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竹林軒出張所

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『忘れられた“ひろしま”』(ドキュメンタリー)

忘れられた“ひろしま”
~8万8千人が演じた“あの日”~

(2019年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

幻の映画が今蘇る

『忘れられた“ひろしま”』(ドキュメンタリー)_b0189364_21001561.jpg 原爆が投下されてから8年後に「ひろしま」という映画が作られた。広島市民(原爆の経験がある人も多数含む)がこぞって参加し、なんでも9万人近くのエキストラが動員される(というより自主的に集まった)ことになったという。
 この映画が作られることになったのは、元々広島で企画され製作された『原爆の子』という散文集がきっかけになっている。この散文集は、広島で実際に原爆の惨事を経験した子ども達に書かせた作文を集めたもので、当時占領国のアメリカからの圧力で広島の惨状が(国内にも国外にも)伝えられることがなかったために、その惨状を全国に伝えたいと考えた一部の教職員が企画したものである。記述は実体験に基づいているためインパクトがあり、多くの人々の心を揺り動かした。
 その後、これに記述されたエピソードを映画化しようという話が出てきて、日教組の教職員たちがカンパを集めることで資金を捻出した。この趣旨に賛同する映画人も参加し、一方で広島市民も多数参加した。市民たちは、広島で実際に起こったことを、映画を通じて人々に知ってもらいたいという一念で参加したらしい。主役クラスのキャストも広島の子ども達から選ばれた。その中には『原爆の子』に文章を寄せた子どももいる。また、主演の月丘夢路(広島出身)は、当時所属先の松竹からこの映画の出演について反対されたが、それを振り切ってこの映画に(無償で)加わったという。
 こうしてできあがった映画が『ひろしま』である。『ひろしま』では、当時の情景の再現に力が注がれている。参加者の中には撮影中、当時の様子を思い出して泣き崩れたりした者もいるらしく、今見ても非常によくできているという印象である。ただ、この映画に関わった実際の経験者に言わせればこれでも物足りないと言うのである。とは言うものの広島の当時の惨状を世間に伝える上で大きな役割を果たすはず……と多くの人は考えたが、いざ上映の段階になると、大手の映画会社(おそらく松竹)が上映に二の足を踏むという結果になったのである。アメリカに対する批判めいたセリフが一部ある(少なくとも映画会社がそう判断した)ということで、それを削除しなければ上映できないと言うのである。要するに、占領側の米当局に対する忖度である。そのために結局大手の劇場を通じて配給されることはなくなり、一部で細々と上映されはしたが、そのままほとんどお蔵入りの状態になってしまった。
 こうして存在すら永らく忘れ去られていた『ひろしま』だが、近年、元製作関係者(およびその子孫)によって「再発見」されることになり、しかもハリウッドの映画関係者からの支援も取り付けて、リマスターされることになった。こうして『ひろしま』がリニューアルしたのである。幻の映画がこうして蘇り、今私たちの目に触れることになった……という、そういう内容のドキュメンタリーである。
 この番組では、製作のいきさつ、過程、参加者の複雑な思いなども丁寧に追っていて、大変よくできたドキュメンタリーに仕上がっている。ただ『ひろしま』の内容がかなり紹介されるので、映画の紹介ドキュメンタリーとしてはいかがなものかと思う部分もある。いずれにしても、このドキュメンタリーを見てしまうと、この映画自体、何とか見てみたいものだと感じるようになる。そこでDVDが出ているか調べてみようと思っていたところ、なんと番組の最後に、翌週Eテレで放送されるという告知が出てきた。よくよく考えるとこのETV特集、結果的に『ひろしま』の番宣だったのかとも思える。このドキュメンタリー番組と映画『ひろしま』のタイアップ自体は非常に素晴らしい企画とも言えるが、一方で少々引っかかるところがあるのもまた事実。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ひろしま(映画)』
竹林軒出張所『きのこ雲の下で何が起きていたのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『一番電車が走った(ドラマ)』
竹林軒出張所『鯉昇れ、焦土の空へ(ドラマ)』
竹林軒出張所『決断なき原爆投下(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-09-25 06:59 | ドキュメンタリー

『高畑勲、「かぐや姫の物語」をつくる。』(ドキュメンタリー)

