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竹林軒出張所

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『メルトダウン 原子炉"冷却"の死角』(ドキュメンタリー)

b0189364_8373740.jpgメルトダウン 原子炉"冷却"の死角
(2013年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

あの事故の検証、第3弾

 NHKスペシャルのシリーズ「メルトダウン」の第3弾。第1弾は『メルトダウン 〜福島第一原発 あのとき何が〜』、第2弾は『メルトダウン 連鎖の真相』で、それぞれ福島第一原発1号機と2号機の事故後の注水の問題について扱っていた。第3弾は、第1弾と重複する部分が約半分(前半)で、後半が新しい部分。
 前半は、第1弾同様、1号機の非常用復水器(イソコン)が動作していなかったことを再現ドラマを交えながら示していく。もっとも、原子炉格納容器の水位が地震後急速に下がったことを考えると、配管系統の破断がどこかであってそこから格納容器内部の水が大量に漏れ出していると考えるのが筋のような気がする。それを考えるとイソコンが動作していても焼け石に水だった可能性は否定できない。ただ、大変危険な物を扱う原子力施設でありながら、非常時のシミュレーションがほとんど行われていなかったことは事実で、それを追求した点は評価に値する。
 今回新しく追加されたのは後半部分で、こちらは3号機の注水の問題である。3号機は、非常用バッテリーが動作していたため、しばらくは冷温停止状態が保たれていたが、やがてバッテリーが切れるとこちらも空だき状態になる。そこで、消防ポンプを使い配管経由で原子炉に注水しようという計画が進められていく。実際に行動に移されるが、結果は芳しくなく、3号機の格納容器が水で満たされることはなく、結局メルトダウンにつながった。これについて検証したのが今回の番組で、格納容器につながる配管に途中、他の箇所(復水器)への分岐があり、そちらに水が流れた可能性があることが指摘された。これは実験でも検証されており、その可能性は大きいと言える。そして、その分岐を確認しないまま作業を行った原因について、それまでこの手の訓練、シミュレーションを一切行っていなかったことを挙げている。つまり原子力産業自体、そういった緊急時対応の取組をほとんど行っていなかったことが示される。しかもこの注水の問題が、事故調査委員会の記録にも残っていない、結果的に他の原子力施設でこの失敗を教訓にする機会を奪っているというのだ。こういうことをすべて考え合わせると、日本の原子力産業のご都合主義的な側面がよく見えてきて、事故が起こっても何らその体質は変わらないということがよくわかる。こういう事実をあらためて指摘したという意味では、なかなか意欲的なドキュメンタリーだったと言える。焼き直しが多かったのは玉に瑕だが。こういった番組作りが、愚かしい政治屋たちに横やりを入れられたりしないよう切に願う。
★★★☆

参考:竹林軒出張所『メルトダウン 連鎖の真相(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-03-16 08:38 | ドキュメンタリー

『巨人ゴーレム』(映画)

巨人ゴーレム(1920年・独)
監督:パウル・ヴェゲナー、カール・ボエゼ
脚本:パウル・ヴェゲナー、ヘンリック・ガレーン
出演:パウル・ヴェゲナー、アルベルト・スタインリュック、エルンスト・ドイッチュ

ゴーレム役者は監督自身だった

b0189364_9352865.jpg ユダヤのゴーレム伝説を基にしたサイレント映画。
 ユダヤ人に危機が迫ることを察知した司祭が、古文書の記述に従って土人形を作り、そこに魂を吹き込んで人造人間、ゴーレムをこしらえるところから話が始まる。当初は創り主に従って従順に仕事をしていたが、やがて暴走を始めて手に負えなくなるという展開で、このあたりはこういった話の定番である。こういう展開の映画を見ていると、例によってテクノロジーの暴走とか原子力とかが連想されるが、この映画については実に意外な方法で収束してしまう。
 ゴーレムだが、途中暴走はするが、序盤は薪割りやお使いをさせられたりして、ユーモラスで可愛いところがある。でも人造人間にとりあえず家事をさせるというのは、いかにもヨーロッパ的な「ユートピア」指向だと感じた。
 この映画が作られたのが映画創生期だけに、全体的に絵作りが演劇的ではあるが、映画的な特撮が駆使されていて興味深い。前に見たムルナウの『ファウスト』(竹林軒出張所『ファウスト(映画)』参照)でも特撮に感心したが、当時の観客からは映画的なマジックが期待されていたのかしらんと思ったりもする。
 ただし相当古い映画であるためか、(僕の見たDVDでは)フィルムの状態はあまり良くなく、画面が暗くて見えにくい。もっとも20年以上前にドイツ文化センターで見たときはあまり気にならなかったので、もっときれいな状態のフィルムも残っているのかも知れない。ちなみに当時これと併映だった映画は『吸血鬼ノスフェラトゥ』(竹林軒出張所『吸血鬼ノスフェラトゥ(映画)』参照)。今思うと怪奇映画特集という主旨だったんだろうか。
★★★

