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竹林軒出張所

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『三国志 完結編 遙なる大地』(映画)

三国志 完結編 遙なる大地(1994年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡瀬恒彦、あおい輝彦、山口崇、青野武、石田弦太郎、鶴ひろみ、津嘉山正種(アニメーション)

物足りなさは残るが
全体をよくすくっている


b0189364_20063515.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。92年から3年間かけて1年に1本ずつ発表されており、これはその完結編である。
 諸葛孔明のいわゆる「天下三分の計」を実現し、蜀の地を支配することができた劉備であるが、荊州の奪還を目指す呉と全国統一を目指す魏の圧力は強く、結局荊州は呉に奪還され、しかもその地を守っていた関羽まで倒される。その後、関羽の弔い合戦として荊州の再奪還を目指し劉備と張飛は軍を進めようとするが、張飛は暗殺され、劉備軍も大敗を喫して、しかも体調が悪化し、やがて死去する。魏の曹操も病で死去し、三国時代の第一世代は姿を消す。劉備なき後は諸葛孔明が蜀の軍事を一手に率い、南進してきた曹丕(曹操の息子)の魏と戦う。魏との戦いは、魏の軍師、司馬懿仲達との決戦になるが、やがて孔明も戦地で死去する……という具合にストーリーは進んでいく。こうして主役クラスの人間が途中で次々に消えていき、次の世代に移っていくわけだが、覇を競う人々が現れては消えていくのが歴史であるということがあらためて実感される。
b0189364_20063962.jpg 完結編も2時間半に及ぶ結構な大作であるが、前にも書いたように、元々が相当な大著であるため、これでもかなりダイジェスト的になってしまう。この完結編では、「泣いて馬謖を斬る」と「死せる孔明、生ける仲達を走らす」の逸話はしっかり押さえているが、それでも間がかなり省略されているため、蜀の武将や呉の武将など、登場人物たちが唐突に出てきて消えていくため、主役クラスの登場人物以外にはあまり感情移入できない。そのあたりはしようがないとは言え、物足りない箇所である。かと思うと鳳姫(関羽の娘)のエピソードが非常に細かかったりして、多少のアンバランスさは感じる。このエピソードは、やけに湿っぽいし、個人的には不要だと思うようなものであった(一番の見所という見方もあるかも知れないが)。
 キャストは、曹操の渡哲也がこの頃病気療養していたため、弟の渡瀬恒彦に代わっている。他は第一部、第二部とほぼ同じである。
 この三作を総括すると、やはり『三国志』入門という当たりに落ち着く。物足りなさは残るが、全体をよくすくっていると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第一部 英雄たちの夜明け(映画)』
竹林軒出張所『三国志 第二部 長江燃ゆ!(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

# by chikurinken | 2019-06-26 07:06 | 映画

『三国志 第二部 長江燃ゆ!』(映画)

三国志 第二部 長江燃ゆ!(1993年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡哲也、あおい輝彦、山口崇、石田弦太郎、青野武、柴田秀勝(アニメーション)

もどかしさはあるが
うまくまとめられている


b0189364_19352684.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。三部構成になっており、第二部は「長江燃ゆ!」。タイトルから推測できるように赤壁の戦いが本作のハイライトである。
 曹操は漢王朝を事実上支配するようになるが、一方で劉備は、名声は上がるが、拠点を持たないままの浪人状態である。しかも曹操から命を狙われるようになる。いったん徐州城に入った劉備だが、曹操に敗北し、再び拠点を持たない浪人の身になる。そんな折、名軍師、諸葛孔明に出逢い、荊州から蜀へと進むべきことを進言される。孔明という優れた軍師を得た劉備であったが、なおも曹操から責められ夏口城まで引き下がることになる。しかし孔明の知略によって曹操軍を呉に向かわせ、呉と曹操軍を戦わせることに成功する。これが赤壁の戦いで、これについても孔明の知略によって曹操を倒し、しかも呉の将軍、周瑜まで計略で倒す。こうして曹操はついに荊州を手にする。
b0189364_19353095.jpg 全体にダイジェスト的だが、有名なエピソードは押さえられており、十分楽しむことができる。随時、大陸風の胡弓を使ったメロディが背景に流れ、雰囲気を盛り上げている。なお諸葛孔明の声を演じるのは、俳優の山口崇(本人が希望したという)で、颯爽とした孔明を好演している。全体を支配する空気は、義の劉備(関羽、張飛)、実の曹操という対抗軸で、正義漢の劉備が気持ち良い。ただダイジェスト的であるという制約のために、背景がよくわからない登場人物が数多く登場し(周瑜などもそう)、そのあたりが少々もどかしいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第一部 英雄たちの夜明け(映画)』
竹林軒出張所『三国志 完結編 遙なる大地(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

# by chikurinken | 2019-06-25 07:34 | 映画

『三国志 第一部 英雄たちの夜明け』(映画)

三国志 第一部 英雄たちの夜明け(1992年・シナノ企画)
監督:勝間田具治
脚本:笠原和夫
出演:渡哲也、あおい輝彦、石田弦太郎、青野武、津嘉山正種(アニメーション)

