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竹林軒出張所

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『週末、森で』(本)

週末、森で
益田ミリ著
幻冬舎文庫

『すーちゃん』を焼き直してみた

b0189364_15493115.jpg 『すーちゃん』の益田ミリが、田舎暮らしを始めた若い独身女性とその身辺について描いたマンガ。田舎暮らしを始めたのは早川という女性で、翻訳をやっているという。田舎暮らしといっても野菜を作ったりとか自給自足したりとかいうような本格的なものではなく、単に地方に住み始めたという程度のものである。そこに週末ごとに友人のマユミちゃんとせっちゃんがやって来て、彼らを伴って近所の森や湖を散策したりする(なお自然の中には自動車で行く)。
 このマユミちゃんもせっちゃんも都会暮らしでかなりのストレスを感じていて、田舎で癒やされたりする。また早川が自然の中でさりげなく語った言葉が、仕事のストレスで潰されそうになった彼女たちに響いたりする。このような情景がワンパターンのようにたびたび繰り返されるので、早川が、迷える人々に啓示を与える神のような存在にも見えて、少々うさんくささを感じたりもする。要するにちょっとやり過ぎの感じである。ともかく、こうして田舎暮らしを楽しむ女3人のストーリーが続くのである。
 構成は、著者の他の作品同様、6ページ構成の短編が(ややとりとめもない感じで)連なっている。また『すーちゃん』同様、主人公と友人たちが、それぞれの話ごとに主人公の立場になってその生活がクローズアップされていくという展開も同じ。『すーちゃん』とキャラ、場所、設定を少しだけ変えた作品と言えなくもない。
 それなりに面白く読んでいたが、最後があまりに唐突に終わってしまったため、少々面食らってしまった。男に縁のないせっちゃんに恋の予感が現れるという展開(『すーちゃん』にも似たような展開があったような気がする)になっていくんだが、これが本当に唐突に終わるのである。てっきり落丁かと思ったほどで(落丁ではなかった)、あとは続編を読めという趣旨なんだろうか、いずれにしても何だか腑に落ちない。ちなみに続編は、この本のかなり後に発表されているようで、しかも早川が結婚して子どももいるという設定になっているようだ。随分乱暴な気がする。このあたり、もう少し丁寧に本作りをしたほうが良いんじゃないかとさえ感じたりする。全体的に本作りが行き当たりばったりみたいな印象もあり、作り手たちが本作りにいい加減に取り組んでいるんじゃないかとも感じてしまう。そういうわけで、内容はそこそこある本であるにもかかわらず、読後感はあまり良くない。
★★★

参考:
竹林軒出張所『OLはえらい(本)』
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』

by chikurinken | 2019-04-30 07:49 |

『カフェでカフィを』(本)

カフェでカフィを
ヨコイエミ著
集英社クリエイティブ

名前は知らなかったが
期待を持たせる作家である


b0189364_20144192.jpg カフェやコーヒーをモチーフにしたマンガの短編作品集。サッパリしたきれいな絵で、内容は非常に練られた、しかも感性的な味わいのある作品である。著者のヨコイエミって人、まったく知らなかったが、高野文子を彷彿させるような画風で、非凡な才能を感じさせる。
 まず最初の3本の話は、3本とも、あるカフェ(ヤマダカフェ)のある瞬間の風景を描くものであり、それぞれの話で主人公が異なっている。つまりある場に集まる人々をそれぞれ別の(その登場人物の)視点で見るという、なかなか意欲的な構成になっている。通常あるストーリーは、主人公の視点で語られるわけだが、この3本では、一つの風景が別々の主人公の視点で語られることになり、世界が個人個人の集まりで構成されているということが意識させられる。
 この3本を含み、全部で話は19本あるんだが、全編を通じた一貫性というものはない。ただし、全編を通じた連続性はないが、離れた話同士に同じ登場人物が出てきたりして(トータルの連続性がないためか)それが意外性を与えるのである。このような構成が、あるところから話がどんどんよそに移っていくような印象を与えるため、ルイス・ブニュエル風のダイナミズムも感じさせる。こういった、工夫された構成には知性的な要素も感じさせ、一方でストーリー自体は先ほども言ったように感性的な要素が強く、知性と感性が両立したなかなか稀有なマンガと言って良い。しかもあちこちに伏線が張ってあって、後のストーリーにそのモチーフが出てきたりするのも意外性に拍車をかける。本作には続編もあるようだが、たびたび(ほんの少しだけ)登場する「父親にコーヒー豆を送る若者」のエピソードは、おそらくこれも伏線になっていて、続編にエピソードが出てくるんではないかと思う。
 キャラクターはどれも性格が描き分けされていて、絵もそれを反映したものになっていて、そういう点でも技術の高さを感じさせる。著者に関する情報はまったくないが、非常に期待が持てる作家であると感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『火打ち箱(本)』
竹林軒出張所『夏休みが終わります』
竹林軒出張所『ドミトリーともきんす(本)』
竹林軒出張所『谷崎万華鏡(本)』
竹林軒出張所『ニューヨークで考え中(本)』

