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竹林軒出張所

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『アフター・ヒトラー 前後編』(ドキュメンタリー)

アフター・ヒトラー 前編後編
(2016年・仏CINÉTÉVÉ)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

大きな事件の間にミクロ的な歴史がある

b0189364_19545397.jpg ナチス崩壊後のヨーロッパ世界の映像をカラー化してまとめたもの。
 ナチスが占領していた国々での旧ドイツ兵に対するリンチ、親ナチスの人々に対する処刑などの映像から始まり、強制収容所のユダヤ人の姿などショッキングな映像がかなり出る。東欧で生き残りのユダヤ人に対して虐殺事件が起こったなどという、あまり表に出てこない事件もきっちり紹介されて、そういう点でもかなり興味深い。終戦後のベルリンの惨状や、市民による瓦礫の撤去の映像なども出てきて、こちらも珍しい。一般的な歴史学では、ドイツ降伏、ヨーロッパでの第二次大戦終結、日本降伏、太平洋戦争終結、米ソ東西対決みたいに続くわけだが、それぞれの事件の間には、ミクロ的な歴史があるという当たり前のことがあらためてわかる。
b0189364_19544862.jpg 後半では、ドイツの東西分断、ベルリン空輸、米ソ対決が扱われ、ここまで見てくると、歴史の流れが教科書的な事項の並びでなく、時代のうねりとして伝わってくる。編集がうまく行われているため、戦後ヨーロッパ史を俯瞰するのに適した素材になっていて、完成度も高い。アメリカの進駐軍が、「敵=ドイツ人」(「ドイツ人に気を許すな」というキャッチフレーズがあったらしい)という構図から「敵=ソ連」という構図に変わっていく様子もよくわかる。
 映像については取り立てて珍しいものはないが、ほとんどの映像がカラー化されていて、その点だけでも貴重である。歴史の実像に触れられるような構成で、よくできた歴史ドキュメンタリーになっていた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ドイツ零年(映画)』
竹林軒出張所『戦後ゼロ年 東京ブラックホール(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-02-27 06:54 | ドキュメンタリー

『ロシア革命 100年後の真実』(ドキュメンタリー)

ロシア革命 100年後の真実(2017年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

ロシア革命の実像が少しだけ明らかに

b0189364_20184136.jpg ロシア革命100周年ということで、ロシア革命を見直そうという機運がロシア国内でもあるらしい。ロシア国内では、ロシア革命について否定的な意見も見られるらしいが、ほぼ半数はその意義を評価しているという。こういったナショナリズムには少々不気味さも感じるところ。なんせソビエトおよびロシアはかつて世界中を侵略してまわり国内でも大勢の人々を死に追いやった大国である。そこでロシア革命の実態、つまり本当のところを、数人の研究者の研究を基にして、もう一度振り返って見ようという企画がこのドキュメンタリーである。
 このドキュメンタリーで明かされるのは、1) ロシアの敵国(日露戦争時は日本、第一次対戦時はドイツ)がレーニンらの反体制派に対して資金援助しており、そのことがロシア革命の成功に大きく寄与していた点、2) 10月革命後、民主選挙で選ばれた議会をレーニンが突然閉鎖し、政治の実権を強奪した点、3) 革命直後、農民に土地を解放したは良いが農産物を強制徴集したために農村の反乱が多発した点、4) 同時にそれを平定するために毒ガスなどの兵器が使用された点、5) レーニンの非計画性のためにロシア革命を通じ多数の犠牲者が出た点など。どの事実についても今まであまり明らかになっていなかった(あるいはあまり知らされていなかった)ため、非常に新鮮な印象を受ける。少なくとも、現在ロシア国内で見られるような、ロシア革命を手放しで称賛するような風潮は、決して褒められたものではない。実際、ロシアの研究者もこの番組の中で、こういった悪しきナショナリズムの危険性を指摘していた。
 もちろん、ロシア革命を客観的に見直すという作業はまだ緒についたばかりのようで、今後もっと新しい事実が明らかになる可能性は高い。そのためにはロシア国内の政治の安定と民主的な運営が前提として必要になるが、その辺については今後どう転ぶかわからない。いずれにしろ、今の時点でも解明は少しずつ進んでいるようである。期待したいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ラフマニノフ ある愛の調べ(映画)』

by chikurinken | 2018-02-25 07:21 | ドキュメンタリー

『映像の世紀プレミアム 第8集』(ドキュメンタリー)

