ビギナーズ 日本の思想 道元「典座教訓」
禅の食事と心
道元著、藤井宗哲訳
角川ソフィア文庫
道元禅師の台所読本 道元の『典座教訓』を抜萃して現代語訳した本。
典座(てんぞ)というのは寺の食事担当を表すが、道元自身も宋留学中に典座を務めており、そしてその職の重要性を認識していたらしく、それにまつわる考え方や教えを記したのが『典座教訓』ということであるらしい。
本書も、角川の「ビギナーズ」シリーズの一冊だが、他のシリーズ本とは若干趣が異なる。なぜならこの本、元々、典座の経験を持つ藤井宗哲氏(曹洞宗の僧にして料理研究家)が、『典座教訓』を現代に残したいという一心で執筆していたものがその出自であるためである。この藤井氏が、執筆を続けていたが、3分の2程度書き終わったところで(訳は全部終わっていたらしい)なんと他界してしまった。その後、残りの部分を仕上げるべく引き継いだのが柿沼忍昭(この人も曹洞宗の僧にして料理研究家)という人で、その柿沼氏が、数年かけて仕上げ、ついに出版にこぎつけた結果生み出されたのが本書なのである。そういう点で他の「ビギナーズ」シリーズとはやや出自が異なるわけだ。
本書は17編構成で、例によって、編ごとに訳文、書き下し文(原文)、解説という順で紹介されていき、そのあたりは他の「ビギナーズ」シリーズと共通。訳文は(原文が専門用語だらけで門外漢にはわからないこともあり)かなり意訳が入っており、読みやすくはなっている。他者のために食事を用意することがきわめて重要で、その作務こそ修行であるという思想が語られる。
訳文、書き下し文の後に続く解説文は、大部分は藤井宗哲氏が書いたものだろうと思われる。後半最後の部分にある解説文は柿沼忍昭氏が書いたもののようであるが、署名がないため確かなことはわからない。解説文と言っても、内容はエッセイのような記述であるため、書いた本人の姿が行間から随時垣間見えてくるわけであるが、これが非常にややこしい。というのは、訳文の主人公が道元、エッセイの方が藤井宗哲氏と柿沼忍昭氏であるため、今語られている内容が、誰の意見であるか見失うことが多いためである。その上道元の原文にも、他者のセリフや思想が出てくるため、ややこしさは一入(ひとしお)である。エッセイで語られている内容はそれなりに面白く、道元の思想も伝わらないわけではないが、もう少し工夫して整理した方が書籍としての価値は高くなる。
僕自身は、元々、道元の思想に触れたくてこの本に当たったのであるが、道元の思想というより料理の心構えの本という印象である。それは訳者が料理関係の人であり、しかも元々の本が料理担当者に向けた本であるため致し方ないのかも知れないが、僕にとって、本書はあまり良い選択ではなかったように感じる。ただ、あらゆるものに仏性が宿っており、(料理などの)すべての日常活動が修行であるという、道元の考え方は伝わってきたので、決して無駄だったというわけではないが。
★★★参考:
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