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竹林軒出張所

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『日曜劇場 羽音』(ドラマ)

日曜劇場 羽音(1969年・北海道放送)
原作:三浦綾子
脚本:砂田量爾
演出:守分寿男
出演:田村高廣、大空真弓、杉村春子

キリスト教の原罪がテーマなのだろうか

『日曜劇場 羽音』(ドラマ)_b0189364_08100657.jpg 三浦綾子の原作をドラマ化した東芝日曜劇場。
 舞台はオリンピックを数年後に控えた札幌。スタジアム建設のために単身赴任しているゼネコン社員(田村高廣)が、ある日、公園で写生している未婚の女性(大空真弓)に出会い、意気投合してその後定期的に逢うようになって、さらには二人とも互いに思いを寄せるようになる。だが女性の立場からすると、妻子ある男との不倫ということになり、しかもこの女性、実の父親がかつて自分と母を残して家を出て行き、別の女性と再婚したという過去がある。とすると、このまま恋を続ければ、自分たちから父を奪った憎むべき相手の立場に今度は自分が置かれることになる。このあたりの葛藤がこのドラマのテーマである。この作も、『氷点』同様、キリスト教の概念である「原罪」がテーマなのだろうか。そうだとすると三浦綾子らしいとも言える。
『日曜劇場 羽音』(ドラマ)_b0189364_08101090.jpg ドラマは淡々と進行するが、地味なストーリーであるにもかかわらず決して見る方を飽きさせることもなく、よくまとまったドラマに仕上がっている。俳優はややオーバーアクトもあるが、演出はまずまずで、日曜劇場の佳作の一本と言えるのではないだろうか。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『氷点(映画)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風船のあがる時(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 わかれ(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』

# by chikurinken | 2025-01-06 08:10 | ドラマ

『日曜劇場 A列車でいこう』(ドラマ)

日曜劇場 A列車でいこう(1986年・北海道放送)
脚本:岩佐憲一
演出:松田耕二
出演:三田寛子、杉本哲太、川谷拓三、日色ともゑ、名古屋章

やや作りすぎのプロットだが、悪くない

『日曜劇場 A列車でいこう』(ドラマ)_b0189364_08470285.jpg 脚本家、岩佐憲一のデビュー作。もっともこの岩佐憲一という人はよく知らない。ではあるが、いかにもデビュー作というようなストーリー展開ではある。やや作りすぎと言うか、力が入りすぎと言うか、シナリオ・コンクール受賞作を髣髴させるようなプロットである。決して悪くはない。
 婚礼間近の主人公(三田寛子)が、かつて母(日色ともゑ)と離婚した実の父親(川谷拓三)に逢いに稚内まで赴くというストーリー。移動の列車内でで帰省途中の若者(杉本哲太)から声をかけられ、その後、父親探しの旅にも同行してもらうというように展開する。デューク・エリントンの『A列車でいこう』のレコードが重要な小道具として使われ、そのためにドラマのタイトルもオープニングテーマ曲も『日曜劇場 A列車でいこう』(ドラマ)_b0189364_08470633.jpg「A列車でいこう」が使われている。
 稚内のそこここの街並みが登場し、観光プロモーションにもなっている「ご当地ドラマ」のようでもあったが、ストーリーも演出もまとまりがあり、それなりに楽しめる日曜劇場であった。杉本哲太が好演。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『北の夢(ドラマ) 追悼 田中好子』

# by chikurinken | 2025-01-03 07:46 | ドラマ

2024年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんでそのあたりご理解ください。
 今年も映画とドラマはあまり見ていない(しかも昔見たものばかりである)ため、ベストの対象は本とドキュメンタリーだけです。
(ベスト内のリンクはすべて過去の記事)

今年読んだ本ベスト5(50冊)
1.『ワクチン神話捏造の歴史』
2.『Mine!』
3.『「集団の思い込み」を打ち砕く技術』
4.『〈叱る依存〉がとまらない』
5.『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い』
番外:『日本の川を旅する』

