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竹林軒出張所

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『メイド イン エチオピア』(ドキュメンタリー)

メイド イン エチオピア
“一帯一路”最前線の4年間

(2024年・米英加エチオピアHard Truth Films / Dogwoof / T-dog / Gobez Media)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

「一帯一路」のミクロ的な視点

『メイド イン エチオピア』(ドキュメンタリー)_b0189364_10050690.jpg 「一帯一路」の一環かどうかにわかにはわからないが、中国当局が、エチオピアに縫製工場を含む工業団地を建設し、そこを服飾などの製造拠点にするというプロジェクトを2017年に開始した。その団地の周辺一帯も、第二期計画の工業団地として開発が見込まれる土地で、現地の政府も中国側も非常に熱心にプロジェクトを推進しているという状況。このドキュメンタリーは、エチオピアのその工業団地の様子を数年に渡って追ったもので、その進展を記録したものである。
 この作品に、さながら主人公のように頻繁に登場するのは、中国側から派遣されたモットという中年女性。工業団地副所長であるが、何でも迅速に進めたいという気質のようで、「スピードこそ命」が信条のような人である。だが、外部の目から見ると非常に拙速にも映る。実際、土地の買収についても、反対している地元農民の訴えをろくに聞くことなくどんどん話を進めようとして顰蹙を買ったりしている。そういう人だから、工場の現場担当者との間にも軋轢が生じるという始末である。
『メイド イン エチオピア』(ドキュメンタリー)_b0189364_10050334.jpg そんな折、コロナ禍が発生した上、エチオピア国内で反政府軍による反乱が起きたこともあり、業務成績が著しく低下した。しかもそれだけでなく、これまで中国から呼び込んでいた資本も撤退してしまった。そういうこともあり、2024年現在で、プロジェクトは著しく停滞しているようで、当初予定されていた工業団地拡張計画も中断している。そして張り切って走り回りあちこちで混乱を引き起こしていたモット副所長は、その後転職して現在はエチオピア国内で貿易会社をやっているという無責任かつ身勝手な有り様である。
 一方で、このエチオピアの事例は、途上国での開発によくある話のようにも聞こえる。先進国(この場合は中国だが)が途上国に乗り込んでいき、自分たちのやり方を強引に押し付け、現地の生活を破壊した挙げ句に、結局撤退するという定型パターンのようにも思える。ただ今回のケースの場合、やり方が強引である上拙速で、担当者が楽観的過ぎるためか計画性が欠如している。多くの中国製品に見られるような、実にいい加減な仕事のようにも映る。現地にとっては混乱を引き起こされただけでなく、生活をズタズタにされてしまったという点で、こういった活動は非常に罪深いと言える。
 「一帯一路」のすべてがうまく行っていないわけではないだろうが、現在の中国国内の悲惨な経済状況を見れば、世界中で似たような問題があちこちで起こっているのではないかとも考えられる。こういう計画性を欠いたプロジェクトに巻き込まれ、生活が破壊された人々の状況も、今後、何らかの形でさらに深掘りしていただきたいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ナイルの水は誰のものか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アフリカ争奪戦 富を操る多国籍企業(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『血塗られた携帯電話(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『反骨の外科医(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2025-02-17 07:04 | ドキュメンタリー
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