“断らない病院”のリアル
(2025年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集
病院の側も「変わらなきゃ」
神戸市立医療センター中央市民病院という病院がNHKの取材を受け入れ、内部の実像を公開することにしたことから、作られたドキュメンタリー。
病院内部の実態は外部の人間には知るよしがないもので、巷間で話題になっている「病院の苦境」はなかなか見えてこない。その点で、こういうドキュメンタリーが作られたのは、病院側にとっても非常に良いことのように思える。中でもこの病院は、「患者を断らない」をモットーに「すべての救急患者を基本的に受け入れる」という困難な目標を設定しているため、現在の医療の問題が歪みになって現れやすいとも考えられる。そういう点で格好の素材だったとも言える。
さてこの中央市民病院、やはり医師の過重労働が問題になっており、国からもまた倫理的な側面からもワークライフバランスが求められている。そのため現在のようなサービスを維持しようとすると医療従事者を増やさなければならず、その結果、大きな赤字を抱えることになる。医師の方も、多少は緩和されたかも知れないが相変わらず過重労働が続いている状況に変わりなく、いまだに負担を強いられている。結果的に患者に対するサービスが低下したり医療事故が発生したりという悪い流れを作り出すことになる。

だが、いよいよ待ったなしという状況になったこの病院では、差し迫った対策が必要になった。その対策の1つとして、ITを導入し病牀管理を正確に行うようになったことから、赤字は改善傾向にあるという。また、比較的良好な入院患者には他の病院を斡旋するなど、柔軟な対応も始めたらしい。いろいろと問題は山積みではあるが、改善に向けて進んでいる状況のようである。
どのような問題でも、一部で抱え込むのではなく、広く周知させることが改善の第一歩であり、そういう点で今回のように、病院側自身が内部で抱える問題を開示したのは英断だと思える。特に医療界には隠蔽体質があり、既得権益を守ることに汲々となっているという印象があるが、むしろ現在内在しているさまざまな問題が、翻ってそれを少しずつ変えていくきっかけになるということも十分ありえる。そういう点で、この病院が恥部も含めてありのままの姿を曝したのは、日本の戦後医療の歴史において英断と言えるかも知れない。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『医療限界社会(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『飛び出せナース!(本)』竹林軒出張所『ルポ 死亡退院(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『大学病院が患者を死なせるとき(本)』竹林軒出張所『成人病の真実(本)』竹林軒出張所『コロナ利権の真相(本)』竹林軒出張所『医原病(本)』竹林軒出張所『医療ムラの不都合な真実(本)』