わっている。今度こそという思いで検定試験を受けさせているが、なかなか結果が出ない。このじゃがいもの奮闘と、保護された他の犬と被災地の元家族との交流を描くのがこのドキュメンタリー。
 じゃがいもが検定試験を受けるシーンから始まって非常に興味をそそられるが、途中、保護された犬と被災地との関係の話が延々と続いて、興味が少しずつ削がれてしまった。結局どっちつかずみたいな内容になって、構成が散漫になったような印象を受ける。そのため見ていて少し飽きてしまった。ユニークな素材だっただけに少々残念。
★★★

参考:
竹林軒出張所『じゃがいも大使(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『悪い犬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『熱中コマ大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『熱中コマ世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-04-21 07:47 | ドキュメンタリー

『不信のとき』(映画)

不信のとき(1968年・大映)
監督:今井正
原作:有吉佐和子
脚本:井手俊郎
音楽:富田勲
出演:田宮二郎、若尾文子、加賀まり子、岸田今日子、岡田茉莉子、三島雅夫

スイスイも見た目ほど楽ではない

b0189364_21193808.jpg 割合普通のサラリーマンが、妻以外にも女を作り、しかも子どもまで産ませて、何となくうまくやっているんだが、予想通りゴチャゴチャになっていくというストーリー。うまくやってんだかうまくやられてんだかよくわからないという皮肉な展開になる。男たちがしたたかに生きていると思ったら、したたかなのは女の方だったという話で、女性(有吉佐和子)が書いた小説が原作であることを考えると、こういうストーリー展開も納得が行くというものである。
 主演は田宮二郎で、田宮二郎と言えばハードボイルド的な謎めいた存在の役柄が多いが、この作品では、普通の、とは言ってもかなり成功しているサラリーマンを演じており、しかもこの男、世間をスイスイと渡っているような要領の良さがある。そこに登場するのが女の鑑みたいなホステス、若尾文子で、若尾文子の方は例によって不思議な存在を好演している。他に、同じように世間をスイスイと渡っているような会社社長(三島雅夫)も「スイスイの師匠」みたいな存在として登場するが、こちらもコケティッシュな女(加賀まり子)に心を奪われ、「スイスイ」も端で見るほど楽ではないと思わせる。いろいろなことがシニカルに展開し、普通であれば、女性の厳しい目で描かれた愚かな男たちというふうにも映るわけだが、この映画では、登場する男たち(主人公のサラリーマンと会社社長)が、周りに振り回されながらも、どことなく愉しんでいる風情があって、それがこの作品の魅力に繋がっている。
 キャスト、特に女優陣が豪華だが、スタッフも豪華である。また大映らしい丁寧な作品作りにも好感が持てる。例によって文芸作品が原作というのも大映の良心が感じられて良い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『華岡青洲の妻(映画)』
竹林軒出張所『紀ノ川(映画)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』
竹林軒出張所『米(映画)』
竹林軒出張所『婉という女(映画)』
竹林軒出張所『にごりえ(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『女の小箱より「夫が見た」(映画)』

# by chikurinken | 2019-04-19 07:19 | 映画

『女の小箱より「夫が見た」』(映画)

女の小箱より「夫が見た」(1964年・大映)
監督:増村保造
原作:黒岩重吾
脚本:高岩肇、野上竜雄
出演:若尾文子、川崎敬三、田宮二郎、岸田今日子、江波杏子、千波丈太郎、小沢栄太郎

いかにも黒岩重吾というストーリー

b0189364_19541550.jpg 変わったタイトルだが、黒岩重吾の『女の小箱』という短編集のうちの一編が「夫が見た」というタイトルで、それが原作であるためにこういうタイトルが付いているんじゃないかと想像する。もっとも原作については読んでいないので、短編集かどうかもわからないし、それにこのストーリー自体、原作から変えられている可能性もある。というのも、映画のストーリーが「夫が見た」というタイトルにふさわしくないためで、そのあたりは原作を読んでいないため詳しくはわからない。ただ映画のストーリー(原作と同じかどうかはわからないが)については割合よく練られていて、凝ったストーリーではある。
 自分の野心を遂げることをひたすら求める男たちと、愛されることをひたすら求める女たちが、絡み合いつつ、当然うまく噛み合いはしないのだが、それが噛み合い始めると関係が崩壊するというかなり逆説的なプロットである。株の買い占めによる企業の乗っ取りがモチーフになっていて、そのあたりも時代を考えるとかなり新しい素材だったのではないかと推測される。ストーリーはこのように意欲的で破綻もないが、終わりの方は少々つまらない収束の仕方をして(と僕は感じた)そのあたりが少しばかり残念なところ。
 演出はオーソドックスで破綻はなく、どのキャストもよく役に収まっている。若尾文子はラブシーンありセミヌードありで、大車輪の活躍である。またクールな田宮二郎も実に魅力的である。キャストは、この時代の他の増村作品と共通する俳優が多いが、どの映画でも非常に個性的な存在を演じているため、他の映画との共通性はあまり感じない。この頃の大映映画は文芸作品の原作が多く、こういった映画は、やはりストーリーがある程度しっかりしているせいか、今見てもあまり色褪せることはない。当時の大映の作品作りへの良心みたいなものさえ感じられる。
 この作品にしても、スリルやサスペンスに溢れた作品で、黒岩重吾作品の雰囲気がよく活かされていると感じる。世間的な評価はこれまでそれほど高くはなかったようが、もう少し評価が高くてしかるべきと思える作品である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『氾濫(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『不信のとき(映画)』

