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竹林軒出張所

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カテゴリ:本( 631 )

『酔うと化け物になる父がつらい』(本)

酔うと化け物になる父がつらい
菊池真理子著
秋田書店

ネオリアリズモ風
当世アル中気質


b0189364_18304535.jpg タイトルからわかるように、酒に酔って問題ばかり起こす父を題材にしたマンガ。これもいわゆるエッセイ・マンガというやつ。著者の家族の話である。
 普段はおとなしく優しい父だが、酒を飲むと人が変わる。この父、著者の幼少時から酒でいろいろと問題を起こしてきた。酒に弱いくせに飲みたがるというやつである。そのため、著者は父についてあまり良い思い出がない。あげくに著者が中学生の頃、父について気をもんでいた母が、とうとう自殺してしまう。原因が父であることは火を見るより明らかで、父も母の死後一時的に酒を止めた。ただしそれも1カ月。その後は、以前のようにぐでんぐでんで家に戻って来始める。結果的に、かつては母がやっていた父の面倒を著者と妹が見るようになった。
 そういった父の問題がこれでもかというぐらい描き綴られる。しかも、成人した著者は、父に似た大酒飲みの暴力男と付き合いだし、この男に振り回されるようになる。家では父に、外ではこの男にという具合で、それが何年も続くのである。このあたりは読んでいるこちらが結構参ってくる。言ってみれば、現代のネオリアリズモである。だが、現代社会には、こういう現実が確かに存在するのも確かだ。
 現在著者は、マンガ家としてそれなりに活躍しているということで、かつての悲惨な状況からは抜け出している。もっともあんな悲惨な状況が続いていたら、心に一切余裕がなく、マンガにすることもできなかっただろうと思う。終わりの方で作者の現在の状況が紹介されているために、読者であるこちら側も救われる思いがする。「そんな時代もあったねといつか話せる日がくる」というものだ。若い頃にこういう辛い目に遭った人には、是非ともそれを糧にして幸せに生きてほしいと切に願う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『逃亡日記(本)』
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』
竹林軒出張所『人間仮免中(本)』

by chikurinken | 2018-09-09 07:30 |

『貧乏まんが』(本)

貧乏まんが
山田英生編
ちくま文庫

ややテキトーな感のある選集だが
それなりに楽しめる


b0189364_14120478.jpg 貧乏をネタにしたマンガばかりを集めた短編マンガ集。大きく4部に別れていて、Ⅰが古典的作品(つげ義春、つげ忠男、水木しげる、赤塚不二夫、松本零士、水野英子)、Ⅱがいわゆる「劇画」(辰巳ヨシヒロ、永島慎二、楠勝平、池上遼一、鈴木翁二)、Ⅲがギャグ・マンガ(谷岡ヤスジ、いしいひさいち、業田良家)、Ⅳが近年の作品(鈴木良雄、うらたじゅん、こうの史代)という形式でまとめられている。松本零士の『男おいどん』、鈴木良雄の『フルーツ宅配便』、こうの史代の『長い道』が連載ものであるが、それ以外はすべて単発読み切り作品である。
 同じ貧乏でも初期の頃の貧乏は絵空事みたいな話も多く、何だかまだ希望があるが、近年の作品(つまりⅣ部)については、世相を反映してかかなり暗いリアリズムの作品ばかりである。ただ3本ともどれもなかなかよくできていて読ませる作品である。他は概ね巨匠の類の作家で、今さら取り立ててどうこう言うようなものでもないんだが、松本零士の『男おいどん』は中高生時代愛読した作品で非常に懐かしい。可笑しくももの悲しい雰囲気が独特である。赤塚不二夫はトキワ荘時代の話(『まんが トキワ荘物語』に収録されているものと同じ)、水野英子はオー・ヘンリーの『賢者の贈り物』の翻案である。水木しげるは自虐ネタ風のオリジナル作品で、さすがに筆力がある。劇画作家の皆さんは、どれも凝ったストーリーで非常に意欲的である。「貧乏」が題材にはなっているが現実感があまりないドラマチックな作品で、決して貧乏がテーマになっているというわけではない。それはギャグ・マンガについても当てはまり、ギャグ・マンガ群については、僕にとってあまり見るべきものはなく、構成を面白くするための数合わせのようにさえ思える。無くても(あるいはもっとページが少なくても)良かったように感じる。
 一応貧乏がネタではあるが、「貧乏」というテーマが一貫しているというわけではなく、アンソロジーとしてはもう一つ完成度が低いような気もするが、ただ、広範囲に渡るいろいろな作家の作品を拾って集めているため、楽しめるには楽しめる。要するに、こういうピックアップ方法にあまり必然性はないにしても、それなりに面白い本に仕上がっているのは間違いないということである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『谷崎万華鏡(本)』
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『「ガロ」編集長 私の戦後漫画出版史(本)』
竹林軒出張所『ビビビの貧乏時代(本)』

