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竹林軒出張所

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カテゴリ:ドラマ( 228 )

『二人の世界 (1)〜(26)(ドラマ)』

二人の世界(1)〜(26)(1970年・木下恵介プロ、松竹、TBS)
演出:木下恵介、川頭義郎、横堀幸司
脚本:山田太一
音楽:木下忠司
出演:竹脇無我、栗原小巻、あおい輝彦、山内明、文野朋子、東野孝彦、三島雅夫、小坂一也、水原英子、太宰久雄、武智豊子、矢島正明(語り)

人に歴史あり、店に歴史あり

b0189364_13495462.jpg 山田太一初期の傑作『二人の世界』を12年ぶりに見る。前にもレビューを書いており、しかも内容がよく書けているため今回は良いかと思っていたが、やはり印象が強く、何か書いておくべきと感じる。
 何よりも善意の人々が多く出てきて心地良い。最近『スカッとジャパン』に出てくるような危ない奴に出会うことが続いて、嫌な気持ちが続いていたんだが、このドラマを見て少し気持ちが和らいだ。それにこのドラマにもちょっと危ない奴が出てきて、主人公も同様に気分が落ち込んだりしているのが、また共感を呼ぶ。前にも言ったように、ナレーションがやたら多いとか、今の時代から見るとところどころ違和感があるが、しかし素晴らしいセリフも随所に散りばめられていて、山田太一の面目躍如と言える作品に仕上がっている。全編フィルム撮影されているため、70年のカラー作品でありながら、今でも残っていたというラッキーな作品でもある(この頃ビデオで撮影された作品は、多くが失われている)。かつて改革開放前の中国でも放送されたことがあるらしく、栗原小巻は中国でも人気があるとか(竹林軒出張所『中国10億人の日本映画熱愛史(本)』を参照)。もちろんこのドラマの栗原小巻、それから竹脇無我は非常に魅力的である。
 少し前に放送された『3人家族』と同じようなスタッフ、キャストで、主人公の2人の役回りも同じなんで、最初は恋愛話かと思って見ていると、第6回で突如、恋愛話が終わってしまって、その後、一体どういう方向に進むのか気になって見続けるというドラマである。前も書いたが、子供の頃、親が一生懸命このドラマを見ていて、だが僕はこの時間帯(21時から放送だったと思うが)すでに寝る時間で、そのためにテーマ曲だけが耳に入っていた。あのあおい輝彦のテーマ曲がまたメロウで良いのである。そのときも子ども心に恋愛ドラマだと思っていたのだ。
 音楽と言えば、音楽監督は木下恵介の弟、木下忠司で、音楽もあまり目立たないが非常に良い仕事をしている。ところどころ水戸黄門風になるが、それは同じ作曲家だから仕方ない。
 登場人物で言えば、物わかりの良い麗子の父(山内明)とコックの沖田(三島雅夫)が、出てくるのが楽しみになるような存在で、非常に魅力的である。あおい輝彦は『3人家族』同様、好人物を演じているが、今回は『3人家族』よりやや引いた位置付けという感じである。
 また、冒頭のタイトルバックが非常に上品なのも良い。ジャン・コクトーのリトグラフが部分部分映されるだけの映像だが、落ち着きがあって、心が安まる。テーマ曲と合わせて、本編に対する期待感を膨らませるような役割も果たしている。
 今回、何本かずつ連続で見たために、途中、少し気が抜けたような気がした回もあったが、ストーリー上それなりにいろいろと困難が出てきて、いろいろな人々の善意で助けられるという展開は、適度な緊張感が続いて、連続ドラマとしてはこれ以上ないくらいよくできていると思える。気持ちが暗くなって人を信用できなくなったらもう一度見ようかと思えるような「素敵な」ドラマである。
 せっかくなので、すべての回のストーリーを簡単にまとめておこうと思う。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『「3人家族」と「二人の世界」(ドラマ)』
竹林軒『遙かなり 木下恵介アワー』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1 続き(補足)』
竹林軒出張所『3人家族 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『夏の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『中国10億人の日本映画熱愛史(本)』

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主な登場人物
二郎(竹脇無我)
麗子(栗原小巻)
麗子の弟、恒雄(あおい輝彦)
麗子の父(山内明)
麗子の母(文野朋子)
レストランのコック、沖田(三島雅夫)
二郎の友人、関根(東野孝彦)

第1回から第6回は出会い・恋愛編。
第1回
 アルマンド・ロメオのコンサート会場。チケットを持っていないにもかかわらず一番高い料金を払うから中に入れてくれないかと支配人に無茶な申し出をするサラリーマンの二郎(竹脇無我)。ここで、同じような申し出をしに来た麗子(栗原小巻)と出会う。結局2人ともコンサートには入れなかったが、意気投合し、その夜、赤坂のあるレストランで一緒に食事をする。ここのコック(三島雅夫)とも親しくなる。2人は翌日も会う約束をする。

第2回
b0189364_13495968.jpg 翌日2人は昼食を共にする。その場で二郎は、麗子に特別なものを感じていることから真剣に付き合いたいと麗子に言い、麗子も賛同する。だが麗子には婚約者がいた。しかしその日のうちに、麗子はその婚約の解消を相手に伝える。麗子の弟(あおい輝彦)、父母(山内明、文野朋子)が心配して動揺する。

第3回
 数日後の土曜日の夜、2人は会って、遅くまでデートする。麗子の帰りが遅くなったため、父母が心配し麗子を責める。麗子は二郎のことを話し、知り合ったのは5日前だが「結婚しても良いと思っている」と語る。近いうちに父母に二郎を会わせることを誓う。ちなみに二郎は会社の寮で一人暮らし。同僚の関根(東野孝彦)に麗子のことを打ち明ける。翌日、父から二郎の職場に連絡が入り、次の日に麗子の家で面会することを約束する。
 その日のうちに麗子の弟の恒雄が会社まで出向き、姉と別れろと迫る。
(物わかりの良い父のセリフ「(娘のことが)長年一緒の家にいた仲だ。(帰宅が遅くなって)気になったって仕様がないだろ」が良い。『夏の一族』にも似たセリフがあった。)

