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竹林軒出張所

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『戦地のスキーヤー』(ドキュメンタリー)

戦地のスキーヤー
(2019年・英Unscrypt Productions/米Articulus Entertainment)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

平和的な活動でさえ命がけ

『戦地のスキーヤー』(ドキュメンタリー)_b0189364_16094761.jpg アフガニスタンでスキー競技を始めた若者たちのドキュメンタリー。
 ご存知のようにアフガニスタン、タリバンが長いこと支配しており、それに引き続いて米軍が侵攻したこともあり、国内はズタボロ状態。その後、復興の方向に進んでいるが、依然としてタリバンがテロ活動を繰り返し、政権奪取を狙っているなど、政情は安定していない。
 一方で市民レベルでは、復興への志向が強く、さまざまな活動も始まっているようだ。このドキュメンタリーで取り上げられるのはスキーヤーで、アフガンでは永らくスキーをやる人がおらず(元々存在しなかったのか、タリバンのせいかはわからない〈タリバンはスポーツやレジャーを禁止していた〉)、そのためスキー競技もスキー用の施設もなかった。
 2010年代になると、西洋人によってスキーが持ち込まれ、スキー競技を志す二人の若者に金銭面でサポートしようという奇特な西洋人が現れる。これが1つのプロジェクトに発展し、この二人の若者がオリンピック出場を目指してスキー競技を始めるようになるというのが、このドキュメンタリーの背景である。
 この二人、毎日のように練習に明け暮れるわけだが、アフガンでは、雪は結構あるにもかかわらず、リフトなどのスキー施設がない。そのため、徒歩で坂を上り、スキーで下ってくるという(スキー練習の観点からは)非常に非効率的な方法で練習をしている。その後、ヨーロッパで練習する機会を与えられ、海外の大会にも出場することになる。目標はオリンピック出場であるため、標準記録を突破することが第一の目標だが、なかなか難しい。なんと言っても他の選手たちは子どもの頃からずっとスキーばかりやって来たような人々である(しかも彼らにはリフトもある)。アフガン人の二人も上達はかなり早いらしいが、なんせ大人になってから始めたにわかスキーヤーである。
 一方で、アフガン国内では、タリバンなどの保守勢力が、この二人の命を狙っているなどという噂も出ており、家族からもスキーをやめてくれという圧力が加わる。平和国家からは想像もできない状態がそこにはある。ただ彼らもなかなか骨があり、子ども達にスキーを教えたり、挙げ句にスキー大会を地元で開いたりして、スキーの普及に力を注いだりしているのだった。スポーツを通じて、平和を維持するための努力、活動を続けていく彼らの姿には、希望を感じさえする。
 このドキュメンタリーを通じて、彼らの努力を目の当たりにすると、彼らの活動が実って、アフガンに完全な平和が戻り、人々がスキーに興じられる日々が来ることを願わざるを得ない。一方で、どうやったらタリバンという狂気の保守集団を封じ込められるのかがなかなか見えてこない。その辺にもどかしさを感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『クリケットで世界へ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ブータン サッカー少女の夢(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『武器ではなく命の水を(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アフガニスタン 山の学校の記録(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『バーミヤンの少年(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『少年テロリストたちの“夜明け”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『祖国に幸せを(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『タリバンに売られた娘(ドキュメンタリー)』
竹林軒『圧倒的な迫力、アフガン版ネオリアリズモ』

# by chikurinken | 2020-02-17 07:09 | ドキュメンタリー

『巴里の屋根の下』(映画)

巴里の屋根の下(1930年・仏)
監督:ルネ・クレール
脚本:ルネ・クレール
撮影:ジョルジュ・ペリナール、ジョルジュ・ローレ
音楽:ラウル・モレッティ、アルマン・ベルナール
出演:アルベール・プレジャン、ポーラ・イルリ、ガストン・モドー、エドモン・T・グレヴィル

茫々としたストーリー

『巴里の屋根の下』(映画)_b0189364_19591612.jpg 1930年製のトーキー映画。名画の誉れ高い映画で、30年ほど前、大阪で開かれた名画上映会で見たことがある。併映は同じルネ・クレールの『巴里祭』だったが、内容についてはどちらもほとんど忘れている。
 この映画は、主人公アルベール(アルベール・プレジャン)の恋物語だが、何だかもう一つピンと来ない。原因の一つは、相手役のポーラ(ポーラ・イルリ)の立ち位置の不明確さにあるが、登場人物全般に渡って、わかったようなわからないような性格付けになっているのも原因だと思う。ストーリーも単純でサブプロットらしきものもなく、しかも取って付けたような話で、今となっては目を瞠るようなものはない。
 ただ全編スタジオ撮影であることを考えると、セットは大変よくできていると言える。またクレーンを使ったカメラワークも、特に最初と最後のシーンで魅力を発揮している。1930年という映画創生期の作品であることを考えたら、確かに映画史上でそれなりの役割を果たしていると言えるかも知れない。サイレント期の映画であるためか、ところどころセリフが途切れてサイレント映画風になる(演出としてはなかなか味がある)。とは言え、現在の視点で見てみると、残念ながら、あまり目を留めるような要素がないのもまた事実。
 なお、今回見たものはNHK BSプレミアムで放送されたもので、リマスターされたものであった。従って90年前の映画とは思えないほど、画質は良かった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『アッシャー家の末裔(映画)』
竹林軒出張所『ミモザ館(映画)』
竹林軒出張所『舞踏会の手帖(映画)』

