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竹林軒出張所

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『しかし… 福祉切り捨ての時代に』(ドキュメンタリー)

しかし… 福祉切り捨ての時代に
(1991年・テレビマンユニオン)
フジテレビ NONFIX

是枝裕和のドキュメンタリー第1作

b0189364_19032518.jpg 映画監督、是枝裕和がテレビマンユニオン勤務時代に作ったドキュメンタリー第1作。
 1980年代の中曽根政権時代、それまで継続されてきた福祉政策が大きく転換した。福祉に対するハードルが高くなり、親族援助の推進、自助努力などが謳われて、いわゆる「福祉切り捨て」が行われるようになった。要するに、福祉関連経費を削減しようという政権側の目論見である。だが、このような政策は、本当に福祉対策が必要な人に支援が届かないという状況を生み出す。2000年代以降も、何かに付け同じような福祉切り捨て政策が行われてきているため、我々の記憶にも新しいところである。その元祖が中曽根政権時代のこの政策である。
 この時代、まさにこの福祉切り捨てにあって将来を絶望した下町の女性(原島信子という人)が自ら命を絶った。そしてその数年後、それまで福祉行政に積極的に関わっていた環境庁の官僚、山内豊徳も自宅で自殺した。この山内氏、元々厚生省に入省し、福祉畑で積極的に福祉政策に関わってきた人で、福祉政策に対しても積極福祉の立場から持論を展開していたという人。奇しくも福祉を推進する側の山内と、福祉を受ける側の原島、しかもその両者は生い立ちに共通点があるんだが、その両者が同じ頃に自殺したのだった。この2人の生き様に焦点を当てながら「福祉切り捨て」政策の問題性をあぶり出すというのが、このドキュメンタリーである。
 ナレーターは森本レオで、かなり早口で話す。つまりは情報量が多く、多少落ち着きのなさを感じる作品になってしまっている。是枝裕和が最初に発表したドキュメンタリーということで気負いがあったのか知らないが、もう少しゆったりした進行にしないと、見る側は情報過多でなかなか辛いものがある。とは言え、内容は濃密で、アプローチの仕方も通常のドキュメンタリーと違ってややドラマ風なのも、是枝氏の作家性ゆえかも知れない。
 なお、福祉政策については、先ほども触れたが、その後好転しているとは言えない。相変わらず役人の無茶ぶりみたいな政策ばかりで、こういう案件を立案した役人は、その資質がそもそも福祉行政に適していないんじゃないかと感じる。今では山内氏みたいな、高邁な理想を持ち意欲に溢れた役人は、存在し得ないんだろう。そもそもこういう表現(「高邁な理想を持ち意欲に溢れた役人」)自体が、現代では形容矛盾に思える。それを考えると、福祉切り捨て政策の影響で自ら命を絶たざるを得なかった山内氏の存在自体が、あの時代を象徴していたと言えるのか。
ギャラクシー賞優秀作品賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『もう一つの教育 伊那小学校春組の記録(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『彼のいない八月が(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『エンディングノート(映画)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』
竹林軒出張所『海街diary(映画)』

by chikurinken | 2018-08-31 07:01 | ドキュメンタリー

『海街diary』(映画)

海街diary(2015年・「海街diary」製作委員会)
監督:是枝裕和
原作:吉田秋生
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
音楽:菅野よう子
出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、前田旺志郎、樹木希林、リリー・フランキー、風吹ジュン、大竹しのぶ