by chikurinken | 2018-09-08 07:11 |

『夜の帳の中で』(本)

吾妻ひでお作品集成 夜の帳の中で
吾妻ひでお著
チクマ秀版社

個人的には「魚」シリーズに注目

b0189364_19593666.jpg マンガ家、吾妻ひでおの1980年代前半の作品を集めた短編集。吾妻ひでおと言えば、かつてはそれなりに売れていたギャグ・マンガ家だったが、その後失踪、自殺未遂、アルコール依存症などを繰り返し、やがてそのいきさつを描いた『失踪日記』(竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』を参照)で再び脚光を浴び、現在に至るという作家である。非常に素晴らしい才能を持っているにも関わらず、こういう状況に追い込まれたというのが現代日本の出版界の病理を表しているのではないかと思うが、いずれにしても一時的に出版界から抹殺されていたのは事実で、そのために消えてしまった作品も多い。
 この本は『レジェンドアーカイブス』というシリーズの1冊で、このシリーズ、「埋もれてしまった秀作、傑作等を選りすぐる」というコンセプトであり、吾妻ひでお作品はこのシリーズにとって格好の素材とも言える。しかもこの吾妻氏、ロリコン・マンガの元祖とも呼ばれており、現在では青少年保護条例に引っかかりそうな内容の作品もこの作品集には結構掲載されているため、資料的な価値もあると言える。
 僕自身は犠牲者を保護するというコンセプトのこういった青少年保護条例に対してはむしろ賛成だが、マンガなどの表現に対して一律に規制しようとする一派に対しては違和感を感じる。こういった文学的表現については被害者がいないわけで、処罰の根拠自体がない。そういう意味で、吾妻ひでおの若い頃のロリコン作品が紹介されても、僕自身は一向に差し支えない。だが一方で大丈夫かと心配してしまう自己規制的な忖度がムクムクと頭をもたげてきて、そのあたりが自分自身情けないと思う。今ここで、自分に対する戒めのためもあり表現は自由でなければならないと声を大にして言っておく。ただし、僕自身はロリコン作品については、まったく共感を持っていないということも付記しておく。特に本書に掲載されている作品には、初出が『少女アリス』とか『シベール』(自主製作ロリコン雑誌)のものがあり、内容はまさにそのものズバリで、その趣味の人の嗜好をそのまま反映したような耽美的な作品が多い。ストーリーとしてそれなりに面白いものもあるにはあるが、なんじゃこりゃぁというような趣味的な作品も多い。
 元々僕がこの本を買ったのは、こういったロリコン作品が目当てではなく、『地を這う魚』の元祖とも言うべき「夜の魚」、「笑わない魚」が収録されていたためである。この2作品については、多少気持ち悪さも漂うが、なかなか独特で面白い世界が展開されている。『地を這う魚』同様、登場人物は動物の姿になっているし(『地を這う魚』と同じキャラクター)、一種の(自伝的な)青春物語になっている。ただし『地を這う魚』よりも内容や表現がはるかに暗く、少々辟易する部分もある。あるいは著者の内面を反映していると言うことができるのかも知れないが、ある程度余裕を持って描かれた『地を這う魚』が、洗練された表現になっているのと対照的である。考えてみると、こういった洗練は、吾妻ひでおの大きな才能である。そういった面がこの2作の「魚」シリーズから逆に窺えるというのが本書の大きな魅力である。正直、こういったロリコン風味の本を手元に持っておくことには抵抗を覚えるのであるが(自分の趣味が疑われかねない)、この「魚」シリーズは手元に置いておきたい気がする。捨てるべきか残すべきかそれが問題で、悩ましいところである。
b0189364_18511177.jpg なお今回は、この「魚」シリーズ目的で『吾妻ひでお童話集』も買って読んでみたが、「魚」シリーズについてはまったく同じものが載っていた(もしかして別物かと思って買ったのだが)。したがって重複買いになってしまったのだった。他の作品については重複はあまりないが、表題になっている「童話集」(初出は1979年から1982年)については、煮ても焼いても食えないような代物で、かなりのスランプの時期に描かれたものではないかとお見受けする。こちらは文庫で安価だから、「魚」シリーズだけ読みたいんだったら、古本でこちらを買うのもありだと思う。内容から考えると、こういった初期吾妻作品は、図書館には置かれないことが容易に予想される(なんせ趣味が趣味だから)。実際に家の近所の図書館については、マンガは割合充実しているにもかかわらず、また吾妻作品もそれなりにあるにもかかわらず、やはりこれらの本は置かれていない。だから僕も今回は古本で買ったのだった。ただ先ほども言ったように多少後悔があるのも事実。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『逃亡日記(本)』
竹林軒出張所『うつうつひでお日記(本)』
竹林軒出張所『うつうつひでお日記 その後(本)』

