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『天安門事件 運命を決めた50日』(ドキュメンタリー)

天安門事件 運命を決めた50日(2019年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

いろいろと懸念材料が残るドキュメンタリー

b0189364_19553913.jpg 1989年6月に発生した、北京天安門前広場での市民弾圧事件、それがいわゆる天安門事件である。
 1989年4月15日、民主派の胡耀邦元総書記が死去し、中国全土で彼を悼む追悼集会が行われた。北京の天安門前広場でも同様だが、ここでの追悼集会はなかなか収束することはなかった。ただ、集まった市民が過激なスローガンを掲げたり暴徒化することもなく、せいぜいより進んだ民主化を求めるアピールがあった程度である。
 事態が変わったのは5月になってからで、行き過ぎた民主化の進展(と当事者は考えていたようだ)について懸念を抱いていた共産党の保守派が、中国共産党の機関紙『人民日報』に、広場に集まっていた市民を暴徒と名指しする記事を掲載したことから、市民側もこれに反発するようになる。この記事を出させたのは指導部の保守派、李鵬とされているが、実はその背後に鄧小平の意向が働いていた(というのがこのドキュメンタリーの主張)。
 さらに、これをきっかけに民主派の趙紫陽総書記も失脚したため、指導部は保守派で固められ、この集会への対抗措置として戒厳令を出すことが決まる。趙紫陽は天安門前広場の市民の前に現れ、すぐに解散するよう求めたが、市民が解散することはなかった。なお彼が公の場に出たのはこれが最後になった。
 その後、指導部は全土の人民解放軍を天安門前広場周辺に集結させる。当初は解放軍の兵士も市民に向けて発砲する意志はないとマスコミに対して語っていたが、上層部からの圧力で、穏健な軍トップが罷免されるなどして武力行使へと急速に舵が切られる。
 そして6月4日未明に、西部から進入してきた戦車部隊が突然発砲し、ここでまず数十人の犠牲者が出る。市民は逃げ惑うが、軍はあちこちで実弾を市民に向けて発砲、多数の犠牲者が出る事態になった。当局発表によると犠牲者は319人ということだが、番組に登場した英国政府の資料によると千人単位の犠牲者がいた可能性もあるということである。
 今でも中国政府は、天安門事件自体なかったことにしており、そのために中国内ではインターネットを通じて天安門事件を検索しようとしても出てこないらしい。しかし被害者の家族にとってみれば真相がわからないのは納得がいかず、今でも政府に対して真相解明を要求している。
 このドキュメンタリーでは、こういったいきさつをさまざまな関係者のインタビューを交えて再構成していく。番組に登場する関係者の中には、米国に亡命した人もいるが、今でも中国に住んでいる人々も数人いて、そういう人々をテレビという公共の場に登場させて良いのかかなり気になるところである。中国政府はあるいは彼らの言動を政府批判と受け取り(大いにありうることである)、それなりの落とし前を付けさせようとするのではないか……ということが容易に予測される。中国政府の民主派に対する弾圧は熾烈を極めるもので(これについては過去のNHKのドキュメンタリーでも紹介されている)、それを考え合わせると、彼らがこの番組の放送後、どういう仕打ちを受けるか簡単には予測できない。NHKの製作者たちはそのあたりに責任を持ってこの番組を作ったのか、その辺もじっくり聞いてみたいところである。
 一方で、どうもどこか賞狙いのドキュメンタリーという印象もあり、面白い番組ではあったが、何だか「後は野となれ」風の利己主義的な匂いもして、それを考えるとこの番組の製作者のスタンスを手放しで称賛することはできない。いろいろな懸念材料を残したドキュメンタリーである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『総書記 遺された声(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『中国はなぜ「反日」になったか(本)』
竹林軒出張所『文化大革命50年 知られざる“負の連鎖”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『中国人一億人電脳調査(本)』

by chikurinken | 2019-06-29 06:55 | ドキュメンタリー

『彼女は安楽死を選んだ』(ドキュメンタリー)

