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竹林軒出張所

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『ストラディバリに挑む』(ドキュメンタリー)

ストラディバリに挑む ~イタリア・国際弦楽器コンクール~
(2001年・NHK)
NHK-BSプレミアム 地球に好奇心

コンクールものなのに
密着参加者に入賞者はゼロ


『ストラディバリに挑む』(ドキュメンタリー)_b0189364_18201547.jpg 2001年に放送されたコンクールもの。ただしヴァイオリン製作者のためのコンクールというあたりが少々異色である。
 このコンクール、ヴァイオリンの名工、アントニオ・ストラディヴァリの生地、イタリア北西部のクレモナで3年に1回開かれるもので、正式名称は「ストラディヴァリ国際弦楽器製作コンクール」、通称「トリエンナーレ」と呼ばれており、(放送時で)第9回を数える。ヴァイオリンの造形の美しさや音を評価するコンクールで、一次審査、二次審査、最終審査と3段階に渡り、それぞれの作品が、作者名が隠された状態で評価される。審査員は楽器製作者と演奏家の計10人。
 このドキュメンタリーでは、数人の製作者に密着し、その作品がどのように評価されるかというあたりを追っていくが、なにせ審査がすべて匿名であるため、彼らの作品が審査を通過したかどうかを含め、審査の過程がよくわからない。最終的な結果しかわからないと来ているため、残念ながらコンクールものにつきもののスリリングさは望めない。
 しかしこれだけ厳正に審査しているということもあって、第8回の優勝者(番組の密着の対象者でもある)がこの第9回で予選落ちするなど、非常にユニークな結果になった。結局、すべての密着対象者は、最終審査まで残らず、ドキュメンタリーとしては少々寂しい結果になったが、ヴァイオリン製作の現場が細かく紹介されており、職人技紹介のドキュメンタリーとしてはまずまずの仕上がりになっていた。しかも参加者の中には、やけにニスにこだわった人など、ユニークな人もいて(もっと造形技術にこだわった方が良いんじゃないかとは思ったが)、テレビ番組としてはそれなりに見せる内容に仕上がっていた。まあ、楽器製作などは普段なかなか目にすることもない(それに見ていれば面白い)し、そういう場面だけでも十分楽しめる内容ではあった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『バイオリンの聖地クレモナへ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『至高のバイオリン ストラディヴァリウスの謎(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ストラディバリウスをこの手に!(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『最高の木を求めて(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのショパンコンクール(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ローザンヌでつかんだ未来(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『パイプオルガン誕生(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ピアノマニア 調律師の“真剣勝負”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ショパン・時の旅人たち(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-10-28 07:19 | ドキュメンタリー

『キャピタリズム マネーは踊る』(映画)

キャピタリズム マネーは踊る(2009年・米)
監督:マイケル・ムーア
脚本:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア(ドキュメンタリー)

資本主義が民主主義を破壊している

『キャピタリズム マネーは踊る』(映画)_b0189364_21224715.jpg 米国社会を浮き彫りにするマイケル・ムーアの長編ドキュメンタリー。野放図で金融関係者のやりたい放題になっている米国の経済と政治が俎上にのる。
 1981年にロナルド・レーガンが大統領になってから、金融関係者が政府の中枢に入り込むようになり、自分たちの都合の良いような経済政策を実施するようになった。そのためもあって多くの富が少数の人間に集中するようになり、それで富を蓄えた人々は、その富を利用してますます政治を自由に牛耳るようになる。
 同時に、かつて中流層と言われていた人々が、このような「上流階級」から富を収奪されるようになり、徐々に財産を失うようになる。家を銀行から奪われ追い出されるというケースが横行し、借金で破産する(実質的には詐取と強盗にあう)人々も増える。労働者は低賃金で良いように使われ、不当な扱いを受ける。こういったアメリカの現状が、報告されるのである。
 面白いモンタージュがふんだんに使われ、まったく飽きさせない工夫はさるもので、さすがマイケル・ムーアだと感じる。ただし例によって、金融機関に殴り込みに行くというようなパフォーマンスが最後にあり、こういう高揚した気持ちで映画を終わらせたい気持ちは伝わってくるが、少しばかりわざとらしさを感じる。こういう演出はもういい加減やめた方が良いんじゃないかと感じた。
 とは言え、アメリカの過酷な現状が映し出され、同時にそれに対して異議を唱える人々が増えている状況が紹介されるのは、心動かされる。同時に、ルポルタージュとしてなかなかの作品であるとも感じる。最後の方に、現状に異議を唱える人々の支援を受けてオバマが登場するという展開になって、映画は終わるんだが、実際には、オバマ大統領は金融機関の暴走を止められなかった。製作から10年経った今見ると、そのあたりも見えてきて(この映画で描かれているわずかな希望さえ失われたように感じて)、逆に暗澹たる気持ちになる。とは言え、資本主義が民主主義を破壊している現状(現在も継続中)が赤裸々に描かれている点は、大いに評価に値する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『シッコ(映画)』
竹林軒出張所『華氏119(映画)』
竹林軒出張所『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(映画)』
竹林軒出張所『インサイド・ジョブ(映画)』
竹林軒出張所『マネー資本主義第4回(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『悪夢のサイクル(本)』
竹林軒出張所『金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱(本)』
竹林軒出張所『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-10-26 07:22 | 映画

