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竹林軒出張所

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『KGBの刺客を追え』(ドキュメンタリー)

KGBの刺客を追え
(2017年・英True Vision Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ロシアの闇は深い

b0189364_19301899.jpg 2006年、ロンドンで、英国から政治亡命していた元KGBスパイのリトビネンコが謎の死を遂げた。リトビネンコはその死の直前、警察の当局者を病室に呼び出し、自分がこのような(重病の)状態になったのは、ロシア当局による工作のためであり、これは暗殺事件であると語る。その供述は9時間にも及び、内容は録音された。まもなくリトビネンコは死去するが、その供述には信憑性があり、しかもリトビネンコの尿から多量の放射性物質ポロニウムが検出されたために、彼の言葉が裏付けられることになった。
 やがてリトビネンコの証言に基づいて捜査が進められ、2人のロシア人スパイが容疑者として浮かび上がる。英国警察はロシアに赴き、容疑者から供述を得るが、ロシア当局から妨害され、捜査の大きな進展は得られなかった。しかし十分な証拠が提示されたとして、この事件は、殺人事件として立件されることになった……というその過程が、証言を交えて描かれるのがこのドキュメンタリーである。
 通常は原子炉内にしかない放射性物質が使われたこと、原子炉は特にロシアでは厳重に管理されていることから、このような殺人の命令を出すことができる人間はロシアのトップしかいないという結論を、このドキュメンタリーでは出している。実際、リトビネンコが当局に追われるようになったきっかけは、KGBの後継組織、FSB(ロシア連邦保安庁)のスタッフが、当時の政治家による私的な政敵の攻撃(殺人)に利用されていることを告発したことであった。こういうことを考え合わせると、あの人が浮かび上がってくるのは理の当然。ロシアの闇は深い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プーチンの復讐 前・後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『オリバー・ストーンONプーチン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-10-31 07:29 | ドキュメンタリー

『未解決事件File. 07 警察庁長官狙撃事件』(ドキュメンタリー)

未解決事件File. 07 警察庁長官狙撃事件(2018年・NHK)
実録ドラマ「容疑者Nと刑事の15年」(2018年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

警察庁長官狙撃事件の真相が明らかに

b0189364_17245005.jpg オウム真理教の一連の事件が発生していた1995年3月30日に、警察庁長官が銃で狙撃されるという事件が起こった。時期が時期だけにオウム真理教の仕業とされ、オウム真理教との関連を持つ警察官が逮捕されて起訴された。一般的にはオウム真理教の犯行とされて収束したが、実はこの容疑者、その後不起訴になっている。当のオウム真理教関係者自体、他の事件については認めたがこの事件については一貫して関わりを認めていなかったという事実もある。
 当時、捜査に当たった警視庁内部では、(オウム真理教の犯罪が想定されたため)刑事部ではなく公安部がこの事件を担当しており、そのために最初から最後まで「オウム真理教の犯罪」であることが前提になっていた。一方で刑事部も並行して捜査を進めており、有力な容疑者、中村泰(なかむらひろし)に行き当たっていた。この男、この事件の後、現金輸送車襲撃を2回起こして当時刑務所に収監されていたが、アジトに大量の銃を隠していた他、警察庁長官狙撃事件で使われたものと同じ(特殊な)銃弾を持っていたことがわかっており、しかも狙撃事件の様子についても詳細に語ったりしていたらしい。第三者的に見ればコイツだろと思うんだが、結局公安部はこの事実を受け入れず、オウムの線を強引に押し通した。だが犯行に使われた銃も結局見つかっておらず、逮捕されていた(オウム関連の)容疑者の供述にも一貫性がないということで、結局この容疑者は不起訴になり、2010年に公訴時効を迎えることになったのである。
 このドキュメンタリーでは、この一連の事件を辿り、中村泰真犯人説に基づいて解明していく。なぜ真犯人がわかっていながら逮捕起訴に踏み切らなかったかについても考察する。
b0189364_17244613.jpg また、実録ドラマも同じ『NHKスペシャル』の枠で1週間後に放映された。キャストは、真犯人がイッセー尾形、これを追いかける警視庁の原警部を國村隼が演じる。イッセー尾形が演じる中村の風貌がそっくりで、さすがの芸達者と思わせる。中村については、高い知性を持つ(自称)革命家という描き方で、これはおそらく中村の取り調べに当たっていた原の心証によるものと思われる(このドラマでは原の著書『宿命』が原作のような扱いになっていた)。あくまで再現ドラマではあるが、それぞれのキャラクターが非常にリアルでドラマとしてもよくできている。ドラマ部分は、ドキュメンタリー部分をほぼ踏襲した内容になっており、まさしく「再現」したドラマである。ドキュメンタリーもドラマもどちらも十分見応えがあって面白かった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『未解決事件File. 02 オウム真理教(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『未解決事件File. 05 ロッキード事件(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-10-30 07:24 | ドキュメンタリー