彼女は安楽死を選んだ(2019年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

安楽死も1つの選択肢と考えてみる

b0189364_16363243.jpg 世界には安楽死が認められている国がいくつかあり(日本では認められていない)、スイスもそういった国の1つ。しかもスイスは海外からの安楽死希望者も受け入れているため、安楽死が認められていない国の人々がスイスで安楽死を選ぶということも可能。実際、スイスで安楽死を希望する日本人も増えているらしい。もちろん安楽死が受け入れられるにはそれなりの条件があり、その審査を通過して初めて安楽死の施行が認められるという運びになる。
 このドキュメンタリーには、多系統萎縮症という難病のために身体の自由が利かなくなった女性が登場し、このまま寝たきりになり介助され(人工呼吸器なしでは生きていけなくなる)、周囲の人間に面倒をかけるだけの人生になることが本当に自分の生き方として良いのかと考えた末、安楽死を選択する。
 この女性、若い頃はキャリアウーマンでバリバリ仕事をこなしていたが、あるときから身体が動きにくくなり、多系統萎縮症という診断を受けた。その後、身体の機能の麻痺が進行するに伴い、2人の姉たちと同居するようになる。姉たちとは非常に親しい関係であり、安楽死についてもそれぞれで話をしているが、見送る側としては受け入れることができない、たとえ寝たきりになっても生き続けて欲しいと願っている。だがやはり本人の意志は固く、自殺未遂もこれまで何度か繰り返されてきたという。
 そんな折にこの女性は、スイスでの安楽死事情を知ることになりそのまま申し込んだんだが、すぐに実施されるというわけではなく、待機の状態が続いていた。だが身体の機能不全がますます進行してきて、このままだと安楽死の前に寝たきりになってしまい自分で死を選ぶことができなくなるという危惧が生じたために、自ら安楽死の早期実現を関係者にメールで要求し、それが受け入れられることになったのである。そしていよいよスイスに出向いて安楽死を遂げるということになる。このドキュメンタリーでは、このあたりの事情に密着取材して、安楽死を選ぶということ、それを周囲の人々がどのように捉えるかということ、どのような方法で安楽死が実施されるかなどが紹介される。一人の人間の生が終わる瞬間もしっかりと捉えられていて(死の瞬間の映像も出るが、眠るように死んでいった)、非常に見所が多い。
b0189364_16363628.jpg 一方で同じ病気になったが、生きて介護を受けることを選択したという人も紹介される。こちらも家族との関係は非常に良いが、自分が生き続けること、存在し続けることに価値を見出したという。この2つの対照的な事例が非常に印象的で、見る我々に対し、安楽死について考えるための素材を提供する上で十分な役割を果たしている。
 僕自身は同じ立場になったら安楽死を選びたいと(今の時点では)考えているが、いずれにしても現状では日本で安楽死を選択することができないわけだ。安楽死が認められている国々でも、それほど昔から認められていたというわけではなく、さまざまな議論を経て、人道的な見地から、自ら死を選択することを1つの選択肢として受け入れることにしたわけである。日本の現状については、議論すらしていないというレベルで、何が何でも死ぬまで生きるべきという一種の信仰に対してまったく疑問を抱かない人が多い。しかし人それぞれに事情があり、安楽死がその人にとってベストの選択ということも十分あり得る。少なくともそういう人の選択に対して、他人がとやかく口を挟むようなことではあるまい。
 さまざまな家族制度、あるいは死刑制度にしてもそうだが、とかく日本では、全然関係ない他者がやたら他人の事情に(消極的にであっても)介入している状況がある。他人の事情に介入するんだったら、少なくとも彼らの事情を理解し、十分そのことについて考えた上でするべきだと僕は思う。そういう点でも、安楽死の現状をレポートしたこのドキュメンタリーは、考えるための素材として大いに役に立つものであり、価値が高い。番組自体どこか賞狙いみたいな印象も受けるが、しかしその問いかけは重要である。日本のゼロ思考の人々が安楽死について考えるきっかけになる可能性もあり、安楽死についての議論を進めるという意味で、社会に一石を投じる役割をもしかしたらこのドキュメンタリーが果たすかも知れない。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『死刑(本)』

by chikurinken | 2019-06-28 07:35 | ドキュメンタリー

『三国志 完結編 遙なる大地』(映画)

