禁じられたモスクワ
経済制裁下の市民生活
(2024年・仏Tony Comiti productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
戦時下の社会状況を垣間見る
ウクライナ侵攻の結果、ロシアは西側諸国から厳しい経済制裁を受けているが、ロシア国内の様子がどうなっているのかは外の世界からはよくわからず、大変興味深いところである。そこでモスクワに実際に入って、現地の状況をレポートしようという意図で作られたのがこのドキュメンタリーである。
このドキュメンタリーに出てくる人々は、金持ち階級の人が多いようで、庶民の実情とは少し乖離しているかも知れないという思いを持ちつつ見ていたが、実際のところ、ソ連崩壊前後のように、著しく生活に困っているという様子はないようで、そのあたりはやや拍子抜けした。これは、物資がトルコなどのロシアの友好国を通じて入ってくるためで、もちろん価格はかなり高くなっているが、多くのものがいまだに入手できるようである。スーパーマーケットの様子なども出てきたが、物自体は揃っているという印象だった。
西側のブランド店はその多くが撤退しているが、テナントについてはまだそのまま残っているところもある。終戦後に再びロシアに戻ってくる算段なのだろう。撤退したファストフード店の後にはロシア資本の(同様の名前とロゴを使った)ファストフード店が出ていてそれなりに繁盛している。どことなく隣国を思わせる。

一方で、国内でテロが起こったり、兵士として駆り出され戻ってこない戦争犠牲者が現れたりという現実もあり、戦時下であることは意識せざるを得ないようである。このドキュメンタリーの取材が2024年初頭のようで、あれから戦況と経済状況はロシアにとってさらに悪化していることが推測される。現在の状況は幾分変わっているのではないかと思われるが(バターが不足しバター強盗が発生しているなどという話も聞く)、それについても詳細に知りたいものである。いずれにしても、こういう素の姿を報告するという企画は、非常に有意義だと感じる。
★★★☆参考:
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