夢と狂気の王国(2013年・ドワンゴ)
監督:砂田麻美
脚本:砂田麻美
出演:宮崎駿、鈴木敏夫、西村義明、庵野秀明、高畑勲、宮崎吾朗(ドキュメンタリー)
『風立ちぬ』製作の舞台裏 『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』の製作に追われるスタジオジブリに密着するドキュメンタリー。監督は
『エンディングノート』の砂田麻美。
『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』は、同じ日に公開すべく当時同時進行で製作されていたが、結局、高畑勲の仕事が例によって遅れたため、『風立ちぬ』の方が早く公開された。だが同時進行で仕事が進められていたのは事実で、このドキュメンタリーからもそれが窺われる。ただし、このドキュメンタリーでは、『かぐや姫』の方の製作現場はまったく出てこない。高畑勲も最後の最後まで出てこない。ほぼ宮崎駿に密着という形で話が進行し、遅れる『かぐや姫』にプロデューサーの鈴木敏夫と西村義明が振り回されるエピソードがそれに継ぐ。締切を守れない高畑勲については、宮崎駿をはじめとする他のメンバーたちは結構辛辣な言葉を発するが、それでも宮崎にとって高畑の存在は大きく、今の姿を形作る原動力になったというようなことがドキュメンタリーの中で語られたりする。高畑勲に対してはちょっとアンビバレントな感情を持っているようで、これは他のメンバーにも共通する感情のようである。
『風立ちぬ』については、宮崎駿がすべてコンテを描いて、それを周りのスタッフがアニメーション化していくという流れで仕事が進んでいた。要するに宮崎駿がストーリーと構成のすべてを作り上げるということなんだが、他のスタッフと同時進行で仕事が進んでおり、つまりはどういうストーリー展開になるのかは(宮崎駿を含めて……らしいが)誰も知らないで仕事を進めているということなのだ。僕自身はこれを知って、宮崎駿作品のストーリーにまとまりがないのは、こういう行き当たりばったりの作り方をしているからかと納得したのだった。
同じ頃のジブリを撮影した、似たようなテイストの宮崎駿のドキュメンタリーが過去にNHKでも放送されていたために、この作品についてはあまり新鮮さはなかったが、ま、しかし製作現場にかなり密着しているという点では大いに評価できる。宮崎のすぐ側に近づいていることが映像から窺われるため、途中で宮崎から「邪魔だ」などと怒られたりしないかと思ってヒヤヒヤしていた(怒られたのかも知れないが画面には出ていない)。一方で高畑勲については、話題としては出てくるが本人はまったく映像に登場せず(先ほども言ったように最後の最後にちょっとだけ出てくる)違和感を感じていたが、どうやら高畑勲に製作者側が怒られたからというのが真実のようである(ウィキペディア情報)。やはり怒らせたんだなと妙に納得した。それから宮崎駿が阿部晋三政権に相当な脅威を抱いているという点も新鮮だった。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『ジブリと宮﨑駿の2399日(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『高畑勲、「かぐや姫の物語」をつくる。(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『エンディングノート(映画)』竹林軒出張所『風の谷のナウシカ (1)、(2)(本)』竹林軒出張所『風の谷のナウシカ (3)〜(7)(本)』竹林軒出張所『未来少年コナン (1)〜(12)(アニメ)』竹林軒出張所『となりのトトロ(映画)』竹林軒出張所『魔女の宅急便(映画)』竹林軒出張所『パンダコパンダ(映画)』竹林軒出張所『ゲド戦記(映画)』竹林軒出張所『コクリコ坂から(映画)』竹林軒出張所『久石譲 いま世界で奏でる音楽(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ストップモーションアニメを紡ぐ(ドキュメンタリー)』 以下、以前のブログで紹介した、ジブリ映画の評の再録。
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(2006年12月7日の記事より)
ハウルの動く城(2004年・スタジオジブリ)
監督:宮崎駿
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
脚本:宮崎駿
音楽:久石譲
声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、我修院達也、神木隆之介、加藤治子、原田大二郎
お馴染み、宮崎駿のアニメ。
相変わらず、おもちゃ箱をひっくり返したようなごちゃごちゃさというか、猥雑さというか……まあ、よく作り込んではいる。ただ、これまでの作品と似通った部分が結構出てきて、『天空の城ラピュタ』や『魔女の宅急便』を彷彿とさせるようなシーンが多かった。また、ストーリーも少しパターン化していて、起承転結に忠実なのは変わっていない。途中、ハウルの正体(?)が明らかになるあたり、複雑でついて行けなくなった。『千と千尋の神隠し』でもそういう箇所があり、2回目に見たときに納得したが、あれと同じようなパターンか。やたら飛ぶシーンが多いのも宮崎アニメらしい。
もう1つ、声優の起用に疑問を持った。『となりのトトロ』でもそうだったが、声の主の顔が浮かぶような起用はどうかと思う。倍賞千恵子の娘役はいかがなものだろうか。木村拓哉も声がくぐもっていて、声優としてはパッとしない。美輪明宏は、登場人物とイメージが少し重なっていたこともあり非常に良かった。『もののけ姫』以来の起用だが、前作でも存在感があり、その辺が評価されてのことか。
トータルで見て、『千と千尋の神隠し』のレベルからは少し落ちるかなという感じ。楽しめるには楽しめるが。
そうそう、相変わらず映像はキレイで素晴らしいの一言です。
★★★☆--------------------------
(2005年12月19日の記事より)
柳川堀割物語(1987年・二馬力)
監督:高畑勲
製作:宮崎駿
脚本:高畑勲
声の出演:加賀美幸子、国井雅比古
(福岡県の)柳川の水路が荒れ果て、コンクリートで覆うという話が出て、そうしたところ、ある役人(広松伝という人)が水路を清掃し始めることでやがて市民を巻き込み、荒れた水路が徐々に以前の姿を取り戻しつつある……という話を以前新聞で読んだ。
このドキュメンタリー映画では、そのあたりも詳細に扱っている(事実はさきほどの話とは多少異なる)が、柳川の水路のさまざまな側面を多面的に扱っており、さながら柳川百科事典のような趣がある。全11章構成で、対象の掘り起こし方が、映画というより書籍に近い。特にDVD化されて、各章にランダムアクセスできるようになったため、マルチメディア百科としての価値がこれまで以上に高くなっている。
冗長な章がある上、しかも内容が複雑すぎてついて行けない箇所もある。だが、柳川堀割の原理や歴史など、内容は多岐に渡る上、非常に濃密である。映像も美しい。
『千と千尋の神隠し』の作者(宮崎駿)の頭の中には柳川の水路があったのではないか(ハクのことね)とふと思った。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『廃市(映画)』