『ボクサー』(映画)

ボクサー(1977年・東映)
監督:寺山修司
脚本:石森史郎、岸田理生、寺山修司
出演:菅原文太、清水健太郎、小沢昭一、春川ますみ、地引かづさ、唐十郎、具志堅用高

寺山「ジョー」

b0189364_17511157.jpg 寺山修司が監督したボクシング映画。落ちぶれている元ボクサーのトレーナー(菅原文太)と足に障害を持つボクサー(清水健太郎)の二人三脚のドラマで、寺山版『あしたのジョー』といったところ。スポ根マンガを映画にしたようなありきたりな演出が多く、目を瞠るような部分はほとんどない。
 菅原文太と清水健太郎のボクシングが割合サマになっていたのと、具志堅用高を始め、歴代の世界チャンピオンたちが大挙してゲスト出演していた(日本ボクシング連盟が協力しているらしい)のが印象に残った程度で、後はあまり見るべきものはなかった。もっともボクシング好きには楽しめるのかもしれない。
 菅原文太のトレーナーが飼っている犬がボクサーで、この犬が少しとぼけていて面白かったのが僕にとっての唯一の見所。監督が寺山修司だけに天井桟敷のメンバーも大挙して出演している。挙げ句に状況劇場の唐十郎までが出ていたが、こちらは友情出演みたいな感じだったのかなと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『チャンプ(1931年版)(映画)』
竹林軒出張所『書を捨てよ町へ出よう(映画)』
竹林軒出張所『初恋・地獄篇(映画)』
竹林軒出張所『寺山修司からの手紙(本)』
竹林軒出張所『買った、見た、ふるえた……キックの鬼 最終章』
竹林軒出張所『慢性拳闘症(本)』

by chikurinken | 2018-10-29 07:50 | 映画

『がんばっていきまっしょい』(映画)

がんばっていきまっしょい(1998年・フジテレビ他)
監督:磯村一路
原作:敷村良子
脚本:磯村一路
出演:田中麗奈、清水真実、葵若菜、真野きりな、久積絵夢、中嶋朋子、松尾政寿、大杉漣

青春がほろ苦い

b0189364_17203409.jpg 明朗青春スポーツ映画。原作は、松山市の『坊っちゃん文学賞』を受賞した小説で、ディテールがかなり具体的であるため、おそらく(自身の経験に基づく)私小説的な作品なのではないかと思う。
 主人公の少女が、松山の名門進学校に入学したものの目的を見いだせない毎日だったが、たまたま海で目にしたボートに心が動き、友人を誘って女子ボート部を作ってボート競技に取り組む……というような話。基本は高校女子ボート競技の話だが、友人たちとの付き合いや恋の行方も織り交ぜられていて、地方の女子高校生の青春記という趣の話になっている。映像は美しく、作りが丁寧であるため、随所に見所がある。また舞台が1976年になっており、(主人公の学年が)最初の共通一次世代などという話も出てきて、少し懐かしい感覚もある。
 内容は、明朗青春映画の『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』を彷彿させるような内容だが、元々は『がんばっていきまっしょい』がこの類の映画の元祖(といってもそれ以前にも似たような作品は数限りなくあるが)で、同じ製作者が2匹目、3匹目のドジョウを狙って作ったのがこの2作らしい。だが、3作の中では、原作がしっかりしていることもあり、『がんばっていきまっしょい』がベストだと思う。明朗な楽しさの中にも青春のほろ苦さが混ざっていて味わい深い(秋刀魚の味みたいにね)。
 主役の田中麗奈は本作がデビュー作で大変初々しい。森山良子と白竜が主人公の父母役で出ていたらしいが、全然気が付かなかった。
朝日ベストテン映画祭第1位、ブルーリボン賞新人賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ウォーターボーイズ(映画)』
竹林軒出張所『オヤジたちの“ウォーターボーイズ”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『独立少年合唱団(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した『スウィングガールズ』についての評(再録)。

