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竹林軒出張所

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カテゴリ:映画( 585 )

『第50回全国高校野球選手権大会 青春』(映画)

第50回全国高校野球選手権大会 青春(1968年・朝日新聞社)
監督:市川崑
脚本:井手雅人、白坂依志夫、谷川俊太郎、伊藤清
音楽:山本直純
出演:芥川比呂志(ナレーター)(ドキュメンタリー)

『熱闘甲子園』よりはグレードが高い

b0189364_18103392.jpg 今からちょうど50年前の「夏の甲子園」を記録したドキュメンタリー。
 監督は『東京オリンピック』の市川崑で、テイストもあの映画と似ており、大会関係者や選手に接写でアプローチするという手法である。映像が詩的で美しいのも『東京オリンピック』と同様である。ビスタかシネスコかよくわからないが、横長の画面にアップで映される選手たちの姿は、テレビ映像とはまたひと味違った味わいがある。応援団や周囲の風景も、『熱闘甲子園』風で取り立てて目新しいものはないが、詩的に映る。また音響面もユニークで、選手の息づかいが収録されていたり、塁審が選手にかける言葉が拾われていたりする。
 とは言うものの、たかだかスポーツの大会ではないかという意識もこちら側にはあり、これほど一つのイベントを持ち上げることは果たして良いことなのかという疑問を最初から最後まで抱いていたのは事実。もちろんこれは映画に限ったことだけでなく、世間の高校野球に対する見方に異議を唱えているわけであるが、この映画で高校野球がとりわけ大層に描かれていたため余計にそう感じたのである。
 だがこの大会については、今と違って公立高校の割合がはるかに多いのは好ましく感じる。それに馴染みの高校も出ていたため、そういうチームを見てみたいという期待もあって、あまり退屈するというようなことはなかった。決勝に残った静岡商業のエース・ピッチャーが(その後ジャイアンツのエースになる)新浦壽夫だというのも、僕にとって発見であった。
 今こうやってレビューをまとめていて驚いたのは、脚本担当者が4人もいることで、詩人の谷川俊太郎までが名を連ねている。ごく一般的なドキュメンタリー映画のように見え、それほどの大層なシナリオだとは思わなかったので、これはかなり意外な事実であった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『あっこと僕らが生きた夏(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-04-21 07:10 | 映画

『さびしんぼう』(映画)

さびしんぼう(1985年・東宝)
監督:大林宣彦
原作:山中恒
脚本:剣持亘、内藤忠司、大林宣彦
出演:富田靖子、尾美としのり、藤田弓子、小林稔侍、佐藤允、岸部一徳、秋川リサ、入江若葉、大山大介、砂川真吾、浦辺粂子、樹木希林、小林聡美

大林映画らしくかなり気恥ずかしい

b0189364_18444306.jpg 大林宣彦の「尾道三部作」と呼ばれている映画の中の1本。舞台は、大林の故郷である尾道で、自伝的な要素が多分に入っているらしい。
 主人公の高校生の淡い初恋を描くという趣向であるが、そこに童話めいた話が絡んでくる。このあたりの童話的な部分に原作の要素が入っているようだが、実質的には大林オリジナルの話に近い。主人公が憧れる隣の女子高のマドンナが富田靖子で、富田は「さびしんぼう」という変わったキャラも二役で演じる。
 ストーリー自体はそれなりにまとまっているが、あちこちに、素人臭い、程度の低い演出が入っていて少々辟易する。前に見たとき(30年前)は割合よくできた映画のように感じていたが、今回は受け入れられない箇所が結構鼻に付いた。なにしろマドンナの女子高生が、あまりに理想化された男目線の存在で、見ていて気恥ずかしくなる。他の女の子たちが素の感じで登場しているのときわめて対照的で、実在感に欠けている。
 ただ中には、樹木希林と小林聡美の親子みたいに強烈なキャラの登場人物もいて、こういった部分には魅力を感じる。特にこの親子、雰囲気と顔が非常によく似ていて(意図的にそういう演出にしているようだ)、実の親子のようである。似ていると言えば、藤田弓子と富田靖子も何やら似ていて(こちらは同一人物という設定)笑ってしまう。もっとも今の年取った小林聡美と富田靖子を見ても、樹木希林や藤田弓子にはまったく似ていないので、このあたりは演出の妙と言える。
 一方で、「金玉」ネタをしつこく連発したり、秋川リサが演じる女教師のスカートが(意味もなく)何度も落ちたりという程度の低いドタバタ・ネタが、先ほども言ったように苦笑を誘う。小学生じゃないんだからそんなネタで楽しめるかと思う。それでもメインプロットである淡い恋愛に感情移入できさえすれば十分楽しめるんだろうが、30年経った今となっては、くだらない箇所ばかりが鼻について、そのためあちこち突っ込みを入れながら見ているという、そういうオヤジになってしまったのだった。30年の歳月は重い。
★★★

