隠し砦の三悪人(1958年・東宝)
監督:黒澤明
脚本:菊島隆三、小国英雄、橋本忍、黒澤明
出演:三船敏郎、千秋実、藤原釜足、上原美佐、藤田進、樋口年子、志村喬
アラは目立つがアクションシーンは一流
黒澤明のアクション時代劇。今回数十年ぶりに見たが、内容はかなり憶えていた。
2つの国の間で戦が起こり、破れた方に足軽として参加した百姓が主人公の二人(千秋実、藤原釜足)。この二人が偶然、薪に隠された金を見つけ出すが、そこに現れたのが山賊風の男(三船敏郎)。この男、実はさらに多くの金(敗戦国が隠した復興のための軍用金)をすでに見つけており、分け前を渡すからこの金を隣国まで運び出すのを手伝えという。そこで、この男の連れの聾唖の女(上原美佐)とともに、この金を隣国まで運び出すというのが主なプロット。ただし、その際、戦勝国(この金を探し求めている)の中を何とかして脱けていかなければならないという設定になっており、つまるところ敵中突破がストーリーの中心になる。
敵中を通って財宝を運び出すことから、敵との間で摩擦が起こり、いかにしてその中を抜け出すかというあたりがストーリーの見どころになる。黒澤明と脚本家たちが集まり、敵軍と味方に分かれて双方から敵陣突破の案を出し合うという方法でシナリオが作られたということで、そのためもあってシナリオはよくできている。ただ演出上、あちこち恥ずかしいシーンが見受けられ、こういう部分がなければ良いのにという箇所は割合多い。黒澤映画にはそういうシーンが多く、もう少し抑えた演出をすれば良いのにと思うことは多いが、この作品もそれに当てはまる。さらに、音声が聞きとりづらく役者が何を言っているのかわからないシーンが多かったのも難点で、これも黒澤映画の「あるある」である。中でも雪姫(上原美佐)のセリフが一段とわかりにくく、こちらももう少し何とかしたら良いのにと思うことが多かった。セリフ回しもわざとらしさが漂い、これは主人公の足軽2人にも共通。見ていていろいろとアラが見える映画ではある。ただアクションシーンはどれも本格的で、そちらの方は大いに見どころがある。結局のところ、黒澤明はアクションというあたりに落ち着くわけである。
ストーリーは、先ほども言ったようによくできているが、ことごとくヒューマニズムに落とし込むあたりが少しどうかと思う。ただヒューマニズムに落とし込んでいることもあり、試聴後感はさっぱりして心地良い。しばらく時間が経つと、ちょっとやりすぎだよなと感じるという類のもので、劇場でこの映画を見れば、帰りの足取りは軽快になるのは間違いない。僕自身も最初に見たのは名画座だったが、この映画の印象は結構良かった記憶がある。なんと言っても三船敏郎が快演で、三船の演技だけでも見る価値があると言える。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『用心棒(映画)』竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』竹林軒出張所『蜘蛛巣城(映画)』竹林軒出張所『天国と地獄(映画)』竹林軒出張所『デルス・ウザーラ(映画)』竹林軒出張所『羅生門(映画)』竹林軒出張所『MIFUNE: THE LAST SAMURAI(映画)』竹林軒出張所『リメイクもういらん党宣言』