by chikurinken | 2018-09-06 07:50 |

『うつうつひでお日記 その後』(本)

うつうつひでお日記 その後
吾妻ひでお著
角川書店

ほぼ普通の日記になってしまった

b0189364_13461832.jpg 『うつうつひでお日記』に続く吾妻ひでおのマンガ日記で、本書には2006年12月から2008年3月までが収録されている。
 ただし2006年12月から2007年7月まではほとんど絵はなく、まさしく日記。内容は前著と同様、街中をぶらついたとかどの本を読んだとか、どのテレビを見たとかで、著者に関心がなければまったくもって面白くない。また前著の場合は、ちょうど『失踪日記』の発表の時期だったため、その背景がわかるという点で面白かったが、今回はそれほどの事件もなく、強いて言うなら 『地を這う魚』がこの期間に進行しているという点が挙げられるが、書いている本人にとってはそれほど大きな出来事でもなさそうである。
 他人の日記というのは、そもそもドナルド・キーンも言っていたが、基本的には思い入れがない限り面白味のないものである。今作などはまさにそうで、特に絵がない前半部は読み続けるのがかなり辛かった。
 後半では、絵がそれなりに出てきて、エンタテイメントの要素がある程度現れてくるため、読むのは前半ほど苦痛ではなかったが、やはりマンガ家の日記だけに、絵がなければ大して面白くないということがあらためてわかる。前著では笑える箇所がそこそこあったが、あれも著者のサービス精神の賜物だということがかえってわかるのだった。ただし今回の日記では、出てくる絵は、著者の趣味を反映した美少女の絵が非常に多く(「その時描きたくなった女の子の絵を描いているだけ」だそうだ)、そういう方向の趣味がなければあまり面白味はないかも知れない(それなりに笑えるような要素もあるにはある。なお僕にはそういう方向の趣味はありません)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『うつうつひでお日記(本)』
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『夜の帳の中で(本)』
竹林軒出張所『逃亡日記(本)』
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』

by chikurinken | 2018-09-05 07:45 |

『うつうつひでお日記』(本)