参考:
竹林軒出張所『異人たちとの夏(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した大林宣彦作品のレビュー記事。

(2005年12月25日の記事より)
なごり雪(2002年・大映)
監督:大林宣彦
脚本:南柱根、大林宣彦
出演:三浦友和、須藤温子、細山田隆人、反田孝幸、ベンガル、左時枝、宝生舞

b0189364_18444738.jpg 伊勢正三作のフォークソング「なごり雪」をテーマにして、大分県臼杵市を舞台に作られた「甘く切ないラブストーリー」らしい。
 実際のところ、途中でアホ臭くなって見るのが嫌になった。まず、登場人物全員の話し言葉が異様。大林宣彦によると、「28年前(その時代が舞台になっている)の美しい日本語を再現したかった」らしい。「岸恵子や原節子が映画でしゃべっていた美しい日本語を目指した」ということだ。しかーし、この映画で使われている言葉は、岸恵子や原節子の話し言葉などではなく、むしろ書き言葉である。原節子だって「よい子を産んで」などとは言わないだろう。そんなもんでものすごい違和感があった。大林監督によると、若い人には違和感があるかもしれないがその美しさを味わって欲しいというような話だったが、そういう問題じゃないと思う。とってもヘン。たちの悪いパロディみたいだったぞ。
 それに、街の描き方も嘘臭くて鼻についた。私は臼杵市には何度か行ったことがあり、確かに良い街ではあるが、ちょっと美化しすぎだと思った。映画に出てくる臼杵駅は、それはそれはレトロで、今どき珍しいなというようなたたずまいだったが、臼杵駅の駅舎は何十年も前から近代建築(というか、現在の地方の一般的なJR駅のスタイル)になっていたような記憶がある。この映画を見て臼杵を訪れた観光客は、駅に降り立った瞬間にガックリくるのではないか。街を歩いても同様である。過剰な美化はどんなもんだろうかと思う。
 ストーリーもとっても安直だ。素晴らしい友人と自分を思ってくれる美女が田舎で待っていてくれるなんて、故郷を離れた男とにとってはそりゃ理想ではある(「なごり雪」というより「木綿のハンカチーフ」みたいだった)が、モチーフがちょっと古すぎる。やたらに説明的な台詞も多いし、回想を使いすぎるのも安直な感が否めず。シナリオ講座などでは「登場人物が生きていない」などとよく言われるそうだが(『「懐かしドラマ」が教えてくれる シナリオの書き方』など参照)、まさにその見本みたいなストーリーだった。また登場人物の背景も薄っぺらで奥行きがない。
 舞台になった高校が「臼杵風成高校」(もちろん架空の高校)。これを見て、私ゃ少し複雑な気持ちになった。臼杵の風成と言えば、かつて大企業の環境破壊を住民運動で阻止した漁師町だ(このあたりの事情は、松下竜一の名著『風成の女たち』に詳しい)。DVDに収録されている監督インタビューを聞く限りでは、そのあたりの事情を知った上で「風成」を使ったようだが、個人的には、こんなしょうもない映画で使うんじゃなくて『風成の女たち』を映画化したらどうですかという気持ちである(もちろん監督は他の人ね。大林氏にはプロデューサーでもやっていただくということで)。蛇足ながら、『風成の女たち』は、ノンフィクションでありながら、映像が頭に浮かんでくるような臨場感あふれる傑作である。
 大林宣彦の映画は、別に毛嫌いしているわけではないが、どうもこの人は安易な映画を作ってしまうところがあって、今回もそんな感じがしたのでちょっと批判めいたことを書いた。たとえば『姉妹坂』などはその格好の例で、あれは特にひどかったと思う。これについてはまた別の機会に書いてみたいと思う。この映画で唯一救いだったのは須藤温子である。なかなか存在感のある美少女だった。そう言えば、大林映画では、十代の良い主演女優がわりに出てくる。大林氏にそういう嗜好があるのだろうか……
★★

