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竹林軒出張所

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『おいてけぼり 9060家族』(ドキュメンタリー)

おいてけぼり 9060家族
(2021年・中京テレビ)
日本テレビ NNNドキュメント

ひきこもりの行く末

『おいてけぼり 9060家族』(ドキュメンタリー)_b0189364_19034213.jpg ニートやひきこもりの人口が日本ですでに100万人を超えており、40代以上で60万人を超えているという報道があちこちでなされているが、こうなるともはや他人事では済まされないような大きな問題と言える。ただ実際のところ、日本の100人に1人がひきこもりといわれても、ひきこもりでない人にとってはあまり実感がない。周りにそれらしい人を見かけることがあまりないためだが、そもそもひきこもりの人が外に出ず人目に付きにくいという性質を持っていることを考えればそれも納得と言える。
 とは言っても、ひきこもりがかなりの数に上るのは統計からも明らかで、マクロ的な統計だけではなくミクロ的な視点も欲しいところで、そういう意味でも身近な視点から現状を伝えることに大きな価値が出てくる。ということでこのドキュメンタリーということになるんだが、2021年に放送された中高年ひきこもりの状況を伝える『NNNドキュメント』である。
 このドキュメンタリーに登場するのは、50代のひきこもりの敬子と90代の父。敬子は30年以上ひきこもりを続けている。母は死に、現在90代の父と暮らしているが、父の退職金もあまり残っておらず、切り詰めた生活を送る。生活は質素で、年金で何とかなりそうにも思えるが、実はもう一人、60代のひきこもりの(敬子にとって長兄の)兄が同じ家にいて、この彼が毎月パチンコとタバコで6万円浪費しているらしいのだ。ひきこもりでない兄ももう一人(敬子にとって次兄の)おり、この次兄がときどき家にやってきて実家の様子を気遣ったりしているという状況である。
 番組では、この敬子の家庭に数年間密着していくわけだが、その過程で父が突然死し、それをきっかけに周辺の状況が一変するのである。次兄は、浪費家の長兄と敬子を今までのように一緒に住まわせることに危機感を感じ、敬子に一人暮らしをさせようと画策。敬子もそれを受け入れ、家を出て、生活保護を受けながら一人で生活することにする。敬子は何とか自立するが(といっても働いてはいないが)、長兄は相変わらず旧家にそのままひきこもっているという状況。番組では、長兄が「早く死にたい」などと語っている様子も映し出されるが、その後どうなっているかはわからないままで、ドキュメンタリーは唐突に終わってしまう。
 結局のところ、(この番組では)この敬子の家の問題は決着が付かないままになっているが、日本全体のひきこもりの問題自体が、同様に現状で何ら解決策を見いだせないままであるため、そういう状況を反映した終わり方とも言える。当事者にとっても辛い厄介な問題だが、社会全体としても厄介な問題に違いない。社会がもう少し寛容にならなければ、ひきこもりに代表されるような社会を拒否する人々は後を絶たないのではないかなどとこのドキュメンタリーを見ながら個人的に感じたのだった。
2021年日本民間放送連盟賞報道部門優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『空蝉の家(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『こもりびと(ドラマ)』
竹林軒出張所『「ひきこもり」救出マニュアル〈理論編〉(本)』
竹林軒出張所『「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉(本)』
竹林軒出張所『ひきこもりはなぜ「治る」のか?(本)』
竹林軒出張所『不登校がやってきた(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ひきこもり先生 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『どんなご縁で(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2024-11-25 07:03 | ドキュメンタリー
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