参考:
竹林軒出張所『吸血鬼ノスフェラトゥ(映画)』
竹林軒出張所『ファウスト(映画)』

by chikurinken | 2013-03-15 09:36 | 映画

『円高の正体』(本)

円高の正体
安達誠司著
光文社新書

真実は意外に単純……なのか
超単純な経済モデルで円高を斬る!


b0189364_8164037.jpg 円高とデフレの原因と正体について究明する本。
 為替取引の初歩の初歩から説き起こし、円高がなぜ起こるか、そしてなぜ現在の日本のようなデフレ状況が続くかについて解説していく。内容は、経済であるだけに元々わかりにくい事項が多いが、記述は非常に平易でわかりやすい。円高や円安とは何かから始まり、為替取引、そして量的緩和、マネタリーベースなどの経済用語を交えながら、円高の正体、デフレの正体を明かし、政府が今後どのような経済政策を取るべきかの提言まで行っている。序盤はあまりに初歩的な説明で、たとえば円高になると輸入品が安くなり輸出品が高くなるなどといったレベルの話で、読むのもバカバカしく感じるが、最終的には結構高度なレベルまで進んでいく。しかもそれがごく自然に流れていく。だから経済の本でありながら、読むのに難儀することもない。
 著者の主張は、今の日本にとって円高は容認できない状態であるということ。つまり円高の結果ものを海外に売ることが難しくなるため、もの作りで経済を支えている日本のような国にとって通貨が高くなることはデメリットの方が大きいということである。で、円高を是正する手段が必要になるわけだが、そもそもの円高ドル安の原因については、日本とアメリカのマネタリーベース(中央銀行が供給するお金、つまりは国内の通貨の総量)の差のせいということで、日本のマネタリーベースがアメリカと比べて少なくなると、円高ドル安になるという。つまり、この円高状況を是正して、国内の経済状態を好転させるには、マネタリーベースを増やすこと、つまり普通銀行が保有する国債を日銀が大量に買い入れ、国内に通貨を多く供給することが必要で、要するにこれが量的緩和策ということなんである。著者の試算によると、28兆円分マネタリーベースを増やせば1ドル95円水準になり、78兆円分増やせば1ドル115円水準になるという。あまりに話が単純化されているので、ホンマかいなとも思うが、この説明も突飛な感じはまったくなく、わかりやすい裏付けもあり、それについても詳細に解説されているのだ。ただ、からくりが非常に単純で、本当にこんなに単純に割り切ってしまって良いものなのか、経済の門外漢である僕はちょっと疑問に思ったりもする。
 ただこの本の初版が2012年1月ということで、つまりは円高まっただ中のときだったということに注意が必要である。昨年夏頃から円安基調になり、その後政府が日銀に量的緩和を迫り、それが呼び水となってインフレ予想が生じた結果、円安が進んだのはご存知の通り。つまりこの本で書かれていることが、実際に進行しているようにも思えるのだ。とすると、たとえ単純な経済モデルであっても、それなりの信憑性があると考えるのが筋ってもんだ。「真実は意外に単純」というこは世の常だと思っているが、経済も御多聞に漏れず意外に単純なのかも知れない。100%は信用できないにしても、いろいろ感じるところのある本であったのは確かである。今後の経済情勢を見極めた上で、本書の内容の最終的な評価を下すべきなんだと思う。とは言え、今の日本の経済状況についてかなり理解することができるのは確かで、そういう意味でパースペクティブ本(あるものごとに対して一定の見方、パースペクティブを与える本)といっても差し支えない。
★★★★

参考:竹林軒『明快な本』
by chikurinken | 2013-03-13 08:17 |

そうだっ、別れの歌を聴こう!

