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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

カテゴリ:映画( 623 )

『渚にて』(映画)

渚にて(1959年・米)
監督:スタンリー・クレイマー
原作:ネヴィル・シュート
脚本:ジョン・パクストン、ジェームズ・リー・バレット
出演:グレゴリー・ペック、エヴァ・ガードナー、フレッド・アステア、アンソニー・パーキンス、ドナ・アンダーソン

テーマは意欲的だが内容が伴わない

b0189364_20535855.jpg 核戦争後の世界のありさまを描く一種の終末テーマのSF映画。北半球では核戦争のせいで人類が絶滅し、オーストラリアにはまだ放射能の影響が及んでいないため、オーストラリアの人々は普通の生活を送っている……というのが背景になっている状況である。
 主人公は、米海軍の潜水艦艦長(グレゴリー・ペック)で、たまたま海底にいたため核戦争の影響を受けず、そのままメルボルンに寄港したというような設定。この映画の舞台は1964年の設定になっていたので、てっきり1962年のキューバ危機を念頭に置いて作られた映画かと思っていたが、製作年は59年ということで、キューバ危機はこの映画の後ということになる。偶然とは言え何だかすごい話である。
 さて、このように大変興味深い話なんだが、ストーリーが何だかいい加減な上、登場人物の(オーストラリアと北米間の)移動もまるで瞬間移動したかのようで、相当ご都合主義的である。また、放射線の影響という点でも、今見るとあまり現実的ではない。何より、ドラマとしての流れが非常に悪いために、僕は最初の10分ぐらいから最後までひたすら退屈していた。描かれるモチーフも、人類の生存の可否を扱っているのは確かだが、他にも恋愛あり、レースあり、夫婦愛ありとわけのわからない多様さで、まったくまとまりがない。古い映画で今でも残っているんで名画の類だと思うが、率直に言って、見所は皆無に近い駄作と言わざるを得ない。
 テーマや主要なモチーフは非常に意欲的で、ハリウッドで作られた映画とは思えないようなものだったが、映画の内容がテーマについていけてないという、誠に残念な結果に終わっている。いろいろな点でリアリティが欠如していて、突っ込みどころが多いのも大きな問題である。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『招かれざる客(映画)』
竹林軒出張所『ニュールンベルグ裁判(映画)』
竹林軒出張所『ラ・ジュテ(映画)』
竹林軒出張所『吸血鬼ゴケミドロ(映画)』
竹林軒出張所『風の谷のナウシカ (1)、(2)(本)』

by chikurinken | 2018-11-13 07:53 | 映画

『時の支配者』(映画)

時の支配者(1982年・仏)
監督:ルネ・ラルー
アニメーション監督:メビウス
原作:ステファン・ウル
脚本:ルネ・ラルー、メビウス
脚色:ジャン=パトリック・マンシェット
出演:アニメーション

精緻でユニークな美術が魅力

b0189364_15594477.jpg 『ファンタスティック・プラネット』のルネ・ラルーがメビウスというマンガ家と組んで製作したSFアニメ。
 メビウス(ジャン・ジロー)という人、僕は全然知らなかったんだが、手塚治虫や大友克洋、宮崎駿に影響を与えたというフランスのマンガ家で(メビウス自身も彼らの影響を受けたと語っている)、しかも『エイリアン』のデザインも手がけているらしい。そういう人が存在することについて大いに関心を持ったため、今回メビウスが関わったという作品を見ることにしたというわけ。
 この映画では、原画などを担当しているということで、おそらく絵がメビウス風なのではないかと思う。確かに精緻に描かれていて魅力的で、どことなく大友克洋を彷彿とさせる。登場人物、特に子どもの顔が大友克洋の絵によく似ているとも思う。少しばかり不思議で不気味な植物や動物があちこちに出てきて、独特の世界が形作られている。このあたりは『ファンタスティック・プラネット』とも共通である。
 ストーリーは、原作ものということもあり、かなり凝りまくった話である。タイム・パラドックスの類の話で、なんとなく辻褄が合わないような気もするが、意外性のある面白いストーリーではある。
 映像やキャラクター・デザインは非常に魅力的であったが、エピソード間のつなぎの部分が(これは全体に言えるんだが)非常に単調で(絵が動かないとでも言えば良いのか)面白味がない。これは『ファンタスティック・プラネット』にも共通する部分で、そのために中だるみした印象が出てくる。そのためかどうか知らないが、80分程度の映画だったが、途中かなり退屈した。鑑賞中、時計を何回も見たというのが実際のところである。とは言え、先ほども言ったように、見所は多く、決してないがしろにできない作品であるとは思う。
ファンタフェスティバル映画祭1982 最優秀子供映画賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ファンタスティック・プラネット(映画)』

