大学は出たけれど(1929年・松竹蒲田)
監督:小津安二郎
原作:清水宏
脚本:荒牧芳郎
出演:高田稔、田中絹代、鈴木歌子、飯田蝶子
超短縮版だが
オリジナルの雰囲気は伝わってくる
小津安二郎が若い頃に撮影したサイレント映画。元々70分程度の作品だったようだが、現在残っているのはわずか10分程度の映像である。ただ、非常にうまく編集されているため、ストーリーが成立しており、1本の短編映画としてできあがっている。もちろん面白さはさしてないが、オリジナルの雰囲気はかなり伝わっているようで、違和感はまったくない。元々の映画もこの超短縮版とさして変わらないんじゃないかとさえ思う。それくらい、この短縮版の編集は見事である。
主人公は大学を卒業したばかりの男(高田稔)で、現在求職活動をしているが仕事が見つからない。そんな折、田舎から母(鈴木歌子)と許嫁(田中絹代)が揃って上京してくる。母に見栄で仕事が決まったと連絡していたためである。そこから話が展開していくという流れである。
この10分版からは、見る側に主人公の心情(失職者の辛さなど)が伝わってくるようなことはなかったが(おそらく元の作品にも表現されていなかったと思われる)、サイレント時代の映画は概ねそういったものである。当時の小津安二郎が、デビューして数年の新人監督だったことを考えると、むしろ出来の良い部類の作品だったのではないかと思う。それは、当時、この映画のタイトル「大学は出たけれど」が流行語になったことからも窺われる(当時の就職難の時代を反映したうまいタイトルだったようだ)。
キャストは、小津映画でお馴染みの面々がすでに登場しており、笠智衆までチョイ役(カフェの客)で登場する。サイレント映画なので、演技がどうのというようなものではないが、どのキャラクターもそつなく演じられている。そのため今見ても、大げさなメイク以外はまったく違和感を感じなかった(大げさなメイクはサイレント映画時代の定番である)。
★★★参考:
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』竹林軒出張所『浮草(映画)』竹林軒出張所『彼岸花(映画)』竹林軒出張所『お早よう(映画)』竹林軒出張所『秋日和(映画)』竹林軒出張所『麥秋(映画)』竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえった「東京物語」』竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』竹林軒出張所『小津安二郎 隠された視線(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『小津安二郎は生きている(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』