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竹林軒出張所

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『総天然色ウルトラQ』(15) 他(ドラマ)

総天然色ウルトラQ 15、16、17、26、28
(1966年・2012年・TBS)
演出:中川晴之助、野長瀬三摩地、円谷一、満田かずほ
脚本:山田正弘、金城哲夫、千束北男、小山内美江子
出演:佐原健二、桜井浩子、西條康彦、江川宇礼雄、渡辺文雄、浜田寅彦、野村昭子、二瓶正也

着色技術に驚嘆

b0189364_18171666.jpg 以前この項で書いたカラー版『ウルトラQ』を見てみた(竹林軒出張所『色づくQ』を参照)。前に書いたのが2011年10月だからあれから7年近く経つんだが、こういう事実があったことを先日ふとしたきっかけで思い出して、ついにその現物を見てみたというわけ。
 今回見たのは、DVD2枚分で、第15話「カネゴンの繭」、第16話「ガラモンの逆襲」、第17話「1/8計画」、第26話「燃えろ栄光」、第28話「あけてくれ!」の5本。それぞれの作品はかつて見たことがあるものばかりだと思う(記憶が定かでないものもある)が、ストーリーやドラマの作りは(今見ると)結構デタラメなものもある。
 「カネゴンの繭」はかなり有名な回でこれまで数回見た記憶があるが、単純なプロットのドラマで、ストーリーもかなり行き当たりばったり、間も悪いと問題点は多い。それでも着想と(カネゴンという)キャラクターが秀逸であるため、『ウルトラQ』の代表作になっているという、そういう作品である。『ウルトラQ』シリーズの中でもキャストが豪華な方で、渡辺文雄、浜田寅彦、野村昭子、二瓶正也らが出演している。このシリーズにいつも登場する淳ちゃんや一平君、由利ちゃんは出てこず、完全に独立した作品になっている。
 「ガラモンの逆襲」は取るに足りないいい加減なストーリーの話、「1/8計画」は夢オチでどちらも冴えない。ただ「燃えろ栄光」は、リアリティはあまりないが、少し考えさせるような奥行きがある。それは「あけてくれ!」も同じで、こちらについてはシナリオがよくできていると感じる。おそらく『ウルトラQ』随一ではないかと思う。ちなみにシナリオ担当はあの小山内美江子である。なお「あけてくれ!」は本放送の時に放送されなかったといういわく付きの回で、確かに怪獣は出てこず子どもにはわかりにくいかも知れないが、ショートショートみたいなオチがあって非常にうまくまとまっている。
 さて、今回カラー版を見たのであるから、一番問題にすべきはカラー化のグレードということになる。で、カラー化はどうかというと、これが非常によくできていて、かなり自然であったのだった。少なくとも意識しなければ、これが人工的なカラー化ということにも気付かないんじゃないかというようなデキで、カラー化としては十分成功の部類ではないかと思う。これに伴って『ウルトラQ』の価値も一層上がることは間違いない。それでもモノクロでなければ気分が出ないなどという頑固な人は、モノクロ版を見ればよろしい。幸いモノクロ版もDVDが出ているようだ。だがこのカラー版『ウルトラQ』は、かつて『ウルトラQ』を見ていた世代にも勧めたい逸品であるのは間違いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『色づくQ』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる第一次世界大戦(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-03-28 07:16 | ドラマ

『アンナチュラル』(10)、(11)(ドラマ)

アンナチュラル エピソード10、11(2018年・TBS)
演出:竹村謙太郎、塚原あゆ子
脚本:野木亜紀子
出演:石原さとみ、松重豊、窪田正孝、井浦新、市川実日子、伊武雅刀、薬師丸ひろ子、国広富之

期待しただけにガッカリ
展開までもアンナチュラル


b0189364_17164320.jpg 少し期待を持って見ていた『アンナチュラル』、エピソード10とエピソード11で完結した。
 エピソード8までは見ていないため細かいところはわからないが、毎回ほぼ完結する小さいエピソードが取り上げられながら、最終的に大きいエピソードに合流するという形式だったのではないかと思う。そしてその大きいエピソードが10、11で完結するという按配になっている。ただし、猟奇的犯人の大量殺人という結果に落とし込んで、悪い奴を1人設定して、それですべてを終わらせるというのはあまりに安直。また、井浦新演じるやや暴力的なチーム・メンバーが、秘密を握る記者に襲いかかり、テトロドトキシンを無理やり注射するとかいう展開もデタラメも良いところで、見ていてバカバカしくなる。きわめて不自然展開と言わざるを得ない。タイトルが「アンナチュラル」だからと言って、展開までアンナチュラルにしなくてもよかろうに。
 また最後の公判でのミコト(石原さとみ)の証言も浅はかである。こういうあたりで良しとする製作者には疑問を感じる。レベルの低さすら感じてしまう。
 また、ドラマの中で使われるいろいろなエピソードがどうにもありきたりで、こちらもマイナス要因である。結局は(案の定)石原さとみの魅力だけが唯一の見所という寂しいドラマになってしまった。期待が大きかっただけに失望感も大きい。
★★★

参考:
竹林軒出張所『アンナチュラル (9)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ジェネラル・ルージュの凱旋 (1)〜(12)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-03-26 07:16 | ドラマ

