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竹林軒出張所

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2018年 02月 05日 ( 1 )

『麥秋』(映画)

麥秋(1951年・松竹)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
出演:原節子、笠智衆、淡島千景、三宅邦子、菅井一郎、東山千栄子、杉村春子、二本柳寛、佐野周二、宮口精二、高橋豊子、高堂国典

桐箱に入った芸術作品みたいな品格がある

b0189364_18253274.jpg 小津安二郎の中期の代表作。これも嫁入り話で、その後の小津映画(『東京物語』、『お早よう』、『彼岸花』、『秋刀魚の味』)に展開していくさまざまな要素がこの映画の中に凝縮されているという点でも、小津映画の画期の作品と言える。
 今回見たのはNHK-BSで放送されたデジタルリマスター版だが、まずその画面の美しさに驚いた。以前見た『東京物語』と同様、画面のブレがなく、しかもコントラストがシャープで、端的に言えば30歳くらい若返ったという印象である。非常に良い仕事である。ただし問題点もなくはなく、音声が非常に聴き取りにくいという難点がある。聴き取りにくさは黒澤映画なみで、当時の機材のせいかどうか知らないが、こちらももう少しリマスターできなかったものかと感じる。大変惜しい点である。
 今回見た『麥秋』だが、画面がきれいになって映像が安定しているためかどうかわからないが、以前より強い印象を受けた。原節子が演じる紀子も、過剰に理想化されておらず、原節子のイメージによく合っていると感じる。そのため自然な等身大の人物像になっていて大変好ましい。淡島千景も若々しくて魅力的である。笠智衆は、他の小津映画と異なり、世代が一つ下になっているのが興味深い(原節子の兄役)。この2年前に撮影された『晩春』では原節子と親子だし、2年後の『東京物語』でも義理の親子である。しかもこの作品では東山千栄子の息子役と来る(『東京物語』では夫婦役)。それでも何とか収まっているのが摩訶不思議なところだ。なお笠智衆は1904年生まれ、原節子は1920年生まれなので、実際には親子というには近すぎる。さらに言うと東山千栄子は1890年生まれで、こちらも夫婦だと少し無理がある。結局のところ、小津映画では笠智衆がかなり幅広い年齢を演じているというところに落ち着く(多くは老人役だが)。
 今回もう一つ目に付いたのは、カメラが移動するカットがいくつかあった点で、小津映画(特に後期)というとカメラ据え付けみたいな印象があるため、意外な感じがした。ただカメラが移動するカットの後に、シーンが変わって移動撮影で繋がるというような遊びが随所にあって、これなど小津らしいユーモアが感じられるのである。また、あるシーンを正面から撮影し、次のカットでその裏面からの撮影と続くようなシーンも結構多かった。こういうシーンは後期の小津映画ではあまりないように思う。一般的な映画ではありきたりかも知れないが、書き割りみたいなシーンが多い後期小津映画では逆に新鮮に感じる。
 このように自分なりの新しい発見があちこちにあったのは、リマスターできれいな画像になっていたせいかも知れない。そういう意味でも、リマスター技術の素晴らしさをあらためて実感したのだった。前にも書いたが、この映画についても、修復された美術工芸のような印象があり、桐箱に入った芸術作品みたいな品格もある。ブルーレイディスクを買って手元に置いておきたくなるような気さえする。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえった「東京物語」』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『彼岸花(映画)』
竹林軒出張所『お早よう(映画)』
竹林軒出張所『秋日和(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』

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 以下、以前のブログで紹介した『麥秋』のレビュー記事。

(2005年11月22日の記事より)
b0189364_18253549.jpg麥秋(1951年・松竹)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
出演:原節子、笠智衆、淡島千景、杉村春子、三宅邦子、菅井一郎、東山千栄子、二本柳寛、佐野周二、宮口精二

『東京物語』と並んで小津安二郎の傑作と目される映画だが、もう一つピンと来なかった。悪くはないが、あまり感情移入できないというか……。
笠智衆と子どもたちの親子関係はこの後『お早よう』へ、原節子の嫁入りばなしは『彼岸花』、『秋刀魚の味』へと展開していくことになる。いわば原点となった映画。このあたりの作品から小津調が出てくるようだ。
ちなみに東山千栄子と笠智衆は、この映画では親子の役だが、『東京物語』では夫婦の役になる。でもあまり違和感がないのは不思議。
★★★

by chikurinken | 2018-02-05 07:25 | 映画