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竹林軒出張所

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カテゴリ:ドキュメンタリー( 597 )

『罠師 片桐邦雄・ジビエの極意』(ドキュメンタリー)

罠師 〜片桐邦雄・ジビエの極意〜(2018年・静岡放送)
監督:柏木秀晃
撮影:三島乾児
ナレーション:鉄崎幹人

生き物を食らうということに思いを馳せる

b0189364_17435465.jpg 「ジビエの極意」というタイトルのせいで(グルメのドキュメンタリーかと思っていたため)あまり食指が動かなかったが、「日本民間放送連盟賞グランプリ受賞」という謳い文句に惹かれて見てみたところ、非常に濃密なドキュメンタリーで、結果的に嬉しい驚きになった。ちょっとお目にかかれない映像も満載で、「グランプリ受賞」にふさわしい傑作だと感じる。
 静岡県浜松市在住の片桐邦雄という人は、ジビエ料理の割烹を経営する料理人だが、実はここで供される野生動物の肉はこの人自身が獲ってきた獲物のものである。しかも銃ではなく罠を使って動物(猪や鹿)を生け捕りし、丁寧に捌いて、あらゆる部位を活用し、それを料理にして提供するという徹底ぶりである。この片桐氏、獲物は自然からの贈り物であってその命に対しても敬意を表す……というスタンスであり、さながら狩猟採集先住民族の哲学のようである。生け捕りにするのは、処理するまでに時間をかけないようにするという目的のためで、こうすることでジビエ料理につきものの血なまぐささをなくすことができるらしい。
 実際の狩の様子も撮影されており、これがまた緊迫感に溢れたすばらしい映像である。罠はすべて自作で、動物が足を踏み入れるとその足を拘束するという仕掛けである。獲物がかかると発振器でそれが知らされることになる。その後、その動物の元に駆けつけ、まず鼻、それから足を拘束してから、動物に目隠しを施した上でそのまま(無傷で)車に積み込むという算段になっている。だがこういった一連の作業はすべて一人で行われるのである。つまり1対1で獲物に対峙するため、獲物を獲る方もかなりの危険が伴うわけである。映像には、片桐氏の息づかいや動物のうなり声が収められており、生き物対生き物のせめぎ合いをそこに見てとることができる。こういう映像を見せつけられると、最大限の労力を費やして獲物を捉えた片桐氏が、その獲物に対して敬意を払うようになるというのもよく理解できるというものだ。食肉の状態で売られているものを見てもそこに生命を感じることはあまりないが、直接こうして生命と格闘すれば、それを食うとしても、少し前まで食う側と同じ生命を持っていた生き物であることが意識される。生命というのはそれくらい重いものであるはずで、これこそがこのドキュメンタリーのテーマであると思う。それが、現代の、生命をないがしろにしたかのような食に対する、意義深い問いかけになっているのである。
 この片桐氏、他にも川魚漁をやったり、ニホンミツバチの養蜂までやっているらしい。このあたりも大変興味深いところで、この辺も紹介してほしかったが、本作がグランプリを受賞したことでもあるし、もしかしたらこの辺にスポットを当てた続編が作られる可能性もある。瞑目して待とう。
平成30年日本民間放送連盟賞グランプリ受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『Love MEATender(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イヌイットの怒り(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『いのちの食べかた(映画)』
竹林軒出張所『フード・インク(映画)』
竹林軒出張所『ありあまるごちそう(映画)』
竹林軒出張所『タイマグラばあちゃん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』

by chikurinken | 2019-05-18 07:43 | ドキュメンタリー

『"脱プラスチック"への挑戦』(ドキュメンタリー)

"脱プラスチック"への挑戦 〜持続可能な地球をめざして〜
(2019年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

