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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

2018年 03月 24日 ( 1 )

『ラスト・ソング』(本)

ラスト・ソング
佐藤由美子著
ポプラ社

いい話が目白押し

b0189364_19373189.jpg 音楽療法士という商売があるらしい。音楽療法自体は、問題を抱えた人を音楽で癒やそうというアプローチではないかと概ね想像できるが、それが商売として成り立つというのは少々考えにくい。現に日本ではあまり普及していないようで、この著者、音楽療法士なんだが、主にアメリカで活動していたようだ。この本で取り上げられているのはホスピスでの経験であり、対象となるのは終末期の患者である。著者によると、終末期で、外部からは意識がなくなったように見えても聴覚は最後まで残っているという。したがって、終末期に音楽を聞かせるというのも一理あり、アメリカでは「音楽療法はホスピスにおいて非常に重要な役割を持っている」らしいのである。
 この本では、おそらく著者の実体験だと思われる10のケースについて紹介していて、これを読むと確かにホスピスでの音楽療法は良いものかも知れないと思ってしまう。どの話も死や別れが関わってくるため非常に感動的で、涙なくしては読めないようなものである。あまりによくできた話なので、創作かと感じたりもする。もっともたとえ創作であっても良い話であるのは違いない。
 またそれぞれのエピソードで、終末期音楽療法で(著者によって)使われた楽曲がテーマ(そしてタイトル)になっていて、このあたりもよくできていると感じさせる要素である。「きよしこの夜」から始まって「What a Wonderful World」や「Unfogettable」、「椰子の実」や「花」などまで出てくるが、日本の歌が3曲もあって、アメリカの話なのに日本の歌が?と感じるが、しかし中身を読めばそれほどの意外性はなく自然ではある。いずれにしてもどのエピソードもよくできていて、短編小説集と考えてもまったく問題ない。もちろん、音楽療法の意義を日本人に伝えるという点でも十分功を奏していると言える。
b0189364_19391738.jpg 死にまつわる内容だからか、人がどこから来てどこに行くのか……というようなところまで思いを馳せることになるんだが、同時に自分が最期になったらどんな音楽を聞きたくなるだろうかなどということも考えてしまう。それくらい、心の琴線に触れるような話が多いということだが、でも、どの話もできすぎていて、ホントはフィクションなんじゃないかとつい考えてしまう自分がいる。もちろん先ほども言ったようにフィクションであっても全然かまわないんだが。
 なお、この本に因んだCDも出ている。『ラスト・ソング~人生を彩る奇跡の歌』というんだが、この本で取り上げられている歌がピックアップされていて、本と合わせて聴くと良いというコンセプトなんだろうが、ちょっと度が過ぎている気もしないではない。とは言いながら、僕もツタヤで借りてしまった(まだ聴いていないが)。一種のメディアミックスなんだろうが、まんまと引っかかったわけだ。もっとも今回は、本は図書館で借りている上CDについてもレンタルCDなんで、売上にはほとんど貢献していない。
 と、いろいろと書いてはきたが、先ほどから何度も書いているように、感動的で良い話が多く、なかなか味わい深い本であるのは確かである。あらためて買おうかなという気持ちはある。
★★★☆

追記:
 自分が死ぬ直前にどういう歌を聞きたいか考えるという似たようなテーマの本もある(『マイ・ラスト・ソング』)。こちらは久世光彦(元TBSディレクター)のエッセイ集で、自分の終末に何を聞きたいかということに思いを致すことにはなるが、内容的には取るに足りないものが多い。面白いものもあるにはあるが、底が知れているというのが率直な感想。

参考:
竹林軒出張所『最期のコンサート あるチェロ奏者の死(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『在宅死 死に際の医療(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『やがて来る日のために(ドラマ)』
by chikurinken | 2018-03-24 07:37 |