三国志 完結編 遙なる大地(1994年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡瀬恒彦、あおい輝彦、山口崇、青野武、石田弦太郎、鶴ひろみ、津嘉山正種(アニメーション)

物足りなさは残るが
全体をよくすくっている


b0189364_20063515.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。92年から3年間かけて1年に1本ずつ発表されており、これはその完結編である。
 諸葛孔明のいわゆる「天下三分の計」を実現し、蜀の地を支配することができた劉備であるが、荊州の奪還を目指す呉と全国統一を目指す魏の圧力は強く、結局荊州は呉に奪還され、しかもその地を守っていた関羽まで倒される。その後、関羽の弔い合戦として荊州の再奪還を目指し劉備と張飛は軍を進めようとするが、張飛は暗殺され、劉備軍も大敗を喫して、しかも体調が悪化し、やがて死去する。魏の曹操も病で死去し、三国時代の第一世代は姿を消す。劉備なき後は諸葛孔明が蜀の軍事を一手に率い、南進してきた曹丕(曹操の息子)の魏と戦う。魏との戦いは、魏の軍師、司馬懿仲達との決戦になるが、やがて孔明も戦地で死去する……という具合にストーリーは進んでいく。こうして主役クラスの人間が途中で次々に消えていき、次の世代に移っていくわけだが、覇を競う人々が現れては消えていくのが歴史であるということがあらためて実感される。
b0189364_20063962.jpg 完結編も2時間半に及ぶ結構な大作であるが、前にも書いたように、元々が相当な大著であるため、これでもかなりダイジェスト的になってしまう。この完結編では、「泣いて馬謖を斬る」と「死せる孔明、生ける仲達を走らす」の逸話はしっかり押さえているが、それでも間がかなり省略されているため、蜀の武将や呉の武将など、登場人物たちが唐突に出てきて消えていくため、主役クラスの登場人物以外にはあまり感情移入できない。そのあたりはしようがないとは言え、物足りない箇所である。かと思うと鳳姫(関羽の娘)のエピソードが非常に細かかったりして、多少のアンバランスさは感じる。このエピソードは、やけに湿っぽいし、個人的には不要だと思うようなものであった(一番の見所という見方もあるかも知れないが)。
 キャストは、曹操の渡哲也がこの頃病気療養していたため、弟の渡瀬恒彦に代わっている。他は第一部、第二部とほぼ同じである。
 この三作を総括すると、やはり『三国志』入門というあたりに落ち着く。物足りなさは残るが、全体をよくすくっていると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第一部 英雄たちの夜明け(映画)』
竹林軒出張所『三国志 第二部 長江燃ゆ!(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

by chikurinken | 2019-06-26 07:06 | 映画

『三国志 第二部 長江燃ゆ!』(映画)

三国志 第二部 長江燃ゆ!(1993年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡哲也、あおい輝彦、山口崇、石田弦太郎、青野武、柴田秀勝(アニメーション)