by chikurinken | 2019-04-28 07:11 |

『平安人の心で「源氏物語」を読む』(本)

平安人の心で「源氏物語」を読む
山本淳子著
朝日新聞出版

『源氏』は単なる好色男の逸話ではない……らしい

b0189364_19052176.jpg タイトル通り、『源氏物語』が書かれた時代の背景について解説する本。初出は、『週間 絵巻で楽しむ源氏物語五十四帖』に書かれたエッセイである。
 全部で65の章立てになっており、各章の最初に源氏物語五十四帖のあらすじをほぼ一帖単位(一帖を前後半に分けているものもあるが、全帖ある)で併記している。したがってこれを全部読むと『源氏物語』のストーリーが完全にわかるようになっている。しかしなんと言っても、エッセイで記述されている内容が非常に深く、さすがに専門家とうならされるようなエピソードが多い。皇族の娘(つまり女宮)が身内の死去により女房階級に転落してしまうなどという話は、これまでまったく知らなかった事実であるし、女房や乳母が姫君の婚姻のために手を尽くしていたという話もよそではあまり聞けない話である。
 また、「現在の」『源氏物語』成立の裏話みたいな話であるが、池田亀鑑という明治生まれの学者が、それまで散り散りにしか存在していなかった『源氏物語』の断片(「河内本」や「青表紙本」など)から、そのオリジナルに近いとされる校本(スタンダード版)を作ったというエピソードは感動的である。しかもその後、佐渡の旧家から五十三帖揃いのセット(「大島本」)が発見されると、できあがった校本を、それにあわせてすべて作り直すという事業に取り組み、10年かけて完成させたという話は胸を打つ。まさに学者の模範である。現在では普通に書籍の形で目にできる古典作品の裏に、実はこれだけの労力があるというマル秘ストーリーで、実に良い話である。
 もう一つ、この著者の主張として、『源氏物語』に登場する桐壷帝と桐壷更衣との純愛は、一条天皇と中宮定子がモデルであるという説を披露している。特に中宮定子の悲劇的な生涯については再三本書で触れられており、当時の『源氏物語』の読者が、定子のエピソードを意識したことは間違いないと主張する。そして皇后という地位にありながら、取り巻く政治権力の移ろいのせいで没落していき悲劇的な最期を送った定子に世の無常を見て、それを反映したのが『源氏物語』とするのである。フィクションであっても、そこに実在の人物を重ねると一層深みが増すことになる。文学作品の鑑賞においてこういうアプローチを取ることは非常に魅力的だと思う。『源氏物語』においてもしかりで、このあたりの記述は大いに興味を持った箇所である。
 また、桐壷帝の時代は醍醐天皇の時代がモデル(物語の中でその後、朱雀・冷泉と続く天皇はそれぞれ朱雀・村上天皇がモデル)になっていて、当時の読者もそれを認識していただろうとする説も説得力がある。
 エピソードを雑多に書き綴ったようなエッセイ風の本ではあるが、一般には知られていないようなユニークな記述が多く、平安時代の歴史や古典に関心がある向きには非常に有用な本と言える。巻末に当時の風俗を示した図版(初出の雑誌のものか?)や『源氏物語』に出てくる登場人物の関係図もあって非常に親切。また丁寧な索引があるのもポイントが高い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『源氏物語の時代(本)』
竹林軒出張所『私が源氏物語を書いたわけ(本)』
竹林軒出張所『源氏物語 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『あさきゆめみし完全版 (1)〜(10)(本)』
竹林軒出張所『源氏物語 浮舟(映画)』
竹林軒出張所『新源氏物語(映画)』
竹林軒出張所『古典文法質問箱(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 蜻蛉日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 和泉式部日記(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』

