アラバマ物語(1962年・米)
監督:ロバート・マリガン
製作:アラン・J・パクラ
原作:ハーパー・リー
脚本:ホートン・フート
美術:アレクサンダー・ゴリツィン、ヘンリー・バムステッド
音楽:エルマー・バーンスタイン
出演:グレゴリー・ペック、メアリー・バダム、フィリップ・アルフォード、ジョン・メグナ、ブロック・ピータース、ロバート・デュヴァル
アメリカの理想的な父親像 1932年のアラバマ州の田舎町での話。原作はハーパー・リーの同名小説『アラバマ物語(To Kill a Mockingbird)』で、著者の自伝的小説である(らしい)。主人公の、小学校に上がるくらいの女の子、スカウト(メアリー・バダム)がハーパー・リーの分身ということになる。
スカウトは、いつも兄のジェム(フィリップ・アルフォード)と一緒に遊んでいるが、夏の間だけ、隣の家にやってくるディル(ジョン・メグナ)も彼らの仲間に加わる。なおこのディル、実はモデルがいるらしく、なんでもトルーマン・カポーティだという。リーとカポーティ、幼なじみで、子どもの頃にこの映画みたいな付き合いがあったそうだ。
それはともかく、この作品では、子どもの視点から当時の社会が描かれるんだが、そのために子どもの世界が存分に出てくる。無茶ないたずらをしたり、拗ねたり、近づいてはいけないといわれている近所の家に進入したりで、僕とは国も時代も境遇も違うが、何となく彼らの言葉や行動に懐かしさを感じる。
スカウトとジェムの母はすでに死んでおり、父が一人で2人を育てている。この父がこの作品の本当の主人公である。父は、アメリカの良心を体現したような存在の弁護士で、あらぬ罪を着せられて収監された黒人の若者の弁護も引き受け、法廷で無罪を主張したりする。ただ、これについては町の白人たちが反感を持ち、圧力をかけたり暴力をちらつかせたりするのである。南部だけに、黒人に対する差別意識が噴出していて、少しばかり怖さを感じる。
一方で、彼らの隣家にはかつて親の足をハサミで刺したという噂がある精神障害者(ブー)が住んでおり、いろいろと家庭内で問題を起こしているという。子ども達は怖い物見たさでこの家に近づいたりするんだが、要するに、黒人に対する差別、精神障害者に対する差別、そしてそれに対してどう対峙していくかがこの映画のテーマになる。どちらに対しても、父は実に公正に対応しようとし、その生き様を子ども達に見せるのである。決して派手な父ではないが、正義感に溢れしかも行動がそれに伴っていて素晴らしい人格者に映る。アメリカの理想的な父親像と言って良い。このような人物をグレゴリー・ペックが好演していて、この映画の大きな魅力になっている。
先ほども述べたように、ストーリーは、2つのエピソードが1つの時間軸の中で同時進行で流れていき、それが最後に見事に収束するという秀逸なものである(しかもそれが子どもの視点から描かれる)。ドラマチックで緊張感が持続する上、主張が明確で、構成がしっかりした、大変良くできたストーリーと感じる。当時の町を再現した美術もすばらしい。
タイトルバックも非常に凝っていて、一度見終わった後もう一度見直すと、実に感心する。作者の分身、つまりこの主人公の思い出が詰まったような宝箱が出るんだが、(成長した主人公が感じているであろう)懐かしさがこちらまで伝わってくるようである。全編端正なモノクロ映像で、このあたりも郷愁を誘うところである。
1962年アカデミー賞主演男優賞、脚色賞、美術賞受賞
★★★★参考:
竹林軒出張所『カポーティ短篇集(本)』竹林軒出張所『ティファニーで朝食を(映画)』竹林軒出張所『ラスト・ショー(映画)』竹林軒出張所『十二人の怒れる男(映画)』 以下、以前のブログで紹介したこの映画の評の再録。
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(2005年8月2日の記事より)
アラバマ物語(1962年・米)
監督:ロバート・マリガン
原作:ハーパー・リー
出演:グレゴリー・ペック、メリー・バーダム、フィリップ・アルフォード
冒頭にいきなり「To Kill」と出てきてぎょっとするが、原題が「To Kill a Mockingbird」であった。「モッキンバード(マネシツグミ)を殺すこと」ってな意味。『アラバマ物語』という牧歌的なニュアンスとは異なるが、でもこの邦訳もなかなか良いと見終わった後感じた。
原作はハーパー・リーのピューリッツァー賞受賞小説『アラバマ物語』で、子ども時代を回想した(形式の)話。
子どもの視点から20世紀初頭のアメリカが描かれるが、子どもの視点がなかなか心地良い。この映画はストーリーが面白く重大な意味を持っているので、あまりここで多くに触れることはできない(映画評ではストーリーを極力明かさないのがマナー)が、一つだけ。「マネシツグミを殺すこと」というタイトルは「害鳥であれば撃っても良いが、マネシツグミみたいにただ良い声で鳴くだけで人間に害を与えない鳥は撃ってはならない」というフレーズ(映画の序盤に登場人物によって語られる)から来ている。映画を見終わってから「なーるほど」と感じてください。
★★★☆