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竹林軒出張所

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『追跡 自由診療“ビジネス”』(ドキュメンタリー)

追跡 自由診療“ビジネス” トラブル続出の美容医療 そして...
(2025年・NHK)
NHK-総合 NHKスペシャル

「医療」という名の詐欺行為

『追跡 自由診療“ビジネス”』(ドキュメンタリー)_b0189364_08165759.jpg 健康保険が効かない医療行為、つまり自由診療が日本中で広く行われており、中にはトラブルを引き起こすものや、まったく効果のないものも増えている。そういう状況を伝えるドキュメンタリー。特に美容整形や免疫治療などでこういったトラブルが多いらしく、この番組でもそういう例を取り上げている。
 最初に断っておくが、僕自身は美容整形に対して非常にネガティブな考え方を持っている。テレビなどで安易な美容整形を紹介するコンテンツが増えているのも問題だと思っており、テレビで目にするタレントの整形顔も幾分の気持ち悪さを感じることが多い。むろん整形していることがわからないこともあるが、わかることもある。それに整形し、それがきっかけで伴侶ができたところで、それが後に相手にわかったらかえって気まずいのではないかと感じるがどうだろう。だから広告に踊らされて(現在のように)安易に整形手術を受けるという話を聞くと、(もちろん当人の自由ではあるが)それが決して正しいことだとは思えない。そもそも顔や身体の見た目を変形させるための行為が医療と言えるのかどうか、そのあたりから疑いたいところである。
『追跡 自由診療“ビジネス”』(ドキュメンタリー)_b0189364_08170286.jpg それはともかく、こういう「医療」行為に危険性が伴うのは有名な話で、それに体内に異物を入れれば何らかの問題が起こりそうというのは、冷静に考えれば想像が付く。中にはいい加減な施術を行うような事業者もあるようで、こういう業者に施術を受け、思ったような効果が得られず、むしろ有害な反応が起こり後遺症が残った人が増えているという話もよく聞く。このNHKスペシャルでもそういう例が紹介されていたが、こういった側面は、本来であれば消費者に周知徹底させるべき情報である。事業者側についてはもちろんだが、利用者側もそのあたりのことをあらかじめ調べておくべきではないかと感じる。
 このドキュメンタリーでは、その他にも、ガンが治るなどといい加減なことを騙った免疫治療クリニックが取り上げられていた。こちらは本来詐欺として扱われる案件であり、医療云々の問題ではないと思うが、「自由診療」という点での共通性はある。美容整形についても免疫治療についても、医療を謳っているが医療からはほど遠い行為であり、利用者から金をむしり取るだけの悪徳業者のようにも思える。
 こういった現状を目の当たりにすると、医療界全体が病んでいるようにも思われ、その表だった症状がこういう「医療行為」の存在として顕在化しているのではないかという気もする。医療関係者を含むすべての人が、『治すこと時々、和らげることしばしば、慰めることいつも』という医療の原点に今一度立ち返る必要があるんじゃないのと考えさせる題材ではあった。一方で、消費者の側ももっと賢くならなければならないと、自戒したのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『マイケル・ジャクソン 最期の24時間(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『がんより怖いがん治療(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒出張所『医原病(本)』

# by chikurinken | 2025-04-25 07:16 | ドキュメンタリー

『アメリカ“中絶論争”の再燃』(ドキュメンタリー)

アメリカ“中絶論争”の再燃
女性の権利をめぐり深まる分断

(2024年・仏LSDFilms、Les films du Huitième Jour)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

アメリカ社会に見える末期状態

『アメリカ“中絶論争”の再燃』(ドキュメンタリー)_b0189364_08445075.jpeg 保守反動派が巻き返している米国で、女性の中絶を禁止した法律が制定される州が増えているという現実がある。これがイスラム原理主義国の話というのならいざ知らず、かつて自由の国と謳われた米国の状況であることを考えると、時代は変わったものだと思わざるを得ない。
 何でも全米でキリスト教福音派が活発に活動しているせいらしく、早い話がキリスト教原理主義が幅を利かせていることが原因らしい。だがすでに20以上の州で中絶が禁止されているという現状があり、そのためにあちこちで悲劇が起こっている。レイプされた場合でも中絶を認めないという州まであり、アメリカ社会は本当に狂気の状態といわざるを得ない。
『アメリカ“中絶論争”の再燃』(ドキュメンタリー)_b0189364_08445593.jpeg こういう極端な原理主義のせいで、胎児が死にかかっている場合でも完全に死ななければ堕胎できないというシステムになっていることから、母体の健康が危険に曝されるというケースまで出てきている。こういう制度には、ミクロレベルでの人間が存在しておらず、端的に言えば「女を、子どもを産む道具だとしか見ていない」というところに落ち着くわけである。しかも、中絶が認められている州でも、中絶反対を訴える人々が、中絶処置を行う医師や、中絶を望む女性にさまざまな圧力をかけるようなことも行っていて(すでに医療関係者が殺されている)、保守反動派のやることは自己中心的かつ暴力的なのは、どこの国でも共通であると感じる(米国は特にひどいが)。
 現在の米国は、社会のあちこちにすでに歪みが噴出していたわけだが、その上ことさら新たな問題を生み出す勢力が台頭してきているという状況である。まさに末期的な様相を呈しており、近いうちに何らかの形で大変動が起こるのではないかと感じてしまう。対岸の火事で終われば良いが、そうも行くまい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い(本)』
竹林軒出張所『説教したがる男たち(本)』
竹林軒出張所『私のいない部屋(本)』
竹林軒出張所『銃社会アメリカ ある牧師の挑戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ダウン症のない世界?(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ハリウッド発 #MeToo(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『未成年の性被害(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2025-04-23 07:44 | ドキュメンタリー