映像の世紀プレミアム 第8集 アメリカ 自由の国の秘密と嘘
(2018年・NHK)
NHK-BS1 NHK-BSプレミアム

ハーストとフーバーが目玉

b0189364_18474108.jpg 『映像の世紀プレミアム』第8集は、アメリカの暗部を中心にまとめる。この『プレミアム』もいつまで続くかと思っているうちに第8回まで来た。自由の国アメリカの歴史が決して褒められたもんじゃないという、ちょっとシニカルなテーマである。
 登場する映像は、新聞王ハーストに始まり、ハーストと手を結んだF.ルーズベルト、長年に渡ってFBIに君臨したフーバー、ケネディの暗殺、ベトナム戦争の欺瞞、ニクソンのウォーターゲート事件などである。フェイクニュースの元祖、新聞王ハーストや、歴代大統領をことごとく脅していたというフーバーの話を聞くと、ニクソンさえまともに見えて、むしろ潔ささえ感じるんで不思議である。ハーストについては世論を煽って米西戦争を起こしたとか、その悪辣さは現大統領を思わせるほどである。ハーストについては、オーソン・ウェルズが『市民ケーン』で痛烈に皮肉ったが、それについても触れられている。
 ケネディの暗殺やベトナム戦争、ウォーターゲート事件については、テーマ自体がよく取り上げられるもので、ややありきたりの感がある。したがって、ハーストの周辺、それからフーバーが今回の番組の目玉と言えるか。見せ方も非常にうまく、1時間半まったく飽きずに接することができるドキュメンタリーだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第7集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『コールド・ケース "JFK"(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-02-23 07:46 | ドキュメンタリー

『ボヴァリー夫人』(映画)

ボヴァリー夫人(1991年・仏)
監督:クロード・シャブロル
原作:ギュスターヴ・フローベール
脚本:クロード・シャブロル
撮影:ジャン・ラビエ
出演:イザベル・ユペール、ジャン=フランソワ・バルメ、クリストフ・マラヴォワ、トマ・シャブロル

仏文学史上最大のバカ女

b0189364_19074634.jpg 『ボヴァリー夫人』といえば有名なフランス文学で、タイトルについてはあちこちで聞くが、読んでいないため内容を知らないという「ちょっと恥ずかしい」状態が長い間続いていた。そこで意を決して、原作に忠実と言われている映画を見ることにした。本当は原作に当たるのが一番良いんだろうが、映像だと当時の風俗などが一目でわかるので、原作に忠実な映画があればぜひそちらを見てみたい、というのが僕の考え方なのである。
 この映画は、Amazonの批評を読む限り「もっとも原作に忠実」ということらしいので、ボヴァリー代表としてこの作品を選んだ。確かにストーリーについては原作に忠実に作られているようで、そういう点では満足感が高い。ただし原作のテイストがこういったものなのかどうかはわからない。この映画では主人公のエマ・ボヴァリーは相当なバカ女で、もちろんそういった愚かな部分は誰にでもあり、そういう人間の愚かさ(特に女性的な部分)を集めた人物像としてフローベールが描いたとも考えられるが、本当のところはやはり原作を読まなければわからないということになる。ともあれ僕は、この史上最大とも言えるバカ女に興味を持ったのは確かで、周辺のいろんな人間を彼女に投影しながら見ていたのであった。最低限、自分をボヴァリー夫人に投影しないで済むような人生を送らなければなるまいとは思う。
 このボヴァリー夫人、どういう話かというと、比較的裕福な医者と結婚したエマが、現状に飽き足らず、婚外恋愛する上、洋服やなんかに散財して身を滅ぼすという、今の時代結構良くある話である。ただディテールが細かく描かれているため、ありきたりとか陳腐というような印象はまったくない。前半はかなり退屈したが、後半は「バカな女だ」と思いつつも彼女の人生をしっかり最後まで見届けることができた。原作では、その後の夫、ボヴァリーの生涯も描かれるようで、この夫の方にも問題があるような描写になっているようだ。映画ではナレーションで軽く触れられているだけで、特に夫側の問題点は感じられない。主役のイザベル・ユペールが原作の「エマ」と比べると少々年を取り過ぎているようだが、そのあたりもあまり気にならない。要はうまくまとめられた作品ということで、『ボヴァリー夫人』の映像化作品としてはベストの部類に入るんじゃないかと思う(他の作品は見ていないが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』
竹林軒出張所『レ・ミゼラブル (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『ゴリオ爺さん(映画)』
竹林軒出張所『赤と黒(映画)』
竹林軒出張所『レディ・チャタレー(映画)』