第4回
 翌日、二郎が、麗子の家にあいさつにやってくる。良い雰囲気である。

第5回
b0189364_14011098.jpg 第4回の続き。麗子の家。良い雰囲気だったが二郎が(出会って6日であるにもかかわらず)結婚したいと切り出したために急に空気が冷え込む。父母は早すぎると言うのである。麗子と二郎を責める。返事は今すぐできない、あらためて返事すると言われ、二郎は暗い顔で家を後にする。その後、父母は麗子を「世間知らず」と責めるが、麗子も父母に「気持ちは変わらない」と訴える。
 二郎の帰り道、弟の恒雄が後をつけてきて話があると切り出す。二人でとあるバーに入る。恒雄は別れろと迫るが、二郎は真剣だと訴える。恒雄はその後、酔っ払ってベロベロになり、二郎に介抱されてしまう。
 二郎の田舎の家族も、二郎の兄は、何だか癪だ(弟が東京でいい目を見ていることに少しひがみがある)が、父母は賛成という風景。
 ところが、その後いきなり結婚披露宴のシーンに移る。「細かないきさつはもう十分だろう。結局二人は思い通りにしたのである。三ヶ月経った、晴れた冬の日曜日であった。」というナレーションが入る。そして無事に披露宴が終わる。
(当初、恋愛にまつわるあれこれが最後まで続く恋愛ドラマだとばかり思っていたのだが、このナレーションでそうでないことが明らかになる。)

第6回
 二郎と麗子、新婚旅行から帰る。喧嘩したようで、雰囲気が悪い。だがさすが新婚、その日のうちに仲直りする。

第7回から第16回までは新婚・転職編であり、次の開業編への導入。
第7回
 新婚生活は、麗子にとっては、夜遅い夫を待つというもので、砂を噛むような味気ない面もあった。一方二郎は、関根と共に、新しい合成樹脂プラントの輸出権を得るという非常に大きな仕事に関わることになる。非常に忙しくなるが、その中でも時間を割いて、平日の夜、2人で外食することになる。店は、初めてのデートのときに行ったあの赤坂のレストラン。ここであのコック、沖田にあいさつし、結婚したことを知らせる。沖田に大歓迎され、ボトルワインまでおごってもらう。(このコックが、見ていて楽しくなるようなキャラクターで、登場するのが楽しみになる。)
最後のナレーション「甘い、思い出しても懐かしい一夜であった。しかしその一夜は、そのときの二人には思いもよらぬほどの深い意味を潜めていたのであった。」

第8回
 新婚生活。麗子は幸福を感じている。かつての麗子のフィアンセが訪れたり、二郎の友人の関根が飲みに来たりする。一方二郎は、手がけていた仕事が結局他の会社に渡り駄目になってしまったのだった。
最後のナレーション「その仕事の失敗は、二郎たちのミスではなかった。重役たちの決定の甘さに原因があった。しかし原因とかかわりなく、それが二人を思いがけない運命に導いていくのである。」

第9回
 二郎と関根が、重役の代わりに仕事の失敗の責任を負わされ、花形の営業部から総務部へ異動させられることが決まる。関根は、嫌気がさして会社を辞め、作曲家になるべく、修行することにする。一方二郎は、関根みたいな夢もない上、嫌なことがあったからといって辞めてしまうのは本意ではないということで、異動を受け入れることにする。二郎は麗子に異動になったことを告げる。二郎は、異動になった後、仕事に張り合いを感じることができず、砂を噛むような毎日を送る。辛い思いを共有したいと思う麗子だが、二郎は弱みを見せたくない。二人の気持ちがすれ違う。
最後のナレーション「しかし二人は、離れて立ったままであった。会社での辛い思いを二人で抱き合って慰め合うのではあまりに屈辱的ではないか、という思いが二郎を麗子に近づけなかった。」

第10回
 総務の仕事は単純作業。麗子は、二郎の左遷について母に言えない。二郎は家では明るく振る舞う。「なぜ辛さを見せないのか」と思う麗子。
 夜、近所にできたというスナック(軽食やアルコールを出す喫茶店)に二人で出かける。スナックは若い夫婦が二人でやっていた。良い感じの店だと二人で話し合う。
最後のナレーション「何気ない土曜日の夜のひとときであった。しかし、そこで見た若夫婦の働く姿が思いがけなく強い印象を残した。時が経って、その印象が一つの力となるのである。」

第11回
 家で少し言い合いをする二郎と麗子。
 二郎「慰めてもらってニヤニヤ会社に行かれるかい」、麗子「本当に今の仕事が不満なら他にどういう生き方でもできる」、二郎「甘っちょろいこと言わないでくれよ。辞めりゃ簡単さ。不満なら辞める、また辞める、だけどどこの会社に行ったってそう変わりゃしないんだ。だから我慢してるんじゃないか、生活ってのはそういうもんだ」、二郎「僕だっていろいろ考えてるんだ。青臭いこと言わないでくれよ」。
 翌日、麗子は一人で近所の例のスナックに行って少々和む。夜、二人で浅草で外食して仲直り。二郎の大学の入学式の後、父と飲んだという店(この店の話は山田太一のエッセイに出てくる。脚本家自身の経験が反映している)。二郎「夕べ言ったことを何遍も考えた。辞めないでいる理由もない。もう少し自分の世界を広く考えたい」などと言い、転職について考えると言う。麗子も賛同する。

第12回
b0189364_13500285.jpg 結局、二郎は会社を辞めることに決める。麗子は父にそのいきさつを説明する。辞めたら生活が厳しくなるかも知れないため、自分も仕事をしたいので仕事を紹介してくれないかと依頼する。
 二郎、友人の関根にも決心を告げる。関根は、商売を始めたらどうだなどと軽口を叩く。二郎、その言葉が少し引っかかって、商売について考えるようになる。麗子はこの話を聞いて、小さい店を持って二人で働けたら素敵だなどと言う。
 翌日、二郎は屋台でラーメンを食べ、屋台の店主(加藤嘉)の話を聞く。この店主も元勤め人で脱サラして屋台を始めたという。店主「脱サラしたときの自由だという気持ちが忘れられない」。脱サラして商売を始めることにリアリティが出てくる。二郎「一発ドカンと何かやりたくなったな」。このとき商売を始めることをはっきり決意する。翌日、麗子にそのことを伝える。開業資金について具体的に考えるようになる。二郎「親父に相談しようと思う」。麗子「時間かけて少しでも良いお店にしましょう」。
最後のナレーション「威勢の良い決心の仕方ではなかったが、二人の前にまったく見当の付かない新しい世界が開け始めていた。期待と不安とが二人の間を流れた。静かな朝であった。」

第13回
 二郎、実家に帰り、会社を辞めてスナックを開店したいということ、金を貸してほしいということを伝える。兄、一郎はいきり立って金はないと言い、父も何も言わない。だが翌日帰郷する段になって、父が定期貯金が近いうちに満期を迎えるのでその200万円を貸すと言う。ただし一郎の手前があるため利子を取ると言う。兄は帰り際に二郎を呼び、50万円無利子で貸すという。(兄貴、頑固だが良いところがある。)
最後のナレーション「250万の借金と自己資金50万、あわせて300万円の目安は付いたが、それだけでスナック開店は無理であった。しかし、漠然とした転職という希望から、もう一歩具体的な領域に足を踏み入れたのである。そのことが、二人を明るくさせていた。」