鎌倉の夏、日本の夏

b0189364_22552751.jpg 吉田秋生原作のマンガを映画化した作品。
 原作は、鎌倉の4姉妹のホームドラマ的な話で、ややとりとめのない感じでゆったりと進行していく(竹林軒出張所『海街diary 1 蝉時雨のやむ頃(本)』を参照)。
 映画化するに当たって、このオリジナルのストーリーをどのように2時間にまとめるかはかなり難しいところで、この原作自体、かなり映画になりにくい素材であると言える。いっそのこと、原作のキャラだけを使って新しい話にしてしまうという手もあるかも知れないが、この映画に限っては、そういう手段は使わず、かなり原作の味を活かしていると言える。ただ先ほども言ったように、原作自体とりとめがないので、下手をするとテーマが見えずにストーリーがダラダラと流れてしまう作品にもなりかねないが、ストーリーやキャラクターは原作を重視しながらも、2時間のドラマとして成立させているあたりはなかなか見事である。
 テーマは、4姉妹の家族的な繋がり、それから生や死を含む人間的な繋がりというあたりだと思うが、同時に鎌倉の四季、特に夏が非常に情緒的に描かれていて味わい深い。このあたりは、4姉妹が住む家が日本家屋風のやや古い家で、梅酒をつけたり、墓参りをしたり、あるいは浴衣を着て花火をやったりというような(やや古いスタイルで)年中行事を重視した生活を送っているせいもある。『歩いても 歩いても』『ゴーイング マイ ホーム』などの是枝作品にも、似たような日本的情緒(と言っても日本人にとっては割合普通の日常であるが)が表現されていたため、このあたりは是枝作品の特徴なのかも知れない。そういう点でも、オリジナルの『海街diary』は、是枝裕和によく合った素材だったのかも知れない。
 4姉妹の配役については、原作を読んだ読者からはいろいろと異論がありそうだが(これは原作ものには必ずついてまわる宿命である)、概ね原作に即したキャラクターになっていると思う。長女(綾瀬はるか)のイメージが若干原作と違うような気もするが、十分許容範囲内である。中でも四女のすずのイメージが広瀬すずにぴったりで、原作の再現という点でも、この映画のレベルは高い。
 また、映画の『細雪』を彷彿させるような、4姉妹が並んだショットもあり、『細雪』や『阿修羅のごとく』を意識している可能性が多分にあるとも感じた。難を言えば、4姉妹と両親、それから親族との家族関係が、(話がかなり進んでから)セリフで語られるだけであるため、わかりにくかった点があるが、こちらも許容範囲と言える。ちなみにこのあたりの関係性については、原作では最初の数ページ目で説明がある。
 とは言うものの、原作からエッセンスをうまい具合に抽出して映画化できているという評価には変わりない。原作マンガの世界観をこれだけしっかり映像化できていることについては、さすがの是枝!と拍手を送りたくなるところである。
第39回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『海街diary 1 蝉時雨のやむ頃(本)』
竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (2)〜(10)(ドラマ)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-08-29 06:55 | 映画

『あん』(映画)

あん(2015年・映画「あん」製作委員会)
監督:河瀬直美
原作:ドリアン助川
脚本:河瀬直美
出演:樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、浅田美代子

問題意識は盛り込まれているが
かなり地味な映画だ


b0189364_14532028.jpg 主人公は、小さなどら焼きの店を営んでいる中年男(永瀬正敏)。この店主が出したバイト募集の張り紙に応じてやってきたのは、なんと70台の老婆(樹木希林)だった、というところから話が始まる。当初は断っていた主人だったが、この老婆が美味しいあんこを作れることから採用になり、店も繁盛してくる。ところがこの老婆、実はつらい過去を抱えていた……というようなストーリー。
 なおこの店の主人もつらい過去を抱えており、しかも店の常連の女子中学生も家でいろいろとあって、要するにいろいろ抱えた人たちが集まって、いろいろなことを織りなすという映画である。少しだけ意外性はあったが、それでもあまり逸脱することもなく、割合想定内で話は進んでいく。演出も正攻法で、面白味はあるが地味なドラマである。
 原作は、ミュージシャンのドリアン助川。ドリアン助川、最近あまり見ないが、こういう小説を書いたりしていたのかなどと思った。キャスティングとしては、樹木希林と浅田美代子が揃って出ていたのが『寺内貫太郎一家』を思い出させるが、両者が一緒に登場して絡むようなシーンはこの映画では一切なかった。
 ストーリー自体は『のんちゃんのり弁』風で(ちょっと違うかも知れない)、そこに人間の生きづらさのテイストを付け加えたという感じの映画と言ってよいか。いずれにしてもかなり地味で、ややありがちな展開の作品ではある。
第60回バリャドリード国際映画祭最優秀監督賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『のんちゃんのり弁(映画)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-08-27 07:53 | 映画

『美女と液体人間』(映画)

美女と液体人間(1958年・東宝)
監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
原作:海上日出男
脚本:木村武
出演:佐原健二、白川由美、平田昭彦、土屋嘉男、千田是也、田島義文、夏木陽介、佐藤允、小沢栄太郎