by chikurinken | 2018-02-21 07:07 | 映画

『いそしぎ』(映画)

いそしぎ(1965年・米)
監督:ヴィンセント・ミネリ
原作:マーティン・ランソホフ
脚本:ダルトン・トランボ、マイケル・ウィルソン
出演:エリザベス・テイラー、リチャード・バートン、エヴァ・マリー・セイント、チャールズ・ブロンソン、モーガン・メイソン

熱い熱い不倫メロドラマ

b0189364_20402695.jpg テーマ曲「The Shadow of Your Smile」がやけに有名な映画。ただし僕自身は内容について一切知らず、キャストすらまったくの未知だった。たまたま以前録画していたものを、録画以来数年ぶりに今回見てみたというもの。
 牧師であり私立学校の校長である既婚者の主人公、エドワード(リチャード・バートン)が、素朴な自然志向を持つワイルドな美女、ローラ(エリザベス・テイラー)と恋に落ち、あれやこれやするという、割合ありきたりの不倫もの。ストーリーはありきたりだが、ただ一つ違っていたのは、主役の2人、リチャード・バートンとエリザベス・テイラーが、この映画のちょっと前に同じように不倫関係になりその後結婚していたということなのだ。実生活をそのまま映画に移植したという見方も可能で、よくこんな映画作ったなという代物である。適役と言えばまさに適役ではある。
 監督はライザ・ミネリの父にしてジュディ・ガーランドの夫、ヴィンセント・ミネリ。脚本は『ローマの休日』のダルトン・トランボ。チャールズ・ブロンソンが芸術家として脇役で出ているのが新鮮っちゃあ新鮮。映画自体は、あまり特筆するようなこともなく、熱い熱いメロドラマで終始する。
 なおタイトルになっている「いそしぎ」とは(僕もずっと疑問だったんだが)海辺に住む鳥のことで、漢字で書くと磯鴫ということになる。磯に棲息するシギである。ストーリーの中で重要なモチーフとして使われており、登場人物とシンクロしていくところからタイトルとして用いられたんだろう。凝ったタイトルとも言える。
★★★

参考:
竹林軒出張所『クレオパトラ(映画)』
竹林軒出張所『熱いトタン屋根の猫(映画)』

by chikurinken | 2018-02-19 07:40 | 映画

『花園の迷宮』(映画)

花園の迷宮(1988年・東映)
監督:伊藤俊也
原作:山崎洋子
脚本:松田寛夫
撮影:木村大作
美術:西岡善信
音楽:池辺晋一郎
出演:島田陽子、工藤夕貴、野村真美、黒木瞳、名高達郎、内田裕也、江波杏子、中尾彬、寺田農

