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竹林軒出張所

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カテゴリ:映画( 653 )

『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』(映画)

お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました
(2015年・シマフィルム)
監督:遠藤ミチロウ
撮影:高木風太
出演:遠藤ミチロウ、竹原ピストル(ドキュメンタリー)

ツアー・ミュージシャンの生き様の記録

b0189364_19050892.jpg 2011年遠藤ミチロウが全国で展開したライブ活動を追いかけるドキュメンタリー。
 遠藤ミチロウと言えば、ザ・スターリンというパンク・バンドのボーカルをやっていたロッカーである。このザ・スターリン、動物の贓物をまき散らしたりという、かなり過激で暴力的なライブ・パフォーマンスで有名で(僕はザ・スターリンのことを学生の頃知った)、しかも遠藤自身、おどろおどろしいメイクを付けていることから、彼もちょっとアブないタイプの人かと長年思っていたんだが、この映画に出てくる素の遠藤ミチロウは、穏やかかつ知的な人物(当時60歳)で、この映画での一番の驚きはその点だったのだった。
 それはともかく、映画は純粋にライブの模様と、そこに赴いてライブの開催者などと対話する模様を追った密着ドキュメンタリーで、面白いかと言われれば、遠藤ミチロウ・ファン以外にとってはあまり面白さを感じるものではない。事件といえば、この撮影の途中に東日本大震災が起こったことで、しかも遠藤の出身地が福島県二本松で、原発に割合近かったことぐらいである。これを受けてか遠藤自身が反原発の歌をライブで歌っている様子が流されるし、放射能汚染されている実家に戻るシーンなどもあるが、それでもこういった事象は、この映画では背景に過ぎない。あくまでもライブと旅回りの様子がメインで(たぶん)、遠藤ミチロウというツアー・ミュージシャンの生活や生き様を紹介するドキュメンタリーなんである。そのためもあって、遠藤ミチロウに対しては非常に親近感が湧く。まあ、そういった類の作品である。
 なおタイトルは、遠藤ミチロウの歌のタイトルから取ったものである。遠藤ミチロウは子どもがいないため、家族という概念の中ではいつまでも子どもの立場だと語っていたのが印象的だった。この歌自体もその辺の背景と関係があるのかも知れない。
 この遠藤ミチロウだが、先頃亡くなってしまった(2019年4月25日没)。だがこういった映像を介して本人に接すると、実際に生きているかどうかはあまり関係ないという感覚になる(そもそも直接的な面識があるわけではないし)。こういうドキュメンタリーという形で、素の遠藤ミチロウが映像によって後世にいつまでも残されることになったのは、結果的に不幸中の幸いだったのかも知れないなどと考えるのだ。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ツール・ド・奥の細道(ドキュメンタリー)』

 以下、以前のブログで紹介した、ミュージシャン、忌野清志郎のツアーを追った映画の評の再録。この作品とよく似た地味な内容で、案の定あまり書くべきことが見つからなかったようだ。

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(2006年9月4日の記事より)
不確かなメロディー
(2001年・アースライズ)
監督:杉山太郎
ナレーション:三浦友和
出演:忌野清志郎、藤井裕、武田真治、上原裕、ジョニー・フィンガーズ

忌野清志郎率いるラフィータフィーのツアーを追ったドキュメント。
清志郎やロックのツアーに関心のある人向き。
★★★

by chikurinken | 2019-05-12 07:04 | 映画

『華氏119』(映画)

華氏119(2018年・米)
監督:マイケル・ムーア
脚本:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア(ドキュメンタリー)

