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竹林軒出張所

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『生きづらいと思ったら親子で発達障害でした』他(本)

生きづらいと思ったら親子で発達障害でした
生きづらいと思ったら親子で発達障害でした 入園編
モンズースー著
KADOKAWA

発達障害者の育児の大変さを
ちょっとだけ疑似体験


b0189364_18252860.jpg 長男が生まれたが、成長が遅い上異様にグズったりして、どうもよその子どもと違うんではないかと感じ診断を受けたところ、発達障害と診断された。ただし子どもの様子に自分の小さい頃と重なる部分があり、自分も発達障害だということがわかったというストーリーのエッセイ・マンガである。
 ただ発達障害といってもグレーゾーンに入るということで、こういう子どもを「障害」としてしまうことには違和感を感じるが、しかしこういう子どもを持つ親にとっては子育てが異常に大変になるのはわかる。そのためたとえ「障害」扱いになっても、そのために福祉関係のサービスを受けられるというのであれば、それを利用するに越したことはない。実際、この著者は、方々駆け回って、この類の障害児を受け入れる「つくし幼稚園」に子どもを入園させることができたわけだ。しかもそこからさらにいろいろな視界が開けてきて、こういう子ども達に対する支援を利用できることもわかってくる。こうして著者は、いろいろな人たちの支援を受けつつ、子育てを進めていくのである。
b0189364_18253351.jpg 途中、著者自身の(発達障害風の)経験も披露され、環境にうまく適用できなかった自身の子ども時代も回想される。また、本人がそれにどのように対処してきたかも紹介され、現代日本社会が、発達障害の傾向のある人にとってどれだけ生きづらい世の中であるかがよくわかるようになっている。この本は、社会的弱者の立場に立った人の視点で描かれているため、マイノリティの生きづらさがよく伝わってくるのである。この本によると、現在福祉が充実しつつある状況というのも窺え、それはそれで良い傾向だと思うが、究極的には、生きづらい人々も寛大に受け入れられるような社会にすべきなんではないかなどとも感じる。
 マンガ自体は説明書きが多く読むのに時間がかかるが、絵の動きなどのマンガ的な要素を求めるのではなく、絵が挿絵の延長ぐらいの認識で読み進めれば特に問題はない。あるいは「自治体の福祉担当の部署で配付されているパンフレットに出てきそうなマンガ」というような見方もできるが、しかし説得力があるし、弱い立場を疑似体験させてくれるという点で、よくできた作品と言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『最貧困女子(本)』
竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『カルト宗教信じてました。(本)』
竹林軒出張所『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話(本)』
竹林軒出張所『ロスジェネ社員のいじめられ日記(本)』
竹林軒出張所『キレる私をやめたい(本)』
竹林軒出張所『入院しちゃった うつウーマン(本)』
竹林軒出張所『中国嫁日記(本)』
竹林軒出張所『モンプチ 嫁はフランス人 (1)、(2)(本)』

by chikurinken | 2019-02-27 07:25 |

『日本プラモデル六〇年史』(本)

日本プラモデル六〇年史
小林昇著
文春新書

懐かし系の本だが十分楽しめる

b0189364_18070431.jpg 戦後日本のプラスチックモデルの歴史について時系列で記述した本。
 『日本プラモデル興亡史』『田宮模型の仕事』と内容が似ていると思いながら読んでいたら、案の定、この著者、この2冊の編集を担当していた人らしい。内容はこの二著とかなり重複しているが、この二著がプラモデルの販売者と製作者という立場から書かれた本である一方で、この本が第三者的な視点で書かれた本であることを考えれば、この本にもそれなりに存在価値はあると思う。当然、この本に井田博氏も田宮俊作氏も登場する。
 この本に対する僕のスタンスは、基本的に「懐かし系」ということになる。したがって、読んでいて懐かしいと感じられればOKである。特にイマイのサンダーバード2号やタミヤのミリタリープラモのくだりは、子ども時代にかなりはまったグッズなんで懐かしさもひとしお。こういったプラモがどういったいきさつで登場したかも本書でしっかり触れられている。その後の時代のガンプラやミニ四駆なんてことになると、僕にはまったく縁がなく、懐かしさも皆無であるため、当時の風俗の歴史としてしか関心が湧かないが、それでも記述が簡潔で読みやすいため、十分楽しめたのだった。ただ全体的に内容は薄めかなとは思う。日本プラモ史の記述は正味150ページで、その後に田宮俊作氏のインタビューと年表が続く。それでなんとか200ページ……という、やや安易さを感じさせる新書ではある。
★★★

