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竹林軒出張所

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カテゴリ:映画( 663 )

『十二人の怒れる男』(映画)

十二人の怒れる男(1957年・米)
監督:シドニー・ルメット
脚本:レジナルド・ローズ
撮影:ボリス・カウフマン
音楽:ケニヨン・ホプキンス
出演:ヘンリー・フォンダ、リー・J・コッブ、エド・ベグリー、マーティン・バルサム、E・G・マーシャル、ジャック・クラグマン

アメリカの理想的な市民

b0189364_07411669.jpg 言わずと知れたアメリカの法廷映画の傑作。ハリウッド映画を代表する傑作と言ってもよい。
 ある殺人事件を担当する陪審員12人が評議室に入って、その殺人事件について検討し、評決を出すというストーリー。三一致の法則(時、場所、出来事)が守られていて、見る方はその陪審裁判に参加しているかのような錯覚さえ覚える。
 審理対象になっているのは、素行の悪いある若者が父親をナイフで刺し殺したという事件で、弁護士が無能なせいで、どう見ても被告の有罪(ここでは死刑判決が出るという前提になっている)は明らかである。ところがこの評議室で議論が二転三転するという具合に話が進む。
 元々は1954年にテレビで1時間ドラマとして放送されたものだったらしいが、このドラマの評判が良く、これを見ていたく気に入ったヘンリー・フォンダが映画化をもくろみプロデューサーまで務めたという。元々のドラマのオリジナル脚本を書いたレジナルド・ローズも共同製作者である。
 登場人物は皆互いに名前も告げない者同士(中には自己紹介する者もいる)で、この裁判の審理のために集まっている他人同士である。職業も背景も性格も異なり、さまざまなアメリカ人から無作為抽出したようなキャラクターたちである。民主主義と正義を主張する者もいるが、悪い奴には厳罰をという保守思想の塊みたいな人間もいる。そういう人々が、1人の被告、1件の裁判のために集まって第三者の目で審議するという陪審制度の理想的な形態を描いた作品と言えば言い過ぎかも知れないが、現に脚本家のレジナルド・ローズは、陪審員になった経験を基にこの作品を書いたらしい。だが、この映画を見ていると、評議室内で真実が暴かれるなどということはめったに起こらないのではとも感じる。ヘンリー・フォンダ演じる陪審員8番みたいな人間がいればまた別なんだろうが。
 そういった現実性はともかく、映画は非常に密度が高く、しかも緊迫感があって見応えがある。しかも複雑すぎず進行がわかりやすい。映画を作ろうという人であれば一度はこういった作品を作ってみたいと思う、見本のような作品である。今回見たのは4回目だが、何度見ても飽きることはない。また、陪審員制度の理想を物語っているようなラストシーンが非常に印象的で、いつまでも心に残る。
★★★★☆

参考:
竹林軒出張所『裁きは終りぬ(映画)』
竹林軒出張所『判事よ自らを裁け(ドラマ)』
竹林軒出張所『招かれざる客(映画)』
竹林軒出張所『アラバマ物語(映画)』

 以下、以前のブログで紹介したこの映画の評の再録。
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(2005年10月19日の記事より)
十二人の怒れる男(1957年・米)
監督:シドニー・ルメット
脚本:レジナルド・ローズ
出演:ヘンリー・フォンダ、リー・J・コップ、エド・ベグリー、マーティン・バルサム、E・G・マーシャル

b0189364_07412168.jpg この映画、見るのは3回目だが、何度見ても、その完成度の高さにうならされる。
 ともすればややこしくなって、理解が追いつかなくなることが多い法廷劇で、これほど見る側にストレートに伝わってくるのも珍しい。台詞に無駄がなく、すべてのシーンが実にシャープで、緊迫感がある。
 最初から最後まで会話だけで大きな動きがない。それでいて最後まで目を離すことができなくなる。しかも最後に残る爽快感。最後のシーンは、数ある映画の中で、もっとも好きで印象的なシーンの1つである。
 映画脚本の1つの完成形といっても良いだろう。もちろん、演出も俳優も群を抜いていることはいうまでもない。
★★★★☆

by chikurinken | 2019-07-21 07:42 | 映画

『アラバマ物語』(映画)