by chikurinken | 2018-11-12 06:59 | 映画

『犬ヶ島』(映画)

犬ヶ島(2018年・米)
監督:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ、ジェイソン・シュワルツマン、野村訓市
脚本:ウェス・アンダーソン
声の出演:エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、野村訓市、ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン

ストーリーがくだらない

b0189364_17205488.jpg メガ崎市という架空の日本風味の都市が舞台のアニメーション。日本風味と書いたが、相撲や歌舞伎が出てくるし、市長は三船敏郎風だし、メガ崎市では日本語が話されているから、舞台は日本なんだろう。だがなぜ舞台が日本であるかはわからない。製作者の趣味か。
 全編ストップモーション・アニメーションで作られているという話だが、映像にぎこちない感じはまったくなく、非常にグレードが高い。だが話自体については、あまり面白味がない。少年と犬との愛と友情の話ということになるんだろうが、単純でつまらないストーリーである。
 声優には、有名な俳優が起用されていて、しかもゲスト的にスカーレット・ヨハンソンやオノ・ヨーコ、渡辺謙まで出てきて豪華である。また、『七人の侍』のパロディみたいなシーンがある他、何より『七人の侍』のテーマ曲が随所に流れるんで、同作を大いに意識しているんだろう。僕がこの映画に興味を持ったのもそのあたりだったんだが、結局のところ、だから何だ?というレベルでとどまっている。三船敏郎風の小林市長も、声が甲高くて全然三船風の迫力がない(映像については迫力があるが)。もう少しドスの利いた声の声優を起用したら良かったのにと思う。だが、そういう話以前に、内容がつまらないという致命的な欠陥があるわけだが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『アナと雪の女王(映画)』
竹林軒出張所『スーサイド・ショップ(映画)』
竹林軒出張所『山賊の娘ローニャ (1)〜(3)(アニメ)』

by chikurinken | 2018-11-11 07:21 | 映画

『ボクサー』(映画)

ボクサー(1977年・東映)
監督:寺山修司
脚本:石森史郎、岸田理生、寺山修司
出演:菅原文太、清水健太郎、小沢昭一、春川ますみ、地引かづさ、唐十郎、具志堅用高

寺山「ジョー」

b0189364_17511157.jpg 寺山修司が監督したボクシング映画。落ちぶれている元ボクサーのトレーナー(菅原文太)と足に障害を持つボクサー(清水健太郎)の二人三脚のドラマで、寺山版『あしたのジョー』といったところ。スポ根マンガを映画にしたようなありきたりな演出が多く、目を瞠るような部分はほとんどない。
 菅原文太と清水健太郎のボクシングが割合サマになっていたのと、具志堅用高を始め、歴代の世界チャンピオンたちが大挙してゲスト出演していた(日本ボクシング連盟が協力しているらしい)のが印象に残った程度で、後はあまり見るべきものはなかった。もっともボクシング好きには楽しめるのかもしれない。
 菅原文太のトレーナーが飼っている犬がボクサーで、この犬が少しとぼけていて面白かったのが僕にとっての唯一の見所。監督が寺山修司だけに天井桟敷のメンバーも大挙して出演している。挙げ句に状況劇場の唐十郎までが出ていたが、こちらは友情出演みたいな感じだったのかなと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『チャンプ(1931年版)(映画)』
竹林軒出張所『書を捨てよ町へ出よう(映画)』
竹林軒出張所『初恋・地獄篇(映画)』
竹林軒出張所『寺山修司からの手紙(本)』
竹林軒出張所『買った、見た、ふるえた……キックの鬼 最終章』
竹林軒出張所『慢性拳闘症(本)』

by chikurinken | 2018-10-29 07:50 | 映画

『がんばっていきまっしょい』(映画)