カメラはよく動き
島田陽子は体を張る


b0189364_20114249.jpg この映画が撮影された1987年、僕自身バイトで東映京都によく出入りしていて、その関係でこの映画の冒頭部分のシーンの撮影に1日だけ関わることになった(言うまでもないがこの映画は東映京都で撮影されている)。どういうシーンかというと、主演の島田陽子が、今は廃墟となった遊郭に現れ、吹き抜けの3階からエレベーターで1階に降りる間に、廃墟だったはずの遊郭がかつての華やかなりし姿に変わり、繁栄時の情景になるという長回しのシーンである。最初は1階部分に解体業者が見えたりするんだが(3階からの遠景)、1階に主人公が降りたときは男女が同じ1階フロアでダンスを繰り広げているという具合で、彼女が移動する間に時間を遡るというなかなか凝りまくったカットである。このカット、一切中断することなく5分以上続き、しかもそのまま、この映画の鍵になる登場人物たち(工藤夕貴、野村真美、黒木瞳、名高達郎ら)が現れ紹介されていくという、密度の高い映像になる。途中でNGを出したら、それこそこの長回しを何度も繰り返さなければならないという、キャスト、スタッフにとってはかなり荷が重いシーンである。
 このシーンの撮影の日、現場には、この短い間に背景を転換させるため、バイトが午前中から30〜40人ほど入れられていた。僕もその中の一人で、廃墟からゴージャスな遊郭への転換を人海戦術で行っていくという算段である。今だとCGを使って簡単にできたりするんだろうが、当時はすべて手作業である。学生バイトが、それぞれの担当区画に(カメラに映らないように)陣取って、監督の合図にあわせて背景を転換させていくという流れになる。この練習を何度か重ねた後、俳優を交えてのリハーサル、本番という具合に進んでいったように記憶している。で、やはりそれなりに時間がかかり、何度も取り直しを繰り返して、結局終わったのは夜の11時頃だった。映画というのはテレビの撮影と違ってさすがに手間をかけるものよと感心したのだった。それに何より、スタッフたちが実に楽しそうに仕事をしており、現場の士気が非常に高かったのが印象的だった。イヤー映画って本当に良いもんですねと感じたものである。
 さて、その冒頭シーン。一体どういうものができあがったのかわからないまま、これまでこの映画をずっと見そびれていた。そしてとうとう、万を持しての鑑賞ということにあいなったのだった、今回。30年ぶりである。
 映画作品として見てみると、このシーン、かなりインパクトがある導入シーンである。この冒頭シーンも(島田陽子を追って)カメラがよく動いていたが、他にも部屋を結ぶ導管の中をカメラが動くというようなシーンがあり、総じて撮影がかなり凝っていると感じる。また、遊郭内部の美術も非常によくできていて、セットの完成度も高い。シナリオも、ストーリー展開の上からは過不足なく、ストーリーを追うには十分である。こういったミステリー作品は、ともするとどういう風に進行しているのかがわからなくなったり、あるいはあまりに単純過ぎたりするきらいがあるが、そういう点では申し分ない。
 また俳優、特に島田陽子の演技がすごく、バケツで水をぶっかけられるわ頭を浴槽に浸けられるわ蹴られるわ殴られるわ(本当には殴られていないと思うが)で、顔もいびつに歪んだり、あるいは恐ろしげな声で叫んだりする。当時の島田陽子の清純なイメージが完全に覆されるような体当たり演技である。よくこんな仕事を引き受けたなという類のかなりの肉体派の役どころと言える。僕は最初のシーンの撮影時、島田陽子のすぐ横に控えていて、例によって清純なイメージのままの島田陽子だったんで、こんな映画であるとはつゆ知らなかった。今回見て、女優の凄みみたいなものを彼女に感じた。まったく恐れ入った。さすが国際派女優である。
 このように結構見所が多い作品なんだが、どうも竈焚き(内田裕也)の心情の変化がうまく描かれておらず(この映画の中で非常に重要な要素である)、そういう点で、終わった後に結構頭の中にクエスチョンマークが飛びかった。最後の方の収束方法も何となくうまく収めているように思えるが、やはり少し矛盾が残る。また時代背景も太平洋戦争中の横浜に変わっている(原作は戦後ということだ)が、そのあたりも冒頭のシーンと非常に折り合いが悪くなっていて、何だか整合性がない。終わってからよくよく考えてみると、あちこちがストーリー的に結構破綻しているという印象が残る。
 全体的に非常によくできた映画であるため、その辺を何とかうまくまとめ上げたら、グレードがさらに上がっていたのではないかと感じるような、そういう類の惜しい作品である。ただし、深く考えずに普通に見れば、目を留めるようなシーンも多く、十分楽しめる作品ではないかと思う。何より冒頭シーンだけでも楽しめるような気がする。ちなみに僕は、このシーンだけでも4、5回見た。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『利休(映画)』
竹林軒出張所『劔岳 点の記(映画)』

by chikurinken | 2018-02-17 07:11 | 映画

『江戸の瓦版』(本)