第14回
 工作機械の会社(社長はタコ社長、太宰久雄)で勤めを始めた麗子。二郎は、退社後、スナックの実務について教える学校に1カ月間通うことにする。
 二郎、会社を辞めて新しい商売を始めるということを、麗子の父母に直接会って話す。具体的なプランが決まったら教えてくれと話す父。プランが良ければ金を出すとまで言う。(物わかりの良い父である。)
最後のナレーション「二郎は、麗子の両親の目に自分がどのように映ったかがわかるような気がした。不確かな夢を追う男。しかし絶対に成功してみせる、見ていて欲しいと二郎は思った。」

第15回
 友人の関根が自宅にやってくる。習ったばかりの料理で関根を接待する二郎。関根はその後、金を無心するつもりでここに来たと言う。音楽の師匠がアメリカに行ってしまい生計を立てていた仕事ができなくなったというのだ。二郎は侠気を出して5万円貸してしまう。後でその金額のことで二郎と麗子は喧嘩する。
 翌日も喧嘩の状態が続くが、夜、二郎は上機嫌で帰ってくる。来月会社を辞めてしまい、来月から1月間、他のスナックに見習いに行くことにしたと言う。自然に仲直りしてしまう二人。失恋して遊びに来ていた恒雄は、一人取り残された形になる。
最後のナレーション「二人の世界が大きく変わろうとしているところだった。取り残されて恒雄は孤独の中にいた。」

第16回
 二郎、ついに会社に辞表を出す。退職の日、二人だけでささやかに自宅でパーティ。
(恒雄の恋愛のエピソードが並行して進んでいるが、これについては省略)
最後のナレーション「新しい世界へ踏み出す二人にしては呑気すぎる夜であったが、ともあれこれが、二郎のサラリーマン生活、最後の夜であった。」

第17回から第26回までが開業・奮闘編。
第17回
 二郎、スナックの見習い勤めを始める。麗子、好奇心から見に行く。二郎、カウンターに入って、それらしく立ち振る舞っている。ホットケーキまで作って麗子に出す。二郎はそれなりに自信をつけている。
 二郎、物件探しを始める。

第18回
b0189364_14011366.jpg 二郎が目星をつけた物件を、麗子、麗子の父母が、二郎と一緒に見に来る。
 この物件に一端は決めるが、その後、父が、自分も100万円出資するから、やはり高くてももっと良い物件を探してみないかと言う。「君たちが新しいことを始めるのを見ていると、自分も肩入れしたくなる。だから無利子、無期限で100万円貸す。君たちの夢にかけたい、仲間に入れてもらいたい」と言ってくれる。(良い義父である)
 あらためて店探しを始める二人。そんな折、恒雄が新しい物件を探してくる。現在スナックで、店主がスナックを辞めるから貸しに出すという。そのために居抜きで借りられる。条件は良く予算的にも何とかなる。結局ここに決めるが、前オーナーがスナックを辞めるということが気にかかって、近所のおばさんに話を聞く。何でもこれまでこの物件を借りてきた人々の夫の方が次々に不幸に見舞われてきたという不気味な事実が判明。今のオーナーも夫が入院して仕事ができなくなったという。家族会議の結果、しかるべき神事を行うなどして、この物件を借りようということになる。
最後のナレーション「こうして店が決まった。若い二人には似合わなかったが、占い師の言うとおりにした。女の怨みを鎮めるという神社の神主を招いたのである。これから店を直し、開店の支度である。いよいよ二人の新しい人生であった。」

第19回
 店の改装、開店準備が進み、いよいよ翌々日開店という運びになる。二郎の兄が、開店祝いで上京する。良い店だと祝ってくれる。
 翌日、関根がやって来て、借金を返す。仕事が順調に進み出したことも報告。夜、新しい店に関係者を呼んで、開店パーティを開く。
 いよいよ開店の日を迎える。朝早く目を覚ましてしまう二郎。いろいろと考えてしまう。
最後のナレーション「結局7時半には店へ来ていた。あと3時間半で開店である。二人は黙りがちに、しかしクルクルと働きながら、新しい世界の出発の時を待った。」

第20回
 開店初日風景。最初の客は変な若者で、コーヒーを頼むが結局何も飲まずに出ていく。客は昼頃から大勢訪れ、昼食時が終わるとめっきり客足が減る。客の流れが初めてわかる。恒雄が連れてきた学生たち、家族連れなど、いろいろな客がやってくる。夜は夜で、一人で入ってくる客が多く静かになる。最後の客は、読書している、感じの良い客(小野寺昭)である。こうして初日の営業が終わった。
最後のナレーション「開店の日の売上は、20,530円。予想以上の成績である。このまま順調にいけば、借金もそれほどかからずに返せるかに見えた。明るい夜であった。胸の膨らむ1日であった。」

第21回
 翌日の昼間、麗子の父が店にやって来る。麗子は、テレビかステレオを入れるという話になっているという話を父にする。父は、テレビを入れないという選択肢もある。客がテレビを入れてくれと言っても、すべての客に対応することはない。客本位になるのも良いが店がお客さんを選ぶことも必要じゃないか。自分の店はこう行きたいという個性みたいなものが欲しいじゃないかと言う。(良いセリフである。)
 夜、近所の若者たちがやって来て大きな声でギャンブルの薄っぺらい会話をしている。うるさいため、昨日の読書の客も早々に帰ってしまう。しかもこの若者たち、支払をツケで頼むと言う。二郎は受け入れようとするが、麗子が切れてしまい、うちは掛け売りはお断りしていますと言って追い返してしまう。
 麗子「店の方で客を選ぶ権利がある、あんな人にニコニコするのはいやだ、店の方針をはっきり決めて、格みたいなものを作った方が良い」と二郎に言う。そんなことじゃやっていけないと二郎。麗子「近所を見てみたところ、あまり良いものを食べる場所がない。良いものを出すなど、思い切って店の特色を出してみたらどうだろう」と言う。二郎は、「甘いことを言う」と言って怒る。どうしてそんなことが我々にできるのか、そんなことを考えるのは5、6年早いと言うのだ。
 その後、開店してから1カ月経った。なんと10軒と離れていない近所にスナックができることがわかる。テーブルが5、6個あり、しかも大きなクーラーを入れ、ジュークボックスも置くという。
 新しい店の存在が気になる二郎、あのレストランのコック、沖田に、新しい料理について相談してみることにする。店の特色を出すという麗子の提案について、考えてみようというのである。
最後のナレーション「なぜか、赤坂のレストランで「料理だけが生きがいだ」と言ったあのコックの姿が突然蘇って、二郎を呼ぶのであった。あの屈託のない楽しげな姿。」