追記1:ちょっと前に、あるCM(認知症のコマーシャル……スポンサーは不明……エーザイ?)で、角替和枝(この映画の母役、左時枝に何となく似ている)が、故郷を離れる息子を臼杵駅で見送るというシーンがあったが、もしかしてこの映画とタイアップしていたのだろうか。同じようなシーンが映画に出てきた。
追記2:今ネットで調べたところ、映画に出てくる駅のシーンは、上臼杵駅と重岡駅でロケしたんだそうな。

by chikurinken | 2018-04-20 07:44 | 映画

『忍びの者』(映画)

忍びの者(1962年・大映)
監督:山本薩夫
原作:村山知義
脚本:高岩肇
出演:市川雷蔵、藤村志保、伊藤雄之助、城健三朗、西村晃、岸田今日子、加藤嘉

エンタテイメントとしての忍者映画

b0189364_20442038.jpg 大泥棒、石川五右衛門が伊賀の忍者、百地三太夫の弟子であるという説が前提になっている忍者映画。
 この映画では、百地三太夫が忍者の総大将で、織田信長の命を狙い刺客を差し向けるが、その中の1人が石川五右衛門(市川雷蔵)という設定になっている。石川五右衛門については、百地の妻と密通した上その妻を殺し、京に逃れて大泥棒に転ずるというよく知られている(らしい)筋書きの中で描かれるが、実はそれは百地が仕組んだことで、五右衛門は、大きな力に翻弄される存在として描かれる。
 僕自身は、石川五右衛門が伊賀の忍者という俗説はまったく知らず、百地三太夫のことも名前以外知らなかったが、百地三太夫という名前とそのあたりの事情が繋がって、五右衛門の俗説を知ることができた点はありがたい。またそこに独自の解釈を施して、集団の中で抹殺される個人という図式のドラマにした点は評価に値する。ただ、忍者好きにとっては堪らない話かも知れないが、僕自身は(子ども時代ならいざ知らず)あまり忍者には思い入れがないため、割合ありきたりの時代劇という認識しか得られなかった。今回、監督が社会派の山本薩夫ということで見てみたんだが、確かに疎外される個人という視点はありはするものの、やはりエンタテイメント映画である。独特の解釈が面白いため、五右衛門俗説を知った上でエンタテイメントとして見れば申し分ないのではないかと思う。
 主演は、市川雷蔵の他、『破戒』でも雷蔵の相手役だった藤村志保。伊藤雄之助や加藤嘉が(いわば)アクション俳優をやっているのも新鮮である。織田信長役は、見ている間はてっきり勝新太郎だと思っていて、雷蔵と勝新の共演とは贅沢……と思っていたが、事実はさにあらず、城健三朗という人が演じていた。ちなみにこの城健三朗、若山富三郎の別名。若山富三郎は勝新の兄ということで、勝新と間違えるのも無理はない。しかしこの映画の若山富三郎、勝新に本当によく似ている。
 なお、この映画、『陸軍中野学校』『大菩薩峠』同様、評判が良かったせいで、その後シリーズ化されたらしい。言わば大映スタイルである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『破戒(映画)』
竹林軒出張所『華麗なる一族(映画)』
竹林軒出張所『不毛地帯(映画)』
竹林軒出張所『金環蝕(映画)』
竹林軒出張所『真空地帯(映画)』
竹林軒出張所『氷点(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『陸軍中野学校(映画)』
竹林軒出張所『大菩薩峠(映画)』

by chikurinken | 2018-04-19 07:44 | 映画

『偉大なる、しゅららぼん』(映画)

偉大なる、しゅららぼん(2013年・製作委員会)
監督:水落豊
原作:万城目学
脚本:ふじきみつ彦
出演:濱田岳、岡田将生、深田恭子、渡辺大、大野いと、貫地谷しほり、佐野史郎、笹野高史、村上弘明