江戸の瓦版 庶民を熱狂させたメディアの正体
森田健司著
歴史新書y

江戸文化の奥深さを知る

b0189364_18344931.jpg 江戸時代の瓦版を紹介する本。
 瓦版は、時代劇なんかで見ると、現代の新聞の号外と同じようなノリで配られているが、実際には瓦版自体が幕府から禁止されていたため、売り手は顔を隠してこっそりと売っていたというのが真相らしい。一方で口上みたいなものを交えながら(派手に)売ったという記述もあり、要は当局側が見て見ぬふりをしていたということになる。ただしその内容が幕政批判および心中ものになると、当局の態度が一変し、すぐに取り締まりの対象になったというから面白い。今の中国社会みたいである。
 この本では、瓦版の内容も詳細に紹介されており、特に仇討ちと地震情報の瓦版にスポットを当てている。庶民の間で非常に人気があったのが仇討ちの瓦版で、中でも「女性による仇討ち」が人気を博したという。一方で質の悪い瓦版も多く、中には別の瓦版をパクって質を落としたバッタもんまであって、バリエーションは豊富である。きわめて質の高いものまであるらしい。地震情報については、被災速報や復旧情報などがいち早く瓦版で報道されたということで、しかもこちらは他の一般の瓦版と違って、情報がかなり正確でニュースとしての価値が高いと来ている。
 また幕末のペリー来航に関わる瓦版も多数紹介されていて、こちらも非常に興味深い。特に庶民(というか瓦版)の当時の世界情勢に対する見方が鋭く(早い話が現代の我々の認識とあまり変わらない)感心する。一方でこの本の著者の歴史認識についてはやや甘さが見受けられたりするが、まあそれはご愛敬の範囲である。
 この本から歴史を読み取るというような本格的なアプローチではなく、江戸文化を覗く一種の博物誌としてこの本に当たれば非常に有用なのではないかと思う。読みやすいし内容も面白いので江戸風俗に興味がある人にはお勧めである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『大江戸庶民いろいろ事情(本)』
竹林軒出張所『江戸時代はエコ時代(本)』
竹林軒出張所『実見 江戸の暮らし(本)』
竹林軒出張所『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法(本)』

by chikurinken | 2018-02-15 07:34 |

『FAKEな平成史』(本)

FAKEな平成史
森達也著
KADOKAWA

素晴らしい本ではないが
相当エキサイティングな議論である


b0189364_22364437.jpg まもなく終わる平成という時代をあらためて俯瞰してみようという企画の本。映像作家の森達也が自身の作品(『放送禁止歌』、『A』、『FAKE』など)をテーマにして、関係ありそうな人と対話することで、時代背景を掘り下げていく。
 元々は『本の旅人』という雑誌の連載だそうで、そのためか少々安直な企画という雰囲気がなきにしもあらず。ただし全体を通奏低音のように流れるものの見方みたいなものが随所に垣間見えて、非常に興味深い。タイトルにつられて平成史として読むと拍子抜けするかも知れないが、しかし、森独特のものの見方によって照らし出される社会背景が、平成日本の社会をよく反映しているとも感じる。
 著者が主張しているのは、日本人があらゆる物事に過剰に「忖度」するため、ありもしない規制で自らを縛ったり、自身の考え方や行動まで制限したりしているということで、十分納得できる議論である。オウムの事件についても、犯罪に関わったメンバーが(麻原までもが)場の雰囲気を忖度した、つまり空気を読んで行動したため、組織としてのコンセンサスが、通常では起こり得ないところまでずれていってしまったという解釈であり、非常に斬新と言える。もっともどのような集団でもそういった逸脱は起こり得ることは容易にわかる。だから決して目新しい議論ではないんだろうが、こうしてことばで表現してもらえると「目からウロコ」になる。そういう点でいろいろな発見があった本である。
 第2章「差別するぼくらニッポン人」(『ミゼットプロレス伝説』(森がかつて作ったドキュメンタリー)を題材にして差別意識を掘り下げる)、第3章「自粛と萎縮に抗って」(『天皇ドキュメンタリー』(森の未放送作品)を題材にして皇室報道に対する忖度を扱う)、第4章「組織は圧倒的に間違える」(『A』、『A2』を題材にして組織がメンバーの忖度で暴走することについて考察)あたりが一番面白い部分だった。とは言っても、全体的にダラダラした印象があり、雑誌的な「何となく」作っているような雰囲気は全編に漂う。森達也の面白さや魅力がよく発揮されていて面白い(つまり通奏低音の部分が面白い)が、本としては少々だらしないイメージが最後まで漂う。面白い人と会話してしばらく経った後みたいな読後感と言ったら良いかな。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『FAKE(映画)』
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『A2(映画)』
竹林軒出張所『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔(本)』
竹林軒出張所『アは「愛国」のア(本)』
竹林軒出張所『死刑(本)』