『ラスト・ソング』(本)

b0189364_19373189.jpgラスト・ソング
佐藤由美子著
ポプラ社

いい話が目白押し

 音楽療法士という商売があるらしい。音楽療法自体は、問題を抱えた人を音楽で癒やそうというアプローチではないかと概ね想像できるが、それが商売として成り立つというのは少々考えにくい。現に日本ではあまり普及していないようで、この著者、音楽療法士なんだが、主にアメリカで活動していたようだ。この本で取り上げられているのはホスピスでの経験であり、対象となるのは終末期の患者である。著者によると、終末期で、外部からは意識がなくなったように見えても聴覚は最後まで残っているという。したがって、終末期に音楽を聞かせるというのも一理あり、アメリカでは「音楽療法はホスピスにおいて非常に重要な役割を持っている」らしいのである。
 この本では、おそらく著者の実体験だと思われる10のケースについて紹介していて、これを読むと確かにホスピスでの音楽療法は良いものかも知れないと思ってしまう。どの話も死や別れが関わってくるため非常に感動的で、涙なくしては読めないようなものである。あまりによくできた話なので、創作かと感じたりもする。もっともたとえ創作であっても良い話であるのは違いない。
 またそれぞれのエピソードで、終末期音楽療法で(著者によって)使われた楽曲がテーマ(そしてタイトル)になっていて、このあたりもよくできていると感じさせる要素である。「きよしこの夜」から始まって「What a Wonderful World」や「Unfogettable」、「椰子の実」や「花」などまで出てくるが、日本の歌が3曲もあって、アメリカの話なのに日本の歌が?と感じるが、しかし中身を読めばそれほどの意外性はなく自然ではある。いずれにしてもどのエピソードもよくできていて、短編集と考えてもまったく問題ない。もちろん、音楽療法の意義を日本人に伝えるという点でも十分功を奏していると言える。
b0189364_19391738.jpg 死にまつわる内容だからか、人がどこから来てどこに行くのか……というようなところまで思いを馳せることになるんだが、同時に自分が最期になったらどんな音楽を聞きたくなるだろうかなどということも考えてしまう。それくらい、心の琴線に触れるような話が多いということだが、でも、どの話もできすぎていて、ホントはフィクションなんじゃないかとつい考えてしまう自分がいる。もちろん先ほども言ったようにフィクションであっても全然かまわないんだが。
 なお、この本に因んだCDも出ている。『ラスト・ソング~人生を彩る奇跡の歌』というんだが、この本で取り上げられている歌がピックアップされていて、本と合わせて聴くと良いというコンセプトなんだろうが、ちょっと度が過ぎている気もしないではない。とは言いながら、僕もツタヤで借りてしまった(まだ聴いていないが)。一種のメディアミックスなんだろうが、まんまと引っかかったわけだ。もっとも今回は、本は図書館で借りている上CDについてもレンタルCDなんで、売上にはほとんど貢献していない。
 と、いろいろと書いてはきたが、先ほどから何度も書いているように、感動的で良い話が多く、なかなか味わい深い本であるのは確かである。あらためて買おうかなという気持ちはある。
★★★☆

追記:
 自分が死ぬ直前にどういう歌を聞きたいか考えるという似たようなテーマの本もある(『マイ・ラスト・ソング』)。こちらは久世光彦(元TBSディレクター)のエッセイ集で、自分の終末に何を聞きたいかということに思いを致すことにはなるが、内容的には取るに足りないものが多い。面白いものもあるにはあるが、底が知れているというのが率直な感想。

参考:
竹林軒出張所『最期のコンサート あるチェロ奏者の死(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-03-24 07:37 |

『ひとを〈嫌う〉ということ』(本)

ひとを〈嫌う〉ということ
中島義道著
角川書店

「嫌われる」を受け入れるということ

b0189364_15350187.jpg 哲学者が人間の「嫌い」について分析した本。自己啓発本の一種と考えて良いのかどうかわからないが、読み終わった段階で書かれていた内容をほとんど忘れてしまうという、自己啓発本らしい特徴があるので、あるいは自己啓発本と言って良いのかも知れない。
 ただし、関心するような記述もあり、無価値な本かというと必ずしもそうではない。特に「嫌い」という感情、「嫌われる」という現象に対して、それを正面から受け入れるべきとする主張はなかなか興味深い。人は誰しも他人から嫌われたくないと考えるが、そもそもそう考える人自体が誰かを嫌うのであれば、誰かに嫌われないということは起こり得ない。であれば嫌われることを必要以上に恐れずに、それを受け入れ、しっかりと対峙することが人生を豊かにすることに繋がるというのが著者の主張である。
 こうした著者の提言は大いに受け入れられるが、100ページに渡って展開される「「嫌い」の原因を探る」という章が、きわめて退屈で、面白味を感じなかった。こうやって細かく分けながら分析していくというアプローチはカント的で哲学者らしいとも言えるが、結局この箇所が全体の半分近くを占め、しかも内容ももう一つということになれば、むしろこの章がマイナスになっているとも感じる。全体を貫く主張やトーンがそれなりに魅力的であったため、こういう方向に進んでいったのは少々もったいない気がする。この本と著者に対しては「嫌い」の感情は持たなかったが(おそらく自虐的なエピソードが繰り出されているため、読者は「嫌い」という感情を発動しにくくなるのだろう)、「嫌い」の原因究明の章のために途中ダラダラしたとりとめのない印象が生じたのは確かで、そのあたりが本の価値を落とす結果になってしまったように思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『「怒り」のマネジメント術(本)』
竹林軒出張所『「やればできる!」の研究(本)』

