ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

2018年 11月 07日 ( 1 )

『うつ病九段』(本)

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間
先崎学著
文藝春秋

「みんないい思いしやがって」が秀逸

b0189364_18242511.jpg 将棋棋士の先崎学九段がうつ病で1年近く休場していたという話はまったく知らなかった。先崎学といえば、あちこちで面白いエッセイを書いたりもしているし、いろいろな笑えるエピソードで知られる異色の棋士で、(僕にとっては)うつ病とはもっとも遠いところにいそうなイメージだったため、非常に意外に感じた。その先崎九段が、自身のリハビリも兼ねて、うつ病期の自身のどん底の精神状態や回復過程、周囲の人々の助力などについて書いたのがこの著書。
 うつ病期の様子が赤裸々に描かれているために、当事者から見たうつ病の状況がよくわかるのがこの本の最大の魅力だが、それ以外にも、他の棋士たち(サラリーマンであれば会社の同僚に相当するんだろうが)との関係性が大変気持ち良い。このあたりの素敵な関係性は著者の人望から来るものだろうとも思う。また、うつ病回復期に、記者から受けたひどい扱いにひどく落ち込み、ソファに当たり散らしてその後泣いたというくだりは、真に迫っている。帯に書かれている「ふざけんな、ふざけんな、みんないい思いしやがって」というセリフは実際に本書に出てくるが、うつ病回復期の状態をズバリと表現していてすばらしい。
 現在はほぼ回復しているようだが、その回復過程が棋力(将棋の能力)に反映しているというあたりもいかにも棋士だと思う。回復初期には、九手〜十三手詰めの詰め将棋がまったくできなくなった(うつ病期はそれに手をつけることすら不可能)というのも、将棋の部外者の目から見ると非常に新鮮である。しかしそれ以上に驚いたのは、病前であればこの100問の問題集を30分もかからずに全部解けたのにというフレーズで、やはり棋士の棋力は別次元だと思う。僕なんか今やっている五手詰めの詰め将棋に1問3日かけたりしているくらいなのに(それも問題だけどね)。
 文章は非常に素直なもので、他の先崎の著書と同様、大変読みやすい。ただし他のエッセイほどは文章が躍動しておらず、笑える要素は少ない。そもそもうつ病回復期に書いたものなんでこれは致し方ないところだが、とは言っても文章には破綻はないし、書籍としてもよくできていると思う。何より、内面から見たうつ病の症状、回復期の心の状態などは、なかなか他ではお目にかかれない症例集とも考えられ、本書の特異な部分であると言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『山手線内回りのゲリラ(本)』
竹林軒出張所『棋士・先崎学の青春ギャンブル回想録(本)』
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『入院しちゃった うつウーマン(本)』
竹林軒出張所『脳が壊れた(本)』

by chikurinken | 2018-11-07 07:24 |