うつうつひでお日記
吾妻ひでお著
角川書店

平成日記文学の金字塔……かも

b0189364_7333033.jpg 今回読むのは2回目だが、以前と少し見方が違った。ドナルド・キーンの『百代の過客』を読んだせいか、日記文学に対する見え方が変わったようだ。前に読んだときは『失踪日記』の後で、同じようなものを期待していたフシがあり、そのために多少の落胆があったようだが、今回は少々異なる。むしろ『失踪日記』に匹敵する作品ではないかと感じた。
 この日記は2004年7月7日から2005年2月16日までのほぼ毎日の記録である。著者は、1989年に仕事をほっぽり出して失踪し、その後再びの失踪、アルコール依存、自殺未遂、精神病院への入院を経て、1999年に退院し、通常の生活に戻っている。とは言っても、仕事も少なく、以前のようなフリーのマンガ家としては生計が立ちゆかなくなっている。この2004年の時期はまさしくそんな折である。そこで、自身の身辺をマンガを使って日記として残したら面白いんじゃないか、売れるかも知れないという目論見で始めたのがこの日記で、それが2004年7月7日である。この時期、大手出版社の仕事はごくわずかで(ぶんか社『便利屋みみちゃん』、2ちゃんねるぷらす『虚空のモナー』など)、発注量は少なく、そのために収入は少なく(月に4〜5万程度と著者自身が語っている)、毎日時間はたっぷりあるようである。そもそも精神状態も必ずしも良い状態ではないし(薬も大量に服用している)、仕事も何だかリハビリの一環でやっているような印象すら抱かせる。
 ただ一方で、この期間、自らの失踪経験をマンガ化しているのは作家として立派と言える。その作品も、7月27日に無事完成し、「午後「アル棟(アル中病棟:引用者注)」のスクリーントーン終り これでようやく「夜を歩く」「街を歩く」「アル中病棟」の3部作が上った(全204P)」という記述が出てくる。ただし「ただちょっとした問題が残って」いて「出版してくれる会社がない」という状態。その後、コアマガジンという会社にこの作品を持っていき、こちらは体よく断られるが、その後に持ち込んだイースト・プレス(10月7日)で、一部書き直し後出版されるという運びになる(10月15日、11月2日)。日記の終わりの方でついに出版にこぎつけ、あちこちで評判を呼び始める(インタビューの依頼が殺到)というあたりで、この日記が終わる。このあたりがこの日記の一番の目玉で、著者が『失踪日記』で再びマンガ界に台頭してくる過程が描かれるわけである。一種のサクセス・ストーリーという見方もできる。
 ただし著者の生活自体は、『失踪日記』が売れた後も、この日記の頃と変わらなかったらしい。朝食にコーヒーとパン、昼食に麺類や具をごちゃまぜしたご飯を食べ、仕事は数ページ程度やって(とは言ってもほぼ毎日やっている)、後は読書、図書館、本屋、散歩というような日常である。この日記ではこれをご丁寧に毎日綴っている。それがために記述は少々退屈ではあるが、ところどころ(プロ根性で)ギャグを交えたりしているため、笑えるような箇所もあちこちにある。本書の表紙に8月29日の記述が引用されていて、これがこの日記の特徴をよく表している。「今日は休み。喰って、読書して、寝て、タバコ吸って、食って、ウンコして、寝て、食って、寝た。西澤保彦「パズラー」読了○。」(句読点は引用者が入れた)という具合。
 この日記の序盤(9月3日まで)は、自費出版しコミケで売るために描いたもので、その後は『Comic新現実』と『コンプエース』という雑誌で連載されたものらしい。後半部分が商業雑誌で発表されたということは、それなりの面白さが編集担当にも認識されたということなんだろう。そして、こういったものを時系列でまとめたのが本書ということになる。この後も著者の数年分の日記マンガが出版されているため、このパターンの日記はかなり長く続けられたようだ(ブログで続けていたらしい)。日記については、『失踪日記』の大当たりで周囲の目が変わったあたりがもっとも興味を引かれる部分である(ただし著者によると、先ほども書いたように生活自体はほとんど変わっていないらしい)。
 この日記が今も続いているかどうかはわからないが、何でも昨年著者は胃がんの手術を受けたらしく、もし日記が続いていたら、日本の日記文学の歴史においても相当面白い存在になるんではないかと思う。著者の体験が体験なだけに、ある意味で(『失踪日記』とあわせて)平成日記文学の金字塔と言っても良いような作品である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』
竹林軒出張所『夜の帳の中で(本)』
竹林軒出張所『逃亡日記(本)』
竹林軒出張所『うつうつひでお日記 その後(本)』
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』

 以下、以前のブログで紹介した『うつうつひでお日記』の評の再録。
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(2006年8月10日の記事より)
うつうつひでお日記
吾妻ひでお著
角川書店