アメリカの行く末についてきわめて悲観的
全編に渡って暗さが漂う


b0189364_19021127.jpg 『ボウリング・フォー・コロンバイン』、『華氏911』のマイケル・ムーアが、トランプをぶった切る。
 扱われているのはトランプ政権だが、通奏低音のように流れて主張されるテーマはアメリカ民主主義の危機で、現在の、多数派の意見がないがしろにされている状況を告発する。
 マイケル・ムーアと言えば、リベラル派の代表みたいな存在で、一部では「左翼」などと言う人間もいるようだが、マイケル・ムーアによるとアメリカの多数派はリベラルであるという。この作品でもいくつかの統計が紹介されているが、それによると、多数派は銃規制に賛成で、同性結婚を認めることに賛成で、国民皆保険に賛成だそうだ。ところが、本来あるべき民主主義制度が機能しなくなっており、そのせいで多数派の意見が政治に反映しなくなっているのだとする。
 実際、先の大統領選挙についても得票数は民主党のヒラリー・クリントンの方が多かったにもかかわらず、誰もが予想しなかったトランプの勝利という結果に終わった。原因の一つは選挙人選挙という古い制度が残存しているせいで、もう一つは民主党内の大統領候補予備選挙で、支持率の高かったバーニー・サンダースが巧妙に消し去られたという事実のせいであるという。返す刀で、民主党内の腐敗についても切り捨てられる。同時に、アメリカ人の間に蔓延する無力感のために投票率が低くなっているという事実に触れ、大統領選挙でも両候補の得票数より無投票の票がはるかに上回っているという現実が示される。
 こういったことが複合的に作用しているのが今のアメリカの現状で、アメリカの伝統とされている民主主義が今まさに危機を迎えており、そこに現れたのがドナルド・トランプだというのがこのドキュメンタリーの主張である。またドナルド・トランプの出現をヒトラーの出現になぞらえた表現もあり、ムーア自身がかなりの危機感を抱いていることが憶測される。そのためか、このドキュメンタリー全体を流れる空気が非常に暗く、これまでのムーア作品みたいな乾いた笑いはほとんどない。
 ミシガン州フリントの水道汚染の実態も告発されており、ミシガン州知事の利益追求のために多くの市民の生命が犠牲になっている状況も紹介されている(『ガスランド』の状況を彷彿させる惨事である)。こういう不正が蔓延している状況を目にすると絶望的な気分になるが、一方でティーンエイジャーたちが銃規制の声を上げて大きな流れを作っている様子や、草の根の政治活動も紹介され、まだ可能性が残されていることも示唆される。アメリカの民主主義が戻ってくる日が果たしてやって来るのかわからないが、民主主義は守るための相応の努力を払わなければ、いつでも消えてしまうものであるという主張が大きな説得力を持つ。この作品に登場するある学者によると、アメリカの本当の民主主義が始まったのは1970年代に過ぎないという。この流れを途絶えさせずに継続できるのか、今市民の力が試されているというところに落ち着く。
 アメリカの状況は悲惨であるが、日本でもかなり似たような状況が進んでいるのも事実で、決して対岸の火事で終わらせず、この映画を自ら考えるための素材として活用したいというようなことを考えたのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『シッコ(映画)』
竹林軒出張所『“強欲時代”のスーパースター(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“黒幕”バノンの戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ガスランド(ドキュメンタリー)』

 以下、以前のブログで紹介したマイケル・ムーア作品の評の再録。
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(2004年6月20日の記事より)
アホでマヌケなアメリカ白人
マイケル・ムーア著、松田和也訳 柏書房

日本政府が目指しているアメリカってこんな国なんです

b0189364_19021103.jpg アメリカが理想の国だとか自由の国だとか、そんな幻想を持っているほどウブじゃないつもりだが、ここに書かれている内容は想像を遙かに超えるものだった。
 これじゃあ南米やアフリカの軍事国家と同じだ。選挙は不正だらけ、冤罪で死刑にされる人々(「最近の研究によれば、23年間(1973-95)の4578件の(死刑の)事例を調査したところ、死刑判決の7割近くに重大な誤りが見出され、再審理が行われている。また、上訴によって死刑判決が覆る率は3分の2。全体的な誤審の率は68パーセントに及んでいた。」)、大企業に支配される学校、虐げられる被差別民(黒人のこと、いまだに黒人差別はなくなってないらしい。「平均的な黒人の年収は、平均的な白人よりも61パーセントも低いのだ。この差は、1880年当時の格差と全く同じなのである!」)……。すべてが一部の金持ちを潤わせるために成り立っているというわけだ。
 つまりは、金持ちの金持ちによる金持ちのための国、それがアメリカ。
 この本のおかげで、今まで少しずつ見聞きしてきたアメリカの実態が、体系的にまとめられた。アメリカに幻想を持っているすべての人、必読!
 ついでだが、翻訳も秀逸だ。装丁とタイトルはいただけないが。
★★★★
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(2004年9月17日の記事より)
b0189364_19021198.jpg華氏911 (2004年・米)
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア(ドキュメンタリー)