追記:
 アマゾンのレビューによると70年代以前の記事に事実誤認が多いらしい。まったく気が付かなかった(そもそも僕にそれほど知識があるわけでもないが)。どこら辺が誤りか指摘してほしいものだ。

参考:
竹林軒出張所『日本プラモデル興亡史(本)』
竹林軒出張所『田宮模型の仕事(本)』
竹林軒出張所『マルサン ― ブルマァクの仕事(本)』

by chikurinken | 2019-02-26 07:06 |

『日本人の質問』(本)

日本人の質問
ドナルド・キーン著
朝日文庫

朝日版ドナルド・キーン・エッセイ集

b0189364_16251352.jpg 日本文学者、ドナルド・キーンのエッセイ集。表題作「日本人の質問」、「日本人の投書」、「入社の弁」は朝日新聞の連載、または紙上で発表されたエッセイだと思うが、残りについては初出が書かれていないため不明である。なお上記の3作は「Ⅰ」に分類されており、都合「Ⅳ」まである。詳しくはわからないが、「Ⅱ」が日本文化や日本文学についての講演やエッセイ、「Ⅲ」が芸術関係のエッセイ、「Ⅳ」が仏教や宗教に関するエッセイのようである(ただし「Ⅳ」には山片蟠桃についてのエッセイもあり一概に宗教と言えるかどうか微妙である)。元々は朝日新聞社から出されたエッセイ集のようだが、初出の記録がないのはあまり感心しない。
 一番面白かったのは「Ⅱ」の講演録で、中でも「日本古典文学の特質」が非常に充実していた。内容は『日本文学史 近世篇〈一〉』と一部重複しているため、『日本文学史 近世篇〈一〉』の発表前後に行われた講演が出典ではないかと思われる。また同じく「Ⅱ」の「明治の日記」についても、『百代の過客〈続〉』のダイジェストのような内容で、おそらく『百代の過客〈続〉』の発売前後に朝日新聞に書かれたエッセイではないかと思う。
 後は「Ⅱ」の講演録「日米相互理解はどこまで進んでいるか」と「Ⅲ」の「谷崎源氏の思い出」が興味深い内容であった。後者については、谷崎源氏(谷崎潤一郎が翻訳した源氏物語)を読んでみたいと感じさせるような内容充実のエッセイである。
 多少寄せ集めの感があるが、それでもやはりドナルド・キーンの作らしく、目を引く叙述が多い。最初のエッセイの「日本人の質問」についても、一般的な日本人はこういうのが割合好きなんで、これだけを取ってみても(ドナルド・キーンに興味のない)普通の人は楽しめるかも知れない。少なくとも『日本語の美』よりは読み応えがあった。
★★★☆

追記:
 昨日(2019年2月24日)ドナルド・キーン氏が亡くなったという報道があった。享年96歳。随分お年だったし、まもなくお召しが来るのではと思っていたのでさほど驚きはないが、氏が非常に優れた研究者であったことに疑いの余地はない。
 僕は一昨年あたりからキーン氏の著書を読み続けているが、以前も書いたように「目からウロコ」の書が多い。現在も『日本文学史 近世篇〈二〉』を読んでいるところで、氏が亡くなっても、読むものに事欠くことはしばらくはないが、それにしても(著書からお見受けする限り)大変立派なお方であり、また超一流の日本文学研究者である。これは間違いない。謹んでご冥福をお祈りしたい。

参考:
竹林軒出張所『日本文学史 近世篇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『日本人の美意識(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
竹林軒出張所『日本語の美(本)』
竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-02-25 07:24 |

『私家本 椿説弓張月』(本)