# by chikurinken | 2019-04-17 07:25 | 映画

『女は二度生まれる』(映画)

女は二度生まれる(1961年・大映)
監督:川島雄三
原作:富田常雄
脚本:井手俊郎、川島雄三
音楽:池野成
出演:若尾文子、藤巻潤、フランキー堺、山村聡、山茶花究、江波杏子、山岡久乃、倉田マユミ

奔放に生きる人間らしい女性
ただ共感はできない


b0189364_21001906.jpg ストーリーにあまり意外性や起伏がないため、主題が伝わりにくい。原作が富田常雄の『小えん日記』ということで、日記ものと考えれば、それなりに納得がいく。
 芸者をやっている小えんという女性(若尾文子)は、芸者をやりながら売春まがいのことまでやる。そのためか、性に奔放な性格……というかあまり考えなしにいろいろな男たちと付き合っていく。そこには悪びれた様子もなく、見ていて不快なタイプの人間でもない。こういう小えんという女性の生き様が描かれるのである。
 その後、売春行為が警察に目を付けられたせいで、芸者を辞めざるを得なくなり、ホステスに転身。そこでかねてより面識のあった建築家、筒井(山村聡)に出会い、妾になるという風に話は進んでいくんだが、その間もいろいろな男たちと関係を持つ。この小えん、将来もあまりない憐れな存在であることは、筒井の口から語られるが、本当に刹那的な生き方なんである。こういう若い女性の存在はリアルではあるが、僕のような平凡な人間にとってなかなか共感できにくい存在であるため、映画としての芯が感じにくく、それが主題のわかりにくさに繋がっているのではないかと思う。
 演出自体は非常にかっちりしていて、短いショットが連ねられるのも小気味良い。東宝の川島雄三が大映で初めて撮影した映画だということで、同じく東宝のフランキー堺まで引き連れてきた。外様でいろいろ苦労もあったかも知れないが、そういうことはまるで感じさせないしっかりした作りになっている。主役の若尾文子は、少し抜けた感じの女性を好演。映像で美貌があまり強調されていないのも、人間らしさがかえって引き出されており、良い効果が出ている。
 音楽は現代音楽風で少々変わっているが、映画とは意外に良く合っている。総じて、隅々まで目が届いた、できの良い映画という印象を受ける。相当、地味な作品ではあるが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『しとやかな獣(映画)』
竹林軒出張所『真実一路(映画)』
竹林軒出張所『瘋癲老人日記(映画)』

# by chikurinken | 2019-04-15 06:59 | 映画

『おしゃれ泥棒』(映画)

おしゃれ泥棒(1966年・米)
監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ジョージ・ブラッドショウ
脚本:ハリー・カーニッツ
出演:オードリー・ヘプバーン、ピーター・オトゥール、イーライ・ウォラック、ヒュー・グリフィス、シャルル・ボワイエ