 上記の本、『アホでマヌケなアメリカ白人』の映画化と考えてよかろう。内容はほぼ一緒。同書が主張するところの証拠映像を示しているため、そういう意味で興味深い。
 「この作品はドキュメンタリーじゃない」とかいう議論があるが、そもそもドキュメンタリーなんてのは必ず作り手側の考え方が反映されているもので、多少主張が「偏って」いようが、だから「ドキュメンタリーじゃない」などと言うのは「アホでマヌケ」に聞こえる。
 見せ方が相変わらずうまく、まったく飽きない。
★★★☆
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(2004年6月24日の記事より)
ボウリング・フォー・コロンバイン(02年・米、加)
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア、チャールトン・ヘストン、マリリン・マンソン(ドキュメンタリー)

b0189364_19020248.jpg アメリカ、コロラド州コロンバイン高校の銃乱射事件を取り上げ、銃規制について問題提起する映画。
 中でも興味深かったのは、米国での銃による死者数が1万人を超え、隣のカナダで数百人という事実(ちなみにカナダでも銃規制はされていない)だ。その理由は、だんだんと明らかになるのだが、つまるところ、米国ではマスコミや政治家により常に恐怖心があおられていることと、カナダでは福祉が進んでいるというところに落ち着く。つまり、米国の銃社会は、何者か(おそらくは武器関連企業)に意図的に作り出されているということだ。
 マイケル・ムーア監督の切り口も非常に鋭く、皮肉が効いた演出も良い。120分間、まったく飽きることがない。
 ムーアの著書、『アホでマヌケなアメリカ白人』をあわせて読むとさらに愉しめる。
★★★★
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(2004年6月25日の記事より)
ザ・ビッグ・ワン(97年、米英)
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア、フィル・ナイト(ドキュメンタリー)

b0189364_19021078.jpg 米国社会を浮き彫りにするマイケル・ムーアの長編ドキュメンタリー第2作。
 DownSizing(リストラ)という名目で無情に切り捨てられる弱者たち。一部の人間だけが肥えふくれる病的なアメリカの不平等社会を描く。
 アメリカ人が、こちらの予想と違って、ちゃんと社会生活しているのが意外。フレンドリーだし、秩序をよく守っている。もっと緊張感のある社会(ちょっと油断していると銃で襲われるかのような)だと誤解していたが、画面からはまったくそんなことは感じられない(一部アブない奴は出てくるが)。恐怖を煽る多くの映像によって、こちらも大きな偏見を持っていたことを痛感させられる(これがこの映画の1つのテーマでもあるんだが)。
 マイケル・ムーアのバイタリティには感心させられっぱなしだ。
★★★★
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(2004年6月21日の記事より)
ロジャー&ミー(89年、米国)
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア、ロジャー・スミス(ドキュメンタリー)

 ミシガン州フリント。GMの工場閉鎖で失業者が多数発生し、町が壊滅していく様子を追ったドキュメンタリー。
 GMの会長、ロジャー・スミスを追跡する。
★★★

by chikurinken | 2019-05-10 07:01 | 映画

『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』(映画)

毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル 最期に死ぬ時。
(2018年・NY GALS FILMS)
監督:関口祐加
撮影:関口祐加
出演:関口宏子、関口祐加(ドキュメンタリー)

