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竹林軒出張所

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カテゴリ:ドキュメンタリー( 574 )

『完全密着 消えた物証を追え』(ドキュメンタリー)

完全密着 消えた物証を追え
(2018年・英True Vision)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

英国での捜査の負の部分が明るみに

b0189364_16084990.jpg 『完全密着 凶悪犯を捕まえろ』の続編みたいな位置付けのドキュメンタリー。製作会社も同じ。
 今回は、香港出身の老夫婦宅に数人の押し込み強盗が入り、老婦人が暴行を受けたあげく、いろいろな金目のものが盗まれたというケース。暴行を受けた老婦人はその後、取調中に体調不良を起こし、結局そのまま死んでしまう。そのため捜査当局は、今回の事件を殺人事件として認定し、捜査を始める。
 この事件は初動捜査が遅かったようで、そのために物証が見つからず、いたずらに日数ばかりが経過した。しかも近在では、中国系移民を狙った同じような強盗事件が立て続けに起こっている。それにもかかわらず警察が積極的に動かない(ように見える)ため、中国系移民コミュニティの中にも警察に対する不信感が出てきているという始末である。
 捜査は当初なかなか進んでいなかったが、防犯カメラの映像分析が手がかりになって進展する。この家から盗まれた外国紙幣が換金されている場面がショッピングモールの監視カメラに映されており、そこから彼らが使用している自動車が判明。自動車の持ち主が割り出され、結果として一人の若者が拘束される。ただし拘束期間として1日しか認められていないため、容疑者を逮捕したにもかかわらずほとんど何の成果も上げることができなかった。それからまたしばらくして共犯と見られる被疑者が逮捕されるが、こちらも自白は得られず。取調室内の映像が紹介されるが、容疑者はすっとぼけた応答をしていて、見ているこちら側は少々イライラする。容疑者の見た目は監視カメラ映像の姿にかなり似ていて、しかもいかにもギャング然としているため、彼らが犯人であることは容易に推察されるが(本当のところはわからないが)、取り調べは一向に進展しない。結局、彼らも拘束期間が切れて釈放される。このような事情により、この事件はいまだに未解決のままで、英国の捜査の限界が見えてくる結果になった。
 日本の警察・検察システムが良いとは決して思わないが、しかし少なくとももう少し容疑者の拘束期間を確保しないと、わかるものもわからないのではないかと感じる。英国の検挙率が高くないというのも、こういう映像を見るとわかるような気がするんだが、だからと言って日本のように無実の人間の検挙率が高いのも非常に由々しき問題ではある。それは明らかだが、要は程度問題である。
 今回もう一つ驚いたのが、街に設置されている監視カメラの多さで、それが前のドキュメンタリー『完全密着 凶悪犯を捕まえろ』のケースでは容疑者逮捕に繋がったわけだが、しかしそれにしても容疑者のほとんどの挙動が捉えられていたことを考えると空恐ろしさも感じる。(犯罪に関係ない)普通の市民であってもその挙動が映像として捉えられることには変わりなく、使いようによっては相当危険なツールになるのではないかという危惧を持った。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『完全密着 凶悪犯を捕まえろ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『DNA捜査最前線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『FBIおとり捜査の現実(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-01-12 07:08 | ドキュメンタリー

『完全密着 凶悪犯を捕まえろ』(ドキュメンタリー)

完全密着 凶悪犯を捕まえろ
(2017年・英True Vision)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