# by chikurinken | 2018-03-22 07:34 |

『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 史記』(本)

ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 史記
福島正著
角川ソフィア文庫

しようがないとは思うが物足りなさすぎ

b0189364_18422693.jpg 角川の『ビギナーズ・クラシックス』シリーズはこれまで何冊か読んでみたが、どれも外れがない。入門者向けにダイジェストで紹介しよう、原文もあわせてお見せしようというコンセプトのシリーズで、ダイジェストというのが実は非常に良い。正直言うとかなり物足りない感じは残る、読み終わった後。しかし、前に読んだ『大鏡』などの歴史書を例にとってみると、「本紀」の部分は歴代の天皇の事績を書いているだけだったりして、読んでいてもあまり面白くない。そのため結局途中でやめてしまい読まないで終わってしまったりすることがある。これは僕自身、経験済みである。だから面白い部分だけをピックアップするというのは、読みやすさから推し量るならば、これは最高の趣向である。たとえ物足りなく感じるにしても、ゼロよりは多いわけで、高校でただ単に教科書でチラッと見た程度で終わっていることを考えると、『ビギナーズ』で触れたレベルであっても相当なハイレベルと言える。逆に専門家でなければこの程度がちょうど良いとも言える。
 今回は中国の古典中の古典、『史記』に挑んだわけだが、これも結構楽しめたのだった。しかも原文にも触れられるし、申し分ない……と言えなくもないが、しかーしそれにしてもあまりに内容が物足りなさすぎる。大著をわずか200ページくらいにまとめているので、仕方がないと言えば確かにそうだが、わずか3つのエピソードだけしか抜き出していない。しかもそこからさらにダイジェストなんで、物足りなさもハンパない。3つのエピソードというのは、伍子胥(「死者に鞭打つ」やつね)、魏公子、項羽と劉邦のそれぞれのエピソードで、しかも「四面楚歌」のように教科書に載るようなエピソードまであって、もう少し充実していてもバチは当たるまいと感じる。ただそうは言っても、背景やなんかをかなり詳細に解説してくれているので、面白いのは面白いが……。でも何度も言うがかなり物足りないのであった。まあ内容に興味があれば、小説もいろいろあるし、横山光輝先生のマンガもあるんで、そちらに当たれば良いわけで、そもそも『史記』自体、ちくま文庫でも岩波文庫で出ているわけでお手軽だし……などとは思うが、でもやっぱりもう少し内容が充実していたら良かったかなというのが本音である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『史記 (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 史記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 小林一茶(本)』

# by chikurinken | 2018-03-20 07:42 |

『The Making of Sgt. Pepper』(ドキュメンタリー)

The Making of Sgt. Pepper(1992年・英)
監督:アラン・ベンソン
出演:ジョージ・マーティン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター(ドキュメンタリー)

『サージェント・ペパー』の偉大さを体感

b0189364_16164902.jpg ザ・ビートルズの歴史的アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band)』について解説するドキュメンタリー番組。こちらは、『サージェント・ペパー』のプロデューサー、ジョージ・マーティン自身が、このアルバムで生み出された音についていろいろと解説する。
 元々1992年に作られたドキュメンタリーで、言ってみれば『サージェント・ペパー ビートルズの音楽革命』のオリジナルである。したがってあのドキュメンタリーとも内容的には重複しているが、こちらはやはり何と言っても、ジョージ・マーティン自身が解説している上、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターも番組内でインタビューに応じており、当時の状況を振り返っているという点で、一級資料に相当すると言える。とは言えこのドキュメンタリー、実際にはあまり見る機会がないようだ。僕自身は今回、昨年発売された『サージェント・ペパー』の50周年記念エディションに収録されていたものを借りることができたのでたまたま見るチャンスがあったが、もう少し普通に見られるようにしてほしいと感じるような作品である。
 しかしこのドキュメンタリーを見ると、あらためて『サージェント・ペパー』の価値というものがわかる。当時こういった音楽は、少なくともポップスの世界では存在していなかったわけで、前衛音楽をポップスの世界にまで拡大したわけである。ジョージ・マーティンによると、発売前は、ファンの方が「新しさ」についてこれないんではないかと危惧したらしいが、すでに人気を誇っていたビートルズが久々に出したアルバムだったせいか、あるいは時代背景のせいか、ファンはしっかりとこの音楽を受け入れた。今聴くと新鮮味も「中くらい」ではあるが、それは他のアーティストがことごとく模倣して、それがスタンダードになったせいである。当時の状況について身をもって知っているわけではないため、実際のところはよくわからないが、おそらく相当なセンセーションだったのではないかとこのドキュメンタリーを見て感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『サージェント・ペパー ビートルズの音楽革命(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-03-18 07:17 | ドキュメンタリー

『サージェント・ペパー』(ドキュメンタリー)

サージェント・ペパー ビートルズの音楽革命(2017年・英Apple Corp.)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