それなりにまとまってはいるが
面白味は感じない


b0189364_18221042.jpg 東宝特撮の常連が名を連ねた、東宝SF特撮映画。主演の佐原健二、白川由美、平田昭彦は、前年の『地球防衛軍』に続いての登場。監督、特技監督は言うまでもなく本多猪四郎と円谷英二である。
 ストーリーは、核実験で放射能を浴びたマグロ漁船、第二龍神丸の乗員が、強い放射線の影響で液体人間になってしまい、その後東京に舞い戻ってきて、(主として悪い)人間を襲うというもの。「第二龍神丸」は当然、第五福竜丸を意識した設定だろう。ストーリー自体に大きな破綻はないが、今の時代、大の大人が見ても、あまり面白味は感じない。ただ、おどろおどろしさは全編漂い、不気味と言えば不気味であるため、子ども時代に見ていたらまた違った感想が湧いていたかも知れない。『吸血鬼ゴケミドロ』なんかも同じようなテイストの話だが、僕自身中学生時代にあれを見て、非常に恐怖を感じた記憶がある。
 演出についても、他の本多猪四郎映画と異なり、あまり破綻はなくしっかりまとまっているという印象である。ただ先ほども言ったように、決して面白いとは感じなかったのだった(かなり退屈していた)。
 主演の白川由美は、二谷英明の妻にして二谷友里恵の母であるあの「白川由美」で、僕自身は若い頃の映像は見たことがなかったため、結構新鮮であった。タイトルについている「美女」という呼び名にも決して違うことのない端正な美しさで、この映画の見所の1つになっている。
★★★

参考:
竹林軒出張所『吸血鬼ゴケミドロ(映画)』
竹林軒出張所『マタンゴ(映画)』
竹林軒出張所『ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『モスラ対ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦 ! 南海の大怪獣(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタイン対地底怪獣(映画)』
竹林軒出張所『イノさんのトランク(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-08-25 07:21 | 映画

『夢千代日記』(1)〜(5)(ドラマ)

夢千代日記 (1)〜(5)(1981年・NHK)
脚本:早坂暁
演出:深町幸男、松本美彦
音楽:武満徹
出演:吉永小百合、樹木希林、秋吉久美子、林隆三、楠トシエ、大信田礼子、緑魔子、長門勇、ケーシー高峰、岡田裕介、中条静夫、伊佐山ひろ子、中村久美、あがた森魚、夏川静枝、加藤治子

贅沢至極! 申し分ない!

b0189364_18464577.jpg 言わずと知れた早坂暁の代表作。1981年にNHKの『ドラマ人間模様』の枠で放送された。
 山陰地方(ドラマでは「裏日本」と呼ばれている)の湯里という小さな温泉町が舞台。その町で芸者の置屋を営む若い女将(兼芸者)が主人公の夢千代(吉永小百合)である。夢千代は、母が妊娠中に広島で被曝した、つまり胎内被爆者であり、そのために白血病の症状で苦しんでいる。その毎日の症状を主治医に報告するために日々の日記をつけていて、その日記の内容が、このドラマのナレーションとして使われるという、なかなか凝った設定になっている。タイトルもそれにちなんだものである。
 この夢千代の周囲で起こるあれこれの事件がモチーフとして現れ、同時に、白血病を始めとする、夢千代が抱えるいろいろな問題があぶり出されていくという縦糸と横糸の関係が実に見事で、脚本の見本みたいな素晴らしい作品に仕上がっている。夢千代によって語られる「(夢千代の)置屋が問題のある芸者ばかり抱えている」というのもなかなか可笑しいセリフである。(いわくのある登場人物が多いことに対する)作家の言い訳みたいにも聞こえる。
 キャストは非常に豪華で、だからといってビッグネームが揃っているというわけではないんだが、非常にうまい役者、変わったキャストが揃っている。吉永小百合は当時36歳で、非常に美しい。奇跡的と形容しても良いぐらいの美しさで、このドラマが吉永小百合の代表作であることはもう間違いない。b0189364_18464126.jpg長門勇や中条静夫、ケーシー高峰、林隆三など周囲を固めるキャストはきわめて個性的で、実在する人物であるかのようなリアルな存在を見事に演じている。樹木希林、伊佐山ひろ子、加藤治子らの力のある女優たちもいかんなく実力を発揮している。珍しいところでは、歌手のあがた森魚、楠トシエあたりで、2人ともドラマの中で歌唱がある。あがた森魚は「赤色エレジー」まで歌っており、第5話の「最后のダンス・ステップ」も良い味が出ていた(「最后のダンス・ステップ」は緑魔子と共演!)。夢千代の元恋人役の岡田裕介は、この後東映のプロデューサー業に転じ、映画版の『夢千代日記』では製作者として参加している。
 シナリオについては今さら言うまでもない。早坂暁の代表作であるのは間違いないが、しかしそれにしても、まったく飽きさせない舞台転換、セリフ回しなど、昨今のドラマとはまったく次元が異なるとすら思う。しかも武満徹が音楽を担当しているというのも贅沢至極である。当時の日本のドラマの最高水準とも言える作品ではないかと思う。
第14回テレビ大賞優秀番組賞、第8回放送文化基金賞奨励賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『花へんろ 風の昭和日記 総集編(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『修羅の旅して(ドラマ)』
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『映画女優(映画)』