がんばっていきまっしょい(1998年・フジテレビ他)
監督:磯村一路
原作:敷村良子
脚本:磯村一路
出演:田中麗奈、清水真実、葵若菜、真野きりな、久積絵夢、中嶋朋子、松尾政寿、大杉漣

青春がほろ苦い

b0189364_17203409.jpg 明朗青春スポーツ映画。原作は、松山市の『坊っちゃん文学賞』を受賞した小説で、ディテールがかなり具体的であるため、おそらく(自身の経験に基づく)私小説的な作品なのではないかと思う。
 主人公の少女が、松山の名門進学校に入学したものの目的を見いだせない毎日だったが、たまたま海で目にしたボートに心が動き、友人を誘って女子ボート部を作ってボート競技に取り組む……というような話。基本は高校女子ボート競技の話だが、友人たちとの付き合いや恋の行方も織り交ぜられていて、地方の女子高校生の青春記という趣の話になっている。映像は美しく、作りが丁寧であるため、随所に見所がある。また舞台が1976年になっており、(主人公の学年が)最初の共通一次世代などという話も出てきて、少し懐かしい感覚もある。
 内容は、明朗青春映画の『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』を彷彿させるような内容だが、元々は『がんばっていきまっしょい』がこの類の映画の元祖(といってもそれ以前にも似たような作品は数限りなくあるが)で、同じ製作者が2匹目、3匹目のドジョウを狙って作ったのがこの2作らしい。だが、3作の中では、原作がしっかりしていることもあり、『がんばっていきまっしょい』がベストだと思う。明朗な楽しさの中にも青春のほろ苦さが混ざっていて味わい深い(秋刀魚の味みたいにね)。
 主役の田中麗奈は本作がデビュー作で大変初々しい。森山良子と白竜が主人公の父母役で出ていたらしいが、全然気が付かなかった。
朝日ベストテン映画祭第1位、ブルーリボン賞新人賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ウォーターボーイズ(映画)』
竹林軒出張所『オヤジたちの“ウォーターボーイズ”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『独立少年合唱団(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した『スウィングガールズ』についての評(再録)。

(旧ブログ2006年12月7日の記事より)

<スウィングガールズ(2004年・東宝)
監督:矢口史靖
脚本:矢口史靖
出演:上野樹里、貫地谷しほり、本仮屋ユイカ、竹中直人、白石美帆

b0189364_710427.jpg よく作り込まれていておもしろいことにはおもしろいのだが、ストーリーが安直だ。マンガのストーリーによく見られるような安直さである。マンガが原作かと思ったくらいだ(どうやらオリジナル作品らしい)。「そんなにうまぐいがねって」と突っ込みを入れたくなる。
 登場人物がみな東北弁(米沢弁ですか?)を話すのは「なぜ?」と思った(関係者が米沢出身なのか?)が、それはそれで非常に味があって良かった。出演の竹中直人は、『シコふんじゃった』で見せたような絶妙なポジションで存在感を見せるが、ストーリーの安直さという点でも『シコふんじゃった』と共通していた。
★★★

by chikurinken | 2018-10-28 07:20 | 映画

『紀ノ川』(映画)

紀ノ川(1966年・松竹)
監督:中村登
原作:有吉佐和子
脚本:久板栄二郎
撮影:成島東一郎
美術:梅田千代夫
音楽:武満徹
出演:司葉子、岩下志麻、田村高廣、東山千栄子、丹波哲郎、有川由紀、沢村貞子