(旧ブログ2006年12月7日の記事より)

<スウィングガールズ(2004年・東宝)
監督:矢口史靖
脚本:矢口史靖
出演:上野樹里、貫地谷しほり、本仮屋ユイカ、竹中直人、白石美帆

b0189364_710427.jpg よく作り込まれていておもしろいことにはおもしろいのだが、ストーリーが安直だ。マンガのストーリーによく見られるような安直さである。マンガが原作かと思ったくらいだ(どうやらオリジナル作品らしい)。「そんなにうまぐいがねって」と突っ込みを入れたくなる。
 登場人物がみな東北弁(米沢弁ですか?)を話すのは「なぜ?」と思った(関係者が米沢出身なのか?)が、それはそれで非常に味があって良かった。出演の竹中直人は、『シコふんじゃった』で見せたような絶妙なポジションで存在感を見せるが、ストーリーの安直さという点でも『シコふんじゃった』と共通していた。
★★★

by chikurinken | 2018-10-28 07:20 | 映画

『紀ノ川』(映画)

紀ノ川(1966年・松竹)
監督:中村登
原作:有吉佐和子
脚本:久板栄二郎
撮影:成島東一郎
美術:梅田千代夫
音楽:武満徹
出演:司葉子、岩下志麻、田村高廣、東山千栄子、丹波哲郎、有川由紀、沢村貞子

少々バランスの悪さを感じる

b0189364_14503657.jpg 有吉佐和子原作の同名小説の映画化。地方の名家に嫁いだ花という女性(司葉子)の半生記である。花の視点で嫁ぎ先の「家」との関係、夫や娘、息子との関係の他、その家や家族が激動の時代の中で翻弄される有様が描かれる。映画では、主人公の花の22歳から72歳までが描かれ、当時34歳だった司葉子が娘役から老婆役まで演じる。老婆役は少々無理があるが、そこそこ無難にこなしてはいる。
 紀ノ川を下る豪華な嫁入りシーンや祝言のシーンなどは地方の名家の有り様が再現されていて、無形文化財と言っても良いような豪華なシーンである。紀州の自然や当地での生活の様子なども映し出され、今は失われた美しい自然の映像や家屋を含む生活風景にはひたすら感心するが、ただストーリーはかなり端折った感覚があり、その一方でこういったシーンが長々と映し出されることについては、多少のバランスの悪さも感じる。それにせっかくの武満徹の音楽が、少々おどろおどろしかったりしてあまりうまい使われ方でないのも気になるところ。素材は豪華だがもう一つ料理しきれなかったというような印象が残る。
 キャストについては、司葉子と丹波哲郎が特に魅力的である。司葉子演じる花のことを、周りのすべて(の川)を取り込む紀ノ川と同じで周りの人やもの(家を含む)を取り込んで自分の懐に入れてしまうのだと、義理の弟役の丹波哲郎が岩下志麻に話すシーンがなかなか印象的で、これがこの映画のテーマの一端にもなっている。他のキャストの演技は総じて並みという印象で、大作であった割にはかなり地味な映画になってしまった。この映画も30年ほど前に見ているはずなんだが、司葉子と岩下志麻のぶつかり合い以外ほとんど憶えていなかった。それもやはり、演出と脚本がもう一つだったことが原因かなと今回見ながら感じたのだった。
 蛇足ではあるが、『俺は男だ!』の吉川君でお馴染み(?)早瀬久美も「新人」として出ていたらしいが、結局どれが彼女なのかわからなかった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『華岡青洲の妻(映画)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』
竹林軒出張所『彼岸花(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』

by chikurinken | 2018-10-27 07:50 | 映画

『華岡青洲の妻』(映画)