前々作と状況がほとんど違わない

b0189364_20184544.jpg 『毎日がアルツハイマー』の第3弾。
 監督で当事者の関口祐加が大きな手術のために入院したり、アルツハイマーの母が施設で外泊したりというのが新しく加わったエピソードであるが、基本線は第1作と変わりない。したがって映像としての目新しさはほとんどない。
 今回は、まもなく母が迎えるであろう死について考えるというのがテーマになっていて、自死幇助が世界で唯一認められているスイスの医師に取材したり、英国の末期医療の医師に取材したりしているのが新しいポイントである。ただしそれについてもNHKスペシャルみたいなレベルであり、あらためて映像化し、それを公開するということに必然性が感じられない。それは前々作から状況があまり変わっていないためである。前作を見ていればこの作品をわざわざ見る必要はないと感じてしまうのだ。もちろん当事者にとっては重要なことなんだろうが、ドキュメンタリーとしての完成度は低いと言わざるを得ない。
 また前作にも共通するが、関口祐加(監督)のナレーションに変な抑揚があって大変気になる。NHKみたいにプロのナレーターに任せた方が良いんじゃないかと感じる。
★★★

参考:
竹林軒出張所『毎日がアルツハイマー(映画)』
竹林軒出張所『徘徊 ママリン87歳の夏(映画)』

by chikurinken | 2019-05-08 07:18 | 映画

『徘徊 ママリン87歳の夏』(映画)

徘徊 ママリン87歳の夏(2015年・風楽創作事務所)
監督:田中幸夫
撮影:田中幸夫
出演:酒井アサヨ、酒井章子(ドキュメンタリー)

徘徊の現実とその対処法

b0189364_17245002.jpg 認知症の母親(87歳)とその世話をする娘(55歳)のドキュメンタリー。
 この母親、のべつ徘徊する(なんと4年間で家出回数1338回! 徘徊距離1844kmだそうだ)上、認知症の人にありがちだが、突然怒り出したり夜中に荒れたりすることもあって(それも映像に出てくるが)、まったく手が付けられない状態になる。こういう親の介護が必要になれば、ほとんどの人々が絶望するんであろうが、この娘、アッコさんは、それをそのまま受け入れることで、今は以前ほどの苦しみを感じなくなったという。また、近所の人々の善意にもそのまま甘えているようで(いろいろな人が助けてくれるらしい)、介護のコツはこのあたりにあるんだろうかなどと考える。
 それにしてもこのドキュメンタリー映画、認知症老人の徘徊の現実がきわめてよく映し出されており、現代の大きな社会問題をミクロ的な視点で描ききっている点は立派である。ともすれば辛く絶望的な映像になりそうな素材ではあるが、このアッコさんみたいに現状をポジティブに捉えられている人が出てくると、見ている側にとっても救いになる。アッコさんと母親(ママリン)の、笑いを誘う大阪風の会話も良い味を醸し出している。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『毎日がアルツハイマー(映画)』
竹林軒出張所『いま助けてほしい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『老人漂流社会(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』

by chikurinken | 2019-05-06 07:24 | 映画

『不信のとき』(映画)

不信のとき(1968年・大映)
監督:今井正
原作:有吉佐和子
脚本:井手俊郎
音楽:富田勲
出演:田宮二郎、若尾文子、加賀まり子、岸田今日子、岡田茉莉子、三島雅夫