『三国志』はアニメでも大作になってしまう

b0189364_16290743.jpg 90年代に巨額の費用を投じて作られた『三国志』のアニメ化作品。三部構成になっており、この「英雄たちの夜明け」は第一部である。
 三部あわせて都合7時間程度の大作ではあるが、元々が相当な大著であるため、これでもダイジェスト的になってしまう。第一部は、劉備玄徳、曹操孟徳の活躍が中心に描かれる。
 漢王朝末期、張角率いる黄巾賊が反乱を起こし、諸国で略奪、放火、殺戮など傍若無人の振る舞いを働く(そういうふうに描かれている)。そこで、こういった悪辣な黄巾賊に対抗するため、各地に義勇軍が結成され、それが離合集散しながら、やがて黄巾の乱は鎮圧される。そのときに頭角を現したのが劉備とその義兄弟の関羽、張飛の一派、そして曹操である。劉備は、義に溢れるその人間性で名を挙げるようになり、曹操は軍事力で台頭してくる。一方で漢王朝は董卓、呂布一派に牛耳られるようになり、やがて反董卓・呂布の勢力が曹操を中心に結成され、呂布を政権から追い出すことに成功する(董卓は呂布に殺される)。
 混乱もいったんは収まったかに見えたが、各地で有力な武将が軍閥として君臨する群雄割拠の状態になり、軍閥同士でも離合集散が起こるという戦乱の時代を迎える。第一部では、劉備が曹操の配下に入り、呂布が曹操によって処刑されるというあたりまで話が進む。また少年時代の諸葛孔明が登場するが、呉の孫策はまだ名前しか出てきていない。
b0189364_16291104.jpg このアニメ作品自体は、全編丁寧に作られており、キャラクターデザインも悪くない。ごく時折であるが、表情の描写が素晴らしい箇所があって感心する。この作品を見るのは今回が二度目で、前回は『三国志』自体についてよく知らなかったため、勉強の目的で見たのだが、(長すぎないという点を考えると)そういう目的が一番合っているようにも思える。現時点では可もなく不可もなしという印象ではあるが、決して見て後悔するような作品でないのは確かである。
 声は、プロの声優が多数起用されているのはもちろんであるが、渡哲也やあおい輝彦など、有名な俳優も起用されている。渡哲也が曹操、あおい輝彦が劉備だが、ジブリ作品のような違和感はまったくなく、二人とも非常にうまく演じている。これもこの作品の魅力の1つである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『三国志 第二部 長江燃ゆ!(映画)』
竹林軒出張所『三国志 完結編 遙なる大地(映画)』
竹林軒出張所『三国志 (1)〜(30)(本)』

# by chikurinken | 2019-06-24 07:28 | 映画

『早春スケッチブック』(9)〜(12)(ドラマ)

早春スケッチブック (9)〜(12)(1983年・フジテレビ)
脚本:山田太一
演出:富永卓二、河村雄太郎
出演:鶴見辰吾、岩下志麻、山崎努、河原崎長一郎、樋口可南子、二階堂千寿、荒井玉青

そして大団円で終息に向かう

b0189364_19273015.jpg 望月家に騒動をもたらしている元カメラマン、沢田(山崎努)の病状が悪化していく。望月家の人々と沢田の恋人(樋口可南子)は、それに同情を示して沢田の元を訪れるが、さらには望月家の子ども達にしきりに絡んでいた不良少女(荒井玉青)までが毎日沢田の家を訪問するようになる。沢田は、当初見せていた攻撃的な側面を見せなくなり、何だかしおらしくなって、ちょっとばかり拍子抜けである。そしてやがて収束に向かっていくという展開になる。例によって最後は大団円で終息するという結果になる。
 沢田が死の恐怖で弱みを見せるあたりはなかなか良い描写だが、最後に物わかりが良くなってしまうのは少々腑に落ちない。とは言うものの、破綻はなく整合性はとれている。
 このドラマはなにしろ、それぞれの登場人物が非常にリアルで、性格もしっかり描きわけされていて、実在の人物のような存在感がある。こういったあたりが、このドラマの特質である。他人(血縁関係のあるものもあるが)同士が、お互いの生活に介入し合い、そこに人のぶつかり合いが生じてドラマが生まれる。この当時のドラマ、特に山田太一作品にはそういうものが多いが、それがごく自然に展開するため、違和感を感じることがない。このあたりが山田ドラマの大きな魅力であり、すごさなんだろうなと、このドラマを見ながらあらためて考えた。ただやはり最終回の展開は、どうにもいただけない感じがして、最後までモヤモヤが残った。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『早春スケッチブック(1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『早春スケッチブック(5)〜(8)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒『批評選集:ドラマ - 山田太一』
竹林軒出張所『時にはいっしょに(1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2019-06-22 07:27 | ドラマ

『早春スケッチブック』(5)〜(8)(ドラマ)

早春スケッチブック (5)〜(8)(1983年・フジテレビ)
脚本:山田太一
演出:富永卓二、河村雄太郎
出演:鶴見辰吾、岩下志麻、山崎努、河原崎長一郎、樋口可南子、二階堂千寿、荒井玉青

河原崎長一郎の演技にただただ関心

b0189364_19592833.jpg 最近、山田太一脚本のドラマがあちこちで再放送されていて、見るのが追いつかないくらいである。日本映画専門チャンネルで『真夜中の匂い』(これが楽しみ)、BS12では『早春スケッチブック』から『想い出づくり。』、NHKでも『男たちの旅路』が3本放送されるという具合。だが『想い出づくり。』や『男たちの旅路』は割合「ありきたり」な選択という感じもする。やはり日本映画専門チャンネルはこの分野では先行しており、面白いラインアップを提供してくれる。
 ところで、この『早春スケッチブック』では、重病になった元カメラマン(山崎努)が、「お前らは、骨の髄までありきたりだ」などと怒鳴り散らして、普通に生きる人たちに揺さぶりをかける。考えてみれば大きなお世話で非常に身勝手な言動だが、今まで自身の生活を振り返ることなく漫然と生きてきた人たちは、こういった刺激に過剰に反応してしまう。こうして善良で小市民的な生活を送っている人の家庭に波紋が起こるというわけだ。
 第5回から第8回では、このカメラマンが、主人公の家庭、望月家にまで入ってきて、(元恋人だった)妻(主人公にとっては母)と逢うことを求め(夫に対して「奥さんを貸してくれ」などと言う)、主人公の家庭の平穏な生活をかき乱す。
 このカメラマン、沢田(山崎努)、主人公の家族に対して不快な言動を繰り返すが、その一方で、実は割合良い人みたいな側面も見せ、そのために主人公の少年(鶴見辰吾)とその母、それから育ての父と妹も少しずつ気を許していくそぶりを見せる。かと思えば突然豹変して、相手の気持ちをえぐるような嫌な言葉を発してきたりもする。普通の人々は、こういった言葉を不快に感じつつも、どこかで揺さぶられてしまう。特に主人公の育ての父は、現状肯定型の小市民的な生活を送る人で、沢田と好対照をなす存在。もちろんそういった小市民的な生き方を否定することはまったくできないのであって、「ありきたり」であろうが、長い目で見ればそちらの方が良いかもしれないし、そもそもどちらが良いとかいう問題でもない。
 そういう小市民的な存在を巧みに表現しているのが河原崎長一郎である。この人、僕が子どもの頃からテレビでよく目にしていて、こういう小市民的な役が多かったという印象が僕の中にあるが、確認すると必ずしもそうではないようである。こういった小市民的な役は、山田太一のドラマ(『沿線地図』、『友だち』)ぐらいで、そうするとやはり、僕の中で山田ドラマの印象が非常に強かったということになるのだろうか。この河原崎長一郎、演技があまりにさりげなく影が薄いんでつい見過ごしがちだが、毎度毎度素晴らしい演技である。周辺の人間に対する気遣いや愛想笑いなど、市井の人物の表現がピカイチである。今回見ていて、すごい役者であることにあらためて気付き、ただただ感心した次第。なお、河原崎長一郎、妻役の岩下志麻と実はいとこ同士らしい(ウィキペディア情報)。
★★★★