よくできたストーリーの
ハリウッド的な犯罪ロマンス・コメディ


b0189364_20574319.jpg 『ローマの休日』『ベン・ハー』のウィリアム・ワイラーが監督した犯罪コメディ・ロマンス映画。
 名画の贋作を作っている富豪の娘(オードリー・ヘプバーン)と贋作を暴く活動をしている捜査官(ピーター・オトゥール)が、いろいろな成り行きで、100万ドルの価値がある彫刻作品(実は贋作)を盗むハメになり、それがロマンスを生むというようなストーリーである。ワイラーらしくユーモアも適度に盛り込まれ、ストーリーもよくできているが、軽いいかにもな60年代ハリウッド作品と言えるような話ではある。
 この作品も、35年位前に見て以来、久しぶりに見たのだったが、幸か不幸かストーリーはほとんど忘れていた。当時も面白いと感じた記憶はあり、おそらくそれはストーリーの部分なんだろうが、同時にヘプバーンがかなり年を食っていて、少々痛々しさを感じたような記憶の方が強い。それに(時代背景のせいもあるんだろうが)化粧も無茶苦茶濃いし、少なくとも『ローマの休日』のときみたいな可憐な美しさはすでになくなっている。
 もちろん、エンタテインメント映画としては上出来で、純粋に楽しみたいという意図で見れば、それほど大きな外れはないと思う。とは言えやはり、先ほども言ったようにきわめてハリウッド的な軽いエンタテイメント作品であり、あるいは好みが分かれるかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ローマの休日(映画)』
竹林軒出張所『シャレード(映画)』
竹林軒出張所『泥棒成金(映画)』
竹林軒出張所『快盗ルビイ(映画)』
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』

# by chikurinken | 2019-04-13 07:33 | 映画

『怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ』(映画)

怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ(1965年・東宝)
監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
脚本:関沢新一
音楽:伊福部昭
出演:宝田明、ニック・アダムス、田崎潤、水野久美、沢井桂子、久保明、土屋嘉男

ゴジラがシェー!
見ているこっちがシェーだ


b0189364_19023235.jpg 『フランケンシュタイン対地底怪獣』とかなり共通したキャスト、スタッフの東宝SF映画。僕が今回見たのは、おそらく71年に『東宝チャンピオンまつり』で上映されたであろう短縮バージョンの方である。
 木星の衛星X星の探査に行った宇宙飛行士が、現地でX星人と遭遇し、そのときにX星で破壊活動をするキングギドラを退治するために、地球に棲息するゴジラとラドンを貸してほしいと要請される。だが実は、想像通り、このX星人は地球侵略を目論んでいたのだった……というストーリーである。ストーリー自体は途中まで比較的整合性がとれていて、破綻はなかった。ただ、大風呂敷を収拾できなかったという『インデペンデンス・デイ』のパターンになっているのがはなはだ残念。そもそも、恐るべき力を持つ強力な侵略者を撃退するわけだから、(H.G.ウェルズの『宇宙戦争』みたいに)それなりの説得力がなければ納得できないんだが、強すぎる敵に勝つ方法などそうそうあるはずもなく、結局のところ、かなり苦しい(しかも相当いい加減な)決着になってしまっている。
 しかも最後の方は案の定、三大怪獣が暴れ回るというような子ども受けしそうな展開になって、まったくもって新鮮さがない。SF映画というより子ども映画と言うのがふさわしい内容である。
 特撮は割合よくできているが、こちらもいい年をした大人が見て楽しめるかどうかは微妙である。それにゴジラがシェーをやったりするのも、子ども向けのサービスのつもりか知らないが、正直恥ずかしいからやめてほしいと感じる。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『モスラ対ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『マタンゴ(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタイン対地底怪獣(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(映画)』
竹林軒出張所『イノさんのトランク(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-04-11 07:02 | 映画

『フルーツ宅配便』(2)〜(12)(ドラマ)

ドラマ24 フルーツ宅配便 (2)〜(12)(2019年・テレビ東京)
原作:鈴木良雄
脚本:根本ノンジ
演出:白石和彌、沖田修一、是安祐
音楽:高田漣
出演:濱田岳、仲里依紗、松尾スズキ、荒川良々、前野朋哉、原扶貴子、田中哲司、徳永えり、山下リオ、北原里英、成海璃子、山口美也子、筧美和子