by chikurinken | 2019-04-26 07:05 |

『悪い犬』(ドキュメンタリー)

悪い犬(2017年・東海テレビ)

「悪い」のは犬か、それとも人か

b0189364_19352915.jpg 通行人数人に噛みついてケガをさせたドーベルマンを更正(?)させるために奮闘する(『わんわん保育園DUCA』という)ある動物保護施設の経営者を軸にしたドキュメンタリー。
 通常であればこういった凶悪犬は殺処分になるわけだが、動物愛護センターがこの経営者、高橋忍氏に預け、訓練を依頼した。更正させて命を助けようという寸法である。ちなみにこの施設、基本的にある程度訓練を施すことができた時点で里親を募集し犬の身柄を預けるような形で、殺処分予定の犬たちを救ってきている。今回も、訓練はかなり手こずったが、犬がある程度落ち着いて行動できるようになったため、里親に預けた。ところが、その後、散歩中に通行人を襲って噛みつくという事件が起こり、高橋氏も責任を問われ突き上げを食ってしまう。このドキュメンタリーでは、こういうようないきさつが描かれるのである。
 僕個人は犬に対してあまり思い入れがないので、一般的にドーベルマンみたいな危険な犬を野放しにしている現状にはまったく納得いかない……というか免許がなければ飼えないぐらいの規制を設けても良いと思っていて、そもそも犬を飼うことについて飼い主は相応の責任を持つべきと考える。今回のドーベルマンもそうだが、飼い主側に問題があるのではないかと思えるケースが多いというのも事実。実際、そういう「無責任」と言われてもしようがない飼い主もこのドキュメンタリーで紹介される。
 僕自身、朝、通勤中に突然犬に飛びつかれそうになることもちょくちょくあり、それなのに謝りもせず平然としている飼い主のおばはんには随分憤っているわけである。ちゃんと訓練できないなら飼うなと言いたい。それこそ、犬を飼うこと自体完全免許制にして、飼い主に対するそれなりの教習施設を作ったらどうだと思うのだ。
 おそらくこのドキュメンタリーで描こうとしているのも、「いい加減な飼い主と、そのせいで殺処分という犠牲を強いられる犬」という構図ではないかと思う。
 個人的な経験をもう一つ付け加えると、犬が狭い路の真ん中を堂々と歩いていて、こちらが道の端に追い出されるのも癪に障る。なぜ獣のために俺が道を譲らなければならんのだと思う。飼い主はせめて犬を端に寄せるとかその程度の配慮をしたらどうだと思う。犬を人の生活に紛れ込ませるというんだったら、最低限飼い犬をコントロールできる程度の訓練は、飼い主に対しても施すべきである(したがって免許制という発想が出てくるわけだが)。そういうわけで、愚かな飼い主が多いというのは僕自身も膚で感じており、そのあたりはこのドキュメンタリーの主張に大いに賛成したいところだ。とにかく日本のペット事情は総じて甘すぎるというのが僕の実感である(もっとも、以前に比べれば随分マシになったとも思う)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『じゃがいもコロコロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『じゃがいも大使(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-24 07:35 | ドキュメンタリー

『じゃがいも大使』(ドキュメンタリー)

じゃがいも大使 ~災害救助犬への奮闘記~
(2017年・東海テレビ)