華岡青洲の妻(1967年・大映)
監督:増村保造
原作:有吉佐和子
脚本:新藤兼人
撮影:小林節雄
美術:西岡善信
出演:市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子、伊藤雄之助、渡辺美佐子、原知佐子、伊達三郎、田武謙三、杉村春子(語り)

端正な映像と小気味良い展開が魅力

b0189364_18211352.jpg 1967年、発表当初から話題になっていた有吉佐和子の小説『華岡青洲の妻』が大映によって早速映画化された。さすが文芸の大映といったところである。その作品がこの映画だが、スタッフが豪華な上、キャストも一流どころを揃えていて、なかなかの秀作に仕上がっている。
 主人公の華岡青洲は、全身麻酔による外科手術を世界最初に行った人で、有吉佐和子の小説によって一般人の間でも有名になったらしい。ただこの小説は、華岡青洲の功績を持ち上げるというものでは必ずしもなく、嫁姑の確執に焦点を当てるという、いかにも女流文学者らしい作品であった。映画でもそのあたりは非常にうまく再現されており、嫁の若尾文子と姑の高峰秀子が散らし合う火花がこの作品の見所の一つである。
 映画は90分程度に短くまとめられ、しかも小気味よく話が進むため少々ダイジェスト風ではあるが、忙しい現代人が見ても決して中だるみするようなことはないと思う。こういう風に短くまとめられたシナリオは、ともすると本当にダイジェストになってしまって陳腐な作品になることがあるんだが、そのあたりは演出の妙で、うまいこと処理されている。端正なモノクロ映像、それから大映らしい豪華なセットとあわせて、映画の完成度を高める役割を果たしている。増村保造作品の中でも会心の部類に入ると思う。
 キャストは、先述の若尾文子と高峰秀子は言うまでもないが、やはり市川雷蔵の存在感が素晴らしい。何をやっても絵になる役者だとあらためて思う。若尾文子と高峰秀子の紀州弁も非常に魅力的である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『紀ノ川(映画)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』
竹林軒出張所『陸軍中野学校(映画)』
竹林軒出張所『好色一代男(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『痴人の愛(映画)』
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『氾濫(映画)』
竹林軒出張所『兵隊やくざ(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』

by chikurinken | 2018-10-26 07:20 | 映画

『たそがれ清兵衛』(映画)

たそがれ清兵衛(2002年・松竹)
監督:山田洋次
原作:藤沢周平
脚本:山田洋次、朝間義隆
音楽:冨田勲
出演:真田広之、宮沢りえ、田中泯、岸惠子、吹越満、大杉漣、小林稔侍