警察の人権尊重姿勢に驚く

b0189364_17592932.jpg 英国の警察に密着するドキュメンタリー。
 ある有名な古書収集家が自宅で殺されるという殺人事件が起こった。財布やクレジットカードが盗まれているため物取りであることが推測されるが、被害者を滅多刺しにするという残虐性から考えると怨恨のフシも考えられ、にわかに断定できない。
 捜査班は、例によって物証を集めるところから始めるが、やがて徐々に手がかりが得られる。何より現場の周囲に設置されている監視カメラの多数の映像が決め手になり、容疑者が浮上する。また、容疑者の子どもの証言からも容疑者が当日傷を負っていたことが明らかになり(本人は暴漢に襲われたと語っていたらしい)、その後容疑者の拘束に至る。家宅捜査すると、古書収集家が持っていた高価な古書が容疑者の家から出てくるなど、物証は十分。また生活に困窮していたことから動機も十分で、陪審裁判にかけられることになった。結局、禁固34年という判決が出される。
 このドキュメンタリーでは、こういった捜査の過程を追いかけるわけだが、何もないところから少しずつ証拠が出てくるあたりは非常にスリリングで、かつての刑事ドラマさながらであった。しかし何より驚いたのは、取調室の映像である。女性取締官2人が被疑者と面談し、しかも被疑者の隣に弁護士が立ち会うというもので、日本との違いが鮮明である。当然、取調官が被疑者にライトを当てて「吐けっ!」などということはなく(日本でもそういうことが実際に存在するのかはわからないが)、きわめて事務的かつ人道的で、まったく威圧的な雰囲気はない。何かのカウンセリングのシーンと言われても納得しそうである。被疑者の人権という観点からは実にすばらしいシステムだと思うが、これで証拠、特に自白が得られるんだろうかという疑問は残る。もちろん、やってもいないのに自白させてしまうという日本のシステムが良いとは断じて思わないが、率直に、こういう(温いとも思われる)制度できちんと凶悪犯罪に対処できるのかという点に疑問を持ったわけである。まあ少なくとも今回取り上げられていたケースでは、法の裁きがきちんと行われていたようで、それであれば理想的な制度と言えると思う。
英BAFTA映画祭受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『完全密着 消えた物証を追え(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『警察庁長官狙撃事件(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『DNA捜査最前線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『FBIおとり捜査の現実(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-01-11 07:29 | ドキュメンタリー

『メイド地獄』(ドキュメンタリー)

メイド地獄
(2018年・Plus Pictures/The Why Foundation他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
シリーズ WhySlavery? 〜世界の"奴隷労働"〜

ISと違わない収奪システムがそこにはある

b0189364_18480053.jpg 中東諸国(レバノンやサウジアラビア)に赴いてメイドとなった多数の出稼ぎ労働者が、奴隷労働させられている実態を訴えるドキュメンタリー。
 こういったメイドになるのは、ケニアやフィリピンなど、自国で就業できない女性たちで、仕事を求めてこういった国に行くわけだが、そこでは雇用主によって移動が禁止されたり(スマホなどの)連絡手段を奪われたり、あるいは賃金が支払われなかったりということが日常的に行われるらしい。賃金が支払われないんであれば出稼ぎに行く意味がなく、まさしくただの奴隷に過ぎない。だが連絡手段を断たれた上外に出ることができず、それにパスポートまで奪われるために逃げるに逃げられない。こういういきさつで、こういった国では、出稼ぎメイドの自殺や落下事故(飛び降りに由来する可能性が高い)が非常に多いという。ところが当該国で取り締まりや補償が行われることなどなく、結局死んだメイドは死体となって母国に戻ってくるだけである。
 こういう動向を憂慮した、一部のメイド輸出国側(フィリピンなど)は、中東諸国でのメイドとしての就業を禁止しているが、それでも抜け穴をかいくぐってやって来るメイドは後を絶たない。
 中東諸国の人権意識の話などを聞くと、近代文明社会とは思えず、あきれ果ててしまうこともあるが、そういう部分がしわ寄せになって矛盾として現れるのが、ここで取り上げられたメイドのような社会的弱者の周辺なんだろう。こういう現状は到底容認しがたいが、サウジの首脳は(ケニアなどの)アフリカ諸国に赴いて、経済援助をちらつかせメイドの派遣禁止を解除させるようなことをやっているらしい。こういう人たちには、人権意識なんてものは皆無に近いようだ。
 こういった連中が君臨している社会であれば、少なくともその社会の内部から改善するということは望めない。そのため、状況を少しでも改善するには、メイド輸出国でこのような状況について広報するしかなさそうである。そうしなければ、現状を知らないメイド予備軍がだまされたままこういった国に赴き、あげくに人権蹂躙されてしまうことになる。とにかく何より周知せしめることが肝要で、要は広報活動や教育が大切であるというところに落ち着く。そういうことをあらためて思い知らされるルポルタージュであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『暴かれる王国 サウジアラビア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ISからの脱出(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『北朝鮮 外貨獲得部隊(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アメリカ“刑務所産業”(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-01-09 07:31 | ドキュメンタリー