第22回
b0189364_856623.jpg 二郎、赤坂のレストランを訪れて、コックの沖田と話をする。何かこれはという一品を出したいからアイデアがあったら教えてもらえないかと言う。沖田は快諾する。
 二日後、沖田が店を訊ねてくる。しかも近所の店のリサーチ済みで、二郎と麗子はいたく感心する。
 翌日の夜、店の営業中、近くに新しくできるスナック「うぐいす」の若い店主、本木(小坂一也)とその父親(内田朝雄)がやって来てあいさつする。父親の方はドスが利いた感じ。「うぐいす」の方は、開店に備えて、店先で大々的に宣伝活動。サービス券を配付したりする。
 その後、再び沖田が、食材を持って開店前にやって来る。美味しいカレーを伝授すると言う。いろいろと考えたがスナックに適した一品というとやはりカレーかということになったと言う。
最後のナレーション「沖田は楽しげに新しいメニューの準備を始めたのであった。」

第23回
 沖田がカレーを実際に作ってみると、非常に旨く、二郎は感心しきりである。麗子は「今日仕込んだカレーを売るのが嫌になった」とまで言う。また沖田はハンバーガー弁当のアイデアも用意し、そのレシピも授けてくれる。沖田は、こうして頼られるのが嬉しいと語る。(沖田の善意が気持ち良い。)
ナレーション「その日の6時に新しいスナックは開店した。流行歌を流し店のしつらえも俗悪で、住宅の多いこのあたりには似合わない気がしたが、客の入りは良かった。主人の客あしらいも慣れていて、競馬であろうと、野球、麻雀、競輪から女の話までやすやすと相手になる男であった。同じやり方で競っても二郎に勝ち目はなかった。自分は自分のやり方でやり通すしかない。とにかく明日からだ。ハンバーガー弁当とカレーライスで勝負するのだ。」
 二郎と麗子、宣伝ビラを配ったりポスターを出したり広報活動をする。
 当日、開店前に「うぐいす」の親子がカレーを食べさせてくれと言ってやって来て試食していく。昼時はいつものように満員だがカレーの評価はわからず。ハンバーガー弁当も7個売れただけで、少々ガッカリ。昼が過ぎるといつものように暇になる。ところが午後になって、ハンバーガー弁当を20個買いたいという、近所の会社勤めの女性が来る。昼買って食べたら美味しかったために社長が社員におやつとして出すと言い出したらしい。最初の反響。
 翌日、沖田に報告しに行く。謝礼を渡そうとすると拒まれる。「あんたがたに喜んでもらえて、この10年の間で一番楽しい思いをした。これからも肩入れさせて欲しい」と言う。
最後のナレーション「ところがその翌日、商売敵の新しいスナックは、10円安いカレーライスとカツサンド弁当を売り始めたのであった。」

第24回
 「うぐいす」の方は、マスターが客あしらいがうまく、しかもテレビを入れているため、若者のたまり場みたいになっている。二郎と麗子は、それに少し危機感を持っている。テレビを入れた方が良いんじゃないかと思う。開店前に沖田がやって来て相談に乗る。
「問題はあなたがたがそういう店にしたいかということだ。店の方針というものが大事であって、客に合わせていたら切りがない、こっちで客を選ぶ気でなくちゃ」と言う。「店が人生の舞台なんだから客の顔色でどうにでもなるようにしてはいけない。旨い料理で評判を取っていくつもりだったんだからそれで辛抱していかなくちゃ。無理して客に合わせたんじゃ店を開いた甲斐がない。」
 さらに沖田、3人であちらの店に行ってみてカレーを食べてみようと提案する。結局3人で食べに行く。味は到底問題にならないことがわかる。沖田は後に「しかし不味かったねぇ」と言って大笑いする。「あんなものは競争にも何にもなりはしない。10円安くたって、そんなの問題じゃない。相手が繁盛してもそんなものは一時だ。味一本」。
 その夜「うぐいす」の本木が、酔っ払ってやって来る。ビールを頼むが、昼間のことに文句を言い、突然二郎を殴りつける。捨て台詞を吐いて出ていく。
 翌日開店前に、本木親子がやって来て謝りに来る。体面上謝ってはいるが、愚痴や脅迫めいたことまで口上していく。その日の午後、いつもなら客足の少ない時間帯に学生が20人ばかりやって来てカレーを食べた。昨日の騒動のときに店にいた客が、昨日の騒動を「カレーの味に嫉妬した同業者が嫌がらせに来た」という評判にして友人を連れてきたのである。
 昼時の込み方が日増しに激しくなってきた。美味しいという評判が広がっているのがわかった。その後、とある新聞に店のカレーの記事が載る。

第25回
 店は順調。
 麗子が妊娠したことがわかる。思わず「困ったなぁ」と口走る二郎。これが原因で夫婦喧嘩になる。

第26回
 麗子、つわりで店に立てないことが多くなる。恒雄が手伝ったりアルバイトのウェートレスを雇ったりする。人を使うことを考えなければならなくなる。
 二郎と麗子、沖田を中華料理店に誘い、お礼をする。その場で沖田が、別の有名レストランから引き抜きの話があると言う。だが今さらレストランを移るより、むしろレストランを辞めて、二郎と麗子の店を手伝いたいと言う。あの店を手伝うことは、張り合いもあるしやりがいもある。今金銭面では不自由はないため、月給5万円でしばらく雇ってもらえないかと言う。「若い人が一生懸命働いてだんだん大きくなる、そういうのを手伝ってみたい」と言う。二郎、「願ってもないこと。あまり良い話なんで信じられない」と言って歓迎する。
 二郎の実家の兄、父母が上京し、店を見に来る。その後、麗子の実家で麗子の両親を交えて、二郎と歓談。(大団円1。)
 店では突然の貸し切りが入り、沖田が助っ人でやってきて腕を奮う。(大団円2。)
最後のナレーション「確かに何もかもがこれからなのである。何一つ終わったものはなく、二人の世界は明日に向かって開けていた。子供が生まれる。他人と一緒の仕事が始まる。レストランに変えていく計画がある。こうした物語の終わりこそ二人にふさわしいと私たちは思った。」
 今までのいろいろなシーンが回想風に流れ、テーマ曲が流れる。(良いエンディングである。)

by chikurinken | 2018-10-01 07:48 | ドラマ

『続あ・うん』(1)〜(5)(ドラマ)

続あ・うん (1)〜(5)(1981年・NHK)
演出:深町幸男、加藤郁雄
脚本:向田邦子
出演:フランキー堺、杉浦直樹、吉村実子、岸本加世子、岸田今日子、池波志乃、永島敏行、秋野暢子、殿山泰司