 卒業の季節ですな。卒業といえば思い出す歌がいろいろあるもので、それぞれの世代で思い出す歌は違うんでしょうが、僕なんかは世代的に沢田聖子とか斉藤由貴とかになるわけです。
b0189364_826417.jpg 卒業式で歌う歌なんかも世代ごとに違っているみたいで、僕の時代は小学校では「別れの歌」、中学校では「巣立ちの歌」を歌いました。在校生として卒業式に出たときは、どちらもかっこいい歌だなと思いながら聞いていたものですが、あの「呼びかけ」ってやつは子ども心に一体何なんだと思ったものです。気恥ずかしいったらありゃしない。なんでもいまだにやっているようで、ああ言うのが好きな人が多いんでしょうか、僕にはもう一つ理解できないところです。卒業式ももう少しさらりとやってのけたら良さそうなものなのにと思うんですがね。それに、バカバカしいとは思いつつも「呼びかけ」の内容を40年近く経った今でも結構憶えているってんだから始末に悪いじゃありませんか。ちなみに僕の小学校ではこんな感じでした。

ある生徒:そうだっ、六カ年の思い出と感謝を胸に別れの歌を歌おう!
(「別れの歌」のピアノのイントロが入る)
全員の合唱:「たぁ〜のぉ〜しく、すぅ〜ぎぃ〜た、ろぉくね〜んのぉ〜……」

 「そうだっ」なんて白々しすぎるぞっ。
 まあ「呼びかけ」はともかく「別れの歌」の方は懐かしくて、ちょっと聞いてみたいものであることよなあと思っていたんですが、CDなんかも当然のように出ていなくて残念至極な日々を送っていたわけですね。ところがそこはネット社会、よくしたもので、案の定見つかりました、YouTubeに。しかも初音ミクが歌ってる!(というより「歌わせてる」……)
YouTube『【別れの歌】〜(昔の)卒業式の歌を〜 【初音ミク】』

 それから、中学の卒業式で歌った「巣立ちの歌」もありました。
YouTube『巣立ちの歌』

 「巣立ちの歌」の歌詞はこんな感じ。

巣立ちの歌

作詞:村野四郎
作曲:岩河三郎

b0189364_8262435.jpg花の色 雲の影
懐かしい あの想い出
過ぎし日の 窓に残して
巣立ちゆく 今日の別れ
いざさらば さらば先生
いざさらば さらば友よ
美しい 明日の日のため

風の日も 雨の日も
励みきし 学びの庭
かの教え 胸に抱きて
巣立ちゆく 今日の別れ
いざさらば さらば先生
いざさらば さらば友よ
輝かしい 明日の日のため

 初めて気が付いたけど五七調だったんですね。お見事。
 なおこちらの歌はCDで聞くこともできます。『あの日教室で歌った 思い出の合唱曲』ってのがそれで、このCD、他にも懐かしい合唱曲が満載です。文化祭で歌った「モルダウの流れ」と「気球にのってどこまでも」が個人的には懐かしさ充填100%ですね。一番うれしいのはシューマンの「流浪の民」が日本語版で入っていたことで、この日本語版「流浪の民」、意外なことにクラシックのCDにもあまり見つからないんですね。そういうわけで僕としては久々のヒットCDでした(「巣立ちの歌」については他のCDもあります)。
by chikurinken | 2013-03-12 08:28 | 音楽