「脱プラスチック」は喫緊の課題のようだ

b0189364_20161523.jpg 先進国で進展している「脱プラスチック」へのアプローチを紹介する100分のドキュメンタリー。
 マイクロプラスチックの海洋汚染については、過去、別のフランス製のドキュメンタリー(竹林軒出張所『海に消えたプラスチック(ドキュメンタリー)』を参照)でも取り上げられていたが、このドキュメンタリーは、あれの日本版という趣である。
 前後編の2部構成になっており、前半は、17歳の少年が始めたオランダのNPO、オーシャンクリーンアップの海洋プラスチック回収の試み、後半は、海外の行政組織によるプラスチック容器禁止の流れを紹介する。言い換えると、前半が既存のプラスチック・ゴミの除去、後半がゴミ・プラスチックの発生の遮断がテーマということになる。
 現代社会でプラスチック製品が溢れているのは、今さら言うまでもない事実である。流行りのカフェに行っても飲料がプラスチック容器で出されるし、店に行っても何でもかんでもプラスチック袋に入れられてしまう。こういったプラスチック製品のかなりのものが、一度しか使用されない、廃棄されるのが目的であるかのような製品と言える。このような容器や袋は、言ってみればゴミを生産していると言っても過言ではなく、それを考えればプラスチック・ゴミが増えるのは当然である。日本ではこういったプラスチックの多く(80%以上)がリサイクルされていると喧伝されているが、実態は、その多くが焼却処分されている。これを日本では「エネルギー・リサイクル」などと呼んでリサイクル対象として扱われているらしいが、世界の(というより一般的な)常識ではこれは「リサイクル」ではない。「リサイクルされる」という文句が、消費者にとって免罪符のような働きをし、プラスチックを使うことに抵抗がなくなるため、こういう呼び替えはある意味犯罪的と言える。このように日本では、真の意味でプラスチックのリサイクルは進んでいない。そもそもプラスチックのリサイクル自体、手間も費用もかかるため、あまり現実的ではないのである。そのため一番良いのは端から使わないということになる。我々が子どもの時分は、これほどプラスチックが周りに溢れていなかった(ペットボトルだって存在していなかった)わけで、それを考えると、使い捨てプラスチックを無くしたところで、それほど不便になるわけではないのである。それでも、今の過剰に「便利」なシステムを捨てるのは、文明に逆行しているように思われるのか知らんが、消費者にとって抵抗が大きく、実現はなかなか難しいようである。
 京都の亀岡市が最近、レジ袋を禁止する条例を制定したが、この話を聞いたとき、僕自身、素晴らしいことだとは思いつつ、ちょっと拙速ではないかと感じてしまった。しかし世界のスタンダードはもっと先に進んでいるのだということが、このドキュメンタリーからわかる。フランスやニューヨーク市では、すでに同様の使い捨てプラスチック禁止を打ち出していて、施行に向けて動いているらしいのである(近日施行予定)。このことを考えあわせると、亀岡のケースでさえまだ保守的に感じられるほどである。当然、保守主義の代表みたいな日本政府がこういった取り組みをすぐに行うことはおそらくないだろうが、民間レベルで言うと、ある日本の企業がプラスチックを完全にリサイクルする技術をすでに開発しているという。そしてその企業が海外の企業や自治体から注目を集めている様子もこのドキュメンタリーで紹介される。さらに言えば、このようなプラスチック禁止の動きは、経済的にも新しいビジネス・チャンスに繋がるのだという話もあわせて紹介されている。
 プラスチック・ゴミが「第二の温暖化」とされるほど重大な問題であることは徐々に明らかになっており、この作品は、そのことを認識させるドキュメンタリーで、プラスチック・ゴミの現在の立ち位置をよく伝える番組である。ただし前半のオーシャンクリーンアップの取り組みについては、確かに若者がムーブメントを起こしたという点で素晴らしいことではあるが、彼らの取り組みが海洋のプラスチック汚染に実際にどの程度対応できるかは未知数(というより実際には大海の一滴みたいなレベル)で、それを考えると「象徴」としての意味合いしかないんじゃないかと思う(もちろんそれは大切ではあるが)。そういう点でオーシャンクリーンアップの取り上げ方が少々大げさすぎるような気がして、前半と後半にアンバランスさを感じた。この作品の製作者に対して、現実を見よと言いたくなってくる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『海に消えたプラスチック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『廃棄家電の悲しき行く末(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-05-16 07:15 | ドキュメンタリー

『カラーでよみがえるパリ』(ドキュメンタリー)

カラーでよみがえるパリ 〜ベルエポック 1900〜
(2018年・仏Compagnie des Phares et Balises)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