スイスイも見た目ほど楽ではない

b0189364_21193808.jpg 割合普通のサラリーマンが、妻以外にも女を作り、しかも子どもまで産ませて、何となくうまくやっているんだが、予想通りゴチャゴチャになっていくというストーリー。うまくやってんだかうまくやられてんだかよくわからないという皮肉な展開になる。男たちがしたたかに生きていると思ったら、したたかなのは女の方だったという話で、女性(有吉佐和子)が書いた小説が原作であることを考えると、こういうストーリー展開も納得が行くというものである。
 主演は田宮二郎で、田宮二郎と言えばハードボイルド的な謎めいた存在の役柄が多いが、この作品では、普通の、とは言ってもかなり成功しているサラリーマンを演じており、しかもこの男、世間をスイスイと渡っているような要領の良さがある。そこに登場するのが女の鑑みたいなホステス、若尾文子で、若尾文子の方は例によって不思議な存在を好演している。他に、同じように世間をスイスイと渡っているような会社社長(三島雅夫)も「スイスイの師匠」みたいな存在として登場するが、こちらもコケティッシュな女(加賀まり子)に心を奪われ、「スイスイ」も端で見るほど楽ではないと思わせる。いろいろなことがシニカルに展開し、普通であれば、女性の厳しい目で描かれた愚かな男たちというふうにも映るわけだが、この映画では、登場する男たち(主人公のサラリーマンと会社社長)が、周りに振り回されながらも、どことなく愉しんでいる風情があって、それがこの作品の魅力に繋がっている。
 キャスト、特に女優陣が豪華だが、スタッフも豪華である。また大映らしい丁寧な作品作りにも好感が持てる。例によって文芸作品が原作というのも大映の良心が感じられて良い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『華岡青洲の妻(映画)』
竹林軒出張所『紀ノ川(映画)』
竹林軒出張所『恍惚の人(映画)』
竹林軒出張所『米(映画)』
竹林軒出張所『婉という女(映画)』
竹林軒出張所『にごりえ(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『女の小箱より「夫が見た」(映画)』

by chikurinken | 2019-04-19 07:19 | 映画

『女の小箱より「夫が見た」』(映画)

女の小箱より「夫が見た」(1964年・大映)
監督:増村保造
原作:黒岩重吾
脚本:高岩肇、野上竜雄
出演:若尾文子、川崎敬三、田宮二郎、岸田今日子、江波杏子、千波丈太郎、小沢栄太郎

いかにも黒岩重吾というストーリー

b0189364_19541550.jpg 変わったタイトルだが、黒岩重吾の『女の小箱』という短編集のうちの一編が「夫が見た」というタイトルで、それが原作であるためにこういうタイトルが付いているんじゃないかと想像する。もっとも原作については読んでいないので、短編集かどうかもわからないし、それにこのストーリー自体、原作から変えられている可能性もある。というのも、映画のストーリーが「夫が見た」というタイトルにふさわしくないためで、そのあたりは原作を読んでいないため詳しくはわからない。ただ映画のストーリー(原作と同じかどうかはわからないが)については割合よく練られていて、凝ったストーリーではある。
 自分の野心を遂げることをひたすら求める男たちと、愛されることをひたすら求める女たちが、絡み合いつつ、当然うまく噛み合いはしないのだが、それが噛み合い始めると関係が崩壊するというかなり逆説的なプロットである。株の買い占めによる企業の乗っ取りがモチーフになっていて、そのあたりも時代を考えるとかなり新しい素材だったのではないかと推測される。ストーリーはこのように意欲的で破綻もないが、終わりの方は少々つまらない収束の仕方をして(と僕は感じた)そのあたりが少しばかり残念なところ。
 演出はオーソドックスで破綻はなく、どのキャストもよく役に収まっている。若尾文子はラブシーンありセミヌードありで、大車輪の活躍である。またクールな田宮二郎も実に魅力的である。キャストは、この時代の他の増村作品と共通する俳優が多いが、どの映画でも非常に個性的な存在を演じているため、他の映画との共通性はあまり感じない。この頃の大映映画は文芸作品の原作が多く、こういった映画は、やはりストーリーがある程度しっかりしているせいか、今見てもあまり色褪せることはない。当時の大映の作品作りへの良心みたいなものさえ感じられる。
 この作品にしても、スリルやサスペンスに溢れた作品で、黒岩重吾作品の雰囲気がよく活かされていると感じる。世間的な評価はこれまでそれほど高くはなかったようが、もう少し評価が高くてしかるべきと思える作品である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『妻は告白する(映画)』
竹林軒出張所『氾濫(映画)』
竹林軒出張所『巨人と玩具(映画)』
竹林軒出張所『不信のとき(映画)』

by chikurinken | 2019-04-17 07:25 | 映画

『女は二度生まれる』(映画)