by chikurinken | 2018-08-23 07:45 | ドラマ

『花へんろ 特別編 春子の人形』(ドラマ)

花へんろ 特別編 春子の人形(2018年・NHK)
原作:早坂暁
演出:平山武之
脚本:冨川元文
出演:坂東龍汰、芦田愛菜、田中裕子、尾美としのり、中西美帆

花へんろを安っぽく仕上げました

b0189364_17362897.jpg 早坂暁の代表作『花へんろ』を現代風に作り直したスピンオフみたいなドラマ。
 ストーリーは、『花へんろ』からごく一部分を取り出して恋愛ものに仕立て上げましたというようなものであるが、オリジナルの『花へんろ』と多少人物の設定が違っている。広島で死ぬ春子は、オリジナル版では姉だったがこのドラマでは妹である。このドラマでは、主人公(早坂暁自身の投影:坂東龍汰)と春子(芦田愛菜)との間で恋愛感情が芽生えるというような面はゆい話に変わっている(なお、主人公と春子には血のつながりがない)。無理やり恋愛ものに持っていったような風もあり、そのためもあってドラマとしてはきわめて陳腐な話になってしまった。
 それに加々美幸子のナレーションも、ドラマの中での語り手の位置付けが不明で、そのために非常に説明的でベタな語りになってしまっている。下手なドキュメンタリーのナレーションみたいになってしまい、地に足が付いていない感じさえして、ドラマの語りとしてはまったく冴えない。こういった過剰に説明的なナレーションなら、むしろない方が良いと思う。
 また、オリジナル版とかなり似たシーン(主人公と母との別れのシーン)も再現されていたが、オリジナル版のシーンがものすごく感動的に仕上がっていたのに、このドラマでは、まったく面白味がなく味のないシーンになっていた。書き手が違うとこうも違うのかと逆に感心した。この「リメイク版」はあらゆる部分が安っぽく、もちろんあの時代と今の時代のドラマの水準の違いみたいなものも勘案すべきなんだろうが、それにしても……である。オリジナル版『花へんろ』に対する冒涜のようにすら思える。
 このドラマの唯一の見所は芦田愛菜で、彼女は大変魅力的だったが、彼女を活かしたいんだったら(リメイクでなくて)普通の青春ドラマで良いんじゃないのと思う。それから、映画の『ダウンタウンヒーローズ』みたいなシーンもあって(あの映画は早坂暁の自伝的小説が原作)、製作者側は多分に意識したんだろうが、そのあたりも特に感じるところはなかった。『ダウンタウンヒーローズ』の主要なキャストである尾美としのりが、このドラマで父親役として出ていたのもその辺が関係したのかどうだかわからないが、ドラマ自体がつまらないため、それについても何の感慨も湧かない。
★★★

追記:
 先ほど、早坂暁にちなんで作られた別のドキュメンタリーを見たところ、このドラマ『春子の人形』は、早坂暁の実際の経験を基にしたドラマで、早坂のたっての希望で作られたらしい。血のつながりのない妹が広島で原爆で死んだというのも事実らしく、ただオリジナル版の『花へんろ』を書いたときは、(早坂にとってその事実が重すぎて)これに触れることができなかったという。今の時代に次の世代に伝えるべきと感じてこのドラマを企画したというのが真相のようだ。ただしだからと言って、このドラマ自体が安っぽいという事実には変わりはない。

参考:
竹林軒出張所『花へんろ 風の昭和日記 総集編(ドラマ)』
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』

by chikurinken | 2018-08-22 07:36 | ドラマ

『花へんろ 風の昭和日記 総集編』(ドラマ)