高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。
〜ジブリ第7スタジオ、933日の伝説〜〈決定版〉

(2014年・東北新社)
WOWOW

「ダラダラ」映像が少々つらい

『高畑勲、「かぐや姫の物語」をつくる。』(ドキュメンタリー)_b0189364_20392123.jpg アニメ作家の高畑勲が『かぐや姫の物語』を作る過程を追ったドキュメンタリー。
 『夢と狂気の王国』の撮影時期に撮られた作品で、しかも『夢と狂気の王国』には高畑勲がほとんど出てこなかったことを考えると、言ってみれば、あの裏作品と呼ぶこともできる。映像も重複しているものがあったようである(未確認)。
 『夢と狂気の王国』の監督、砂田麻美も映画製作時高畑を追っていたが、撮影時に怒られたことから、あの映画には高畑勲が出ていない……という話を聞いていたため、この作品の映像、つまり高畑勲の製作風景は、あちらのスタッフの撮影素材かとも思っていたが、この作品のスタッフには「砂田麻美」という名前が入っていなかった。ちなみにこの映画の撮影・構成担当は、寺越陽子という人であった。
 ドキュメンタリー自体は、『かぐや姫の物語』の製作開始から完成までを記録したという感じのもので、高畑勲の周辺が映像の中心になる。他にもジブリのプロデューサーの鈴木敏夫や、宮崎駿なども画面に登場する。ホントに『夢と狂気の王国』の裏返しみたいなドキュメンタリーなんである。
 『かぐや姫の物語』の製作現場では、最初に脚本ができあがり、その後、キャストによる音録りを経て、映像の製作に入るという具合に進行している。高畑勲流のやり方らしいが、これはかなり意外な感じがする。普通に考えれば音録りが最後になりそうだし、宮崎作品もそうしていた(多分他の作品もそうだろう)。また、アニメーションの製作に入ったら入ったで、案の定、高畑勲の絵コンテがなかなか進まず、進行がどんどん遅れていく。結局、当初『風立ちぬ』と同時期に予定されていた公開時期に間に合わず、公開日は二度延長されることになる。延長されたことは大きなマイナスだったが、高畑自身は、試写を見て感動し、大満足だったというところで終わる。途中、音楽監督の久石譲との折衝風景もあって、このあたりは、部外者の我々にとって非常に興味深いシーンだった。
 ただなにしろ、3時間以上も記録映像が流され、「ダラダラと」という表現がピッタリ来るような構成である。元々WOWOWで放送されたものらしく、劇場公開されたわけでないようで、だからまあ良かったんだろうが、劇場でこれを見せられたら溜まったもんじゃないと思う。こういう内容なら2時間程度にまとめることは十分可能なような気がするが、ま、高畑ファンみたいな人にとっては、製作風景が少しでも長く映る方が良いのかも知れないんで、そこら辺は何とも言えない。少なくとも僕にとってはかなり長かったんで、3回に分けて、しかも「ながら見」で見たという作品であったことを付記しておく。
★★★

参考:
竹林軒出張所『夢と狂気の王国(映画)』
竹林軒出張所『ジブリと宮﨑駿の2399日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『久石譲 いま世界で奏でる音楽(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ストップモーションアニメを紡ぐ(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-09-24 07:23 | ドキュメンタリー

『再びカラーでよみがえるアメリカ 2、3、4』(ドキュメンタリー)

再びカラーでよみがえるアメリカ:
大西部への道

マフィアの暗黒史
スポーツ娯楽大国
(2018年・米SNI / SI Networks / Arrow International Media)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