追記:
 第8回の最後で、元カメラマン、沢田の身体に変調が起こるため、ここからいよいよ収束に向かうということになりそうだ。

参考:
竹林軒出張所『早春スケッチブック(1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『早春スケッチブック(9)〜(12)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒『批評選集:ドラマ - 山田太一』
竹林軒出張所『時にはいっしょに(1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2019-06-21 06:58 | ドラマ

『早春スケッチブック』(1)〜(4)(ドラマ)

早春スケッチブック (1)〜(4)(1983年・フジテレビ)
脚本:山田太一
演出:富永卓二、河村雄太郎
出演:鶴見辰吾、岩下志麻、山崎努、河原崎長一郎、樋口可南子、二階堂千寿、荒井玉青

見始めると目が離せなくなる

b0189364_10151946.jpg 今回、14年ぶりにこのドラマを見た。あれからもう14年も経っているのかと思う。さらに言えばこのドラマが作られたのが1983年で、ドラマが作られてから36年経っている。主人公の少年が1983年の共通一次試験を受けるという設定になっているが、僕もあの年に共通一次を受けている。83年の試験は1月15日に実施されたが、なんと成人の日とかち合っていたため、試験場に向かうバスから成人式の晴れ着を着た女性がたくさん目に付いた。当時20歳だった二浪の友人も、こういった人々を目にして、俺は一体何をしているのかと考えたなどと漏らしていた。
 この共通一次試験を目前にしているのが主人公の高三の少年、望月和彦(鶴見辰吾)だが、父(河原崎長一郎)と母(岩下志麻)が再婚同士で、共に連れ子(母に自分、父に妹)がいたという設定である。ただ結婚してからすでに10年経っているため、普通の家族との違いを感じることはほとんどない。そのため普通に高校生活を送り受験勉強に励んでいたのであるが、ある日突然、新村明美(樋口可南子)という美女が目の前に現れて、バイトしない?などと言ってかなり強引に少年を、実の父(山崎努)の元に引っぱっていくというふうにストーリーが展開する。大学入試直前にあれやこれやが起こるというのも、『沿線地図』や『岸辺のアルバム』を彷彿させる。
 この実の父、沢田竜彦というんだが、目を病んだことがきっかけで写真家を引退し古い洋館に引きこもっているという状態で、社会との唯一の接点になっているのが明美であるという設定である。和彦も最初は抵抗を覚えていたが、その後何度か沢田の元に足を運ぶようになり、沢田の影響を受けるようになる。実の父、沢田が「ありきたりな人生」を否定的に捉えるような発言をし、それをきっかけに自分の生き方についても考えるようになって、あげくに、今の父についても物足りなさを感じるというふうに話が進行していく。これが第4回までの流れである。ちなみに実の父に影響を受けてしまった和彦は、共通一次試験をすっぽかしてしまう。沢田から起こった影響が望月の家に波風を立てていくというふうにこれから進む。
 ドラマは、最初からグイグイ視聴者を引っぱるような展開で、特に樋口可南子が登場するあたりからは先が見えないサスペンスが始まり、目が離せなくなる。脚本家の豪腕にうなってしまう。また樋口可南子と岩下志麻が非常に美しいのもこのドラマの大きな魅力である。山崎努の演技も大きな見所で、涙と一緒に洟を垂らすなどなかなか見ることができない怪演である(『北の国から』で地井武男が同じような演技をしたことがあったが)。第4回の段階では、沢田の病気がまだ見えていない状況である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『早春スケッチブック(5)〜(8)(ドラマ)』
竹林軒出張所『早春スケッチブック(9)〜(12)(ドラマ)』
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』
竹林軒『批評選集:ドラマ - 山田太一』
竹林軒出張所『時にはいっしょに(1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『沿線地図(1)〜(15)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2019-06-20 07:06 | ドラマ

『ぬけ穴の首 西鶴の諸国ばなし』(本)