平成時代劇の見本

b0189364_8153367.jpg 藤沢周平原作の同名短編小説を映画化したもの。実際には『たそがれ清兵衛』だけでなく、『祝い人助八』、『竹光始末』も原作になっており、いろいろな要素をまとめて1本をこしらえたというかなりアクロバチックなシナリオである。ただし、渾然一体とまとまっているため、寄せ集めの感覚はまったく湧かない。どこからどこまでがどの原作というのもなかなか見えてこないため、優れたシナリオと言うことができる。
 舞台は幕末の庄内地方。病気(結核)の妻(映画冒頭で死去)と幼い子供、もうろくした母を抱え、生活に困窮している50石取りの下級武士、井口清兵衛は、家事や内職に忙しいことから、勤務が終わったら、つまり黄昏時になったらすぐに直帰する。そのために同僚から「たそがれ」と呼ばれている。しかも妻がいなくなったことから身の回りのことが行き届かず、見るからに汚いなりをしていて、実に冴えない男である。ところが実際は相当な剣の使い手であることから、日常から離れた大きなうねりに巻き込まれていく……というようなストーリー。ストーリーの進行にあわせて語りが挿入され、次女の立場からの回想として、岸恵子(数十年後の次女の役)のナレーションで語られる。
 先ほども言ったように大変よくできたストーリーで、しかもセットが豪華、時代考証もしっかり行われている(監督は相当凝ったらしい)点で、時代劇の模範みたいな映画になっている。登場人物の清兵衛と同じように、穏やかな雰囲気が漂うが隙がないという類の作品である。ただ、これは以前のレビューでも書いたんだが、武士が黄昏時になるまで勤務しているというのが、どうも実際とは異なっているんじゃないかと感じる。こういう勤務形態は近代的なもので、江戸時代までの侍の仕事は、今と比べて割合のんびりしていたと思うが。ただそうなると「たそがれ清兵衛」自体が成立しないので致し方ないところだが、時代考証をしっかり行った監督の立場からすると、今頃、内心忸怩たる思いということになっているかも知れない。ただ勤務風景や生活が非常にリアルなんで、そういう点での面白味はある。
 また主人公の清兵衛(真田広之)と朋江(宮沢りえ)が非常に魅力的なキャラクターであるのもこの映画の大きな魅力である。上司(小林稔侍)や同僚(赤塚真人ら)もいかにも下級役人然としていて、大変存在感がある。そのために当時の武士の生活を覗き見しているような風情がある。清兵衛の幼なじみを演じる吹越満は、この直後、『江戸古地図の旅』というドキュメンタリーでも同じような役回りを演じているが、もしかしたらこの映画の影響かも知れない。
 全体を通じてまったく隙がない山田洋次らしい作品で、それ以前の実にいい加減な考証の時代劇とは一線を画す作品である。新時代のフロンティア時代劇と言って良いのではないかと思う。実際これ以降、本格的で上質な時代劇映画が(山田洋次作品もあるが)何本か出てきて、秀作として残っている。そういう意味でも、この映画が日本映画史上の1つの画期になったと言える。
第76回キネマ旬報ベスト・テン日本映画ベストワン、
日本アカデミー賞作品賞他受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『武士の一分(映画)』
竹林軒出張所『果し合い(ドラマ)』
竹林軒出張所『闇の歯車(ドラマ)』
竹林軒出張所『江戸古地図の旅(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 (上)(下) (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『家族(映画)』
竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』
竹林軒出張所『男はつらいよ 純情篇(映画)』

 以下、以前のブログで紹介した『たそがれ清兵衛』の評の再録。概ね同じようなことが書いてある。
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(旧ブログ2004年10月25日の記事より)
たそがれ清兵衛(2002年・松竹)
監督:山田洋次
原作:藤沢周平
脚本:山田洋次、浅間義隆
出演:真田広之、宮沢りえ、小林稔侍、大杉漣、赤塚真人

 山田洋次あなどるべからず。
 山田洋次の映画は、あまり好きじゃない(接写が多く疲れるのだ)が、これはいける。乾いた空気が心地よい。
 「世間でダメだと思われている人間が実はすごい人だった」というパターンはそれ自体楽しいものだが、それに恋愛や家庭、宮仕えの悲哀など、さまざまなエピソードをつなぎ合わせて、どっしりした仕上がりになっている。最後のテロップを見ていると、藤沢周平の原作として3本あがっていたが、3本の話を1つにまとめ上げたにしてはあまりに良くできている。すばらしいシナリオだ。
 真田広之は相変わらず芸達者だ。宮沢りえも、抑えた演技で良い。
 ただ以前、江戸時代の武士は1日4時間程度しか仕事をしていないと本で読んだが、そうすると帰宅する時間も明るい内になるので「たそがれ」にならないんじゃないか。どうだろう。これは原作に対する疑問。
★★★★

by chikurinken | 2018-10-25 07:30 | 映画

『テス(2008年ドラマ版)』(ドラマ)

テス(ドラマ版)(2008年・BBC)
原作:トーマス・ハーディ
脚本:デヴィッド・ニコルズ
演出:デヴィッド・ブレア
出演:ジェマ・アータートン、エディ・レッドメイン、ルース・ジョーンズ、ハンス・マシソン、ジョディ・ウィッテカー