 傑作『失踪日記』を執筆していた時期に、並行してつけていたマンガ日記をまとめたもの。『失踪日記』ほどの強烈なインパクトはなく、ブログみたいな「何を食べて何を見た」というレベルの日記ではあるが、著者の経験が経験だけに、楽しく読める(と思う)。
 ろくに仕事もせず(できず)図書館に通いづめで(傍目には)のんびりした生活を送っているなど、どこか僕自身にも似ており(格闘技(K1やPRIDE)をテレビでよく見ている点も共通……曙評など共感)、身につまされる。将来に対する不安などもよくわかるし……。
 この後、著者は『失踪日記』でブレイクするわけで、その辺の事情は、世の中に出ていく新進作家の境地と捉えることもでき、ある意味、サクセス・ストーリーみたいな感じで読むこともできる。俺もがんばらにゃあと思わせる。内容は暗いが元気が出る(かもしれない)。
★★★☆

by chikurinken | 2018-09-04 07:24 |

ちょっとひとこと

 かつてある知り合いから、このブログで紹介している本について、本当に全部読んでいるのかと訊ねられたことがある。確かに数日間に渡って何冊も立て続けに紹介するので、こういった疑問も当然だとは思うが、声(文字)を大にして言いたい。
全部読んでいます!
映画やドキュメンタリーも、ここで扱うものについては全部隅から隅まで見ている。ただし注をつけるならば、ここに紹介している記事は、概ね随時書き溜めたものであるため、ここに出てくるタイミングで読んだり見たりしているわけではない。このことはお断りしておかねばなるまい。
b0189364_18521724.jpg たとえばこの数日間で、ドナルド・キーン著の『明治天皇』を〈1〉〜〈3〉まで3日続けて紹介したが、実はそれぞれの冊を読み終わるのにそれなりに時間がかかっている(そもそも僕は本を読むのが速い方ではない)。〈1〉を読み終わったのが7月の初め頃で〈2〉は7月の終わり頃、〈3〉が8月上旬である。〈4〉は現在読んでいる最中で、おそらく8月末ぐらいには読み終わるんじゃないかと思う。このような具合で、このブログに挙げるに当たって、ある程度の原稿を書き溜め、その上で映画→ドキュメンタリー→本→ドラマの順番に2〜4本ずつ連続で、2日に1回程度のペースでアップするというのが目下のスケジュールである。ある程度関連性のあるものをまとめていることから(たとえばこの『明治天皇』の前はエッセイ3点、そしてドナルド・キーン繋がりで『明治天皇』に繋がっている。このあたり気付いていただけるともっと楽しめます)、中には先延ばしになってしまうものもある。書き溜めた量がある程度増えたら、掲載するペースもアップして数日間連続で……ということもある。僕自身このブログもなるべく継続したいと思っているため、間があまり空かないようにしたいと思ってはいる(間が空くとそれが普通になってしまってだんだんやらなくなってしまうのが常)が、あまりに溜まってしまっても、アップする頃にはこちらが内容を忘れてしまうなどということもあり得るわけで、個人的に新鮮さが失われてしまうということになる。そういうわけで、どういうペースでアップするかは、随時考えているわけだ。特に私生活で暇が続くと、DVDレコーダーに撮り溜めしている映画やドキュメンタリーをなるべく多く見て消費してしまおうと考えていて、それで見る映画やドキュメンタリーの数が多めになり、結果的に原稿が増えてしまう。そういうことがあると、その後しばらく毎日投稿が続くということにもなる。
 最近は、以前と比べてアップロードする間隔がやや空く(ほぼ1日おき)ようになったせいか、あるいはあまり一般受けしない素材が多くなったせいか、はたまた文章のレベルが落ちてしまったせいか知らんが、アクセス数が以前より大分減ってきており、それはそれで別に構わないんだが、そのこともあって必ずしも(読んでいる人を意識してサービス精神で)立て続けに連続で投稿することに必要性を感じていない。結局は自分が後で振り返るという目的が主になるのであるから、あくまで自分のペースを守りたいと思っている。ここを頻繁に訪れてくださっている皆さんには申し訳ないが、無理しても続かないのは目に見えているので、ご了承いただきたいところです。

by chikurinken | 2018-08-18 07:51 |

『明治天皇〈三〉』(本)