もどかしさはあるが
うまくまとめられている


b0189364_19352684.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。三部構成になっており、第二部は「長江燃ゆ!」。タイトルから推測できるように赤壁の戦いが本作のハイライトである。
 曹操は漢王朝を事実上支配するようになるが、一方で劉備は、名声は上がるが、拠点を持たないままの浪人状態である。しかも曹操から命を狙われるようになる。いったん徐州城に入った劉備だが、曹操に敗北し、再び拠点を持たない浪人の身になる。そんな折、名軍師、諸葛孔明に出逢い、荊州から蜀へと進むべきことを進言される。孔明という優れた軍師を得た劉備であったが、なおも曹操から責められ夏口城まで引き下がることになる。しかし孔明の知略によって曹操軍を呉に向かわせ、呉と曹操軍を戦わせることに成功する。これが赤壁の戦いで、これについても孔明の知略によって曹操を倒し、しかも呉の将軍、周瑜まで計略で倒す。こうして曹操はついに荊州を手にする。
b0189364_19353095.jpg 全体にダイジェスト的だが、有名なエピソードは押さえられており、十分楽しむことができる。随時、大陸風の胡弓を使ったメロディが背景に流れ、雰囲気を盛り上げている。なお諸葛孔明の声を演じるのは、俳優の山口崇(本人が希望したという)で、颯爽とした孔明を好演している。全体を支配する空気は、義の劉備(関羽、張飛)、実の曹操という対抗軸で、正義漢の劉備が気持ち良い。ただダイジェスト的であるという制約のために、背景がよくわからない登場人物が数多く登場し(周瑜などもそう)、そのあたりが少々もどかしいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第一部 英雄たちの夜明け(映画)』
竹林軒出張所『三国志 完結編 遙なる大地(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

by chikurinken | 2019-06-25 07:34 | 映画

『三国志 第一部 英雄たちの夜明け』(映画)

三国志 第一部 英雄たちの夜明け(1992年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡哲也、あおい輝彦、石田弦太郎、青野武、津嘉山正種(アニメーション)

『三国志』はアニメでも大作になってしまう

b0189364_16290743.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。三部構成になっており、この「英雄たちの夜明け」は第一部である。
 三部あわせて都合7時間程度の大作ではあるが、元々が相当な大著であるため、これでもダイジェスト的になってしまう。第一部は、劉備玄徳、曹操孟徳の活躍が中心に描かれる。
 漢王朝末期、張角率いる黄巾賊が反乱を起こし、諸国で略奪、放火、殺戮など傍若無人の振る舞いを働く(そういうふうに描かれている)。そこで、こういった悪辣な黄巾賊に対抗するため、各地に義勇軍が結成され、それが離合集散しながら、やがて黄巾の乱は鎮圧される。そのときに頭角を現したのが劉備とその義兄弟の関羽、張飛の一派、そして曹操である。劉備は、義に溢れるその人間性で名を挙げるようになり、曹操は軍事力で台頭してくる。一方で漢王朝は董卓、呂布一派に牛耳られるようになり、やがて反董卓・呂布の勢力が曹操を中心に結成され、呂布を政権から追い出すことに成功する(董卓は呂布に殺される)。
 混乱もいったんは収まったかに見えたが、各地で有力な武将が軍閥として君臨する群雄割拠の状態になり、軍閥同士でも離合集散が起こるという戦乱の時代を迎える。第一部では、劉備が曹操の配下に入り、呂布が曹操によって処刑されるというあたりまで話が進む。また少年時代の諸葛孔明が登場するが、呉の孫策はまだ名前しか出てきていない。
b0189364_16291104.jpg このアニメ作品自体は、全編丁寧に作られており、キャラクターデザインも悪くない。ごく時折であるが、表情の描写が素晴らしい箇所があって感心する。この作品を見るのは今回が二度目で、前回は『三国志』自体についてよく知らなかったため、勉強の目的で見たのだが、(長すぎないという点を考えると)そういう目的が一番合っているようにも思える。現時点では可もなく不可もなしという印象ではあるが、決して見て後悔するような作品でないのは確かである。
 声は、プロの声優が多数起用されているのはもちろんであるが、渡哲也やあおい輝彦など、有名な俳優も起用されている。渡哲也が曹操、あおい輝彦が劉備だが、ジブリ作品のような違和感はまったくなく、二人とも非常にうまく演じている。これもこの作品の魅力の1つである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第二部 長江燃ゆ!(映画)』
竹林軒出張所『三国志 完結編 遙なる大地(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

by chikurinken | 2019-06-24 07:28 | 映画

『早春スケッチブック』(9)〜(12)(ドラマ)