『チャップリン自伝 ― 若き日々』(本)

b0189364_2211167.jpgチャップリン自伝 ― 若き日々
チャールズ・チャップリン著、中野好夫訳
新潮文庫

見本のような自伝
当時の英国下層社会も窺える


 喜劇王、チャールズ・チャップリンの自伝。貧困の中で育ち、さまざまな職を経て、やがて舞台の喜劇役者として頭角を現し、ついには映画でヒットを飛ばすまでを描く。ちなみに読むのは今回2回目。
 当然ながら一種のサクセス・ストーリーであるが、成功する前の貧困の度合いが超弩級で、19世紀末のイギリスの社会情勢もよくわかる。どん底からなんとか這い上がろうとする姿もエキサイティングである。また「一夜明けたら有名になっていた」というようなエピソードも本書の終わりの方に載っていて、これも面白い。1910年前後の映画黎明期の撮影事情も、新参者(つまりチャップリン)の目から描かれていて資料的な価値もある。記述は、とりたてて自分を飾り立てるようなこともなく、割合冷静である。そういう意味でも自伝の見本みたいな本である。
 なお、以前僕が読んだときはこの1冊で完結していたが、その後後半の日本語版が出版された。現在後半を読んでいて、後半の序盤から著名人が大量に出てきて興味深いが、なんせ映画界で成功してからの話であるため前半ほどの波瀾万丈はなさそうである。永らく後半が出なかったのもわかるようなわからないような。前に読んだときは、妙なところで終わっているんでヲイヲイと思ったが、ちゃんとした判断に基づいていたのかも知れない。あるいは翻訳者、中野好夫の仕事が単に遅かったせいかも知れないが。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『チャップリン自伝〈下〉栄光の日々(本)』
竹林軒出張所『モダン・タイムス(映画)』
竹林軒出張所『チャップリンの黄金狂時代(映画)』
竹林軒出張所『キッド(映画)』
竹林軒出張所『ニューヨークの王様(映画)』
竹林軒出張所『街の灯(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『サーカス(映画)』
by chikurinken | 2013-03-11 08:31 |

『中国はなぜ「反日」になったか』(本)

中国はなぜ「反日」になったか
清水美和著
文春新書

中国の外交史から日中関係を冷静に分析する良書

b0189364_22363842.jpg 文藝春秋社による中国の本ということで、当然右寄りのタカ派的論調が繰り広げられるのかと思いきや(もちろんそんな本だったら読まないが)、中国の外交史を非常に冷静に分析した本だった。ちなみに著者は新聞記者の特派員として中国に10年あまり滞在したお方。なお著者の名前は「しみずみわ」ではなく「しみずよしかず」で、つまりは男である。
 中国が現在のように「反日」化したのは実は90年代の終わり頃、つまり江沢民が実権を握ってからだったということで、それ以前は日中関係は割合良かったと著者は主張する。実際僕の記憶でも、中国は80年代「大人の国」という印象で、歴史認識の問題でもめることはなかったと記憶している。そしてそれが元々は、中国の対外関係に由来するもので、ソ連と敵対していた1960年代末から1980年代後半までの時代(実際に軍事衝突もあった)、どうしてもアメリカや日本と敵対することは避けなければならなかったために、指導部も日本に敵対するような政策をとらなかったということである。また、当時のトップ、胡耀邦や趙紫陽が穏健な外交政策を展開していたということもあった。だが胡耀邦が死去し、天安門事件(1989年)が起こって、その後趙紫陽が失脚すると、外交政策が大きく変わることになる。90年代中頃には、台湾海峡での一触即発の事態を経て、アメリカや日本と対立する構造になっていった。ソビエト連邦がなくなりかつてのような緊張関係がなくなったことも、こうした対立構造を助長することになった。また天安門事件への反省から中国政府が「愛国主義教育」を推進したことも反日感情を生みだす要因になったという。
 胡耀邦の後を承けて江沢民が実権を握ると、反日感情が盛り上がる機運が生まれる。それは政府トップの発言にも反映され、中国に「反日」のイメージがつきまとうようになるのもこの頃からである。だがその後、政府当局も過剰な愛国主義が共産党の一党独裁政治に悪影響を及ぼすことを危惧し始め、反日の機運がやや収束したのが本書が出た2003年の状況である。いずれにしても、庶民の諸外国に対する感情には、少数の政治家の意向が色濃く反映しているということなんである。で、2003年以降は、昨年の反日デモでもわかるように、「反日」が政府に対する不満のはけ口となって爆発し、中国側の反日と日本側の嫌中がぶつかり合う現在のような状況になっているわけだ。
 日中関係を中国の外交史の中で捉える見方が斬新で、知的好奇心を大いにそそられた。また良識的かつ客観的な記述にも好感が持てる。今後の日中関係について冷静に考えたい向きにお奨めの本である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (3)(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『総書記 遺された声(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2013-03-09 08:35 |