少々バランスの悪さを感じる

b0189364_14503657.jpg 有吉佐和子原作の同名小説の映画化。地方の名家に嫁いだ花という女性(司葉子)の半生記である。花の視点で嫁ぎ先の「家」との関係、夫や娘、息子との関係の他、その家や家族が激動の時代の中で翻弄される有様が描かれる。映画では、主人公の花の22歳から72歳までが描かれ、当時34歳だった司葉子が娘役から老婆役まで演じる。老婆役は少々無理があるが、そこそこ無難にこなしてはいる。
 紀ノ川を下る豪華な嫁入りシーンや祝言のシーンなどは地方の名家の有り様が再現されていて、無形文化財と言っても良いような豪華なシーンである。紀州の自然や当地での生活の様子なども映し出され、今は失われた美しい自然の映像や家屋を含む生活風景にはひたすら感心するが、ただストーリーはかなり端折った感覚があり、その一方でこういったシーンが長々と映し出されることについては、多少のバランスの悪さも感じる。それにせっかくの武満徹の音楽が、少々おどろおどろしかったりしてあまりうまい使われ方でないのも気になるところ。素材は豪華だがもう一つ料理しきれなかったというような印象が残る。
 キャストについては、司葉子と丹波哲郎が特に魅力的である。司葉子演じる花のことを、周りのすべて(の川)を取り込む紀ノ川と同じで周りの人やもの(家を含む)を取り込んで自分の懐に入れてしまうのだと、義理の弟役の丹波哲郎が岩下志麻に話すシーンがなかなか印象的で、これがこの映画のテーマの一端にもなっている。他のキャストの演技は総じて並みという印象で、大作であった割にはかなり地味な映画になってしまった。この映画も30年ほど前に見ているはずなんだが、司葉子と岩下志麻のぶつかり合い以外ほとんど憶えていなかった。それもやはり、演出と脚本がもう一つだったことが原因かなと今回見ながら感じたのだった。
 蛇足ではあるが、『俺は男だ!』の吉川君でお馴染み(?)早瀬久美も「新人」として出ていたらしいが、結局どれが彼女なのかわからなかった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『華岡青洲の妻(映画)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』
竹林軒出張所『彼岸花(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』

by chikurinken | 2018-10-27 07:50 | 映画

『華岡青洲の妻』(映画)

華岡青洲の妻(1967年・大映)
監督:増村保造
原作:有吉佐和子
脚本:新藤兼人
撮影:小林節雄
美術:西岡善信
出演:市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子、伊藤雄之助、渡辺美佐子、原知佐子、伊達三郎、田武謙三、杉村春子(語り)

端正な映像と小気味良い展開が魅力

b0189364_18211352.jpg 1967年、発表当初から話題になっていた有吉佐和子の小説『華岡青洲の妻』が大映によって早速映画化された。さすが文芸の大映といったところである。その作品がこの映画だが、スタッフが豪華な上、キャストも一流どころを揃えていて、なかなかの秀作に仕上がっている。
 主人公の華岡青洲は、全身麻酔による外科手術を世界最初に行った人で、有吉佐和子の小説によって一般人の間でも有名になったらしい。ただこの小説は、華岡青洲の功績を持ち上げるというものでは必ずしもなく、嫁姑の確執に焦点を当てるという、いかにも女流文学者らしい作品であった。映画でもそのあたりは非常にうまく再現されており、嫁の若尾文子と姑の高峰秀子が散らし合う火花がこの作品の見所の一つである。
 映画は90分程度に短くまとめられ、しかも小気味よく話が進むため少々ダイジェスト風ではあるが、忙しい現代人が見ても決して中だるみするようなことはないと思う。こういう風に短くまとめられたシナリオは、ともすると本当にダイジェストになってしまって陳腐な作品になることがあるんだが、そのあたりは演出の妙で、うまいこと処理されている。端正なモノクロ映像、それから大映らしい豪華なセットとあわせて、映画の完成度を高める役割を果たしている。増村保造作品の中でも会心の部類に入ると思う。
 キャストは、先述の若尾文子と高峰秀子は言うまでもないが、やはり市川雷蔵の存在感が素晴らしい。何をやっても絵になる役者だとあらためて思う。若尾文子と高峰秀子の紀州弁も非常に魅力的である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『紀ノ川(映画)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』
竹林軒出張所『陸軍中野学校(映画)』
竹林軒出張所『好色一代男(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『痴人の愛(映画)』
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『氾濫(映画)』
竹林軒出張所『兵隊やくざ(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』

by chikurinken | 2018-10-26 07:20 | 映画

『たそがれ清兵衛』(映画)