『アメリカ“刑務所産業”』(ドキュメンタリー)

アメリカ“刑務所産業”
(2018年・Submarine Amsterdam & CNN Films/The Why Foundation他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
シリーズ WhySlavery? 〜世界の"奴隷労働"〜

「刑務所産業」は現代の奴隷制度の温床である

b0189364_17380237.jpg (僕は知らなかったがアカデミー賞監督賞を受賞したこともある)著名なテレビ・ディレクター、ロジャー・ロス・ウィリアムズが製作した、現代アメリカ刑務所事情のドキュメンタリー。刑務所に取り込まれて搾り取られる「犯罪者」(ある意味、被害者)の立場から刑務所産業を見るという、ユニークな面白い視点が持ち味である。
 アメリカの一部(多くの?)の町では、飲酒運転などの微罪(中には職質で不審だからという理由で捕まった者もあるらしい)で黒人が逮捕され、その後長期に渡って収監されるという。釈放された後も毎月相応な金額(保護観察費、約90ドル/月)を保護監察官に払うことが求められ、それが支払えないと再び長期に渡って収監される。通常出所した後はなかなか職が得られなくなるため、結果的にこの金額を支払えず保護観察違反となって再び収監されることになる。つまりいったん収監されてしまうと、刑務所から離れられない構造になっているという。しかも黒人が主にその標的にされている。実際、ウィリアムズの親しい友人も収監され、その後刑務所内で自殺したのである。それがこのドキュメンタリーを撮るきっかけだったらしく、ウィリアムズ自身も若い頃故郷を出てニューヨークに行かなければ同じような人生を送っていただろうと語る。
 そしてこのような問題の背景にこそ、多額の税金で運営されている刑務所の実態があるというのがこのドキュメンタリーの主張である。刑務所の周辺には、刑務所の事業に群がる「刑務所産業」と呼ぶべき産業がある。つまり刑務所の事業で大いに潤っている人々がいて、その構造を維持するために次々と刑務所に寄せ集められるのが(主に)黒人の「犯罪者」であり、その中には、先ほども言ったように本来収監されるべきでない「犯罪者」も多数存在する。そしてその「犯罪者」の方も、刑務所内で超低賃金で労働させられているという実態もある。このような仕組みにより、刑務所産業は、二重三重の構造で受刑者、市民から収奪する構造になっているというのである。まさに現代の奴隷制度と言うべき状態であり、アメリカの刑務所がどのような存在になっているのか啓蒙しようというのがこの作品の主旨である。
 一般市民に悪さをする極悪人を一般社会から隔離するのが刑務所で、治安の悪いアメリカでは刑務所の事業に金がかかるのも仕方がない程度の考え方しか僕は持っていなかったが、実態は必ずしもそうでない、実は黒人は相変わらず収奪される対象なのだということが分かる。非常に真摯な主張が静かな口調で語られる、きわめて斬新な視点のドキュメンタリーであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『T(ERROR) FBIおとり捜査の現実(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『北朝鮮 外貨獲得部隊(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『メイド地獄(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-01-08 07:37 | ドキュメンタリー

『北朝鮮 外貨獲得部隊』(ドキュメンタリー)

