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竹林軒出張所

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『日本万国博』(映画)

公式長編記録映画 日本万国博(1971年・ニュース映画製作者連盟)
監督:谷口千吉
撮影:植松永吉
音楽:間宮芳生
出演:石坂浩二、竹下典子(語り)、ドキュメンタリー

戦後日本の矜持が伺える

『日本万国博』(映画)_b0189364_18254765.jpg 休憩を挟んだ前後半2部構成で、計3時間弱のドキュメンタリー。1970年に大阪で開かれた日本万国博覧会(通称「大阪万博」〈EXPO '70〉)の記録映画である。
 千里丘陵の造成と建設の過程が短く紹介され、そのまま開会式風景が登場。それに続いて、各パビリオンが一つずつ紹介され、注目される展示品もあわせて紹介されていく。また観客とコンパニオンとのコミュニケーションも随時紹介され、さらにはお祭り広場などでの出し物も頻繁に登場するため、さながら大阪万博を疑似体験しているかのような気分になる。おかげで、最後の閉会式のシーンになると、見ているこちらまで少ししみじみしてくるというありさまである。
 大阪万博を疑似でも体験できるというのは非常に楽しいものだが、もちろん良い面しか取り上げられていないわけで、実際にあれだけの人混みに入ったら、不快指数150%みたいになって、楽しむどころではないだろうと思う。混雑の中で前の人間を押したりするけしからん人間も画面の隅に映っていたことだし、実際、現地にはそういう人間もたくさんいたのではないかと想像される。それに実際に行ったところで、あれだけの人であれば行けるパビリオンなんかわずかだろうし、それを思うと疑似体験で十分かなとも思う。ただ、アメリカ館、ソ連館、日本館などの有名どころ以外のパビリオンは、このドキュメンタリーではあまり触れられておらず、疑似体験というにはほど遠いものも多かった。
『日本万国博』(映画)_b0189364_18255853.jpg 万博の運営については非常に洗練されているという印象で、セレモニーも整然としており演出も適切である。人(ホスト側)と人(観客)との交流を重視するという姿勢が垣間見えてくるため、傍で見ている分には印象が良い。また各パビリオンのデザインも非常に凝っていて、ポストモダン建築や伝統的技法を取り入れたモダン建築などきわめて多様性に富んでいる。当時の子どもたちの目を引いたのも頷けるというものだ。実際、万博終了後、パビリオンが取り壊されたという話を聞いたとき、僕はかなりショックを受けた記憶がある。そういう記憶も蘇った。
『日本万国博』(映画)_b0189364_18260283.jpg 今は死去した有名人(兼高かおるや川端康成)もチラッと出ていた他、皇太子時代の現英国王チャールズ3世や、現上皇・皇太后、現天皇、現秋篠宮なども登場し、当然のことながら皆若く、時の流れを感じる。あれから55年も経っているので当然ではあるが、僕などはいまだに少し前みたいな気がしている。しかしそれを考えると、万博開催当時も第二次大戦終了から25年しか経っていなかったわけで、25年と言えば今の僕からするとそんなに前の感じはしない。当時の大人たちにとってもおそらくそれに近い感覚だったのではないかと感じる。一旦は滅びた国を再興しようとしていた当時の大人たちの志が伺えるような気もするが、それは国際イベントである万博を成功させようという気概に繋がっているようにも思える。運営がしっかりしていたのもそのせいではないかと感じたりもする。
『日本万国博』(映画)_b0189364_18255446.jpg 少し驚いたのは、当時の戦争・紛争当事国の南ベトナム、カンボジア、ラオスなどが出展していたことで、この数年後にそれぞれの国では政体が変わっているのだ。また中華民国についても、中国の代表として参加しているが、この2年後に中国の代表は中華人民共和国になる。今振り返ると当時のいろいろと複雑な事情までもが見えてくる。
 いずれにしても、このような整然と運営された催し物は見ていて気持ち良いもので、それが(いまだに語られている)大阪万博の魅力にもなっているのではないかと思う。だが現在のおごれる日本にそれだけの運営能力がないのも現実で、2025年開催の大阪・関西万博の体たらくを目にすると、「民度低下」という言葉が頭に浮かび、非常に情けない気分になるのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『EXPO' 70 地方自治体館(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『東京1970(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『昭和ちびっこ広告手帳(本)』
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (3)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『水俣病 魂の声を聞く(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2025-08-14 07:15 | 映画
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