じゃがいものその後

b0189364_17111793.jpg 『じゃがいもコロコロ』から3年後に発表された続編で、その後の「じゃがいも」(犬の名前)を追いかけたドキュメンタリー。
 『じゃがいもコロコロ』公開以降も、検定試験を受け続けたじゃがいもだが、なかなか結果が出ず。結局2017年、11回目のチャレンジでやっと合格できた。そしていよいよ被災地を勇気付けるために現地でお披露目というはこびになった。そのあたりの過程と、他の犬のその後も描かれる(死んだ犬や家族の元に戻った犬もいる)。
 ただし前作で紹介されていた映像がこの作品の1/3程度を占めており、もちろん3年後に放送されたときにこれを見ていればこういう配慮もありがたいわけだが、(今回の僕のように)この2本を続けて見るとかなり興が醒める。検定試験の合格の様子が紹介されたのは良かったが、内容自体は前作同様薄めで、多少の物足りなさが残った。もっとも犬好きにはお奨めのドキュメンタリーだと思う。また検定の様子もかなり新鮮で、このあたりは前回と共通であった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『じゃがいもコロコロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『悪い犬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-22 07:10 | ドキュメンタリー

『じゃがいもコロコロ』(ドキュメンタリー)

じゃがいもコロコロ ~災害救助犬への長い旅~
(2015年・東海テレビ)

被災地には残された犬がいた

b0189364_20471860.jpg 岐阜県富加町にある岐阜ドッグトレーニングセンターでは、東日本大震災の被災地(福島県飯館村)に残された飼い犬を保護するという活動をしている(45頭が引き取られた)。その中に生まれたばかりの黒い雑種犬がいて「じゃがいも」と名付けられた。この施設では、復興支援に繋げよう(被災地を勇気付けよう)という発想で、このじゃがいもを災害救助犬(現在国内に300頭)として育てようとしている。だがこのじゃがいも、要領が悪いのかアホなのか、これまで数回検定試験を受けているが、ことごとく不合格に終わっている。今度こそという思いで検定試験を受けさせているが、なかなか結果が出ない。このじゃがいもの奮闘と、保護された他の犬と被災地の元家族との交流を描くのがこのドキュメンタリー。
 じゃがいもが検定試験を受けるシーンから始まって非常に興味をそそられるが、途中、保護された犬と被災地との関係の話が延々と続いて、興味が少しずつ削がれてしまった。結局どっちつかずみたいな内容になって、構成が散漫になったような印象を受ける。そのため見ていて少し飽きてしまった。ユニークな素材だっただけに少々残念。
★★★

参考:
竹林軒出張所『じゃがいも大使(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『悪い犬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『熱中コマ大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『熱中コマ世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-21 07:47 | ドキュメンタリー

『不信のとき』(映画)

不信のとき(1968年・大映)
監督:今井正
原作:有吉佐和子
脚本:井手俊郎
音楽:富田勲
出演:田宮二郎、若尾文子、加賀まり子、岸田今日子、岡田茉莉子、三島雅夫

スイスイも見た目ほど楽ではない

b0189364_21193808.jpg 割合普通のサラリーマンが、妻以外にも女を作り、しかも子どもまで産ませて、何となくうまくやっているんだが、予想通りゴチャゴチャになっていくというストーリー。うまくやってんだかうまくやられてんだかよくわからないという皮肉な展開になる。男たちがしたたかに生きていると思ったら、したたかなのは女の方だったという話で、女性(有吉佐和子)が書いた小説が原作であることを考えると、こういうストーリー展開も納得が行くというものである。
 主演は田宮二郎で、田宮二郎と言えばハードボイルド的な謎めいた存在の役柄が多いが、この作品では、普通の、とは言ってもかなり成功しているサラリーマンを演じており、しかもこの男、世間をスイスイと渡っているような要領の良さがある。そこに登場するのが女の鑑みたいなホステス、若尾文子で、若尾文子の方は例によって不思議な存在を好演している。他に、同じように世間をスイスイと渡っているような会社社長(三島雅夫)も「スイスイの師匠」みたいな存在として登場するが、こちらもコケティッシュな女(加賀まり子)に心を奪われ、「スイスイ」も端で見るほど楽ではないと思わせる。いろいろなことがシニカルに展開し、普通であれば、女性の厳しい目で描かれた愚かな男たちというふうにも映るわけだが、この映画では、登場する男たち(主人公のサラリーマンと会社社長)が、周りに振り回されながらも、どことなく愉しんでいる風情があって、それがこの作品の魅力に繋がっている。
 キャスト、特に女優陣が豪華だが、スタッフも豪華である。また大映らしい丁寧な作品作りにも好感が持てる。例によって文芸作品が原作というのも大映の良心が感じられて良い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『華岡青洲の妻(映画)』
竹林軒出張所『紀ノ川(映画)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』
竹林軒出張所『米(映画)』
竹林軒出張所『婉という女(映画)』
竹林軒出張所『にごりえ(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『女の小箱より「夫が見た」(映画)』