北朝鮮 外貨獲得部隊
(2018年・aobuero & Moonlight Films/The Why Foundation他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
シリーズ WhySlavery? 〜世界の"奴隷労働"〜

北朝鮮には奴隷制度まである

b0189364_15583729.jpg 世界のメディアが協力して同じテーマでドキュメンタリーを作るというシリーズが過去2回あったが、今年は、「WhySlavery?」というタイトルで、現在もまだ残っている奴隷労働について取りあげてみようという企画である。この企画に沿って作られたドキュメンタリーが、先日『BS世界のドキュメンタリー』で数本まとめて放送された。
 今回紹介するのはそのうちの1本で、北朝鮮がいろいろな国に派遣している労働者がテーマ。こういった労働者が存在しているのは知っていたが、これを奴隷労働とする見方は今まで持ち合わせていなかったため、非常に新鮮である。どういういきさつで選ばれた労働者かは知らないが、労働に対する対価のほとんどは国に持っていかれて、ごくわずかしか手元に残らない、しかも超過労働、休日労働も当たり前という環境であることを考えると、これも確かに奴隷労働である。しかもこれに対して不服を言おうものなら、身体的な暴行が加えられたり、強制送還(強制収容所というような話も出てきた)されたりなどということが行われるらしく、こうなるともう完全に奴隷である。
 このドキュメンタリーで紹介されたのは、ロシア、ポーランドでの労働のケースで、記者が潜入して関係者(労働者を含む)の話を聞いて実態を暴くというスタイルである。他にも脱北者たちからも実情を聞いて、北朝鮮の外国派遣労働の真の姿を明るみに出そうとする。隠し撮りしたり身を偽ったりして取材しているため、かなりスリリングな映像も出てくる。なおこうして獲得した外貨は、そのほとんどが支配者一族の収益または核開発費、軍事費になるというのは、元北朝鮮高官の脱北者の弁である。
 あの国については、世界史の流れから100年ぐらい遅れているかのような印象を抱いたりするが、とにかくいろいろなネタが出るもんである。国連の場でも、北朝鮮による派遣奴隷労働が問題になっており、禁止や制裁措置が話し合われたりしているらしいが、例によって中国とロシアが反対していてあまり進展がないらしい。なおこのドキュメンタリーでは、この2つの国が、北朝鮮が派遣する安価な労働力の恩恵にもっともあずかっている国であるという見方をしていた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『金正日 隠された戦争(本)』
竹林軒出張所『北朝鮮“機密ファイル”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『底辺への競争 ヨーロッパ労働市場の現実(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アメリカ“刑務所産業”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『メイド地獄(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-01-07 07:58 | ドキュメンタリー

『ヒトラー・クロニクル』(ドキュメンタリー)

ヒトラー・クロニクル
(2018年・独Epoche Media)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

1人の小人物としてのヒトラー

b0189364_18515418.jpg ヒトラーの生誕から1945年の自殺までを、残された映像と写真で辿るドキュメンタリー。
 ヒトラーは、幼少時父親に虐待され、学校での成績も良くない上素行も悪かったという。卒業後、美術学校への入学を目指すがこれも失敗し、ホームレスになる。そんなヒトラーの生活を一変させたのが第一次世界大戦で、ヒトラーは一兵卒として従軍することになる。
 終戦後無事帰還するが、その後右翼政党、ドイツ労働者党に関係するようになり、演説の巧みさで徐々に党の中で台頭するようになる。党はやがて国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)と改称し、ミュンヘンで反乱を起こす。この反乱は鎮圧されヒトラーは投獄されるが、その間にドイツ国内は経済が大いに乱れ、ヒトラーは出獄後、ナチスともども政治的に台頭してくる。その後、世界中を混乱に陥れたのはご存知の通り。
 このドキュメンタリーからは、凡庸な社会的敗北者が少しのきっかけで、世界史を揺るがす独裁者として台頭したことが窺われる。このドキュメンタリーで振り返るヒトラーは、ちょっとした詐欺師のようにしか見えず、その詐欺師が1930年代のドイツで熱狂的な支持を集めたわけである。支持者の熱狂を前にしたヒトラーは神がかり的な存在に映るが、しかしそれ以前のヒトラーの映像や写真からは当然こういった全能感は窺えない。権力者や独裁者を作るのは、時代の空気であるということがよくわかるし、その空気にしても偶然の産物に過ぎないと思える。
 誇大に拡大した独裁者のイメージではなく、1人の小人物としてのヒトラーを明るみに出しているという点で、このドキュメンタリーは優れた歴史の記録になっている。その点を大いに評価したい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー 最後の日々(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アフター・ヒトラー 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-21 07:53 | ドキュメンタリー