世相を見事に映し出したドラマ
それでいてエンタテイメントとして成立している


b0189364_15151869.jpg 鈴木良雄の同名マンガのドラマ化作品。原作マンガの『フルーツ宅配便』は、「フルーツ宅配便」という名前のデリヘル業者での人間模様を描く作品で、現代の世相や貧困を赤裸々に描いているリアリズム・マンガである。
 主人公の咲田真一(濱田岳)が、ひょんな巡り合わせで、デリヘル店「フルーツ宅配便」の見習い店長になる。そこに集まるワケありのデリヘル嬢が中心になって話が展開していくという作品である。原作に基づく話が中心で、そこに、全体を貫くドラマなりのストーリーが絡んでいく。原作で描かれる女性の貧困の話がかなり辛いもので、そのままドラマにしてしまうと現実世界の厳しさが前面に出てきて救いがなくなる。そのためもあって、笑いやとぼけた要素も交えて、エンタテイメント的な要素も存分に入れられている。ドラマとしては、非常に良い配慮だと思う。
 ドラマでは(原作でもそうだが)毎回1人のデリヘル嬢が主人公になって、その女性の背景が描き出される(ほとんどは金やダメ男に苦しんでいる話)。タイトルもその主人公の源氏名(果物の名前)になる。「ドラゴンフルーツ」(ドラゴンフルーツという源氏名の女性は、伝説のデリヘル嬢であるが今は掃除婦をやっているばあさんという設定)は原作ではものすごいインパクトがあったが、ドラマではなんと山口美也子が演じていて、「山口美也子が婆さん役か……」と思うと、なかなか複雑な心境になった。b0189364_15152311.jpgキャストで言えば、第2回では成海璃子がモモ役でデリヘル嬢を演じていて、少々場違いな印象を受けたが、存在だけでインパクトがあった。なおこの回は、元木大介が本人役で出ていたが、意図がわからない。どうして元木だったのか、せっかく出すんならもう少し大物でないとつまらないだろうと思うが(それなりに面白さはあったが)。
 ドラマではともすると、人身売買とか覚醒剤とか暴力とか、ダークな世界が出てくるので、必ずしも楽しい気分になるようなドラマではない。EGO-WRAPPIN’のオープニングテーマ曲(「裸足の果実」)がこういったダークな雰囲気を定義しているようにも思え、なかなか良い選曲だと思わせる。エンディング曲は逆に少々明るい音楽で、ドラマで少し沈んだ気持ちが和らげられ救いがもたらされる。高田漣の選曲らしいが、非常にお見事である。
 原作の味を活かしながらも、連続ドラマとして成立するような改変を施しているなど、全体的にはよく練られた脚本と言える。ただし最後の方で、風俗嬢が売り飛ばされ一生監禁されるという「売春島」などというネタが出てきたりして、見ていてアホらしくなってくる。もう少し何とかならなかったものかと思う。原作がリアリズムの作品で、それが根底にあるんだからファンタジーを盛り込んじゃいけません。濱田岳と仲里依紗の魅力で何とか成立していたのが救い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『フルーツ宅配便 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『貧乏まんが(本)』
竹林軒出張所『最貧困女子(本)』
竹林軒出張所『アオイホノオ (1)〜(6)(ドラマ)』
竹林軒出張所『俺のダンディズム (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『終電バイバイ(2)〜(4)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2019-04-09 07:18 | ドラマ

『学校って何だろう』(本)

学校って何だろう 教育の社会学入門
苅谷剛彦著
ちくま文庫

学校と教育にまつわる常識を疑う

b0189364_18200681.jpg 元々は『毎日中学生新聞』に連載していた文章をまとめて、編集・加筆した本らしい。学校と教育にまつわるさまざまな現象について、そのまま受け入れるのではなく、まず疑問を持ち、自分なりに考察しようと提案する本である。元々の連載が『中学生新聞』であるため、中学生に語りかけるような口調になっているが、決して(生徒に教えてやるというような)えらそうな言説ではなく、一緒に考えてみようよというような優しいアプローチである。
 全8章構成で、俎上に上がるのが、勉強自体(どうして勉強するのか?という疑問)、試験(試験とは何か?という問)、校則(これについては30年ぐらい前に世間でもかなり話題になった)、教科書(教科書の役割など)、隠れたカリキュラム、先生の世界、生徒の世界、学校と社会のつながりである。こういうのは、僕も中高生の時にかなり悩んだというか考えたクチで、当時こういった本があれば、随分役に立っただろうと思わせるような、非常に興味深い考察である。特に「隠れたカリキュラム」について(学校のカリキュラムという形では存在していないが、学校生活を送る上で従うことが強いられる習慣。たとえば授業中黙って座っているなど)は、かなり斬新な指摘で、僕自身については、今までこういうものの存在を意識したことすらなかったため、目からウロコであった。実際ネット上でも、このあたりの言説をそのまま紹介しているようなサイトがあり(僕はそのサイト経由でこの本に到達したわけだが)、やはりこの着目点が多くの人にとって侮れないということが容易に想像できる。
 記述は平易で、多少くどさを感じるくらいだが(中高生にはちょうど良いかも知れない)、しかし内容は濃いし、「常識」とされているものに疑問を持ってみるという大切な方法論を若者に教えるあたり、評価に値する。若い世代に勧めたくなるような良い本である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『こんばんは(映画)』
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『ドキュメント 高校中退(本)』
竹林軒出張所『不登校は1日3分の働きかけで99%解決する(本)』

# by chikurinken | 2019-04-07 07:19 |