『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(映画)

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(2015年・米)
監督:マイケル・ムーア
脚本:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア(ドキュメンタリー)

マイケル・ムーアの「よい国」

『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(映画)_b0189364_21103562.jpg 強国アメリカ在住のマイケル・ムーアが、強国の笠に着て他の国を侵略し、その国の良いものを持ち帰ろうとする、というコンセプトのドキュメンタリー。タイトルの「世界侵略」というのはそういう意味あいであり、早い話が、世界各国の優れた社会システムを取材して紹介するドキュメンタリーである。マイケル・ムーアのかつての作品、『シッコ』とも共通する方法論と言える。
 マイケル・ムーアが今回侵略(訪問)する国々は、イタリア(会社員の福利厚生)、フランス(充実した学校給食)、フィンランド(自由主義的な学校教育)、スロベニア(教育無料化)、ドイツ(充実した社会保障制度と過去の歴史への向き合い方)、ポルトガル(薬物合法化)、ノルウェー(刑務所事情)、チュニジア(女性解放)、アイスランド(女性主導の経済、政治)で、それぞれの美点を紹介すると同時に、それと対極にあるアメリカの現状を暗に批判する。しかも彼らの優れた制度の多くがアメリカが発祥という事実にも着目し、現在のアメリカ政治の体たらくを痛烈に批判している。
 かつてフジテレビの深夜番組で『よい国』というバラエティ教養番組があった。いろいろな国の社会システムを紹介しながら、「よい国」の王様、ヨイI世がこの中から一番良さそうな社会システムを採用するという趣向の番組だったんだが、この映画もあれのドキュメンタリー版と言えるかも知れない。もちろんここで紹介された美点は、ある国の一面(良い面)に過ぎないんだろうが、理想的な政治システムを目指すという意味では、こういう一種の理想化もまた有効である。日本国もこういうところに登場してくれると嬉しいんだが、なにぶんここ20年アメリカ追随が甚だしく、アメリカ同様どんどん政治と社会が悪くなっている現状では、取り上げられるような題材自体もあまりない。
 『シッコ』を見ても感じるんだが、社会福祉の充実こそ、国民の幸福、安心、安全に貢献するのだということが再確認できる。その社会を構成する多数の人々が幸せにならなければ、国の存在価値などないと言っても過言ではないのである。経済主導主義や愛国主義でごまかされてしまう人が多いのが現実であるが、そのあたりの基本に立ち返って考えてみたいものである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『シッコ(映画)』
竹林軒出張所『華氏119(映画)』

# by chikurinken | 2019-10-25 07:10 | 映画

『モリのいる場所』(映画)

モリのいる場所(2017年・「モリのいる場所」製作委員会)
監督:沖田修一
脚本:沖田修一
出演:山崎努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、光石研、青木崇高、吹越満、池谷のぶえ、きたろう

退屈な上、気分もあまり良くない作品

『モリのいる場所』(映画)_b0189364_16352462.jpg 画家、熊谷守一の晩年のひきこもり(?)生活を描いた映画。
 熊谷守一は、晩年、脳卒中を患ったこともあって、自身の家と30坪の庭から一切外に出ることがなくなり、庭の中で自然を愛でることで毎日を過ごしていた。文化勲章や叙勲も辞退したため、やや変わった存在として今に伝えられている。絵自体も、子どもが描いたようなプリミティブな作品ばかりで、その異色さに花を添えている。
 その守一(モリ)のある1日を、面白おかしく描いたのがこの作品。見る前はかなり期待していたんだが、途中ドリフのコントを彷彿させるような演出(金たらいが頭の上に落ちてくる)があったりして(笑わそうとしているんだろうが)、あざとさが鼻について、ついていけなくなった。確かにのんびりした空気感は伝わってくるにはくるが。モリが庭の中をウロウロするシーンも、ダラダラという感じで続けられるため途中で眠たくなってしまう。もう少し緊張感を盛り込むなどの工夫が欲しいところである。
 盛り込まれたエピソード(長野から出てきた人が揮毫をお願いする話や近隣のマンション建設の話)も面白味のないものばかりで退屈。奇行の多いモリに対して小馬鹿にしたような視線まで感じられ、気分もあまり良くない。
 監督は『南極料理人』の沖田修一。あの映画みたいな乾いたユーモアがあればまだ良かったのにと思う。僕としては残念な作品であった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『南極料理人(映画)』
竹林軒出張所『フルーツ宅配便 (2)〜(12)(ドラマ)』
竹林軒出張所『神の手を持つ絵師 若冲(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2019-10-23 06:35 | 映画