テーマが絞られていたこともあり
目新しい事項が多かった


 『カラーでよみがえるアメリカ』のシーズン2。第2回目は「西部開拓史」、第3回目は「アメリカ・マフィア史」、第4回目は「レジャー史」である。
 第2回目から第4回目は、米国外にいたらあまり目にしないような映像が多く、シーズン1よりもかなり新鮮な感じがした。「西部開拓史」や「マフィア史」については、フィクションの映画で何度も取り上げられている題材であるため、まったく知らないわけではないが、それでも初めて目にする映像が多かった。それになんと言っても時系列でまとめられているために、特にマフィア史については全体像を掴むことができたんで、今までのシリーズにない面白さを感じた。僕にとっては、単に色を付けた映像という以上の価値があった。
『再びカラーでよみがえるアメリカ 2、3、4』(ドキュメンタリー)_b0189364_20474648.jpg 第2回目の「大西部への道」では、白人に追いやられる先住民の他、アメリカとメキシコとの紛争などが紹介される。伝説の保安官、ワイアット・アープなども映像で登場する。セオドア・ルーズベルトやフランクリン・ルーズベルトなどによる、ダムなどの治水事業、それから州間の水利権争い、さらにはメキシコからの移民なども主要なテーマとして紹介される。
 個人的には、バッファロー・ビル・コディという興行師が紹介されたのが興味深いところであった(NFLのチーム、バッファロー・ビルズの名前の由来という知識しかなく、この人物が興行師だということも知らなかった)。
『再びカラーでよみがえるアメリカ 2、3、4』(ドキュメンタリー)_b0189364_20475110.jpg 第3回目の「マフィアの暗黒史」では一転、アメリカの犯罪史になる。禁酒法によって台頭したマフィアが、ルーズベルトの禁酒法廃止後、賭博事業に転進し、しかも内部抗争で殺人事件を繰り返すなどといった過程が詳細に描かれる。アル・カポネ、ラッキー・ルチアーノ、フランク・コステロなどの有名なマフィアの映像もふんだんに登場する。
 当初は映画の影響もあり、住民にも英雄視されていたマフィアだったが、一般人に犠牲者が出ると、一般民衆も彼らに対して冷ややかになり、当局もマフィアの摘発に本格的に乗り出すようになる、といったような流れである。メジャーリーグの野球賭博(シューレス・ジョー・ジャクソンらが処罰されたいわゆる「ブラックソックス事件」、映画『フィールド・オブ・ドリームス』に出てきたもの)も、犯罪史の一面として紹介される。
『再びカラーでよみがえるアメリカ 2、3、4』(ドキュメンタリー)_b0189364_20475567.jpg 第4回目は、タイトルが「スポーツ娯楽大国」になっているが、「レジャー史」と言う方が適切な気がする。タイトルからアメリカのプロ・スポーツ史みたいなものかと勝手に期待していたが、メジャーリーグもNFLもあまり出てこなかった。アメリカン・フットボールが知的なスポーツとしてアイビーリーグで採用され、やがてメジャーな大学スポーツになっていったという過程は、映像も含めて(個人的には)非常に興味深い内容であったが、NFL(全米プロフットボール・リーグ)については一切出てこなかった。おそらく権利の問題があるんだろうと思うが、物足りなさは大いに残る。第1回目のスーパーボウルやそれ以前のプロフットボールのカラー化映像なんかが出てくれば、僕にとっては見所があったのにと思う(おそらく多くのアメリカ人視聴者にも共通する感覚ではないかと思う)。
 スポーツの他には、アメリカの遊園地、ガールスカウトとかミスコンテスト、あるいはボウリング・ブームなどが出てくるが、やはりこういったラインアップを考えると「レジャー史」と考える方が適切である。日本版タイトルのせいで、期待を持ちすぎたのが失望につながった(原題は「Playtime」)。
 とは言え、今回のシーズン2は、シーズン1よりもテーマが絞られていたため、目新しく感じる事項が多く、その点は大いに評価したいところである。単に色を付けただけでない面白さが全編に散りばめられていた。もちろん色付けも自然で、カラー映像と見まがうようなものもあったことは注目に値する。いずれシーズン3とかシーズン4とかも出てきそうだが、それなりに期待が持てそうである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『再びカラーでよみがえるアメリカ 1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえるアメリカ 1、2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえるアメリカ 3、4、5(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・カラーでよみがえるアメリカ 1〜3(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フィールド・オブ・ドリームス(映画)』

# by chikurinken | 2019-09-22 06:47 | ドキュメンタリー

『再びカラーでよみがえるアメリカ 1』(ドキュメンタリー)

再びカラーでよみがえるアメリカ:ハリウッド誕生
(2018年・米SNI / SI Networks / Arrow International Media)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

