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竹林軒出張所

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『印象派の夜明け』(ドキュメンタリー)

印象派の夜明け 〜新しい表現への挑戦〜
(2024年・仏ARTE France、GEDEON Programmes他)
NHK-BS BS世界のドキュメンタリー

美術史上の画期を再現した

『印象派の夜明け』(ドキュメンタリー)_b0189364_12440433.jpg 19世紀前半のフランスでは、画家がプロとして名前を売るには、サロン(王立アカデミーによる展覧会)に出品し、審査員による高評価を受けなければならなかった。サロンが無名の画家の登竜門になっていたのである。
 一方で19世紀後半になると、(絵の具の進化により)屋外での写生が可能になったり写真技術が実用化したりして、従来の絵画のあり方が少しずつ変わってくる。それに伴って、従来の保守的なサロンのあり方にも疑問を持つ若い画家たちが現れてきた。
 バジール、モネ、ルノワール、ピサロらがそういった画家たちで、サロンに応募(場合によっては当選)しつつも自分の絵が正当な評価を受けられていないと考えるに至り、有志で集まってサロンに対抗する気鋭作家の展覧会を開くことにした。それが1874年の第1回展覧会(現在では「第1回印象派展」と呼ばれている)であり、写真家ナダールのスタジオを借り切って開催された。この展覧会には、マネ、ドガ、セザンヌ、ベルト・モリゾらも参加し、後の時代から見れば豪華絢爛ではあるが、当時はまだそれほど名前のある画家がおらず、しかも従来の伝統的な画法とも画題とも違った絵画が多く、保守的な批評家たちから散々な批判を浴びた。
『印象派の夜明け』(ドキュメンタリー)_b0189364_12440828.jpg このドキュメンタリーは、第1回展を開くまでの画家たちの足跡をドラマを交えて描くというもので、内容的には割合有名な話で、そういう点では学習教材レベルと言えなくもないが、ドキュメンタリーのレベル自体は決して低くない。ドラマ部分についても、画家たちによく似た俳優が使われている上、出てくる絵画もかなりしっかり再現されている。第1回展の内装なども、学術的なアプローチに基づいて再現されているらしく(資料があまり残っていないため、実際の展示方法については不明であるが、それでも当時の新聞記事やわずかな記録を参考にして再現したそうである)、それを考えるとこのドキュメンタリーの資料としての価値も高い。
 この第1回展は、評判にはなったが、画家たちの名声の向上にはさして寄与しなかったようで、その後も画家たちは貧しい生活を強いられる。それでも翌々年に第2回展を開き、1986年の第8回展まで都合8回開催される。新しい画家も都度参加し、現在知られている印象派、新印象派、後期印象派の画家たちはいずれかの展覧会に参加している。それでもこの展覧会が開かれていた間、「印象派」画家たちの評価は総じて低く、彼らの評価が高くなるのは1890年代の米国まで待たなければならなかった。
『印象派の夜明け』(ドキュメンタリー)_b0189364_12441336.jpg 彼らの「印象派展」は、後に美術史上の画期として扱われるようになるのだが、当時のほとんどの美術関係者はそんなことを知る由もなかった。要するに、新しい動きに敏感に対応できるのは保守派ではないという事実だけが、古今東西で共通に存在するわけで、このドキュメンタリーを見ながら、そういうことも感じるわけだ。何よりこの作品、再現レベルが非常に高く、それだけでも十分評価に値するドキュメンタリーと言える。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『天海祐希 パリと女と(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『誰も知らない印象派 娼婦の美術史(本)』
竹林軒出張所『フェルメールに魅せられて(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『田舎の日曜日(映画)』
竹林軒出張所『ピクニック(映画)』
竹林軒出張所『夏時間の庭(映画)』

by chikurinken | 2025-09-01 07:43 | ドキュメンタリー
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