ぬけ穴の首 西鶴の諸国ばなし
廣末保著
岩波少年文庫

西鶴作品の翻案集

b0189364_19213674.jpg 井原西鶴の『西鶴諸国ばなし』の4編、『懐硯』の2編、『日本永代蔵』の1編を現代語で書き直した短編集。著者は近世文学の研究者で既に故人。元々は1972年に出版された本のようだが、今回「岩波少年文庫」に新たに収録されたということで、この「岩波少年文庫」版は2019年3月発行である。新聞の書評で紹介されていて興味を持ったため、今回購入した。
 収録されているのは「牛と刀」(出典は『西鶴諸国ばなし』「神鳴の病中」)、「狐の四天王」(同じく『西鶴諸国ばなし』「狐四天王」)、「真夜中の舞台」(『西鶴諸国ばなし』「形は昼のまね」)、「ぬけ穴の首」(『西鶴諸国ばなし』「因果のぬけ穴」)、「お猿の自害」(『懐硯』「人真似は猿の行水」)、「帰ってきた男のはなし」(『懐硯』「俤の似せ男」)、「わるだくみ」(『日本永代蔵』「茶の十徳も一度に皆」)の7本。訳文自体は直訳ではなくこなれた日本語で、非常に読みやすくまとめられている。著者によると、原文の3倍から9倍ぐらいの長さになっているらしい。ストーリーは西鶴らしく、奇想天外で感心する。ただ「狐の四天王」については話が収束していないという印象で、サスペンド状態で終わったような印象である。おそらく元々はどの話もダイジェストみたいなものなんだろうが、これだけ膨らませると、現代人が読んでも十分楽しめるようになる。それは太宰治の『新釈諸国噺』でも感じたが、小説に求めるものが現代と江戸時代で違うのか、あるいは時代感覚が違うのか判然としないが、こういうふうに翻案してもらうとその差が縮むというか敷居が低くなるため、こういった翻案小説は西鶴入門書としては格好の素材と言える。この翻案を読んで興味が沸いたらこの後原書に進めばよろしい。それを考えると、「岩波少年文庫」という中高生向けのラインアップではあるが、成人でも十分楽しめる、奥行きの深い短編集であると言えるんじゃないだろうか。
★★★☆

追記:
 その後、『日本永代蔵』の「茶の十徳も一度に皆」を読んでみたが、本書の著者が、物語を面白くするためかなり脚色を加えていることがわかった。言わば説話と芥川龍之介の関係みたいなものか。『日本永代蔵』の記述は、『世間胸算用』同様、本当にエッセンスみたいなものである。

参考:
竹林軒出張所『お伽草紙・新釈諸国噺(本)』
竹林軒出張所『世間胸算用(本)』
竹林軒出張所『好色五人女 マンガ日本の古典24(本)』
竹林軒出張所『好色一代男(映画)』

# by chikurinken | 2019-06-18 07:21 |

『源氏物語の時代』(本)

源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり
山本淳子著
朝日新聞社

現代版の『栄花物語』

b0189364_19275707.jpg 『平安人の心で「源氏物語」を読む』『私が源氏物語を書いたわけ』の山本淳子の著書。この2著のエッセンスをまとめて盛り込んだような本である。
 源氏物語が描かれた時代、つまり花山天皇(在位:984年〜986年)から一条天皇(在位:986年〜1011年)、それから三条天皇(在位:1011年〜1016年)へと政権が移る時代を経年順に書き綴った書で、『枕草子』、『栄花物語』、『紫式部日記』などの記述(すべて現代語訳済み)を交えながら、この時代を照射する。
 この時代は、それまで不遇だった藤原兼家が摂政の地位まで上りつめ、藤原北家九条流が政権を確立する時代で、後の藤原道長の台頭の礎が築かれる時代。だが藤原氏の台頭はすべて、賢君である一条天皇が、政治的安定を指向した結果であると著者は指摘する。一方で、一条天皇が中宮である定子を愛したあまり、そのことが政権内の不安定さをもたらす結果になったという人間的な側面も描かれる。中宮定子の兄弟である藤原伊周と弟の藤原隆家が起こした長徳の変(花山天皇に矢を放った事件。後にこの2人は地方に流される)についても詳細に描かれ、一条天皇が頼りにしていた藤原伊周の失脚、それにあわせて後ろ盾を失った定子の凋落、一条天皇の失意なども紹介される。この政変の結果、藤原道長が結果的に台頭することになり、一条は道長を頼って政権を運営せざるを得なくなる。同時に、道長の娘である彰子も妻として迎えざるを得なくなる。こうして中宮が2人という異常事態が起こる。定子の方は出家騒ぎを起こし、しかも道長の娘の対抗馬という立場に追い込まれたため、道長からは嫌がらせを受けるし、公卿たちも道長に付くという結果になって立場的に孤立してしまい、結局不遇な最期を迎えることになる。定子に愛情、愛着がある一条は、政治と愛情の板挟みで悩む日々が続いていたというのが著者の見解である。
 この時代、中宮定子に仕えていたのが清少納言、中宮彰子に仕えていたのが紫式部で、著者は、それぞれの著書からもこの時代を解き明かすというアプローチを取る。『枕草子』や『源氏物語』が書かれたいきさつもあわせて紹介し、同時にこの両書が当時の政界から受けた影響や、当時の政界に与えた影響などについても言及される。言ってみれば著者、山本淳子の解釈によるこの時代の追記録であり、現代版の『栄花物語』と言えるのかも知れない。なお『栄花物語』は、中宮彰子に仕えた赤染衛門という女房が、自身の視点から時代を書き綴った本で、本書でもたびたび言及されている。
 著者独特の解釈も盛り込まれていて少々うがち過ぎではないかと思われる箇所もあるが、トータルで非常に興味深い内容であり、平安文学の黄金時代を政治の枠組みから見るという試みはなかなかにスリリングであった。これも良書である。
第29回サントリー学芸賞・芸術・文学部門受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『平安人の心で「源氏物語」を読む(本)』
竹林軒出張所『私が源氏物語を書いたわけ(本)』
竹林軒出張所『源氏物語 (上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『あさきゆめみし完全版 (1)〜(10)(本)』

# by chikurinken | 2019-06-16 07:27 |

『「古今和歌集」の創造力』(本)