アラバマ物語(1962年・米)
監督:ロバート・マリガン
製作:アラン・J・パクラ
原作:ハーパー・リー
脚本:ホートン・フート
美術:アレクサンダー・ゴリツィン、ヘンリー・バムステッド
音楽:エルマー・バーンスタイン
出演:グレゴリー・ペック、メアリー・バダム、フィリップ・アルフォード、ジョン・メグナ、ブロック・ピータース、ロバート・デュヴァル

アメリカの理想的な父親像

b0189364_18082781.jpg 1932年のアラバマ州の田舎町での話。原作はハーパー・リーの同名小説『アラバマ物語(To Kill a Mockingbird)』で、著者の自伝的小説である(らしい)。主人公の、小学校に上がるくらいの女の子、スカウト(メアリー・バダム)がハーパー・リーの分身ということになる。
 スカウトは、いつも兄のジェム(フィリップ・アルフォード)と一緒に遊んでいるが、夏の間だけ、隣の家にやってくるディル(ジョン・メグナ)も彼らの仲間に加わる。なおこのディル、実はモデルがいるらしく、なんでもトルーマン・カポーティだという。リーとカポーティ、幼なじみで、子どもの頃にこの映画みたいな付き合いがあったそうだ。
 それはともかく、この作品では、子どもの視点から当時の社会が描かれるんだが、そのために子どもの世界が存分に出てくる。無茶ないたずらをしたり、拗ねたり、近づいてはいけないといわれている近所の家に進入したりで、僕とは国も時代も境遇も違うが、何となく彼らの言葉や行動に懐かしさを感じる。
 スカウトとジェムの母はすでに死んでおり、父が一人で2人を育てている。この父がこの作品の本当の主人公である。父は、アメリカの良心を体現したような存在の弁護士で、あらぬ罪を着せられて収監された黒人の若者の弁護も引き受け、法廷で無罪を主張したりする。ただ、これについては町の白人たちが反感を持ち、圧力をかけたり暴力をちらつかせたりするのである。南部だけに、黒人に対する差別意識が噴出していて、少しばかり怖さを感じる。
 一方で、彼らの隣家にはかつて親の足をハサミで刺したという噂がある精神障害者(ブー)が住んでおり、いろいろと家庭内で問題を起こしているという。子ども達は怖い物見たさでこの家に近づいたりするんだが、要するに、黒人に対する差別、精神障害者に対する差別、そしてそれに対してどう対峙していくかがこの映画のテーマになる。どちらに対しても、父は実に公正に対応しようとし、その生き様を子ども達に見せるのである。決して派手な父ではないが、正義感に溢れしかも行動がそれに伴っていて素晴らしい人格者に映る。アメリカの理想的な父親像と言って良い。このような人物をグレゴリー・ペックが好演していて、この映画の大きな魅力になっている。
 先ほども述べたように、ストーリーは、2つのエピソードが1つの時間軸の中で同時進行で流れていき、それが最後に見事に収束するという秀逸なものである(しかもそれが子どもの視点から描かれる)。ドラマチックで緊張感が持続する上、主張が明確で、構成がしっかりした、大変良くできたストーリーと感じる。当時の町を再現した美術もすばらしい。
 タイトルバックも非常に凝っていて、一度見終わった後もう一度見直すと、実に感心する。作者の分身、つまりこの主人公の思い出が詰まったような宝箱が出るんだが、(成長した主人公が感じているであろう)懐かしさがこちらまで伝わってくるようである。全編端正なモノクロ映像で、このあたりも郷愁を誘うところである。
1962年アカデミー賞主演男優賞、脚色賞、美術賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ラスト・ショー(映画)』
竹林軒出張所『十二人の怒れる男(映画)』

 以下、以前のブログで紹介したこの映画の評の再録。
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(2005年8月2日の記事より)
アラバマ物語(1962年・米)
監督:ロバート・マリガン
原作:ハーパー・リー
出演:グレゴリー・ペック、メリー・バーダム、フィリップ・アルフォード