何だか冴えない

b0189364_19150595.jpg トーマス・ハーディ原作の『テス』のドラマ・バージョン。製作はBBC他。
 『テス』は、1979年に作られたナスターシャ・キンスキー主演の映画版が有名で、僕もかつてこちらを見たが、内容はほとんど憶えていなかった。そのため今回のドラマも内容についてはかなり新鮮に感じた。ただしストーリーは不幸な女性の話であり、非常に通俗的で湿っぽい。原作が文楽だと言われても通るような話で、義太夫節が聞こえてきそうと言えば言い過ぎか。
 英国の下層階級に属している(実は上流階級という設定)テスの元に不幸が次から次へとやって来るが、一方で幸福な時期もそれなりにあり、それが余計不幸度を強調するという構成。元々『テス』が発表されたのが19世紀末の英国で、当時のヨーロッパ諸国で下層階級が結構辛い生活を強いられていたことを考えると、実際に起こりうるリアルな話で、ある意味リアリズムの作品とも考えられる。とは言え、少なくともドラマ版からはもう一つ迫ってくるものがない。
 主人公のテスを演じるのはジェマ・アータートンという人。この女優のことはまったく知らなかったが、率直に言って何だか冴えない。テスと言えばモテモテの登場人物である。b0189364_20140060.jpgこの女優、それなりに美形とも言えるが、引き付けられるような魅力はまったく感じない。冒頭の大勢の女性のダンスのシーンではどの女性が主人公なのかしばらく気付かなかったぐらいである。他のキャストも同様で、アレック(役の俳優)もエンジェル(役の俳優)ももう一つ冴えない。波瀾万丈のストーリーのドラマでそれなりに楽しめるのだが、あまり惹かれるところがなかったというのが正直なところである。最後の方は過剰なセンチメンタリズムに少々うんざりする。これが原作のせいなのか、ドラマのせいなのかはよくわからない。そういうわけで、ナスターシャ・キンスキーの映画バージョンももう一度見てみたいと思った(見るかどうかはわからないが)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『レ・ミゼラブル (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『白鯨(ドラマ)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(1993年)(ドラマ)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(2015年)(ドラマ)』
竹林軒出張所『クロムウェル 英国王への挑戦(映画)』
竹林軒出張所『ジョン・レノンの魂(ドラマ)』
竹林軒出張所『「英雄」〜ベートーベンの革命〜(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-10-23 07:13 | ドラマ

『炎立つ 総集編』(1)(ドラマ)

炎立つ 総集編 (1)(1993年・NHK)
原作:高橋克彦
脚本:中島丈博
演出:門脇正美、三井智一他
出演:渡辺謙、村上弘明、古手川祐子、村田雄浩、新沼謙治、佐藤慶、佐藤浩市、豊川悦司、里見浩太朗、財前直見、萩原流行、坂本冬美

大河ドラマは幕末と戦国だけじゃない

b0189364_16564222.jpg 平安時代末期に栄えた奥州藤原氏を扱った大河ドラマ。1993年に放送されたもので、大河ドラマとしては珍しく3部構成になっている。第一部「北の埋み火」が全12回で、藤原経清(渡辺謙)が主人公である。奥州に渡った経清が、安倍氏が支配する東北の金を狙う国司、藤原登任(名古屋章)の不正を目の当たりにして、この国司と対峙する安倍氏側に与するようになる。藤原登任は安倍氏の平定に失敗しやがて国司を解任されるが、その後奥州に入った源頼義、義家親子が安倍氏を平定しようとして、安倍氏との間で長い戦闘状態に入る。これが前九年の役である。これが第一部。
 第二部「冥き稲妻」は、安倍氏が滅んだ後、その安倍氏の領地を代わって支配した清原氏の話で、経清の子どもである藤原清衡(村上弘明)が台頭し、最終的に清原氏を滅ぼして支配権を手中に収めるまでの話で、要するに後三年の役がこれに当たる。
 第三部は、その80年後、繁栄する奥州藤原氏が、源頼朝の画策で滅ぼされる過程が描かれる。言ってみればこの『炎立つ』、奥州藤原史になっていて、3つの時代に区切ったためにダラダラと続かずに非常に引き締まった構成になっていた。特に第一部で描かれる藤原経清と安倍貞任(村田雄浩)の友情が非常に気持ち良く、最初に見たときから印象に残っていた。また、登場人物達のさまざまな複雑な思いが表現されているなど重厚な面も備えており、NHK大河ドラマの中ではもっともできの良い部類の作品であった。ただ第二部、第三部は、目新しい素材であったために新鮮だったが、第一部に比べて若干落ちるという印象を持っていた。今回も第三部は結局見ずじまいで終わった。
 で、そのあたりのいきさつがウィキペディアに載っていて、何でも原作が第一部までしかできておらず、第二部以降は脚本家が、原作ができあがる前にどんどん話を先に書いたらしいのである。そのために原作者と脚本家の間に一悶着あったという話も、脚本家によって『シナリオ無頼』という著作の中で披露されているらしい(この本読んだはずなんだが、このエピソードについてはまったく記憶になかった)。
 ドラマについては、渡辺謙と村田雄浩が非常に好演で、佐藤慶、佐藤浩市、豊川悦司も強烈な個性を演じていて水準が高い。また大道具が昨今の大河ドラマと違って、豪華でよくできているのも目に付いた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『火怨・北の英雄 アテルイ伝 (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『坂の上の雲 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の生涯 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『大河ドラマ 平清盛 総集編(ドラマ)』
竹林軒出張所『シナリオ無頼(本)』