たそがれ清兵衛(2002年・松竹)
監督:山田洋次
原作:藤沢周平
脚本:山田洋次、朝間義隆
音楽:冨田勲
出演:真田広之、宮沢りえ、田中泯、岸惠子、吹越満、大杉漣、小林稔侍

平成時代劇の見本

b0189364_8153367.jpg 藤沢周平原作の同名短編小説を映画化したもの。実際には『たそがれ清兵衛』だけでなく、『祝い人助八』、『竹光始末』も原作になっており、いろいろな要素をまとめて1本をこしらえたというかなりアクロバチックなシナリオである。ただし、渾然一体とまとまっているため、寄せ集めの感覚はまったく湧かない。どこからどこまでがどの原作というのもなかなか見えてこないため、優れたシナリオと言うことができる。
 舞台は幕末の庄内地方。病気(結核)の妻(映画冒頭で死去)と幼い子供、もうろくした母を抱え、生活に困窮している50石取りの下級武士、井口清兵衛は、家事や内職に忙しいことから、勤務が終わったら、つまり黄昏時になったらすぐに直帰する。そのために同僚から「たそがれ」と呼ばれている。しかも妻がいなくなったことから身の回りのことが行き届かず、見るからに汚いなりをしていて、実に冴えない男である。ところが実際は相当な剣の使い手であることから、日常から離れた大きなうねりに巻き込まれていく……というようなストーリー。ストーリーの進行にあわせて語りが挿入され、次女の立場からの回想として、岸恵子(数十年後の次女の役)のナレーションで語られる。
 先ほども言ったように大変よくできたストーリーで、しかもセットが豪華、時代考証もしっかり行われている(監督は相当凝ったらしい)点で、時代劇の模範みたいな映画になっている。登場人物の清兵衛と同じように、穏やかな雰囲気が漂うが隙がないという類の作品である。ただ、これは以前のレビューでも書いたんだが、武士が黄昏時になるまで勤務しているというのが、どうも実際とは異なっているんじゃないかと感じる。こういう勤務形態は近代的なもので、江戸時代までの侍の仕事は、今と比べて割合のんびりしていたと思うが。ただそうなると「たそがれ清兵衛」自体が成立しないので致し方ないところだが、時代考証をしっかり行った監督の立場からすると、今頃、内心忸怩たる思いということになっているかも知れない。ただ勤務風景や生活が非常にリアルなんで、そういう点での面白味はある。
 また主人公の清兵衛(真田広之)と朋江(宮沢りえ)が非常に魅力的なキャラクターであるのもこの映画の大きな魅力である。上司(小林稔侍)や同僚(赤塚真人ら)もいかにも下級役人然としていて、大変存在感がある。そのために当時の武士の生活を覗き見しているような風情がある。清兵衛の幼なじみを演じる吹越満は、この直後、『江戸古地図の旅』というドキュメンタリーでも同じような役回りを演じているが、もしかしたらこの映画の影響かも知れない。
 全体を通じてまったく隙がない山田洋次らしい作品で、それ以前の実にいい加減な考証の時代劇とは一線を画す作品である。新時代のフロンティア時代劇と言って良いのではないかと思う。実際これ以降、本格的で上質な時代劇映画が(山田洋次作品もあるが)何本か出てきて、秀作として残っている。そういう意味でも、この映画が日本映画史上の1つの画期になったと言える。
第76回キネマ旬報ベスト・テン日本映画ベストワン、
日本アカデミー賞作品賞他受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『武士の一分(映画)』
竹林軒出張所『果し合い(ドラマ)』
竹林軒出張所『闇の歯車(ドラマ)』
竹林軒出張所『江戸古地図の旅(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『元禄御畳奉行の日記 (上)(下) (横山光輝版)(本)』
竹林軒出張所『石川英輔の本、5冊』
竹林軒出張所『家族(映画)』
竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』
竹林軒出張所『男はつらいよ 純情篇(映画)』