近代パリという切り口に無理があったか

b0189364_19564685.jpg モノクロ映像にカラー化を施すという企画は世界中で進行しているようで、相当なモノクロ映像がカラー化されてきている。モノクロ映像をカラー化すると多くの場合臨場感が各段に向上するもので、色が付くだけでこんなに違うのかと思わせられることも多い。今回は、20世紀初頭のパリ、つまり華やかなベルエポックの時代の映像をカラー化したというもので、「ベルエポックのカラー化」という話を聞くと、思わず大きな期待を抱いてしまう。
 ただ映像自体は、竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』などのドキュメンタリーですでに紹介されているものが多く、あまり目新しさはない。1900年のパリ万博やリュミエール兄弟の映画などは、本来は珍しい映像かも知れないが、個人的にはすでに何度も目にしているもので、カラー化されたと言ってもそれほど感慨は湧かない。むしろパリの街中の日常の様子の方に目を引かれて、そちらの方に興味を持った。ただし全体的な見せ方に工夫があまりないせいか、途中でかなり眠くなってしまった。
 対象がベルエポックの平和な時代であるためか、あるいは僕にあまり当時の知識がないためかはわからないが、先ほども言ったように、当時の風俗以外は、映像自体にあまり面白さを感じられなかった。もしかしたら「近代のパリ」という切り口に無理があったのかも知れないが、街の風俗のカラー化映像が非常に魅力的だっただけに(こういった風俗を中心に押しまくるとか)もう少し見せ方を工夫すると、もっと面白い作品になったのではないかという気もする。少々残念。
★★★

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる第一次世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえる東京(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでみる太平洋戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえるアメリカ 1、2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーでよみがえるアメリカ 3、4、5(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カラーで見る 独裁者スターリン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『よみがえる“ワルシャワ蜂起”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『色づくQ』
竹林軒出張所『地獄門 デジタル・リマスター版(映画)』

by chikurinken | 2019-05-14 07:26 | ドキュメンタリー

『悪い犬』(ドキュメンタリー)

悪い犬(2017年・東海テレビ)

「悪い」のは犬か、それとも人か

b0189364_19352915.jpg 通行人数人に噛みついてケガをさせたドーベルマンを更正(?)させるために奮闘する(『わんわん保育園DUCA』という)ある動物保護施設の経営者を軸にしたドキュメンタリー。
 通常であればこういった凶悪犬は殺処分になるわけだが、動物愛護センターがこの経営者、高橋忍氏に預け、訓練を依頼した。更正させて命を助けようという寸法である。ちなみにこの施設、基本的にある程度訓練を施すことができた時点で里親を募集し犬の身柄を預けるような形で、殺処分予定の犬たちを救ってきている。今回も、訓練はかなり手こずったが、犬がある程度落ち着いて行動できるようになったため、里親に預けた。ところが、その後、散歩中に通行人を襲って噛みつくという事件が起こり、高橋氏も責任を問われ突き上げを食ってしまう。このドキュメンタリーでは、こういうようないきさつが描かれるのである。
 僕個人は犬に対してあまり思い入れがないので、一般的にドーベルマンみたいな危険な犬を野放しにしている現状にはまったく納得いかない……というか免許がなければ飼えないぐらいの規制を設けても良いと思っていて、そもそも犬を飼うことについて飼い主は相応の責任を持つべきと考える。今回のドーベルマンもそうだが、飼い主側に問題があるのではないかと思えるケースが多いというのも事実。実際、そういう「無責任」と言われてもしようがない飼い主もこのドキュメンタリーで紹介される。
 僕自身、朝、通勤中に突然犬に飛びつかれそうになることもちょくちょくあり、それなのに謝りもせず平然としている飼い主のおばはんには随分憤っているわけである。ちゃんと訓練できないなら飼うなと言いたい。それこそ、犬を飼うこと自体完全免許制にして、飼い主に対するそれなりの教習施設を作ったらどうだと思うのだ。
 おそらくこのドキュメンタリーで描こうとしているのも、「いい加減な飼い主と、そのせいで殺処分という犠牲を強いられる犬」という構図ではないかと思う。
 個人的な経験をもう一つ付け加えると、犬が狭い路の真ん中を堂々と歩いていて、こちらが道の端に追い出されるのも癪に障る。なぜ獣のために俺が道を譲らなければならんのだと思う。飼い主はせめて犬を端に寄せるとかその程度の配慮をしたらどうだと思う。犬を人の生活に紛れ込ませるというんだったら、最低限飼い犬をコントロールできる程度の訓練は、飼い主に対しても施すべきである(したがって免許制という発想が出てくるわけだが)。そういうわけで、愚かな飼い主が多いというのは僕自身も膚で感じており、そのあたりはこのドキュメンタリーの主張に大いに賛成したいところだ。とにかく日本のペット事情は総じて甘すぎるというのが僕の実感である(もっとも、以前に比べれば随分マシになったとも思う)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『じゃがいもコロコロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『じゃがいも大使(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-24 07:35 | ドキュメンタリー