 冒頭にいきなり「To Kill」と出てきてぎょっとするが、原題が「To Kill a Mockingbird」であった。「モッキンバード(マネシツグミ)を殺すこと」ってな意味。『アラバマ物語』という牧歌的なニュアンスとは異なるが、でもこの邦訳もなかなか良いと見終わった後感じた。
 原作はハーパー・リーのピューリッツァー賞受賞小説『アラバマ物語』で、子ども時代を回想した(形式の)話。
 子どもの視点から20世紀初頭のアメリカが描かれるが、子どもの視点がなかなか心地良い。この映画はストーリーが面白く重大な意味を持っているので、あまりここで多くに触れることはできない(映画評ではストーリーを極力明かさないのがマナー)が、一つだけ。「マネシツグミを殺すこと」というタイトルは「害鳥であれば撃っても良いが、マネシツグミみたいにただ良い声で鳴くだけで人間に害を与えない鳥は撃ってはならない」というフレーズ(映画の序盤に登場人物によって語られる)から来ている。映画を見終わってから「なーるほど」と感じてください。
★★★☆

by chikurinken | 2019-07-20 07:08 | 映画

『逢びき』(映画)

逢びき(1945年・英)
監督:デヴィッド・リーン
原作:ノエル・カワード
脚本:ノエル・カワード、アンソニー・ハヴロック=アラン、デヴィッド・リーン、ロナルド・ニーム
出演:セリア・ジョンソン、トレヴァー・ハワード、スタンリー・ホロウェイ

単純な不倫メロドラマ

b0189364_20070133.jpg 不倫メロドラマ。中年男女が、それぞれ毎週通っているとある町で偶然知り合い、恋愛関係に陥って、それから逢瀬を重ねていき別れるというストーリー。
 主人公は女性の方で、独り語りのナレーションが最初から最後まで続く。さながらNHKの朝のドラマのようである。ストーリーも、回想形式を取ってはいるが、概ねストレートな展開で、サブプロットらしきものもない。恋愛ドラマ好きならともかく、それ以外の人間にとってはどうということのない話である。
 もちろん、作られたのが第二次大戦の直後ということで、時代背景を考えるとこういう映画が望まれていたことは重々わかる。日本でも終戦後、数々の単純な恋愛映画が作られていたことだし。ただ、今見てこれが面白いかというと話は別である。主役のセリア・ジョンソンがちょっと冴えないのも、リアルではあるが、映画の魅力を減らす結果になっている。
 全編背景に、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が使われていて、シーンに合わせていろいろな箇所がピックアップされている。うまいことシーンにはまっているという印象だが、昨今ではフィギュアスケートでもこの曲をうまいことシーンにはめているため、そんなもんかという程度の感慨である。
 もっとも喫茶室のママと常連客の会話とか、最後の最後に割り込んできたうるさいおばさんとかは、それぞれにリアルな質感があり、ディテールはなかなかよくできていたと思う。また出逢いのシーンが自然だった他、友人の冷たさが不倫の背徳感を促す役割をしていたり、それなりの見所はあった。とは言え、ストーリーの物足りなさはいかんともしがたい。今の映画であれば、もう少し何か工夫を盛り込むところだろう。
 実はこの映画、過去にも見ていてすっかりそのことを忘れていたが(今回見ていて途中で思い出した)、僕にとっては二度も見る必要のない映画であったと見ながら感じていたのだった。やはり見た映画については何らかの記録を残しておきたいものである。
カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
★★★

追記:
 この作品、1946年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しているが、ちなみにこの年のカンヌ映画祭は実質的に第1回であり、グランプリ(パルムドール)は全部で11作品が受賞している(こうなるとほとんどベストテンである)。そういう点で、その後のパルムドールとはやや重みが違う(その後のカンヌではパルムドール受賞作は1作か2作)。

参考:
竹林軒出張所『戦場にかける橋(映画)』
竹林軒出張所『暮れ逢い(映画)』
竹林軒出張所『雨のしのび逢い(映画)』

by chikurinken | 2019-07-19 07:43 | 映画

『三国志 完結編 遙なる大地』(映画)

三国志 完結編 遙なる大地(1994年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡瀬恒彦、あおい輝彦、山口崇、青野武、石田弦太郎、鶴ひろみ、津嘉山正種(アニメーション)