私家本 椿説弓張月
平岩弓枝著
新潮文庫

『椿説弓張月』の雰囲気を味わえる

b0189364_15583180.jpg 曲亭馬琴の『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』を平岩弓枝がアレンジした小説。
 『椿説弓張月』は鎮西八郎為朝(源為朝)の大冒険譚で、九州、京都、伊豆大島、四国、琉球を舞台にした壮大なスペクタクル巨編である。源為朝は源為義の八男(源義朝の弟)で、保元の乱に際して朝敵になり結果的に伊豆大島に流されるが、伊豆を実質的に支配したため、国司の恨みを買って追討されたというのが史実である。『椿説弓張月』では、この実話を踏まえた上で、為朝が理性と正義の豪傑であり、行く先々で正義を貫くが、歴史に翻弄されてあちこちをさまよい歩き、各地域の悪人と対峙していくというようなストーリー展開になる。
 この『私家本』についても馬琴版『椿説弓張月』を大体において踏襲しているらしく、細かな違いはあるが、概ね『椿説弓張月』の雰囲気は味わえるようだ。僕は今回、先日読んだ『現代語訳 南総里見八犬伝』と同じような感覚でこの書に当たったわけだが、流行作家が書いたものだけに非常に読みやすかった。ストーリーは勧善懲悪かつ荒唐無稽で、必ずしも手放しで称賛できるものではないが、ハリウッド映画的な面白さはある。単純なドラマが好きな人には格好の読みものになるかも知れない。
 例によって登場人物も大量に現れ、わかりにくくなる箇所もあるが、『八犬伝』に比べれば登場人物の数ははるかに少ないこともあり、まだましな範囲である。正しい人、正しくない人がはっきりと分かれているため、そういう点でもわかりやすい。馬琴の作を読んだとは言えないが、読んだような気にはなる。源為朝のこともまったく知らなかったので教養にもなった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『寿の日(ドラマ)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (下)(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』

by chikurinken | 2019-02-23 07:58 |

『歎異抄 (現代語訳版)』(本)

歎異抄 (現代語訳版)
金山秋男訳
致知出版社 いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ

親鸞思想の斬新さが分かる

b0189364_20361658.jpg 浄土真宗の開祖、親鸞の弟子である唯円が、親鸞の悪人正機の思想を分かりやすくかみ砕いて紹介する書が『歎異抄』である(著者については異論もあるようだ)。この本で紹介されている悪人正機説は「善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」という文句が非常に有名で、要するに、自力に頼らず阿弥陀如来に完全に帰依すれば誰でも極楽往生を遂げられるという思想である。善悪という価値観自体人間が作った価値観であるため、それを超越した存在である阿弥陀如来にとっては一切関わりがない。阿弥陀如来の前で100%謙虚になって全幅の信頼を寄せさえすれば誰でも往生できるという考え方(だと思う)。現代人も自然の前で100%謙虚になれば、昨今のような環境破壊もないだろうが、そういうことすら考えさせられる本でもある。それにしても悪(や世俗)を否定しない考え方は斬新である。当時、浄土宗(および浄土真宗)の僧たちが迫害を受けたというのも頷ける気がする。
 各章ごとに現代語訳と原文、その後の解説が続くという構成である。現代文は割合平易な日本語ではあるが、内容自体が結構難しいし、非常に抹香臭いというか、宗教的な記述が多く(宗教書だから当然なんだが)、必ずしも読みやすくはない。たとえば「阿弥陀さまの本願に救われて念仏する身となって、やり遂げようという慈悲は、私たち凡人が、本願の力により人間の思いを超えた阿弥陀さまの大いなる慈悲の心で、思うように生きとし生けるものを救うというものです」(第四章)のような文章があるが、決して分かりやすいとは言えないと思う。ただそれでも最後まで読むと、言わんとすることは概ね分かってくる。また『歎異抄』がどのような意図で発表されたか、このタイトルの意味は何か、どういう構成になっているかなどについて丁寧な解説があるため、『歎異抄』入門として良い素材になっている。『歎異抄』を読んでみたい、内容に触れてみたい、悪人正機説がどういうものなのか知りたいなどという人々には適していると思う。
 なおこの『いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ 歎異抄』だが、前序、第一章から第十八章、後序、流罪記録まで一通り収録されている。おそらく原作のすべての内容が収録されているんじゃないかと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『石田梅岩「都鄙問答」(本)』
竹林軒出張所『風姿花伝 (現代語訳版)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)(本)』
竹林軒出張所『虫めづる姫君 堤中納言物語(本)』

by chikurinken | 2019-02-22 07:35 |

『ヒグマを叱る男』(ドキュメンタリー)