 以下、以前のブログで紹介した『たそがれ清兵衛』の評の再録。概ね同じようなことが書いてある。
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(旧ブログ2004年10月25日の記事より)
たそがれ清兵衛(2002年・松竹)
監督:山田洋次
原作:藤沢周平
脚本:山田洋次、浅間義隆
出演:真田広之、宮沢りえ、小林稔侍、大杉漣、赤塚真人

 山田洋次あなどるべからず。
 山田洋次の映画は、あまり好きじゃない(接写が多く疲れるのだ)が、これはいける。乾いた空気が心地よい。
 「世間でダメだと思われている人間が実はすごい人だった」というパターンはそれ自体楽しいものだが、それに恋愛や家庭、宮仕えの悲哀など、さまざまなエピソードをつなぎ合わせて、どっしりした仕上がりになっている。最後のテロップを見ていると、藤沢周平の原作として3本あがっていたが、3本の話を1つにまとめ上げたにしてはあまりに良くできている。すばらしいシナリオだ。
 真田広之は相変わらず芸達者だ。宮沢りえも、抑えた演技で良い。
 ただ以前、江戸時代の武士は1日4時間程度しか仕事をしていないと本で読んだが、そうすると帰宅する時間も明るい内になるので「たそがれ」にならないんじゃないか。どうだろう。これは原作に対する疑問。
★★★★

by chikurinken | 2018-10-25 07:30 | 映画

『選挙2』(ドキュメンタリー)

選挙2(2013年・Laboratory X)
監督:想田和弘
撮影:想田和弘
出演:山内和彦、山内さゆり(ドキュメンタリー)