早春スケッチブック (9)〜(12)(1983年・フジテレビ)
脚本:山田太一
演出:富永卓二、河村雄太郎
出演:鶴見辰吾、岩下志麻、山崎努、河原崎長一郎、樋口可南子、二階堂千寿、荒井玉青

そして大団円で終息に向かう

b0189364_19273015.jpg 望月家に騒動をもたらしている元カメラマン、沢田(山崎努)の病状が悪化していく。望月家の人々と沢田の恋人(樋口可南子)は、それに同情を示して沢田の元を訪れるが、さらには望月家の子ども達にしきりに絡んでいた不良少女(荒井玉青)までが毎日沢田の家を訪問するようになる。沢田は、当初見せていた攻撃的な側面を見せなくなり、何だかしおらしくなって、ちょっとばかり拍子抜けである。そしてやがて収束に向かっていくという展開になる。例によって最後は大団円で終息するという結果になる。
 沢田が死の恐怖で弱みを見せるあたりはなかなか良い描写だが、最後に物わかりが良くなってしまうのは少々腑に落ちない。とは言うものの、破綻はなく整合性はとれている。
 このドラマはなにしろ、それぞれの登場人物が非常にリアルで、性格もしっかり描きわけされていて、実在の人物のような存在感がある。こういったあたりが、このドラマの特質である。他人(血縁関係のあるものもあるが)同士が、お互いの生活に介入し合い、そこに人のぶつかり合いが生じてドラマが生まれる。この当時のドラマ、特に山田太一作品にはそういうものが多いが、それがごく自然に展開するため、違和感を感じることがない。このあたりが山田ドラマの大きな魅力であり、すごさなんだろうなと、このドラマを見ながらあらためて考えた。ただやはり最終回の展開は、どうにもいただけない感じがして、最後までモヤモヤが残った。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『早春スケッチブック(1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『早春スケッチブック(5)〜(8)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒『批評選集:ドラマ - 山田太一』
竹林軒出張所『時にはいっしょに(1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-06-22 07:27 | ドラマ

『早春スケッチブック』(5)〜(8)(ドラマ)

早春スケッチブック (5)〜(8)(1983年・フジテレビ)
脚本:山田太一
演出:富永卓二、河村雄太郎
出演:鶴見辰吾、岩下志麻、山崎努、河原崎長一郎、樋口可南子、二階堂千寿、荒井玉青