物足りなさは残るが
全体をよくすくっている


b0189364_20063515.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。92年から3年間かけて1年に1本ずつ発表されており、これはその完結編である。
 諸葛孔明のいわゆる「天下三分の計」を実現し、蜀の地を支配することができた劉備であるが、荊州の奪還を目指す呉と全国統一を目指す魏の圧力は強く、結局荊州は呉に奪還され、しかもその地を守っていた関羽まで倒される。その後、関羽の弔い合戦として荊州の再奪還を目指し劉備と張飛は軍を進めようとするが、張飛は暗殺され、劉備軍も大敗を喫して、しかも体調が悪化し、やがて死去する。魏の曹操も病で死去し、三国時代の第一世代は姿を消す。劉備なき後は諸葛孔明が蜀の軍事を一手に率い、南進してきた曹丕(曹操の息子)の魏と戦う。魏との戦いは、魏の軍師、司馬懿仲達との決戦になるが、やがて孔明も戦地で死去する……という具合にストーリーは進んでいく。こうして主役クラスの人間が途中で次々に消えていき、次の世代に移っていくわけだが、覇を競う人々が現れては消えていくのが歴史であるということがあらためて実感される。
b0189364_20063962.jpg 完結編も2時間半に及ぶ結構な大作であるが、前にも書いたように、元々が相当な大著であるため、これでもかなりダイジェスト的になってしまう。この完結編では、「泣いて馬謖を斬る」と「死せる孔明、生ける仲達を走らす」の逸話はしっかり押さえているが、それでも間がかなり省略されているため、蜀の武将や呉の武将など、登場人物たちが唐突に出てきて消えていくため、主役クラスの登場人物以外にはあまり感情移入できない。そのあたりはしようがないとは言え、物足りない箇所である。かと思うと鳳姫(関羽の娘)のエピソードが非常に細かかったりして、多少のアンバランスさは感じる。このエピソードは、やけに湿っぽいし、個人的には不要だと思うようなものであった(一番の見所という見方もあるかも知れないが)。
 キャストは、曹操の渡哲也がこの頃病気療養していたため、弟の渡瀬恒彦に代わっている。他は第一部、第二部とほぼ同じである。
 この三作を総括すると、やはり『三国志』入門というあたりに落ち着く。物足りなさは残るが、全体をよくすくっていると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第一部 英雄たちの夜明け(映画)』
竹林軒出張所『三国志 第二部 長江燃ゆ!(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

by chikurinken | 2019-06-26 07:06 | 映画

『三国志 第二部 長江燃ゆ!』(映画)

三国志 第二部 長江燃ゆ!(1993年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡哲也、あおい輝彦、山口崇、石田弦太郎、青野武、柴田秀勝(アニメーション)

もどかしさはあるが
うまくまとめられている


b0189364_19352684.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。三部構成になっており、第二部は「長江燃ゆ!」。タイトルから推測できるように赤壁の戦いが本作のハイライトである。
 曹操は漢王朝を事実上支配するようになるが、一方で劉備は、名声は上がるが、拠点を持たないままの浪人状態である。しかも曹操から命を狙われるようになる。いったん徐州城に入った劉備だが、曹操に敗北し、再び拠点を持たない浪人の身になる。そんな折、名軍師、諸葛孔明に出逢い、荊州から蜀へと進むべきことを進言される。孔明という優れた軍師を得た劉備であったが、なおも曹操から責められ夏口城まで引き下がることになる。しかし孔明の知略によって曹操軍を呉に向かわせ、呉と曹操軍を戦わせることに成功する。これが赤壁の戦いで、これについても孔明の知略によって曹操を倒し、しかも呉の将軍、周瑜まで計略で倒す。こうして曹操はついに荊州を手にする。
b0189364_19353095.jpg 全体にダイジェスト的だが、有名なエピソードは押さえられており、十分楽しむことができる。随時、大陸風の胡弓を使ったメロディが背景に流れ、雰囲気を盛り上げている。なお諸葛孔明の声を演じるのは、俳優の山口崇(本人が希望したという)で、颯爽とした孔明を好演している。全体を支配する空気は、義の劉備(関羽、張飛)、実の曹操という対抗軸で、正義漢の劉備が気持ち良い。ただダイジェスト的であるという制約のために、背景がよくわからない登場人物が数多く登場し(周瑜などもそう)、そのあたりが少々もどかしいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第一部 英雄たちの夜明け(映画)』
竹林軒出張所『三国志 完結編 遙なる大地(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

by chikurinken | 2019-06-25 07:34 | 映画

『三国志 第一部 英雄たちの夜明け』(映画)