『じゃがいも大使』(ドキュメンタリー)

じゃがいも大使 ~災害救助犬への奮闘記~
(2017年・東海テレビ)

じゃがいものその後

b0189364_17111793.jpg 『じゃがいもコロコロ』から3年後に発表された続編で、その後の「じゃがいも」(犬の名前)を追いかけたドキュメンタリー。
 『じゃがいもコロコロ』公開以降も、検定試験を受け続けたじゃがいもだが、なかなか結果が出ず。結局2017年、11回目のチャレンジでやっと合格できた。そしていよいよ被災地を勇気付けるために現地でお披露目というはこびになった。そのあたりの過程と、他の犬のその後も描かれる(死んだ犬や家族の元に戻った犬もいる)。
 ただし前作で紹介されていた映像がこの作品の1/3程度を占めており、もちろん3年後に放送されたときにこれを見ていればこういう配慮もありがたいわけだが、(今回の僕のように)この2本を続けて見るとかなり興が醒める。検定試験の合格の様子が紹介されたのは良かったが、内容自体は前作同様薄めで、多少の物足りなさが残った。もっとも犬好きにはお奨めのドキュメンタリーだと思う。また検定の様子もかなり新鮮で、このあたりは前回と共通であった。
★★★

参考:
竹林軒出張所『じゃがいもコロコロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『悪い犬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-22 07:10 | ドキュメンタリー

『じゃがいもコロコロ』(ドキュメンタリー)

じゃがいもコロコロ ~災害救助犬への長い旅~
(2015年・東海テレビ)

被災地には残された犬がいた

b0189364_20471860.jpg 岐阜県富加町にある岐阜ドッグトレーニングセンターでは、東日本大震災の被災地(福島県飯館村)に残された飼い犬を保護するという活動をしている(45頭が引き取られた)。その中に生まれたばかりの黒い雑種犬がいて「じゃがいも」と名付けられた。この施設では、復興支援に繋げよう(被災地を勇気付けよう)という発想で、このじゃがいもを災害救助犬(現在国内に300頭)として育てようとしている。だがこのじゃがいも、要領が悪いのかアホなのか、これまで数回検定試験を受けているが、ことごとく不合格に終わっている。今度こそという思いで検定試験を受けさせているが、なかなか結果が出ない。このじゃがいもの奮闘と、保護された他の犬と被災地の元家族との交流を描くのがこのドキュメンタリー。
 じゃがいもが検定試験を受けるシーンから始まって非常に興味をそそられるが、途中、保護された犬と被災地との関係の話が延々と続いて、興味が少しずつ削がれてしまった。結局どっちつかずみたいな内容になって、構成が散漫になったような印象を受ける。そのため見ていて少し飽きてしまった。ユニークな素材だっただけに少々残念。
★★★

参考:
竹林軒出張所『じゃがいも大使(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『悪い犬(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『続・犬たちの悲鳴(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『熱中コマ大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『熱中コマ世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-21 07:47 | ドキュメンタリー

『独裁者ヒトラー 演説の魔力』(ドキュメンタリー)