『悪妻行進曲』(1)〜(12)(ドラマ)

悪妻行進曲(1977年・木下恵介プロダクション、TBS)
原作:木下恵介(企画)
脚本:宮崎晃、桜井秀雄
演出:鈴木利正、山田高道
出演:林隆三、大谷直子、木之内みどり、細川俊之、篠ヒロコ、植木等、森川正太、谷啓、岡まゆみ、松村達雄、沢村貞子、赤木春恵、南美川陽子

キャラクターたちに大いに親近感を抱く

『悪妻行進曲』(1)〜(12)(ドラマ)_b0189364_17122053.jpg 木下恵介プロ製作のホームドラマ。
 普通のサラリーマン(林隆三)が、1カ月の休暇を取って小説を書こうとするんだが、妻(大谷直子)や姑(沢村貞子)からの猛烈な反対に遭うというような話がメインのストーリー。義理の妹(木之内みどり)の応援があったり、学生時代からのプレイボーイの友人(細川俊之)、上司夫妻(谷啓、岡まゆみ)、隣人(植木等、赤木春恵、森川正太)らとの関わりがあったりして、話が進んでいく。
 このドラマ、40年前の初放送時にすべての回を見ているが、そのときの印象が強く、かなりの部分を記憶していた。たとえば、小説を書くために休暇を取るというエピソードには、小説を書くというのはそんなに労力がかかるものなのかと思った記憶がある。また主人公が小説執筆のために使っている極太万年筆も印象に残っている。さらに言えば、妻がしきりに作っている「パンが原料の造花」というのもこのときに初めて知って、今でも記憶している。最後のシーンで妹の涼子(木之内みどり)が、主人公の義理の兄が書いた小説(『悪妻物語』というタイトル)をこっそり読んで「お義兄さんがお姉さんのことを愛していることがよくわかった」と語るシーンも印象的で、記憶にしっかり残っていた。今回見直してみると、やはりこのシーンが最高のシーンであることがわかる。実はこのシーン、義兄に思いを寄せる妹の失恋のシーンにもなっていて、失意の場面を演じる木之内みどりが大変魅力的である。
『悪妻行進曲』(1)〜(12)(ドラマ)_b0189364_17123067.jpg タイトルが『悪妻行進曲』であることからもわかるが、結構な悪妻たちが次々に出てくる。ただどの悪妻も憎めず、可愛げがあるのは、製作者の見識の高さゆえである。悪妻もそうだが、登場人物たちはどれも魅力的で、特に囲碁仲間の津村兵衛(松村達雄)は最高のキャラクターで、松村達雄の名優ぶりにあらためて感心させられる。松村達雄は我々世代にとっては馴染みのバイプレイヤーであるが、昨今こういった役者がいないため、こうやってあらためて見ると、その名演にうならされる。主人公に近い頑固老人という役割は、松村達雄お得意のキャラだが、他にも森川正太の浪人は『俺たちの旅』のはまり役だったし、赤木春恵の校長先生、谷啓の課長などもこの後他のドラマ(『3年B組金八先生』)や映画(『釣りバカ日誌』)で使われるキャラクターである。このドラマのキャスティングが他の作品に影響を与えているとも言えるわけだが、つまるところ、このドラマ自体、当時、業界関係者にそれなりの注目を集めていたのかも知れない。
『悪妻行進曲』(1)〜(12)(ドラマ)_b0189364_17122782.jpg こういったホームドラマは、大した事件が起きないものだが、それでも非常に楽しく、特にキャラクターたちに大いに親近感を抱くことができる。今でもこういうドラマがあれば良いのにと思うがどうだろうか。
 なお、このドラマ、第2回以降、毎回冒頭に、出演俳優が、撮影スタジオの雰囲気溢れる場所(カメラの側や大道具の裏側など)で、キャラクターになりきって、視聴者に語りかけるように前回までの話をまとめるという趣向がある。最初は少し戸惑うが、なかなか凝った演出で面白いと思う。こういう趣向も含め、非常に質の高いホームドラマであると、今見直してみても思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『二人の世界 (1)〜(26)(ドラマ)』
竹林軒出張所『3人家族 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『それぞれの秋(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 風前の灯(ドラマ)』

# by chikurinken | 2019-10-21 07:11 | ドラマ