by chikurinken | 2019-04-19 07:19 | 映画

『女の小箱より「夫が見た」』(映画)

女の小箱より「夫が見た」(1964年・大映)
監督:増村保造
原作:黒岩重吾
脚本:高岩肇、野上竜雄
出演:若尾文子、川崎敬三、田宮二郎、岸田今日子、江波杏子、千波丈太郎、小沢栄太郎

いかにも黒岩重吾というストーリー

b0189364_19541550.jpg 変わったタイトルだが、黒岩重吾の『女の小箱』という短編集のうちの一編が「夫が見た」というタイトルで、それが原作であるためにこういうタイトルが付いているんじゃないかと想像する。もっとも原作については読んでいないので、短編集かどうかもわからないし、それにこのストーリー自体、原作から変えられている可能性もある。というのも、映画のストーリーが「夫が見た」というタイトルにふさわしくないためで、そのあたりは原作を読んでいないため詳しくはわからない。ただ映画のストーリー(原作と同じかどうかはわからないが)については割合よく練られていて、凝ったストーリーではある。
 自分の野心を遂げることをひたすら求める男たちと、愛されることをひたすら求める女たちが、絡み合いつつ、当然うまく噛み合いはしないのだが、それが噛み合い始めると関係が崩壊するというかなり逆説的なプロットである。株の買い占めによる企業の乗っ取りがモチーフになっていて、そのあたりも時代を考えるとかなり新しい素材だったのではないかと推測される。ストーリーはこのように意欲的で破綻もないが、終わりの方は少々つまらない収束の仕方をして(と僕は感じた)そのあたりが少しばかり残念なところ。
 演出はオーソドックスで破綻はなく、どのキャストもよく役に収まっている。若尾文子はラブシーンありセミヌードありで、大車輪の活躍である。またクールな田宮二郎も実に魅力的である。キャストは、この時代の他の増村作品と共通する俳優が多いが、どの映画でも非常に個性的な存在を演じているため、他の映画との共通性はあまり感じない。この頃の大映映画は文芸作品の原作が多く、こういった映画は、やはりストーリーがある程度しっかりしているせいか、今見てもあまり色褪せることはない。当時の大映の作品作りへの良心みたいなものさえ感じられる。
 この作品にしても、スリルやサスペンスに溢れた作品で、黒岩重吾作品の雰囲気がよく活かされていると感じる。世間的な評価はこれまでそれほど高くはなかったようが、もう少し評価が高くてしかるべきと思える作品である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『氾濫(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『不信のとき(映画)』

by chikurinken | 2019-04-17 07:25 | 映画

『女は二度生まれる』(映画)

女は二度生まれる(1961年・大映)
監督:川島雄三
原作:富田常雄
脚本:井手俊郎、川島雄三
音楽:池野成
出演:若尾文子、藤巻潤、フランキー堺、山村聡、山茶花究、江波杏子、山岡久乃、倉田マユミ

