戦地のスキーヤー
(2019年・英Unscrypt Productions/米Articulus Entertainment)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
平和的な活動でさえ命がけ アフガニスタンでスキー競技を始めた若者たちのドキュメンタリー。
ご存知のようにアフガニスタン、タリバンが長いこと支配しており、それに引き続いて米軍が侵攻したこともあり、国内はズタボロ状態。その後、復興の方向に進んでいるが、依然としてタリバンがテロ活動を繰り返し、政権奪取を狙っているなど、政情は安定していない。
一方で市民レベルでは、復興への志向が強く、さまざまな活動も始まっているようだ。このドキュメンタリーで取り上げられるのはスキーヤーで、アフガンでは永らくスキーをやる人がおらず(元々存在しなかったのか、タリバンのせいかはわからない〈タリバンはスポーツやレジャーを禁止していた〉)、そのためスキー競技もスキー用の施設もなかった。
2010年代になると、西洋人によってスキーが持ち込まれ、スキー競技を志す二人の若者に金銭面でサポートしようという奇特な西洋人が現れる。これが1つのプロジェクトに発展し、この二人の若者がオリンピック出場を目指してスキー競技を始めるようになるというのが、このドキュメンタリーの背景である。
この二人、毎日のように練習に明け暮れるわけだが、アフガンでは、雪は結構あるにもかかわらず、リフトなどのスキー施設がない。そのため、徒歩で坂を上り、スキーで下ってくるという(スキー練習の観点からは)非常に非効率的な方法で練習をしている。その後、ヨーロッパで練習する機会を与えられ、海外の大会にも出場することになる。目標はオリンピック出場であるため、標準記録を突破することが第一の目標だが、なかなか難しい。なんと言っても他の選手たちは子どもの頃からずっとスキーばかりやって来たような人々である(しかも彼らにはリフトもある)。アフガン人の二人も上達はかなり早いらしいが、なんせ大人になってから始めたにわかスキーヤーである。
一方で、アフガン国内では、タリバンなどの保守勢力が、この二人の命を狙っているなどという噂も出ており、家族からもスキーをやめてくれという圧力が加わる。平和国家からは想像もできない状態がそこにはある。ただ彼らもなかなか骨があり、子ども達にスキーを教えたり、挙げ句にスキー大会を地元で開いたりして、スキーの普及に力を注いだりしているのだった。スポーツを通じて、平和を維持するための努力、活動を続けていく彼らの姿には、希望を感じさえする。
このドキュメンタリーを通じて、彼らの努力を目の当たりにすると、彼らの活動が実って、アフガンに完全な平和が戻り、人々がスキーに興じられる日々が来ることを願わざるを得ない。一方で、どうやったらタリバンという狂気の保守集団を封じ込められるのかがなかなか見えてこない。その辺にもどかしさを感じる。
★★★☆参考:
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