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竹林軒出張所

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2018年 04月 17日 ( 1 )

『海辺のリア』(映画)

海辺のリア(2016年・「海辺のリア」製作委員会)
監督:小林政広
脚本:小林政広
出演:仲代達矢、黒木華、原田美枝子、小林薫、阿部寛

仲代の仲代による仲代のための映画

b0189364_19165776.jpg かつての名優が、すでに認知症になっていて施設に入っている。ところがその施設を抜け出して行方不明になる……というストーリーの映画。
 日本映画専門チャンネルでたびたび予告編を見て感心し、ぜひ見たいと思っていた。なんといっても画面に映し出される仲代達矢の演技が素晴らしい。ただ一方で、ストーリーの予測がある程度ついたこともあり、果たしてこれで1本の映画になるのだろうかという若干の危惧、というか(それを裏切ってほしいという)期待もあった。しかし、実際映画に触れてみると、概ね予想通りで、1本の映画にするには題材として無理だったのではないかという結論に落ち着く。言ってみれば舞台劇を見ているようで、ある瞬間のスナップショットみたいな話である。『リア王』を下敷きにしたストーリーで、かつての老名優が娘から裏切られ(捨てられ)施設に押し込まれているという背景が、登場人物の会話の中から見えてくる。実際、最初から最後まで会話劇であり、舞台演劇を映像化したという表現が当てはまる作品である。
 登場人物は5人だけで、仲代達矢以外は、さして面白味のない演技に終始しており、あまり見所もない。ただ仲代達矢については、演技といい、存在感といい、これはもう素晴らしい。そもそもこの映画、仲代達矢という俳優を多分に意識して作られた作品で、「仲代達矢がもうろくしたらどうなるか」というようなイフの話なのである。仲代自身は、その役に完全に入り込み、まさに「もうろくした仲代達矢」を演じていて、彼を見ているだけでも十分楽しめる。ただし仲代が画面に出ていないシーンになると、途端に退屈してしまうのも事実。それを考えると、一種のプロモーションビデオみたいな映画なのかとも思う。
 撮影は随所に工夫があり、映像も詩的で面白いものが多い。また「(主人公の名前が)用心棒の三船さんより名前が前にあった」などの遊びのセリフも楽しい。ただ脚本について言えば、何だかつじつまが合わないようなモヤモヤ感が残った。短いシナリオなんだからその辺は整理しておきたいところである。
 先ほども言ったが、あくまで仲代達矢のための映画で(仲代達矢自身、これが最後の映画になるんではないかと言っている)、いっそのこと長さを半分ぐらいにして、仲代達矢の魅力炸裂で終わらせておけばユニークなハイレベルの作品になっていたのかも知れないが、実際劇場にかけるとなると1時間で終わりというわけにも行かなかったんだろう。そういう点では少々惜しい作品であったかなと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『果し合い(ドラマ)』
竹林軒出張所『役者なんかおやめなさい(本)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『用心棒(映画)』

by chikurinken | 2018-04-17 07:16 | 映画