優良音楽解説ドキュメンタリー

b0189364_18164680.jpg ザ・ビートルズの歴史的アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band)』について解説するドキュメンタリー番組。案内人は、ハワード・グッドールという英国の作曲家。
 ヒートルズの音楽は、聞くところによると、音楽的にそれまでのポップミュージックとは大分違うらしく、僕なども非常に興味を持ったんで若い頃『ビートルズ音楽学』などという本を読んだりしたが、何だかよくわからない。そもそもが、楽譜を示されてなんやかんや言われてもピンと来ない。音楽はやはり音楽を聴かせてもらった上で解説してもらわないことにはなかなか簡単に理解できない。以前ヒッチコックの映像を解説するドキュメンタリー(竹林軒出張所『巨匠たちの肖像 ヒッチコック(ドキュメンタリー)』を参照)があったが、あれなども同様で、映像を見せてもらわないことには、よほどのマニアでなければピンと来ない。その点、あのドキュメンタリーは良かった。
b0189364_18165167.jpg このドキュメンタリーもあれと同様で、実際の楽曲を使って、どの部分にどういう面白味があるかわかりやすく教えてくれる。そもそも『サージェントペパーズ』自体、知らないとかなり謎の多いアルバムで、面白さはわかるが、本当のところは見えてこない。「With a Little Help from My Friends」や「Lucy in the Sky with Diamonds」が幻覚剤の影響とか、その程度の知識はあっても、「Being for the Benefit of Mr. Kite!」などの楽曲に至るとさっぱり意味がわからない。せめてどういういきさつで作られたかがわかれば、もう少しこちらとしてもわかりやすくなる。そこでこの番組ということになる。「Being for the Benefit of Mr. Kite!」については、ジョン・レノンが19世紀のサーカスのポスターを目にして、そこで使われている文言をそのまま使ったという話で、そんなもん聞かなきゃわかるわけがない。ましかし今回、ほとんどの楽曲について解説があったんで、いろいろなことが非常によくわかった。ビートルズが楽曲で使ったという風変わりな楽器も紹介されて、どの部分にどういう効果が出ているかなどについても詳細な解説があった。しかも、録音方法(これも当時としては非常に画期的だったらしい)も紹介されたし、作品では使われていない別テイクや素材の音なども出てきて、非常に面白かった。少なくとも『サージェントペパーズ』がかなり作り込まれだアルバムであることは窺える。
 あらためて言うまでもなく、アルバム自体が難解であることを考えると、こういった解説番組は非常に有用である。それに案内人が一部を再現したりしているため、きわめてわかりやすく、解説自体も非常に質が高いと言える。アップルレコードとBBCが共同で作ったドキュメンタリーらしいが、これまで数々発表されたビートルズのドキュメンタリーの中でも最上級で、永久保存版と呼んでもよかろう。
 ただ、放送時は気が付かなかったが、この番組で解説されていた一部の楽曲、「Strawberry Fields Forever」や「Penny Lane」は『サージェント・ペパー』に収録されている曲ではないし、一方で「With a Little Help from my Friends」、「Fixing a Hole」、「When I'm Sixty-Four」については解説がなく、少々ちぐはぐさもあった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『The Making of Sgt. Pepper(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本』
竹林軒出張所『カラヤン ザ・セカンド・ライフ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『巨匠たちの肖像 ヒッチコック(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-03-16 07:16 | ドキュメンタリー

『ユメ十夜』(映画)

ユメ十夜(2007年・日活)
監督:実相寺昭雄、市川崑、清水崇、清水厚他
原作:夏目漱石
脚本:久世光彦、柳谷治、清水崇、猪爪慎一他
出演:小泉今日子、松尾スズキ、うじきつよし、堀部圭亮、山本耕史

タイトルに騙された

b0189364_22432514.jpg 『ユメ十夜』というタイトルになっていることからわかるように10本のオムニバス映画である。10人の監督がそれぞれ1本ずつ担当するという趣向。原作は夏目漱石ということになっていたが、漱石の『夢十夜』とはまったく似ても似つかないストーリーも中にはある(似ているものやほとんど同じものもある)。
 前半の4本はまずまず見られる作品だったが、第5夜以降は悪趣味で見るに耐えない。悪い冗談みたいなものばかりで、僕は受け付けなかった。
 前半の作品群については、夢が元になっているだけにシュールレアルで面白さはある(好みではないが)。第三夜は原作をかなり踏襲しているが不気味(これも好みではない)。シュールレアルというより怪奇ものである。
 一部面白さはあったが、わざわざ見ることもなかったかなと思う。タイトルに騙された。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『夢十夜 (近藤ようこ版)(本)』

# by chikurinken | 2018-03-14 07:43 | 映画

『クリーン・センター訪問記』(映画)