# by chikurinken | 2020-02-15 06:58 | 映画

『煙が目にしみる』(4)、(5)(ドラマ)

煙が目にしみる (4)、(5)(1981年・NHK)
脚本:ジェームス三木
演出:椿恭造
出演:川谷拓三、松村達雄、宮脇康之、賀原夏子、根岸季衣、田坂都、誠直也

80年代のNHKドラマには味がある

『煙が目にしみる』(4)、(5)(ドラマ)_b0189364_20315576.jpg 将棋の奨励会をモチーフにしたドラマ。
 奨励会というのは、プロ棋士になるための修行の場で、この奨励会の中の最上位である三段リーグを上位で勝ち抜くと、新四段としてプロ棋士になれる。ただこれは非常に狭き門であり、同時に年齢制限があるため、三段にいつまでもとどまり続けるということもできない。そのために数々の人間ドラマが生まれることになる。以前、NHKスペシャルで放送されたドキュメンタリー、『勝負 名人への遠い道』もそのあたりの事情を紹介していて、なかなか見応えがあった。当然、テレビドラマのモチーフとしても面白い素材であるため、こうしてドラマ化されたのだった。なおこのドラマ、あのドキュメンタリーに出てきた鈴木英春がモデルでもあるらしい。おそらくあの放送を見たジェームス三木が、面白いと感じてドラマを1本こしらえたというのが真相ではないかと思うが、これはあくまで憶測である。
 このドラマ、以前CSでも放送されたが、そのときは将棋にもあまり関心がなかったため結局見ないままだった。その後、奨励会のドラマがあるという話を聞いて、見たいと思っていたが、DVDも出ておらず、長いこと見られないままだった。このたびBSトウェルビで放送されるということを知ったが、時すでに遅く、もう3回分の放送が終わっていた。とりあえずここから見ることにする。
 ここまでのストーリーについては詳しいことはわからないが、第4回、第5回を見ればおおむねそれまでの流れを推測できる。
 主人公の30歳の奨励会員、根本(川谷拓三)が、年齢制限を目の前にして崖っぷちの状態になっていて、師匠の娘が、プロ棋士になった弟弟子と結婚しているという状態である。第5回を見ると、師匠の娘は元々根本と恋仲にあったが、根元がいつまでもプロになれないために弟弟子の方とくっついたということがおおむねわかる。ただこの弟弟子、元アカレンジャーの誠直也が演じており、根元よりずっとかっこいい存在で、同じ条件であってもこちらの方が選ばれそうであるため、あまり適役とは言えない。他のキャストは、松村達雄の師匠、賀原夏子のおかみさんと渋い配役である。誠直也もそうだが、宮脇康之、田坂都という今となっては懐かしい面々が嬉しい。
 銀河テレビ小説枠の放送で、1本20分×20話という構成である。BSトウェルビも、『まんが道』のときとは違い、冬場は野球放送がないため、順調に毎週2回ずつ放送されるんではないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『煙が目にしみる (6)〜(20)(ドラマ)』
竹林軒出張所『勝負 名人への遠い道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『聖の青春(本)』
竹林軒出張所『聖 ― 天才・羽生が恐れた男 (1)〜(7)(本)』
竹林軒出張所『ヒカルの碁(1)〜(23)(本)』
竹林軒出張所『将棋の解説者』
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』
竹林軒出張所『まんが道 (1)、(2)(ドラマ)』
竹林軒出張所『まんが道 (3)〜(15)(ドラマ)』
竹林軒出張所『まんが道 青春編 (1)〜(15)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2020-02-13 07:31 | ドラマ

『9で割れ!! (1)〜(4)』(本)