「古今和歌集」の創造力
鈴木宏子著
NHK出版

山桜 霞の間より見む歌の
宇多の御代にも恋をするかな


b0189364_19070919.jpg 平安時代初期(西暦905年)に編纂された『古今和歌集』と、それに収録されている和歌のあれこれについて紹介する本。和歌にはそれほど関心はなかったが、新聞の書評で絶賛されていたことから今回この本を読んでみた。
 元々さほど関心のあるテーマではなかったが、この本は密度が濃く、興味深い事項が多く出てくる。平安文学の基本と言っても良いような事項も非常に多く、逆にこのくらいの知識がなければ平安文学の多くは理解できないんじゃないかぐらいのことまで感じさせられる。著者が、自分の中に持つ『古今和歌集』と和歌についての思いのありったけをぶつけているような力強さも感じられ、読む方も真摯に受け止めるべき本であると感じた。
 内容が多岐に渡っているため、この本を一言で言い表すのはなかなか難しいが、『古今和歌集』の特徴について著者なりの解釈を示しているあたりがまず目を引く。つまり『古今和歌集』は、醍醐天皇が編纂させた日本最初の勅撰和歌集でありしかもその後二十の勅撰和歌集がこれに習って作られたというほどの大きな影響力を持つ歴史的大著であるが、作られた当初はそれほどの巨大プロジェクトであるという認識が当事者たちに無かったのではないかという仮説が面白い。それについては、編者たちの身分が比較的低いことや、編者である紀貫之の和歌が非常に多いなど歌の選択に偏りが見られる点などが根拠として挙げられている。和歌の選択についても、『古今集』には万葉集の時代の和歌(万葉集に収められている和歌も含まれている)、六歌仙の時代の和歌、選者と同時代の和歌というふうに収められている和歌が比較的長い時代に渡っているが、そのあたりも必ずしも一貫性があるわけではなく、割合ランダムのようである。そういった和歌群1111首を、四季(春、夏、秋、冬)、賀、離別、羈旅、物名、恋(一〜五)、哀傷、雑、雑躰、大歌所御歌というカテゴリーに分けて並べているが、これもあまり必然性があるようには思えない(全二十巻構成)。だがこういう編纂方法を採った結果、結果的にこの和歌集のできが良かったために、その後の時代でもこれと同様の形式で和歌集が編まれることになった。それが、その後の二十の勅撰和歌集(『古今集』を含め二十一代集と呼ばれる)であるとするのである。
 また、和歌で取り上げられる題材の組み合わせ(花と霞、梅と雪、雁と月)も、その多くが『古今集』に由来しているというのも面白い指摘である。つまり日本的と考えられる美意識の「型」を作ったのが『古今集』というわけである。
 和歌で使われるレトリック(掛詞、序詞、縁語など)が盛んになったのも『古今集』の時代ということで、レトリックについても紙面が多く割かれている。非常に詳細かつわかりやすく、『和歌のルール』の記述にも繋がるような内容であることよと思っていたが、実はあの本にも本書の著者が参加していたのだった。
 当然のごとく和歌も多数紹介されており、約二百首ほどが解説付きで出てくる。『古今集』の和歌には頻出する決まり文句もいくつかあるそうで、その代表格の「恋もするかな」という決まり文句が付いた和歌を並べた箇所などもなかなか秀逸である。そう言えば以前どこかで、最後に「秋の夕暮れ」を付けとけばとりあえず平安風の和歌になるみたいな話を聞いたことがあるが、あれと一緒か。
 ともかく、『古今集』や平安和歌のあれやこれやが広範囲に紹介されているため(もちろん広範囲と言っても和歌という狭い世界を出ることはないんだが)、ああいった雅な世界や、古典的な詩に興味があるのなら、読んで損はない良書であると思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『和歌のルール(本)』
竹林軒出張所『古典和歌入門(本)』
竹林軒出張所『恋する伊勢物語(本)』
竹林軒出張所『短歌をよむ(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』

# by chikurinken | 2019-06-14 07:06 |

『完全再現!黄金期のフランス古城』(ドキュメンタリー)

完全再現!黄金期のフランス古城
(2018年・仏Peignoir Prod)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

実に面白い……プロジェクト

b0189364_19290621.jpg フランス、ブルゴーニュの森の中に、中世の城(「ゲドロン城」)を中世の素材、技術だけで再建しようというプロジェクトが1998年に始まった。素材は、中世と同じものを使うことになっているが、厳密に言うと、この城の周囲3km以内で採れるものに限定するという凝りようで、森の木から建築素材と道具、土から瓦や焼き物、石や岩から建築素材や金属という具合にすべてをそこで調達する。道具も12、13世紀に使われていたものを再現しており、このあたり、西岡常一の法隆寺修復工事を彷彿させる(竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』参照)。だがこの城の工事に対する徹底度はそれをも上回るような気がする。このプロジェクト、25年かかる予定で城はまだ完成していないが、このドキュメンタリーでは、このプロジェクトの背景と現在の進行状況を紹介している。
 先ほども言ったようにすべてが現地調達という原則であるため、釘を作るにしても、近隣の岩から鉄鉱石を探し出して、現場に作った溶鉱炉で鉄を精錬するというプロセスを経る。モルタルにしても、近隣で探し出した石灰石から生石灰を精製し、近隣の砂と混ぜて作り出す。また道具についても、当時の記録に従って人力で動かせるクレーンを作ったり(巨大な輪の中に人が入って歩くことで輪を回す装置。これが非常に印象的)、必要であれば橋や足場を架けたりもする。その上で、橋については釘を使わずに木組みだけで作った方が長持ちするなどという結論が得られる。
 こういうことを考えると、このプロジェクト自体、全体的にどこか学術的な香りがするんで、学術機関や行政組織が関わっていることが容易に想像できる。職人も中世風の格好をして中世風の仕事をしているわけで、この撮影のためにこういう格好をしたのかも知れないが、どこかテーマパーク風でもある。職人の人たちもそれぞれ教育がありそうで、いかにも学術プロジェクトという印象も漂う。
 現在の日本でも城の再建は当時の工法で行わなければならないというように本物志向になっているが、その先取りになっているかのようなこの「ゲドロン城」プロジェクト、大変興味深いところである。しかし先ほども言ったようにまだ完成しているわけではなく、また建造以前の森の状態も紹介されていなかったし、建造途中の映像などもなかった。つまり現状報告のみだったため、そのあたりが少々物足りない。興味深いプロジェクトであるため、いずれ完成したらまとまった形で記録映像が出てくるだろうとは思うが、このドキュメンタリーについては、その予備知識を提供する程度のもので終始していてそのあたりが残念な部分である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』
竹林軒出張所『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言(映画)』