『中米パナマの憂うつ』(ドキュメンタリー)

中米パナマの憂うつ
“船と不法移民の交差点”で何が

(2024年・仏10.7 Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

汎アメリカ諸国に横たわる問題

『中米パナマの憂うつ』(ドキュメンタリー)_b0189364_09442133.jpg 中米の小国、パナマの現状や諸問題をレポートするドキュメンタリー。
 パナマの状況は多くの日本人にとって関わり合いのないことだろうが、しかしパナマでも汎アメリカ諸国全般に横たわる問題が顕在化しており、このドキュメンタリーの内容は予想以上に興味深い。
 パナマの代表的産業と言えば、パナマ運河であるが、近年このパナマ運河の船舶通行量が著しく減少している。船舶がパナマ運河を通行する際、水位を調整するために水閘(すいこう)が使われるが、その水閘の水源が近郊の湖になっている。ところが気候変動の影響で、降水量が近年著しく減り、この湖の水が減少しているというのがその理由である。つまり、水閘に入れる水が減っているために、通行量を制限せざるを得ず、それもあって船舶の待ち行列ができ、パナマ運河自体の利用を避ける船舶も現れ始めている。この水源の悪化は市民の生活にも影響を及ぼし、当然飲料水も減少する。水問題については解決策が見えない状況がパナマ国内にある。
 また、南米諸国からアメリカを目指す不法移民の通り道になっているのもパナマで、このドキュメンタリーではベネズエラからコロンビアの山中を通過してパナマに入ってくる移民たちに密着して、その実態を紹介している。面白いのは、コロンビア側の国境がマフィアによって支配されており、そのマフィアが不法移民相手にガイドなどのビジネスを展開していることである。不法移民たちは、大変な苦労をしながら山を越えてパナマ側に入っていくんだが、それをマフィアのグループが(もちろん有料で)手伝っているわけ。そのためコロンビア側は、ルートはハードだが武装集団に襲われることもなく国境を越えることができるらしく、一方でパナマ側に入ると場合によっては武装集団によって強盗や暴行にあうこともあるという。パナマではこういった不法移民を歓迎していないため、パナマ側に入り山を越えて近隣の港まで辿り着いた不法移民はすぐに舟で隣国に送られると言うのも面白い話で、すでに不法移民のためのルートができあがっているというわけである。
『中米パナマの憂うつ』(ドキュメンタリー)_b0189364_09442563.jpg このドキュメンタリーでは、パナマを横断するルート(つまりパナマ運河)と縦断するルート(つまり不法移民)に注目してパナマの現状に焦点を当てるわけだが、米国に政治面、経済面で依存していることから、結果的に虐げられることになる庶民の姿が映し出されているのが興味深い。こういう傾向は多くの中南米諸国に見られるもので、米国から政治面、経済面で独立しない限り、庶民の苦境は延々と続くのではないかと思ってしまう。
 このドキュメンタリーでは、特に不法移民への密着が斬新で、彼らの困難や苦労が一筋縄ではいかないということがよくわかった。こういう厳しい手段を取らざるを得ない状況が彼らの母国にあるというミクロ的な視点も得ることができた。運河と移民(しかも他国からの)という2つの要素を1つにまとめるというやや強引な構成ではあったが、意外に見所は多かった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『パナマ文書(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(8)〜(10)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『スエズ運河(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2025-04-21 07:44 | ドキュメンタリー

『ドイツの内なる脅威』(ドキュメンタリー)

ドイツの内なる脅威 躍進する“極右”政党
(2024年・英Mongoose Pictures、Evan Williams Productions、米WGBH Educational)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ドイツで蔓延する衆愚勢力

