ハルマゲドンを待ち望んで
米国政治を動かす“福音派” 前編、後編
(2023年・ノルウェーUpNorth Film、瑞Film i Skåne、Auto Images、独Ventana Film、フィンランドMaking Movies)
NHK-BS BS世界のドキュメンタリー
狂信者が世界に災厄をもたらす
このドキュメンタリーで伝えられる現実に接すると、大変不快になるだけでなく、はなはだしく恐怖を感じる。最近僕がテレビで目にするドキュメンタリーには、見ている者を憂鬱にさせるような、この類の作品が実に多く(それがドキュメンタリーの重要な役割であるのは重々承知)、あまり見ようという元気がなくなるのだが、これはその中でも格別である。
米国にはびこるキリスト教福音派の活動、現実について前後半の2部に渡ってまとめた作品である。キリスト教福音派は、このドキュメンタリーによると、聖書の記述を絶対的に信じるキリスト教の一派として紹介されている。中でも、ヨハネ黙示録の終末論を信じているという点に特徴があるということである。どういうことかというと、キリスト教徒と異教徒との戦いの末、世の中が終末的な破滅を迎え、キリストが復活して信者のみが楽園に導かれるという考え方らしい。随分身勝手な思い込みだが、これを信仰している人がアメリカの国内で非常に多いというのである。

信じるだけであれば、第三者にとっては一笑に付すだけで済むわけだが、中には実際にイスラエルに行って異教徒を破滅させよう、そして今こそ終末(ハルマゲドン)を引き起こそうという実践派のような人間も存在するのである。しかもこの教え(異教徒を破滅させよというような十字軍的な教え)をテレビ番組で熱心に説く牧師もいて、こういう連中が現政権に取り入ってその影響力を伸ばしているという現実がある。そもそもトランプ政権の成立には福音派の支持が大きかった上、トランプ自体も福音主義者である模様。だが先ほども言ったように、福音主義者、少なくともその一部は暴力的に他者を破滅させようとする人間であり、社会を混乱に導く元凶である。一種のテロリスト集団であり、それが現在、米社会や米軍の中で信者拡大の活動を大っぴらに行っているという現実に大いに驚くわけである。社会に騒乱を招く存在でありながら、野放しになっている上、実際にイスラエルで示威行為を行っている、また米国のイスラエル支援に繋がっているというのだから異常である。
福音主義者は、アメリカをサウジアラビアやイランのような狂信的宗教国家にしたいようだが、アメリカが大量の資金と武器を持っていることを考えると、これは世界の平和にとってきわめて危険な兆候と言えるのではないかと思う。きわめて憂慮すべき現実を目にした気分がして、先ほども書いたように、不快な気分、不安感が澱のように心の中に溜まっていったのだった。
★★★★参考:
竹林軒出張所『銃社会アメリカ ある牧師の挑戦(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『アメリカ“中絶論争”の再燃(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『二極化するアメリカ社会(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『未解決事件File. 02 オウム真理教(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『そして、兄はテロリストになった(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ストーリーが世界を滅ぼす(本)』竹林軒出張所『自民党の統一教会汚染(本)』竹林軒出張所『「カルト宗教」取材したらこうだった(本)』竹林軒出張所『決定版 マインド・コントロール(本)』竹林軒出張所『王妃マルゴ(映画)』竹林軒出張所『アレクサンドリア(映画)』