『古代ギリシャの"コンピューター"』(ドキュメンタリー)

古代ギリシャの"コンピューター" アンティキテラの謎
(2012年・NHK/英Images First他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

超正統派科学ドキュメンタリー

b0189364_22234034.jpg ディスカバリー・チャンネルあたりで放送されそうな科学ドキュメンタリー。
 1901年にギリシャのアンティキテラ島沖の海底で古代ギリシャ時代のものと思われる工芸品が見つかった。石灰石が堆積して本来の姿から大分かけ離れているが、どうやら青銅製の歯車が複雑に組み込まれていたようだ。その正体は長い間不明だったが、1950年代にプライスという科学者がX線写真を利用して、歯車が全部で27個あり(実際には50個以上あったことが後に判明する)、その中の1個の歯車の歯の数が127個あることをつきとめた。そこから127という数字を手がかりに、これは月や太陽などの天体の運行を示す機械ではないかという見方が一気に広がってきた(この数字が、月だか太陽だかの公転だか自転だかに関係しているらしい)。
 そして10年ほど前、世界中のさまざまな分野の学者が集結して、この正体を突き止めようというプロジェクトが始まった。テクノロジーの発展もあいまって、これまで謎だった内部の様子がわかるようになり、ギアの歯の数などからさまざまな推理が行われる。専門家がそれぞれの知識を駆使しながら推理を進めていくが、その後さらに表面に刻印されているギリシャ文字も判読できるようになって、ついにその正体が突き止められることになる。
 結果、当初の予想どおり、これは太陽と月の運行を計算する装置で、月食や日食まで予測できるというものであることが判明したのだった。ギアが複雑に組み合っており、中にはカムを利用したりと、非常に高度なテクノロジーで構築されていることがわかった。今回のプロジェクトに関わったある学者は、これをギリシャ時代の「コンピューター」であると呼んでいたほどで、古代ギリシャ時代の高い学術レベルが証明されることになったという、そういう話のドキュメンタリーである。もっとも僕が見た感じでは「コンピューター」というのはちょっと言い過ぎで、時計の感覚に近いと思う。実際のところ、このギアを組み合わせた巧妙なシステムは、ギリシャからその後アラビア世界に伝わり、近世になるとスペインを経由しヨーロッパに伝わって、その後時計の技術として復活することになったらしい。
 ともかく、過去の遺物から、さまざまなテクノロジーを駆使してその正体を推測していく過程はなかなか面白く、科学ドキュメンタリーとしてよくできた番組だったと思う。
★★★☆
by chikurinken | 2013-03-08 08:22 | ドキュメンタリー

『雲上の超人たち 〜日本アルプス大縦断レース〜』(ドキュメンタリー)

