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竹林軒出張所

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2016年 01月 25日 ( 1 )

『恍惚の人』(映画)

b0189364_824181.jpg恍惚の人(1973年・芸苑社)
監督:豊田四郎
原作:有吉佐和子
脚本:松山善三
出演:森繁久彌、高峰秀子、田村高廣、乙羽信子、篠ヒロコ、伊藤高、市川泉、野村昭子、浦辺粂子、中村伸郎、杉葉子、吉田日出子


森繁の怪演とデコの名演が光る

 有吉佐和子の同名ベストセラー小説の映画化。認知症(映画の中では老人性「痴呆」)を扱った初期の文学作品で、当時非常に話題になった。「恍惚の人」という言葉も流行語になった。同時に認知症を世間に知らしめる役割も果たした作品である。
 小説は1972年に発表され、翌年に映画化されたのがこの作品で、ブームに乗っかったというようなタイミングであるが、作品は非常に硬派な作りで、80年代の角川映画みたいな軽薄な感じはまったくない。
 監督は「文芸映画の巨匠」豊田四郎で、演出は終始手堅い。コントラストの強いモノクロ映像が、ドキュメンタリータッチの味わいを醸し出している。脚本は職人芸の松山善三で、こちらもシンプルで手堅い、引き締まった脚色である。
 この映画の最大の見所は、「呆け老人」役の森繁久彌で、ホンモノかと見まがうばかりの怪演ぶり。また終始振り回される嫁役の高峰秀子もすばらしい演技で、元気な頃自分をいじめていた舅に対して当初は嫌悪感を持って接していたのが、徐々に舅に対して情が移ってくる様子が絶妙に表現されている。
 雨で老人が傘もささずに出歩き、それを嫁が追い駆け回るシーンが非常に多いことから、森繁と高峰はさぞかし苦労したんではないかと思う。それに(低予算だったためか知らないが)やけにロケが多いのもこの映画の特徴で、街中での撮影はさぞかし大変だったんではないかと勝手に推測している。
 老人が突然おかしくなって家族が振り回され、それでも周囲のサポートがなかなか受けられない状況は今でも共通する部分であり、根本的に変化はないが、しかし少なくとも現在では、そういった患者に対して対応する施設が増えているのも事実。また行政が以前より取り組んでいる、あるいは取り組まざるを得なくなっているのも事実で、この映画の時代よりはまだマシになっている気はする。そのきっかけになったのがこの原作小説であることを考えると、価値は高いと思う。原作を見事に映画化したこの映画にも敬意を表したいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『夫婦善哉(映画)』
竹林軒出張所『雁(映画)』
竹林軒出張所『名もなく貧しく美しく(映画)』
竹林軒出張所『乱れる(映画)』
竹林軒出張所『このところ高峰秀子映画が多いことについての弁明』
by chikurinken | 2016-01-25 08:03 | 映画