これも荒唐無稽に堕してしまった

b0189364_18074355.jpg 万城目学の同名小説が原作。万城目学というと、『鴨川ホルモー』や『プリンセス トヨトミ』などの映画、『鹿男あをによし』などのドラマの原作小説の作者で、どの作品もなかなか凝った奇想天外なストーリーの作品である。
 この『偉大なる、しゅららぼん』も奇想天外なストーリーであることには変わりないが、なんとなく『鴨川ホルモー』の二番煎じみたいなストーリーであり、しかも途中からかなり行き当たりばったり的になってしまい、奇想天外というより荒唐無稽に陥ってしまった。実はこのブログでかつて紹介した『プリンセス トヨトミ』のレビューでも「「奇想天外」が「荒唐無稽」に堕してしまった」と僕自身書いていたのだった(今回確認して初めて気付いた)。どうもこの作者、少々ネタ切れ気味かという気がする。もっとも毎回、奇想天外なデキの良い小説を書けというのも無理な話であるし、多少「荒唐無稽」であっても、ある程度大目に見るというのがファンである。もっとも僕はファンではないが。ただこの著者には、傑作を目指すという今どき珍しい志を感じているため、成功してほしいとは思っている。何だったら、これまでの作品で相応の収益も上がったことだろうし、最前線から一歩退いて、もう少し寡作になっても良いんじゃないかと老婆心ながら感じる。
 それはさておき、本作であるが、琵琶湖周辺のある城下町が舞台(ロケはほとんど彦根)で、そこの城に住まう元城主一家が不思議な力を持っているというのがドラマの背景である。主人公は、その元城主の末裔という2人の高校生である。例によって、この一家と別のライバルみたいな一家が絡んでいってゴチャゴチャし、最後は摩訶不思議な力が現れて大団円という『鴨川ホルモー』のパターンになるわけである。ストーリー自体はそれなりに面白く、演出もあちこちにサービス要素があってそれなりに楽しめる。たとえば、浜村淳が「ありがとう」と言うシーンがあったり(MBSラジオの『ありがとう浜村純です』のパロディで、80〜90年代の関西の鉄板ネタ)、『十戒』のパロディみたいな水が割れるシーンもあったりする。もっともこのシーンは、舞台が竹生島であることを考えると『大魔神』のパロディという方が適切かも知れない。他にも『南総里見八犬伝』や『七瀬ふたたび』(あるいは『家族八景』)がネタ元かと思えるような道具立てもあり、これもパロディと考えれば楽しみも一層深まるのではないかと思う。ともかくサービス精神は随所に溢れている。
 後半かなりゴチャゴチャしていき、しかもご都合主義的に収束していくのはストーリー展開としていただけないが、エンタテイメントとして見れば、2時間の間、最初から最後まで存分に楽しめる映画であり、不満はない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『鴨川ホルモー(映画)』
竹林軒出張所『ホルモー六景(本)』
竹林軒出張所『プリンセス トヨトミ(映画)』

by chikurinken | 2018-04-18 07:07 | 映画

『海辺のリア』(映画)