『ヒトラーの子どもたち』(ドキュメンタリー)

ヒトラーの子どもたち
(2017年・仏Gedeon)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

支配者候補生養成、もとい養育施設

b0189364_18481722.jpg ナチスが、純粋アーリア人の支配層を作るために新生児を集めて育てる施設がドイツおよび周辺国に存在した。これが「レーベンスボルン」という施設で、この施設では、アーリア系ドイツ人の若い男(親衛隊の兵士など、既婚者もいる)を招待し、そこに常駐する看護婦との間に子どもを産ませるという方法で新生児を増やしたという。この計画の一端が近年明るみに出たらしいんだが、それを紹介するドキュメンタリーがこれ。
 計画自体はナチスの愚かさが反映されているようなもので、ナチスの虐待や虐殺の歴史に比べると可愛いものに映る。そのため愚かな計画であるとは思いつつ、あまり目を引くような要素がない。
 この凡庸なドキュメンタリーの救いは後半で、この施設で生まれた新生児がその後どうなったかが(1人だが)明らかになる。この施設で生まれたその男性は現在70代後半になっており、その男性の話によると、母は幼少時からこの施設のことは一切語らなかったため(ナチスに関係していたことで迫害を受けることを恐れていたらしい)、自身の幼少時のことがわからずじまいだった。ところが母が死んだ後、遺品の中からこの施設の秘密に関わる記録が出てきた。同時に、この施設を調べているジャーナリストとも出会うことになって、自分がこの施設で生まれたことを知ったという。戦後、母子家庭の中で苦しい生活を送っていたが、それでも母がこの施設についてひた隠しにしていたことが回想されて、母の思いを今になって知るのである。本人は、母の相手(つまり父に当たる人だが)がSS(親衛隊)のメンバーでないことを信じているが、実際はSSのメンバーであったことが有力である(写真も残っている)。
 この男性を追うことで、戦争が個人の中に落とした影が表現されていて、このあたりがこのドキュメンタリーの目玉である。ただ先ほども言ったように、この施設については特別な感慨が湧かなかったため、ドキュメンタリー自体についてもあまり面白味を感じなかったというのが本当のところである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-20 07:47 | ドキュメンタリー

『バブル 終わらない清算』(ドキュメンタリー)

バブル 終わらない清算 〜山一証券破綻の深層〜
(2018年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル
平成史スクープドキュメント第2回