2024年ベスト_b0189364_08483872.jpg 僕が高く評価する本はほとんどの場合、目からウロコが落ちるような新しい視点が提示されているものであるが、今回の5+1冊はすべてそういう点で共通している。
 そして1.の『ワクチン神話捏造の歴史』は、まさにその典型である。「ワクチンが病気の予防に効く」とされているのは、すべてが思い込みによるものであるということを歴史(過去の新聞記事や論文)を振り返って示していくという画期的な試みである。ジェンナーの種痘まで(十分な裏付けのもとで)効果が疑わしいどころか危険性の方が高いとする主張は驚きであった。現代医療に対してあらためて厳しい目を向けて問い直す必要があると感じさせる本だった。
2.の『Mine!』も意外性のある主張が展開されており、所有権が為政者によって恣意的に決められる概念であるという考え方が示されている。現代では所有権で揉めるケースがそこいら中に存在するわけだが、本書のような根本にまで迫る思考でことに臨めば、冷静に対応できること請け合いで、そういう意味でも画期的な本だった。
2024年ベスト_b0189364_08580025.jpg 3.の『「集団の思い込み」を打ち砕く技術』は、集団に対する勝手な思い込みを振り払って、自分の感覚を大切にしようという主張で、SNSやネットの世論が影響力を拡大している今こそ、向き合いたい問題を扱っている。実証データに裏打ちされた論証も説得力があり、十分に読ませる本である。
 4.の『〈叱る依存〉がとまらない』は、「叱る」という行為自体が「叱る」側の都合や自己満足で行われるものであって、しかも依存性のあるものにもかかわらず、「叱る」行為が容認されている現実に疑義を呈す。その上、「叱る」行為を容認することがさまざまなハラスメントに繋がっているという実に新しい視点も提示されていて、いろいろと考えさせる本だった。
 5.は、レベッカ・ソルニットのエッセイで、女性問題について率直に語られている。米国での女性差別の現状が赤裸々に紹介され、女性の置かれている状況がストレートに伝わってくる。ソルニットの著作は今年数冊読んで、どれもインパクトがあったが、この本がもっとも完成度が高かったため、今回はこれをピックアップした。
 番外の『日本の川を旅する』は、野田知佑の名著で、40年前に読んで大いに衝撃を受け、しかもかなりの影響を受けた本である。今回機会があって本当に久しぶりに読んでみたが、紀行文としても優れた作品で、良い本だとあらためて感じさせられる。著者のような確固とした明確なものの見方は、今の時代にもっとも必要とされているものなのではないかと感じたのだった。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(49本)
1.『#ジョニー・デップ裁判』
2.『海を渡った600体の神仏』
3.『マリウポリの20日間』
4.『オンラインカジノ 底知れぬ闇』
5.『ジャパニーズ・ドリーム』

2024年ベスト_b0189364_09413350.jpg 1.の『#ジョニー・デップ裁判』は、ジョニー・デップとアンバー・ハードの離婚訴訟を紹介したドキュメンタリーだが、一方で、SNSが現代社会の秩序をどれほど破壊しているかを物語っているという点で注目に値する。現在の人間は、SNSを含むインターネットにきちんと対処できていないということを近ごろよく感じるが、ネット世論がいかに盲目的で愚かであるか、このジョニー・デップ裁判のドキュメンタリーを通じて思いを新たにした。
 2.の『海を渡った600体の神仏』は、明治初期に来日したエミール・ギメの足跡を辿るドキュメンタリー。ギメは当時廃仏毀釈のために失われそうになっていた仏教の美術品を多数フランスに持ち帰り、結果的に彼の行動によって多くの美術品が保護されることに繋がった。それはギメの日本の美術や宗教に対する理解が元になっていたということがこのドキュメンタリーを通じよく伝わってきて、なかなかの力作に仕上がっていた。見応えがあった。
2024年ベスト_b0189364_15510764.jpg 3.は『マリウポリの20日間』は、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、やがてロシア軍に占領されることになるマリウポリの侵攻当初の20日間の様子を、時系列でまとめたドキュメンタリーである。現地にいたAPのウクライナ人記者がそのときの様子を映像で記録し、その後、その映像が世界中に公表され、ロシア軍の残虐さが世界に伝わることになったが、その映像をまとめたものがこの作品。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞も受賞しており、ドキュメンタリーであるだけに、戦場の生の姿を伝えるその迫真性は比類がない。
 4.の『オンラインカジノ 底知れぬ闇』は、日本人が食い物にされているオンラインカジノの状況を、NHKが「調査報道」したドキュメンタリー。NHKスペシャルの1本だが、昨今のていたらくから抜け出せそうな気配を感じさせる番組だった。
 5.の『ジャパニーズ・ドリーム』は、ネパール人留学生に密着する作品で、留学ビジネスが詐欺になっている実態を伝えた真摯なドキュメンタリーである。こういう実態を知れば、一部の偏狭な日本人に見られる「日本礼賛」がいかに寒々しいかよくわかるというもの。詐欺行為がのさばっている現状、そしてその行為がやがては国内の犯罪に繋がる状況が視聴者に伝わってくる作品だった。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、相手をしていただいてありがとうございました。来年は更新頻度が今年よりも少なくなる可能性が高いですが、またときどき立ち寄ってみてください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
竹林軒出張所『2016年ベスト』
竹林軒出張所『2017年ベスト』
竹林軒出張所『2018年ベスト』
竹林軒出張所『2019年ベスト』
竹林軒出張所『2020年ベスト』
竹林軒出張所『2021年ベスト』
竹林軒出張所『2022年ベスト』
竹林軒出張所『2023年ベスト』

# by chikurinken | 2024-12-30 07:34 | ベスト

『これから ~海辺の旅人たち~』(ドラマ)