海辺のリア(2016年・「海辺のリア」製作委員会)
監督:小林政広
脚本:小林政広
出演:仲代達矢、黒木華、原田美枝子、小林薫、阿部寛

仲代の仲代による仲代のための映画

b0189364_19165776.jpg かつての名優が、すでに認知症になっていて施設に入っている。ところがその施設を抜け出して行方不明になる……というストーリーの映画。
 日本映画専門チャンネルでたびたび予告編を見て感心し、ぜひ見たいと思っていた。なんといっても画面に映し出される仲代達矢の演技が素晴らしい。ただ一方で、ストーリーの予測がある程度ついたこともあり、果たしてこれで1本の映画になるのだろうかという若干の危惧、というか(それを裏切ってほしいという)期待もあった。しかし、実際映画に触れてみると、概ね予想通りで、1本の映画にするには題材として無理だったのではないかという結論に落ち着く。言ってみれば舞台劇を見ているようで、ある瞬間のスナップショットみたいな話である。『リア王』を下敷きにしたストーリーで、かつての老名優が娘から裏切られ(捨てられ)施設に押し込まれているという背景が、登場人物の会話の中から見えてくる。実際、最初から最後まで会話劇であり、舞台演劇を映像化したという表現が当てはまる作品である。
 登場人物は5人だけで、仲代達矢以外は、さして面白味のない演技に終始しており、あまり見所もない。ただ仲代達矢については、演技といい、存在感といい、これはもう素晴らしい。そもそもこの映画、仲代達矢という俳優を多分に意識して作られた作品で、「仲代達矢がもうろくしたらどうなるか」というようなイフの話なのである。仲代自身は、その役に完全に入り込み、まさに「もうろくした仲代達矢」を演じていて、彼を見ているだけでも十分楽しめる。ただし仲代が画面に出ていないシーンになると、途端に退屈してしまうのも事実。それを考えると、一種のプロモーションビデオみたいな映画なのかとも思う。
 撮影は随所に工夫があり、映像も詩的で面白いものが多い。また「(主人公の名前が)用心棒の三船さんより名前が前にあった」などの遊びのセリフも楽しい。ただ脚本について言えば、何だかつじつまが合わないようなモヤモヤ感が残った。短いシナリオなんだからその辺は整理しておきたいところである。
 先ほども言ったが、あくまで仲代達矢のための映画で(仲代達矢自身、これが最後の映画になるんではないかと言っている)、いっそのこと長さを半分ぐらいにして、仲代達矢の魅力炸裂で終わらせておけばユニークなハイレベルの作品になっていたのかも知れないが、実際劇場にかけるとなると1時間で終わりというわけにも行かなかったんだろう。そういう点では少々惜しい作品であったかなと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『果し合い(ドラマ)』
竹林軒出張所『役者なんかおやめなさい(本)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『用心棒(映画)』

by chikurinken | 2018-04-17 07:16 | 映画

『アリーテ姫』(映画)

アリーテ姫(2000年・アリーテ製作委員会)
監督:片渕須直
原作:ダイアナ・コールス
脚本:片渕須直
出演:桑島法子、小山剛志、高山みなみ、沼田祐介、こおろぎさとみ、佐々木優子(アニメーション)

映像の美しさ、世界観の完成度は特筆もの

b0189364_16045421.jpg ダイアナ・コールスの『アリーテ姫の冒険』が原作のアニメーション映画。『この世界の片隅に』の片渕須直の長編映画監督デビュー作である。
 映画自体は片渕作品らしく、非常に丁寧な作りで、シナリオレベルでも緊張感が漂い、優れた作品と言える。ただ、『マイマイ新子』とも共通しているが、ストーリーが複雑というかこんがらがっていてわかりにくい部分がある。この映画についても、見終わった後にクエスチョンマークが頭の中に飛来する。決してわからないことはないのだが、何かモヤモヤが残る。ストーリー自体は童話で、ある国の姫が魔法使いにさらわれるが、その困難を自力で乗り越える、という実に単純なものであるにもかかわらずである。要するに、あちこちのディテールにややこしさが残るわけだ。このややこしさの源泉の1つは、セリフだけで状況を説明し過ぎているためだとも思うが、その点、もう少し配慮があったら良いのではと思う。また原作からかなり改変されているため、たとえば「3つの難題」がまったく中途半端なまま宙ぶらりんになっていたりするのも、モヤモヤ感に繋がっているのではないかと思う。庶民を愛する姫という性格付けにしても、姫の魅力は増すが、そもそも無理があるような気がする。シナリオをもう少し整理したいところである。
 とは言え、映像の美しさ、世界観の完成度は特筆もので、そういう点では宮崎駿作品のレベルと言える。今回、この監督の長編劇場映画を3本見たが、どれもすばらしいできで、今後が非常に楽しみな人である。監督の年齢を考えると、3作というのはあまりに寡作であるが、『この世界の片隅に』が成功したため、今後は作品も増えることが予想される。今後に期待したい。ただしシナリオ監修については、誰かちゃんとした人にやってもらった方が良いと思う。
第1回「新世紀東京国際アニメフェア21」劇場映画部門優秀作品賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『この世界の片隅に(映画)』
竹林軒出張所『マイマイ新子と千年の魔法(映画)』

by chikurinken | 2018-04-03 07:04 | 映画

『マイマイ新子と千年の魔法』(映画)

マイマイ新子と千年の魔法(2009年・「マイマイ新子」製作委員会)
監督:片渕須直
原作:高樹のぶ子
脚本:片渕須直
出演:福田麻由子、水沢奈子、森迫永依、松元環季、江上晶真、中嶋和也(アニメーション)