女は二度生まれる(1961年・大映)
監督:川島雄三
原作:富田常雄
脚本:井手俊郎、川島雄三
音楽:池野成
出演:若尾文子、藤巻潤、フランキー堺、山村聡、山茶花究、江波杏子、山岡久乃、倉田マユミ

奔放に生きる人間らしい女性
ただ共感はできない


b0189364_21001906.jpg ストーリーにあまり意外性や起伏がないため、主題が伝わりにくい。原作が富田常雄の『小えん日記』ということで、日記ものと考えれば、それなりに納得がいく。
 芸者をやっている小えんという女性(若尾文子)は、芸者をやりながら売春まがいのことまでやる。そのためか、性に奔放な性格……というかあまり考えなしにいろいろな男たちと付き合っていく。そこには悪びれた様子もなく、見ていて不快なタイプの人間でもない。こういう小えんという女性の生き様が描かれるのである。
 その後、売春行為が警察に目を付けられたせいで、芸者を辞めざるを得なくなり、ホステスに転身。そこでかねてより面識のあった建築家、筒井(山村聡)に出会い、妾になるという風に話は進んでいくんだが、その間もいろいろな男たちと関係を持つ。この小えん、将来もあまりない憐れな存在であることは、筒井の口から語られるが、本当に刹那的な生き方なんである。こういう若い女性の存在はリアルではあるが、僕のような平凡な人間にとってなかなか共感できにくい存在であるため、映画としての芯が感じにくく、それが主題のわかりにくさに繋がっているのではないかと思う。
 演出自体は非常にかっちりしていて、短いショットが連ねられるのも小気味良い。東宝の川島雄三が大映で初めて撮影した映画だということで、同じく東宝のフランキー堺まで引き連れてきた。外様でいろいろ苦労もあったかも知れないが、そういうことはまるで感じさせないしっかりした作りになっている。主役の若尾文子は、少し抜けた感じの女性を好演。映像で美貌があまり強調されていないのも、人間らしさがかえって引き出されており、良い効果が出ている。
 音楽は現代音楽風で少々変わっているが、映画とは意外に良く合っている。総じて、隅々まで目が届いた、できの良い映画という印象を受ける。相当、地味な作品ではあるが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『しとやかな獣(映画)』
竹林軒出張所『真実一路(映画)』
竹林軒出張所『瘋癲老人日記(映画)』

by chikurinken | 2019-04-15 06:59 | 映画

『おしゃれ泥棒』(映画)

おしゃれ泥棒(1966年・米)
監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ジョージ・ブラッドショウ
脚本:ハリー・カーニッツ
出演:オードリー・ヘプバーン、ピーター・オトゥール、イーライ・ウォラック、ヒュー・グリフィス、シャルル・ボワイエ

よくできたストーリーの
ハリウッド的な犯罪ロマンス・コメディ


b0189364_20574319.jpg 『ローマの休日』『ベン・ハー』のウィリアム・ワイラーが監督した犯罪コメディ・ロマンス映画。
 名画の贋作を作っている富豪の娘(オードリー・ヘプバーン)と贋作を暴く活動をしている捜査官(ピーター・オトゥール)が、いろいろな成り行きで、100万ドルの価値がある彫刻作品(実は贋作)を盗むハメになり、それがロマンスを生むというようなストーリーである。ワイラーらしくユーモアも適度に盛り込まれ、ストーリーもよくできているが、軽いいかにもな60年代ハリウッド作品と言えるような話ではある。
 この作品も、35年位前に見て以来、久しぶりに見たのだったが、幸か不幸かストーリーはほとんど忘れていた。当時も面白いと感じた記憶はあり、おそらくそれはストーリーの部分なんだろうが、同時にヘプバーンがかなり年を食っていて、少々痛々しさを感じたような記憶の方が強い。それに(時代背景のせいもあるんだろうが)化粧も無茶苦茶濃いし、少なくとも『ローマの休日』のときみたいな可憐な美しさはすでになくなっている。
 もちろん、エンタテインメント映画としては上出来で、純粋に楽しみたいという意図で見れば、それほど大きな外れはないと思う。とは言えやはり、先ほども言ったようにきわめてハリウッド的な軽いエンタテイメント作品であり、あるいは好みが分かれるかも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ローマの休日(映画)』
竹林軒出張所『シャレード(映画)』
竹林軒出張所『泥棒成金(映画)』
竹林軒出張所『快盗ルビイ(映画)』
竹林軒出張所『ベン・ハー(映画)』

by chikurinken | 2019-04-13 07:33 | 映画

『怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ』(映画)