河原崎長一郎の演技にただただ関心

b0189364_19592833.jpg 最近、山田太一脚本のドラマがあちこちで再放送されていて、見るのが追いつかないくらいである。日本映画専門チャンネルで『真夜中の匂い』(これが楽しみ)、BS12では『早春スケッチブック』から『想い出づくり。』、NHKでも『男たちの旅路』が3本放送されるという具合。だが『想い出づくり。』や『男たちの旅路』は割合「ありきたり」な選択という感じもする。やはり日本映画専門チャンネルはこの分野では先行しており、面白いラインアップを提供してくれる。
 ところで、この『早春スケッチブック』では、重病になった元カメラマン(山崎努)が、「お前らは、骨の髄までありきたりだ」などと怒鳴り散らして、普通に生きる人たちに揺さぶりをかける。考えてみれば大きなお世話で非常に身勝手な言動だが、今まで自身の生活を振り返ることなく漫然と生きてきた人たちは、こういった刺激に過剰に反応してしまう。こうして善良で小市民的な生活を送っている人の家庭に波紋が起こるというわけだ。
 第5回から第8回では、このカメラマンが、主人公の家庭、望月家にまで入ってきて、(元恋人だった)妻(主人公にとっては母)と逢うことを求め(夫に対して「奥さんを貸してくれ」などと言う)、主人公の家庭の平穏な生活をかき乱す。
 このカメラマン、沢田(山崎努)、主人公の家族に対して不快な言動を繰り返すが、その一方で、実は割合良い人みたいな側面も見せ、そのために主人公の少年(鶴見辰吾)とその母、それから育ての父と妹も少しずつ気を許していくそぶりを見せる。かと思えば突然豹変して、相手の気持ちをえぐるような嫌な言葉を発してきたりもする。普通の人々は、こういった言葉を不快に感じつつも、どこかで揺さぶられてしまう。特に主人公の育ての父は、現状肯定型の小市民的な生活を送る人で、沢田と好対照をなす存在。もちろんそういった小市民的な生き方を否定することはまったくできないのであって、「ありきたり」であろうが、長い目で見ればそちらの方が良いかもしれないし、そもそもどちらが良いとかいう問題でもない。
 そういう小市民的な存在を巧みに表現しているのが河原崎長一郎である。この人、僕が子どもの頃からテレビでよく目にしていて、こういう小市民的な役が多かったという印象が僕の中にあるが、確認すると必ずしもそうではないようである。こういった小市民的な役は、山田太一のドラマ(『沿線地図』、『友だち』)ぐらいで、そうするとやはり、僕の中で山田ドラマの印象が非常に強かったということになるのだろうか。この河原崎長一郎、演技があまりにさりげなく影が薄いんでつい見過ごしがちだが、毎度毎度素晴らしい演技である。周辺の人間に対する気遣いや愛想笑いなど、市井の人物の表現がピカイチである。今回見ていて、すごい役者であることにあらためて気付き、ただただ感心した次第。なお、河原崎長一郎、妻役の岩下志麻と実はいとこ同士らしい(ウィキペディア情報)。
★★★★

追記:
 第8回の最後で、元カメラマン、沢田の身体に変調が起こるため、ここからいよいよ収束に向かうということになりそうだ。

参考:
竹林軒出張所『早春スケッチブック(1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『早春スケッチブック(9)〜(12)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒『批評選集:ドラマ - 山田太一』
竹林軒出張所『時にはいっしょに(1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-06-21 06:58 | ドラマ

『早春スケッチブック』(1)〜(4)(ドラマ)

早春スケッチブック (1)〜(4)(1983年・フジテレビ)
脚本:山田太一
演出:富永卓二、河村雄太郎
出演:鶴見辰吾、岩下志麻、山崎努、河原崎長一郎、樋口可南子、二階堂千寿、荒井玉青