秀逸なキャラクターが魅力

b0189364_18214671.jpg 1980年にNHKで放送された『あ・うん』が好評だったせいか、翌年に続編が作られた。『あ・うん』と同様、昭和初期(昭和十年代)のとある家族の肖像が娘の視点で描かれる。続編も前作と同様、娘役の岸本加世子の味のあるナレーションで話が進行していくが、父の友人が母に恋している設定なわけで、娘に語らせるには内容が生々しい。
 基本的な家族構成、周辺の人々との関係は前作とほぼ同様だが、山師の祖父(志村喬)がすでに死んでいる点が異なる。代わりにその腹違いの弟(笠智衆)という立場の老人が登場して、いろいろと事件を巻き起こす。
 続編で中心となる事件は、父(フランキー堺)と友人(杉浦直樹)の喧嘩別れや、前作同様、娘(岸本加世子)の恋(相手はロシアの演劇に凝っている大学生)などだが、基本的には淡々と話が進んでいくホームドラマである。前にも書いたが(竹林軒出張所『父の詫び状(本)』を参照)、このドラマに出てくる登場人物、作者の実際の家族をよく投影しているように思える。そのためもあってか、登場人物の言動には非常にリアリティがある(ただし行動については、リアリティがあるとはあまり言えなさそうである)。何よりこのドラマ、キャラクターがどれも秀逸で、ドラマの大きな魅力になっている。中でも少々怪しげな人物、たとえば「金歯」や「イタチ」などが味わい深い。あちこちにくすぐり笑いの要素が散りばめられていることもあり、本作は前作より楽しんで見ることができたような気がする。なお、最終回には志村喬がゲスト出演する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(本)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』

by chikurinken | 2018-09-13 07:20 | ドラマ

『続・夢千代日記』(1)〜(5)(ドラマ)

続・夢千代日記 (1)〜(5)(1982年・NHK)
脚本:早坂暁
演出:深町幸男、渡辺紘史
音楽:武満徹
出演:吉永小百合、樹木希林、秋吉久美子、石坂浩二、いしだあゆみ、壇ふみ、緑魔子、長門勇、中条静夫、中村久美、あがた森魚、夏川静枝、加藤治子、菊地優子、松本ちえこ、岸部一徳

第1シリーズほどではにゃあでにゃあ

b0189364_16253221.jpg 『夢千代日記』発表の翌年に放送された続編。
 舞台設定は前シリーズを踏襲しており、そこにいろいろな闖入者が登場して、いろいろと事件を巻き起こすという「いかにも続編」という展開である。闖入者の多くは不幸な女たちで、いしだあゆみ、菊地優子、松本ちえこが彼らを演じる。不幸な女たちと言えば、他のレギュラー陣も不幸な女たちで、今回もその不幸に拍車がかかる。秋吉久美子の「金魚」は、育てている子どもをとられそうになるし、樹木希林の「菊奴」もどん底につき落とされる。ただしこの菊奴のキャラは、強烈で非常に面白く、ドラマ随一の特異な人物である。不幸な役回りにしなくても良かったんじゃないかという気もするが、不幸なりに強烈なキャラは維持している。
 石坂浩二扮する上村は、このシリーズでは夢千代が恋をする対象になるが、元々は闖入者の一人である女子中学生と関連した存在である。この上村、ストリップ小屋の背景を描くために鳥取からこの町に呼ばれてきた絵描きの役だが、偶然にも、問題のあった女子中学生の俊子(菊地優子)とこの町で出会うという、やや無理のある設定になっている。偶然の設定を使用するとその数に比例してドラマが浅くなるわけで、こういう偶然はいただけない。いしだあゆみも不幸な闖入者の役回りで、自らの不倫のために離婚に追い込まれるという中年女性の役どころで、この役柄、なんと同時期に作られた『駅 STATION』や『北の国から』と共通である(どれもいしだあゆみが演じている)。いしだあゆみの鉄板キャラだったのか?
b0189364_16354499.jpg 何だかあれこれがパターン化しているような印象で、そのためもあり、前作ほどのインパクトはなかった。この後『新・夢千代日記』と続いてこの『夢千代』シリーズは完結する。たしか第3シリーズもこれまで一度見ていると思うんだが、まったく記憶がない。もしかしたら見ていないのかも知れないが、第3シリーズは全10回と長いし、今回の第2シリーズがもう一つだったこともあり、あらためて見る気は、今のところあまり起こらない。
プラハ国際テレビ祭大賞受賞、第19回ギャクシー賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『夢千代日記 (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『花へんろ 風の昭和日記 総集編(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『修羅の旅して(ドラマ)』
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『映画女優(映画)』

by chikurinken | 2018-09-11 07:24 | ドラマ

『夢千代日記』(1)〜(5)(ドラマ)

夢千代日記 (1)〜(5)(1981年・NHK)
脚本:早坂暁
演出:深町幸男、松本美彦
音楽:武満徹
出演:吉永小百合、樹木希林、秋吉久美子、林隆三、楠トシエ、大信田礼子、緑魔子、長門勇、ケーシー高峰、岡田裕介、中条静夫、伊佐山ひろ子、中村久美、あがた森魚、夏川静枝、加藤治子

贅沢至極! 申し分ない!

b0189364_18464577.jpg 言わずと知れた早坂暁の代表作。1981年にNHKの『ドラマ人間模様』の枠で放送された。
 山陰地方(ドラマでは「裏日本」と呼ばれている)の湯里という小さな温泉町が舞台。その町で芸者の置屋を営む若い女将(兼芸者)が主人公の夢千代(吉永小百合)である。夢千代は、母が妊娠中に広島で被曝した、つまり胎内被爆者であり、そのために白血病の症状で苦しんでいる。その毎日の症状を主治医に報告するために日々の日記をつけていて、その日記の内容が、このドラマのナレーションとして使われるという、なかなか凝った設定になっている。タイトルもそれにちなんだものである。
 この夢千代の周囲で起こるあれこれの事件がモチーフとして現れ、同時に、白血病を始めとする、夢千代が抱えるいろいろな問題があぶり出されていくという縦糸と横糸の関係が実に見事で、脚本の見本みたいな素晴らしい作品に仕上がっている。夢千代によって語られる「(夢千代の)置屋が問題のある芸者ばかり抱えている」というのもなかなか可笑しいセリフである。(いわくのある登場人物が多いことに対する)作家の言い訳みたいにも聞こえる。
 キャストは非常に豪華で、だからといってビッグネームが揃っているというわけではないんだが、非常にうまい役者、変わったキャストが揃っている。吉永小百合は当時36歳で、非常に美しい。奇跡的と形容しても良いぐらいの美しさで、このドラマが吉永小百合の代表作であることはもう間違いない。b0189364_18464126.jpg長門勇や中条静夫、ケーシー高峰、林隆三など周囲を固めるキャストはきわめて個性的で、実在する人物であるかのようなリアルな存在を見事に演じている。樹木希林、伊佐山ひろ子、加藤治子らの力のある女優たちもいかんなく実力を発揮している。珍しいところでは、歌手のあがた森魚、楠トシエあたりで、2人ともドラマの中で歌唱がある。あがた森魚は「赤色エレジー」まで歌っており、第5話の「最后のダンス・ステップ」も良い味が出ていた(「最后のダンス・ステップ」は緑魔子と共演!)。夢千代の元恋人役の岡田裕介は、この後東映のプロデューサー業に転じ、映画版の『夢千代日記』では製作者として参加している。
 シナリオについては今さら言うまでもない。早坂暁の代表作であるのは間違いないが、しかしそれにしても、まったく飽きさせない舞台転換、セリフ回しなど、昨今のドラマとはまったく次元が異なるとすら思う。しかも武満徹が音楽を担当しているというのも贅沢至極である。当時の日本のドラマの最高水準とも言える作品ではないかと思う。
第14回テレビ大賞優秀番組賞、第8回放送文化基金賞奨励賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『花へんろ 風の昭和日記 総集編(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『修羅の旅して(ドラマ)』
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『映画女優(映画)』

by chikurinken | 2018-08-23 07:45 | ドラマ

『花へんろ 特別編 春子の人形』(ドラマ)