ヒグマを叱る男(2018年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

自然とは何か……について考える

b0189364_20392432.jpg 以前、『ワイルドジャパン 魔法にかけられた島々』というドキュメンタリーで、知床の漁師のそばにヒグマが近寄っていた映像が出て驚いたことがあるが、おそらくあの映像に登場していた人々が、このドキュメンタリーの主役なんではないかと思う。
 世界遺産に認定されている知床半島のルシャという海辺の地域は、漁民が漁の拠点として使用しており、漁民用の番屋が置かれている。そこは沖に出て定置網で鮭を獲る漁民の基地として機能しており、漁民はその番屋で飯を食い酒を飲み風呂にも入る。むろん鮭を陸揚げする場所で、漁民の仕事場でもある。ここまでは通常の漁場とあまり変わらないが、ただ一つ違うのは、ここではヒグマが近所を日常的にうろついているということである。あるいは水揚げの後に残された鮭が目的であったりするわけだが、基本的に漁師の側も、ヒグマについてはよほど近づかない限り放任している。必要以上に近づいた場合は「コラッ」などと言って威嚇し追っ払う。ヒグマの方も威嚇されたらその場を立ち去る。この漁場のリーダーが大瀬初三郎という人で、この威嚇行為、元々はこの人がやり始めたらしい。
 最初に大瀬氏がこの漁場に入ったのは60年前だったらしいが、そのときはヒグマが近づいたときはハンターが射殺していたという。ただ、放っておいてもヒグマが人に即危害を加えるわけではないことが徐々にわかってきたため、それ以降は漁師の側も彼らを放置し、近づきすぎた場合に限って威嚇するという風に態度をあらためてきた。ヒグマの方も、幼少時からこの習慣に馴染んだ新世代ヒグマが登場するに至り、怒られたら自然とその場を立ち去るようになってきたという。現在、この周辺に数十頭のヒグマが集まってくるが、漁師と棲み分けし共存しているというのが現状である。
 一方で、世界遺産を認定するユネスコからは、漁のためにこの周辺に作られた人工物(橋など)を撤去するように求められている。自然遺産を極力自然の形に戻せということらしいが、大瀬氏の言い分は、現在のような形で人とヒグマが共存していること自体が自然の形であり、人の営みも自然の一部であると感じているため、現状をよく知りもしないこういった第三者の圧力に対しては、大瀬氏も大いに抵抗を感じている。ただ同時に、漁師の側も徐々に高齢化しており、大瀬氏のいわゆるこの「自然」の状態も少しずつ変わっていく可能性がある。こういったあれこれの知床事情を紹介しているのがこのドキュメンタリーである。当初はあまり期待しないで見ていたが、実際には見所が多く、いろいろと考えさせられる作品だった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ワイルドジャパン(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-02-20 07:39 | ドキュメンタリー

『「津軽」 太宰治と故郷』(ドキュメンタリー)

「津軽」生誕100年 太宰治と故郷
(2009年・NHK)
NHK-BSプレミアム ハイビジョン特集

『津軽』を題材にした紀行ドキュメンタリー

b0189364_18152323.jpg 太宰治に関するドキュメンタリー。
 太宰は、太平洋戦争中の1944年、1カ月近く、故郷の津軽に戻り、実家に戻ったり旧知の人々に会ったりしている。作家としての名声が高まってきた時期で、彼にとっては帰郷することに人生の一区切りみたいな意味あいがあったのだろうか。もちろん、迷惑をかけ続けた実家の兄に対するあいさつを兼ねていたことは想像に難くない。その帰郷のいきさつを綴った自伝的小説が『津軽』で、このドキュメンタリーでは、その『津軽』を題材に、そこに至るまでの太宰の生涯をあわせて辿っていく。
b0189364_18151909.jpg 太宰の足跡を辿るナビゲーターは村田雄浩で、村田は、この番組の最初の放送時に、『津軽』を題材にした演劇(青森で上演されたもの)に太宰治役で参加しており、この番組に参加したのもその縁である。ナレーションの方は久米明が担当し、例によって大変味があるナレーションなんだが、斜陽館(太宰の生家)を擬人的に演じる(「私は斜陽館!」みたいなナレーション)という立場で太宰について語るのが少々珍妙である。NHKは時折こういう稚拙な演出をするが、毎度のことながら、普通に客観的な立場のナレーションではダメなのかと疑問に感じてしまう。
 番組自体は紀行ドキュメンタリーであり、太宰治や津軽に関心がない向きにはあまり面白くないかもしれないが、僕自身はこのドキュメンタリーを通じて『津軽』に大いに関心を持った。いずれ読んでみようと思っているが、読むに当たって、今回映像で目にしたような情景が目に浮かべばそれはそれで大いに助かるわけである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『富嶽百景・走れメロス 他八篇(本)』
竹林軒出張所『お伽草紙・新釈諸国噺(本)』
竹林軒出張所『青空文庫の「ヴィヨンの妻」を読む』
竹林軒出張所『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ(映画)』

