傭兵たち ロシアに雇われたアジア人
(2025年・シンガポールMCN International)
NHK-BS BS世界のドキュメンタリー
社会的弱者はブラックホールに飲み込まれる
ウクライナ戦争でのロシア兵の死傷者はすでに100万人を超えたと言われているが、ロシア国内での徴兵も簡単に行かなくなっていて、兵の補充が思うように進んでいないのが現在のロシアだという。そこでロシア当局が目をつけたのが外国人で、北朝鮮から1万人を超える軍人を雇い入れたのは有名な話。だが、その他にもいろいろなルートを経由して外国人を兵士として前線に送り込むということをロシアはやっている。このドキュメンタリーでは、前線に送り込まれた外国人について紹介するが、騙されて連れて行かれた人も多いため、「傭兵」という言葉で一括りにするのはあまり適切ではない。日本語タイトルでは「傭兵たち」になっているが、厳密には強制連行や奴隷という言葉の方が近い(状況にもよるが)。

このドキュメンタリーで紹介されるケースは、自分の意志で、主に兵站業務の出稼ぎ労働者として現地に赴いた中国人(と言っても現実には前線で自由が奪われるわけだが)、ロシア国内での労働と信じて出稼ぎのつもりでやってきたネパール人、ロシア国内で犯罪者として捉えられそのまま戦地に送られたキルギス人などが紹介される。多くは前線で死を迎えることになるが、母国に帰ってきた元兵士もおり、そういう人々からどういう経緯でロシアに行ったか(連れて行かれか)という事情が語られる。
ロシアによって(傭兵を含む)いろいろな国の人々が最前線に送られているという話はよく知られているが、このドキュメンタリーでは、そのミクロ的な事情が伝えられている。ネパール人のケースは、日本に留学生や技能実習生として騙されて連れてこられる人々のケースとよく似ており少し複雑な気分になるが、貧しい国の人々はこうやって搾取される、場合によっては生命の売買まで行われるという事情はよく伝わってくる。
ただ結局は騙された被害者の事情に終始しており、他の奴隷労働のドキュメンタリーと似たようなレベルでとどまっているため、ルポとしての面白みはあまりなく、展開も少しまだるっこしい。ドキュメンタリー作品として見れば、今ひとつという印象であった。
★★★参考:
竹林軒出張所『ワグネル 影のロシア傭兵部隊(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ブラッドが見つめた戦争(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『森の中の敵(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『技能実習生が見たニッポン(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ジャパニーズ・ドリーム(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『メイド地獄(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『底辺への競争 ヨーロッパ労働市場の現実(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『北朝鮮 外貨獲得部隊(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『軍事侵攻・緊迫の72時間(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『マリウポリの20日間(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ウクライナ軍事支援(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『混沌のウクライナ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ウクライナ侵攻が変える世界(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『戦時下の大統領 ゼレンスキー(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『プーチンと西側諸国(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『プーチンと西側諸国 (4)〜(5)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『第三次世界大戦はもう始まっている(本)』竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『プーチン 戦争への道(ドキュメンタリー)』