『ドイツの内なる脅威』(ドキュメンタリー)_b0189364_08125953.jpg ドイツに右翼的な思想、団体が台頭していることを報告するドキュメンタリー。
 ナチス的国家主義の再来に常に目を光らせてきたドイツだが、依然として極端な右翼的言動が支持される土壌がある。これは世界中で見られる傾向ではあるが、特に近年、政府の移民政策に反対することで支持を集める集団が、ヨーロッパの各国で次々に台頭している。
 ドイツではAfD(ドイツのための選択肢)という極右政党が支持を集めており、2024年ではとうとうチューリンゲン州の第1党になるという事態まで発生している。彼らは、公衆の面前では穏健な政党であることを装ってはいるが、その実、目に見えにくいところで極端な主張・活動も行っており、先頃も政府転覆のための武装蜂起に関わったことで捜査を受けている。こういった「革命」騒ぎが近年何度か起きているようで、もはや少数勢力として無視できなくなっている……そういう状況を報告する。
『ドイツの内なる脅威』(ドキュメンタリー)_b0189364_08130350.jpg 極端な主張、過激な意見で注目を集めて支持を取り付けるのは、特に近年、世界中で見られる傾向で、米国の破壊的な状況はその代表である。彼らに共通するのは、社会正義に基づく建前的な主張を切り捨てることで、それによって破壊的な志向を持つ人々に「本音」として響くわけである。社会正義が失われた政治が結果的にもたらすものは、弱者の切り捨て、利己主義の増幅、全体主義といった社会の荒廃であり、長い目で見て社会が著しく後退するのは目に見えているが、極端な主張が大衆受けすることから、こういった風潮が世界中に蔓延する結果になる。このような衆愚政治がもたらすものは、モラルの破壊以外に他ならず、それは今の米国を見ていればよくわかるというもの。不快な時代になってきたと感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 18(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『西洋の敗北(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』
竹林軒出張所『妖怪の孫(映画)』
竹林軒出張所『教育と愛国(映画)』

# by chikurinken | 2025-04-18 07:12 | ドキュメンタリー

『ハンガリーの民主主義は今』(ドキュメンタリー)

デモクラシーの“闇” ハンガリーの民主主義は今
(2024年・米Clarity Films、デンマークReal Lava)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ニュータイプの独裁

『ハンガリーの民主主義は今』(ドキュメンタリー)_b0189364_08561217.jpg 東欧のハンガリーは、20世紀後半、共産主義独裁国だったが、ソ連が崩壊すると、他の東欧諸国同様、民主国家を指向した。民主主義的な運営が続けられていたが、2010年に政権を取ったオルバン(現首相)が、それまでの制度、憲法に至るまでことごとく権威主義的なものに変え、独裁を可能にした。このオルバンが党首を務めるフィデスがいまだに強固な支配を続けているのが現在のハンガリーである。
 このオルバン、これまで行ったことは、強硬な軍事クーデターなどではなく、議会を支配し、国民の支持の下、強引に制度を変えていくというもので、反対する世論は圧力をかけて潰すという手法である。あるいはフェイクニュースで敵を攻撃し、あるいは御用報道機関(現在多くのマスコミは政府の支配下にある)を使って繰り返し一方的な情報を垂れ流し世論を誘導するということを行う。
 こうして、EUに加盟していながら、反動的政治体制を樹立し、ロシアや中国などの権威主義国に近づいているという状況で、EUの中でもハンガリーは批判の的になっているが、オルバンはさして気にしていない様子で、それどころか逆にEUを攻撃しながら、自分の政権がEUの犠牲者であるかのように振る舞うというしたたかさである。
 こういう類の独裁政権は、現在の米国や少し前の日本でも体現されており、新しいタイプの独裁と言えるかも知れないが、世界中に拡大する傾向がある。インターネットを通じて、情報の正しさを判断できない市民を誘導することが容易になったことが一因かも知れないが、一方で権威主義的な指向が多くの国民に潜在しており、それを代弁する人間が支持されているという側面もありそうである。
『ハンガリーの民主主義は今』(ドキュメンタリー)_b0189364_08561605.jpg この手の独裁者は、制度に則って台頭しながら、制度を破壊し自分の都合の良いように変えていくという特徴があり、しかもそれなりに国民の支持を集めるという点で始末が悪い。これまで積み上げられてきた民主主義的な方法論がいともたやすく破壊されていくのが空恐ろしくはあるが、こういう政権は、結局のところ「愚か者の国」を作り上げ、平気で人権侵害を行う政治体制になる。結果的に格差が大きくなって治安が不安定になるという方向に進むのは目に見えている。現在のような民主主義体制は、弱者の人権を守る、格差を極力小さくするという方向性を持っていて、機能すればまだましな体制であることは明らかだが、機能不全に陥っていることから、その間隙をついて独裁制が顔をもたげてくる。そういう現実をすべての人が知っておく必要があるのではないかとこのドキュメンタリーを見ながら感じた。決して対岸の火事ではない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『トルクメニスタン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『潜入 ベラルーシ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『未承認国家(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『暴かれる王国 サウジアラビア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『バシャール・アサド(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プーチンの“オオカミ”たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ゆらぐモルドバ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドイツの内なる脅威(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『西洋の敗北(本)』
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『グローバリズム以後(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』

# by chikurinken | 2025-04-16 07:55 | ドキュメンタリー