by chikurinken | 2018-02-14 22:36 |

『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(本)

行動経済学まんが ヘンテコノミクス
佐藤雅彦、菅俊一、高橋秀明著
マガジンハウス

行動経済学の事例集、だが玉石混交

b0189364_20294405.jpg 行動経済学の事例をマンガにしてわかりやすく読者に提示しようという試みの本。著者は、『ピタゴラスイッチ』でお馴染みの佐藤雅彦、およびその弟子の菅俊一。作画は、「バザールでござーる」の広告に関わった高橋秀明が担当。絵自体は50年以上前のギャグ・マンガを思わせるようなクラシカルなもの。
 内容はアンカリングとかハロー効果とか、あるいは認知的不協和の解消まで入っていて盛りだくさん。これを23話の短編マンガにまとめている。
 『サザエさん』的なほのぼの世界を使った事例集であるため、読みやすくわかりやすいが、第21話の「無料の威力」の話とか第23話の「双曲割引」の話など、事例があまり適切でないものもちらほらある。こういった「失敗例」については、事例が適切でないばかりか、面白味もない。そのため、行動経済学に興味を引こうという目的に叶っておらず、むしろマイナスになっているような気さえする。意図や目的は素晴らしいし十分評価に値するんだが、必ずしもその意図が実現されているとは限らない点が残念である。ただ第1話の「アンダーマイニング効果」や第2話の「感応度逓減性」など非常によくできた箇所もある。どうやら後になるほど質が落ちているようで、もしかしたらネタ切れだったのかも知れない。
 あまりインパクトはないし、内容的にも全面的に賛成ではないが、行動経済学への入口としては良いかも知れない。ただ先ほども言ったように行動経済学の魅力を低減させるような内容も含まれているため注意が必要ではある。
★★★

参考:
竹林軒出張所『予想どおりに不合理 増補版(本)』
竹林軒出張所『不合理だからうまくいく(本)』
竹林軒出張所『(不) 正直な私たち』(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』

by chikurinken | 2018-02-13 07:29 |

『プーチンが恐れた男』(ドキュメンタリー)

プーチンが恐れた男(2015年・スイスp.s. 72 productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

本当にプーチンが恐れる存在になるか

b0189364_19235559.jpg 日本語タイトルは「プーチンが恐れた男」というタイトルになっているが、別にプーチンが恐れたわけではない。現に原題は「Citizen Khodorkovsky(市民ホドルコフスキー)」である。ホドルコフスキーとは、このドキュメンタリーの主人公。ソ連が崩壊してロシア経済が乱れていた頃、ロシアの資源である石油に目をつけ大儲けした男である。青年実業家として有名になったが、脱税などの罪によりプーチン政権に告発、逮捕され、10年もの間、シベリアの刑務所に収監されていた。脱税については、本当にやったかどうかわからないが、彼の存在がプーチンの気に障ったのは確かだろう。プーチンのお気に入りだったらどんな悪辣なことをやっても逮捕されないのが今のロシアという国である。
 収監された後いつ娑婆に戻れるかは不確実だったが、ソチ五輪による恩赦が出て、数年前に解放された。そのままドイツ経由でスイスに逃れ、現在はスイスで生活している。いずれはプーチンに復讐を遂げようと考えているかどうかはわからないが、政治に対する野心はあるようなないような。比較的民主的な指向を持っている人のようなのでこの人が大統領になればプーチンよりはるかにマシなようには見えるが、政敵になるとプーチンに消されかねない。ロシアの政治は恐ろしい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-02-11 07:23 | ドキュメンタリー