見始めると目が離せなくなる

b0189364_10151946.jpg 今回、14年ぶりにこのドラマを見た。あれからもう14年も経っているのかと思う。さらに言えばこのドラマが作られたのが1983年で、ドラマが作られてから36年経っている。主人公の少年が1983年の共通一次試験を受けるという設定になっているが、僕もあの年に共通一次を受けている。83年の試験は1月15日に実施されたが、なんと成人の日とかち合っていたため、試験場に向かうバスから成人式の晴れ着を着た女性がたくさん目に付いた。当時20歳だった二浪の友人も、こういった人々を目にして、俺は一体何をしているのかと考えたなどと漏らしていた。
 この共通一次試験を目前にしているのが主人公の高三の少年、望月和彦(鶴見辰吾)だが、父(河原崎長一郎)と母(岩下志麻)が再婚同士で、共に連れ子(母に自分、父に妹)がいたという設定である。ただ結婚してからすでに10年経っているため、普通の家族との違いを感じることはほとんどない。そのため普通に高校生活を送り受験勉強に励んでいたのであるが、ある日突然、新村明美(樋口可南子)という美女が目の前に現れて、バイトしない?などと言ってかなり強引に少年を、実の父(山崎努)の元に引っぱっていくというふうにストーリーが展開する。大学入試直前にあれやこれやが起こるというのも、『沿線地図』や『岸辺のアルバム』を彷彿させる。
 この実の父、沢田竜彦というんだが、目を病んだことがきっかけで写真家を引退し古い洋館に引きこもっているという状態で、社会との唯一の接点になっているのが明美であるという設定である。和彦も最初は抵抗を覚えていたが、その後何度か沢田の元に足を運ぶようになり、沢田の影響を受けるようになる。実の父、沢田が「ありきたりな人生」を否定的に捉えるような発言をし、それをきっかけに自分の生き方についても考えるようになって、あげくに、今の父についても物足りなさを感じるというふうに話が進行していく。これが第4回までの流れである。ちなみに実の父に影響を受けてしまった和彦は、共通一次試験をすっぽかしてしまう。沢田から起こった影響が望月の家に波風を立てていくというふうにこれから進む。
 ドラマは、最初からグイグイ視聴者を引っぱるような展開で、特に樋口可南子が登場するあたりからは先が見えないサスペンスが始まり、目が離せなくなる。脚本家の豪腕にうなってしまう。また樋口可南子と岩下志麻が非常に美しいのもこのドラマの大きな魅力である。山崎努の演技も大きな見所で、涙と一緒に洟を垂らすなどなかなか見ることができない怪演である(『北の国から』で地井武男が同じような演技をしたことがあったが)。第4回の段階では、沢田の病気がまだ見えていない状況である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『早春スケッチブック(5)〜(8)(ドラマ)』
竹林軒出張所『早春スケッチブック(9)〜(12)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒『批評選集:ドラマ - 山田太一』
竹林軒出張所『時にはいっしょに(1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-06-20 07:06 | ドラマ

『ぬけ穴の首 西鶴の諸国ばなし』(本)

ぬけ穴の首 西鶴の諸国ばなし
廣末保著
岩波少年文庫

西鶴作品の翻案集

b0189364_19213674.jpg 井原西鶴の『西鶴諸国ばなし』の4編、『懐硯』の2編、『日本永代蔵』の1編を現代語で書き直した短編集。著者は近世文学の研究者で既に故人。元々は1972年に出版された本のようだが、今回「岩波少年文庫」に新たに収録されたということで、この「岩波少年文庫」版は2019年3月発行である。新聞の書評で紹介されていて興味を持ったため、今回購入した。
 収録されているのは「牛と刀」(出典は『西鶴諸国ばなし』「神鳴の病中」)、「狐の四天王」(同じく『西鶴諸国ばなし』「狐四天王」)、「真夜中の舞台」(『西鶴諸国ばなし』「形は昼のまね」)、「ぬけ穴の首」(『西鶴諸国ばなし』「因果のぬけ穴」)、「お猿の自害」(『懐硯』「人真似は猿の行水」)、「帰ってきた男のはなし」(『懐硯』「俤の似せ男」)、「わるだくみ」(『日本永代蔵』「茶の十徳も一度に皆」)の7本。訳文自体は直訳ではなくこなれた日本語で、非常に読みやすくまとめられている。著者によると、原文の3倍から9倍ぐらいの長さになっているらしい。ストーリーは西鶴らしく、奇想天外で感心する。ただ「狐の四天王」については話が収束していないという印象で、サスペンド状態で終わったような印象である。おそらく元々はどの話もダイジェストみたいなものなんだろうが、これだけ膨らませると、現代人が読んでも十分楽しめるようになる。それは太宰治の『新釈諸国噺』でも感じたが、小説に求めるものが現代と江戸時代で違うのか、あるいは時代感覚が違うのか判然としないが、こういうふうに翻案してもらうとその差が縮むというか敷居が低くなるため、こういった翻案小説は西鶴入門書としては格好の素材と言える。この翻案を読んで興味が沸いたらこの後原書に進めばよろしい。それを考えると、「岩波少年文庫」という中高生向けのラインアップではあるが、成人でも十分楽しめる、奥行きの深い短編集であると言えるんじゃないだろうか。
★★★☆