# by chikurinken | 2019-06-12 07:28 | ドキュメンタリー

『ダビンチ 幻の肖像画』(ドキュメンタリー)

ダビンチ 幻の肖像画
(2018年・仏ZED & SYDONIA他)
NHK-BS1 BS1スペシャル

ダビンチはこんな顔だった……のか

b0189364_17113766.jpg ある美術史家がある肖像画(テンペラ)の鑑定を依頼されるところからこのドキュメンタリーは始まる。依頼主は、この絵をオークションに出そうと思っている、ガリレオの肖像画だ……と言うが、この美術史家は「ガリレオ? とんでもない、レオナルド・ダ・ビンチの肖像画ですよ」と答える。
 こうして、2008年、レオナルド・ダ・ビンチの肖像画と疑われる作品が世の中に出てくる。なぜレオナルドの肖像だと判断されたかというと、イタリアのウフィツィ美術館にこれとよく似た肖像画があり、しかもそれは長年に渡ってレオナルド・ダ・ビンチの自画像とされていたためである。だがこのウフィツィの肖像画(「ルカーニアの肖像画」と呼ばれている)、年代鑑定の結果、レオナルドの死の100年後に描かれたことが証明された。つまり複製画であることがわかったのである。
 とすると、今回出てきたのがそのオリジナルなのか……ということになる。そこで科学的な調査を進め、この絵がいつ描かれたか判断するという手順に進む。
 まず最初に、使われている絵の具の解析を行う。それによると、肖像画に描かれている羽根飾りの部分以外は、すべてルネサンスの時代のものであることがわかる。羽根飾りからは、20世紀になって使われるようになった二酸化チタンが検出されたが、これは後世の修復の際に書き加えられたものと判断された。
b0189364_17114647.jpg 次に絵が描かれているパネルの素材について鑑定される。そしてこの素材がポプラであることが判明する。これもルネサンス時代によく使われた素材(モナリザにも使用されている)である。また炭素年代測定により、この木が15世紀後半から16世紀初頭に伐採されたものが判明した。
 さらにパネルの裏側に、鏡文字で「PINXIT MEA」と書かれていることが判明(ダビンチが鏡文字を頻繁に使っていたことは有名)。「PINXIT MEA」とは、拙いラテン語で「彼が私自身を描いた」というような意味らしい。これも、ラテン語の素養があまりなかったダビンチの背景とよく付合する。さらに筆跡鑑定によっても、この文字がダビンチの手稿の文字と非常によく似ていることがわかる。しかも、暗い色調、毛髪の描写、スフマート、左右の目の視線のずれなど、ダビンチの他の作品と共通する特徴も見られる。
 ではこれがダビンチの手になる絵だとして、果たして自画像なのかということが問題になる。そのために、現在英国に残されている弟子のメルツィ作のダビンチの横顔の肖像画(ダビンチの唯一の肖像画とされている)と、今回出てきた「新・ルカーニアの肖像画」に映されている容貌を比較し検証することになった。その結果、顔の作りが両方の肖像画でかなり近い(「人相の共通点が見つかる」と表現されていた)ということも判明する(ダビンチが顔の寸法を実際に計測して肖像画を描いていたことは有名らしい、このドキュメンタリーによると)。
b0189364_17114389.jpg さらに「新・ルカーニアの肖像画」に残された指紋(絵の表現のために指を使っているため表面に指紋が残されている)を調査し、その作者の親指の指紋を再現。これが(おそらくダビンチの他の作品〈「白貂を抱く貴婦人」〉から)再構築された指紋と一致していることが判明したようである(このあたりは非常に曖昧な表現だったため、はっきりしたことがわからない)。
 以上のような鑑定を経て、「新・ルカーニアの肖像画」はダビンチ作品であり、しかもダビンチの自画像である可能性が高いという結論に落ち着いたようだ(このあたりも曖昧な表現だった)。その後、後の時代に付けられたと思われる羽根飾りの部分やニスを除去して、完全に元の絵が復元された。
 このドキュメンタリーでは、上記のような美術作品の鑑定の過程をかなり詳細に紹介すると同時に、レオナルドの生涯も、それと同時進行で再現映像を交えて紹介する。そのためこの絵の背景だけでなく、レオナルドの生き様や作品まであわせて堪能できるようになっている。よくできた面白い作品だが、ところどころ(結果を整合させるための)ごまかしのような箇所があり、もしごまかしでなければ(曖昧な表現ではなく)このあたりをはっきりさせて欲しかったところである。
 通常であれば『BS世界のドキュメンタリー』で放送されるような内容の番組であったが(放送の形式も非常によく似ていた)、今回はBS1スペシャルで放送された。どういう理由なのかはわからない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『二枚目のモナリザの謎(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フェルメール盗難事件(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-06-10 07:11 | ドキュメンタリー

『運慶と快慶 新発見!幻の傑作』(ドキュメンタリー)

