死亡退院 さらなる闇
(2024年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集
番組製作者の苛立ちを感じる
東京都八王子市にある精神科病院、滝山病院で、入院患者に対してひどい暴行が行われ続け、死亡事例が後を絶たなかったという事実が(おそらく調査報道の結果)明らかになって、その結果、病院に捜査のメスが入り関係者が逮捕されたのが、昨年(2023年)の出来事である。この時点で滝山病院事件は一件落着かと思っていたが、実際のところ事はそう簡単に運ばず、滝山病院はいまだに存続していたのだった(院長もそのまま)。しかもいまだに患者が収容されているという有り様で、解決どころではなかったというのが、このドキュメンタリーで明かされる。
なぜ、このような危険な環境にいまだに患者が残されているかというと、患者の引取先がなかなか見つからないためである。そもそもそれぞれの患者は、この病院に送られた時点で、他の病院や施設で手に負えなくなったというケースが多く、この病院が手がかかる重度の患者の最終処分場のようになっていたため、引取先が見つからないわけである。また東京都側の対応もビジネスライクで通り一遍という印象で、真剣に取り組んでいるのか疑問を感じるようなところもある。例によって番組に登場した都の役人は、内容の乏しい言い訳しか口にしておらず(言い訳にもなっておらず何を言いたいのかすらわからなかったが)、相変わらずの程度の低さを露呈していた。
番組のインタビューに登場した精神科病院協会のトップの人間は、制度自体に問題があるのだと指摘していて、確かにそうかも知れないが、まず最初にやることは被害者の救出活動であることは明らかで、こういう言動からも全体的に切迫感に欠けているように思える。

さらには、今回の事件を受けて行われた第三者委員会による調査も、医療の内容については踏み込んでおらず、滝山病院で行われていた過剰医療(薬剤の過剰投与)についてはほとんど触れていない。過剰医療が患者の死亡を招いていたケースが考えられるにもかかわらずで、それを考えると、あらゆる部分で中途半端だという印象は否めない。
そもそも滝山病院のような、人を人として扱わない施設が存在すること自体に問題があるのであって、こういう事例を野放しにしておくことについて切迫感がないことが現代医療の大きな問題なわけだ。前に放送された
『ルポ 死亡退院』でもそのあたりを告発しており、結果的に警察が介入することになったんだが、問題が明るみに出はしても状況が変わらなければ告発自体が無意味だったということになってしまう。実際のところ問題は明らかになったが、システム自体に大きな変化はなく、しかも滝山病院はいまだに存続しているという有り様で、1年経った今でも問題自体が放置されているのが現状だったわけである。番組製作者側からすると、せっかくこれだけの大きな問題を告発したにもかかわらず結局大した進展が見られなかったという結果になってしまったわけである。そういうあたりに、告発者(つまり製作者)が感じている苛立ちのようなものまで見てとれた。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『ルポ 死亡退院(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『黴の生えた病棟で(本)』竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』竹林軒出張所『飲んで死にますか やめて生きますか(本)』竹林軒出張所『入院しちゃった うつウーマン(本)』竹林軒出張所『人が悪魔に変わる時(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『鍵をあける(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面(本)』竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (6)(ドキュメンタリー)』