雲上の超人たち 〜日本アルプス大縦断レース〜(2013年・NHK)
NHK-BS1

何も言えねぇ……もう勝手に走ってくれ

b0189364_9302291.jpg 富山湾から駿河湾まで縦断する山岳レース、トランス・ジャパン・アルプス・レースの模様を伝えるドキュメンタリー。昨年NHKスペシャルでも放送された番組(『激走!日本アルプス大縦断』)を100分に再編集したもの。
 このトランス・ジャパン・アルプス・レース、文字通り日本を横断するレースで、富山を出発し、劔岳(いきなり!)に始まって、北アルプス、中央アルプス、南アルプスの山々を縦走して最終的に静岡まで到達する全長415kmのウルトラ・マラソン。全行程8日間で踏破し、途中持参したテントでおのおの勝手に眠るという、過酷にもほどがあるマラソンである。あまりに過酷でしかも相応の登山の知識、経験が問われることから、本レースに先立ってなんと選考会がある。この選考会をパスした28人が2012年の夏、このレースに参加した。
 番組では、各ランナーを追いながら、レースの模様を1本のドキュメンタリーに仕上げているが、やはり特筆すべきはさまざまな映像に迫ったカメラで、何でもこういったレースの経験者数人がカメラマン役を買って出ているらしい。夜間走るランナーもいる上、2日目以降は風雨が強く、カメラマンも参加者に近い条件下で撮影しなければならない。しかもコースの大部分は標高2000m以上の高地である。参加する方も過酷だが、それを追う方も大変だったに違いない。
 雨の中、睡眠時間を削りながら山岳を駆け抜けていくランナーたちだが、途中リタイヤする人が続出し、かれらが選考会を通じて合格してきた人々であることを考えれば、レースの厳しさがわかろうというもの。そういう中で、5日間ちょっとでゴールした消防士が優勝し、その後も参加者達がボロボロになりながら次々にゴールしていく。そして最後にゴールしたのが、チェックポイントの制限時間ぎりぎりで通過していくために「ミスター・ボーダーライン」と呼ばれている人で、見事なペース配分で制限時間30分前にゴールしていった。途中、眠るべきか無理して走り続けるか悩む人がいて、結局無理して走って失敗した人がいたのと対照的で、このミスター・ボーダーラインの冷静さとしたたかさは大したものであった。ちなみに完走者は全部で18人。ある参加者がゴール後、「つらいこともあるがそれを乗り越えると楽しいこともあったりして、人生を凝縮したような7日間だった」と語っていたのが印象的だった。
 僕としては生涯関わり合いになることのないレースだろうが、やはり5日以上睡眠を削りながら走り続けるというのは、競技の性質としてどんなもんだろうかと思う。たとえば、先日やはりNHKで放送されていた「サハラ砂漠マラソン」は毎日コースを区切って(つまりステージを分けて)夜皆同じ場所で睡眠をとるようなシステムにしていたが、こういったステージ制にしたところで過酷さには変わりなく、一方で参加者の安全がある程度確保しやすいというメリットが生じる。このトランス・ジャパンのようにあまりに過酷にしてしまうといずれ死者が出るんじゃないかと余計な心配までしてしまう。特に山岳レースであれば滑落の危険性もある。現にこのレースでもフラフラしながら山道を歩いている参加者もいて、正直、こういうシステムで大丈夫かなと思ったのだった。ま、こんなこと言うこと自体、彼らにとっては余計なお世話で、迷惑なんだろうが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『激走! 富士山一周156キロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人は走るために生まれた(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『激闘!ドロミテ鉄人レース(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死闘!コスタリカ横断850キロ(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-03-06 09:31 | ドキュメンタリー

『核のゴミはどこへ 〜検証・使用済み核燃料〜 』(ドキュメンタリー)

"核のゴミ"はどこへ 〜検証・使用済み核燃料〜(2013年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