明治天皇〈三〉
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
新潮文庫

「目からウロコ」が続出

b0189364_16580458.jpg 明治天皇の生涯に迫るノンフィクションで、文庫版全4巻構成の第3巻が本書。朝鮮情勢、条約改正交渉、憲法発布、衆議院銀選挙実施、日清戦争、閔妃暗殺、北清事変などが扱われる。日本にとっての富国強兵の時代である。これらの事績は、明治天皇が「大帝」と呼ばれるゆえんにもなっている。
 だが実際は、必ずしも学校で教わるように計画的かつ漸進的に進んだわけではないことがわかる。実際の政策は、結構行き当たりばったりで、憲法や民会にしても時期尚早とする声が政府関係者の間には大きく、そのせいでなかなか進まない(民会開催まで結局15年かかる)。実際始めたら始めたで、選挙には暴力や賄賂がつきまとい、民会(衆議院)側も政府と敵対して、何も決められずという状態が長く続く。まあ、それがリアルな歴史ということだろう。
 一番驚くのは日清戦争で、この戦争も司馬遼太郎の小説や学校の歴史では、大日本帝国が東洋の覇権を握るべく着々と準備してきたというような描かれ方だが、実際のところは、開戦2カ月前くらいまで、政府の誰もが清国との戦争を想定していなかったというのである。全然「着々と準備」という感じではない。本書からの印象では、大敗北しなくてラッキーぐらいの感覚に近かったようだ。また、日清戦争中の旅順での大日本帝国軍による虐殺事件もあまり教科書で触れられることはないが、世界に「野蛮な劣等国」の印象を与えるのではないかということで、政府関係者が汲々としたなどという事実が語られ、非常に新鮮である。司馬遼太郎の『坂の上の雲』によると、当時の大日本帝国の軍隊は(列強諸国から非難を受けないようにするため)国際法を厳密に遵守すべく、違法行為が見られない規律正しい軍隊だったという風に描かれていたと記憶しているが、実際のところ、当然だが、決してそんな軍隊ではなかったことがわかる(そんな軍隊があったらお目にかかりたいもんだ)。後の関東軍の風はこのときから芽生えていたということである。
 もう一つ新鮮だったのは大津事件(来日中のロシア皇太子ニコライ2世が大津で暴漢に襲われた事件)に際して、死刑を求める政府関係者に対して、法による支配を断固主張し一歩も譲らなかった大審院長、児島惟謙(これかた)の行動で、今より政府権力が強いあの時代に、この地位の判事が今では考えられない主張を展開したことにあらためて驚く。このあたりの政府関係者とのやりとりも真に迫っていて、非常に読み応えのある箇所である(第四十二章「ロシア皇太子襲撃」)。
 明治天皇自身は、この時代、政治にも積極的に関与するようになっており、政治に口を出すことも頻繁ではないがやっている。基本的には、政府のトップ(太政大臣や内閣総理大臣など)に政治を任せるというスタンスではあるが、岩倉具視や伊藤博文などは、天皇に詔勅を出すよう求めたりもしていて、明治天皇と国のトップとの関係性がなかなか面白味を感じさせる。何より驚くのは、近代体制ができた後、首相に就任した人々がことあるごとに天皇に辞意を示し、慰留される(結局辞めるんだが)ということがたびたびあることで、何か気に食わないことがあるとすぐに辞めようとする首脳にはあきれかえってしまう。明治天皇もこういった連中にはさぞかし頭を悩ませたのではないかと、この本を読みながら感じる。こういう連中をうまいこと使いこなしたんだから、やはり明治時代の帝国の発展は、管理者としての明治天皇の業績と言うことができるかも知れない。
第56回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『明治天皇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈二〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『坂の上の雲 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

by chikurinken | 2018-08-17 07:57 |

『明治天皇〈二〉』(本)