山一證券破綻騒動から見えてくるもの

b0189364_16094626.jpg 1997年に自主廃業した大手証券会社、山一證券の破綻騒動を追体験するドキュメンタリー。当時の山一の幹部や元大蔵官僚なども登場し、当時の事情を語る。
 日本中がバブルで踊った90年代初頭、当然のごとく証券会社各社は絶好調だったが、バブルが破綻すると途端に風向きが悪くなる。しかも多くの証券会社では、大口顧客をつなぎ止めておくため、株式投資の赤字分を証券会社が穴埋めするという、いわゆる損失補填を行っていた。これはその後、政府によって禁止されるが、山一證券は密かにこれを続け、しかもこの損失を巧妙に隠蔽していた。いずれ景気が回復し株価が上がればこの損失も相殺できるだろうというのが上層部のハラだったが、彼らが望んでいた夢のような景気回復はいつまで待っても訪れない。やがてこの損失隠しは徐々に明るみに出ることになり、責任を取って当時の執行部が変わったりもしたが、結局(当時護送船団方式という名前で日本の金融機関の指揮を執っていたにもかかわらず)大蔵省は損失隠しの山一を救済することもなく、そのために山一證券は11月24日にあえなく破綻。記者会見の席で、新社長が号泣しながら「社員は悪くありませんから!」などと叫ぶみっともない姿をさらしたのは記憶に新しい。
 そういった過程を紹介していくのがこのドキュメンタリーで、(内部関係者の視点は目新しいと言えるが)それほど新しい事実が紹介されるわけではなく、ありきたりな回顧ドキュメンタリーという印象は拭えない。ただ僕にとって非常に面白かったのが、山一證券の上層部、特に社長や会長など責任を持つ権力者連中が、社内の問題の存在を把握しながらそれを先送りにし、悪い情報は持ってくるななどと部下に怒鳴っていたという当たりの話である。トップがこういう態度だと、問題が存在していても解決するわけはなく、こういった態度は危機管理へのアプローチとして最悪と言わなければならない。これは無責任・先送り体質の現れであり、昨今日本のあちこちの大企業で続発する不祥事も、こういった体質の結果生じているもので、しかもこの体質、太平洋戦争の時代から全然変わっていない(竹林軒出張所『ノモンハン 責任なき戦い(ドキュメンタリー)』を参照)。「都合の悪いことはなかったことにし」その上「誰も責任を負わない」悪しき日本の風土は、企業だけでなく行政府内でもいまだに健在、継続中なのである。
 そもそもトップに立つということは、その集団のあらゆる責任を負うということである。報酬は責任に対して支払われるものであり、またそういう人々が問題を正すための原動力にならなければ問題なんて解決するわけないのだ。山一證券の場合も同様で、下の人間が上に問題解決を働きかけても、上の人間が愚昧であれば握りつぶされるだけだし、下手をすると閑職に追いやられることだってあり得る。そういう意識が無い、単にたまたま出世競争に勝ち抜いただけの愚か者がトップに居座る日本の大企業・官庁のシステムが、こういった集団の問題の原因になっていることが窺われる。過去の失敗(たとえばあの戦争)を鑑みて反省するということをしない傲慢さが、このような問題を生み出しているわけで、いい加減気付けよと思う。愚かなくせに傲慢な人間が、社会の上層部にいまだ多数貼り付いているのが日本社会である。このドキュメンタリーを見ると、そのあたりが見えてきて再確認できるのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『戦後70年 ニッポンの肖像 (2) "バブル"(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『昭和史 1926-1945(本)』
竹林軒出張所『ノモンハン 責任なき戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『731部隊の真実(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本国債(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『862兆円 借金はこうして膨らんだ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実(本)』

by chikurinken | 2018-12-18 07:09 | ドキュメンタリー

『キャメラマンMIYAGAWAの奇跡』(ドキュメンタリー)