奔放に生きる人間らしい女性
ただ共感はできない


b0189364_21001906.jpg ストーリーにあまり意外性や起伏がないため、主題が伝わりにくい。原作が富田常雄の『小えん日記』ということで、日記ものと考えれば、それなりに納得がいく。
 芸者をやっている小えんという女性(若尾文子)は、芸者をやりながら売春まがいのことまでやる。そのためか、性に奔放な性格……というかあまり考えなしにいろいろな男たちと付き合っていく。そこには悪びれた様子もなく、見ていて不快なタイプの人間でもない。こういう小えんという女性の生き様が描かれるのである。
 その後、売春行為が警察に目を付けられたせいで、芸者を辞めざるを得なくなり、ホステスに転身。そこでかねてより面識のあった建築家、筒井(山村聡)に出会い、妾になるという風に話は進んでいくんだが、その間もいろいろな男たちと関係を持つ。この小えん、将来もあまりない憐れな存在であることは、筒井の口から語られるが、本当に刹那的な生き方なんである。こういう若い女性の存在はリアルではあるが、僕のような平凡な人間にとってなかなか共感できにくい存在であるため、映画としての芯が感じにくく、それが主題のわかりにくさに繋がっているのではないかと思う。
 演出自体は非常にかっちりしていて、短いショットが連ねられるのも小気味良い。東宝の川島雄三が大映で初めて撮影した映画だということで、同じく東宝のフランキー堺まで引き連れてきた。外様でいろいろ苦労もあったかも知れないが、そういうことはまるで感じさせないしっかりした作りになっている。主役の若尾文子は、少し抜けた感じの女性を好演。映像で美貌があまり強調されていないのも、人間らしさがかえって引き出されており、良い効果が出ている。
 音楽は現代音楽風で少々変わっているが、映画とは意外に良く合っている。総じて、隅々まで目が届いた、できの良い映画という印象を受ける。相当、地味な作品ではあるが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『しとやかな獣(映画)』
竹林軒出張所『真実一路(映画)』
竹林軒出張所『瘋癲老人日記(映画)』

by chikurinken | 2019-04-15 06:59 | 映画

『おしゃれ泥棒』(映画)

おしゃれ泥棒(1966年・米)
監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ジョージ・ブラッドショウ
脚本:ハリー・カーニッツ
出演:オードリー・ヘプバーン、ピーター・オトゥール、イーライ・ウォラック、ヒュー・グリフィス、シャルル・ボワイエ

よくできたストーリーの
ハリウッド的な犯罪ロマンス・コメディ


b0189364_20574319.jpg 『ローマの休日』『ベン・ハー』のウィリアム・ワイラーが監督した犯罪コメディ・ロマンス映画。
 名画の贋作を作っている富豪の娘(オードリー・ヘプバーン)と贋作を暴く活動をしている捜査官(ピーター・オトゥール)が、いろいろな成り行きで、100万ドルの価値がある彫刻作品(実は贋作)を盗むハメになり、それがロマンスを生むというようなストーリーである。ワイラーらしくユーモアも適度に盛り込まれ、ストーリーもよくできているが、軽いいかにもな60年代ハリウッド作品と言えるような話ではある。
 この作品も、35年位前に見て以来、久しぶりに見たのだったが、幸か不幸かストーリーはほとんど忘れていた。当時も面白いと感じた記憶はあり、おそらくそれはストーリーの部分なんだろうが、同時にヘプバーンがかなり年を食っていて、少々痛々しさを感じたような記憶の方が強い。それに(時代背景のせいもあるんだろうが)化粧も無茶苦茶濃いし、少なくとも『ローマの休日』のときみたいな可憐な美しさはすでになくなっている。
 もちろん、エンタテインメント映画としては上出来で、純粋に楽しみたいという意図で見れば、それほど大きな外れはないと思う。とは言えやはり、先ほども言ったようにきわめてハリウッド的な軽いエンタテイメント作品であり、あるいは好みが分かれるかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ローマの休日(映画)』
竹林軒出張所『シャレード(映画)』
竹林軒出張所『泥棒成金(映画)』
竹林軒出張所『快盗ルビイ(映画)』
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』

by chikurinken | 2019-04-13 07:33 | 映画