これから ~海辺の旅人たち~(1993年・フジテレビ)
脚本:寺内小春
演出:富永卓二
出演:高倉健、田中裕子、加藤治子、樹木希林、芦田伸介、神山繁、吉行和子、小林稔侍、上條恒彦

高倉健以外、目新しさはあまりない

『これから ~海辺の旅人たち~』(ドラマ)_b0189364_09095203.jpg 1993年に製作された高倉健主演のテレビドラマ。
 定年退職した男(高倉健)が、それを機に海辺の老人福祉施設に入居し、そこで入居者たちと触れあいながら老人たちの現実を目にしていくというようなストーリー。
 老人福祉施設内では、他の入居者と比べてはるかに若く、本来であればスタッフの方に近いわけであるが、これまで仕事仕事で毎日を送ってきて、それが原因で離婚し、挙げ句に癌の可能性まで指摘されたため、余生を好きな釣りをやりながらゆっくり過ごしたいという意向で、東京の自宅を売り払ってここに転居してきたという設定である。少しばかり無理があるような気もしないではないが、周りの老人たち(とその周辺の人々)の生活や問題を描くというあたりがこのドラマの主眼のようで、そのためによそ者である主人公をその環境に放り込み、観察させるという方法論をとったんだろう。
『これから ~海辺の旅人たち~』(ドラマ)_b0189364_09095686.jpg 特に93年当時としてはあまりありきたりでない素材であり、意欲的な印象も受けなくはないが、認知症や家族との関係など、エピソードはありふれたものばかりであるため目新しさはそれほどない。高倉健が主演したテレビドラマという点では目新しいが、魅力はそれくらいか。田中裕子と吉行和子が美しく撮影されていたのも魅力である。
日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門最優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『チロルの挽歌(ドラマ)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『鉄道員(ぽっぽや)(映画)』
竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』
竹林軒出張所『単騎、千里を走る。(映画)』
竹林軒出張所『君よ憤怒の河を渉れ(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 唐獅子牡丹(映画)』

# by chikurinken | 2024-12-27 07:09 | ドラマ

『日曜劇場 雪の城』(ドラマ)

日曜劇場 雪の城(1967年・北海道放送)
脚本:矢代静一
演出:甫喜本宏
出演:三上真一郎、岩本多代、大坂志郎、垂水悟郎

ドキュメンタリー風に作っているが
ドラマ性がなく面白味もない


『日曜劇場 雪の城』(ドラマ)_b0189364_08371284.jpg 1965年に北海道大学山岳部の学生たちが雪崩に遭い遭難した。その際、リーダーだけが即死を免れ数日間生存したが、死ぬまでの間にしたためた遺書が後に発表され、それが方々で話題を呼んだらしい。このドラマもそれに触発されて作られた作品で、大学生の主人公が十勝岳に登ろうとするが雪崩事故に逢い、その現場に父親と恋人が駆けつけるというのがストーリーの全体である。
 ドラマの中では、初対面の父親と恋人の間に何だか妙に不自然な葛藤が発生するが、話はそこまでで、物語としての大した盛り上がりもなく、結局そのままドラマは終わる。途中、遺書が主人公の声で読み上げられたりするが、当時の事故を知っている人ならいざ知らず、今見たところで絵空事にしか映らないため、まったく感慨が湧かない。残念ながら、盛り上がりも面白味も最後まで生じることはなく(父親の理不尽な差別意識は不快だが)、ドラマとしては失敗作と言わざるを得ない。
『日曜劇場 雪の城』(ドラマ)_b0189364_08371748.jpg 山の遭難自体、そもそもが創作の題材になりやすい素材であるため、ドラマや映画のみならず、ドキュメンタリーでも山での遭難事故を扱ったものが多く作られてきている。しかも今では、事故の当事者に密着した映像なども普通に撮影できドキュメンタリー映像で流されたりするため、作り事のドラマで同様のレベルの感慨を抱かせるには、登場人物の心情まで深く入り込まなければ無理で、残念ながら50年前のこのドラマではまったくそこまで届いていない上、事故周辺の状況もよく伝わってこない。タイトルの「雪の城」というのは、おそらく主人公が雪の中に閉ざされた状況を表したものなのだろうが、それすらストレートに伝わってこないという有り様で、残念ながら製作者の意欲だけが空回りしたようなドラマになってしまった。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『栗城史多の見果てぬ夢(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『手足をなくしても 〜ある登山家の挑戦〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒマラヤ “悪魔の谷”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『銀嶺の空白地帯に挑む(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日曜劇場 海はこたえず(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 デートをへらせ(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 雨ニモマケズ(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 波の影(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 終りの一日(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 秘密(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 乙姫先生(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 森の学校(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 愛と人間 第5章「悲」(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ぼくの椿姫(ドラマ)』

# by chikurinken | 2024-12-25 07:36 | ドラマ