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竹林軒出張所

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2019年 08月 01日 ( 1 )

『大学教授がガンになってわかったこと』(本)

大学教授がガンになってわかったこと
山口仲美著
幻冬舎新書

文学の先生のガン入院・治療体験記

b0189364_19322009.jpg タイトルが「大学教授がガンになってわかったこと」になっているため、てっきり医療の専門家がガンになって病院で経験したことをあれこれ紹介する本かと思っていたが、著者は医療の専門家ではなく日本文学の専門家である。したがって「大学教授」ではあるが、病気や入院というレベルで考えれば、その辺の一般人とまったく変わらない。「大学教授が」の部分が「営業職が」であっても「保育士が」であっても別に構わないというレベルである。多分に営業的な配慮でこんなタイトルになったんだろうが、少々騙されたような感覚は残る。
 内容はありふれたエッセイである。著者(日本文学の先生)は、66歳のときに大腸ガンが見つかり内視鏡手術を受け、その4年後にも膵臓ガンが見つかって開腹手術を受けるんだが、そのときのいきさつを、患者目線から記録したというものである。社会性に問題のある医者やえらそうな看護師に対する対処方法に加え、手術を受けるに当たっての決断や気構えなどを時系列で書き綴っていく。もちろん親身な医者、看護師との出会いもあるし、いろいろと著者が考えるところも綴られている。抗ガン剤の使用に伴う副作用なども紹介されているため、ガンの外科手術を受ける人や抗ガン剤治療を迫られている人にとっては参考になることもあると思われる。実際著者は、ガンに関する本はいろいろあってもガン治療を受ける患者目線の本が今まであまりなかったことがこの本を書くきっかけになった、と「プロローグ」に書いている。この本を1つの参考にして自らの治療を選んでいったらどうですかというスタンスである。
 記述は、いろいろなユーモアも交えて書かれており、しかも平易で読みやすいが、しょせん体験記の類の本で、しかも入院、手術という割合ありふれた内容であるため、特に大きな感慨はない。入院経験を持つ人々にとってはあるあるネタの類が多いが、近藤誠の著書の影響を受けている僕にとっては(竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』を参照)、この手術自体(特に膵臓ガンの方)が必要だったのか、それから抗ガン剤治療が必要だったのか、そちらの方がむしろ気になる。抗ガン剤治療については、著者自身、多くのガンには効かないことがわかった上で服用し、その上で相当な副作用を経験しながらすぐにでもやめたいと思っていたわけで、普通に考えれば、苦痛以外何も与えるものがなかったのでは……というふうに思える。実は著者自身、近藤誠の著書を読み、近藤氏に直接面会もしているが、あまり良い印象を受けていないようである。何より、何も治療をせず座して死を受け入れるべきとする主張が末期宣告のように感じられ精神的に参った(「それにしても、K先生のご意見は、厳しいのう、生きる希望もなくなっちゃう。このままにして死になさいってことだもん。」p.108)ようで、患者側からするとごもっともな主張ではある。
 なお著者が膵臓ガン手術を受けたのが2013年で、現在もご健在。ってことは、手術が成功だったか、あるいは抗ガン剤治療が効いたか、あるいは元々不要な手術だったかのいずれかである。それはご本人、担当医師、および読者の考え方次第であり、現代医療を信じている人は当然これについて早期治療のおかげで助かったと考えるのだろうが、実際は「ものの考えよう」にしか過ぎないのである。そのあたりも医療の問題を生み出す元凶と考えられる。
 この本自体は、先ほども書いたが、ガン入院・治療体験記というレベルの本で、あまり特筆するようなものもないが、自分がそういう立場に置かれたら、あるいは大いに役に立つ本になるかも知れない。ただ説得力の点では、近藤誠や中村仁一の本の方がはるかに上を行くと感じられる。
★★★

参考:
竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』
竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』
竹林軒出張所『健康診断は受けてはいけない(本)』
竹林軒出張所『成人病の真実(本)』
竹林軒『書籍レビュー:この本をすすめる本当の理由』
竹林軒出張所『大往生したけりゃ医療とかかわるな(本)』
竹林軒出張所『どうせ死ぬなら「がん」がいい(本)』
竹林軒出張所『在宅死 死に際の医療(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『犬は「びよ」と鳴いていた(本)』
竹林軒出張所『日本語の歴史(本)』

by chikurinken | 2019-08-01 07:32 |