三国志 第一部 英雄たちの夜明け(1992年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡哲也、あおい輝彦、石田弦太郎、青野武、津嘉山正種(アニメーション)

『三国志』はアニメでも大作になってしまう

b0189364_16290743.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。三部構成になっており、この「英雄たちの夜明け」は第一部である。
 三部あわせて都合7時間程度の大作ではあるが、元々が相当な大著であるため、これでもダイジェスト的になってしまう。第一部は、劉備玄徳、曹操孟徳の活躍が中心に描かれる。
 漢王朝末期、張角率いる黄巾賊が反乱を起こし、諸国で略奪、放火、殺戮など傍若無人の振る舞いを働く(そういうふうに描かれている)。そこで、こういった悪辣な黄巾賊に対抗するため、各地に義勇軍が結成され、それが離合集散しながら、やがて黄巾の乱は鎮圧される。そのときに頭角を現したのが劉備とその義兄弟の関羽、張飛の一派、そして曹操である。劉備は、義に溢れるその人間性で名を挙げるようになり、曹操は軍事力で台頭してくる。一方で漢王朝は董卓、呂布一派に牛耳られるようになり、やがて反董卓・呂布の勢力が曹操を中心に結成され、呂布を政権から追い出すことに成功する(董卓は呂布に殺される)。
 混乱もいったんは収まったかに見えたが、各地で有力な武将が軍閥として君臨する群雄割拠の状態になり、軍閥同士でも離合集散が起こるという戦乱の時代を迎える。第一部では、劉備が曹操の配下に入り、呂布が曹操によって処刑されるというあたりまで話が進む。また少年時代の諸葛孔明が登場するが、呉の孫策はまだ名前しか出てきていない。
b0189364_16291104.jpg このアニメ作品自体は、全編丁寧に作られており、キャラクターデザインも悪くない。ごく時折であるが、表情の描写が素晴らしい箇所があって感心する。この作品を見るのは今回が二度目で、前回は『三国志』自体についてよく知らなかったため、勉強の目的で見たのだが、(長すぎないという点を考えると)そういう目的が一番合っているようにも思える。現時点では可もなく不可もなしという印象ではあるが、決して見て後悔するような作品でないのは確かである。
 声は、プロの声優が多数起用されているのはもちろんであるが、渡哲也やあおい輝彦など、有名な俳優も起用されている。渡哲也が曹操、あおい輝彦が劉備だが、ジブリ作品のような違和感はまったくなく、二人とも非常にうまく演じている。これもこの作品の魅力の1つである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第二部 長江燃ゆ!(映画)』
竹林軒出張所『三国志 完結編 遙なる大地(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

by chikurinken | 2019-06-24 07:28 | 映画

『麻雀放浪記』(映画)

麻雀放浪記(1984年・角川春樹事務所)
監督:和田誠
原作:阿佐田哲也
脚本:和田誠、澤井信一郎
出演:真田広之、鹿賀丈史、加藤健一、名古屋章、高品格、加賀まりこ、大竹しのぶ