運慶と快慶 新発見!幻の傑作(2019年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

NHKの歴史物は信頼性に欠ける

b0189364_20514669.jpg 東大寺南大門の金剛力士像の作者とされているのは運慶と快慶だが、実はこの運慶と快慶、作品がそれほど多いわけではない(特に運慶)。ところが、今新しいテクノロジーのおかげで、運慶作、快慶作であることが判明した仏像が次々に登場している……という内容のドキュメンタリー。
 内容は『日曜美術館』の延長線上みたいなもので、取り立てて目新しさはなかったが、興福寺の四天王・増長天像(運慶作であることが判明したらしい)にコンピュータで彩色(元の姿を再現)した映像は実に見事であった。他には、運慶と快慶をキャスティングした再現ドラマがちょっとだけ挿入されていて、50分枠のドキュメンタリーにしては少々贅沢な感じがした。もしかしたら運慶・快慶のドラマをNHKですでに作っていて、このNHKスペシャルがその番宣の役割を果たしていたのではというような穿った見方までしてしまう。
 いずれにしてもNHKの美術ドキュメンタリーは、毎度ながらもう一つという印象である。それに、NHKの歴史ドキュメンタリーでよく見られるんだが、一部の学者の(大して根拠のない)仮説が、さだめし公認の事実であるかのように伝えるのはいい加減やめてほしいと思う。たとえば、ある学者が「……と推測することもできます」などと語っている内容が、その直後、それが既定の事実であるかのように話が進められていくことが非常に多い(特に歴史ドキュメンタリー、医療ドキュメンタリーでもよく見られる)。こういう番組作りは、歴史を歪める由々しき所作だと思うが、そういうことには一切反省がないようで、いまだに続いている。このドキュメンタリーでも、似たような場面があったので、苦言を呈しておきたい。そもそも「新発見!幻の傑作」というタイトル自体がかなりオーバーで扇情的であると感じる。
★★★

参考:
竹林軒出張所『龍馬 最後の30日(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2019-06-08 06:51 | ドキュメンタリー

『麻雀放浪記』(映画)

麻雀放浪記(1984年・角川春樹事務所)
監督:和田誠
原作:阿佐田哲也
脚本:和田誠、澤井信一郎
出演:真田広之、鹿賀丈史、加藤健一、名古屋章、高品格、加賀まりこ、大竹しのぶ

無頼な人間どもを描く作品だが
映画の方は実に端正である


b0189364_19022277.jpg 最近リメイクされたということで再び脚光を浴びている『麻雀放浪記』。前の映画が非常によくできた作品だったので、いまさらリメイクが必要なのか大いに疑問を感じるところで、しかも新しいバージョンではタイムスリップするなどという愚かしいストーリー設定にしていると聞き、端から見る気が失せてしまう。そもそもリメイクの話自体僕はまったく知らなかったし、ピエール瀧の不祥事がなければおそらく知らないまま(また世間でもあまり注目されないまま)過ぎていたのではないかと思う。いずれにしても『麻雀放浪記』に興味があるんなら、この84年版を見ておけば十分だとは思う。
 この84年版の『麻雀放浪記』だが、なんとイラストレーターの和田誠が監督した作品で、当時、こういった異業種の人々が映画界に進出してきてよく映画を作っていたという背景がある。前にも書いたがその多くはろくでもないものだったが(もちろん当時プロの監督が作った映画も多くはろくでもないものだった……日本の映画界自体が低迷していた)、そんな中でこの作品は、例外的に質の高い作品で、非常に密度が濃い上、登場人物も非常に魅力的というなかなかの佳作であった。伊丹十三の『お葬式』とあわせて、社会的にもかなり話題になったのだった。しかもこの監督の和田誠、麻雀についてはルールも知らない素人らしく、そこらあたりも話題性に繋がっていた。また、冒頭シーンに、内藤陳、篠原勝之、天本英世という濃い人たちがいきなり出てくるなど、話題性を残すための工夫(保険みたいなものだが)も見えてくる。
 僕も公開時にこの映画を見たときは麻雀のルールをまったく知らなかったが、知らなくても十分楽しめる映画になっている(知っていたらもっと楽しめるが)。原作自体、戦後のドタバタの時代に博打に命をかけているようなろくでなし人間ばかり出てくるわけで、要は無頼な人間の生態の面白さみたいなものがテーマになっている。したがってこの人間どもをどう描くかが一番のミソになってくる。そしてその辺の表現が大変素晴らしいのがこの映画なのである。キャスティング自体が非常に魅力的で、ドサ健の鹿賀丈史、女衒の達の加藤健一、出目徳の高品格、上州虎の名古屋章は、これ以上ないというようなはまり役になっている。実際、高品格はあちこちで助演賞を取ったし、当時その演技が話題になっていた。
 終戦直後の風俗の描写もよくできていて、美術や撮影も秀逸。一部、安っぽい美術はあったが、低予算だからしようがなかったのかも知れない。映像は全編モノクロで、これも当時の雰囲気を醸し出す役割を果たしている。また、最初から最後までトントンと話が進み、まったく澱みがないため、2時間近くの映画だが見ていてだれることがまったくない。そういう点では編集も優れているんだろうと思う。ともかくろくでもない人間ばかり出てきて、本当であれば少々胸くそが悪くなっても当然なんだが、最後は何だか潔ささえ感じて、爽快感すら覚える。そのあたりがこの映画の魅力なのかも知れない。
ブルーリボン賞助演男優賞他受賞
★★★★

追記:
 僕はこの映画を見た後に、原作を読んで、それがまた面白かったので続編も何冊か読むことになったが、原作を読んでもこの映画の魅力が褪せることはなかった。言ってみれば別物という感じである。そういう点でも、この映画が秀作であることがわかる。

参考:
竹林軒出張所『快盗ルビイ(映画)』
竹林軒出張所『いねむり先生(ドラマ)』
竹林軒出張所『お葬式(映画)』
竹林軒出張所『リメイクもういらん党宣言』

# by chikurinken | 2019-06-06 07:01 | 映画

『怪談』(映画)

怪談(1964年・にんじんくらぶ)
監督:小林正樹
原作:小泉八雲
脚本:水木洋子
撮影:宮島義勇
音楽:武満徹
美術:戸田重昌
出演:三国連太郎、新珠三千代、渡辺美佐子、仲代達矢、岸惠子、望月優子、中村賀津雄、丹波哲郎、志村喬、友竹正則、田中邦衛、花沢徳衛、林与一、中村翫右衛門、滝沢修、杉村春子、中村鴈治郎、仲谷昇