冗長で無駄に長い

b0189364_15250516.jpg 2005年に、川崎市議会議員選挙に立候補し当選した山内和彦氏が、2011年再び同じ選挙に出馬する。その選挙活動の様子を追ったドキュメンタリーがこの作品。前回の選挙は、ドキュメンタリー映画『選挙』で描かれていたが、今回はその続編に当たる。
 前回は外部の人間がいきなり(自民党に代表される)日本型選挙の現場に入ったときにどう感じるかという視点がテーマだったが、今回は、普通の人間が普通の感覚で日本型選挙を戦うとどうなるかという実験的な「観察映画」である。「実験的」と言っても、製作者側は単に山内氏に密着し、他の候補を含む選挙の様子を撮影するだけで、実際に「実験的」なのは山内氏である。かつては落下傘候補として自民党議員になったが、その次の選挙では推薦を受けられなかったのか(あるいは他の自民党議員への義理があったのか)結局出馬せず、一般人として過ごしていたが、2011年の福島原発事故で(国民が騙されていたことについて)憤りを覚え、その憤りを人々に表明したいという動機で急遽出馬を決める。そのため選挙活動もおざなりで、ポスターを張って選挙ハガキを送るだけで、街頭演説もほとんどしない(最終日に放射能除去作業者のコスプレをした状態で数回だけ街頭演説を行った)。ときどきポスターの掲示板をまわって剥がれているポスターを張り直すという活動がメインで、撮影者はそれに同行して取材する。したがって動きはあまりなく、山内氏の聞き語りが中心になる。他の候補に対するコメントや、福島原発事故対策や原子力行政への憤りなどが語られるが、これがこのドキュメンタリーの一番面白い部分と言っても良い。なんと言っても山内氏の魅力がこの作品のミソである。
 ただし、この程度の活動で選挙を勝ち抜こうというのは虫が良すぎるのは誰の目にも明らかで、もちろん彼の言っていること、つまり名前を連呼したり街を歩いている人に握手を強要したりすることはおかしい、政策を主張すべきだというのはきわめて正論であり同意するが、実際に名前と顔が知られないことには、票が集まるわけがないじゃないかというのは第三者的に見れば明らかで、本人も言っていた「青島幸男なみ」の活動では、一般人が当選するには無理がある。前の作品(つまり『選挙』)による知名度を少々過大評価しすぎたのでは……と僕自身は感じた。結果は当然落選である。
b0189364_15251131.jpg このときの選挙は、東日本大震災の直後で自粛ムードが漂っていたことから、当初はどの候補者も名前を大音量で連呼することはあまりなく、街頭演説も控え目で、非常に穏やかで「正常な」感のある選挙だったが、数日過ぎると案の定堰を切ったように「正常化」した。山内氏が訴えるような、政策を主張してそれを有権者が吟味するというような選挙は今の日本では決して起こり得ないということが、この過程を通じて徐々に明らかになってくるのがなかなか虚しい。そもそも日本の有権者のほとんどは、個人的な利害が絡んでいない限り選挙になんか関心がない。個人的な利害がある人ばかりが選挙に参加するため、利益誘導型になってしまう。システムを抜本的に変えない限り、選挙互助団体である自民党や公明党がいつまでも勝ち続けるのは目に見えている。そういうことをあらためて思い知らされるドキュメンタリーであった。
 ドキュメンタリー自体は、日常風景の撮影が非常に多く、無駄に長いという印象である。なんせナレーションがないドキュメンタリーが、2時間半を超えるのである。途中他の候補者(自民党)から撮影するなとクレームが来たりして緊迫する場面があったが、こういうシーンが続かなければ2時間以上もドキュメンタリー映画を見続ける元気はない。なお、僕は自民党についてはまったく共感を覚えていないが、彼らの(撮影を拒否するという)主張については一理あると思う。ただ映像化されると、カメラに対するクレームがいくら正論であってもその人が悪者に見えてしまうのは世の常で、この作品でもご多分に漏れない。映して欲しくないという人を撮影する(その上、映画作品という形で残す)のは、映像という名の暴力であると思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『自民党で選挙と議員をやりました(本)』
竹林軒出張所『精神(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『Peace(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-10-07 07:24 | 映画

『ファンタスティック・プラネット』(映画)

ファンタスティック・プラネット(1973年・仏、チェコ)
監督:ルネ・ラルー
原作:ステファン・ウル
脚本:ローラン・トポール、ルネ・ラルー
アニメーション

映像がファンタスティック

b0189364_17160263.jpg 一部で伝説的な存在になっているSFアニメ映画。
 未来社会が舞台だと思われるが、地上では人間(と似たような種族)はすでに弱者になっている。世界を支配しているのは、ドラーグ族という(人間から見て)巨人族で、しかも高等文明を持つ。人間は、ドラーグ族にあるいは愛玩されたりもするが、基本的に駆逐されるべき存在である。人間族は、異常な速度で繁殖することからドラーグ族にとって厄介な存在になっており、それを勘案すると現代社会におけるネズミみたいな存在と言えるのか。その人間族が、いよいよドラーグ族に撲滅させられそうになり、それで反乱を起こす……というようなストーリーになる。
 今ではSFで良くあるストーリーと言えば言えるが、この映画は元祖みたいな存在かとも思う。それに何より、映像が非常にユニークで、奇妙な生物、植物が次々に登場して、相当な気持ち悪さも漂う。しかしそうは言ってもユニークであることには変わりなく、そのあたりは『エイリアン』のギーガーを思わせるような部分もある。いずれにしても、キャラクター・デザインはかなりのものである。映像の芸術性も高く、やはり独特の映像がこの映画の一番の魅力で非常に「ファンタスティック」である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『時の支配者(映画)』
竹林軒出張所『ラ・ジュテ(映画)』

by chikurinken | 2018-10-05 07:15 | 映画