クリーン・センター訪問記(1976年・小川プロダクション)
監督:小川紳介
撮影:奥村裕治
ドキュメンタリー

ゴミ焼却施設の広報映画のようだ

b0189364_17042166.jpg 山形県のゴミ焼却施設、通称「クリーン・センター」の業務を紹介するドキュメンタリー映画。
 このクリーン・センター、数年前に建てられた当時最新設備だったということだが、(ゴミ処理施設であるため)そもそも山間に建てられており、地元民にとってはあまり愉快な存在ではない。そのため、煙突から粉塵が放出されるとなると、地元民から何とかしてくれとクレームが来る。そのため、粉塵が出ないようさまざまな設備を設けており、職員自身、粉塵の監視も怠っていない。しかしそれでも粉塵がまったくなくなるということはない。
 とは言いながら、その一番の原因は、市民が出すゴミが分別されていないせいだということがわかる(クリーン・センター側の主張によると)。結局のところ、ゴミが焼却の質を決定するというのである。実際にゴミ収集の現場が映されるが、焼却ゴミに缶が大量に混ざっていたりして、今の日本の観点から考えると、ゴミの分別の質は非常に劣る。やり放題にも見える。この映画が撮影されたのが1975年で、当時の日本のゴミ分別に対する意識は概ねこんなもんだったように思う。あちこちでゴミ焼却の問題が噴出したのは記憶に新しいところだが、粉塵公害、ゴミ公害を少しでも少なくしようということでドイツの方法をまねて分別を徹底するという方向に進んだのだった。現在のような形になったのもこういう過程を経ているわけで、それを考えると、この映画のような啓蒙活動が、ゴミ対策の進歩に一役買ったとも言える。
 実際にこの映画では、焼却施設よりの立場が貫かれており、むしろこの焼却施設の広報映画ではないかと思えるほどである。しかも最後に、関係者全員を一堂に集め、一人ずつ彼らの肩書きや仕事を訊いていくというシーンまであって、このシーンでは「記念撮影」というキャプションが出てくる。NHKの昼のバラエティ番組さながらである。それを考えると、小川プロの映画とは思えないような印象さえ受けるが、そうは言っても主張はきわめて正論であって、何も反論はない。このセンター側にシンパシーを感じるほどだ。
 映像は全編モノクロで、しかも職員に対するインタビューもマイクを突きつけるような類のもので、かなり古さを感じる。しかもフィルムも結構劣化していて、レベル的には『青年の海』とほとんど変わらない印象さえ受ける。1975年の一般的な映像の水準はもっと高かったように思うが、製作側が貧乏所帯だったせいだとしか考えられない。方法論もなんだか洗練されておらず、ローカルのケーブルテレビ局並みである。そういうわけで質は決して高いとは言えない。
 とは言え、彼らからの主張は十分伝わってきたし、焼却場の設備についてもよく理解できた。したがってこの映画の目論見(本当のところはわからないが)は成功しているのではないかと思う。
★★★

追記:今確認したところ、やはり山形県上山市の広報映画だそうだ。

参考:
竹林軒出張所『青年の海 四人の通信教育生たち(映画)』
竹林軒出張所『廃棄家電の悲しき行く末(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-03-12 17:04 | 映画

『アンナチュラル』(9)(ドラマ)

アンナチュラル エピソード9(2018年・TBS)
演出:竹村謙太郎
脚本:野木亜紀子
出演:石原さとみ、松重豊、窪田正孝、井浦新、市川実日子、ミッキー・カーチス、伊武雅刀、薬師丸ひろ子

今後も期待を持てる昨今では珍しいドラマ

b0189364_20333358.jpg 今TBSで放送中の法医学ドラマ。ドラマで法医学の問題を扱うというのもなかなか意欲的で結構。ただし法医学の問題については、10年ばかし前にフジテレビで『チーム・バチスタ』シリーズを割と長くやっていて、原作者の海堂尊の主張(日本で病理解剖があまり行われないことから、犯罪性があっても自然死として扱われてしまうことが多い、そのためもっと積極的に病理解剖を行うべき!というもの)もそのときドラマを通じて結構全国に(僕を含めて)知れ渡ったわけで、そのことを勘案すると新鮮さは中ぐらいである。ただTBSは現在、日本の検挙後有罪率が異常に高いことをテーマにしたドラマ『99.9』まで放送しており、意欲的であることには変わりない。内容についてはとりあえず置いとくが。
 で、この『アンナチュラル』だが、こちらは内容についても割合よくできていると感じた。特に前半、割合退屈しそうな箇所でカットを短くつないでリズム感を出すなど、製作側に工夫が見られる。そのため見ていて非常に小気味良く感じた。演出も全体的に手堅く、シナリオもよくできている。原作ものかと思ったがオリジナル脚本のようで、その点も評価できると思う。ただし、しようがないと言えばしようがないんだが、登場人物がどれもこれも作り物的で浅いという印象は否めない(今のドラマにそこまで期待するのは無理なのだろうか)。
 そうは言っても全体的によくできたドラマであることは確かで、主演の石原さとみも魅力的。窪田正孝が演じている役も(性格付けがありきたりではあるが)味のある登場人物ではある。今後も見続けるかどうかはわからないが、期待を持てる昨今では珍しいドラマである(とは言ってもすでに半分以上終わっているようだが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『アンナチュラル (10)、(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ジェネラル・ルージュの凱旋 (1)〜(12)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ジェネラル・ルージュの凱旋(ドラマ) まだ途中だが』
竹林軒出張所『ナイチンゲールの沈黙(ドラマ)』
竹林軒出張所『アリアドネの弾丸 (1)〜(11)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-03-11 20:33 | ドラマ

『寺内貫太郎一家』(22)(ドラマ)

寺内貫太郎一家 第22話(1974年・TBS)
演出:久世光彦
脚本:向田邦子
音楽:井上堯之、大野克夫
出演:小林亜星、悠木千帆、西城秀樹、浅田美代子、加藤治子、梶芽衣子、左とん平、由利徹、横尾忠則、篠ひろ子、藤竜也