by chikurinken | 2019-02-19 06:16 | ドキュメンタリー

『中国の小学校で今何が?』(ドキュメンタリー)

中国の小学校で今何が?(2018年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

急激な改革におののく

b0189364_18515686.jpg 中国の最新教育事情。
 中国は、改革開放以降、大学進学者が増えていったため、受験競争が激烈化し、そのためにどの学校も点数至上主義の「応試教育」を推進することになった。同時に「一人っ子政策」のために親から過剰に甘やかされる子ども達(「小皇帝」と呼ばれる)が増えたことと相まって、子ども達、そして彼らに対する教育の将来を危ぶむ声が増えている。学校でのいじめ、家庭内暴力の増加なども、教育の見直しを促すきっかけになっているらしい。
 このような状況に対応するため、全国的に新しいタイプの学校が増えつつある。この種類の学校は「応試教育」に偏らないカリキュラムを採用しており、中には1日中『論語』などの古典を読ませて暗誦させるという古典至上主義の学校もある(ラテン語まで履修科目に入っていて驚く)。このタイプの学校は富裕層向けであるが、一部の地域では一般の小学校でも改革が進んでおり、読書をやたらに推進するなどという新しいタイプの教育を展開している。ただし教師の方は、「応試教育」を勝ち抜いてきたエリート教師ばかりであり、こういった新しいタイプの教育になかなか馴染めず苦労しているという面もあるようだ。
 このドキュメンタリーで紹介されるのは中国の事情ではあるが、日本でも似たような教育の問題があることは周知の事実。それに伴い、似たような教育制度批判がこれまで長年に渡って展開されており、政府による教育改革も常に行われてきている(その多くは無意味だが)。だからこうやったよそ様の教育事情をあげつらうようなドキュメンタリーはどうかとも思うが、だがしかし彼らが日本と違うのは、改革が急激でかなり極端な形に突っ走る傾向があるという点で、そのあたりは注目に値する。
 日本では、国民が保守的で変化を嫌うせいか改革はほとんど進まず、改革したとしても結局形だけで終わってしまい、それに対して誰も責任を負わないということがきわめて多い。中国や韓国の事情を聞くと、かなり急激にどんどん改革が進むんで、僕など見ていて本当にやっちゃって大丈夫かと思うことも多い。この番組で紹介されている中国の教育改革もかなりの問題を生み出すことは見ていて明らかで(先ほどの古典至上主義教育の学校では文字の読み書きが普通にできない子ども達まで出ているらしい)、今後も相当数の被害者を生み出すと思われる。こういう過程を経た上でおそらく全体として良い塩梅の制度に落ち着くんだろうが、犠牲を伴う大きな変化を経て理想に至るという形態も、一定の合理性はある。その点、問題をいつまでも先送りにして解決できない日本に比べると(特に問題が大きいときなどは)、こういった大胆なアプローチは大きな長所になる。日本と同じような問題を抱えながら、異なるプロセスで解決に至ろうとするという大陸的な大胆さは、日本でもある程度は取り入れる必要があるんじゃないかと思うがいかがだろうか。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『中国 教育熱のゆくえ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『中国人の本音(本)』
竹林軒出張所『中国人一億人電脳調査(本)』
竹林軒出張所『テレビに映る中国の97%は嘘である(本)』
竹林軒出張所『塾講師にだまされるな!(本)』

by chikurinken | 2019-02-18 07:55 | ドキュメンタリー

『高所恐怖症を克服せよ』(ドキュメンタリー)