無頼な人間どもを描く作品だが
映画の方は実に端正である


b0189364_19022277.jpg 最近リメイクされたということで再び脚光を浴びている『麻雀放浪記』。前の映画が非常によくできた作品だったので、いまさらリメイクが必要なのか大いに疑問を感じるところで、しかも新しいバージョンではタイムスリップするなどという愚かしいストーリー設定にしていると聞き、端から見る気が失せてしまう。そもそもリメイクの話自体僕はまったく知らなかったし、ピエール瀧の不祥事がなければおそらく知らないまま(また世間でもあまり注目されないまま)過ぎていたのではないかと思う。いずれにしても『麻雀放浪記』に興味があるんなら、この84年版を見ておけば十分だとは思う。
 この84年版の『麻雀放浪記』だが、なんとイラストレーターの和田誠が監督した作品で、当時、こういった異業種の人々が映画界に進出してきてよく映画を作っていたという背景がある。前にも書いたがその多くはろくでもないものだったが(もちろん当時プロの監督が作った映画も多くはろくでもないものだった……日本の映画界自体が低迷していた)、そんな中でこの作品は、例外的に質の高い作品で、非常に密度が濃い上、登場人物も非常に魅力的というなかなかの佳作であった。伊丹十三の『お葬式』とあわせて、社会的にもかなり話題になったのだった。しかもこの監督の和田誠、麻雀についてはルールも知らない素人らしく、そこらあたりも話題性に繋がっていた。また、冒頭シーンに、内藤陳、篠原勝之、天本英世という濃い人たちがいきなり出てくるなど、話題性を残すための工夫(保険みたいなものだが)も見えてくる。
 僕も公開時にこの映画を見たときは麻雀のルールをまったく知らなかったが、知らなくても十分楽しめる映画になっている(知っていたらもっと楽しめるが)。原作自体、戦後のドタバタの時代に博打に命をかけているようなろくでなし人間ばかり出てくるわけで、要は無頼な人間の生態の面白さみたいなものがテーマになっている。したがってこの人間どもをどう描くかが一番のミソになってくる。そしてその辺の表現が大変素晴らしいのがこの映画なのである。キャスティング自体が非常に魅力的で、ドサ健の鹿賀丈史、女衒の達の加藤健一、出目徳の高品格、上州虎の名古屋章は、これ以上ないというようなはまり役になっている。実際、高品格はあちこちで助演賞を取ったし、当時その演技が話題になっていた。
 終戦直後の風俗の描写もよくできていて、美術や撮影も秀逸。一部、安っぽい美術はあったが、低予算だからしようがなかったのかも知れない。映像は全編モノクロで、これも当時の雰囲気を醸し出す役割を果たしている。また、最初から最後までトントンと話が進み、まったく澱みがないため、2時間近くの映画だが見ていてだれることがまったくない。そういう点では編集も優れているんだろうと思う。ともかくろくでもない人間ばかり出てきて、本当であれば少々胸くそが悪くなっても当然なんだが、最後は何だか潔ささえ感じて、爽快感すら覚える。そのあたりがこの映画の魅力なのかも知れない。
ブルーリボン賞助演男優賞他受賞
★★★★

追記:
 僕はこの映画を見た後に、原作を読んで、それがまた面白かったので続編も何冊か読むことになったが、原作を読んでもこの映画の魅力が褪せることはなかった。言ってみれば別物という感じである。そういう点でも、この映画が秀作であることがわかる。

参考:
竹林軒出張所『快盗ルビイ(映画)』
竹林軒出張所『いねむり先生(ドラマ)』
竹林軒出張所『お葬式(映画)』
竹林軒出張所『リメイクもういらん党宣言』

by chikurinken | 2019-06-06 07:01 | 映画

『怪談』(映画)

怪談(1964年・にんじんくらぶ)
監督:小林正樹
原作:小泉八雲
脚本:水木洋子
撮影:宮島義勇
音楽:武満徹
美術:戸田重昌
出演:三国連太郎、新珠三千代、渡辺美佐子、仲代達矢、岸惠子、望月優子、中村賀津雄、丹波哲郎、志村喬、友竹正則、田中邦衛、花沢徳衛、林与一、中村翫右衛門、滝沢修、杉村春子、中村鴈治郎、仲谷昇