いい加減ゴミ問題に向き合いませんか、ねぇ社長

b0189364_904622.jpg 原子力問題を鋭く追求する『NHKスペシャル』。今回のテーマは「核のゴミ」の問題。
 原子力発電所では、ウラン燃料を核反応させて熱を取り出すが、反応がある程度終わると燃料としての機能を果たせなくなって、つまるところゴミになってしまう。この「核のゴミ」、つまり使用済み核燃料は世界中のありとあらゆる原発から発生するわけなんだが、当然のことながらかなりの放射能を含んでいるため、そのままゴミ捨て場へポイというわけにはいかず、要するに現状で処理方法がないため、どこの原発でも溜まりに溜まりまくっている。しかもゴミになってから数年間は熱を出すため、冷却プールに入れて常に温度を管理しなければならないというのだから面倒きわまりない。そのためもあって、この使用済み核燃料、多くの原発で冷却プールに入れたままになっていて、これがどんどん溜まっていくと、当然これ以上入れられない、つまり満杯の状態になるわけで、ただでさえ管理が厄介なものがその管理すらできない状態になるというわけ。日本の原発の場合、冷却プールはどこも満杯に近く、本来であればこれ以上原発を運転することはできないんじゃないかと思うんだが、面倒なことは先延ばしにするのが日本の役人のお家芸、将来的に青森の再処理工場で処分するということにして、使用済み核燃料をどんどん生産しているというのが現状である。
 だが、危険物を原発内の冷却プールで保管するのがいかに危険かは、先頃の福島原発事故で明らかになった。冷却プール内の水がなくなれば熱を持っている使用済み核燃料がやがてメルトダウンし、もうそうなると本当に手が付けられなくなる。福島原発の事故では、ヘリコプターから水を投下したり放水したりといった涙ぐましい努力をしていたが、あれだってイチかバチかに近い方策である。いずれにしてもどこの原発でも、危険な状態は続いているわけで、しかもそれが解消される見込みもあまりないと来ている。
 彼らが頼みにしている青森県六ヶ所村の再処理工場は、いまだ稼動すらしていないし、そもそもここで再処理したところで、単にごくわずかなプルトニウムを取り出すに過ぎないわけで、「核のゴミ」がなくなるわけではない。結局どこかに埋めるなりなんなりしなければならないんで、結局は先延ばし以外のなにものでもないし、しかもこの埋め立て最終処分についてはまったく手がついていないのだ。世界中でこの最終処分場を実際に建設しているのは北欧の2カ国だけで(竹林軒出張所『地下深く永遠に 〜核廃棄物10万年の危険〜(ドキュメンタリー)』参照)、しかも地中深く埋めたところで、それで安全かというとまったくそういうことはない。ちょっとだけヒトの世界から遠ざけたというただそれだけの話だ。とにかくどうしようもないというのが実際の姿である。
 この六ヶ所村の再処理工場にしても、高速増殖炉が機能して初めて意味をなすもので、現実的に高速増殖炉が実現不可能な現状ではまったく意味がない。原発のゴミから新しい資源を取り出し、これを高速増殖炉で燃料として使いながら同時に新しい燃料を生産するといういわゆる「核燃料サイクル」が夢物語であることはすでに多くの人が気付いているにもかかわらず、日本ではいまだに形の上で存続しているが、これについてこの番組では、核燃料サイクルを担当している民間企業、日本原燃株式会社が、みずからの存続のためにロビー活動を続けていることが一因であるとしている。要は、核燃料サイクルが止まったら、日本原燃が銀行から融資を受けられなくなり、現在の負債を処理できなくなるという話らしい。だが、たかだか1企業のためになんでこんな莫大な費用を投じて、危険な実験と環境破壊を続けさせなければならないのか、きちんとした説明はできないだろう。核燃料サイクルはもともと国策として始めているんで、国が責任を持ってこの企業を処理したら済むんじゃないかと思うが。そういうことが正常に進まないのが原子力行政で、都合の悪いことは国民の見えないところで勝手に進められてしまうのが常である。それを考えると、NHKがこういった問題点をあぶり出した点は十分評価に値する。原子力には必ず行政面、政治面の不正が関わるもので、そういう意味でもこういった点を明るみに出したのは斬新で、スクープに近いと思える。
 原発を再稼働させるとかなんとか言う前に、まずはこの核のゴミの問題を考えるべきだとする、きわめてまっとうな主張を全国放送で取り上げたNHK、今回もファインプレーであった。拍手パチパチだ。
★★★★

参考:
六ヶ所再処理工場を扱ったメディア
竹林軒出張所『「最悪」の核施設 六ヶ所再処理工場(本)』
竹林軒出張所『六ヶ所村ラプソディー(映画)』

核燃料サイクルの現状を示したドキュメンタリー
竹林軒出張所『核燃料サイクル 半世紀の軌跡(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『終わらない悪夢 前編、後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『地下深く永遠に 〜核廃棄物10万年の危険〜(ドキュメンタリー)』

原子力問題を扱った主なNHKスペシャル
竹林軒出張所『調査報告 原発マネー(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『原発解体(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『シリーズ原発危機 第1回(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『メルトダウン 連鎖の真相』(ドキュメンタリー)
竹林軒出張所『原発事故 100時間の記録(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-03-05 09:01 | ドキュメンタリー

『ケンちゃんの101回信じてよかった』(本)

b0189364_90978.jpgケンちゃんの101回信じてよかった
宮脇康之著
講談社

元子役の半生……
波瀾万丈にもほどがある!