花へんろ 特別編 春子の人形(2018年・NHK)
原作:早坂暁
演出:平山武之
脚本:冨川元文
出演:坂東龍汰、芦田愛菜、田中裕子、尾美としのり、中西美帆

花へんろを安っぽく仕上げました

b0189364_17362897.jpg 早坂暁の代表作『花へんろ』を現代風に作り直したスピンオフみたいなドラマ。
 ストーリーは、『花へんろ』からごく一部分を取り出して恋愛ものに仕立て上げましたというようなものであるが、オリジナルの『花へんろ』と多少人物の設定が違っている。広島で死ぬ春子は、オリジナル版では姉だったがこのドラマでは妹である。このドラマでは、主人公(早坂暁自身の投影:坂東龍汰)と春子(芦田愛菜)との間で恋愛感情が芽生えるというような面はゆい話に変わっている(なお、主人公と春子には血のつながりがない)。無理やり恋愛ものに持っていったような風もあり、そのためもあってドラマとしてはきわめて陳腐な話になってしまった。
 それに加々美幸子のナレーションも、ドラマの中での語り手の位置付けが不明で、そのために非常に説明的でベタな語りになってしまっている。下手なドキュメンタリーのナレーションみたいになってしまい、地に足が付いていない感じさえして、ドラマの語りとしてはまったく冴えない。こういった過剰に説明的なナレーションなら、むしろない方が良いと思う。
 また、オリジナル版とかなり似たシーン(主人公と母との別れのシーン)も再現されていたが、オリジナル版のシーンがものすごく感動的に仕上がっていたのに、このドラマでは、まったく面白味がなく味のないシーンになっていた。書き手が違うとこうも違うのかと逆に感心した。この「リメイク版」はあらゆる部分が安っぽく、もちろんあの時代と今の時代のドラマの水準の違いみたいなものも勘案すべきなんだろうが、それにしても……である。オリジナル版『花へんろ』に対する冒涜のようにすら思える。
 このドラマの唯一の見所は芦田愛菜で、彼女は大変魅力的だったが、彼女を活かしたいんだったら(リメイクでなくて)普通の青春ドラマで良いんじゃないのと思う。それから、映画の『ダウンタウンヒーローズ』みたいなシーンもあって(あの映画は早坂暁の自伝的小説が原作)、製作者側は多分に意識したんだろうが、そのあたりも特に感じるところはなかった。『ダウンタウンヒーローズ』の主要なキャストである尾美としのりが、このドラマで父親役として出ていたのもその辺が関係したのかどうだかわからないが、ドラマ自体がつまらないため、それについても何の感慨も湧かない。
★★★

追記:
 先ほど、早坂暁にちなんで作られた別のドキュメンタリーを見たところ、このドラマ『春子の人形』は、早坂暁の実際の経験を基にしたドラマで、早坂のたっての希望で作られたらしい。血のつながりのない妹が広島で原爆で死んだというのも事実らしく、ただオリジナル版の『花へんろ』を書いたときは、(早坂にとってその事実が重すぎて)これに触れることができなかったという。今の時代に次の世代に伝えるべきと感じてこのドラマを企画したというのが真相のようだ。ただしだからと言って、このドラマ自体が安っぽいという事実には変わりはない。

参考:
竹林軒出張所『花へんろ 風の昭和日記 総集編(ドラマ)』
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』

by chikurinken | 2018-08-22 07:36 | ドラマ

『花へんろ 風の昭和日記 総集編』(ドラマ)

花へんろ 風の昭和日記 - 第一章、第二章、第三章総集編
(1985〜88年・NHK)
演出:深町幸男他
脚本:早坂暁
出演:桃井かおり、河原崎長一郎、加藤治子、藤村志保、沢村貞子、中条静夫、小林亜星、樹木希林、森本レオ、佐藤友美、小倉一郎、永島暎子、イッセー尾形、三田村邦彦(語り:渥美清)

十分の一の総集編

b0189364_19574791.jpg 先頃脚本家の早坂暁が亡くなったためか、代表作『花へんろ』の「特別編」というドラマが製作され、先日(18年8月)放送された(僕自身はまだ見ていない)。それに合わせて過去NHKで放送された『花へんろ』の第一章から第三章までがまとめて放送された。「まとめて放送」といっても、元々は各章45分×6回(第一章のみ7回)分のドラマであり、これをすべて放送するとなると放送する方も見る方も大変という判断だったのか、なんと各章を30分にまとめたダイジェスト版が放送されたのだった。つまり855分がなんと90分になっているわけで、ほぼ十分の一。まさにスーパー・ダイジェストである。
 僕自身は放送時『花へんろ』を見ていないため、DVDで見ようと思い図書館で借りたこともあるが、なんせ長いので結局見ずに返したことがたびたびあった。たださすがに十分の一のダイジェストを最初に見てしまうというのも少々気が引ける……。というわけで少し悩んだのだが、これは見て正解だった。非常によくできた面白いドラマであることがわかる。しかもダイジェストで展開がやたら早いので、まったく飽きることがない。もちろん、物足りない箇所、というか、見ていて辻褄が合わない(ように思える)箇所があるんだが、かなりの分量がカットされていることを考えるとこれも致し方ないところである。
 このドラマ、早坂暁の自伝的作品であるため、早坂暁にとっても畢竟の代表作と言っても良かろう。内容も非常に重厚で、全編反戦思想が貫かれている。また主演の桃井かおりにとっても畢竟の代表作と言える。特に若い頃の桃井かおりは、破天荒な性格の役柄が多くて、なかなか好きになれなかったが、こういう重厚な役柄もできるのかと今回あらためて感心した。それにキャストが超豪華なのも驚きである。また随所に俳句が入るのも味がある。ドラマ的な起伏もあり、非常によくできたシナリオで、この作品も80年代を代表する名作ドラマに数えられるのではないかと思う。
 今回総集編をすべて見終わって、これはやはり全編しっかり見るべき作品であったかなと感じる。とは言え、今回ダイジェストで見なかったら、一生見る気が起こらなかったかも知れないんで、総集編を見たこと自体はまったく後悔することはない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』
竹林軒出張所『夢千代日記 (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
竹林軒出張所『修羅の旅して(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-08-20 07:57 | ドラマ