絶好調時の向田邦子作品

b0189364_18173182.jpg 懐かしの『寺内貫太郎一家』が、BSトウェルビとかいうよくわからない放送局で再放送されていたので見てみた。僕が子どもの頃も毎週見ていたし、学校でもかなり話題になっていた作品で、悠木千帆(後の樹木希林)のばあちゃんが沢田研二のポスターに向かって「ジュリー!」と叫ぶ毎週恒例のシーンは、かなりブームになって、多くの子供達がマネしていた。
 昔は確かに面白いと思って見ていたが、今見るとまた違った感想が沸くのでは……と思って今回見てみたわけだが、正直言って、コントとバラエティとドラマを混ぜ合わせてごった煮にしたようなドラマで、何じゃこりゃと思いながら見ていたのだった。だがそのうち、当たり前のように思えることが幸せ、当たり前のように存在している人が実は大切だ……というようなメッセージが伝わってきて、演出はともかく、かなりよくできたシナリオであるように思えてきた。
 実際に久世光彦の演出については、アドリブがかなり混ぜられるようなものだったらしく、山田太一はそのせいで彼とぶつかったらしいが、向田邦子はその辺は特に気にしなかったと見える。実際、このドラマには随所にアドリブめいた箇所がある。そのためにコントやバラエティみたいな様相を呈してくる。それによって面白くなる場合もあるが(実際当時はそういう部分が受けていたわけだし)、完成度はそれに伴って下がることになる。とは言っても、今回見た第22話については、先ほども言ったようにシナリオが非常に優れていて、とりとめのないゴチャゴチャした展開が、最後に実にスッキリした形で収束することになっていた。お見事としか言いようがない。最後の方のシーンでマドンナの浅田美代子が屋根の上で「幸せの一番星」を歌うのも毎度の定番だったが、結果的に静かな収束を象徴するような演出になっており、良い効果が出ていると言える(ただしギターを弾くふりはみっともないと思う)。そういったあたりがこのドラマの魅力だったのだと今回あらためて思った。
 他にもタイトルデザインが横尾忠則だったり、しかも横尾忠則がチョイ役で出演していたりして、別の面白さもある。音楽の担当が、井上堯之、大野克夫、岸部修三(岸部一徳)というのも贅沢である、今思うと(要は井上堯之バンドのメンバーたちなんだが)。キャスト陣もかなり豪華で、当時人気が出たのも頷ける……そういう1本だった。とは言え、見るのはこの1本だけで良いかなとも思った。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『ちょっと愛して…(ドラマ)』

# by chikurinken | 2018-03-09 07:17 | ドラマ

『百代の過客』(本)

百代の過客
ドナルド・キーン著、金関寿夫訳
講談社学術文庫

日本人が日本文学を再発見できる

b0189364_20284883.jpg 日本文学研究者のドナルド・キーンによる日本日記史。
 元々は同名タイトルの朝日新聞の連載で、1本(または複数本)の日本の日記を取り上げそれについて論じたものが毎回紹介されたというものらしい。ドナルド・キーンは、かつての夏目漱石と同じように、朝日新聞の嘱託として採用されており(何でも司馬遼太郎が猛烈に朝日にプッシュしたそうだ)、そのときに(万を持してという感じで)発表されたのがこの『百代の過客』で、それをまとめて一冊にしたものがこの本である。
 本書で取り上げられた日記は、円仁の漢文日記『入唐求法巡礼行記』(9世紀中頃)から江戸末期の『下田日記』に至るまでの78書である。ちなみにこの『下田日記』は、幕末日本に来て通商を求めたロシア人、プチャーチンとの交渉に当たった川路聖謨(かわじとしあきら)が、その模様を記録したもので、同じ川路の『長崎日記』という日記も取り上げられている。この78書は、平安時代12書、鎌倉時代17書、室町時代(戦国時代も含まれる)22書、徳川時代27書という内訳である。『土左日記』、『蜻蛉日記』、『和泉式部日記』、『更級日記』、『笈の小文』や『奥の細道』のような有名なものだけでなく、先ほどの川路聖謨の日記のように、一般人がほとんど目にすることがないかなりマイナーなものも含まれている。どれも個人の日記ではあるが、著者によると、現代人の日記と違って(あるいは根本的には同じかも知れないが)誰かの目に触れることを想定して書いたものばかりらしい。そもそも日本の日記は、儀礼の手順などを後の世代に文書で伝えるために書かれていたものが元祖という。したがって個人的な心情の吐露というより、どこか公式的な雰囲気が漂うものが多い。
 もちろん『蜻蛉日記』などは、度が過ぎた心情の吐露に溢れているわけだが、この著作にしても、おそらく著者の藤原道綱母は、夫の非道を大衆に訴え、自分に対する同情を勝ち取ろうとしたのではないかと著者は考えている。とは言うものの著者は、道綱母の訴えを額面通り捉えず、彼女の夫である藤原兼家の立場に立った上でも日記の内容について検討している。その結果、『栄花物語』や『大鏡』の記述から、藤原兼家が実は子煩悩で息子の道綱にも会いたかったが、会いに行くとその母である道綱母からしきりに嫌みを言われたりして(そのあたりの記述は『蜻蛉日記』に見受けられる)、結局疎遠になったというのが本当のところではないかと結論付ける。しかも道綱母が兼家の第三夫人(道綱母は第二夫人)の不幸を喜ぶ記述なども取り上げられていて、道綱母の人間性にも疑問を呈している。ただそういった心情が吐露されている部分こそが『蜻蛉日記』の文学的価値を高める役割を果たしているとも書いている。このように『蜻蛉日記』の考察だけでも非常に興味深く、きわめて価値が高い論考であると考えられる。
 他にも『成尋阿闍梨母集』(母親の息子べったりぶりが半端ない、しかも当時母は84歳、息子は61歳)、『うたたね』(『十六夜日記』の阿仏尼の若い頃の日記で、失恋によるショックで出家しようとする)など、あちこちから、さまざまな種類の(文学的に)変わった日記を拾い出して論じていて、著者の見識の高さに感心することこの上ない。もちろん変わった日記といえば『とはずがたり』も外せないところである(竹林軒出張所『とはずがたり マンガ日本の古典13(本)』を参照)。
 また、文学的にあまり名前の知られていない作者による日記にしても、彼らが生きた時代背景がリアルに描かれていて、歴史的な事件が身近な出来事として扱われていることがわかる。こういった日記に触れると、結局、歴史も幾多の人が関わることでできあがるのだなということが実感できるのである(もちろんそれぞれの日記には、本書を通して間接的に触れているだけではあるが)。本書には、日本の歴史と文学の両方の観点から興味深い記述があちこちに溢れており、同時に日本の日記文学の芳醇さも感じることができる。文庫本で600ページを越すという大著であり、途中、取り上げられている日記によっては少々退屈する部分もあるが、しかしこれはちょっとないがしろにできない著作であると感じる。
 当初ドナルド・キーンは、円仁の日記から、著者が直接知己を得ている現代の作家の日記まで集める予定だったが、想定以上の日記を取り上げたことから、残念ながら幕末で連載が終わってしまったらしい。結局、本連載の人気もあって、その数年後に続編の連載を始めるのである。それが『百代の過客〈続〉』で、こちらでは明治初期から正岡子規、徳冨蘆花あたりの日記まで出てくる。こちらも文庫本で750ページを越す大著であるが、『百代の過客』ともども、読んで決して損はない良書であると思う。そういうわけで僕は両方とも購入した。手元に持っていることが喜ばしい本で、僕自身、日本文学を再発見できたような心持ちがしているのである。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』
竹林軒出張所『とはずがたり マンガ日本の古典13(本)』
竹林軒出張所『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2(本)』
竹林軒出張所『更級日記 平安時代の元祖文系オタク女子の日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』