釣りキチ三平誕生前夜 9で割れ!! (1)(4)
矢口高雄著
講談社漫画文庫

矢口高雄がマンガ家になるまでの軌跡

『9で割れ!! (1)〜(4)』(本)_b0189364_21031067.jpg 『釣りキチ三平』で有名な矢口高雄の自伝的マンガ、「昭和三部作」の一つで、サラリーマン時代を描いたのがこの作品。小学生編が『オーイ!! やまびこ』で、中学生編が『蛍雪時代 – ボクの中学生日記』、サラリーマン編の本作とあわせて「昭和三部作」と(一部で)呼ぶらしい。発表年代は、『オーイ!! やまびこ』が1988年、『蛍雪時代』とこの『9で割れ!!』が1993年で、どれも著者のマンガ家としての名声が確立した後の作で、そのため作画やストーリーなどは完成されている。
 高校卒業後、地方銀行に就職した矢口青年、未知の銀行業務に従事していく。銀行業務も今と違ってほとんどが手作業であるため、その日その日の帳尻を手作業で合わせなければならない。これが合わないと信用問題にかかわるため、あらゆる方策を駆使して、何とか帳簿に問題が発生しないようにする。その際、たとえば桁を間違えて処理されているという比較的よく起こる問題については、合わない金額を「9で割る」という作業を行うらしい。こうすると桁を間違えて処理された数字が明らかになり、どの数字に問題があったか突き止めることができるという。タイトルの「9で割れ!!」というのは、この作業から来ており、これについては第1巻で解説がある。
『9で割れ!! (1)〜(4)』(本)_b0189364_21031345.jpg このように著者の銀行業務への関わりがこの作品のメインテーマになるが、しばらく勤めて中堅になってくると、仕事への不満なども出てきたりする他、棄てきれないマンガ家への夢も依然としてくすぶり続けていたりする。そんな折、新しく登場したマンガ雑誌、『ガロ』の白土三平のマンガに触れたことから、マンガへの情熱が再び蘇り、銀行での勤めの後、帰宅してから夜中にマンガを描くという生活を続けるようになる。そうやって描いたマンガを『ガロ』に投稿したりするがなかなか採用されず、挙げ句に直接『ガロ』の編集長、長井勝一に会いに上京し、どこに問題があるか指摘してもらうという大胆な行動に出る。やや無謀な行動ではあったが、長井との面会を無事に果たし、しかも水木しげるにまで紹介してもらうのである。そのまま水木プロに見学に行き、そこで、池上遼一やつげ義春と出逢って、マンガの手ほどきまで受けるという僥倖にあう。そしてこれが、その後の矢口高雄のプロへの道筋の第一歩になった……というふうに話が進んでいく。
 まさにマンガ家になる前の青春ストーリーで、本書の副題「釣りキチ三平誕生前夜」という文言がピッタリ合う。なお、長井勝一や水木しげるとの邂逅については、彼らの著書でも(彼らからの視点で)紹介されており、当事者間の見方や表現方法の違いがわかって興味深い。
 本書をはじめとして、矢口高雄の自伝的作品はどれも大変面白く、何度でも読みたくなるような作品群だが、1人の人生が読みものとしてこれほど面白くなるのも意外と言えば意外である。マンガ家を志してその夢を実現するというのは確かに特異ではあるが、やはり矢口の人生が少々異色である点、そしてその境遇を本人が存分に楽しんでいる点、さらにはそれを紹介する語り口のうまさなどが、諸作品を上質のものにしているのではないかと思う。なお、著者の自伝的作品には高校生時代がないんだが、著者にとってあまり特筆すべきことがないことが一因であるらしい(本人も、高校時代はあまり記憶にないと語っている)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)(本)』
竹林軒出張所『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『オーイ!! やまびこ (1)〜(5)(本)』
竹林軒出張所『ボクの学校は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの先生は山と川(本)』
竹林軒出張所『ボクの手塚治虫(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『白土三平伝 カムイ伝の真実(本)』
竹林軒出張所『あしあと ちばてつや追想短編集(本)』
竹林軒出張所『ふるさと (1)、(2)、(3)(本)』
竹林軒出張所『おらが村(本)』
竹林軒出張所『マタギ(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』

# by chikurinken | 2020-02-11 07:02 |

『老子』(本)

老子
金谷治著
講談社学術文庫

面白味を引き出せていない『老子』

『老子』(本)_b0189364_07263359.jpg 『ビギナーズ・クラシックス 老子・莊子』を読んで興味が湧き、『老子』全文を読むことにした。というわけで手に取ったのがこの本。老子の全文、全81章が収録されている。
 各章ごとに、訳文、書き下し文、白文、解説が続き、このあたりの構成は『ビギナーズ・クラシックス』と同様。ただしこちらはやや学術的で、原文の文字レベルで分析した上でそこにさまざまな解釈を施していることを表明しており、それについての解説もある。実際、白文と書き下し文を比べてみると、かなり強引と感じられる読み方、解釈の仕方があるのも確かで、もちろん『老子』自体、書かれていることが難解かつ曖昧であって、しかも二千数百年前の文献であることを考えると致し方ないところではあるが、通常の漢文の読み方とは大分異なっているという印象である。無理やりの解釈ではないかと感じられる部分は決して少なくない。
 ただ、本書の読者のほとんどにとっては(少なくとも僕にとっては)、そういったどのように解釈したかという話ではなく、老子の思想に触れることが第一の目的ではないかと思うんで、どう解釈したかという説明はあまり必要性を感じない。老子自体に深く立ち入って、その思想をわかりやすく伝える方を優先してもらいたいところであった。はっきり言って、この本は決してわかりやすいものではない。そのためもあり『ビギナーズ・クラシックス』を読んだときほど面白いと感じなかった。どちらかと言うと、読んでいて苦痛に感じる類の本であったということを付記しておきたい。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 老子・莊子(本)』
竹林軒出張所『酒楼にて / 非攻(本)』

# by chikurinken | 2020-02-09 06:36 |