独裁者ヒトラー 演説の魔力
(2019年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

過去から学ばないものに明日はない

b0189364_20393022.jpg かつてドイツ国民を大いに魅了したヒトラーの演説の秘密を探るドキュメンタリー。
 1932年にドイツの首相に就任しその後総統の地位まで上り詰め、ヨーロッパ中に災厄をまき散らす結果になった独裁者ヒトラー。彼の地位を確立したその最大の要因は、その扇動的であり同時に魅力的な演説である。このドキュメンタリーでは、当時、この演説の現場に立ち会った何人かの人々に当時受けた印象や感銘について語らせ、あわせてその演説テクニックや演出などについても言及する。そのため、当時の映像もふんだんに現れる。
 ヒトラー関連のドキュメンタリーはこれまでも数々作られており、このドキュメンタリーもそういった作品と大きく変わることはないが、当時の人々のリアルな感じ方を聴き取った上でそれを現象として検証した点がユニークと言えばユニーク。インタビューを受ける人々の中には、ヒトラー・ユーゲントとしてニュルンベルグの党大会に招待された人や、ヒトラーの演説に魅了され空軍に入隊した人などもいるが、総じて、党大会などの映像を見る目は懐かしそうで(中には敬礼をしたりユーゲントの行進曲を歌ったりする人までいる)、下手をすると軍国主義賛美みたいにも受け取られかねない。ドイツの国内ではヒトラーに関する表現が規制されているらしいが、こういうのは大丈夫なのかと勝手にヒヤヒヤしてくる。だが中には、かつてヒトラーのシンパであったにもかかわらず、ユダヤ人弾圧政策のせいでユダヤ人の義父が拘束され(解放されるがその後人格が変わってしまい1年後に死去)ヒトラーに対する感情が少しずつ変わっていったという人もいて、それぞれが複雑な思いを抱えていることが分かる。しかし一様にヒトラーの演説は魅力的だったと語る。ベートーヴェンの第九交響曲の最終楽章みたいな高揚感だったという証言もあり、当時の映像に映っている民衆の顔もワールドカップの自国チームの勝利に酔いしれる人々の顔のようにさえ見える。ヒトラーの演説はドイツ人に「新しい信仰」を植え付けるものだったと語る人もいた。
b0189364_20393457.jpg つまるところ、ナチスの戦争と虐殺を推し進めたのは、こういった一般民衆の支持であったということが分かるのだ。彼らの多くは戦後になって、ヒトラーに騙されたと口にしたようだが、だがナチスの推進力になったのは民衆の力である。これは日本の軍国主義にも言えることである。戦争を支えるのは一般民衆であり、たとえデマゴギーに扇動されたとしても、だからといってそれを支持し、しかも虐殺に(間接的に)加担していたことの言い訳にはならないのだ。だからこそ後の世代は過去の出来事、失敗について反省しなければならないわけだが、それをないことにしたい勢力もあるわけで、だが失敗をないことにしてしまうとそこから何も得られなくなってしまう。少なくともこういった、自らと直接関係しない、よその事情を目にすれば、自身の歴史を謙虚に振り返るきっかけにはなるかも知れない。そういう意味でも、ナチスのテーマを日本で取り上げる価値は十分あると言える。過去から学ばないものに明日はないのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アフター・ヒトラー 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー・クロニクル(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 最後の日々(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『特攻 〜なぜ拡大したのか〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“駅の子”の闘い(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-03 07:39 | ドキュメンタリー

『映像の世紀プレミアム 第12集』(ドキュメンタリー)

映像の世紀プレミアム 第12集 昭和 激動の宰相たち
(2019年・NHK)
NHK-BSプレミアム

映像的な目新しさは少ない

b0189364_16322425.jpg 過去の日本の首相にスポットを当てる『映像の世紀プレミアム』の最新版。
 冒頭、犬養毅や大隈重信、ひいては伊藤博文、田中義一などの映像が出てきて非常に期待を持たせたが、こういった珍しい映像は結局これだけで、番組は近衛文麿、東条英機、吉田茂、岸信介を中心に展開したため、割合よく目にする映像に終始してしまった。
 とは言うものの、彼らが首相を務めていた時代は戦前、戦中、戦後のもっとも重要な時代であり、戦前の挙国一致体制、軍国主義体制、戦後の民主主義体制をしっかりと追いかける内容になっていて、それなりに見所はある。特に、現在から遡って見ると軍部の暴走を招いたと思える近衛文麿が、軍部の独走を止めるという確固とした意志を持って首相に就任したというんだから、今の時代からは逆説的にも見栄、驚きである。
 他にも吉田茂の対米外交や60年安保のいきさつなどが映像を交えて紹介され、興味深い内容にはなっていたが、そうは言っても、珍しさという点からは少々物足りない。内容は悪くはなかったが、僕としてはむしろ、明治、大正時代の珍しい首相の姿が映っている映像の方を期待したいところであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『昭和史 1926-1945(本)』
竹林軒出張所『昭和史 戦後篇(本)』
竹林軒出張所『華族 最後の戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『小説吉田学校(映画)』
竹林軒出張所『戦後70年 政治の模索(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第2集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第7集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第8集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-04-01 07:31 | ドキュメンタリー