明治天皇〈二〉
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
新潮文庫

歴史を膚で感じる

b0189364_19322463.jpg 明治天皇の生涯に迫るノンフィクションで、文庫版全4巻構成の第2巻が本書。明治維新から明治14年の政変、自由民権運動あたりまでがその内容になる。
 新しい政体になって、政治機構が徐々にできあがり(紆余曲折はかなりあるが)、政府が少しずつ機能するようになる。やがて廃藩置県を断行し、中央集権体制に徐々に移行していく。
 外交的には対朝鮮政策(いわゆる征韓論争)で揉め、政府内が二分されるような議論になる。その上、政府要人の江藤新平、西郷隆盛、板垣退助らが下野するという異常事態になる(明治六年の政変)。しかもその後、彼らが地方で反乱を起こし(佐賀の乱から西南戦争まで)、国内は一部内戦状態になる。結局は、徴兵制で富国(はともかく)強兵を果たしつつある政府軍が、反乱軍を抑え込むことに成功し、政府直属の正規軍の力が証明されることになった。そのため、以後国内に大規模な反乱はなくなる。同時に士族の処分も(政府側からすると)無事に終わることになる。
 同時に台湾問題、琉球問題も現れ、このあたりは清国やヨーロッパ諸国と牽制しながら乗り切るが、領土問題については、このときの中途半端な処理が現在にも一部禍根を残す結果になった。
 また、各地で反政府運動が起こってくるのもこの時代。そういった時代に、新政府の新しい顔として、各地域を積極的に行幸してまわったのが明治天皇。民衆に対する顔見せ(実際に顔を見せたかどうかはともかく)、それから各地域の教育や産業の状況を視察するというのがその名目だったが、少なくとも当時の民衆からの受けは良かったようで、天皇の存在価値を民衆に植え付ける結果になった。
 その後、旧士族を中心に政治参加を求める動きが現れ、政府も立憲政体樹立の方向に舵を切る。そのあたりまでがこの第2巻の内容である。
 第1巻同様、割合ゆっくりと話が進むが、ゆっくりだからか、読んでいると、歴史のミクロ的な側面に触れられるような気がしてくる。特に現代から歴史を見る場合、どうしてもその後の体制から遡って物事を考えがちであるが、その時代にいれば先が見えないわけで、それを考えると、遡って考えるという帰納的な歴史認識が必ずしも正しくないということが実感できる。たとえば西南戦争などは、現代の視点から見れば「不平士族の反乱」で済むが、当時の感覚では内戦に近かったわけで、政府軍が物量で圧倒していたとは言え、鹿児島で持久戦になって、各地の不平士族がこれに連帯したりしたら、それこそ政府が明治転覆していてもおかしくなかったという状況だったらしい。そういう歴史の側面を感じられる点が、この本の大きな魅力である。その後、第3巻も買ったんで、おそらく最後まで読むんではないかと思う。記述は平易だが、分量が多いせいか読むのには結構時間がかかっている。
第56回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『明治天皇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈三〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

by chikurinken | 2018-08-16 07:32 |

『明治天皇〈一〉』(本)