あの頃の風景、子どもの世界が懐かしい

b0189364_19492300.jpg 昭和30年代の山口県防府市が舞台のアニメーション映画。原作が高樹のぶ子で、この人の出身が防府市ということなので、自伝的な話であることが推測される。
 活発な新子と、おとなしい都会的な転校生、貴伊子の触れあいや、子ども達が見る世界、彼らが作り出す遊びの世界が再現される。途中、幼少期周防で過ごした清少納言の話が出てきて、新子、貴伊子の現在の環境とオーバーラップする。今は麦畑になっている彼らの遊び場が、かつては周防の都だったという話が出て、そこに過去の都の姿が重なって現れてくる。このあたりはなかなか面白い魅力的な映像である。
 とは言え、こういった子どもの世界と空想が入り交じった話が延々と続き、ストーリーはどっちの方向に行くのか途中まで見当が付かず、まさかこのまま終わるわけではあるまいなと思いつつ、結局それなりの(あの時代にありがちな)複雑な事件が起こって収束に向かっていくという具合に展開して、物語としてきっちり完結していく。とは言うものの、現代の事件と平安時代の事件との絡み合いや、一貫して描かれる子どもの世界との関係が少々複雑すぎるきらいがあり、見終わった後はクエスチョンマークが頭の中に残る。もう少しシナリオを整理したいところである。
 映像は非常にきれいで緻密。これは『この世界の片隅に』とも共通で、この監督の特色と言える。この映像だけでも十分見る価値がある。特に中世とのオーバーラップのシーンは非常に魅力的である。映像の見所は随所にあり、この美しい映像表現はジブリの後継と言っても良いのではと感じた。いつまでも見ていたくなるような、実に魅力的な映像表現である。
 また映像とは別に、最後に貴伊子の言葉が当地の方言に変わっていたりしたのもリアルで良い。この映画は、ある意味で子ども達の成長話であり、そういうふうに捉えることで一段と魅力が増す。少々複雑でわかりにくいストーリーではあるが、あの頃の風景や、自分が子どもの時に感じたものと近い「子どもの世界」に懐かしさを感じる。個人的な好みで言うと「好き」の度合いはかなり高い。
モントリオール・ファンタジア映画祭最優秀長編アニメーション賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『この世界の片隅に(映画)』
竹林軒出張所『アリーテ姫(映画)』
竹林軒出張所『本日もいとをかし!! 枕草子(本)』

by chikurinken | 2018-04-01 07:49 | 映画

『この世界の片隅に』(映画)

この世界の片隅に(2016年・「この世界の片隅に」製作委員会)
監督:片渕須直
原作:こうの史代
脚本:片渕須直
出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世(アニメーション)

時代感覚が非常によく再現されている

b0189364_19324294.jpg 一昨年、全国的に評判になったアニメーション映画。広島から呉に嫁入りした主人公、すずが身体で経験する太平洋戦争がテーマで、原作はこうの史代の同名タイトルのマンガである。
 庶民の感覚から見た戦争はこういうものであったのかという「手触り」のようなものが感じられて、この映画についてはそういう点が非常に優れていると感じた。また、描写が非常に緻密で隙がない。リアルを伝えるのであればそういう緻密さは必須で、この映画の魅力はその「リアルさ」にある。さらに、映像が非常に美しいのも魅力である。映像表現についてはまったく申し分ない。
 また声優として出演しているのんのしゃべり方が、主人公の性格を反映し実にのんびりしていて、登場人物の魅力を増している。
 当時の生活が非常によく再現されているのもこの映画の魅力で、時代考証がしっかりなされているという印象である。こういう点でも隙がない。面白かったのは、登場人物たちが、戦争による混乱自体を災害と同格で捉えているような様子が垣間見えたことで、庶民感覚というものは確かにそうかもしれないと納得した。そういう時代感覚の再現がこの映画の最大の魅力ではないかと思う。
第90回キネマ旬報ベスト・テン日本映画ベストワン、監督賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『マイマイ新子と千年の魔法(映画)』
竹林軒出張所『アリーテ姫(映画)』
竹林軒出張所『カラーでみる太平洋戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『戦後ゼロ年 東京ブラックホール(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-03-30 07:31 | 映画

『ユメ十夜』(映画)

ユメ十夜(2007年・日活)
監督:実相寺昭雄、市川崑、清水崇、清水厚他
原作:夏目漱石
脚本:久世光彦、柳谷治、清水崇、猪爪慎一他
出演:小泉今日子、松尾スズキ、うじきつよし、堀部圭亮、山本耕史