特に前半はリズムの悪さを感じる

b0189364_19184237.jpg 小泉八雲の『怪談』を小林正樹が映画化した作品。採用されているエピソードは「黒髪」、「雪女」、「耳無芳一の話」、「茶碗の中」の4本で、オムニバスである。
 キャスト、スタッフとも非常に豪華で、特に音楽については武満徹が全面的に仕事を任されて自由に音を付けていたという話を知ったため(『武満徹・音楽創造への旅』が出典だったと思う)、今回あらためて見てみようと思った次第。音楽については、例によって映画の中でそれほど目立つ働きをしていないが、しかし良い味を醸し出していて効果的である。
 ただやはり、映画自体が全体的にかなりまだるっこしい印象を受ける。特に最初の「黒髪」と「雪女」がそうで、それぞれ40分近く話が展開されるが、非常に長く感じる。見続けるのが苦痛なぐらいで、リズムの悪さも感じる。一方で3本目の「耳無芳一」は80分あるんだが、密度が濃いせいかこちらはそれほど長さは感じない。最後の「茶碗の中」は25分弱でこちらも非常に緊迫感があって、退屈さは感じなかった。だが前半がかなり退屈であるため、映画としての全体的な印象はあまり良くない。今回見たのは2回目だったが、武満徹の話を聞かなければまず見ていなかっただろうと思う。ただ見てみればそれなりに見所があるため、エピソードごとに区切って見るなどという方法で見るのであれば、前半の退屈さもあまり苦にならないかも知れない。とりわけ後半の2本はお奨めである。
 この映画は、世間では芸術的に高く評価されたようだが、興行的には大失敗だったらしく、製作プロのにんじんくらぶはこの映画の負債のために倒産してしまったらしい。この映画、キャストを見てもかなり豪華だし、しかもセットも力が入っていることがよくわかる。随分時間と金をかけているという印象はあるが、興行的に失敗だったという話を聞いても、それなりに理解はできる(僕自身、見ていてかなり退屈したため)。せめてアカデミー外国語映画賞でも取れていれば(ノミネートはされた)、興収も増えていて、小林正樹ももっと映画を撮れていたのかも知れない。
第38回キネマ旬報ベストテン第2位
第18回カンヌ国際映画祭審査員特別賞
ローマ国際映画祭監督賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『武満徹・音楽創造への旅(本)』
竹林軒出張所『切腹(映画)』
竹林軒出張所『上意討ち 拝領妻始末(映画)』
竹林軒出張所『いのち・ぼうにふろう(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』

 以下、以前のブログで紹介したこの映画の評の再録。
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(2005年12月24日の記事より)
b0189364_8474513.jpg怪談(1965年・東宝)
監督:小林正樹
原作:小泉八雲
脚本:水木洋子
音楽:武満徹
出演:三国連太郎、新珠三千代、仲代達矢、岸恵子、中村嘉葎雄、丹波哲郎、志村喬、中村翫右衛門、中村雁治郎

 小泉八雲の『怪談』から「黒髪」、「雪女」、「耳なし芳一」、「茶碗の中」の4話を映画化したオムニバス。
 リアリズムより幻想的な表現を重視した美術で、演劇のようである。どの話もほとんどがセットで撮られている。スタジオはかなり大きく、セットも金がかかっていることがわかる。だが、こういう人為的な演出は好みの別れるところだと思う(私はあまり好きでない)。
 話自体は有名なものが多く意外性はない(「茶碗の中」は少し珍しい)。展開もまったりしているのであまり緊迫感がない(怖い場面もあるが)。昔のお化け屋敷みたいな感じだ。
★★☆

by chikurinken | 2019-06-05 07:07 | 映画

『夜の蝶』(映画)

夜の蝶(1957年・大映)
監督:吉村公三郎
原作:川口松太郎
脚本:田中澄江
撮影:宮川一夫
美術:間野重雄
音楽:池野成
出演:京マチ子、山本富士子、船越英二、川崎敬三、芥川比呂志、小沢栄太郎、山村聡