# by chikurinken | 2018-03-07 07:27 |

『ドナルド・キーン自伝』(本)

ドナルド・キーン自伝
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
中公文庫

キーン先生の華麗なる交遊録

b0189364_16093523.jpg 日本文学研究者のドナルド・キーンの自伝。
 幼少期に始まり、アーサー・ウエーリが翻訳した『源氏物語』に魅せられ日本に憧れた青春時代、日本語の研究のために海軍(海軍日本語学校)に入隊し、終戦後日本に住むようになるまでを時系列で辿っていく。文章は簡素で非常に読みやすいが、ところどころ意味のわからない文章が挟まっている。おそらく翻訳のせいだろう。
 以前紹介した『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』と、当然ながら内容は酷似していて、かなり重複している。大きな違いは、こちらの本に、日本の作家をはじめとするさまざまな著名人との交流が描かれている点で、三島由紀夫や安部公房、大江健三郎らとの交流は非常に興味深いところ。日本の文学者については、著者の仕事を考えるとそれほど奇異ではないが、他にもグレタ・ガルボやバートランド・ラッセル、ライシャワーらとも交流があったらしく、どれだけ付き合いが広いんだと思ってしまう。やはりエライ人は付き合う相手もエラいのかと感じるのはこちらのひがみか(実際のところうらやましくはないが)。それでまた、この本によると、そういった人々との付き合いも大変気持ちの良いもので、ひとえに著者の人柄のなせる技かと感心する。
 また、そのときどきの著者の仕事、たとえば『日本文学史』、『明治天皇』、『百代の過客』などについても、書いたときのいきさつが紹介されていて、大変興味深い内容だったことを付記しておく。『百代の過客』については現在読んでいるところで、内容にいたく関心し、著者に大いに興味を覚えたため、今回この自伝を読んでみたという次第ではあるが、あらためて著者の文学に対する博覧強記ぶりに驚く。この人は生まれながらの文学者だと感じてしまう自分がいる。そのうち『日本文学史』にも挑戦してみたいとも思う。もっとも全部で(文庫本で)18巻もあるんで、読了できるかどうかははなはだ疑問ではある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2018-03-05 07:09 |

『コンクリンさん、大江戸を食べつくす』(本)

