今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんでそのあたりご理解ください。
今年も映画とドラマはあまり見ていない(しかも昔見たものばかりである)ため、ベストの対象は本とドキュメンタリーだけです。
(ベスト内のリンクはすべて過去の記事)
今年読んだ本ベスト5(50冊)
1.
『ワクチン神話捏造の歴史』2.
『Mine!』3.
『「集団の思い込み」を打ち砕く技術』4.
『〈叱る依存〉がとまらない』5.
『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い』番外:
『日本の川を旅する』 僕が高く評価する本はほとんどの場合、目からウロコが落ちるような新しい視点が提示されているものであるが、今回の5+1冊はすべてそういう点で共通している。
そして1.の『ワクチン神話捏造の歴史』は、まさにその典型である。「ワクチンが病気の予防に効く」とされているのは、すべてが思い込みによるものであるということを歴史(過去の新聞記事や論文)を振り返って示していくという画期的な試みである。ジェンナーの種痘まで(十分な裏付けのもとで)効果が疑わしいどころか危険性の方が高いとする主張は驚きであった。現代医療に対してあらためて厳しい目を向けて問い直す必要があると感じさせる本だった。
2.の『Mine!』も意外性のある主張が展開されており、所有権が為政者によって恣意的に決められる概念であるという考え方が示されている。現代では所有権で揉めるケースがそこいら中に存在するわけだが、本書のような根本にまで迫る思考でことに臨めば、冷静に対応できること請け合いで、そういう意味でも画期的な本だった。
3.の『「集団の思い込み」を打ち砕く技術』は、集団に対する勝手な思い込みを振り払って、自分の感覚を大切にしようという主張で、SNSやネットの世論が影響力を拡大している今こそ、向き合いたい問題を扱っている。実証データに裏打ちされた論証も説得力があり、十分に読ませる本である。
4.の『〈叱る依存〉がとまらない』は、「叱る」という行為自体が「叱る」側の都合や自己満足で行われるものであって、しかも依存性のあるものにもかかわらず、「叱る」行為が容認されている現実に疑義を呈す。その上、「叱る」行為を容認することがさまざまなハラスメントに繋がっているという実に新しい視点も提示されていて、いろいろと考えさせる本だった。
5.は、レベッカ・ソルニットのエッセイで、女性問題について率直に語られている。米国での女性差別の現状が赤裸々に紹介され、女性の置かれている状況がストレートに伝わってくる。ソルニットの著作は今年数冊読んで、どれもインパクトがあったが、この本がもっとも完成度が高かったため、今回はこれをピックアップした。
番外の『日本の川を旅する』は、野田知佑の名著で、40年前に読んで大いに衝撃を受け、しかもかなりの影響を受けた本である。今回機会があって本当に久しぶりに読んでみたが、紀行文としても優れた作品で、良い本だとあらためて感じさせられる。著者のような確固とした明確なものの見方は、今の時代にもっとも必要とされているものなのではないかと感じたのだった。
今年見たドキュメンタリー・ベスト5(49本)
1.
『#ジョニー・デップ裁判』2.
『海を渡った600体の神仏』3.
『マリウポリの20日間』4.
『オンラインカジノ 底知れぬ闇』5.
『ジャパニーズ・ドリーム』 1.の『#ジョニー・デップ裁判』は、ジョニー・デップとアンバー・ハードの離婚訴訟を紹介したドキュメンタリーだが、一方で、SNSが現代社会の秩序をどれほど破壊しているかを物語っているという点で注目に値する。現在の人間は、SNSを含むインターネットにきちんと対処できていないということを近ごろよく感じるが、ネット世論がいかに盲目的で愚かであるか、このジョニー・デップ裁判のドキュメンタリーを通じて思いを新たにした。
2.の『海を渡った600体の神仏』は、明治初期に来日したエミール・ギメの足跡を辿るドキュメンタリー。ギメは当時廃仏毀釈のために失われそうになっていた仏教の美術品を多数フランスに持ち帰り、結果的に彼の行動によって多くの美術品が保護されることに繋がった。それはギメの日本の美術や宗教に対する理解が元になっていたということがこのドキュメンタリーを通じよく伝わってきて、なかなかの力作に仕上がっていた。見応えがあった。
3.は『マリウポリの20日間』は、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、やがてロシア軍に占領されることになるマリウポリの侵攻当初の20日間の様子を、時系列でまとめたドキュメンタリーである。現地にいたAPのウクライナ人記者がそのときの様子を映像で記録し、その後、その映像が世界中に公表され、ロシア軍の残虐さが世界に伝わることになったが、その映像をまとめたものがこの作品。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞も受賞しており、ドキュメンタリーであるだけに、戦場の生の姿を伝えるその迫真性は比類がない。
4.の『オンラインカジノ 底知れぬ闇』は、日本人が食い物にされているオンラインカジノの状況を、NHKが「調査報道」したドキュメンタリー。NHKスペシャルの1本だが、昨今のていたらくから抜け出せそうな気配を感じさせる番組だった。
5.の『ジャパニーズ・ドリーム』は、ネパール人留学生に密着する作品で、留学ビジネスが詐欺になっている実態を伝えた真摯なドキュメンタリーである。こういう実態を知れば、一部の偏狭な日本人に見られる「日本礼賛」がいかに寒々しいかよくわかるというもの。詐欺行為がのさばっている現状、そしてその行為がやがては国内の犯罪に繋がる状況が視聴者に伝わってくる作品だった。
というところで、今年も終了です。今年も1年、相手をしていただいてありがとうございました。来年は更新頻度が今年よりも少なくなる可能性が高いですが、またときどき立ち寄ってみてください。
ではよいお年をお迎えください。
参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』竹林軒出張所『2010年ベスト』竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』竹林軒出張所『2012年ベスト』竹林軒出張所『2013年ベスト』竹林軒出張所『2014年ベスト』竹林軒出張所『2015年ベスト』竹林軒出張所『2016年ベスト』竹林軒出張所『2017年ベスト』竹林軒出張所『2018年ベスト』竹林軒出張所『2019年ベスト』竹林軒出張所『2020年ベスト』竹林軒出張所『2021年ベスト』竹林軒出張所『2022年ベスト』竹林軒出張所『2023年ベスト』