高所恐怖症を克服せよ
(2015年・英Maverick Television)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

これで克服できたのか疑問

b0189364_16314543.jpg 高所恐怖症の人10人を集めて、高所恐怖症を克服させようとするドキュメンタリー。
 実際に行う治療法は何のことはなく、要は高いところに上がらせてそれで高所に慣れさせようというものである。だが、このドキュメンタリーによると、この方法は科学的に治療効果が証明されているらしいのである(ほんまかいなと思う)。
 で、実際にこの10人に対して3日間のトレーニングを課し、数メートルのはしご段から始めて、最後は90mの高さのタワー(しかも手すりのない場所)まで上がらせる。参加者の中には良い歳をしたおじさんもいて、しかもこの人、途中で怒り出したりするんだが、そんなにイヤならこんなトレーニングやめたら良いのにと思ったりする(高所恐怖症ぐらいであれば、日常生活でそれほど支障を来すこともあるまい)。
 最後にもう一度最初のはしご段に上らせて高所恐怖症が克服できたか試すかと思ったが、そういったシーンは結局なしで、この10人が高所恐怖症を克服できたかどうかはわからずじまいになってしまった。何ともお粗末。
 そもそも素材自体からして『探偵!ナイトスクープ』のデキの悪いネタ(「できない」ネタ)レベルであり、しかも内容もどうと言うことはなく、高い場所で怯えている人の反応を視聴者が楽しむという程度のものであって、考えようによっては悪趣味である。一部(どうしても足を踏み出せない仲間が励まして何とか前に進ませるというような)『ポセイドン・アドベンチャー』を彷彿させるようなシーンもあったが、大げさな行動の割には端で見ていてそれほど大層な場面でもないし(3階の高さの足場まではしご段を使って上がるというもの)、見ていて少しばかりバカバカしくなる。正直、ドキュメンタリーと言うのもはばかられるようなくだらない番組だと感じた。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『めまい(映画)』
竹林軒出張所『ポセイドン・アドベンチャー(映画)』
竹林軒出張所『「反復練習が上達を生む」の実証 - 「ひたすら一万回」』

by chikurinken | 2019-02-16 07:31 | ドキュメンタリー

『“死の壁”に挑む』(ドキュメンタリー)

“死の壁”に挑む
(2017年・英Screen Dog)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

“死の壁”には挑まない

b0189364_20015657.jpg イギリス人の冒険家が、「死の壁」の異名を取るアイガー北壁に挑むというドキュメンタリー……かと思ったら、悪天候で断念し、しようがないのでイタリア側のとある山に登ったというドキュメンタリー。この山も結構な断崖なので登頂は困難だったが、しかし「アイガー北壁」を謳ったドキュメンタリーなのに、全然違う山に登ってもね……ということで、正直わけのわからない作品になっていた(ただし原題は「STEVE BACKSHALL VS THE VERTICAL MILE」となっており「死の壁」はまったく謳っていない)。
 この山(名前は失念)へのアタックが厳しかったことは映像から推測できるし、珍しい映像のようではあるが(カメラの進歩を感じさせる映像)、登頂シーンは何だかダラダラ続くし、映像を通じて困難さがあまり伝わってこない。全体的に編集がうまくないという印象で、見所もあまりない。そのため、良い映像もあるにはあるが冒険ドキュメンタリーとしては質が低く、見ていて飽きてしまった(元々はシリーズものの1本のようである)。
 だがやはり一番問題なのは、先ほども書いたように『BS世界のドキュメンタリー』で放送されたこの日本版のタイトルであり、本当であれば「死の壁”は断念」となるべきで、そういう点でまさしく羊頭狗肉であった。宣伝文でも「アイガー北壁に挑む」ことを謳っていて、事情がまったくわかっていない人(おそらくこの作品を見ていない人)がこの番組の広報を担当していたんじゃないかとすら感じる。(タイトルを含み)実にお粗末な広報で、視聴者をなめているのではないかとも思える。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『ヒマラヤ8000m峰 全山登頂に挑む(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『手足をなくしても(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『デナリ大滑降 究極の山岳スキー(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドキュメンタリー3本』「エベレスト 世界最高峰を撮る」
竹林軒出張所『劔岳 点の記(映画)』

by chikurinken | 2019-02-15 07:01 | ドキュメンタリー