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竹林軒出張所

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2018年 11月 28日 ( 1 )

『こんばんは』(映画)

こんばんは(2003年・イメージ・サテライト)
監督:森康行
撮影:川越道彦
出演:倍賞千恵子(ナレーション)、ドキュメンタリー

もっと自由で良いじゃないか

b0189364_17563855.jpg 公開時に地域のホールで見て非常に感動したドキュメンタリー映画である。すばらしい映画ではあるが、DVDが広く出回っているわけでもなく(販売はされているようである)、再び見るチャンスはもうないかと諦めていたが、何と近くの図書館にDVDがあった。いつも利用している図書館ではあるが、こういうことがあると、あらためてその価値を思い知るというものである。
 この作品は夜間中学校の1年間に密着したもので、おそらくありのままの夜間中学をそのまま垣間見せてくれるドキュメンタリーと言って良い。夜間中学といえば、1993年に山田洋次が『学校』という映画で題材にしており、この映画もそれなりにヒットしたんだが、その映画の先生のモデルになったという見城慶和という先生もこの映画にありのままの姿で登場している。
 この映画の舞台になるのは、墨田区立文花中学校夜間学級である。この映画撮影時、夜間中学は全国8都府県に35校あり(「しかない」と言う方が適切か)、文花中学校はその中の1校ということになる。この中学校には、15歳から92歳まで約80名の(8カ国の)生徒が通っているという。幼い頃戦争や仕事のために教育を受けられなかった高齢の人々や、不登校になった若者、在日外国人など、その背景は多岐に渡る。確かなことは、初等・中等教育を必要としている大人が実際に存在するということである。
 僕を含め、ともすれば自分の位置が世界の標準であると勘違いしがちだが、普通に小中高校を卒業して大学まで行けるというのは、立場的にはラッキーとも言える。実際には、さまざまな理由で教育を受けられないという人々もいるし、世界的に見ればそういう境遇の人の方が多いのかも知れない。したがってそういう人々の現実を生のまま見せられるということは、いろいろな立場の人が存在するということをあらためて認識させられるわけで、それこそがドキュメンタリーの存在価値の1つである。
 ほとんどの日本人にとって、夜間中学はおそらく一生関わることはないだろう。しかしこういった学校の存在が人々の役に立っていることはこの作品を見れば一目瞭然。それどころか、ここには本来教育が果たすべき役割があるとも言える。老齢の生徒が語っていた「ここには足の引っ張り合いがない。自分がわからないところは他の人が助けて教えてくれる」という言葉が印象深い。教育ってのは本来そういうものではないかと思う。いつから足の引っ張り合いが教育現場のスタンダードになったのか、逆に疑問に感じたりする。
 この映画に登場する生徒の中には、小学校で不登校になり人と話ができなくなった15歳ぐらいの伸ちゃんという少年もいて、彼が高齢者中心の学級に入ってくる。彼は、永らく引きこもりだったせいか、学校には一切行けなかったんだが、この学校(文花中学校夜間学級)であれば行けるかもということで、2時間だけ(それでも途中まで)通うことになった。伸ちゃんは、他の人とまったく会話をしないし、表情もあまり変えることがない。他の老生徒がいろいろと話しかけるんだが、とにかく反応がない。普通だったらこういう人間と関わると「返事せんかい!」と怒る人間が出てきてもおかしくないんだが、皆彼の境遇をよく理解した上で優しく接する。最後の方のシーンでは、この彼が、何ヶ月後かわからないが、話ができるようになっていて、しかも今までできなかった行事への参加もできるようになっていることが紹介される。驚きの結末で、教育が本来果たすべき役割というものがはっきりと明示されていて、大変気持ちが良い。
 この映画を見て感じるのは、日本の学校があまりにも同調圧力が強すぎるのではないかということである。こういった、割合自由な環境で生徒たちが楽しみながら勉強して、しかも一定の成果が上げられるのであれば、もっと自由でも良いんじゃないかと思う。僕自身、以前この映画を見てからというもの、こういった(普通のルートを外れた)教育について関心を持ち、関連するドキュメンタリーや本にも接してきたが、あらためてこの映画を見るとこのようにまたいろいろ考えることが出てくる。それにもっとこういった環境を増やすべきではないかとも(当然ながら)思う。こういう風にあれこれ考える機会を与えてくれるというのもドキュメンタリーの存在意義である。そういう意味でも、このドキュメンタリー映画が非常にすばらしい作品であること、これは間違いない。
2003年度キネマ旬報ベストテン文化映画第1位
第58回 毎日映画コンクール 記録文化映画賞
第1回文化庁映画賞文化記録映画大賞
第13回日本映画撮影監督協会 J.S.C賞他受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『まちがったっていいじゃないか(本)』

by chikurinken | 2018-11-28 07:56 | 映画