『熱中コマ世界大戦』(ドキュメンタリー)

熱中コマ世界大戦(2015年・東海テレビ)
ナレーション:天野鎮雄

ますます「ロボコン」化してきた

b0189364_23084847.jpg 2012年に始まった「全日本製造業コマ大戦」は、この年第3回目を迎え、ついに世界大会まで始まった。その名も「世界コマ大戦」。アメリカ、韓国、タイ、インドネシア、ベトナム、ボリビアの6か国11チームが参加し、日本の地方予選を勝ち抜いたチームと共に覇を競うことになった。ただ、このあたりの流れもロボコン同様で、想定内ではある。
 今回のドキュメンタリーは、『熱中コマ大戦 全国町工場奮闘記』の続編という位置付けで、前回のドキュメンタリーに登場した参加者も登場。中でも一番面白かったのが、前回、反則すれすれの異色のコマを作った参加者「カジミツ」が、さらに異色の反則すれすれの電動コマで参戦してきたことである。このカジミツの奮闘ぶりはとても楽しめたが、しかしそれにしても電動はいかんのではないかと個人的には感じる。おそらくこの大会の後、ルールがまた変わってくるのではないかと思うが、電気を使うとなるといつまでも回転し続けることもありうるわけで、初期のコマの製造技術というコンセプトから外れる気がする。
 とは言え、こういったニッチな部分を突いてくるこのカジミツについては、大変興味深いところである。同時に前回の主人公である「シオン」も、苦戦はするが今回も登場。このドキュメンタリー、ますますロボコン風にはなってきたが、参加者の背景が興味深いために、番組に奥行きができている。そのあたりが一番の魅力と言える。今回はインドネシアの参加者「サントソテクニンド」の背景にも迫っていてこちらも見所であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『熱中コマ大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護士(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-03-18 07:08 | ドキュメンタリー

『熱中コマ大戦』(ドキュメンタリー)

熱中コマ大戦 〜全国町工場奮闘記〜
(2013年・東海テレビ)
ナレーション:天野鎮雄

オヤジのための「ロボコン」

b0189364_17230983.jpg 全国の製造業者が集まって企画したコマまわし大会、その名も「全日本製造業コマ大戦」と言うんだが、その東海地区予選を追うドキュメンタリー。製作は東海テレビ。
 似たような企画に「ロボットコンテスト」(通称「ロボコン」)がある。ロボコンは、高専や大学がもの作りのアイデアと技術力を競って、対戦形式で覇を競うというものであるが、この「コマ大戦」も同様のコンセプトで、参加者が町工場などの製造業者であるという点、手回しゴマで対戦するという点が特徴である。言わば、町工場バージョンのロボコンといったところである。
 ロボコンについては、その参加者たちのもの作りから本番の対戦まで追いかけるという番組をNHKが放送しているため、この『熱中コマ大戦』についても概ね似たような番組ではないかと、見る前から想像できる。実際その通りで、親会社の無理な要求や不況のために瀕死だったが何とか再生を果たした町工場が、コマ作りを通じて自らのもの作りの高い能力を発揮して存在価値を示すんだが、その過程を映像で追っていくわけである。
b0189364_17231333.jpg コマ大戦のルールは、直径2センチ以下、全長6センチ以内のケンカゴマを、直径25センチの擂り鉢状の土俵内で回し、長く土俵内に残った方が勝ちという実に単純なもの。一般的には、よく回り、しかも相手のコマに当たったときはこれを跳ね返すようなタイプのコマが作られ、その精度や強度を高めるという方向性でブラッシュアップされるわけだが、中には横向きになった状態で回りながら、とりあえず敵ゴマを弾き飛ばすことだけに専念するというような異色の悪役コマが出てきたりして、大戦を盛り上げる(ちなみにこのコマ、その後ルール改定の結果、禁止になった)。
 こういったユニークな参加者が登場した中部大会、そしてその後の全国大会の模様を追ったのがこの作品で、ロボコンでお馴染みの想定内の展開ではあったが、内容は結構面白く、見ていてつい夢中になってしまった。この番組を少しばかり侮り過ぎていたと感じる。やはり東海テレビが関わってくるとこのくらいの水準のものができるということなのか。コマ大戦参加者だけでなく、東海テレビのもの作りの力も思い知らされた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『熱中コマ世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護士(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-03-16 07:22 | ドキュメンタリー