タイトルに騙された

b0189364_22432514.jpg 『ユメ十夜』というタイトルになっていることからわかるように10本のオムニバス映画である。10人の監督がそれぞれ1本ずつ担当するという趣向。原作は夏目漱石ということになっていたが、漱石の『夢十夜』とはまったく似ても似つかないストーリーも中にはある(似ているものやほとんど同じものもある)。
 前半の4本はまずまず見られる作品だったが、第5夜以降は悪趣味で見るに耐えない。悪い冗談みたいなものばかりで、僕は受け付けなかった。
 前半の作品群については、夢が元になっているだけにシュールレアルで面白さはある(好みではないが)。第三夜は原作をかなり踏襲しているが不気味(これも好みではない)。シュールレアルというより怪奇ものである。
 一部面白さはあったが、わざわざ見ることもなかったかなと思う。タイトルに騙された。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『夢十夜 (近藤ようこ版)(本)』

by chikurinken | 2018-03-14 07:43 | 映画

『クリーン・センター訪問記』(映画)

クリーン・センター訪問記(1976年・小川プロダクション)
監督:小川紳介
撮影:奥村裕治
ドキュメンタリー

ゴミ焼却施設の広報映画のようだ

b0189364_17042166.jpg 山形県のゴミ焼却施設、通称「クリーン・センター」の業務を紹介するドキュメンタリー映画。
 このクリーン・センター、数年前に建てられた当時最新設備だったということだが、(ゴミ処理施設であるため)そもそも山間に建てられており、地元民にとってはあまり愉快な存在ではない。そのため、煙突から粉塵が放出されるとなると、地元民から何とかしてくれとクレームが来る。そのため、粉塵が出ないようさまざまな設備を設けており、職員自身、粉塵の監視も怠っていない。しかしそれでも粉塵がまったくなくなるということはない。
 とは言いながら、その一番の原因は、市民が出すゴミが分別されていないせいだということがわかる(クリーン・センター側の主張によると)。結局のところ、ゴミが焼却の質を決定するというのである。実際にゴミ収集の現場が映されるが、焼却ゴミに缶が大量に混ざっていたりして、今の日本の観点から考えると、ゴミの分別の質は非常に劣る。やり放題にも見える。この映画が撮影されたのが1975年で、当時の日本のゴミ分別に対する意識は概ねこんなもんだったように思う。あちこちでゴミ焼却の問題が噴出したのは記憶に新しいところだが、粉塵公害、ゴミ公害を少しでも少なくしようということでドイツの方法をまねて分別を徹底するという方向に進んだのだった。現在のような形になったのもこういう過程を経ているわけで、それを考えると、この映画のような啓蒙活動が、ゴミ対策の進歩に一役買ったとも言える。
 実際にこの映画では、焼却施設よりの立場が貫かれており、むしろこの焼却施設の広報映画ではないかと思えるほどである。しかも最後に、関係者全員を一堂に集め、一人ずつ彼らの肩書きや仕事を訊いていくというシーンまであって、このシーンでは「記念撮影」というキャプションが出てくる。NHKの昼のバラエティ番組さながらである。それを考えると、小川プロの映画とは思えないような印象さえ受けるが、そうは言っても主張はきわめて正論であって、何も反論はない。このセンター側にシンパシーを感じるほどだ。
 映像は全編モノクロで、しかも職員に対するインタビューもマイクを突きつけるような類のもので、かなり古さを感じる。しかもフィルムも結構劣化していて、レベル的には『青年の海』とほとんど変わらない印象さえ受ける。1975年の一般的な映像の水準はもっと高かったように思うが、製作側が貧乏所帯だったせいだとしか考えられない。方法論もなんだか洗練されておらず、ローカルのケーブルテレビ局並みである。そういうわけで質は決して高いとは言えない。
 とは言え、彼らからの主張は十分伝わってきたし、焼却場の設備についてもよく理解できた。したがってこの映画の目論見(本当のところはわからないが)は成功しているのではないかと思う。
★★★

追記:今確認したところ、やはり山形県上山市の広報映画だそうだ。

参考:
竹林軒出張所『青年の海 四人の通信教育生たち(映画)』
竹林軒出張所『廃棄家電の悲しき行く末(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-03-12 17:04 | 映画