モダン・タイムス チャップリンの声なき抵抗
(2023年・仏Temps noir / Arte France)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
ある名画の同時代的な側面
チャップリンの『モダン・タイムス』は1936年に公開された映画で、今でも傑作として名高いが、製作時チャップリンにもいろいろな葛藤があっただけでなく、公開後もいろいろと物議を醸した作品であるということを紹介するドキュメンタリー。
実は当時、トーキーがすでに普及し始めており、ハリウッドはことごとくトーキー指向になっていた。チャップリン自身もトーキーで映画を作ることを検討せざるを得ず、当初はこの『モダン・タイムス』もセリフ入りの物語にする予定だったようだ。ただこの映画に出てくる、チャップリンお馴染みの浮浪者のキャラクターは、これまでの映画ではすべてセリフなしでパントマイム式の演技をしていたことから、チャップリン自身にもセリフをしゃべらせることに抵抗があり、結局、脚本化していたすべてのセリフを排除して、これまでと同じようなパントマイム式の演技で徹底することにした。撮影を開始してからの決定で、セリフが違和感に堪えなかったせいであるという。だがそこはチャップリン、トーキーの要素は効果音や一部のセリフ(高圧的な命令や機械のセリフ)のみに限定して使用し、大きな効果を出すことに成功した。
この映画、工場労働者が抑圧される現代社会を鋭く風刺した作品で、今見ると感心することしきりだが、当時はそういった姿勢に対する疑問が一部の右派保守勢力から提示され、チャップリンは共産主義者だという言いがかりまでつけられた。結果的にチャップリンは、その後FBIにつけ狙われたりして米国から追放されることになる。

『モダン・タイムス』では、先ほども書いたようにチャップリン演じるキャラクターはセリフなしだったが、実は、デタラメな歌詞の歌(「ティティーナ」)でその声が初めて登場することになっている。そして例の浮浪者のキャラクターの声が映画に出たのは後にも先にもこれっきりということになった。この後、チャップリンは自身の映画に浮浪者を登場させることはなかった。あのキャラクターにはセリフが合わないということだったのだろう。次作は『独裁者』で、この『モダン・タイムス』がチャップリンのサイレント(形式の)映画の最後となったわけである。
★★★☆参考:
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