『ボクの就職』(1)〜(12)(ドラマ)

ボクの就職(1994年・TBS)
演出:大岡進、山口恒成、戸高正啓
脚本:竹山洋
出演:緒形直人、渡瀬恒彦、かたせ梨乃、伊東四朗、水島かおり、忌野清志郎、茅島成美、土屋久美子、白島靖代、竹野内豊、大森嘉之、小野武彦、斉藤洋介、渡辺真紀子、住田隆

魅力的なキャラクターが光る

b0189364_17561935.jpg 割合ありきたりの設定のホーム・ドラマではあるが、しかしキャラクターが非常にうまく描かれていることから、出色のドラマに仕上がっている。今回見るのは初回放送時、再放送時に続いて3回目だが、おかげで今回も十分楽しめた。
 主人公は新卒でレトルト食品企業に入社した若手営業マン(緒形直人)で、エリート銀行員の父との確執や、会社での理不尽な扱い、営業マンとしての奮闘努力がストーリーの中心になる。一種のサクセス・ストーリーであるが、全編に渡り笑いの要素がある他、あちこちに見所がある。同時入社の2人が要領の良いエリート(竹野内豊)と体育会系(大森嘉之)で、2人とも立ち回りがうまく、その点主人公がいろいろなところで出遅れたりするのも、見ていて非常に身につまされる設定で、多くの視聴者の共感を呼ぶと思う。知らないうちに社内の派閥抗争に巻き込まれたりというのも、非常にありがちである。そう言えば緒形直人、かつてNHKの『新橋烏森口青春篇』でも似たようなサラリーマン役を好演していた。当時の緒形直人、新人サラリーマンにうってつけの役者だったのかも知れない。
 緒形直人の他、渡瀬恒彦、かたせ梨乃、伊東四朗あたりの主演クラスはどれも素晴らしい演技で言うまでもないが、周りの脇役も味のある良い演技をしている。中でも異色なのは忌野清志郎で、主人公の義理の兄を演じている。このキャラクター、社会にあまり適用できないタイプで、いつも義理の父に怒られてばかりいる。ほぼ毎回「申しわけありません」というセリフが口から出てくる。結局はミュージシャンとして生きていくことを決意するんだが、そういう設定であるため、番組の中でも清志郎の生歌がかなり出てくる。最後の最後には、テーマ曲の「サラリーマン」を(ザ・タイマーズのメンバー、三宅伸治・川上剛・杉山章二丸らと)ライブで歌うという味のある趣向もある。最初の放送時にこのドラマを見た時、僕自身、忌野清志郎のことをあまり知らなかったため、てっきりこのドラマのキャラクターのようなだめ人間かと思っていたほどで、それを考えるとこのドラマの清志郎は名演技と言えるかも知れない(ただしセリフはやや棒読みである。存在感は抜群であるが)。
 後半はやや無理やりなストーリー展開になるが、演出やシナリオがよくできていて、ドラマ的な面白さもふんだんに盛り込まれている。何より完成度が高く質が高い。なかなかこれだけの完成度を持ったドラマはないと思うんだが、残念ながらDVDは発売されていない。
 今回、BS-TBSという冴えない民放BS局で3週間に渡って放送されたものを見たんだが、毎度ながら、民放BS局はもう少しこの手の国内ドラマを放送したら良いのにと思う。民放BS局のラインナップと言えば、チープな韓国ドラマと通販番組ばかりで、これで放送局としての存在価値があるのかと思わせられるようなものばかりである。BS-TBSについて言えば、7月はこの番組の他、ビートたけしが主演した名作、『大久保清の犯罪』も放送していて、少しは悪しき風潮を見直す機運が出てきたかと感じているが、この傾向がいつまで続くかはわからない。
★★★★

追記:
 なおこのドラマ、タイトルバックも秀逸である。あまりに面白いんで、僕は毎回見た(普通のドラマでは大体飛ばすんだが)。日本の美術作品(浮世絵や若冲など)がふんだんに使われていて(意図はよくわからないが)やたらゴージャス感があり、しかも上品なユーモアもある。何より、登場人物が主人公の目線から見た役割ごとにまとまって出てくるため、回数が進んでいくうちに味わいが増してくる。ちなみにこのタイトルバック、ザ・テレビジョン第1回ドラマアカデミー賞タイトルバック賞というよくわからない賞を受賞したらしい。

参考:
竹林軒出張所『こんな歌もあります--「原発賛成音頭」』

by chikurinken | 2018-07-22 07:55 | ドラマ

『白鯨』(ドラマ)

白鯨 前編・後編(2010年・独襖)
監督:マイク・バーカー
原作:ハーマン・メルヴィル
脚本:ナイジェル・ウィリアムズ
撮影:リチャード・グレートレックス
出演:ウィリアム・ハート、イーサン・ホーク、チャーリー・コックス、ジリアン・アンダーソン、エディ・マーサン

『白鯨』見るなら、これ

b0189364_19505971.jpg アメリカ文学『白鯨』のドラマ化作品。ドラマ化といっても、手間も金もかかっており、まったく映画と遜色ない。劇場公開されてもまったく違和感はない。キャストも映画人が揃っている。ただし、監督のマイク・バーカーはドラマの人で、このドラマの前年に『シーウルフ』という海洋ドラマを作っている。この2本のドラマ、どちらも舞台が海で、しかもスタッフがかなり共通しているんで(DVDのジャケットもそっくり)、もしかしたら合わせ技で2本まとめて作ったのかも知れない。
 『白鯨』については、以前グレゴリー・ペックがエイハブ船長を演じている1956年作の映画をテレビで見たことがあるが、エイハブ船長の狂気ばかりが強調されているようであまり良い印象は持たなかった。このドラマ版では、エイハブ船長は多少狂気がかってはいるが、しかし行動に整合性がとれていて、船員たちとの葛藤もしっかり描かれている。また、詩的な表現もところどころにあり、原作の味がかなり残されているのではないかと感じた(原作は読んでいないので詳細はわからない)。
b0189364_18193495.jpg それに何より、帆船や海、クジラなどの映像表現が素晴らしく、非常にリアルな映像が展開され、それがこのドラマの大きな魅力になっている。CGを多用しているのではないかと思うが、CG映像に往々にして見られるような違和感はほとんどない。また当時の風俗がしっかりと描かれているなど、細かい部分にも目が行き届いていて、ドラマ化作品としてはかなり水準が高いのではないかと感じる。何よりインパクトのある表現が随所にあって、そういう一つ一つのシーンが記憶に残る。そういう意味でも、優れた映像化作品と言えるのではないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『クロムウェル 英国王への挑戦(映画)』
竹林軒出張所『レ・ミゼラブル (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(1993年ドラマ版)(ドラマ)』

by chikurinken | 2018-07-20 07:49 | ドラマ

『新十郎捕物帖 快刀乱麻』(25)(ドラマ:音声のみ)