by chikurinken | 2018-10-22 07:56 | ドラマ

『OLはえらい』(本)

OLはえらい
益田ミリ著
いそっぷ社

絵は拙いが味はある

b0189364_16143080.jpg 『すーちゃん』の益田ミリのマンガ・デビュー作。自身のOL時代の話を中心にOLの日常生活(多くは会社での日常)を綴ったマンガである。
 本書刊行のいきさつについては、『ふつうな私のゆるゆる作家生活』にも書かれていたが、いそっぷ社の担当者から突然4コマ・マンガ描きませんかと持ちかけられたことがきっかけだそうだ。しかもこの著者、それまでマンガを描いたことがなかったらしく、それを考えるとよくこんな仕事受けたなと思う。担当者についても、よくこんな仕事持ちかけたなと思う。だがこの担当者の見立てが正しかったことは、その後の『すーちゃん』シリーズを見てみればわかる。いそっぷ社のこの担当の先見性を称えたいところである。
 さてこのマンガ、デビュー作だけあって、絵は非常に拙い、というかむしろヘタである。1980年代以降ヘタウマが許容されるようになったからこそ、こういう拙いマンガも受け入れられるんであろうが、ヘタ度はかなりのものと言って良い。もっともそれでも結構味があるし、登場人物のキャラがたっているため、かなり読める。また(立場的に社内で虐げられることの多い)女性社員の視線から見た同僚男性社員たちの姿はなかなか辛辣で、とは言え単なる中傷ではなく、第三者的に見ても問題のある人たちだとは感じる。こういった鈍感男性が、立場的に弱い人々に対しどのように対峙しているかが描き出されていて、またそれに対応しなければならない女性社員たちの心情と苦労も描き出されていて、そのあたりが本書の大きな魅力になっている。
 主人公はロバの姿をしているロバ山ロバ子(他の登場人物はすべて人間の姿)。『ふつうな私のゆるゆる作家生活』では、編集者が犬の姿だったが、どちらも特に違和感はない。なんせ絵自体、子どもの描くような絵だから、登場人物がどんな姿だろうがおそらく驚くことはない。一応4コマ・マンガになっているが、4コマでオチがあるわけではなく、そのままダラダラと話が続くような形式で、その辺は『すーちゃん』に近い。また全ページに渡って彩色されているが、よく見ると少々雑である。もっともそういったものすべてがこの作品の「味」になっているわけで、そのあたりは決して侮ることはできない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ふつうな私のゆるゆる作家生活(本)』
竹林軒出張所『すーちゃん(本)』
竹林軒出張所『結婚しなくていいですか。(本)』
竹林軒出張所『どうしても嫌いな人(本)』
竹林軒出張所『すーちゃんの恋(本)』
竹林軒出張所『オレの宇宙はまだまだ遠い(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』

by chikurinken | 2018-10-21 07:14 |