怪獣大戦争 キングギドラ対ゴジラ(1965年・東宝)
監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
脚本:関沢新一
音楽:伊福部昭
出演:宝田明、ニック・アダムス、田崎潤、水野久美、沢井桂子、久保明、土屋嘉男

ゴジラがシェー!
見ているこっちがシェーだ


b0189364_19023235.jpg 『フランケンシュタイン対地底怪獣』とかなり共通したキャスト、スタッフの東宝SF映画。僕が今回見たのは、おそらく71年に『東宝チャンピオンまつり』で上映されたであろう短縮バージョンの方である。
 木星の衛星X星の探査に行った宇宙飛行士が、現地でX星人と遭遇し、そのときにX星で破壊活動をするキングギドラを退治するために、地球に棲息するゴジラとラドンを貸してほしいと要請される。だが実は、想像通り、このX星人は地球侵略を目論んでいたのだった……というストーリーである。ストーリー自体は途中まで比較的整合性がとれていて、破綻はなかった。ただ、大風呂敷を収拾できなかったという『インデペンデンス・デイ』のパターンになっているのがはなはだ残念。そもそも、恐るべき力を持つ強力な侵略者を撃退するわけだから、(H.G.ウェルズの『宇宙戦争』みたいに)それなりの説得力がなければ納得できないんだが、強すぎる敵に勝つ方法などそうそうあるはずもなく、結局のところ、かなり苦しい(しかも相当いい加減な)決着になってしまっている。
 しかも最後の方は案の定、三大怪獣が暴れ回るというような子ども受けしそうな展開になって、まったくもって新鮮さがない。SF映画というより子ども映画と言うのがふさわしい内容である。
 特撮は割合よくできているが、こちらもいい年をした大人が見て楽しめるかどうかは微妙である。それにゴジラがシェーをやったりするのも、子ども向けのサービスのつもりか知らないが、正直恥ずかしいからやめてほしいと感じる。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『モスラ対ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『マタンゴ(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタイン対地底怪獣(映画)』
竹林軒出張所『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(映画)』
竹林軒出張所『イノさんのトランク(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-11 07:02 | 映画

『聖☆おにいさん』(アニメ)

聖☆おにいさん(2013年・SYM製作委員会)
監督:高雄統子
原作:中村光
脚本:根津理香
出演:森山未來、星野源(アニメーション)

結局は異文化ギャップに落ち着く

b0189364_20041433.jpg マンガ『聖☆おにいさん』の劇場アニメ作品。
 ドラマ版はコントで終始していたが、あれよりも原作の味が活かされていると思う。何本かのエピソードによるオムニバス風の構成である。
 天界から東京・立川に休暇でやって来たイエスとブッダの日常を描くというストーリーで、例によって、視聴者(読者)の持つ(聖人としての)イメージと、作品で提示される(日常者としての)イメージのギャップを楽しむというもの。だが、基本的には来日した外国人が見る日本の風景みたいなものがベースになっているように思う。そういう意味では、聖人でなく穏やかな外国人が主人公でも似たような話になると感じる。BOSSのCM「宇宙人ジョーンズ」みたいなもんで、大きな素材を持ってきた割には、結局、話の中心は異文化ギャップに落ち着いてしまうということになる。
 いくつかのエピソードの中では、街のクリスマスの喧噪にはしゃぐイエスのエピソードがユニークで面白かったが、これはイエスでなければ成立し得ない話である。あとは異文化ギャップのネタがほとんどで、それほど目を引くものはなかった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『聖☆おにいさん(映画)』

by chikurinken | 2019-03-28 07:03 | 映画