キャメラマンMIYAGAWAの奇跡
(2018年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

宮川マジックの一端を垣間見る

b0189364_18142813.jpg 映画の撮影監督(キャメラマン)、宮川一夫の足跡を辿るドキュメンタリー。
 戦後の数々の有名映画監督と仕事をし、しかもどれも「ならでは」の映像美を作り出した撮影監督として名高い宮川一夫。このドキュメンタリーでは、関係者や映画人たちの証言で宮川一夫の仕事の秘密、魅力を紹介していく。インタビューに登場する映画人は、篠田正浩や周防正行の他、マーティン・スコセッシ(ハリウッドの映画監督)、ジョン・ベイリー(ハリウッドの撮影監督)など。市川崑や黒澤明が宮川一夫のすばらしい仕事について語った生前のインタビューも登場する。
 このドキュメンタリーで紹介される映画は、『羅生門』(黒澤明監督)、『山椒大夫』、『近松物語』、『雨月物語』(溝口健二監督)、『おとうと』(市川崑監督)、『無法松の一生』(稲垣浩監督)、『浮草』(小津安二郎監督)など。中でも『羅生門』で逆光の太陽光を撮影したのは、当時の映画人に衝撃を与えたという(太陽光をフィルムに捉えるのが不可能だったため)。現場では、ガラスにろうそくの煤を付けそれをフィルター代わりにしたということで、こうすることでフィルムが焼き付くのを防ぐことができる。映像を見ている限りでも、この点についてはまったく不自然さがなく非常に見事な映像に仕上がっている。またレフ板の代わりに鏡を使って光と影を強調するなどということも行ったらしい。太陽光を撮れなどという無茶な要求を出したのはそもそも監督の黒澤明らしいが、それを実現したのは宮川ならでは……ということらしい。
 一方で溝口健二などは、要求をあまり出したりせず映像設計のすべてを宮川に任せたという。「任せた」と言うと監督の度量の大きさを窺わせるが、実際のところはほとんどを人任せにして良い悪いのみを言うような監督だったらしい、溝口は。だが宮川の方も全力投球で撮影にあたり、水墨画を思わせるようなカットを散りばめた。中には湖の手前の木を墨汁で黒くして影を強調するなどということまでやったらしい(『山椒大夫』)。『雨月物語』では、カメラがパンしているうちにシーンが劇的に変化するような長回しのショットもあって、これについても紹介されていた。
 市川崑の『おとうと』では、監督が「大正時代の色彩」を求めたため、この要求を満たすため、銀残しという(独自の)斬新な現像処理でモノクロ・タッチのカラー映像を作り出している。これは宮川オリジナルの技法であるが、その後、スピルバーグが『プライベート・ライアン』でこの技法を利用したらしい。
 小津安二郎の『浮草』でも宮川一夫が起用され、非常に印象的な土砂降りのシーンを撮影している。元々小津は松竹の監督だが、この一作だけ大映で撮影しており、そのためもあり大映所属の宮川一夫に白羽が立てられたわけだ。松竹の映画監督の山田洋次によると「松竹ではああいう雨は降らさない、松竹の雨はしとしと」だそうで、小津も大映に行くとあんな激しい雨を振らすのかと当時松竹の関係者の間で話題になったらしい。また宮川の提案で(小津らしからぬ)俯瞰のカットを1箇所だけ入れているのも(小津映画としては)独特である。顔に逆光の影を入れたシーンもあり、随所にいろいろな工夫があることがわかる。
 紹介された数ある映画の中でも一番驚くのが稲垣浩監督の『無法松の一生』(1943年版)で、最後の2分30秒のオーバーラップのシーンが、(一般的な技法である)現像処理ではなく、いろいろなシーンを1年間かけて1本のフィルムに少しずつ重ね録りしたという話であった。そのために宮川は長い巻物を作ってそこに何フィートでどの絵を入れるか計算した上で、フィルムを適宜巻き返しながら重ねて撮影したらしい。1箇所失敗したらすべてパーという壮大な手作業である。そもそも現像処理を採用しなかったのは、現像処理の場合(当時の技術では)画面が暗くなることがわかっていたためで、このあたりのプロ根性は見上げたものである。このドキュメンタリーからは、宮川が決して天才肌の撮影監督ではなく、むしろ細かい努力や工夫を大切にした職人肌のカメラマン、もといキャメラマンだったことがわかる。番組内では、宮川が「強烈な監督の個性に向き合うことで自分自身の個性も磨いた」という言葉で締めていたが、この言葉が非常な説得力で迫ってくる。
 この番組では、撮影技法を伝える目的で映像を駆使して解説していたために、撮影上のさまざまな工夫や技法が非常にわかりやすくなっていた。こちらも映像作品「ならでは」と言えるかも知れない。1時間のドキュメンタリーであるにもかかわらず、本一冊分以上の情報量があったと感じるほど濃密であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『羅生門(映画)』
竹林軒出張所『山椒大夫(映画)』
竹林軒出張所『おとうと(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『破戒(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『用心棒(映画)』
竹林軒出張所『赤線地帯(映画)』
竹林軒出張所『新・平家物語(映画)』
竹林軒出張所『祇園囃子(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『プライベート・ライアン(映画)』
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『チトサビシイ 残された3本に輝く天才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『巨匠たちの肖像 ヒッチコック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イノさんのトランク(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-17 07:13 | ドキュメンタリー