追記:
 その後、『日本永代蔵』の「茶の十徳も一度に皆」を読んでみたが、本書の著者が、物語を面白くするためかなり脚色を加えていることがわかった。言わば説話と芥川龍之介の関係みたいなものか。『日本永代蔵』の記述は、『世間胸算用』同様、本当にエッセンスみたいなものである。

参考:
竹林軒出張所『お伽草紙・新釈諸国噺(本)』
竹林軒出張所『世間胸算用(本)』
竹林軒出張所『好色五人女 マンガ日本の古典24(本)』
竹林軒出張所『好色一代男(映画)』

by chikurinken | 2019-06-18 07:21 |

『源氏物語の時代』(本)

源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり
山本淳子著
朝日新聞社

現代版の『栄花物語』

b0189364_19275707.jpg 『平安人の心で「源氏物語」を読む』『私が源氏物語を書いたわけ』の山本淳子の著書。この2著のエッセンスをまとめて盛り込んだような本である。
 源氏物語が描かれた時代、つまり花山天皇(在位:984年〜986年)から一条天皇(在位:986年〜1011年)、それから三条天皇(在位:1011年〜1016年)へと政権が移る時代を経年順に書き綴った書で、『枕草子』、『栄花物語』、『紫式部日記』などの記述(すべて現代語訳済み)を交えながら、この時代を照射する。
 この時代は、それまで不遇だった藤原兼家が摂政の地位まで上りつめ、藤原北家九条流が政権を確立する時代で、後の藤原道長の台頭の礎が築かれる時代。だが藤原氏の台頭はすべて、賢君である一条天皇が、政治的安定を指向した結果であると著者は指摘する。一方で、一条天皇が中宮である定子を愛したあまり、そのことが政権内の不安定さをもたらす結果になったという人間的な側面も描かれる。中宮定子の兄弟である藤原伊周と弟の藤原隆家が起こした長徳の変(花山天皇に矢を放った事件。後にこの2人は地方に流される)についても詳細に描かれ、一条天皇が頼りにしていた藤原伊周の失脚、それにあわせて後ろ盾を失った定子の凋落、一条天皇の失意なども紹介される。この政変の結果、藤原道長が結果的に台頭することになり、一条は道長を頼って政権を運営せざるを得なくなる。同時に、道長の娘である彰子も妻として迎えざるを得なくなる。こうして中宮が2人という異常事態が起こる。定子の方は出家騒ぎを起こし、しかも道長の娘の対抗馬という立場に追い込まれたため、道長からは嫌がらせを受けるし、公卿たちも道長に付くという結果になって立場的に孤立してしまい、結局不遇な最期を迎えることになる。定子に愛情、愛着がある一条は、政治と愛情の板挟みで悩む日々が続いていたというのが著者の見解である。
 この時代、中宮定子に仕えていたのが清少納言、中宮彰子に仕えていたのが紫式部で、著者は、それぞれの著書からもこの時代を解き明かすというアプローチを取る。『枕草子』や『源氏物語』が書かれたいきさつもあわせて紹介し、同時にこの両書が当時の政界から受けた影響や、当時の政界に与えた影響などについても言及される。言ってみれば著者、山本淳子の解釈によるこの時代の追記録であり、現代版の『栄花物語』と言えるのかも知れない。なお『栄花物語』は、中宮彰子に仕えた赤染衛門という女房が、自身の視点から時代を書き綴った本で、本書でもたびたび言及されている。
 著者独特の解釈も盛り込まれていて少々うがち過ぎではないかと思われる箇所もあるが、トータルで非常に興味深い内容であり、平安文学の黄金時代を政治の枠組みから見るという試みはなかなかにスリリングであった。これも良書である。
第29回サントリー学芸賞・芸術・文学部門受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『平安人の心で「源氏物語」を読む(本)』
竹林軒出張所『私が源氏物語を書いたわけ(本)』
竹林軒出張所『源氏物語 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『あさきゆめみし完全版 (1)〜(10)(本)』

by chikurinken | 2019-06-16 07:27 |