カラー化されたチャップリンは新鮮

『再びカラーでよみがえるアメリカ 1』(ドキュメンタリー)_b0189364_20455578.jpg 『カラーでよみがえるアメリカ』の新シリーズでシーズン2という位置付けである。シーズン2の第1回目の放送はハリウッドがテーマ。
 20世紀初頭、エジソンが映画技術を独占したために、映画製作者たちが映画を自由に撮れなくなるという事態になる。そのため彼らは、エジソンが君臨するニューヨークから逃れ、遠く離れたロサンゼルス近郊のハリウッドにスタジオを作って映画作りを始める。やがて映画の時代が到来して、製作会社は大いに潤うようになり、チャールズ・チャップリンやダグラス・フェアバンクスなどのスターも誕生する。その後、映画界にはトーキーの時代が訪れ、映画の撮影方法もそれに合わせて変わっていく。こういった時代を記録した映像がカラー化された上で、1本にまとめられているのがこのドキュメンタリーである。モノクロ以外ではなかなかお目にかかれない、カラー化されたチャップリンの映像などがなかなか新鮮である。
 1950年台に赤狩りの時代を迎えると、粛正の嵐がハリウッドにまで及ぶ。この辺の一連の事情が紹介された後、時代をさらに経てテレビの時代になり、映画界はテレビという新しい敵との戦いに曝される、というあたりまでがこのドキュメンタリーで取り上げられる。このあたりまでで終わっているのは、それ以降カラー撮影が一般的になったためだと思われる。要するに、もはやカラー化する必要がない、つまりこのドキュメンタリーで取り上げる対象にならないためだろう。
 カラー化された映像はどれも自然かつ新鮮で臨場感があるが、前シリーズ同様、内容自体にはあまり目新しさがない。やはりどこかダイジェストみたいになってしまうのは、テーマから考えると、致し方ないところなのかなと思う。
 個人的には、『雨に唄えば』で描かれているようなトーキー初期の撮影風景が大変興味深いところであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『再びカラーでよみがえるアメリカ 2、3、4(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『世界サブカルチャー史 1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえるアメリカ 1、2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえるアメリカ 3、4、5(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・カラーでよみがえるアメリカ 1〜3(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえるイギリス帝国(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『雨に唄えば(映画)』

# by chikurinken | 2019-09-21 06:45 | ドキュメンタリー

『仁義なき戦い 広島死闘篇』(映画)

仁義なき戦い 広島死闘篇(1973年・東映)
監督:深作欣二
原作:飯干晃一
脚本:笠原和夫
出演:北大路欣也、千葉真一、菅原文太、梶芽衣子、成田三樹夫、小池朝雄、名和宏、室田日出男、前田吟、加藤嘉、山城新伍、川谷拓三

興奮だけは伝わってくるが
感情移入できない


『仁義なき戦い 広島死闘篇』(映画)_b0189364_20481194.jpg 戦後まもなくの「広島ヤクザ抗争」を描いた『仁義なき戦い』の続編。
 主役は、前作の菅原文太演じる広能昌三から、山中正治(北大路欣也)と大友勝利(千葉真一)へと移る。例によってタマを取ったり取られたりの抗争で、殺伐とした映画である。勝手な思い込みから恩人を殺したりとか、自分の利益のために人を殺したりとかいった事例が多く、前作のような「義」の要素が少ないこともあって、見ていてあまり気持ちの良い作品ではない。
 またドンパチのシーンも、カメラが近く、しかも被写体が動き回るため、何だかよくわからず、動きは表現できているがそれだけというようなもので、あまり効果的ではない。さらに夜のシーンは画面が真っ暗に近く、これも何だかよくわからない。正直言って、映像はあまりうまいこと表現できていないと感じる。70年代の日本映画の映像はこういう自己満足のようなものが多かったな、などと感じたりもしてくる。
 北大路欣也と千葉真一はこの作品で新境地を開いたらしいが、しかし映画作品としては、あまり特筆すべきことがないという印象である。もちろん、これは「義」がないと納得できないという僕の感想であって、ダーティ・ヒロイズムが好きな人にはたまらないかも知れない。ただ個人的には、このシリーズはもう見る必要がないと感じた。これで見納めである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『仁義なき戦い(映画)』
竹林軒出張所『青春の門 (東映版)(映画)』
竹林軒出張所『冬の華(映画)』
竹林軒出張所『女囚701号 さそり(映画)』

# by chikurinken | 2019-09-19 06:47 | 映画