明治天皇〈一〉
ドナルド・キーン著、角地幸男訳
新潮文庫

歴史の大きなうねりに身を任せる

b0189364_18282572.jpg 明治天皇の生涯に迫るノンフィクションで、文庫版全4巻構成の第1巻が本書。明治天皇誕生から明治維新前後までがその内容になる。
 『百代の過客』のドナルド・キーンらしく、さまざまな日記や文献を基にして明治天皇の生涯を追っていこうという試みで、本書の情報源の中心は『明治天皇紀』(宮内省が編纂した明治天皇言行録)である。天皇周辺の人々の日記などからも引用があり、広範囲のソースから当時の状況を明らかにしていこうというアプローチで、真摯な学術的な態度が好ましい。明治天皇の生涯といっても、当然のことながら、それを取り巻く政治、社会の状況が中心になり、天皇の目から見た日本近代史という内容である。このあたりは『西園寺公望 最後の元老』などの書と同じ方法論である。天皇に視点を置いたのは、明治天皇が、西園寺公望同様、政治の中枢に籍を置いている人物であることを考えると、歴史を探るという目的に叶った現実的なアプローチと言える。
 本書の前半は、明治天皇はその姿をあまり現さず、父帝の孝明天皇中心になる。孝明天皇の時代、つまり嘉永期から安政・万延・文久期、諸外国が通商や外交関係を求めて日本の近海に現れてくる。孝明天皇より前の時代には、天皇自身が政治に関わることはほとんどなかったが、外国人が現れ不平等条約調印に至る過程で、江戸幕府は朝廷や大名にも政治的な案件について諮問し、条約調印についても朝廷から許可を得るという方向に変わってくる。そのために朝廷の力が相対的に高まってきたのがこの幕末である。ただし、孝明天皇自身は、その間も幕府と非常に良好な関係を保っており、「公武合体」を推進する保守派であったが、ただし外国人嫌いであったために、神戸の開港については最後まで抵抗を見せた。また、孝明天皇自身も、外国人排斥の「攘夷」を望んでいた。とはいっても、これはあくまでも幕府に対して望んでいたのである。実際、十四代将軍徳川家茂とは個人的にも非常に良好な関係を築いていた。ところが、長州藩や薩摩藩の一部の過激勢力が幕府と政治的に対立を始め、攘夷決行を幕府に迫るようになり、しかもそれがテロを交えた運動へと発展していくことになる。朝廷内の一部勢力も、こういった過激派と連動し、朝廷内で攘夷と朝廷の政権奪取を望んで運動をする過激公卿が現れてくる。孝明天皇は、穏健な保守派であることから、こういった動きに対して反発し、あくまで幕府主体の攘夷を望むのであるが、幕府勢力は徐々に後退、挙げ句に第二次長州征伐は中途半端な形でうやむやになり、過激派の薩摩藩勢力に幕府軍が破れるという事態にまでなってしまう(鳥羽伏見の戦い)。何より一番大きかったのは、親幕府だった孝明天皇自身がその過程で崩御してしまうという事態であった。こうして歴史は大きくうねり、大政奉還、王政復古という形で、いわゆる「明治維新」が進んでいくのはご存知のとおり。明治天皇も、父帝の死去を承けて、15歳で即位することになった。即位した天皇は、外国の公使らとも積極的に面会し、明治の近代化政策にも積極的に関わるようになっていく。そして明治政府が中心となり、近代化政策を推し進めていく……というのが第1巻の趣旨である。
 幕末から明治にかけての政治史としては、かなり細かく描かれており、そのために文庫で全4巻にもなったんだろうが、このくらい細かいと、なかなか先に進まず、少々じれったく感じる。とは言え、歴史の流れというものは本来そういうものであり、同じようなゆっくりしたリズムで体感していくという意味では、これもありではないかと思う。とりあえず第2巻は読んでみようと思う(もうすでに購入済み)。
第56回毎日出版文化賞人文・社会部門受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『明治天皇〈二〉(本)』
竹林軒出張所『明治天皇〈三〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『西園寺公望 最後の元老(本)』
竹林軒出張所『幕末史(本)』
竹林軒出張所『決戦!鳥羽伏見の戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

by chikurinken | 2018-08-15 07:28 |

『日本語の美』(本)

日本語の美
ドナルド・キーン著
中公文庫

とりとめもなし
目新しさもなし


b0189364_18572228.jpg 日本文学研究者のドナルド・キーンのエッセイ集。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3部構成になっており、『中央公論』の巻頭言として2年間連載していたものがⅠで、ⅡとⅢがいろいろな雑誌からピックアップしたエッセイ。
 タイトルが『日本語の美』になっているが、日本語の美に関連するような話はない。ただ、エッセイはどれも著者が日本語で書いたもので、しかも日本語について述べたものも多いため、タイトルに偽りがあるわけではない。とは言え、雑多なエッセイの寄せ集めであり、全体的にとりとめがないという印象は拭いがたい。
 石川啄木論や徳田秋声論は『百代の過客〈続〉』と内容がかぶるし、三島由紀夫や安部公房について書いた文章も、あまり目新しさは感じない。総じて面白味がないという印象である。編集サイドのやっつけ仕事という感がなきにしもあらず。この本を読むんなら、『百代の過客』や『ドナルド・キーン自伝』『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』などの著書の方をお奨めしたい。
★★★

参考:
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』

by chikurinken | 2018-08-13 07:56 |