特に前半はリズムの悪さを感じる

b0189364_19184237.jpg 小泉八雲の『怪談』を小林正樹が映画化した作品。採用されているエピソードは「黒髪」、「雪女」、「耳無芳一の話」、「茶碗の中」の4本で、オムニバスである。
 キャスト、スタッフとも非常に豪華で、特に音楽については武満徹が全面的に仕事を任されて自由に音を付けていたという話を知ったため(『武満徹・音楽創造への旅』が出典だったと思う)、今回あらためて見てみようと思った次第。音楽については、例によって映画の中でそれほど目立つ働きをしていないが、しかし良い味を醸し出していて効果的である。
 ただやはり、映画自体が全体的にかなりまだるっこしい印象を受ける。特に最初の「黒髪」と「雪女」がそうで、それぞれ40分近く話が展開されるが、非常に長く感じる。見続けるのが苦痛なぐらいで、リズムの悪さも感じる。一方で3本目の「耳無芳一」は80分あるんだが、密度が濃いせいかこちらはそれほど長さは感じない。最後の「茶碗の中」は25分弱でこちらも非常に緊迫感があって、退屈さは感じなかった。だが前半がかなり退屈であるため、映画としての全体的な印象はあまり良くない。今回見たのは2回目だったが、武満徹の話を聞かなければまず見ていなかっただろうと思う。ただ見てみればそれなりに見所があるため、エピソードごとに区切って見るなどという方法で見るのであれば、前半の退屈さもあまり苦にならないかも知れない。とりわけ後半の2本はお奨めである。
 この映画は、世間では芸術的に高く評価されたようだが、興行的には大失敗だったらしく、製作プロのにんじんくらぶはこの映画の負債のために倒産してしまったらしい。この映画、キャストを見てもかなり豪華だし、しかもセットも力が入っていることがよくわかる。随分時間と金をかけているという印象はあるが、興行的に失敗だったという話を聞いても、それなりに理解はできる(僕自身、見ていてかなり退屈したため)。せめてアカデミー外国語映画賞でも取れていれば(ノミネートはされた)、興収も増えていて、小林正樹ももっと映画を撮れていたのかも知れない。
第38回キネマ旬報ベストテン第2位
第18回カンヌ国際映画祭審査員特別賞
ローマ国際映画祭監督賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『武満徹・音楽創造への旅(本)』
竹林軒出張所『切腹(映画)』
竹林軒出張所『上意討ち 拝領妻始末(映画)』
竹林軒出張所『いのち・ぼうにふろう(映画)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』

 以下、以前のブログで紹介したこの映画の評の再録。
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(2005年12月24日の記事より)
b0189364_8474513.jpg怪談(1965年・東宝)
監督:小林正樹
原作:小泉八雲
脚本:水木洋子
音楽:武満徹
出演:三国連太郎、新珠三千代、仲代達矢、岸恵子、中村嘉葎雄、丹波哲郎、志村喬、中村翫右衛門、中村雁治郎

 小泉八雲の『怪談』から「黒髪」、「雪女」、「耳なし芳一」、「茶碗の中」の4話を映画化したオムニバス。
 リアリズムより幻想的な表現を重視した美術で、演劇のようである。どの話もほとんどがセットで撮られている。スタジオはかなり大きく、セットも金がかかっていることがわかる。だが、こういう人為的な演出は好みの別れるところだと思う(私はあまり好きでない)。
 話自体は有名なものが多く意外性はない(「茶碗の中」は少し珍しい)。展開もまったりしているのであまり緊迫感がない(怖い場面もあるが)。昔のお化け屋敷みたいな感じだ。
★★☆

# by chikurinken | 2019-06-05 07:07 | 映画

『夜の蝶』(映画)

夜の蝶(1957年・大映)
監督:吉村公三郎
原作:川口松太郎
脚本:田中澄江
撮影:宮川一夫
美術:間野重雄
音楽:池野成
出演:京マチ子、山本富士子、船越英二、川崎敬三、芥川比呂志、小沢栄太郎、山村聡

『夜の河』の二匹目のドジョウを狙ったのか

b0189364_18294679.jpg 銀座の水商売の女たちの話で、原作は川口松太郎の小説。
 京都の名物バー「おきく」が銀座にも出店するということになり、銀座のバー「フランソワ」の主人であるマリ(京マチ子)は内心気が休まらない。というのは、「おきく」の主人のおきく(山本富士子)がかつて自分の夫の愛人だったため……というようなストーリー。人間関係が複雑で、登場人物たちが皆片想いというような設定はなかなか面白いが、ストーリーが安直に展開する(偶然の要素も多い)のが難である。とは言うものの、演出や美術、撮影は実にしっかりしている。
 中でも京マチ子と山本富士子の丁々発止のやりとりは大きな見所。もちろん大映の二大看板女優であるため、作り手側もそこを目玉にしたんだろうが、それに十分応えた二人の女優の演技は見事で、拍手を送りたくなるほどである。特に山本富士子は、芸妓あがりの女性役で、美しい京都弁を駆使する。同時に『彼岸花』の幸子みたいな飄々とした雰囲気も醸しだしている。さらに言えば、実はその裏で強い芯と情熱を秘めているというかなり難しい役柄なんだが、まったく破綻なく演じきっていてすばらしい。一方で男優の方は、悪くはないが、割合平凡な演技に終始している。端役の川崎敬三が唯一良い味を出していた。
 前年に作られ高い評価を受けた『夜の河』と同じスタッフの作品で、しかもキャストもかなり共通しているため(タイトルまで似ている)、製作側があるいは二匹目のドジョウを狙ったのかわからないが、やはりストーリーの安直さは致命的で、この映画の大きなネックになっている。実際、美術はしっかり作られているし、宮川一夫の端正な映像も魅力的(特に京都のモノクロ映像がすばらしい)なのに、安直な展開が出てくると一挙に興ざめしてしまうのである。惜しいナーと思う。だが一方で、この映画を見ると、評価の高い『夜の河』の方にも大いに関心が湧くのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『女が階段を上る時(映画)』
竹林軒出張所『女の小箱より「夫が見た」(映画)』
竹林軒出張所『女は二度生まれる(映画)』
竹林軒出張所『彼岸花(映画)』
竹林軒出張所『赤線地帯(映画)』
竹林軒出張所『羅生門(映画)』

# by chikurinken | 2019-06-04 07:29 | 映画