中米パナマの憂うつ
“船と不法移民の交差点”で何が
(2024年・仏10.7 Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
汎アメリカ諸国に横たわる問題
中米の小国、パナマの現状や諸問題をレポートするドキュメンタリー。
パナマの状況は多くの日本人にとって関わり合いのないことだろうが、しかしパナマでも汎アメリカ諸国全般に横たわる問題が顕在化しており、このドキュメンタリーの内容は予想以上に興味深い。
パナマの代表的産業と言えば、パナマ運河であるが、近年このパナマ運河の船舶通行量が著しく減少している。船舶がパナマ運河を通行する際、水位を調整するために水閘(すいこう)が使われるが、その水閘の水源が近郊の湖になっている。ところが気候変動の影響で、降水量が近年著しく減り、この湖の水が減少しているというのがその理由である。つまり、水閘に入れる水が減っているために、通行量を制限せざるを得ず、それもあって船舶の待ち行列ができ、パナマ運河自体の利用を避ける船舶も現れ始めている。この水源の悪化は市民の生活にも影響を及ぼし、当然飲料水も減少する。水問題については解決策が見えない状況がパナマ国内にある。
また、南米諸国からアメリカを目指す不法移民の通り道になっているのもパナマで、このドキュメンタリーではベネズエラからコロンビアの山中を通過してパナマに入ってくる移民たちに密着して、その実態を紹介している。面白いのは、コロンビア側の国境がマフィアによって支配されており、そのマフィアが不法移民相手にガイドなどのビジネスを展開していることである。不法移民たちは、大変な苦労をしながら山を越えてパナマ側に入っていくんだが、それをマフィアのグループが(もちろん有料で)手伝っているわけ。そのためコロンビア側は、ルートはハードだが武装集団に襲われることもなく国境を越えることができるらしく、一方でパナマ側に入ると場合によっては武装集団によって強盗や暴行にあうこともあるという。パナマではこういった不法移民を歓迎していないため、パナマ側に入り山を越えて近隣の港まで辿り着いた不法移民はすぐに舟で隣国に送られると言うのも面白い話で、すでに不法移民のためのルートができあがっているというわけである。

このドキュメンタリーでは、パナマを横断するルート(つまりパナマ運河)と縦断するルート(つまり不法移民)に注目してパナマの現状に焦点を当てるわけだが、米国に政治面、経済面で依存していることから、結果的に虐げられることになる庶民の姿が映し出されているのが興味深い。こういう傾向は多くの中南米諸国に見られるもので、米国から政治面、経済面で独立しない限り、庶民の苦境は延々と続くのではないかと思ってしまう。
このドキュメンタリーでは、特に不法移民への密着が斬新で、彼らの困難や苦労が一筋縄ではいかないということがよくわかった。こういう厳しい手段を取らざるを得ない状況が彼らの母国にあるというミクロ的な視点も得ることができた。運河と移民(しかも他国からの)という2つの要素を1つにまとめるというやや強引な構成ではあったが、意外に見所は多かった。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『パナマ文書(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(8)〜(10)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『スエズ運河(ドキュメンタリー)』