花へんろ 風の昭和日記 - 第一章、第二章、第三章総集編
(1985〜88年・NHK)
演出:深町幸男他
脚本:早坂暁
出演:桃井かおり、河原崎長一郎、加藤治子、藤村志保、沢村貞子、中条静夫、小林亜星、樹木希林、森本レオ、佐藤友美、小倉一郎、永島暎子、イッセー尾形、三田村邦彦(語り:渥美清)

十分の一の総集編

b0189364_19574791.jpg 先頃脚本家の早坂暁が亡くなったためか、代表作『花へんろ』の「特別編」というドラマが製作され、先日(18年8月)放送された(僕自身はまだ見ていない)。それに合わせて過去NHKで放送された『花へんろ』の第一章から第三章までがまとめて放送された。「まとめて放送」といっても、元々は各章45分×6回(第一章のみ7回)分のドラマであり、これをすべて放送するとなると放送する方も見る方も大変という判断だったのか、なんと各章を30分にまとめたダイジェスト版が放送されたのだった。つまり855分がなんと90分になっているわけで、ほぼ十分の一。まさにスーパー・ダイジェストである。
 僕自身は放送時『花へんろ』を見ていないため、DVDで見ようと思い図書館で借りたこともあるが、なんせ長いので結局見ずに返したことがたびたびあった。たださすがに十分の一のダイジェストを最初に見てしまうというのも少々気が引ける……。というわけで少し悩んだのだが、これは見て正解だった。非常によくできた面白いドラマであることがわかる。しかもダイジェストで展開がやたら早いので、まったく飽きることがない。もちろん、物足りない箇所、というか、見ていて辻褄が合わない(ように思える)箇所があるんだが、かなりの分量がカットされていることを考えるとこれも致し方ないところである。
 このドラマ、早坂暁の自伝的作品であるため、早坂暁にとっても畢竟の代表作と言っても良かろう。内容も非常に重厚で、全編反戦思想が貫かれている。また主演の桃井かおりにとっても畢竟の代表作と言える。特に若い頃の桃井かおりは、破天荒な性格の役柄が多くて、なかなか好きになれなかったが、こういう重厚な役柄もできるのかと今回あらためて感心した。それにキャストが超豪華なのも驚きである。また随所に俳句が入るのも味がある。ドラマ的な起伏もあり、非常によくできたシナリオで、この作品も80年代を代表する名作ドラマに数えられるのではないかと思う。
 今回総集編をすべて見終わって、これはやはり全編しっかり見るべき作品であったかなと感じる。とは言え、今回ダイジェストで見なかったら、一生見る気が起こらなかったかも知れないんで、総集編を見たこと自体はまったく後悔することはない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』
竹林軒出張所『夢千代日記 (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『修羅の旅して(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-08-20 07:57 | ドラマ