 40代後半以上の人々なら「ケンちゃん」と言えば「ケーキ屋」や「すし屋」を思い出すくらい、70年代、「ケンちゃん」という名前は全国に浸透していた。当時TBS系列の木曜19:30から放送されていた「ケンちゃん」シリーズは、視聴率が25%以上という人気番組で、「ケンちゃん」は全国の人気者。その「ケンちゃん」を演じていたのが、本書の著者、宮脇康之である。
 この宮脇康之氏、「ケンちゃん」シリーズで全国的に顔と名前が売れるが、その一方、中学時代は壮絶ないじめを受ける。母はステージ・ママとして著者につきっきりになり父ともまもなく離婚、兄は家庭に居場所がなくなりその後自殺未遂までしてしまう。つまりは家庭が崩壊したのだった。当時の「ケンちゃん」は1つの家庭を崩壊させるくらい大きな力を持っていたということになる。
 家庭が崩壊しようが「ケンちゃん」を演じなければならないのはプロの役者として致し方ないところで、結局「ケンちゃん」シリーズを卒業するまで「ケンちゃん」を演じ続けた。その後もテレビ・ドラマに引っ張りだこの状態が続くが、だんだんと芸能関係の仕事が少なくなってくる(三原順子とのスキャンダルが主な原因と著者は言う)。日活ロマンポルノに出演したりするが(森田芳光監督『(本)噂のストリッパー』)、結局仕事の幅を狭める結果になり、最終的には芸能関係の仕事がまったくなくなってしまう。涙ぐましい営業を続けるが、テレビ関係者が掌を返したように冷たくなり、バイトに精を出す日々が始まる。
 一方でなかなか芸能界への未練を断ち切れず、そのためもあっていろいろな詐欺に遭い、借金ばかりがたまっていく(5000万円だと!)。その後も、他人の保証人になって借金を重ねていくような生活を送るが、いろいろな人の助けを受けながら、さまざまな仕事を続けていく。やがて結婚し子供ができた頃から生活を見直すことができ、ビジネスでも成功して借金も完済しそして今に至るという、そういう半生が本書で綴られている。
 考えようによっては悲惨な人生ではあるが、子役時代には大金を稼いでいて随分良い思いもしていたわけで、そうすると人生いくら良いことがあっても最終的にはトントンになるということなんだろうか。「ケンちゃん」の人生も最初は打ち上げ花火のように上がったが、その後どん底で今は普通より上ぐらいの感じである、傍目には。著者本人も過去を悔やんでいるわけではなく、それを乗り越えてきたことに誇りを感じているようで、それがタイトルの「101回信じてよかった」という思いにつながっている。
 子役出身の人達は悲惨な人生を送る人が少なくないようだが、同時代を視聴者として生きた人間としては彼らに一方的な愛着を持っているもので、それなりで良いから幸せな人生を送ってほしいと思う。そうそう、「ケンちゃん」の妹役だった「トコちゃん」こと佐久間まゆみだが、かねてより子ども時代に死んだという噂を聞いていたが、成人後の姿が本書に登場する。「ケンちゃん」と再会したとき(バブルのとき)、なんと銀座のクラブでホステスをやっていたらしく、それは僕にとっては結構な驚きではあるが、一方で死んだという噂がガセだったことになんとなく安堵したのだった。別に身内ではないが、なんかやっぱり親近感があるのだな。それから「チャコちゃん」の四方晴美もお元気らしい、本書によると。ただしこの本は2004年発行だから、その後についてはわからない。なお「トコちゃん」の佐久間まゆみ(佐久間真由美)は「ケンちゃん」シリーズの後も『がんばれ!!ロボコン』や『がんばれ!レッドビッキーズ』に出ていたらしい。全然知らなかった。あの噂はどこから出ていたんだと思うね。
★★★☆
by chikurinken | 2013-03-04 09:01 |