『戦車の時代がやって来た』(ドキュメンタリー)

戦車の時代がやって来た
(2017年・仏IMAGISSIME/独LOOKS Film)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

機関銃→塹壕→戦車という過程で
大量殺戮の時代を迎える


b0189364_18244103.jpg 第一次世界大戦が始まった1914年当時、ドイツ人もイギリス人もこの戦争が短期間で終結すると考えていたという。参加した兵士も、英雄的な考えにとらわれた志願兵が大半で(「クリスマスまでには戻ってくる」などと語った志願兵もいるらしい)、その事実が当時の一般的な考え方を反映している。ところがこの頃の戦争は、それまでヨーロッパ諸国で繰り広げられていた政治の道具としての戦争ではすでになくなっていた。一番大きいのは、機関銃などの近代兵器が実用化されたことであり、機関銃が主力になると敵陣に打って出るというような英雄的な戦い方ができなくなるため、塹壕を掘り、その中で敵の出方を窺いながら耐えるという戦い方になる。したがって戦闘は長期化し、武器をはじめとする兵站が膨大になり、結果として国力をかけた総力戦になってしまう。そのために第一次大戦は、当初の目論見から外れて長期化し、ヨーロッパ諸国は戦勝国も敗戦国も著しく疲弊することになった。これが第一次大戦の歴史的な評価である。
b0189364_18244994.jpg 大戦が戦われていたとき、西部戦線(独仏国境)では、バルト海から地中海にまで達する長い塹壕が掘られた。この長い塹壕で向かい合った両軍は、この状況を打開するために、塹壕を突破できる新兵器の開発を始める。それが戦車である。周囲を装甲で覆い、敵からの攻撃に耐えながら塹壕を突破し、機関銃や大砲で敵兵を一掃するというコンセプトの車両である。フランスや英国で開発が進んだが、最初に実戦に投入されたのは、ソンムの戦いにおいてである。英国軍が戦場に新開発の戦車を数十台投入し敵軍に大いなる脅威を与えたが、完成度が低かったためにそのほとんどが途中でエンコし、使い物にならなかった。しかしそのポテンシャルについては両軍ともに大いに感じるところがあったようで、戦車は改良され(ルノーなどの自動車産業も協力したという)、やがて実践にどんどん投入されるようになる(ドイツ軍は、資材の不足により十分な量の戦車が作れなかったために、結局戦車投入競争に敗れたらしい)。こういった近代兵器と戦車の歴史が語られるのがこのドキュメンタリーである。戦車についても英軍のマークI戦車、リトル・ウィリー、フランスのルノーFT-17などが映像で紹介される。
 ドキュメンタリー自体は、少々尻切れとんぼの終わり方をし、続編があるかのような示唆が最後に出てくる(この後戦車の技術が近代農業に活用されソ連の計画経済を支えるというような表現がある)。実際この作品の原題が『AGE OF TANKS Ep.1』であるところを見ると、エピソード2以降の存在も当然考えられる。今回なぜにこれを単発ドキュメンタリーのようにして放映したかは不明だが、第一次大戦の特性を知る上で兵器を知ることは重要であり、戦車の存在がその後の大量殺戮に繋がったことを知ることも重要であるため、それはそれで有意義な番組だったとは思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カラーでよみがえる第一次世界大戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アメリカの新たな戦争 無人機攻撃の実態(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-02 07:24 | ドキュメンタリー