ちょっとひとこと

 かつてある知り合いから、このブログで紹介している本について、本当に全部読んでいるのかと訊ねられたことがある。確かに数日間に渡って何冊も立て続けに紹介するので、こういった疑問も当然だとは思うが、声(文字)を大にして言いたい。
全部読んでいます!
映画やドキュメンタリーも、ここで扱うものについては全部隅から隅まで見ている。ただし注をつけるならば、ここに紹介している記事は、概ね随時書き溜めたものであるため、ここに出てくるタイミングで読んだり見たりしているわけではない。このことはお断りしておかねばなるまい。
b0189364_18521724.jpg たとえばこの数日間で、ドナルド・キーン著の『明治天皇』を〈1〉〜〈3〉まで3日続けて紹介したが、実はそれぞれの冊を読み終わるのにそれなりに時間がかかっている(そもそも僕は本を読むのが速い方ではない)。〈1〉を読み終わったのが7月の初め頃で〈2〉は7月の終わり頃、〈3〉が8月上旬である。〈4〉は現在読んでいる最中で、おそらく8月末ぐらいには読み終わるんじゃないかと思う。このような具合で、このブログに挙げるに当たって、ある程度の原稿を書き溜め、その上で映画→ドキュメンタリー→本→ドラマの順番に2〜4本ずつ連続で、2日に1回程度のペースでアップするというのが目下のスケジュールである。ある程度関連性のあるものをまとめていることから(たとえばこの『明治天皇』の前はエッセイ3点、そしてドナルド・キーン繋がりで『明治天皇』に繋がっている。このあたり気付いていただけるともっと楽しめます)、中には先延ばしになってしまうものもある。書き溜めた量がある程度増えたら、掲載するペースもアップして数日間連続で……ということもある。僕自身このブログもなるべく継続したいと思っているため、間があまり空かないようにしたいと思ってはいる(間が空くとそれが普通になってしまってだんだんやらなくなってしまうのが常)が、あまりに溜まってしまっても、アップする頃にはこちらが内容を忘れてしまうなどということもあり得るわけで、個人的に新鮮さが失われてしまうということになる。そういうわけで、どういうペースでアップするかは、随時考えているわけだ。特に私生活で暇が続くと、DVDレコーダーに撮り溜めしている映画やドキュメンタリーをなるべく多く見て消費してしまおうと考えていて、それで見る映画やドキュメンタリーの数が多めになり、結果的に原稿が増えてしまう。そういうことがあると、その後しばらく毎日投稿が続くということにもなる。
 最近は、以前と比べてアップロードする間隔がやや空く(ほぼ1日おき)ようになったせいか、あるいはあまり一般受けしない素材が多くなったせいか、はたまた文章のレベルが落ちてしまったせいか知らんが、アクセス数が以前より大分減ってきており、それはそれで別に構わないんだが、そのこともあって必ずしも(読んでいる人を意識してサービス精神で)立て続けに連続で投稿することに必要性を感じていない。結局は自分が後で振り返るという目的が主になるのであるから、あくまで自分のペースを守りたいと思っている。ここを頻繁に訪れてくださっている皆さんには申し訳ないが、無理しても続かないのは目に見えているので、ご了承いただきたいところです。

by chikurinken | 2018-08-18 07:51 |

『明治天皇〈三〉』(本)

明治天皇〈三〉
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
新潮文庫

「目からウロコ」が続出

b0189364_16580458.jpg 明治天皇の生涯に迫るノンフィクションで、文庫版全4巻構成の第3巻が本書。朝鮮情勢、条約改正交渉、憲法発布、衆議院銀選挙実施、日清戦争、閔妃暗殺、北清事変などが扱われる。日本にとっての富国強兵の時代である。これらの事績は、明治天皇が「大帝」と呼ばれるゆえんにもなっている。
 だが実際は、必ずしも学校で教わるように計画的かつ漸進的に進んだわけではないことがわかる。実際の政策は、結構行き当たりばったりで、憲法や民会にしても時期尚早とする声が政府関係者の間には大きく、そのせいでなかなか進まない(民会開催まで結局15年かかる)。実際始めたら始めたで、選挙には暴力や賄賂がつきまとい、民会(衆議院)側も政府と敵対して、何も決められずという状態が長く続く。まあ、それがリアルな歴史ということだろう。
 一番驚くのは日清戦争で、この戦争も司馬遼太郎の小説や学校の歴史では、大日本帝国が東洋の覇権を握るべく着々と準備してきたというような描かれ方だが、実際のところは、開戦2カ月前くらいまで、政府の誰もが清国との戦争を想定していなかったというのである。全然「着々と準備」という感じではない。本書からの印象では、大敗北しなくてラッキーぐらいの感覚に近かったようだ。また、日清戦争中の旅順での大日本帝国軍による虐殺事件もあまり教科書で触れられることはないが、世界に「野蛮な劣等国」の印象を与えるのではないかということで、政府関係者が汲々としたなどという事実が語られ、非常に新鮮である。司馬遼太郎の『坂の上の雲』によると、当時の大日本帝国の軍隊は(列強諸国から非難を受けないようにするため)国際法を厳密に遵守すべく、違法行為が見られない規律正しい軍隊だったという風に描かれていたと記憶しているが、実際のところ、当然だが、決してそんな軍隊ではなかったことがわかる(そんな軍隊があったらお目にかかりたいもんだ)。後の関東軍の風はこのときから芽生えていたということである。
 もう一つ新鮮だったのは大津事件(来日中のロシア皇太子ニコライ2世が大津で暴漢に襲われた事件)に際して、死刑を求める政府関係者に対して、法による支配を断固主張し一歩も譲らなかった大審院長、児島惟謙(これかた)の行動で、今より政府権力が強いあの時代に、この地位の判事が今では考えられない主張を展開したことにあらためて驚く。このあたりの政府関係者とのやりとりも真に迫っていて、非常に読み応えのある箇所である(第四十二章「ロシア皇太子襲撃」)。
 明治天皇自身は、この時代、政治にも積極的に関与するようになっており、政治に口を出すことも頻繁ではないがやっている。基本的には、政府のトップ(太政大臣や内閣総理大臣など)に政治を任せるというスタンスではあるが、岩倉具視や伊藤博文などは、天皇に詔勅を出すよう求めたりもしていて、明治天皇と国のトップとの関係性がなかなか面白味を感じさせる。何より驚くのは、近代体制ができた後、首相に就任した人々がことあるごとに天皇に辞意を示し、慰留される(結局辞めるんだが)ということがたびたびあることで、何か気に食わないことがあるとすぐに辞めようとする首脳にはあきれかえってしまう。明治天皇もこういった連中にはさぞかし頭を悩ませたのではないかと、この本を読みながら感じる。こういう連中をうまいこと使いこなしたんだから、やはり明治時代の帝国の発展は、管理者としての明治天皇の業績と言うことができるかも知れない。
第56回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『明治天皇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈二〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈四〉(本)』
竹林軒出張所『日本人の美意識(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『坂の上の雲 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