コンクリンさん、大江戸を食べつくす
デヴィッド・コンクリン著、仁木めぐみ訳
亜紀書房

アメリカ人だが下町人

b0189364_18083803.jpg 人形町に住むアメリカ人、デヴィッド・コンクリン氏が、愛する日本食について書き綴った本。日本食だけでなく下町文化もこよなく愛し、地元の青年団に入ったりして、神田祭にも毎回参加しているそうだ。したがって、アメリカ人とはいっても僕よりははるかに東京下町文化について熟知しているわけで、そういう人が下町文化をこよなく愛するのは理に適っている。何人であろうと関係ない。そのため書かれていることは割とありきたりな下町論で、それが外国人の視点によっているという点だけが異なる。そうは言っても、このコンクリン氏、すでにほとんどできあがった下町住人であるため、外国人の視点がどの程度残っているかは少々疑問である。
 元々はコンクリン氏の描き下ろしエッセイを翻訳したものだそうだが、日本の国内向けに出すというよりむしろ海外向け東京下町ガイドとして出版した方が良いという類の本である。実際に下町の鮨屋や蕎麦屋のガイドもたくさん載っており、全部コンクリン氏自身が食べ歩きしたというし、店の人とも仲良くなったりしているので、そういう点でもガイドとして秀逸と言える。日本には概ね似たようなガイド本はあるだろうし、なんといってもコンクリン氏の場合、きっちりした英語が書けるという点が、他のガイドにない強みである。それに下町人、つまり本場の人の発想を披露できている点も大きなメリットになる。
 日本人が読んで面白い部分は、コンクリン氏がアメリカで日本食を知り、日本にやって来て、その後気に入って住み始めるまでくらいまでで、このあたりが比較文化論的で興味深いところである。後の部分は下町ガイドであり、(比較文化的な側面からは)取り立ててどうという部分は少ない。ただ大阪に行ってやたらランディ・バースに間違われたというくだりは非常に笑える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『英国一家、日本を食べる(本)』
竹林軒出張所『英国一家、ますます日本を食べる(本)』

# by chikurinken | 2018-03-03 07:06 |

『決戦!鳥羽伏見の戦い』(ドキュメンタリー)

決戦!鳥羽伏見の戦い 日本の未来を決めた7日間
(2017年・NHK)
NHK-BS1 明治維新150年スペシャル

鳥羽伏見の戦いを詳細に辿る

b0189364_18092611.jpg 1868年に薩摩軍と幕府軍の間で起こった鳥羽伏見の戦いから今年で150年になるということで放送されたドキュメンタリー。鳥羽伏見の戦いに対する従来の見方、つまりいち早く近代化した新政府(薩長)軍が旧弊な幕府軍を一蹴し、幕府側総大将の徳川慶喜が戦線を放棄して江戸に逃げ帰ったという見方は、その多くが偏見だ……みたいなことを冒頭から言われてかなり期待して見たが、実際のところはあまり通説と変わらず。少なくとも冒頭で紹介された「紙一重で新政府軍が幕府軍を下した」という見方は、ちょっと穿ちすぎと思う。ただし、今まで名前でしか知らなかった鳥羽伏見の戦いが、再現ドラマを交えて詳細に紹介され、かなりわかりやすかったことは確か。NHKの歴史物によく出てくる、素人(プロも混じっているが)パネラーたちによる議論みたいなくだらない演出がなかったことも評価に値する。専門家たちによる議論(めいたもの)はあったが、これについてはあった方が良いと思えるものであった。
 1867年の王政復古の後、新政府軍は天皇を中心とした新しい合議体制を進める方針を立てたが、このときに徳川慶喜がこの合議組織から排除されたことが事の発端。そのまま大坂城に退去した慶喜だったが、薩長といずれケリをつけるべく準備していた。実際兵力的には幕府軍が圧倒的に有利で、そのまま都を包囲すれば、薩長軍を雪隠攻めできることが明らかであるため、しかるべきタイミングで勅許を得て薩長を倒すというハラでいたらしい。ところが大目付、滝川具挙が薩摩討伐の勅許を速やかに得るべしと慶喜に上奏し、慶喜もそれに許可を出したため、にわかに時計の針が動き出す。
 朝廷を事実上乗っ取っていた薩摩は、いずれ幕府からの反撃があると予想し内心ビクビクしており、戦闘の準備をしていたが、やがてほぼ非武装の幕府軍(滝川具挙の軍)が都を目指して進軍してきた。そもそもの目的は薩摩討伐の勅許を得ることであり、勅許が得られたら、しかる後に薩摩に一撃を食らわす予定だったらしい。だが兵力で劣る新政府軍は、(危機感があったことも幸いして)万全の準備で滝川軍の進軍に対峙し、その進路である鳥羽と伏見で幕府軍を迎え撃つ。こうして、幕府側の当初の意図とは離れたところで戦いが始まってしまう。十分な準備ができていなかった幕府軍は散り散りで退去し、翌日反撃したが、その後再び責められ1週間で淀城まで撤退する。淀城は元々幕府の譜代大名である稲葉氏の城であり、滝川軍はここを拠点にして反攻することを考えていたが、稲葉氏が新政府軍に寝返ったため、反撃も叶わず、結局大坂城まで退去することになった。しかしこのときすでに、大坂城の主、徳川慶喜は、幕府の軍艦で江戸へと旅立っていたのだった……という流れである。
 途中、海軍力は幕府の方がはるかに優れていて大阪湾を完全に抑えていたとか、薩摩郡総大将の西郷隆盛が怯えていたとか、戦闘が始まってから朝廷内で親幕府勢力が一時的に優勢になったなど、やや目新しい事実はあるが、大局に影響するものではなく、結局ほぼ通説どおりに事が進んでいる。要するに幕府側が、新時代の変化に対応できていないのが一番の敗因であったということで結果としてはありきたりとも言えるが、日本史における画期であるこの事件を詳細に紹介するという試みは成功している。また、岩倉具視が、後醍醐天皇の時代以降途絶えていたはずの「錦の御旗」を再現し(要はイミテーションだが)、それが幕府軍と新政府軍のどちらにつくか迷っていた諸藩を引き寄せる結果になったなどという事実も目新しい。2時間枠は少し長すぎるような印象があるが、内容は充実していたと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『幕末史(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『龍馬 最後の30日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『武士の家計簿(映画)』

# by chikurinken | 2018-03-01 07:09 | ドキュメンタリー