『夜の河』の二匹目のドジョウを狙ったのか

b0189364_18294679.jpg 銀座の水商売の女たちの話で、原作は川口松太郎の小説。
 京都の名物バー「おきく」が銀座にも出店するということになり、銀座のバー「フランソワ」の主人であるマリ(京マチ子)は内心気が休まらない。というのは、「おきく」の主人のおきく(山本富士子)がかつて自分の夫の愛人だったため……というようなストーリー。人間関係が複雑で、登場人物たちが皆片想いというような設定はなかなか面白いが、ストーリーが安直に展開する(偶然の要素も多い)のが難である。とは言うものの、演出や美術、撮影は実にしっかりしている。
 中でも京マチ子と山本富士子の丁々発止のやりとりは大きな見所。もちろん大映の二大看板女優であるため、作り手側もそこを目玉にしたんだろうが、それに十分応えた二人の女優の演技は見事で、拍手を送りたくなるほどである。特に山本富士子は、芸妓あがりの女性役で、美しい京都弁を駆使する。同時に『彼岸花』の幸子みたいな飄々とした雰囲気も醸しだしている。さらに言えば、実はその裏で強い芯と情熱を秘めているというかなり難しい役柄なんだが、まったく破綻なく演じきっていてすばらしい。一方で男優の方は、悪くはないが、割合平凡な演技に終始している。端役の川崎敬三が唯一良い味を出していた。
 前年に作られ高い評価を受けた『夜の河』と同じスタッフの作品で、しかもキャストもかなり共通しているため(タイトルまで似ている)、製作側があるいは二匹目のドジョウを狙ったのかわからないが、やはりストーリーの安直さは致命的で、この映画の大きなネックになっている。実際、美術はしっかり作られているし、宮川一夫の端正な映像も魅力的(特に京都のモノクロ映像がすばらしい)なのに、安直な展開が出てくると一挙に興ざめしてしまうのである。惜しいナーと思う。だが一方で、この映画を見ると、評価の高い『夜の河』の方にも大いに関心が湧くのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『女が階段を上る時(映画)』
竹林軒出張所『女の小箱より「夫が見た」(映画)』
竹林軒出張所『女は二度生まれる(映画)』
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by chikurinken | 2019-06-04 07:29 | 映画

『桜の森の満開の下』(映画)

桜の森の満開の下(1975年・芸苑社)
監督:篠田正浩
原作:坂口安吾
脚本:富岡多恵子、篠田正浩
撮影:鈴木達夫
美術 : 朝倉摂、内藤昭
音楽:武満徹
出演:若山富三郎、岩下志麻、伊佐山ひろ子、西村晃、観世栄夫

結構えげつないストーリーだが
説話風で淡々としているからか
グロさは感じない


b0189364_18010868.jpg 坂口安吾の同名原作小説を映画化した作品。監督は篠田正浩で主演は妻の岩下志麻。それから若山富三郎である。
 舞台は平安時代か鎌倉時代ぐらいの都、およびその周辺で、ストーリー自体は説話集を思い出させるようなもの。そもそも冒頭のシーンが『今昔物語集』を題材にした『羅生門』風であるし、僕はてっきり元になった話が説話集にあるものと思っていた(実際は坂口安吾のオリジナルのようだ)。
 ある山賊が、通行人から奪い取って妻にした美貌の女に心を囚われてしまい、この女を喜ばすために盗みや殺しを繰り返すというようなストーリーである。タイトルは、満開の桜の下で人は狂気を帯びるというモチーフが基になっている。話の中には生首が多数出てきて(しかもそれを映像化しているため)結構猟奇的でグロテスクなんだが、映画ではむしろコミカルな印象さえ受け、あまりグロさは感じない。
 主演の岩下志麻は、一本調子のセリフ回しだが、セリフのほとんどが命令なんで違和感はない。一方で彼女の美しさを引き立たせるカメラワークが見事である。山賊役の若山富三郎は言うまでもなく好演で、この頃はテレビにもよく出ていて存在感のある役を演じていたという記憶がある。いわば全盛期の演技である。他のキャストについては伊佐山ひろ子以外はチョイ役ばかり。噺家の笑福亭仁鶴までチョイ役で出ていた。
 山の風景や都の風景の映像が随所に出てくる他、都の再現も大変よくできていて、映像的にも大いに楽しめる。武満徹の音楽もかなり独特だが、ストーリーをまったく邪魔しないのは(毎度ながら)さすがである。総じてよくできた翻案映画と言うことができる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『明治開化 安吾捕物帖(本)』
竹林軒出張所『新十郎捕物帖 快刀乱麻 (25)(ドラマ)』
竹林軒出張所『羅生門(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
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by chikurinken | 2019-06-03 07:00 | 映画