by chikurinken | 2018-08-17 07:57 |

『明治天皇〈二〉』(本)

明治天皇〈二〉
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
新潮文庫

歴史を膚で感じる

b0189364_19322463.jpg 明治天皇の生涯に迫るノンフィクションで、文庫版全4巻構成の第2巻が本書。明治維新から明治14年の政変、自由民権運動あたりまでがその内容になる。
 新しい政体になって、政治機構が徐々にできあがり(紆余曲折はかなりあるが)、政府が少しずつ機能するようになる。やがて廃藩置県を断行し、中央集権体制に徐々に移行していく。
 外交的には対朝鮮政策(いわゆる征韓論争)で揉め、政府内が二分されるような議論になる。その上、政府要人の江藤新平、西郷隆盛、板垣退助らが下野するという異常事態になる(明治六年の政変)。しかもその後、彼らが地方で反乱を起こし(佐賀の乱から西南戦争まで)、国内は一部内戦状態になる。結局は、徴兵制で富国(はともかく)強兵を果たしつつある政府軍が、反乱軍を抑え込むことに成功し、政府直属の正規軍の力が証明されることになった。そのため、以後国内に大規模な反乱はなくなる。同時に士族の処分も(政府側からすると)無事に終わることになる。
 同時に台湾問題、琉球問題も現れ、このあたりは清国やヨーロッパ諸国と牽制しながら乗り切るが、領土問題については、このときの中途半端な処理が現在にも一部禍根を残す結果になった。
 また、各地で反政府運動が起こってくるのもこの時代。そういった時代に、新政府の新しい顔として、各地域を積極的に行幸してまわったのが明治天皇。民衆に対する顔見せ(実際に顔を見せたかどうかはともかく)、それから各地域の教育や産業の状況を視察するというのがその名目だったが、少なくとも当時の民衆からの受けは良かったようで、天皇の存在価値を民衆に植え付ける結果になった。
 その後、旧士族を中心に政治参加を求める動きが現れ、政府も立憲政体樹立の方向に舵を切る。そのあたりまでがこの第2巻の内容である。
 第1巻同様、割合ゆっくりと話が進むが、ゆっくりだからか、読んでいると、歴史のミクロ的な側面に触れられるような気がしてくる。特に現代から歴史を見る場合、どうしてもその後の体制から遡って物事を考えがちであるが、その時代にいれば先が見えないわけで、それを考えると、遡って考えるという帰納的な歴史認識が必ずしも正しくないということが実感できる。たとえば西南戦争などは、現代の視点から見れば「不平士族の反乱」で済むが、当時の感覚では内戦に近かったわけで、政府軍が物量で圧倒していたとは言え、鹿児島で持久戦になって、各地の不平士族がこれに連帯したりしたら、それこそ政府が明治転覆していてもおかしくなかったという状況だったらしい。そういう歴史の側面を感じられる点が、この本の大きな魅力である。その後、第3巻も買ったんで、おそらく最後まで読むんではないかと思う。記述は平易だが、分量が多いせいか読むのには結構時間がかかっている。
第56回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『明治天皇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈三〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈四〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

by chikurinken | 2018-08-16 07:32 |