新十郎捕物帖 快刀乱麻
第25話 空手の約束は空手形
(1973年・朝日放送)
演出:西村大介他
原作:坂口安吾
脚本:佐々木守他
出演:若林豪、池部良、花紀京、河原崎長一郎、植木等、野川由美子、尾藤イサオ、志摩みずえ

音声だけでも十分楽しめます

b0189364_928133.jpg 1973年に朝日放送系列で放送された『新十郎捕物帖 快刀乱麻』第25話「空手の約束は空手形」の音声がYouTubeにアップロードされており、今回時間ができたので聴いてみた。
 前にも書いたが、『新十郎捕物帖 快刀乱麻』は、最終回以外映像が残っておらず、よほどのことがない限り見ることはできない。ところが、かつて第21話「鳥と鳥とをとりちがえ」と第23話「唐獅子牡丹に血汐がボタン」の音声がYouTubeで公開されていたことから、これを聴くことができ、音声だけでも雰囲気は味わえるということがわかった。ただしどちらも、ドラマの中の一部であったため(第23話の方はわずか4分35秒)、本当に「雰囲気のみ」という感じである。ところが、前の2話をアップロードしていたのと同じ人(ASKDFHJOEIHというお方)が、その後、第25話もアップロードしたようで、今回聴いたのはこれということになる。しかもこの25話については、ほぼ全編収録されている。間のCMも入っているというおまけ付きで、今聴くと当時のCMも非常に新鮮である。ただ音声だけであるため、ほとんどラジオドラマみたいなものである。
 ストーリーは基本的に殺人事件の謎解きに終始するが、それを繋ぐ人物関係がなかなかコントめいていて楽しい。中でも勝海舟(池部良)、泉山虎之介(花紀京)、海舟の愛人である小糸(志摩みずえ)の掛け合いが秀逸である。おそよ(野川由美子)とそれを取り巻く中年男たち(花紀京、河原崎長一郎、植木等)の関係性も面白い。こういうところがこのドラマの一番の魅力だったんだろうとあらためて感じた。
 それから名物のストップ・モーションもあり(竹林軒出張所『内田喜郎と快刀乱麻』を参照)、もちろん画像は見ることができないが、登場人物が「バンザーイ」と叫ぶシーンで笛が鳴って、ドラマが停止し、佐藤慶の「万歳」についての解説が入る。なんでも「万歳」は元々「まんさい」と読まれていて、「ばんざい」と読むようになったのは、仮名垣魯文の『高橋阿伝夜刃譚』に「万歳」と書いて「ばんざい」とフリガナが付けられているのが最初で、これが我が国の「ばんざい」の始まり。この読みが一般化したのは帝国憲法発布式典のときからで、ちなみに「まんさい」を「ばんざい」と読むようにしたのは外山正一博士の発案だというような豆知識が披露される。ウーン、勉強になる。
 いずれにしても、終始楽しい雰囲気が漂っており、ミステリーで、ともすればおどろおどろしくなるようなストーリーでありながら、少し抜けた三枚目的な人物が緩和剤になって、面白い味を醸し出している。それに舞台が明治時代というのもユニークである。すでに映像も残っていないんであるから、これなどリメイクに持って来いの素材だと思うがどうだろう。もちろん、今の時代に合うかとか今の視聴者がこれを楽しめるかとか、そういったことについては、当方は一切関知しないからそのつもりで。
★★★☆

参考:
YouTube『快刀乱麻 第25話 空手の約束は空手形 前半』
YouTube『快刀乱麻 第25話 空手の約束は空手形 後半』
竹林軒出張所『「快刀乱麻」を聴く』
竹林軒出張所『内田喜郎と快刀乱麻』
竹林軒出張所『明治開化 安吾捕物帖(本)』

by chikurinken | 2018-07-02 07:33 | ドラマ

『おいしいコーヒーのいれ方Ⅰ』(ラジオドラマ)

おいしいコーヒーのいれ方Ⅰ〜キスまでの距離〜
(1997年・NHK)
NHK-FM 青春アドベンチャー
演出:千葉守
原作:村山由佳
脚色:佐藤ひろみ
出演:内田健介、長谷川真弓、大高洋夫

気恥ずかしくて聴いてられない

b0189364_09044638.jpg ラジオドラマを紹介している某サイトで非常に高い評価が付いていたために聴いてみた。ちなみにこのサイトでの『日本の異様な結婚式について』の評価はかなり低かったため、『日本の異様な結婚式』をはるかに超えるという(もちろん個人的な評価ではあるが)ラジオドラマに関心を持ったわけである。それにこのドラマ自体一般に人気があるようで、YouTubeでも公開されている。今回時間があったため、良い機会だと思って聴いてみたのだった。
 原作は、村山由佳という人のライトノベル(!)で、ストーリーははなはだありきたり。主人公の高校生が、年上のいとこ(美女)と同居するハメになり、当初は親戚かと思っていたが実は二人に血のつながりがなかったというふうに話が進む。その後、主人公はこの美女とあれやこれやあって恋愛関係になるという展開で、ストーリーを聴くと、我々世代は思わず苦笑してしまうような、おそろしく使い古されたご都合主義の素材であった。また演出も(若者の恋愛を描くということもあり)はなはだ気恥ずかしいもので、中高生ならいざ知らず、我々のようなオヤジにはどうにもこれはいただけない。もう少し抑えた演出でなければ聴くに堪えないという代物である。
 僕が今回聴いたのは1時間ちょっとに編集されたバージョンで、前後の部分を削ってうまいこと編集してあった素材だが、元々これはNHK-FMの『青春アドベンチャー』の枠で全5回で放送されたものらしい。放送当時これを聴いていたとしても、さすがに第1回を聴いてから第2回以降も続けて聴きたいとは決して思わなかっただろうと思う。ドラマや映画の感じ方なんか要するに人それぞれであり、他人が高い評価を付けたからといってそれが僕にとってあるいは万人にとって面白いとは限らないということ、今回、そのことにあらためて気付かされることになった。ラノベとか恋愛ものとか、恥ずかしいものとかが好きな人には良いだろうが、僕みたいなすれっからし人間には決して受け入れられない作品である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『さらば国分寺書店のオババ(ラジオドラマ)』
竹林軒出張所『日本の異様な結婚式について(ラジオドラマ)』

by chikurinken | 2018-06-30 09:05 | ドラマ